IS〈イノウエ シンカイ〉   作:七思

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ちょっとIS〈イノウエ シンカイ〉のタグを見直してみたんですが。

転生、TS、厨二病、etc.

……なんという地雷臭……よくもまあ、読む気になってくれたものです。
本当にありがとうございます。


第57話 前夜

「ところでシン、お前、招待状は誰に送るんだ?」

 

 食堂で皆と夕食をとっていると、一夏が訊ねて来た。

 一夏の言う招待状とは、文字通り学園祭に外部の人間を招待するためのもので、生徒一人につき一枚配られている。一枚の招待状で学園祭に呼べるのは一人だけなので、言うまでもなく一人しか招待することが出来ない。それ故家族や友人全員は招待出来ないのだが、IS学園における機密の重要性からあまり大勢の部外者を招くわけにはいかないことを生徒全員が理解しているので、皆しぶしぶ納得している。

 

 その招待状だが、己はまだ誰にも送っていなかった。家族の誰かに送っても、一人だけでは気兼ねなく楽しめないかもしれない。かと言って友人に送るとしてもそこまでの付き合いがあるのは五反田兄妹くらいであり、兄の弾には一夏が、妹の蘭には鈴が、既に招待状を送ったという。

 

 ……さて、どうするか。

 

「送るなら早めに送っとかないと。相手にも都合があるだろうし」

「まあ絶対に誰かに送らなくちゃいけないわけじゃないけど、勿体ないしね」

「…………」

 

 箒は中学生時代の剣道部の先輩に、セシリアは普段世話になっているメイドに送ったそうだ。シャルとラウラは、誰にも送らないらしい。二人とも交友関係が学園内に限定されてしまっているし、ラウラには部下がいるが、任務と重なってしまっているとのことだ。

 

 ……ふむ。仕方ない、遠慮しあって結局誰も来ない可能性すらあるが、孤児院の誰かに――

 

(……そういえば……)

 

 大変失礼なことに、今の今まで失念していた。一人いるではないか、招待状を送るのに絶好の相手が。

 

「……決定……」

「ん、誰か思いついた?」

「だれだれ~?」

「…………」

 

 悪いが黙秘させてもらおう。相手を知ればまた大騒ぎするだろうことは目に見えている。黙っていてもいずれバレるだろうが、時間稼ぎ程度にはなる。

 

「ふむ。まあ、私たちが口を出すことではないか」

「真改の交友関係が気になるところではあるがな」

「当日までのお楽しみってことだね」

「…………」

 

 ……まあ、楽しめる者は楽しめるだろう。もっともそれは、ここにいる者たちではないことは確かだが。

 

「さてと、それじゃあアリーナ行ってくるよ」

「今日も特訓ですか? たまにはお休みすればよろしいですのに」

「そうも言ってられないんだよ。まだ第二段階をクリアできてないんだから」

「……アレ、正直あたしたちにもキツいわよ」

「射撃武器が使えればそうでもないのだが、格闘攻撃だけではな……」

「配置も動きも嫌らしすぎるよね……」

「まあ、楯無お嬢様だし~」

「納得してしまうあたりが恐ろしい……」

「…………」

 

 人心掌握術に長けているからな、あの人は。裏を返せば、人が嫌がることも熟知しているのだ。そこにあの優れた戦術眼が加わった結果、あれほどの布陣を敷くことができるのだろう。

 

 ……更識楯無、彼女はおそらく、真っ当な戦士ではあるまい。彼女の能力は一騎打ちや広い空間での乱戦よりも、深い森や入り組んだ家屋の中に敵を誘い込み、無数の罠で一方的に殺戮するような戦法、あるいはそれを掻い潜ることでこそ活かされる。

 布仏家は代々更識家の従者だと言っていたから、更識家はそれなり以上に名家の筈。その当主である楯無会長が、あのような能力を持っているということは――

 

(……暗部、か……)

 

 この国の闇、血にまみれた、国民に知られてはならない一面。それを担ってきたのが更識家なのだろう。暗殺する側か、暗殺者を撃退ないしは捕縛する側かは分からないが。

 どちらにせよ、そんな人物が自由国籍を得てロシア代表となっていることには、一体どのような事情があるのか。

 

「…………」

 

 まあそれは、考えても仕方あるまい。それよりもまず、目先の問題に対処しなければ。

 

「あ、お姉ちゃ〜ん」

「…………」

 

 ……具体的には、虚先輩である。

 

「探したわよ、井上さん。時間になっても生徒会室に来ないんだもの」

「む、まさか、例の特訓か……!?」

「はいはいはい! 見学を希望しますっ!」

「わ、わたくしも是非!」

「僕も!」

「私も!」

「…………」

 

 さて、得物得物。

 

「「「「「「ひぃ……!?」」」」」」

 

 とりあえず少し眼に力を入れて睨み付けてやると小動物のように怯えだしたので、皆を置いて席を立つ。

 

 ……さて、行くか。地獄の特訓に。

 

 

 

「「「「「「……そ~っと……」」」」」」

 ギロリ。

「「「「「「ひいいいぃぃぃっ!!?」」」」」」

 

 ついて来たら目玉を抉り出すぞ、貴様ら。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 数日後、如月重工本社ビル、その一室で。

 

「……うふふ。うふふふふふ、ふふふ。…………んふふふふふふふふふふふふふふ」

「楽しそうですねぇ、社長」

「ああ、網田君。なに、井上君人形の出来が、思いの外素晴らしかったからねえ」

「ええ、尽力した甲斐がありました。他の皆も、やり遂げた顔で寝ていますよ」

「よく間に合わせてくれた。まったく、本当に僕は仲間に恵まれているよ」

「それは私たちも同じです。社長は私たちのようなはみ出し者に、この上ない居場所を与えてくれたのですから」

「うふふ、まあ僕自身、はみ出し者だからねえ」

 

 部屋の中に、不気味な笑い声が響く。本当に、本当に楽しそうな、笑い声が。

 

「……学園祭。普段極めて厳重な警備により内外から守られているIS学園に多くの部外者が訪れる、数少ない機会。

 ……忍び込むには、まさに絶好の機会」

「来ますかねぇ、連中は」

「来るだろうねえ、必ず」

 

 如月社長と網田主任、二人の言う「連中」とは、以前如月重工本社ビルを襲撃した組織――〔亡国機業(ファントム・タスク)〕のことである。

 

「連中の狙いは、まだわからないかな?」

「わからないですねぇ。いつ生まれたのか。どうやって生まれたのか。規模はどれくらいで、拠点はどこにあって、構成員は誰で、何を目的としているのか。具体的なことは何一つわかっていません」

「うふふ、まさに亡霊だねえ。まあそれくらいのほうが、相手していて面白いけれどね」

 

 飽くまでも一般の会社である如月重工が、国家ですら手を焼く組織と戦う。そんな荒唐無稽とも言える展開に、如月社長は胸を踊らせているのだった。

 

「僕らの家に土足であがり込んで子供を攫おうとしたんだ。相応の反撃は覚悟してもらわないと」

「私たちには私たちの誇りがあるということを、思い知らせてやらなくてはなりませんねぇ」

「人には誰だって、どうしても譲れないモノがある。自覚のあるなしは別としてね。それを踏みにじろうとしたんだ。これはもう――徹底抗戦しかないよ」

「やりましょう。どちらかが滅びるまで。これは既に、戦争なのですから」

 

 自分たちが作った物は、必ず最後まで使い切る。だから、自分たちが認めた者にしか託さない。

 そのたった一つの矜持を、強奪という形で穢そうとした亡国機業を許すつもりは、如月重工全社員の誰一人として、微塵も持ち合わせてはいなかった。

 

「それで、学園祭ではどうします?」

「任せてくれって言われてしまっているからねえ。そうでなくても向こうはISを持っているんだ、井上君抜きではどうにもできないよ。僕らは精々、情報収集にでも努めるとしよう」

「わかりました。ではその方向で準備しておきましょう」

「うん、頼むよ、網田君。……さて、僕は僕で準備を『ギャァァァァァッ!』おっと、メールだ」

 

 携帯電話を取り出した如月社長は、届いたメールを確認する。

 

 ――その瞬間、両目を見開き、全身をワナワナと震わせて、驚愕を露わにした。

 

「な!? こ、これは……!?」

「どうしたんです?」

「……見てみたまえ」

 

 そう言って、いまだに驚愕の抜けない様子で、網田主任に携帯電話を手渡した。

 

「ふむ? ……な!? こ、こんなことが……!?」

 

 自分と同じような反応をした網田主任に、如月社長はいつになく真剣な面持ちで語り掛ける。

 

「……網田君。わかっているね……?」

「ええ、もちろんです。……急がなければ。すぐにみんなを起こして来ます」

「うん。……頼んだよ、網田君」

「はい。……それでは、失礼します」

 

 一礼して部屋を出る網田主任を見送って、如月社長は再び先ほどのメールを確認した。

 

 そして、重々しく呟く。

 

「間に合うかな。……いや。なんとしても、間に合わせなければ……!」

 

 如月社長に、それほどまでの衝撃を与えた、一通のメール。

 

 差出人は、IS学園生徒会長、更識楯無。

 

 文面はなく、ただ画像データが二つ、添付されている。

 

 

 

 その画像データとは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「必ず、追加しなければ……着せ替え機能を――!」

 

 

 

 ――メイド服、そして執事服を身に着けた、井上真改の隠し撮り写真だった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 さらに数日後、ドイツ軍特殊部隊、〔シュヴァルツェ・ハーゼ〕の訓練所にて。

 

「全員、集合っ!!」

「「「はっ!」」」

 

 覇気に満ちた号令に、即座に応じる少女たち。過酷な訓練の最中、全身に疲労を溜め込んでいながら、その動きは素早く、洗練されている。

 

「諸君! 知っての通り、三日後には学園祭だ」

「いよいよですね、お姉様!」

「うむ。準備は万端、あとは日本に渡り、本番を待つのみだ」

 

 シュヴァルツェ・ハーゼ副隊長、クラリッサ・ハルフォーフ大尉の横には、大型のスーツケースが置かれている。その中身は、市販の撮影機器に有りっ丈の違法改造を施したクラリッサスペシャルの数々だ。流石に軍用品をちょろまかすとバレるからである。

「……諸君、私が居ない間のことは分かっているな?」

「はい。お姉様の不在が悟られないよう、隠蔽工作を進めています」

「お任せ下さい、お姉様。お姉様の邪魔はさせません!」

「うむ、頼りにしているぞ。……それでは、行ってくる」

「行ってらっしゃい、お姉様!」

「ご武運を!」

「どうか……どうか、無事に帰って来てください!」

 

 愛すべき(部下)たちに見送られ、クラリッサは出発する。民間人と一緒にエコノミークラスで空の旅、飛行時間は12時間を予定しています。

 

「待っていて下さい、隊長……」

 

 わざわざラウラからの誘いを断ってまで敢行する、極秘作戦。

 

 その胸に宿るのは、遠く離れた上官への想い。

 

 それは尊敬であり、憧憬であり、愛情であり――

 

「必ずや、その可愛らしいメイド服姿を激写してみせます……!!」

 

 ――爛れた欲望であった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「はあっ!!」

 ピコーン。

 

 振るった雪片弐型がターゲットを捉える。いいペースだ、この調子で行けば――!

 

「うおおおおっ!」

 

 スラスターを噴かし、赤いターゲットが固まっている空間へ突撃する。狙いはその奥に隠れている、青いターゲット。

 

「はっ! せい! はあっ!!」

 

 複雑に動く赤いターゲットを次々かわしながら、目標に接近する。ブレードを突き出し、僅かに届いた切っ先に反応した青いターゲットが消滅した。

 

「次っ!」

 

 この特訓では、青いターゲットを撃破するたびに赤いターゲットの動きのパターンが変化する。即座に対応しなければ、またすぐに殺到されてジ・エンドだ。

 だから一瞬だって油断できない。今この瞬間にも、背後から赤いターゲットが向かって来ている。

 

 だがこの程度の奇襲、今まで何度も受けてんだよ――!

 

「フッ!」

 

 短く息を吐き、体を捻る。赤いターゲットが紙一重で、しかし決して触れることなく通り過ぎて行った。

 

「よし、行けるっ!」

 

 再びスラスターを噴かし、一気に加速。青いターゲットを順調に撃破していき――

 

「これで、」

 

 アリーナの頂上付近のターゲットを撃破。

 

 そのまま反転、垂直に急降下。

 

 ――狙いは。

 

「ラストオオオォォォっ!!」

 

 地面スレスレに浮いている、最後のターゲット――!!

 

「どおおおうりゃああああああっ!!」

 

 途中に無数にある赤いターゲットを、体を真っ直ぐに伸ばすことで当たる面積を最小限にして回避し。

 

 伸びた体を戻す勢いで、雪片弐型を振り下ろして。

 

 アリーナの地面ごと、真っ二つに叩き割った。

 

 

 

「ついに……! ついにやったぜええええ!!」

「キャー、一夏君ステキー。カッコイー。さらにレベルアップした訓練もクリアできたらもっとステキー」

「やっぱりかああああっ!!」

 

 またも現れる、青と赤のターゲット。……今度は青いのまで動いてやがる……。

 

「キャー、困難にも怯まず挑む一夏君ってステキー」

「やればいいんでしょ、やればさあ!」

 

 いい加減休ませて下さい、なんて口が裂けても言えない。だってそんなこと言ったらどれだけ特訓がエスカレートするかわからないんだもん。

 こんな追いかけっこの発展系みたいな訓練が実戦でどれだけ役に立つかわからないのに(なぜなら最近この特訓ばかりで、模擬戦すらしていない)、それでも続けているのは真面目だからではなく、単に楯無さんが怖いからである。

 

 ……いや、千冬姉や怒ったシンとはまた違う怖さなんだけどな。得体が知れないと言うか……。

 

 まあとにかく、俺の本能が告げているのだ。楯無さんに逆らってはいけない、と。

 

「よし、行くぜ!」

 

 というわけで、特訓再開。青いターゲットがとんでもない速さで動いており、他に何もない状況でも追い付くのはちょっと手間取るだろう。

 

 ブンッ!

「く、この……!」

 

 斬撃を外し、青いターゲットを逃がす。

 

 速いだけじゃない、回避機動までプログラムされてやがる――!

 

「ちいっ、逃がして――!?」

 

 振り向くとそこには、赤いターゲットの大群。まるでムツ○ロウ王国の犬総動員でお出迎えをするかの如く殺到してチュドーーンッ!!

「ぐぎゃああああっ!!!」

 

 ……ああ。先は長そうだなー……。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「第二段階もクリア。……早すぎるけど、まあ仕方ない。鍛えてるんだから、成長もするわよね」

 

 予定を大分繰り上げて、第三段階に移行することになった。学園祭の後にやるつもりだったのになあ。

 

「才能? 機体性能? 土台がしっかりしていた?

 ……違う。それだけじゃ、この成長の速さは説明できない」

 

 才能はあるだろう。なにせ織斑先生の弟だ。

 機体性能は十分。倉持技研の総力を注ぎ込まれ、束博士の手を加えられた特注品だ。

 基礎はほぼ完璧。真改ちゃんは、私よりもよっぽどスパルタだったようだ。

 

 けど、それら全てを考慮に入れても、いくらなんでも速すぎる。

 

「……なんだろう。何があるんだろうなあ、一夏君には……」

 

 更識の力を使っても探れない、一夏君の秘密。彼はみんなが知っている特殊性以外は、普通の少年の筈なのに――

 

「如月さんも、なんだかんだで忙しいしなあ……」

 

 彼の協力を得られれば百人力どころではないんだけれど、しかし如月重工は今、ドイツや亡国機業との情報戦の最中だ。国家、そして国家と対等な力を持つ組織との。

 余計な手間をかけさせるわけにはいかない。

 

「……まあ、そこは置いておこうかな。あまり先のことばかり見てると、足元をすくわれるしね」

 

 今は、学園祭だ。亡国機業は、必ず来る。狙うのは一夏君の白式か、箒ちゃんの赤椿か、それとも真改ちゃんの朧月か。

 

 真改ちゃんは……まあ、自力でどうとでもするだろうし、如月さんも付いてる。

 箒ちゃんは、下手に手を出せば束博士が黙っていない。いくらなんでも、狙うにはリスクが高過ぎる。

 

 だから、狙うのは、きっと――

 

「織斑先生も、世界最強とはいえ一個人。出来ることには限界がある。なら、やっぱり……」

 

 だから、私が鍛えないと。今はまだ、一夏君は自分を守り切れないから。

 

 だから一夏君が、自分の願いを叶えられるように。

 

 それまでは、私が少しだけ、守ってあげようかな。

 

「……さて、準備しないと。学園祭を成功させる。生徒である一夏君を守る。両方やらなくちゃいけないのが、生徒会長の辛いところね」

 

 まあ、難しいからこそやりがいがある。挑みがいがある。

 

 ……さあ、来るなら来い、亡国機業。返り討ちにしてやる――

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「…………」

 

 学園祭、か。

 

 何かが起きるな、確実に。

 

「……亡霊……」

 

 ――来るか、ここに。

 

 今まで周到に姿を隠していた連中だ、表立って派手に騒ぎを起こすことはなかろうが――

 

「……一夏……」

 

 かつて一夏を攫ったのも、亡国機業だと言う。なんのためにそんなことをしたのかはわかっていないらしいが、しかし――

 

「……やらせん……」

 

 一夏を守る必要はない。そんなことをせずとも、自分で自分を守るくらいはできる。

 

 だが、それでも――

 

「……やらせはせん……」

 

 これ以上、アイツに余計なモノを背負わせたくはない。

 己の腕を切ったのが奴らだと知れば、まず間違いなく暴走する。

 

 それこそ、殺しかねないほどに。

 

「……やらせるものか……」

 

 そんなことは許せない。許せる筈がない。

 

 あの少年の剣が、心が、奴らの血で穢されるなど。

 

 故に。

 

「……寄らば、斬る……」

 

 来るなら来い。一夏に悟られる前に、叩き潰す。

 少しばかり痛めつけてから、如月重工にでも引き渡してやる。社長たちのことだ、さぞや可愛がってくれることだろう。

 

 ……そうだな、考えて見れば――

 

「……寄らずとも……」

 

 これは、この上ない好機とも言える。いくら亡国機業と言えど、IS学園に大挙して押し寄せることは不可能だろう。

 故に恐らく、少数精鋭による潜入を仕掛けて来る。増援があるとしても学園の外に待機させるのが限界の筈だ。

 

 ――ならば、捕らえられる。

 

 見つけ出し、こちらから――

 

「……寄って、斬る……」

 

 己は、剣士でありたいと願っている。「彼女」の剣以外は振るうまいと心に決めた。

 

 だが、それでも。

 

 己はかつて、戦場に繋がれた者(リンクス)だったのだ。

 

「……覚悟しろ……」

 

 どれほど闇で暗躍してきたのか知らんが、所詮はこの、平和な世界でのこと。

 

 本物の「戦争」を経験したことが、果たして何度ある?

 

 本物の「戦争屋」を相手にしたことが、果たして――

 

「亡国機業――!」

 

 

 

 ――学園祭は、明日。

 

 

 




AC豆知識+蛇足

 なにやら本作は、ACを知らない方にも読んでいただけているようなのでちょろっと解説させていただきます。知ってる人は飛ばしてください。「ここ間違ってるよ」ってところがあったら教えてください(懇願)。
 AC4、ACfAで操縦する兵器、「ネクスト」のパイロットであるリンクス。山猫山猫言われていますが、リンクスを英語にしたときの綴りは山猫=lynxではなく、linksです。
これは彼らがAMS(アレゴリー・マニピュレイト・システム。人間の脳を機械に直結することで、自分の身体のように機械を動かせる代物)を使って機体(ネクスト)を動かすことから、「ネクストと繋がる(リンクする)者」という意味で名付けられたそうです。このAMSが、ネクストの絶大な戦闘力を支える柱の内の一本です。
 しかしリンクスたちを山猫と呼ぶのは、決して間違いではありません。作中でも猫と呼ばれていますし、AC4以前のパイロットたちがレイヴン(鴉)と呼ばれていたことから、リンクスの意味を分かっていてもあえて山猫と呼ぶプレイヤーも大勢います。かくいう私もその一人です。
 linksは正式名称、lynxは称号、というのが、私の解釈です。

 さて、そこで今回の話の最後についてです。
 ここからは私の独自解釈であり、決して公式の設定ではない、ということを了解してください。
 リンクスたちはネクストと繋がることで、世界中の国家をたった26人で解体するほどの力を手に入れました。そして同時に、ネクストから溢れるコジマ粒子により命を削られ、そしてあまりに強すぎるが故に人間扱いされない、という宿命を背負うことになりました。
 その短命さ、自身が機械の一部と化すこと、そして搭乗するのがネクストという莫大な資本がなければ動かすことも出来ない兵器であるせいで、初めは戦場の華であった彼らは次第に軽んじられ、いつしか単なる尖兵となっていきました。これは個人が強大であるせいで、突然の死による戦力の低下や裏切りにより受ける被害という大きすぎるリスクを恐れた結果でもあります。
 コジマ粒子による汚染が進み人々が空に移住していくなか、リンクスは地上に取り残され、ただひたすら戦い続け勝ち続けることでしか生き残れない存在となったのです。
 リンクスはネクストと繋がることで、戦場に繋がれ、戦い続けるという運命に繋がれた。ネクストの開発者は、彼らの未来を全て見越した上で、それを皮肉り、あるいは哀れんで、「リンクス」と名付けたのではないか――


 と、私の妄想がアサルトアーマーした結果、あんな厨二病全開なルビをふらせたわけです。
 まあACシリーズ自体が独自解釈の余地がありまくる説明不足なゲーム(だがそれがいい)なので、この解釈に異論のある方は無数にいらっしゃるでしょう。むしろ私は色んな人の解釈を聞きたいです。それもまた、ACの楽しみ方の一つだと思いますから。
 とりあえず私が言いたいのは、私はこう考えていることを覚えておいていただきたい、ということです。
 そしてそんな、あまりにも過酷な人生を科せられ、それでも眩く輝いていたリンクスたちのことを愛していただきたい。ただそれだけなのです。

 長々とした蛇足、大変失礼いたしました。ここまで読んでいただけた方がいましたら、ありがとうございます。

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