僕とSHUFFLEと召喚獣   作:京勇樹

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おかしい、気づいたらシリアス多めになっていた
これが、噂のキャラの一人歩きなのか!?


五年ぶりの……

学園も休みのある日、明久は自ら休暇申請を出し、ある場所に来ていた

 

なお、休暇申請を出した時に魔王と神王が驚愕で固まったのは余談である

 

乱立する石の柱には、様々な名前が彫られてあり、明久の前には

 

《吉井家の墓》と彫られたお墓があった

 

明久は持ってきていた花束を飾ると、線香を灯してから供えて

 

「父さん、母さん、姉さん……大分遅くなったけど、ただいま」

 

と手を合わせながら言った

 

その両隣には、《土見家の墓》と《芙蓉家の墓》もある

 

もちろんのこと、明久はその両方にも花と線香を供えた

 

事実、五年振りの墓参りである

 

明久はこの墓の場所を、幹夫から聞き出していた

 

墓参りとしては季節外れだが、明久としては暇な時に来るしかなかった

 

どうやら、幹夫が頻繁に訪れているからか雑草等は見当たらない

 

そのことに感謝しつつ、明久は両手を合わせた

 

すると、新しい足音が聞こえて

 

「アキくん……?」

 

という、明久としては聞き慣れた声が聞こえた

 

振り返った先に居たのは、明久の幼なじみの一人である八重桜だった

 

「桜ちゃん……」

 

「アキくんもお墓参り?」

 

「うん……」

 

桜からの問いかけに、明久は頷いた

 

「そっか……」

 

桜はそう言うと、手早く花束と線香を供えて手を合わせた

 

そして、数秒間沈黙が続くと桜は立ち上がって

 

「なるべく、月一で来るようにしてるんだ」

 

と言った

 

「ありがとう……」

 

「ううん、いいの……アキ君を助けられなかった代わりだから……」

 

明久の感謝に、桜はそう答えた

 

どうやら、贖罪を兼ねていたらしい

 

「さってと……これからどうしようか?」

 

桜はそう言いながら立ち上がり、明久に視線を向けた

 

「え?」

 

言葉の意図が分からず、明久は首を傾げた

 

「その様子だと、アキ君。休暇を貰ったんでしょ?」

 

桜からの問いかけに、明久は頷いて答えた

 

すると、桜は微笑んで

 

「だったらさ、お出かけしない?」

 

と提案した

 

「別にいいが……いいのか、俺で?」

 

明久が問いかけると、桜は頷いて

 

「アキ君がいいの」

 

と答えた

 

「分かった。お供しましょう、お嬢さん」

 

と明久は、まるで執事のように恭しく頭を下げた

 

それを見た桜は、クスクスと笑って

 

「アキ君、まるで執事さんみたいだよ?」

 

と言った

 

「まあ一応、執事も兼ねてるからね」

 

二人は会話しながら、その場を後にした

 

そして十数分後、二人は商店街のとある喫茶店に来ていた

 

そこはお洒落な内装と、可愛いウェイトレスが有名な喫茶店だった

 

そして、注文しようと呼んだら

 

「はい、お待たせしました」

 

と、桜には聞き覚えのある声が聞こえた

 

桜が驚いた様子で視線を向けると、そこに居たのは、輝くような金髪が特徴の神族の美少女だった

 

「カレハ先輩!?」

 

「あらあら、桜さん」

 

桜は驚愕し、カレハと呼ばれた美少女はニコニコと笑っていた

 

二人の様子を見て、明久は首を傾げながら

 

「桜ちゃん、知り合い?」

 

と問い掛けた

 

明久からの問いかけに、桜は頷きながら

 

「うん……私と楓ちゃんが所属してる家庭科部の副部長さん」

 

と桜が言うと、カレハはちょこんとスカートをつまみ上げて

 

「はじめまして、カレハと言いますわ。剣神さん」

 

と名乗った

 

すると、明久も軽く頭を下げて

 

「神族魔族合同近衛部隊隊長の吉井明久です」

 

と名乗った

 

二人が名乗るのを待ってから、桜はカレハに視線を向けて

 

「カレハ先輩は、ここでバイトをしてるんですか?」

 

「ええ、なるべく自分のお小遣いくらいは自分で稼ごうと思って」

 

桜からの問いかけをカレハがそう答えると、桜は頷いてから

 

「そういえば、剣神ってなんですか?」

 

と再び問い掛けた

 

「剣神というのは、彼の二つ名ですわ。剣神吉井明久」

 

「剣神……」

 

桜が呟くと、カレハは頷き

 

「剣においては、誰も適わない。故に、剣神……彼の振るう剣は、魔法すら両断する……万物切断者とも呼ばれてますわ」

 

「あの、カレハさん……そこらへんで……」

 

さすがに自分のことを語られて恥ずかしがったのか、明久はカレハを止めた

 

「そうですわね。注文を取りに来たんでしたわ」

 

カレハはそう言うと、苦笑いを浮かべてから

 

「ご注文をどうぞ」

 

と言いながら、伝票を取り出した

 

「私はケーキセットの紅茶をお願いします」

 

「俺はブレンドコーヒーを」

 

「承りましたわ」

 

二人が注文すると、カレハは手早く書いてから奥へと向かった

 

数分後、注文したケーキセットとコーヒーが来て、二人は歓談を始めた

 

とはいえ、その内容は明久が記憶喪失なのでそれの補完という感じではある

 

「ねぇ、覚えてる? 私の夢」

 

「うっすらとだが、確かぬいぐるみを作る人になりたい……だったか?」

 

明久がそう言うと、桜は頷いて

 

「うん、そう……最近になって、ようやく図面通りに作れるようになってきてね、今はテディベアを作ってるの」

 

「そうか……頑張ってるんだな、桜ちゃん」

 

桜の話を聞いて、明久は素直に感心していた

 

すると、桜は両手をパタパタと振って

 

「私よりも、アキ君の方が頑張ってるよ。近衛部隊隊長さんなんでしょ?」

 

と言った

 

「俺は恩を返したかったから、必死にやっただけさ……それに、自分の夢も覚えてない」

 

「アキ君……」

 

明久の話を聞いて、桜は悲しそうな表情を浮かべた

 

すると、その雰囲気に気づいたらしく明久が

 

「む、暗くさせてしまったな……すまない」

 

と謝ると、机の端の伝票を取って

 

「お詫びに、支払いは俺が持つよ」

 

と言った

 

すると、桜が慌てた様子で

 

「いいよ、支払くらいは自分でするよ!」

 

と言うが、明久は微笑んで

 

「これくらいは払わせてくれ。正直、お金は有り余ってるんだ」

 

と言った

 

実を言うと、明久は貰った給金のほとんどが手つかずで残っているのだ

 

そのために、銀行には一高校生が持つには過剰なまでのお金が貯金されているのである

 

具体的な金額は言えないが、しばらくは遊んで暮らせるだけの金額は貯まっているのである

 

ゆえに、喫茶店での支払い程度ならば大した金額ではないのだ

 

そして、支払いも済んで街を歩いていたら、不意に周囲から人々の姿が無くなっていることに桜は気づいた

 

「あれ……人が……」

 

桜が呟くと同時に、明久が右手を上げて桜を制止した

 

「アキ君?」

 

「すまない。どうやら、巻き込んだようだ」

 

桜が視線を向けると、明久はそう言った

 

すると、進路の先の左右の道から数人の人影が現れた

 

しかも、普通の人族ではなく、魔族と神族だった

 

「いやはや、かの剣神が護衛の一人も無しに一人で歩くとはなぁ」

 

「手間が省けたぜ」

 

二人の男はそう言うと、桜に気づいて

 

「おい、女の子が居るぜ。それも、とびっきりのかわいこちゃんだ。どうするよ?」

 

「殺すに決まってるだろ。見られたからにはな」

 

男たちの会話を聞いて、桜は顔を青ざめながら明久の背後に隠れた

 

明久は一歩前に出ると、男たちを睨んで

 

「なるほど、貴様らは人族排斥主義者か」

 

と言った

 

人族排斥主義者

 

それは、魔族や神族こそが世界を支配するべきである。という思想の者達である

 

この者達は、その為ならばテロ行為すら辞さないのだ

 

「そうだよ? そして、お前は我々の理想のためには邪魔なんだよ」

 

「人族如きが、近衛部隊の隊長だぁ? ふざけんな! その栄誉は、我々にこそ相応しいんだ!」

 

男達は声を荒げてそう言うと、魔力刀を構え、魔法の準備に入った

 

それを見て、明久は左手を眼帯に持っていきながら

 

「それ以上、動いてみろ……終わるぞ」

 

と告げた

 

が、それを男達は嘲笑い

 

「人族如きになにが出来る!」

 

「ここで死ねぇ!」

 

声高にそう言うと、駆け出そうと足を踏み出した

 

次の瞬間、明久の姿が消えた

 

「え?」

 

そのことに桜が驚いていたら、攻撃をしようとしていた男達が全員倒れた

 

「え? え?」

 

あまりの事態に理解が追いつけず、桜が困惑していたら、明久の姿が桜の前に現れた

 

だが、明久は息を荒げながら片膝を突いた

 

「アキ君!?」

 

「っ……やはり、負担が大きいか……」

 

桜が駆け寄ると、明久はそう呟いた

 

そして、明久は震える手でポケットから携帯を取り出して

 

「すまないが……電話帳の二番目の番号に電話してコードB7と伝えてくれ……」

 

と桜に手渡した

 

「う、うん!」

 

桜は携帯を受け取ると、言われた通りに電話を掛けた

 

『はい、フリージアです。隊長、どうしました?』

 

「すいません、私は八重桜と言います。今はアキ君の代わりで電話してます」

 

『どういうこと?』

 

桜の言葉にフリージアと名乗った人物は、怪訝そうな声を出した

 

「コードB7だそうです」

 

『っ! 分かったわ。場所は?』

 

桜が告げたコードB7という単語を聞いて、フリージアの声音が変わった

 

「はい、場所は……」

 

フリージアに促されて、桜は現在地を告げた

 

それから数分後、二人の美少女を先頭に十数人の魔族と神族が走ってきた

 

しかも、先頭の二人を桜は知っていた

 

一人目は、腰の辺りまで伸びた金髪が特徴の美少女

 

文月学園生徒会長の瑠璃=マツリ

 

もう一人は、副会長のフリージアだった

 

二人は周囲の状況を瞬時に把握したらしく

 

「第一分隊は倒れている者達を捕縛し、本部へ連行!」

 

「第二分隊は人払いに使用されている魔道具を探し出し、処分してください!」

 

と通達した

 

「「「「「はっ!」」」」」

 

命令を聞いて、それぞれ言われた命令に従って半分は倒れている男達を捕縛し、もう半分は周囲へと散った

 

それを確認してから、瑠璃=マツリとフリージアは明久に駆け寄り

 

「隊長!」

 

「大丈夫ですか!?」

 

と問い掛けた

 

「なんとかな……」

 

明久はそう言うが、桜が

 

「なんか、眼帯に手を掛けたら一瞬で消えたんです」

 

と説明した

 

すると、二人は目を見開いて

 

「アイオーンを使ったんですか!?」

 

「無茶をしないでください!」

 

と叫んだ

 

「あの……アイオーンってなんですか?」

 

桜が問いかけると、二人は少し真剣な表情になり

 

「他言無用でお願いします」

 

「アイオーンというのは、隊長の左目に埋め込まれている魔道具です」

 

二人の説明を聞いて、桜は明久の左目の眼帯に視線を向けた

 

「アキ君の左目に?」

 

そういえば、と桜は明久が左目の眼帯に手を掛けてから明久の姿が消えたのを思い出した

 

「そのアイオーンって、どういう魔道具なんですか?」

 

桜が問いかけると、二人は明久に処置をしながら

 

「アイオーンの能力は、装着者の時間間隔の引き延ばしよ」

 

「最大で、数百倍まで引き延ばします」

 

桜は二人の説明を聞いて、驚愕した

 

そんな魔道具、聞いたことが無かったからだ

 

「だけど、もちろん副作用があります」

 

「それが、負担の大きさです」

 

「負担の……大きさ?」

 

二人の言葉を聞いて、桜は明久を見た

 

最初よりは大分落ち着いているが、それでもまだ息が荒い

 

「初めて使った時は、一週間まともに動けませんでした」

 

「しかも、生死の境をさまよい続けました」

 

二人の言葉に桜は固まった

 

そんな危険な魔道具を、明久は使ったというのか? と

 

「最近は以前に比べて、負担は軽くなってます」

 

「それでも、2日間は絶対安静ですが」

 

二人はそう言うと、フリージアが明久を背負った

 

そして、瑠璃=マツリは桜に対して

 

「桜さん、ご連絡いただき、ありがとうございます」

 

と頭を下げた

 

「い、いえ! そんな……」

 

突然の感謝に、桜は狼狽した様子で首を左右に振った

 

「隊長がアイオーンを使ったということは、桜さんは隊長にとって大切な人だということです」

 

「私が……」

 

瑠璃=マツリの言葉を聞いて、桜は嬉しく思った

 

明久は記憶喪失だが、優しさは残っていた

 

「ですからどうか、隊長と一緒に居て上げてください」

 

「あなたなら、隊長を支えてあげられる筈だから」

 

二人はそう言うと、隊員達と共に去った

 

それを見送った桜は、胸元で手を握って

 

「アキ君……私達がずっと、居てあげるから……」

 

と誓った


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