僕とSHUFFLEと召喚獣   作:京勇樹

29 / 68
少女の慟哭

時は経ち、大分陽も暮れた

 

明久達と別れた後、稟と楓の二人は観覧車に乗っていた

 

二人は観覧車から降りたら、家に帰るつもりだった

 

一応、同居人であるプリムラは魔王の家に預けている

 

だが、預けっぱなしも悪い気がして「夕方には迎えに行きます」と言ってあるのだ

 

「今日は楽しかったですね」

 

「そうだな……」

 

楓の言葉き対して、稟は同意した

 

久しぶりに遊園地に来たのも有るが、何よりも明久が帰ってきたからだ

 

それまでは、何をやっても虚しい感覚が有った

 

《明久が行方不明になったのに、自分達には何も出来ない》

 

その思いが、重くのしかかっていた

 

明久に苦痛と傷を与えてしまったのは、自分達が弱かったから

 

だけど、明久は構わないと言った

 

僕が傷つくことで、稟と楓ちゃんが一緒に居られるから

 

明久はそう言って、稟の肩に手を置いて

 

笑っていた

 

そして、こうも言っていた

 

「だから、僕を敵のように扱ってね。そうすれば、楓ちゃんとずっと居られるから」

 

 

明久がそう言った直後、稟は思わず声を荒げた

 

「そんなこと、出来るわけないだろ!?」

 

 

自分達の為に悪役を被っているのに、なぜ自分が明久を敵にしないといけないのかと

 

稟がそう言ったら、明久は困ったような笑みを浮かべていた

 

だから、稟は迷わずに

 

「俺達は、ずっと明久の味方だ」

 

と言った

 

稟の言葉を聞いて、明久は微笑みながら「ありがとう」と言った

 

だから、稟は興平と一緒に体を鍛えた

 

だから意外にも、稟は結構筋肉質である

 

とはいえ、興平には負けるが

 

閑話休題

 

稟と楓が夕日を見ていると、楓が

 

「稟君……私、明久君に何をしたらいいんでしょうか……」

 

と呟くように問い掛けた

 

「楓……」

 

「私のせいで、明久君は左目と記憶を失いました……私に、どんな償いが出来るのでしょうか……」

 

稟が視線を向けると、楓が涙を零しながらそう言った

 

「私が弱かったから、明久君に背負わせてしまいました……そんな私が、明久君に何が出来るんでしょうか……」

 

そう言うと楓は、顔を両手で覆った

 

思い出してみれば、楓はまともに明久と話していない

 

それは恐らく、罪悪感から話し掛け辛いのだろう

 

楓は元来、真面目で責任感が強い少女である

 

だから、明久の左目と記憶を失ったのを自分の責任と思っていた

 

明久が聞いたら、恐らくは笑って許しているだろう

 

だが、楓はそんな自分が許せなかった

 

真実を知らなかったとは言え、明久を傷付け続けた

 

本当だったら、今すぐに命で償いたかった

 

だが、その行為は明久達の思いを否定する行為である

 

だから、それは出来ない

 

だったら、何が出来るのだろうか?

 

楓は明久が帰ってきてから、ずっとそれを考えていた

 

だが、何もいい案が浮かばない

 

楓の言葉を聞いて、稟はんーと言いながら、頬を掻いて

 

「昔みたいに接してやればいいんじゃね?」

 

と言った

 

すると、楓は稟に視線を向けて

 

「昔……みたいに……?」

 

と首を傾げた

 

すると、稟は頷いて

 

「ああ……明久だってさ、それを望んでいる筈だぜ? 忘れたか? あいつは誰が何をやっても、笑顔で許してただろ?」

 

と言った

 

だが、楓は涙を流しながら首を振って

 

「でも……でも、私が……っ!」

 

と泣いた

 

すると、稟は楓の肩に両手を置いて

 

「それに、罪は俺にもある……」

 

と言った

 

すると、楓は顔を上げて

 

「どういう……ことですか?」

 

と稟に問い掛けた

 

すると稟は、一拍置いてから

 

「明久がやったこと……最初は俺がやろうとしてたんだ……」

 

と語った

 

すると、楓は目を見開いた

 

「そんな……」

 

「だけど、明久が俺と幹夫さんの話を聞いてて、先に実行したんだ……俺と楓の約束を守らせるためにな」

 

稟がそう言うと、楓は俯いた

 

すると、稟は顔を上に向けて

 

「だからさ、楓だけが背負う必要はないんだ……俺も背負う……だから」

 

稟はそこまで言うと、楓を優しく抱きしめて

 

「明久とは、昔みたいに接してみようぜ……」

 

と言った

 

「はい……はい……!」

 

稟の言葉に楓は頷くと、大声で泣いた

 

それは、母である紅葉が亡くなり、真実を知った時以来の涙だった

 

そんな楓を稟は観覧車が降りるまで、ずっと抱きしめ続けた

 

その後、稟と楓の二人は観覧車から降りると、如月グランドパークから出て、帰路へと付いた

 

もう一人の家族の待つ家へと


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。