「え!? さ、三対一!? おいおい、大丈夫かよ……!?」
とかさあ、そういうのが普通の反応だろ常考……
……え? リンクスに常識なんか通用しない?
ですよねー
「……軍用IS三機を相手に大見得を切りますか。まさかここまで愚かだとは……失望しました、アンジェ・オルレアン」
三人の内の一人、一番若い黒髪の女が、呆れたように言う。まあ確かに、私の言ったことは根拠も何もあったものではない、ただの精神論だ。
――だが。
「仕方ないよ。ほら、天は二物を与えずとか言うじゃん? 戦う才能がある分、馬鹿なんでしょ」
中性的な顔立ちの、赤髪の女の言葉。
その通り、私は馬鹿だ。剣という時代遅れの武器に拘り、そんな愚かさすら誇りにする、救いようのない大馬鹿者だ。
――だが。
「しかしその才能も、まだ磨き抜かれてはいまい。今の段階では原石のままだ。社長からは現実を教えてやれと言われているしな、軍人と民間人の違いを見せ付けてやろう」
リーダー格の銀髪の女の声からは、自分たちが負けるなどという考えは微塵も感じられない。それも当然か、銃で武装した複数の敵は、剣で相手取るには相性が悪いのだ。一人に近付けば他の者との距離が離れてしまうのだから。それを、この女は良く分かっているのだろう。
――だが。
「やってみせろ。やれるものなら。貴様らの弾丸が、私を貫けると思うのならな」
精神論の何が悪い。
肉体を支えるのは精神だ。心が折れては、鍛えられた体も役には立たない。そして過酷な戦場では、少々強い程度の精神など容易く折れる。
剣に拘ることが愚かならば、私は愚か者でいい。
肉体を支えるのが精神なら、私の精神を支えるのは剣への想いだ。私の在り方が変わらぬ限り、たとえ剣が折れようと、この心は決して折れはしない。
相性の良し悪しがなんだと言うのだ。
そんな小賢しい理屈で曲がるほど、私の生き様は軟弱ではない。現に今まで幾度となく、その理屈ごと敵を斬り捨てて来た。
「性能? 数? 相性? なんだそれは、まるで分からんぞ。それは私が恐れをなす理由になるのか?」
私は剣に頼って来た。
私は剣に縋って来た。
私は剣に拘って来た。
私は、剣に生きて来た。
剣に頼り、剣に縋り、剣に拘り、剣に生き、そして死んだ。
そしてそこまで行って尚、私は剣を捨てられず、どうしようもないほど剣に惹かれている。
――ならば。
「そんなモノはどうでもいい。たとえ相手が誰であろうと、どれほど大勢だろうと、いくら強かろうと」
何故私は、剣を捨てられないのか。
何故私は、これほどまでに剣に惹かれているのか。
――それは。
「私のやることは、一つだけ」
理屈などではなく。
私の心に、私の魂に。
剣への想いが、刻み込まれているからだ。
故に、私は――
「ただ、寄って斬るのみ――!」
――――――――――
「まだ吠えるか。ならば二度と逆らう気にならぬよう、徹底的に痛めつけてやる――!」
三人が一斉に動く。特に示し合わせた様子もなく、それでもほぼ完全に統率の取れた動き。相当な練度であることが伺える。
「私たちを狗と呼んだこと、後悔しなさい!」
素早く意識を巡らせて、展開された武装を確認する。
黒髪の女はリヴァイヴの標準装備である両腕のシールドの内右腕のものを外しており、代わりに左腕のシールドが大型化してある。そして空いた右手には大型のガトリングガンを装備。
赤髪の女はシールドを両方外し機動力を確保、両手にマシンガンを展開した。見ればスラスターにも手が加えてあるのか、通常よりも出力が高そうだ。
そして銀髪の女は右手に大型のスナイパーライフルを、左肩にアサルトカノンを展開、右肩にはレーダーのような物が取り付けられている。
「謝るなら今の内だよ? 始まったら、謝る暇なんかあげないからね」
黒髪がシールドと弾幕で二人を護衛、赤髪が撹乱しつつじわじわ削り、銀髪がそれらを指揮しながら、要所で狙撃と砲撃を加える。……そんなところか。
単純ではあるが、それ故に堅牢な布陣と言える。しかも三人とも機体はリヴァイヴ、豊富な装備があることはまず間違いない。おそらく一人倒したところで、すぐさま武装を切り替えフォーメーションを組み直すだろう。
だが、それすらも私には関係ない。こちらに向かってくるのなら、何度でも討ち倒すだけだ。
「ならば貴様らは、逃げたくなれば逃げてもいいぞ。私には、弱者をいたぶる趣味はないのでな!」
交戦開始。私の戦いは、いつだって私の突撃から始まる。今回も例外ではない。
「往くぞ、デュランダル!!」
――コード認証。
二基のメインスラスターが、両手に持つ機体と同名のブレードに接続される。スラスターの形が変わっていき、形状だけは標準的な長剣だったブレードが瞬く間に二振りの大剣になる。
ブレードスラスターを起動、しかしエネルギーは放出せずに刀身内部を循環させる。すると刀身が光を放ち、さらに高く澄んだ音を発し始めた。
――これぞデュランダルの真の力。ブレード自身の重量に加え、熱と振動によって飛躍的に威力を高めた刃を、大型スラスターにより加速させ打ち込む。その威力は凄まじく、並みのISならば一撃で倒せるだろう。
「本当に馬鹿だね。その剣は小回りが利かない。それじゃああたしは捉えられないよ!」
赤髪が小刻みな機動をしながらマシンガンを連射してくる。こちらもチェーンガンで応戦するが、それは巧みにかわされた。
「やっぱり、射撃の腕は剣ほどじゃないね!」
「そうだな。なら、捨てるか」
「!?」
言葉通り、チェーンガンとアサルトカノンをパージする。
……これで、軽くなった。
「ふん! それくらいで、あたしに追い付けると───!?」
「思っているさ」
一気に肉迫した私に、赤髪が驚いている。
無理もないかもしれん。何故なら――
「お前、一体なにを――!?」
四基のサブスラスター、両手に持ったブレードのスラスター、そして両脚のスラスター。
計八基による、同時瞬時加速。
「う、おおおお!!」
間合いに入り、大上段から剣を振り下ろす。その一撃を、赤髪は驚愕しながらもなんとかかわした。
「けど、これで――!?」
赤髪はこう思っただろう。この剣の重量では、二撃目を放つまでに僅かに時間がかかる、と。その隙に距離を取りつつ銃撃を加えよう、と。初見では驚いたが、次はあの瞬時加速にも反応出来る、と。
大間違いだ。逃がしはしない、貴様はこれで倒れる。
「ハアッ!!」
驚愕に目を見開いている赤髪の胴に、剣を叩き込む。機動力の代償に防御力が低下しているのだろう、赤髪のリヴァイヴはそれで機能を停止した。
「……まず一人」
「そん、な……」
いまだに驚愕を顔に貼り付けたまま、赤髪が落ちていく。
そんなに驚くほどのことか? 私はただ、振り抜いた剣を蹴り上げて、初撃をかわした赤髪へと翻らせただけだというのに。
「な……!?」
「慌てるな! 奴の推定能力を修正、フォーメーションを――!?」
「遅いっ!!」
貴様らには遠慮などしない。一息に片を付ける。
再び瞬時加速を発動し、次は黒髪に躍り掛かる。ガトリングガンを連射して突き放そうとするが、その弾幕はクロエさんのそれと比べればあまりにも薄すぎる。
容易く突き破り接近、そのまま放った斬撃を、黒髪は左腕の大盾で受け止めた。
「くう、重い……! けれど、耐えられ――!?」
「無駄だ」
剣を防がれたまま、さきほどの瞬時加速を発動。凄まじい運動エネルギーが刃に伝わり、大盾ごと黒髪を切り裂いた。
「これで、二人だ」
「こ、こんなっ、こんな……! こんな馬鹿な話があるかっ!!」
フォーメーションもなにもなくなり、指揮する味方もいなくなった銀髪が取り乱す。睨み付けてやると、身をすくませて武装を解除した。
「こ、降参する! さっき言っただろう、逃げるなら逃げてもいいと!」
「ああ、言った。だから、とっとと失せろ。貴様らには斬る価値もない」
銀髪に背を向けて、ドーム内を見渡して出口を探す。取り出した小型端末の地図と見比べていると――
「……馬鹿が」
――ハイパーセンサーが、背後で銀髪がグレネードランチャーを展開するのを確認した。
「この距離なら外さんっ!!」
間髪入れずに連射。放たれた榴弾は着弾を待たず、一斉に起爆した。
「卑怯などと言うなよ。戦場では、生きている敵に背を向ける方が愚かなのだ」
「まったく、その通りだな」
「!?」
爆炎に向けて勝ち誇ったように語っていた銀髪は、私の声に面白いほど反応した。そして慌てて、後ろに回り込んでいた私に振り向く。
「馬鹿な、なぜ……!?」
「貴様のやることなど大体予想がつく。そもそもISには絶対防御があるというのに、命乞いなど必要ないだろう」
「く……!」
銀髪はグレネードランチャーを捨て、ショットガンとマシンガンを展開。私に向け連射して来た。
「うおおおおお!!」
「温い。私を止めたければ、この三倍の弾幕を張るのだな」
広範囲にばら撒かれる散弾も絶え間なく放たれる高速弾も、一発たりとも私を捉えることはない。それどころか、私の接近すらほんの僅かに遅らせる程度の働きしか出来ていない。
「馬鹿な、これがISの動きだと……!?」
見る間に近づいて来る私に、銀髪の顔は恐怖に彩られていった。それでも射撃の精度が落ちないことは流石というべきかもしれんが、しかしそれも元々意味のないモノだ。
「なら、ならば私たちは、なんだと言うんだ!?」
「……言っただろう」
そして、間合いに入り。
両の剣を、大上段に振り上げ。
ブレードスラスターを、最大出力で起動し。
「貴様らは――卑しい、狗だ」
十字を描くように。
躊躇うことなく、振り下ろした。
「……雑魚が。やはりつまらんな、弱者をいたぶるのは」
――――――――――
「馬鹿な、あの三人が……!」
デュノア社本社ビル最上階、その社長室。
現在アンジェのいる地下とは正反対の、いわば最も安全な場所から戦いの様子をモニターで見ていたデュノア社長は、その結果をすぐには信じることが出来なかった。
自らの勝利を疑っていなかったというのに、ものの数分で敗北したのだ。無理もないと言えるかもしれない。
「ちいっ、このままではオルレアンを失ってしまう。急いで次の手を――」
「その必要はないですよ、社長」
社長室の扉を開け入って来たのは、クロエ・ルクレール。まるで汚いモノでも見るかのような眼で、社長を見下ろしている。
「……ルクレール、貴様。この裏切り者め、よくも私の前に姿を見せられたものだな」
「まあまあ、そう言わないで下さいよ。第一、社長だってアンジェたちを裏切ったじゃないですか」
「ふん。オルレアンには莫大な投資をしたのだ、その見返りを求めて何が悪い?」
「あーはいはい、もういいですよ。あなたに話が通じない……ていうか話にならないことは、もうとっくに分かってるんで」
心底面倒くさそうな態度のクロエ。だが見る者が見れば分かるだろう、クロエは一切の油断なく、デュノア社長と対峙していた。
(こいつのことだから、引き出しの中に銃とか入ってても不思議じゃないもんね)
仕込みは既に終わり、デュノア社長の破滅は避けられないとはいえ、この男と刺し違えるなどそれこそ死んでもごめんだった。
「何をしに来た。貴様は後でゆっくり処分してやるから、今は大人しくしていろ」
「あら、そんなこと言っていいんですか? 私も「あなたから借りた」専用機を持ってるんですけど?」
「ふん。貴様に人を殺す度胸などあるまい」
「まあ確かに、そんなものないですけどね。必要とも思わないし」
そう言ってくつくつと笑うクロエの姿に、デュノア社長は苛立ちを募らせる。今はクロエに付き合っている暇などないのだ。
「……それで? 何をしに来た」
「いや、ほら、映画とかでよくあるじゃないですか? 主人公が戦ったりヒロインを助けてる間に、その仲間が黒幕を追い詰めるシーン。あれって凄くカッコいいと思いません? 私大好きなんですよ、アレ。前から一度やってみたくて」
「……何を言ってる?」
訝しげな顔をするデュノア社長に、クロエは益々笑みを深めた。そして懐から、一枚のディスクを取り出す。
「……まさか、それは……!?」
「ご明察。この中に、色々入ってますよ。今まであなたがやってきた裏取引とか違法な研究とかその他諸々とかのデータが。そりゃもうたくさん」
「貴様、どうやってそれを!?」
「まあいいじゃないですか、そんなことは。どうせあなたはもう、終わりなんだから」
言葉と同時に、社長室に人がなだれ込んで来る。全員が、警察の制服を着ていた。
「ルクレール、貴様は……!!」
「いやあ、一枚だけ持って行ってもあなたが警察やらなんやらに潜り込ませた連中に握りつぶされるかと思って。コピーしまくって、フランス中の報道社と公的機関にばらまきました。ざっと千枚くらい。今頃、テレビでニュースでもやってるんじゃないですかね?」
「貴様あ……!!」
デュノア社長は憎悪に濁りきった眼でクロエを睨むが、しかしクロエにそんなモノはまるで効果がない。普段からアンジェと模擬戦をしているのだ、並の気迫では小揺るぎもしない。
「ああ、それと。私がなんでわざわざ、来る必要もないのに、こんな普段は一秒だって居たくない部屋に来たのかというと」
警察官たちが罪状を述べながら、デュノア社長を取り囲む。案の定机の引き出しに拳銃を隠していたデュノア社長はそれを取り出し、抵抗かそれとも自殺でもしようとしたようだが、すぐさま取り押さえられた。
机に頭を押し付けられ、ひねり上げられた両手に手錠が掛けられる。そして有りっ丈の憎しみと怒りを込めた眼でクロエを睨み付け――
「ルクレェェェェェル!! 貴様、貴様あ!! 許さんぞ、殺してやる!! 必ず殺してやるぞ!!」
まるきり悪役なセリフを叫びながらもがくデュノア社長を、クロエは楽しそうに眺める。本当に映画のキャラクターになったかのような気分だった。
「その顔が見たかったんですよ、社長。そのためにここに来たんです。……まあ、アンジェとシャルロットを利用した罰よ。檻の中でじっくり反省しなさい。反省出来るだけの知能があるなら、だけどね」
――――――――――
「シャルロット!!」
さらに地下へと潜っていき、ついに光点のある部屋に辿り着いた。途中何人か黒服がいたが、そんなものは障害にすらならなかった。
扉を蹴破り、中に入る。そこには台に寝かされ、様々な機械から伸びるコードを繋げられたシャルロットがいた。
「シャルロット……!」
「……アンジェ……?」
コードを引き剥がして抱き起こし、呼び掛ける。それにシャルロットは、うっすらと目を開いて応えた。
「……助けに来たぞ」
「……うん。絶対に来てくれるって、わかってた」
嬉しそうな微笑みを浮かべるシャルロットに、私も出来る限りの微笑みを返す。
「痛むところはないか?」
「……頭が、少し。けど大丈夫、しばらくすれば、治まるから……」
「……そうか」
……そんなことが分かるくらいには、この状況に慣れてしまった、ということか。私がもっと早く来ていれば……。
「……遅れてすまない」
「ううん。僕は平気だよ。……もう、大丈夫。アンジェがいるから、僕は大丈夫」
「……そうか」
シャルロットを抱き上げて、出口へと向かう。
もうこんなところに用はない。私たちがいるべきは、こんなところではないのだから。
「……父は?」
「そちらも片が付いた。クロエさんから連絡があったよ」
「クロエさんが……?」
「ああ。お前の居場所を教えてくれたのも、助け出す手伝いをしてくれたのもクロエさんだ。……全部、あの人がやってくれた」
「……クロエさん……」
「次に会った時、抱き付いてやるといい。きっと卒倒するくらい、喜んでくれる」
「あはは。今度こそ絞め殺されちゃうかも」
そんな話をしている内にも、少しずつ顔色が良くなっていく。この分なら、数日で回復するだろう。
「……さあ、帰るか」
「……うん、帰ろう」
二人、静かに頷きあって。
「私たちの」
「僕たちの」
二人、優しく微笑みあって。
「「母さんのいた、あの家に」」
――――――――――
閉じていた目を開けて、振り返る。
そこには、僕の大事なお姉ちゃんがいた。
「……もういいのか?」
「……うん。ちゃんと、お別れしたから」
ここは、お母さんのお墓。これからしばらく帰れなくなるから、挨拶をしに来たのだ。
僕は眼を閉じて黙祷しただけだけど、アンジェはお墓の前に片膝をついて、深々と頭を下げていた。
それは、物語の中の騎士みたいで――
(……ううん。みたい、じゃなくて)
アンジェは、本当に騎士なんだ。
僕の騎士。
お母さんの娘で、僕のお姉ちゃんで、僕を守ってくれる、僕の騎士。
だから、僕も。
アンジェに相応しい人にならないと。
「……それじゃあ、行こっか」
「そうだな。あまりクロエさんを待たせるわけにはいかない」
あれからのことは、全部クロエさんがやってくれた。父は逮捕され、父が今までやってきたことは世界に公表され、デュノア社は解体。アンジェと僕はデュノア社の悪事を暴くのに活躍したとして、クロエさんと一緒に表彰された。
……二人はともかく、僕はなにもしてないんだけどなあ。
その後も大変だったけど、それもクロエさんのおかげでどうにか乗り越えられた。元フランス代表というのは色々なところに顔が利くようで、クロエさんが頼むと政府や軍の人たちも僕たちに力を貸してくれた。
……それに、これからのことも。
「……アンジェ、随分楽しそうだね?」
「まあ、な。何せ世界中から国家代表候補生が集まるんだ。強い者が大勢いるだろう」
「それだけじゃないでしょ? アンジェが楽しみにしてるのは」
「……あそこには、あのブリュンヒルデもいるらしいからな。叶うのなら、一手手合わせ願いたいものだ」
「やっぱり。それもう病気だよ」
「不治の病だな」
そう、僕たちはフランスを離れる。そして、そこで新しい生活を始める。
そのための手続きや口添えも、やってくれたのはクロエさんだ。
……クロエさんには本当に頭が上がらない。いつかちゃんと、恩返ししないと。
「僕はその病気の対象に入ってないの?」
「もう少しだな。期待はしている」
「む。それじゃあ期待に応えられるように頑張らないとね」
いつまでもアンジェに守られてばかりじゃ情けない。僕もアンジェを守れるくらいに、強くならないと。
「お待たせしました、クロエさん」
「もういいの? もうちょっとゆっくりしてくれば良かったのに」
「いえ、僕たちはもう、大丈夫ですから」
「そう。……それじゃあ乗って。送ってくわ」
クロエさんの車に乗り込み、空港へ向かう。
到着すると、予め渡されていたチケットに従い搭乗ゲートへ向かう。
「クロエさん。……本当に、お世話になりました」
「いいのよ。あなたの評判のおかげで、私もなんとか再就職出来たし」
クロエさんは軍に行くことになった。アンジェのコーチをしていたという点が大きく評価されて、IS操縦の教官として招かれたのだ。
「けど、僕は何もしてません」
「そんなの気にしなくていいのに。……けどまあどうしてもって言うなら、私の妹にゲフンゲフンたまに顔見せに来てくれればいいわよ」
……なんだろう、クロエさんが何か言いかけたような気がしたけど……。
「……ちょっとアンジェ! そんな怖い顔しなくてもいいじゃない! ……」
「……シャルロットはあげないと言った筈ですが……」
「……分かってるわよ! ちょっと言ってみただけじゃない、もう……」
「?」
二人が小声で何か言い合っている。良く聞こえなくて、内容までは分からないけど。
「んんっ! それじゃあ、行ってきなさい。元気でね。ちゃんと連絡寄越すのよ」
「はい。行ってきます、クロエさん」
「クロエさんも、お元気で」
見送ってくれるクロエさんに手を振って、飛行機の搭乗口に向かう。
その目的地は、日本。
「では、行くか」
「うん、行こう」
これからもきっと、大変なことがいっぱいあるだろう。
もしかしたら、今までよりもずっと大変かもしれない。
――それでも。
「「IS学園へ!」」
大丈夫。
僕たちなら、絶対に、乗り越えられる。
――――――Epilogue――――――
『さあ、いよいよ始まります! 第四回モンド・グロッソ、決・勝・戦んんん!!』
『世界中が注目するこのモンド・グロッソですが、その全員がこの一戦を心待ちにしていたことでしょうっ!!』
『それではさっそく、対戦カードの発表です! 青コーナーは皆さんご存知の通り、第三回モンド・グロッソで優勝し、世界が二人目のブリュンヒルデと認めたフランスの救世主! ジャンヌ・ダルクの再来っ!!』
『最強の騎士! アンジェ・オルレアァァァァンッ!!』
『そして赤コーナー!! こちらが今大会を大いに盛り上げている立役者!!』
『今年から始まったタッグマッチ部門においてオルレアン選手のパートナーを務め、その華麗な連携で見事優勝を果たした、もう一人のフランスの英雄!!』
『その名はっ!! シャルロット・デュノアァァァァッ!!』
『義理の姉妹であり師匠と弟子であり騎士と主であるこの二人が、一体どのような戦いを魅せてくれるのか!? もう楽しみでたまりません!!』
『ああもう、まだ時間あるけどもういいか!! それより早く始めてもらいましょうっ!! この永遠に語り継がれるだろう一戦をっ!!』
『さあ、思う存分に戦ってくれ!! そして世界を魅了してくれっ!!』
『それではっ!! バトル・スタートォォォォッ!!!』
会場を埋め尽くす、百万人の観客たち。その怒号のような大歓声も、今は全く気にならない。
今、この耳には、私が仕える主の声しか届かない。
今、この目には、私が愛する妹の姿しか映らない。
「よくぞ……ここまで、来てくれた」
「当たり前でしょ。僕は、アンジェの妹なんだから」
……シャルロットは、強くなった。本当に、強くなった。
「ずっと、この日を待っていた。ずっと、この時を夢見ていた」
「うん。僕も同じだよ、アンジェ」
ああ、誰か。この胸の高鳴りをどうにかしてくれ。
始まる前に、心臓が張り裂けてしまいそうだ。
「手加減しないでよ」
「頼まれたって、するものか。そんなことをすれば負けてしまう。……全力でも、勝てるか分からないのだから」
「……その言葉が、聴きたかった」
まったく、なんという奇跡だろうか。
仕える主。愛する妹。力の限りを尽くして尚、届くか分からぬ強敵。
それら全てが、私の目の前にいるなんて。
「……さあ、始めよう。こと此処に至っては、言葉など無粋なだけだ。……今、この瞬間は――」
「――力こそ全て、でしょ?」
お互いに、ニヤリと笑う。
獰猛なその笑みが、この上なく美しい。
「……この、闘いを」
「……お母さんに、捧げる」
ああ、ようやく。ようやくだ。
ようやく、私の夢が叶う。願いが叶う。
「……さあ、往くぞ」
この日この時、この戦いを。
ずっと、待ちわびていた。ずっと、待ち焦がれていた。
――ずっと、待ち望んでいた。
「私を、超えて魅せろ――」
総身に力が満ちていく。
血湧き肉踊る。
魂が、歓喜の雄叫びをあげる。
――そうだ、これだ。これこそが――
「――シャルロット!!!」
――私が求めた、「決闘」だ――!
IS学園編
亡国機業掃討戦
ジャンヌ・ダルクVSブリュンヒルデ
剣聖対剣鬼
は、やりません。
難易度がパネェので。