とある木原の多重人格   作:竹薮を立て掛け換えた

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はじめまして。この度、二次小説などを書こうなんぞ思ってしまった作者です。亀更新ですがどうぞよろしくお願いしますm(_ _)m


木原鎮乃の場合

001

 

 

 

気付けばこの世界で生きていた。

 

 

親に虐待されて育ったり、特別に家が貧しかったりと。特にそんなことはなく。極めて平凡な家庭に木原鎮乃(わたし)は生まれた。

 

先に生まれた兄姉達に比べて部屋の隅で本を読んでいるようような、そんなもの静かな子供だった。ような気がする。

 

物心付いたのは幼稚園を卒業した辺りだったと思う。それまでとても穏やかな時間を過ごした。母さんと父さんはとても優しかった。厳しくて、暖かかった。

 

 

まるで夢を見ているようだった。優しい夢を。

 

 

 

―――だからこの世界(ゆめ)が壊れるのはとても早かった。

 

 

 

切っ掛けは実に些細で、父が突然旅行へ行こうと言い出したのがはじまりだった。

 

父の唐突の提案はいつもの事で、母さんと私は特に何も思わず。何時ものことかと笑い、次の日にはどこに行こうかと話していた。

 

 

その時の私たちは、まさかあんな事になるなんて思ってもいなかった。

 

 

 

 

 

002

 

 

 

 

 

「ではこれを装着してください」

 

 

そう白衣を着た研究者の女が言った。

 

そこはとにかく白い。床も、壁も、天井も、何もかもが白い部屋だった。部屋には白衣を着た研究者と私しか居ない。

 

 

 

そのプラグは白い大きな機械に繋がっており、赤、青、黄色、緑と色とりどりだ。後ろには白い機械の電磁パネルがチカチカ点滅している。そして目の前には、複数のプラグに繋がれたヘッドバンド。

 

 

 

「…これは何ですか?」

 

 

未知の道具に不安を覚え、研究者に質問します。それはそうでしょう。なんたって初めての体験なんですから。頭の中を弄くられるというのだから尚更です。

 

 

「頭脳を刺激して人間の能力を最大限に引き出す機械です。痛みや苦しさは全く無いので安心してください」

 

 

 

「そうですか」

 

 

「それでは計測開始します。前方にあるき機械に手を触れてください」

 

 

研究者の言う通りに手前の機械に恐る恐ると言った感じに触れた。手は少し震えていたかもしれない。今となっては確かめようもないが。不安は覚えていた。

 

 

きっと、ここでも。一人なんだろうなぁ…って。

 

 

人は異端を弾き出す生き物だから。普通とは”違う”ことを寛容できないのだ。今回も輪からはじき出され、大きくズレてしまうのだろう。

 

 

 

 

 

だって、ほら――…

 

 

 

 

 

「能力名、念力使い。…levelは……推定不能(エラー)…だと?」

 

 

 

 

 

―――世界は個人に優しくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

003

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うさぎが跳んだ。宇宙のはしっご。

 

 

でも実際はうさぎなんかが何百回飛んでもこの無限の面積である宇宙の端っこになんて行き着けやしない。知っている。私は知っている。

 

 

「はぁ? 何言ってんの? ついに頭おかしくなっちゃったってわけ?」

 

 

結局、この施設に常識人は居ないってわけね。と金色の髪をひるがえし少女は笑います。

 

 

 

「Leporinae」

 

 

「え?」

 

 

「知っていますか? 『うさぎ』は臆病であたかも草食動物としてマスコット的な扱いを受けています。愛玩動物です。動物愛護法で守るべき対象です。つまり弱小動物として扱われています」

 

 

「…はぁ?」

 

 

「しかし、全体的に瞬発力に優れ、非常に高い運動能力を持っています。例えばその驚異的な脚力。捕食者である鷹に捕まりそうな瞬間に横っ飛びで回避したり、ジャンプして鷹を飛び越えてしまったり」

 

 

「…え…ッと…」

 

 

「実はとても優れた動物なのです」

 

 

 

 

 

「つまりあんたは何が言いたいわけ? 兎が意外と凄いってのはわかったんだけど…」

 

「意外とではなく、実は凄いのです」

 

 

少女は訂正を求める。小柄な少女の体の、おそらく半分くらいのサイズの兎のぬいぐるみを抱きながら。金髪の少女は面倒くさそうな表情をし、その小柄な少女に何かを言おうとするが何も思いつかず言いよどむ。

 

 

「フレンダ。もう用事が終わった。あとは超帰宅です」

 

 

「お腹すいた…」

 

「あー。だりぃ。なんだってこんなとこに…」

 

 

そこで金髪の少女――フレンダへ助っ人とばかりに知り合いと思われる少女達が訪れる。上から、小柄な体躯にフードから僅かに見える茶髪が覗く少女。次に黒髪の気怠げな半目のTシャツにジャージという素朴な外見の少女。お腹でも空いたのか深刻そうに腹をさすっている。最後に茶髪の毛先がカールした、少々目つきの悪い女性。今は虫の居所が悪いのか、普段よりも目つきがいささか強度を増している。

 

 

「麦野ッ! …と、絹旗に滝壺!」

 

 

助っ人が現れた事により、助かったといわんばかりに目を輝かせる。

 

対し、うさぎのぬいぐるみを抱いた少女は少々首を傾げ。フレンダに対し問い掛ける。

 

 

「お知り合いですか? と、木原はあなたに問いかけます。おっと、こちらも知り合いの口調が移ったようです」

 

「知り合いも知り合い。同じアイテムの仲間ってわけよ! って、今木原って…?」

 

 

 

 

「フレンダ、誰ですか。その子供は」

 

 

「ボク、名前は?」

 

 

フードを被った少女、絹旗はフレンダへ問いかけ。黒髪の少女、滝壺は膝を折り少女に目線を合わせ問う。

 

 

「ボクではありません。”わたし”です。私は男でないので”ボク”というのは適切ではないでしょう」

 

 

「「…………。」」

 

 

 

唖然とする絹旗と、眠たげに目を瞬かせる滝壺。麦野の後ろへ移動したフレンダは『…やっぱ変なヤツ』とジト目で呟く。面倒臭そうに溜息を吐く麦野。

 

 

「そして私は鎮乃といいます。木原鎮乃です。木馬の木に、原っぱの原。鎮めるに、乃父の乃で、木原鎮乃です」

 

 

平坦な胸を張る白髪の少女。表情は変わらず無表情のままである。無表情でサムズアップしていた。少女の言葉におずおずと言った風潮でフレンダという少女が手をあげ、少女へ質問する。

 

 

「木原って、あの木原?」

 

「あなたが仰るのがどの木原なのか存じ上げませんが。おそらくその”木原”で合っているかと思われます。しかし何故あなたは――…」

 

 

 

 

 

「鎮乃様!」

 

 

フレンダへ何事かを問いかけようとするが、そこへ割り込むようにして黒いスーツの男達数名が鎮乃へと声をかける。

 

 

「…追いつかれた」

 

 

鎮乃はその男たちを見るや否や困ったようにぼそりと呟いた。それを偶然にも近くに居たことにより聞いた滝壺はその言葉に目を細める。

 

 

「探しましたよ、鎮乃様。おや…これはこれは暗部の皆様。鎮乃様が何か粗相でも?」

 

「別に、何も」

 

 

 

絹旗という少女が表情を変えずに男へ答える。

 

 

 

「それでは、さようなら。面白い話が聞けて実に有意義な時間でした。では」

 

 

 

鎮乃は小さくお辞儀して、その場を後にした。

 

 

 

 

 


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