ここで関係ないことをひとつ。
冴島さん人間辞め過ぎwこの人が年末の男祭り出たら絶対見るw
井上真改に戦いを挑んだ日の夜。
私は食堂で夕飯をとっていた。
「………………」
正確には既に食事は終わっている。今はなにも残っていないトレイを、呆と眺めているだけだ。
「………………」
私がここ、IS学園に転入する際には、学園そのものに対する興味は微塵もなかった。
意識が甘く、世界最強の兵器であるISをファッションかなにかと勘違いしているような程度の低い者たちに交じって、とうの昔に学び終えた理論を聴く。
それは誇りあるドイツ軍人である私にとって、屈辱でしかない。
「………………」
それでも私がここに来たのは、国からの命令であるからというのは当然だが、もう一つ、私が尊敬する教官が、ここで教師をしているからだ。
「………………」
私はかつては優秀な遺伝子強化試験体であり、しかしある時を境に最底辺まで転げ落ちた末、出来損ないの烙印を押された。
周囲の蔑みの眼。否定された存在意義。このままでは、「処分」される可能性すらある――絶望に捕らわれ、深く暗い闇の底へと沈んで行くだけだった私に、ある日突然、救いの手が差し伸べられた。
それが教官――織斑千冬だった。
「………………」
ずっと闇の中に居続けた私に、初めて光が射した。
彼女の言葉に従うだけで、私は再び部隊最強となった。
もしも神のお告げなんものが実在するとしたら、教官の言葉こそがまさしくそれだった。
「………………」
彼女に憧れた。
その強さに、その姿に、その在り方に憧れた。
彼女のようになりたいと、心から思った。
それが、何もなかった私が、初めて持った望みだった。
「………………」
だから、時間を見つけては話をしに行った。
いや、話など出来なくてもいい。ただ教官の側に居られるだけで、私には十分だった。
強く、凛々しく、自信に満ちたその姿を見ているだけで、満たされていた。
「………………」
世界最強。
あまりにも分かり易く、そして絶対の称号。この世で最も価値のあるもの。
それそのものである教官は、いかなる宝石も、いかなる芸術も、いかなる絶景も及びもつかない、美しい存在だった。
――なのに。
「……井上……真改……」
教官が語った、教官よりも強い者。
それは私にとってあまりに荒唐無稽な存在であり、教官の言葉だというのに、信じられなかった。
そんな御伽噺よりも、教官の輝かしい経歴に傷を付け、それでいて教官の優しい笑みを受ける、教官の弟の方が許せなかった。
――なのに。
「……井上、真改……」
教官が身を竦ませるほどに恐れたという、その女。
かつて教官から聞いた話をふいに思い出して、その女を実際にこの目で見て、苛立ちが募った。隻腕という障害を負い、ただ黙ってそこに居るだけの、そんな女が、教官よりも強いなどと。
そんなことは有り得ない、有り得る筈がないと、それを証明するために、奴に戦いを挑んだ。しかし奴は戦おうとせず、ただ逃げ回るばかりで、仮にも教官に認められた者のその無様な姿に、言いようのない怒りを覚えた。
だからあの女を追い詰めた時、暗い愉悦が私の心を満たした。ああ、やはり、教官よりも強い者などいないのだと。
――なのに。
「……井上、真改」
身が竦んだ、どころの話ではない。
心が、魂が凍り付いた。
ただ発射を思考するだけで勝てたというのに、それすらも出来なかった。
どんな兵器よりも強力に、あの女は、私の心臓を撃ち抜いた。
紙切れ一枚も貫けぬ筈の、視線で。
それに乗せた、殺気で。
「井上、真改」
教官は言った。自分が怖じ気づいているうちに時間切れになっただけの、引き分けだったと。
なら、私はどうだ? もしあの女が、初めから戦いに応じていたら?
決まっている、何もせずに呆けている私を、一刀のもとに斬り伏せていただろう。
――戦いにすら、ならなかっただろう。
「……何故だ……何故、貴様が」
まるで弟の話をしている時のような、教官の顔。ただ一人、教官が認める存在。
何故、貴様なんだ。
何故――私ではなく、貴様なんだ。
何故――!
「井上、真改――!」
「……何用……」
「!?」
突然の声に驚く。
いつの間にかほとんど人がいなくなった食堂の、私が座る席の前、そこに井上真改がいた。
「な、なんだ!?」
「…………」
特に気配を消しているということはないが、全く気づかなかった。私はよほど深く考えに耽っていたらしい。
「な……何の用だ」
「…………」
今まさに井上のことを考えていたので対応が挙動不審気味になってしまったが、しかし井上は気にした様子もない。
「……何の用だと訊いている」
「…………」
再度問う私に対し、井上は手に持っていた書類ケースをテーブルに置き、中から一枚の書類を差し出して来た。
「……なんだ、これは」
「……通知……」
言われて、書類を読む。内容を一言で言えば、学年別トーナメントがタッグ戦になったということだ。
だが、そんなことは関係ない。私の専用機、〔シュヴァルツェア・レーゲン〕は多数を相手取ることを想定して製作されている。相手が二人になったところで、問題はない。
「これがどうした? 何故わざわざ持ってくる?」
「…………」
学年別トーナメントのペアは、締め切りまでに決めなければ抽選になると書いてある。つまり、放っておいてもトーナメントに出場できなくなるようなことはない、ということだ。
わざわざ、それも井上が持ってくるようなものではない。
疑念の込められた私の視線を受け、井上は書類ケースからもう一枚、書類を取り出す。
「……次はなんだ」
「…………」
井上は答えず、目線を書類に向けるだけだった。仕方なく、その書類の文面を読む。
そこにはこう書いてあった。
『学年別トーナメント参加ペア登録申請書』
「…………」
井上を見る。
「…………」
無言。
もう一度、書類を見る。
その一番下、二人分の署名欄があり、その内の片方が埋まっている。そこに書かれている名前は、当然というべきか、目の前の女のものだった。
「……どういうつもりだ」
「……署名……」
「どういうつもりだと訊いている」
この状況で井上が私に何をしろと言っているのか、分からない者はいまい。
しかし逆に、井上が何故それを求めているのかが分かる者はいないだろう。
「私は貴様を認めない。教官が貴様をなんと言おうと、私は認めん」
「…………」
「教官は私闘を禁ずると言ったが……要は、戦いでなければいいのだろう。私は貴様を排除する。たとえ、どんな手を使ってでも」
「…………」
それは脅しの言葉。
井上を睨み付け、視線に有りっ丈の殺意を込め、低い声で言う。
しかしその言葉は、井上を前にしては、ひどく軽く響いた。
「私と組むだと? 正気か貴様? 訓練中、どんな「事故」が起きるか分からんぞ?」
「…………」
唇の端を吊り上げて言う私に、しかし井上はなんの反応も示さない。それどころか、もう一度、こんな言葉を吐いた。
「……署名……」
その言葉に、私の堪忍袋の緒が切れた。
「ふざ……けるなぁっ!!」
バァンッ!
両手で机を叩き、立ち上がる。その音に、食堂に残っていた数少ない生徒たちが驚くが、そんなことはどうでもいい。
「貴様は……! 貴様はどれだけ、私を侮辱すれば気が済むのだっ!!」
「…………」
そう、これは侮辱だ。
私が何をしようとどうとでもなる、私の力では何も出来ない、私如きは取るに足りない存在だと、そう言っているのだ、この女は!!
「力こそが私の全てだ!! 教官の教えを受け、それに従い、そうして手に入れた、この力こそがっ!! 強者たること、それだけが私の存在意義だ!! それを、貴様はっ……!!」
「…………」
闇の中、ようやく見つけた、一条の光。
絶望の底で差し伸べられた、暖かな手。
何もなかった私が、初めて手に入れた、たったひとつの願い。
――それを、この女は踏みにじった。
「何故だっ!! 何故貴様が教官に認められる!! 何故私ではない!? 貴様の何が、私より優れていると言うのだっ!!」
「…………」
「私と戦え、井上真改!! 証明してやる、貴様の力など、教官の足下にも及ばないと!! 教官こそが最強だとっ!!」
「…………」
そうだ、教官は、私よりも遙かに強い。ならば私が井上を倒せば、教官より強いものなどいなくなる。
――教官こそが世界最強だと、証明できる。
「逃げるなど許さん、貴様の力、私に示してみろ!! その全てを叩き潰してやるっ!!
――さあ! 私と戦え、井上、真改――!!」
「…………」
未だかつて感じたことのないほどの激情。
魂の底から湧き上がる怒りを、そのまま音にして吐き出した、純粋な言葉。
それを受け、井上は――
「……断る……」
――やはり。戦おうとは、しなかった。
「……き……さ、まぁぁぁっ……!」
憎しみの限りを込めたつもりだったのに、その声は、まるで泣いているかのようで。
私自信が驚いたその声を聞き、井上はようやく話し出す。
「……それは……」
――私と、戦うべきは。
「……己の役目では、ない……」
――井上真改ではない、と。
「……なに……?」
「…………」
役目? 役目だと? そんなものがあるものか。私と、戦う役目など。
「……一夏……」
「……!」
「……あれは、強い……」
――織斑一夏。私の、最初の標的。
それが、強いだと? あの、ただ男でISを動かせるというだけで騒がれているだけの者が?
「織斑一夏が強いだと? ……本気で言っているのか?」
「……応……」
そんな世迷い言、信じられる筈がない。だがしかし、続く井上の言葉は、無視出来ないものだった。
「……己よりも、な……」
――ドクン。
心臓が、ひとつ大きく鼓動した。
井上は、自分よりも織斑一夏のほうが強いと言った。
そんな言葉は到底信じられない。
信じられないが――
「私と戦う役目が、織斑一夏にあると言うのなら。私が奴に勝てば、貴様は、私と戦うか?」
「……勝てば、な……」
その言葉に、ニヤリと笑う。
言質をとった。ならば後は、織斑一夏を倒すだけだ。
そうすれば、井上は私と戦う。そうすれば、私は証明出来る。
――教官の、力を。
「……その言葉、忘れるな」
「…………」
井上が頷く。
……いいだろう。ならば、私は織斑一夏を排除する。
元々それが目的だったのだ、紆余曲折あったが、結局は最初に戻ったわけだ。
私のやることに、変わりはない。
――しかし。
「何故、私と組む?」
そう、それは私が織斑一夏と戦う理由であって、井上が私と組む理由にはならない。
私と組むということは、井上も織斑一夏と戦うということだ。織斑一夏を守ろうとしていた井上が土壇場で裏切る可能性は、否定できない。
「……己の、役目は……」
井上が、私と組む理由。
井上が、織斑一夏と戦う理由。
それは――
「……一夏が越えるべき、壁だ……」
――織斑一夏の成長の、礎となるためだった。
「……そんなことのために?」
「…………」
私の問いに、頷きもしない。もはや話すことはないと、その態度が示していた。
「織斑一夏には、私と戦う役目がある。貴様には、織斑一夏と戦う役目がある。
しかし織斑一夏と戦う前に私と貴様が戦えば、どちらかの役目が果たされなくなる。だから、私と貴様が組む。
……そういうことか?」
「…………」
肯定はしないが、否定もしない。多少の間違いはあれど、概ね正しい。そんなところだろう。
「……貴様が織斑一夏を倒し、私が倒したのではないから約束は無効だ、などとは言わんだろうな」
「……反故にはせん……」
いいだろう、井上の思惑についてはまだ分からないことはあるが、私のやるべきことは決まった。
織斑一夏を倒す。その後、井上真改を倒す。
そして、教官の最強を証明する。
それだけだ。他のことなど、私には、どうでもいい――
――――――――――
ラウラが書類に署名し、食堂を去って行ったのを確認してから、驚かせてしまった生徒たちに頭を下げ、己も食堂を出る。
と、そこで、聞き慣れた声を掛けられた。
「損な性格をしているな、お前も」
「…………」
壁に寄りかかりながら腕を組んで、呆れたような顔をしている千冬さんだ。
「とりあえず、礼を言う。ラウラがああなってしまったのは、私の責任でもあるからな」
「……無用……」
千冬さんから礼を言われるなど、いつ以来か。妙にくすぐったい。
「私からも、一つ訊きたいのだが」
「…………」
「何故そこまで、あいつに肩入れする?」
「…………」
さて、あいつとはどちらのことか。
ラウラか、それとも一夏か。
「両方だ。そうだな、まずはラウラの方から聞こうか」
「……力だけでは……何も、得られん……」
ラウラは力に取り憑かれている。そしてより大きな力を求めるあまり、他が何も見えなくなっている。
彼女は言った。『強者たることだけが、私の存在意義だ』と。
そんな筈はない。そんな存在を、千冬さんがこれほど気にかける筈がないのだから。
「流石は孤児院の年長者と言ったところか。道に迷っている子供は、放っておけんか」
「…………」
それは買いかぶり過ぎだ。己は見知らぬ他人など、必要ならいくらでも切り捨てる。
……ただラウラの在り方が、昔の自分に重なっただけだ。
「では織斑は? お前のことだ、まさかあれに惚れているなんてことはないだろう?」
「…………」
ニヤニヤと笑いながら、からかうような口調で言う。
まあ確かに、己が一夏に惚れることなど有り得んだろうが。
「……弟のように、思っている……」
「……ほう」
千冬さんが、少し驚いたような顔をする。意外だな、とうに気付いていると思っていたが。
「……役目を、奪うつもりはない……」
「……当然だ。あれの姉は案外疲れる。私以外に務まるものか」
嬉しそうな、照れくさそうな、千冬さんの声。
この人がいる限り、一夏が道を外れることはあるまい。己は精々、千冬さんの立場上、手の届かない所を補うくらいだ。
「……信じていいんだな」
「…………」
何を、とは問わない。
千冬さんからすれば、己のような訳の分からない者を一夏の側に置いておくのは不安だろう。
一年一組に国家代表候補生が集中していることや、シャルが男装してまで一夏のルームメイトになったことからも分かるが、一夏の利用価値は計り知れないのだから。
――だと、言うのに。
「……信じるぞ、井上。何時までもうだうだと悩むのは性に合わん。私はもう、お前を信じることにした」
「…………」
そんなことを言えるこの人は、やはり一夏の姉なのだと思った。
「……ありがとう……」
「礼などいらん。むしろ私が言う側だ。
……そして、すまない。お前のことは幼い頃から知っていたと言うのに、私はお前を疑っていた」
「…………」
「だが、それももうやめだ。お前は昔から何も変わらん、愚直なままだ。疑う方が馬鹿を見る」
呆れたように言う言葉には、しかし確かに暖かさがあった。
……それだけで、十分に過ぎる。
「これからも、宜しく頼む。織斑にはお前が必要だ。私にもな」
「…………」
「では、今日はもう休め。放課後の一件で疲れたろう。お前の頑丈さは知っているが、無理はするなよ」
「……承知……」
そうして寮に向け歩いて行く。
その、背中に。
「お前が、一夏を弟と思っているように。
……私もお前のことは、妹のように思っているよ――真改」
「…………」
優しさの中にも、からかいが含まれた声色。本心から言ってくれているのは分かるが、同時に己の反応も楽しもうというのだろう。
……残念だが、そうはいかん。
顔だけ振り向いて、やはりニヤニヤと笑っている千冬さんに言ってやった。
「……おやすみ……千冬姉……」
「……な」
途端、かあっと赤くなる千冬さん。
それを見届けてから、再び歩き出す。
……口元に浮かんでしまった笑みを、見られないうちに。
――――――――――
「一戦目で当たるとはな。これでは井上と組んだ意味がない」
「…………」
「……抽選で決まった、ってわけじゃあ、ないんだな」
「シン……どういうつもりなの?」
アリーナ中央で対峙する四人。
織斑一夏――白式。
シャルル・デュノア――ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ。
ラウラ・ボーデヴィッヒ――シュヴァルツェア・レーゲン。
井上真改――朧月。
全員が専用機持ちということで、この試合の注目度は群を抜いている。
さらに学園の生徒にとっては、学園で二人だけの男子のチーム、そして一夏と真改、有名な幼なじみ同士の対決ということもあり、ほとんどの生徒がこの試合の観戦に駆けつけていた。
かくいう私も、山田君と一緒に観察席からモニターで試合の様子を見ている。
「まさか幼なじみが相手では戦えない、とは言わないだろうな」
「言わねえよ。そりゃショックだけどさ、シンのことだ、何か理由があるんだろ」
「…………」
「僕もシンを信じるよ。友達だからね。……だから、手は抜かない」
開放回線で行われる、四人の会話。
まだ一月も経っていないというのに、デュノアにここまで信頼されるとは、本当に不思議なやつだ。
「どうなりますかね、この試合。ボーデヴィッヒさんと井上さんのペアは、かなりの実力があると思うんですが……」
「ああ、一年では間違いなく最強の二人だ。デュノアがどこまで食い下がれるかな」
山田君の言葉に答える。
軍人として極めて高い能力を持ち、ISの操縦にも精通しているラウラ。そして生身では一年どころか学園全体でも最強クラスの戦闘力を持つ真改。
この二人は、他のどのペアと比べても圧倒的だ。
「けど井上さんの月光は、織斑君の零落白夜とは相性が悪いですよね? 織斑君たちが勝てる可能性もあるんじゃ……?」
「山田君は、井上を剣士だと思っているようだな。それは間違いではないが、しかし井上はただの剣士ではない。剣が折れた程度では、あいつの力は微塵も衰えんさ」
「はー……。織斑先生は、随分井上さんのこと評価してるんですね」
「む……まあ、私と互角に戦えるのはあいつくらいだからな」
しまった、話し過ぎた。山田君は最近妙に私をからかってくるので、あまりネタを与えるわけにはいかないというのに。
「んんっ! とにかく、単純な実力では話にならん。織斑とデュノアがどれだけ連携をとれるかが、勝敗を分けるだろうな」
ラウラの狙いは一夏を倒すことだけだ。真改と協力するつもりは、おそらくないだろう。
「織斑一夏。貴様を排除する。貴様だけは、私の手で倒す」
「悪いが、負けるつもりはないぜ。力じゃかなわないかもしれない。けど足りない力はチームワークで補ってみせる。一人で戦うつもりのお前には負けねえよ。
行くぜ、シン、ラウラ。勝つのは、俺と、シャルだ」
「伝えたいことがあるなら言葉にすればいいって、一夏が教えてくれた。言葉にしなくても伝わることがあるって、シンが教えてくれた。だから僕は、言葉と、行動で伝えるよ。
――絶対に、勝つ」
「……推して参る……」
そして、今。
開戦の狼煙があがる。
――――――――――
試合開始のブザーと同時、まず動いたのは、織斑一夏と井上真改。互いに瞬時加速を発動、一瞬で間合いを詰める。
「おおおぉっ!」
「……っ!」
初撃は互いに居合いの形。左腰にあてた右腕を、横薙に振り抜く。
零落白夜と月光、必殺の威力を持つ二つの刃が噛み合い――その瞬間、月光が消滅する。
(いける! 月光じゃあ、零落白夜とは打ち合えない!)
零落白夜はあらゆるエネルギーを消滅、無効化する武装である。膨大なエネルギーを刃とする月光にとっては、考え得る最悪の相性といえる。
なにせ近接武器でありながら、敵の刃に触れただけで消えてしまうのだから。
「はあっ!」
一夏は勢いのままに零落白夜を振り上げ、二撃目を放とうとする。
真改の月光は沈黙したまま。零落白夜により刃を失った月光は、再起動までに数秒の時間を要する。
その時間こそが、一夏にとって唯一のアドバンテージである。
――しかしその程度、真改が考えていない筈がない。
ガンッ!
「がはっ……!?」
「…………」
一夏が剣を振り上げた瞬間、真改はさらに間合いを詰めた。
そのまま一夏にタックルし、腰に右腕を回してしっかりと抱え込む。
そして水月を起動、抱えた一夏ごと、一気に加速する。
ゴウンッ!
「うおおぉぉっ!?」
「……っ」
爆発的な加速を受け、一夏の体勢が崩れる。真改はさらに月輪を噴かし、その光で螺旋を描きながら尚も加速、アリーナの遮断シールドに向け、錐揉みしながら一夏を投げつける。
「なん……のおぉ!」
しかし一夏の反応は速かった。投げられた瞬間に瞬時加速を発動、遮断シールドに激突する直前で停止する。
「いきなり伊綱落としかよ……!」
ISの保護機能により、ブラックアウトはどうにか防いだ。体勢を立て直そうとする一夏に、真改の追撃が迫る。
再起動した月光を振り上げ、上段からの一撃。
翳した零落白夜で打ち払い、続けて胴を薙ぐ。
真改は素早く後退してそれをかわし月影を起動、散弾の雨を降らせ――ようとして、突然回避行動をとった。
「させないよ!」
背後から放たれた、シャルロットの六一口径アサルトカノン〔ガルム〕の爆破弾を避ける。
一夏への攻撃を中断し、真改は武装をアサルトライフルに持ち替えたシャルロットと対峙した。
「貴様は私の獲物だ!」
「いいぜ、相手になってやる!」
ラウラはシャルロットを相手にするつもりはないようで、一夏に突撃していく。
一夏の援護に向かったシャルロットと、それを止めようともせずに一夏に執着するラウラ。両チームの連携の差が、すでに大きく現れていた。
「僕が相手になるよ、シン!」
「……来い……!」
友人であり、恩人でもある真改を前に、シャルロットの眼には闘志が漲っている。
その眼を見て、真改もまた、戦いの高揚を感じていた。
(負けないよ、シン! 僕は、戦うって決めたんだから!)
月輪による変則機動を繰り返しながら迫る真改に、アサルトライフルを連射。高い機動力をもつ朧月を牽制しながら、月光の間合いに入れないように下がり続ける。
こうして、試合は早くも、一対一の状況が二つ出来上がった。
――それこそが一夏とシャルロットの策であると、誰も気づかぬままに。
ACシリーズにおいて、一対一ってアリーナ以外ではほとんどない気がします。ミッションではレイヴン(リンクス)+雑魚多数、もしくはレイヴン(リンry)複数。まあ現実的に考えれば、貴重・高価・強力な戦力であるレイヴン(リry)だからこそ、単機での運用はありえないのかもしれませんが。
だが、だからこそ言おう。
タイマンは燃える!
タッグバトルはもっと燃えるっ!!
断 頭 台 へ の 行 進 と か 大 好「雑魚が 死にくされ」むっきいいぃぃぃぃぃっ!!!