IS〈イノウエ シンカイ〉   作:七思

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 年末の恒例、「絶対に笑ってはいけないIS学園」

 学園中に仕掛けられた笑いの罠やイベントを、笑わないように耐えながら24時間過ごす。笑ってしまうと先生たち扮するオシオキ部隊が召喚される。
 イベントは、虚と簪の金網デスマッチ(IS装着)、本音のブレイクダンス(IS装着)、山田先生の百物語(IS装着)、楯無のマジックショー(IS装着)など。
 一部の罠・イベントには、罰ゲームに千冬キックが用意されている。


第78話 苦悩

「…………」

 

 ……さて。昨日はああ言ったものの、やはり気になる。ラウラは一体どうしたというのか。朝の廊下を教室に向かい歩きながら、少し考えてみる。

 ラウラはドイツが造った、戦闘用の遺伝子強化素体(アドバンスド)だ。試験管ベイビーである彼女は親を持たず、友もいない。そして今までに接してきたのは、戦闘やそれに関するノウハウを教える人物ばかり。与えられてきたのは愛ではなく、戦闘の技術と知識と、道具。悩みを打ち明ける相手などおらず、そもそも悩みを持つことすらなかった――否、出来なかった。

 そんなラウラが、十五年の時を経て、今ようやく悩みを持った。悩むことが出来た。それはきっと、喜ばしいことなのだと思うが――

 

(……いかなる内容か……)

 

 それが気がかりだ。ラウラの悩み。まさか恋煩いということはあるまい。一夏に対し、あんなに真っ直ぐにぶつかっていたのだ。今更悩むとは考え難い。

 千冬さんも、ああ見えて顔や態度に出やすい質だ。ラウラに二撃加えたあの様子は、己の見る限りでは普段の千冬さんだった。ラウラは千冬さんにも打ち明けていないと見える。

 

(……ふぅむ……)

 

 一夏は常々、女心が分かっていないと言われているが。実は己も全く分からない。というよりも、感性そのものが世間一般の人々とは大きくずれているように思う。今更に過ぎることではあるが。

 なので、悩み相談の類は大いに苦手としているのだ。見守れと言ったが、己の場合、それしか出来ないとも言う。

 

(……悩み、か……)

 

 よく聞く内容としては……太った、とか。

 

 ……………………ないな。絶対にない。いつも朝昼晩、肉と野菜と魚と炭水化物をバランス良くたっぷりと頂いてはいるが、そのカロリーは全て消費し切れるくらいの運動をしている。あの体格を考えればむしろ栄養は足りていないのではなかろうか。

 

 後は……勉強、つまりは成績。

 

 ………………これもないな、常にセシリアと首位を争っている。それで悩みなど少々贅沢だ、己からすれば。

 

 他には……部活。

 

 …………確かラウラは茶道部だ。茶道部での悩み……想像出来ん。まさかいじめなどはないだろう、なにせ顧問が千冬さんだ。そんな命知らずがこの学園に存在するとは思えない。

 

「……むぅ……」

 

 本格的に分からん。残りは本国関係しか思いつかないが、IS学園に居る以上、過度な干渉は出来ない筈。ラウラが所属する部隊の隊員とも良好な関係を築いているようだし、例えば軍や国家に関わる問題があるとすれば、それこそ己の想像が及ぶものではない。

 

 やはり、己に出来ることはないのか――そんな無力感を抱き始めた頃、丁度曲がり角に差し掛かった。

 

 

 ――ドン。

 

「きゃっ……」

「む……」

 

 思考に没頭し過ぎたか、周囲への意識が疎かになっていた。不覚にも、生徒とぶつかってしまったようだ。

 

「……御免……」

「あ……ひ、ぃ……!?」

「……?」

 

 半ば反射的に謝ったら、何やらひきつったような悲鳴が聞こえた気がした。その発生源に視線を向けると、特徴的な、明るい空色の髪が。

 

「…………」

「あっ……ひぁっ……!」

 

 その生徒は、眼鏡を掛けていた。制服のリボンの色からして一年生、しかしクラスメイトではなく、なのに僅かに見覚えがある。

 

 ……誰だ?

 

「ひぃ……あああ……!」

 

 その少女のことが思い出せず、心中で首を傾げていると――あろうことか、少女は逃げ出してしまった。

 顔を青ざめさせ、目に涙をため、足をもつれさせながら、しかし全力で。

 

 それはまさに、「必死」と呼ぶに相応しい逃げっぷりであった。

 

「……………………」

 

 …………己が、何をしたと言うのだ。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 ――ズゥゥゥゥゥゥン――

 

 教室に着くと、俺の後ろの席に座る少女が、そんな効果音が聞こえてきそうなくらいに落ち込んでいた。

 ……ほんの数十分前に一緒に朝食を食べた時は普通だったのに、一体何があったって言うんだ。シンがこんなになるなんてタダゴトじゃないぞ。

 

 というわけで、シンに聞こえないように教室の隅っこに移動し、みんなと緊急会議を開いた。

 

「昨日はラウラ、今日はシンか。なんなんだ、一体」

「それが、目撃情報によると……何やら真改とぶつかった同級生が、泣きながら逃げて行ったようなんだ」

「………………はあ?」

 

 そんなことで落ち込んでたのか? 意外とと言うか、妙なところでナイーブなやつだな。しかし一体なんだって、そんなことになったのか。

 そりゃあ、シンは決して愛想の良いやつじゃない。いつもむすっと仏頂面で、目付きも鋭い。雰囲気も普通じゃなくて、慣れてない人じゃ近寄りがたい。話そうにも口数が足らな過ぎて、会話にならないことが多々ある。それでいて、バトルになるとすっげー楽しそうに笑う。

 

 ……なんだかかなりアブナイ人のような気がしてきたけど、それでも、悪いやつじゃないんだ。優しくて、不器用ながらも気遣いができて、友達思いで、誰かのために無茶をする。いつも黙っていて、けれど心の中でみんなのことを考えている……そんなやつ。

 

 そんなシンが、ぶつかっただけで逃げられるようなことをするだろうか?

 

 

 

 ………………ありえないと言い切れなくはない。微妙なところではあるが。

 けど、やっぱり考えにくい。シンはそんな、誰彼構わず怖がらせるようなことはしない。自分のことを理解しているからという、ちょっと悲しい理由ではあるけれど……それでも、みんなから慕われている。それはシンが真っ直ぐで、一生懸命だからだと思う。

 だから、シンがそこまで怖がられる原因は思いつかない。

 

「……ところで、その逃げた生徒って誰なんだ?」

「ああ、確か四組の――」

「かんちゃんだよ~」

「うおわっ、のほほんさん?」

 

 いつも思うんだが、のほほんさんは動きが遅いのに接近に気づかないことがある。気配を消しているわけでもないのに……謎だ。

 

「かんちゃん? ……って、誰?」

「かんちゃんだよ~」

「だから誰だよ」

「ええと、更識(かんざし)さん、だったかな。四組の専用機持ちで、日本の代表候補生だよ」

 

 おお、さすがシャル。重要人物のプロフィールは把握しているようだ。

 

「へえ……うん? 更識?」

「そうだよ~。かんちゃんはね~、楯無お嬢様の妹さんなんだよ~。妹キャラなんだよ~」

「キャラ言うな。それに、のほほんさんだって虚先輩の妹じゃないか」

「うん~、私の萌えポイントのひとつだよ~」

「萌えとか言うな」

「ちなみに~、お姉ちゃんは楯無お嬢様のメイドさんで~、私はかんちゃんのメイドさんなんだよ~。二つ目の萌えポイントだよ~」

「だから、萌えポイント言うな」

 

 しかも自分で。

 

「楯無さんはロシアの代表で、妹の簪さんは日本の代表候補生、か……優秀な家系なんだなあ、さすが名家」

「あら、家柄でしたらわたくしも負けていませんわよ!」

「今はそういう話ではないぞ」

 

 ジト目の箒によるツッコミが入る。ちょっと不機嫌そうだ。ううむ、コイツの前で姉妹云々言うのはあんまりよろしくないかもしれん。

 

「……あれ? けどその簪さんって、今まで会ったことないよな? 専用機持ちなのに、イベントに顔出してないのか?」

「実はだね~、かんちゃんの専用機は、まだ完成していないのだよ~」

「え? 代表候補生なのに? 入学してもう半年も経つのに……」

「ふっふっふ~。おりむーにそんなこと言っちゃう資格があるのかな~」

「? どういうこと?」

 

 ……なーんか、のほほんさんの笑顔が怖いぞ。なんなんだ。

 

「かんちゃんの専用機はね~、倉持技研が造ってるんだよ~」

「……あ」

「突然、おりむーが入学することになって~」

「ああ、なるほど。それで倉持技研に白羽の矢が立って、一夏の専用機を造ることになって……」

「スタッフを総動員して、白式を急ピッチで造ったわけですわね」

「しかし一夏も白式も特異なケースだからな、調整やデータの解析だけでも相当な人員と手間がかかってしまうだろう」

「……………………」

 

 結果として、簪さんの専用機開発が遅れている、というわけか……。

 

「むしろ~、ほっぽらかしにされちゃってるんだよね~。かんちゃんかわいそ~、およよ~」

「そのわざとらしい嘘泣きはやめてくれ」

 

 のほほんさんに露骨に責められて、チクリと心にトゲが刺さる。原因が俺にあるって言っても、俺のせいじゃないはずなのに……。

 

「と、とにかくっ。シンにぶつかったのがその簪さんだってのはわかったけど、なんで逃げたんだ?」

「話題を変えましたわね」

「男らしくないな」

「一夏、もうちょっと自然にやったほうがいいよ」

「かんちゃ~ん。およよ~」

「とっ、にっ、かっ、くっ!!」

 

 このままじゃ話が進まない。どいつもこいつもニヤニヤしやがって、確実に俺をいじって楽しんでいやがる。

 確かに、簪さんの専用機が完成しないのは白式が原因なんだろうけど、それについて俺にどうしろって言うんだ。俺がISを動かせるとわかってから白式を与えられるまで、俺自身の意思なんてほぼ無視されていたってのに。まあみんなそれがわかっているから、本気で俺を責めてはいないんだろうけど。

 

「とにかく、その簪さんは、なんでシンから逃げたんだ? まさかいきなり、シンがおどかしたってわけでもないだろうし」

 

 簪さんが何もなくても人とぶつかっただけで逃げ出すような人なら、そもそも普通の生活を送ることさえ難しいだろうし。やっぱり、シンと簪さんがぶつかった時に何かあったとは考えにくい。

 

「う~ん……」

 

 けどそうなると、余計にわからないんだよなあ。シャルも簪さんのことを知っているだけで、知り合いってわけじゃないみたいだし。

 

「……何があったんだろう……」

「実はね~。いのっちとかんちゃんは、一回会ってるんだよね~」

「へ?」

「……以外だな。真改は、決して社交的な性格ではないのだが」

「僕が聞いた限りだと……失礼だけど、簪さんもあんまり、自分から話しかけたりするタイプじゃないかな」

「……そんなお二人が、クラスも違うのに、お知り合いなのですか?」

「ん~。知り合いって言うほどの間柄でもないと思うんだけど~……」

 

 ちょっと困ったような顔をして、のほほんさんが頬を撫でる。……もしかしたら撫でたんじゃなくて、掻いたのかもしれない。袖が余ってて手が見えないので、どっちかわからん。

 

「えーっとね~、いのっちとかんちゃんが会ったのって、臨海学校のすぐ後なんだよね~」

「「「「…………ああ、なるほど」」」」

 

 そのたった一つの情報で、全員が納得してしまった。

 確かに、あの時のシンは怖かった。当時はなんとかしなきゃと思うばかりでそう感じることはなかったが、今思い返すとかなり怖い。

 あの状態のシンと会って、第一印象として刻まれたとしたら――

 

 ――正直に言おう。俺も逃げたかもしれない。

 

「うーん……事情はわかったけど」

「あれは、見ているだけでも堪えるな」

 

 ――ズゥゥゥゥゥゥン――

 

 シンに目を向けると、まだ落ち込んでいた。いつもなら視線を感じてか、顔だけでもこっちに向くのに。今は机に右ひじをつき、手で頭を抱えている。

 ……どうすりゃいいんだ。

 

「あ、そろそろ予鈴が鳴るね」

「あら、本当ですわ。席に着きませんと」

「なんとかしてくれよ……アイツがあんな調子だと、なんかあの付近だけ暗くなったような気がするんだよ」

「白銀月夜でも発動しているんじゃないか?」

「怖いこと言うなっ!!」

 

 しかしまさか席を離れたまま授業を受けるわけにはいかないので――というより、その前のHRを生き延びられないので、大人しく席に着く。

 その直後、ガラリと教室のドアが開く。千冬姉の登場である。

 

「全員揃っているな。HRを始めるぞ」

「「「「「……………………」」」」」

「……? ど、どうしたんですか?」

 

 教室を包む異様な雰囲気に気づいて、山田先生が困惑する。千冬姉も訝しげな顔をして、その原因を探す。

 

 ――ズゥゥゥゥゥゥン――

 

 ……千冬姉が来ても微動だにしない。その異常に、さすがの千冬姉も少しだけ驚いたような顔になる。

 が、それも一瞬。キリッと表情を引き締め、つかつかとシンの前に歩いていく。

 

「HRも授業と同じように聞けと言った筈だが?」

 

 ヒュボッ!

 

 出席簿を振り下ろす音。おいなんだ今の、おかしいだろ。俺が全力で木刀振ったってあんな音は出ないぞ。

 ……ていうか、出席簿アタックの風切り音、初めて聞いた気がする。いつもその音が聞こえる前に、頭にヒットしていたのに……。

 

「……む」

「…………」

 

 なんでか、というと。シンが少しだけ首を傾けて、その一撃をかわしたからである。……死角からの一撃を、一体どうやって。千冬姉が目を見開いてらっしゃる。まさかかわされるとは思っていなかったらしい。

 

「……あ」

 

 そこでシンが声を漏らし、顔を上げる。目の前に立つ千冬姉と顔のすぐ横にある出席簿に気づき、何があったかを察した。

 ……攻撃されたことにすら気づいてなかったのかよ。戦闘技能が細胞レベルで刻み込まれてんのかコイツは。

 

「……ふん、さすがだな」

「……すまん……」

「弛まぬ鍛錬に免じて、許してやる。だが次はないぞ」

 

 振り返って、教壇へと戻って行く千冬姉。表情は嬉しいような悔しいような、ちょっと複雑そう。ううむ、この二人のコミュニケーションはわけがわからん。しかしとりあえず、そのやりとりでシンの意識が戻ってきた。きっちり背筋を伸ばして、連絡事項を聞いている。

 

 う~ん……どうするかな。今はともかく、またシンが簪さんと会ったときに、また逃げられたりしたら……また落ち込むかも。それは俺としても望ましくない、シンにはやっぱり元気でいてもらわないと。

 

 ……簪さんと、話してみようかな。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 が、しかし。休み時間に四組を訪れようと思っていたが、色々と忙しくて行けなかった。忘れてはいけないが、俺はクラス代表なのだ。雑務を色々と任されるのである。電子資料が進化したこの時代にも、紙媒体を愛用する先生はまだまだ存在するのだ。つまりプリントやらなんやらを運ぶのは俺の仕事。重~い紙の山を抱えて、広~い学園内を行ったり来たりは大変な重労働だった。それ自体は身体が鍛えられるからいいんだけど、よりによって今日、こんなに仕事が集中するとは……。

 

「ふう、それじゃ……」

 

 けど放課後は、特に仕事を仰せつかっていない。一旦部屋に戻って教科書とかを置いてから、いつもの訓練に向かう前に簪さんを訪ねてみよう。

 

 ……ん?

 

「……俺、簪さんの部屋知らないじゃん」

 

 迂闊だった、昼間は教室に行けば会えると思うけど……さすがにもう教室には居ないだろう。自室か、よく行く場所なんかがわかれば……楯無さんかのほほんさんなら知ってるかな。

 

「ああ楯無さん、丁度いいところに。妹さんの部屋知ってます?」

「あ、あら? なんで私が居るってわかったのかしら……」

 

 というわけで。部屋のドアを開けて、俺のベッドに寝転がってた楯無さんに訊いてみた。

 ……やめてくれないかなあ。匂いが移ると困るんだよなあ、色々と……。

 

「いやなんか、そんな気がして」

 

 なんというかこう……タイミング良く来るんだよな、まるで計っているかのように。あとは本当になんとなく。

 俺がそう言うと、ベッドでゴロゴロしていた楯無さんは起き上がって座り直し、口をへの字にした。

 

「うーん、残念ね……一夏くんのびっくりする顔見たかったのに。可愛いから」

「可愛いって……」

 

 男が言われても嬉しくないんだってば、そういうの。知ってて言ってるんだろうけど。

 

「ところで一夏くん、なんで簪ちゃんの部屋を知りたいの?」

「ええ、それは……ん? 俺が妹さんのこと知ってるの、驚かないんですね」

「あら、ちょっと鋭くなったわね。けどもう一歩。今朝簪ちゃん、真改ちゃんとぶつかったでしょ? で、そのあと逃げちゃったでしょ? 噂を聞いたのよ。私は耳が早いほうだけど、それでも当事者の前の席に座っている人には負けるわ」

「確かに……のほほんさんも居るしなあ、ウチのクラスには」

 

 当事者の一人と親友で、もう一人とは幼なじみ。加えて噂好き。これで俺の耳に噂が入らないわけがない。

 

「それで、簪ちゃんの部屋を知ってどうするの?」

「いや、シンは怖いやつじゃないよ、って伝えようと思って」

「……そんな、子犬じゃないんだから。それに、考えてみて? 学園唯一の男子で有名人の一夏くんが、いきなり部屋まで訪ねて来たらびっくりするでしょう?」

「あ、そうか……」

 

 周りが女の子ばかりで俺の部屋まで押しかけて来るヤツも何人かいるもんだから、少し感覚が麻痺していたのかもしれない。言われてみれば、知り合いでもない男が突然部屋に来たらびっくりするだろう。

 

「会いに行ったらどっちにしても驚かれるでしょうけど、それでも部屋に行くのはやめた方がいいわ。休み時間に、教室に会いに行くのがいいわよ」

「はあ、なるほど」

「だめよ、一夏くん。そういう気遣いは忘れないようにしないと」

「はい……精進します」

「うん、素直でよろしい」

 

 楯無さんはニッコリ笑って。

 

 すぐに、真剣な顔になった。

 

「……それでね、一夏くん。私が部屋に来た理由なんだけど」

「……ああ」

 

 忘れてた、そういえば聞いてなかった。ていうか楯無さん、しょっちゅう理由もなく突撃or潜入してくるから、今回もその類かと。

 つまり、ぶっちゃけ気にしてなかった。

 

「今回は理由があるんですか」

「あ、一夏くん、わかってないなー。私が一夏くんの部屋を訪ねる時は、毎回ちゃんと理由があるのよ? 一夏くんが気づいてないだけで」

「あ、そうだったんですか」

「当たり前じゃない。生徒会長は暇じゃないんだから」

「じゃあこの前、朝は冷蔵庫に入ってたプリンが夜にはなくなってたんですけど、あれにはどんな理由があったんですか?」

「……な、なんのことかな?」

「部屋の鍵開けられるの、楯無さんとラウラだけですし。ラウラは直前まで一緒に訓練してましたし」

「ピュ~♪ピュピュ~♪」

「…………」

 

 オイコラ、こっち見ろや。

 

「……待ってたんだけど、一夏くんが帰って来るの遅いから……小腹空いちゃって」

「それで、食べたら満足して、何もしないで帰っちゃったんですか?」

「い、いいじゃない。生徒会室でおいしいお菓子、ご馳走してるでしょ?」

「はい、なので全然気にしてなかったんですが……今ふと思い出しまして」

「……ごめんなさい」

 

 さっきも言ったけど全然気にしていないので、それについては謝ってもらう必要なんてないんだけど。ただこうしてしおらしくなってる楯無さんは新鮮で、見ていて面白い。けどいつまでも続けていると後が怖いので、そろそろ切り上げなければ。

 

「とにかく、本題の方をお願いします」

「あ、そ、そうね。うん、ゴホン。

 ……あのね、一夏くん。今度全学年合同で、専用機持ちのタッグマッチを行うのよ」

「え? そんなイベントありましたっけ?」

「ついさっき決定したのよ。ほら、この前のキャノンボール・ファストで襲撃があったでしょ? その前から学園が襲撃されることもあったし、生徒たちが自衛できるようスキルアップさせるために大会を増やそうって、前々から案だけは出てたのよ」

「それがなんで、今更になって」

「IS学園で大会を開くと、世界中から人が集まるでしょう? 会場は学園自体だから問題ないし、ただ一般人のお客さんを呼ぶだけなら簡単なんだけど。世界中の政府や軍や研究機関の偉い人たちを呼ぶには、予定を合わせるだけでも大変なの。だから今まで、先送りされてたんだけど……」

 

 う~む……生徒のスキルアップ目的と言っても、やっぱりIS学園ほど注目されていると、それだけじゃダメなんだな。

 ISで大会って、金かかるし。

 

「けど、あのキャノンボール・ファストは学園外でのこと。学園内は治外法権みたいなものだけど、外での出来事にそんなことは通らないわ。学園も事態を重く見て、案件を大急ぎで進めたの」

「そう言えば、ニュースでも大々的にやってましたよね。「専用機六機、一瞬で撃墜」とかなんとか。生徒(俺たち)には届いていなかったけど、やっぱり世界中から文句みたいのが来てたんですか?」

「一般の人たちからすれば、負けたのはあくまで学生なわけだから、そんなに責めるつもりはないみたいだけど……代表候補生たちを預けている政府からすれば、やっぱりそうもいかないでしょうね。学園は一体どんな訓練をしているんだ、って」

「モンスターペアレンツみたいですね……」

 

 理解もできるし納得もできるが、すごくうんざりする話題だ。

 

 ちなみにあの時のIS、サイレント・ゼフィルスは、いずれかの武装国家に所属するISで、その国を捜査中である――みたいなことを言っていた。確かに、間違ってもテロリストがISを持っているだなんて言えない。テロリストがそんな戦力を持っているなんて知れたらパニックになりかねないし、強奪された国だってどれだけ責められるか。

 ……きっと、連中が色んな国から奪っているから、どこも黙っているんだろう。アナコンダの巨体とコブラの猛毒を合わせても足りないようなモンスターが潜んでる藪を、そうと知ってつつくバカは居ない。

 

「まあとにかく、そんなわけでね。それで、その大会なんだけど」

「はあ」

 

 そこで楯無さんは、ベッドから立ち上がり。

 

「お願いします、織斑一夏くん。私の妹……簪ちゃんと、タッグを組んでください」

 

 深々と頭を下げて、そう言った。

 

 

 




 年末の恒例その2、「絶対に笑ってはいけないORCA旅団」

 ORCA旅団でミッションをこなしつつ、24時間過ごす。途中、様々な笑いの罠やイベントが用意されており、それらに笑わないよう耐えなくてはいけない。笑ってしまうと、ORCA旅団員にブーストチャージされる。
 イベントは、量産型ヴァオー軍団のハッハーラッシュ、最初の五人の噛み噛みお茶会、ジュウシマツ旅団長、真改とブッパ・ズ・ガンの漫才など。
 一部の罠・イベントでは、罰ゲームとしてPQがペットを連れてくる。

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