IS〈イノウエ シンカイ〉   作:七思

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RAVENSLAYER

ファスト・アズ・グリント、コールド・アズ・ウォーター

遥か西の海に沈む夕日は分厚い雲に遮られ、その光は地上まで届かない。汚染された大気を貫き、重金属酸性雨がラインアーク・スゴイナガイブリッジに降り注ぐ。普段は犇めくように露店を展開する者たちも、今はいない。サツバツとしたイクサのアトモスフィアを感じ取り、身を隠しているのだ。

その橋上を、一機のネクストが殺人イナゴめいた速さでOB移動していた。巨躯が大気中を音速通過し、発生する破壊的なソニックブームが、慌てて逃げ出した露天商たちに取り残された「ブルズアイ」「等身大ネクスト」「実際新品より新しいのでは?」などのカンバンを吹き飛ばす。

全身を黒くペイントした細身のネクスト。その名はステイシス。それを纏うリンクスはオッツダルヴァ。暗黒メガコーポ、オーメル・サイエンスに所属する企業リンクスにして、クビワ・リンクスクランに登録されている中ではナンバー1の実力者である!

彼に与えられた任務、それは、ラインアーク・スゴイナガイブリッジを襲撃し、迎撃に来た全戦力を撃破すること。オッツダルヴァはブリーフィングを思い出し、舌打ちした。何とも雑で、無意味なブリーフィングであった。かつてコーテイ・オーヴァーロードに踊らされた会議めいて。

そんなブリーフィングの回想に、悠々と時間をかけている暇はない。クビワ・リンクスクラン最高戦力であるオッツダルヴァが派遣されたと言うことは、敵もまた油断ならぬタツジンリンクスであると言うことだ。既に射程圏内に捉えられていても不思議ではない。……その時!ZZZZOOOOOOOM!

対岸から、白いネクスト装束を纏ったリンクスが閃光めいた速さでOBエントリーして来た!そのリンクスはオッツダルヴァの姿を認めるとラインアーク・スゴイナガイブリッジに回転着地し、威圧的にオジギする!「ドーモ、フィオナ・イェルネフェルトです。彼はホワイト・グリント=サンです」

アイサツの声は女性!ホワイト・グリントのオペレーターであることを、オッツダルヴァはリンクス洞察力で瞬時に見抜いた。メンポパーツのカメラアイに怒りの炎を灯し、オッツダルヴァはアイサツを返す。「……ドーモ、フィオナ・イェルネフェルト=サン、ホワイト・グリント=サン。オッツダルヴァです」

例え憎き怨敵が相手であろうと、リンクスにとってイクサの前のアイサツは欠かすことの出来ない絶対の礼儀だ。説明書にもそう書いてある。アイサツを終えると、オッツダルヴァの殺意に呼応するように、ステイシスがアーマードカラテを構えた。


第100話 IS学園の守護者

 幾つもの壁を隔てた先から、微かな振動が伝わって来る。広いとは言え地下通路でそれほどの衝撃を生み出せるのは、間違いなくISだ。頻度からしてかなりの猛攻。相手は織斑先生のはず、生身でISにそれだけの攻撃をさせるなんて……しかもそれを、これだけの時間続けさせるなんて。やはりあの人は規格外だ。私もロシアの代表にまでなったけれど、とても追い付ける気がしない。

 

(う~ん。自信なくしちゃうわあ)

 

 でも今は、実戦の最中だ。将来のことなんて、考えている暇はない。

 考えるべきは、自分に与えられた役割を果たすための手段。ただそれだけだ。

 

「一人も通さない。一歩も通さない。ただ、それだけね」

 

 ISは、織斑先生と山田先生が抑えている。精鋭中の精鋭、歴戦の猛者を各国から集めた戦闘技能指導員の中でも抜きん出た二人だ。片や生身、片や旧式のIS装備だけど、最新鋭機如きに後れを取るとは思えない。

 真改ちゃんは、奇襲をかけようが罠を張ろうが、たったの六人で勝てる子じゃない。私には分かる。彼女は戦士たろうとしているし、その能力も戦士としての物だけれど、本質は「暗殺者(アサシン)」だ。彼女に奇襲や不意打ちは通用しない。それらは本来、彼女が最も得意とする分野だからだ。

 だから彼女に勝つには、実力で上回るか、彼女の攻撃を完全に防げる装備を持ち出すしかない。歩兵には無理だ、戦車でも千日手……いや、弾切れになって、結局倒されるだろう。なまじ見た目が強そうではないのがまた厄介だ。

 だって考えてみて欲しい。日本人にしては少々背が高い程度の、隻腕で細身の少女が、人間の限界に挑むような戦闘力の持ち主だなんて、一体誰が想像できるのか。そんな規格外の存在に勝てるのは、同じく規格外の存在だけ。そんなモノはそうそう居ない。少なくとも、部隊を組んで襲って来るような「真っ当な」相手には。

 

 ……ちなみに。

 なんで私に、真改ちゃんの本質が分かるのか、というと。

 この私の、人を見る目の成せる技……と、言いたいところだけれど。実はもっと簡単。私も真改ちゃんと同類、本質は「暗殺者」だからだ。

 ……もっとも。私は真改ちゃんより、数段「(たち)の悪い」暗殺者だけれど。

 

「……さぁて、と」

 

 物思いはここまで。通路の奥に敵影。これからはもうちょっとシリアスで、ファンキーで、エキセントリックな時間だ。

 

 私は、ここの守護を任された。私の先生から。私の生徒から。私の友達から。私の妹から。

 

 だから、私は盾。私は壁。私は砦。私は城。

 

 通さない。通さない。通さない。通さない。

 

 何故なら。

 

「何故なら私は、IS学園生徒会長だからよ!」

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 すぐに応援を送れ。こいつはヤバい。

 別働隊からの通信は、如月重工製パワードアーマー〔明星〕の重装甲改修型〔フォウマルハウト〕を身に纏う男、ルーク()にも届いていた。よく知る男の、聞いたことのない声音。今作戦において脅威と成りうる存在は、織斑千冬とその護衛ISだけの筈。そして彼女らは、彼らの最高戦力であるナイト(騎士)が相手をしている。

 想定を誤ったか。駆け付けるべく踵を返そうと立ち止まる。それがそのまま、戦闘態勢への移行となった。

 

 敵だ。近い。

 

『……照合。IS学園生徒会長にしてロシアの国家代表、更識楯無。大物が出てきたな』

 

 ルークと並進していたビショップ(魔術師)が、〔明星〕の電子戦改修型〔アンドロメダ〕の解析結果を告げる。楯無の姿はまだ見えない。だが空気中に、無数のナノマシンが漂っている。そのナノマシンを操る信号は、アンドロメダの膨大なデータベースに記録されていた。

 

『ミステリアス・レイディ……第三世代型の中でもとびきり厄介だ。なにせ省エネモード中でも、ある程度武装が使える』

『それだけならいいんだがな』

 

 声音に隠しきれない侮りが滲む相方に、ルークは渋い顔を作る。

 ルークはビショップが気に入らない。それは単純な人格の好き嫌いではない。

 ビショップは才気に溢れ、英才教育を受け、優秀な実績を持ち、瞬く間に出世し、若くして極秘最精鋭特殊部隊に抜擢された逸材だ。

 故に、彼は知らない。実戦経験は決して少なくない。むしろ多くの実戦を難なく潜り抜けてしまったからこそ、彼には学ぶ機会がなかったのだ。

 苦難、危機、恐怖、挫折、そして絶望……命の遣り取りには当然付きまとう、そういったモノらを。

 故に、ルークはビショップが気に入らない。想定外の事態に際し、どれだけ冷静さを保てるのか。致命的な状況で、メンタルがどれほどの重圧まで耐えられるのか……それらが全くわからない相手に己の命を預けるなど、本来ならば絶対にゴメンだ。

 しかしこれは任務であり、しかもツーマンセルだ。いざという時、頼る相手はビショップしか居ない。悪い冗談だ。ルークは心中で吐き捨てた。

 

『さて、と。さっさと片付けよう。ナイトに先んじて手柄をあげるチャンスだ』

『油断するな、若造』

『……おい、まさかビビってるのか? ISも展開できない状態のガキ一匹に?』

『展開できないわけじゃない。するのに時間がかかるだけだ』

『だからこそだ。下手に慎重に行くと、奴にいらん猶予を与えるだけだ。こっちにとって最悪のパターンは、奴が多少無茶してでもISを展開して待ち構えていることだ。そうじゃないってことは、俺たちをナメてるってことさ。付け込まない手はない』

 

 一理ある。ルークには言い返せなかった。彼がこうも警戒しているのは、明確な理由あってのものではないからだ。言わば直感である。

 直感を頼りにする者はいずれ痛い目を見る。だが直感を無視する者は、次の瞬間には死ぬ。彼が無数の死地を、這い蹲りながらも生き延び学んだことだ。

 

『……とにかくだ。油断だけは、するな』

 

 それだけを返して、ルークは装甲に包まれた両腕を持ち上げる。人の手を模した格闘用マニピュレーターが拳を握る。拳と拳の間から睨み付ける通路の先に、扇子で口元を隠した少女が、優雅な足取りで現れた。

 

『……交戦開始』

 

 何事かを口にしようとした楯無に対し、ルークは問答無用で突進した。少女が目を細める。ルークの知る所ではないが、それは楯無の苦手とする反応であった。

 頑固な叩き上げの軍人。頭の固い現場主義者。話を聞かない、聞く気がない。実力も実績もあるが、出世は遅いタイプ――楯無の立場では、直接関わることが少ない人種。即ち、口八丁による時間稼ぎや揺さぶりが一切通じない。楯無の「先制攻撃」が、ほぼ無条件に無効化されたのだ。

 扇子で口元を隠しながら、楯無はひらりと突進を避ける。通り過ぎた巨体はすぐさま反転、両脚を踏ん張り片手で通路の壁を削り、急停止する。

 楯無は既に移動していた。巨体故にどうしても生み出される死角を、針に糸を通すかの如く精度で通り抜けていた。挟み撃ちは失敗に終わる。だが楯無に安堵はない。

 質量と速度と装甲に任せ、楯無を無視して進もうとしてくれれば、必殺のバックスタブを決めてやったのに。どうやら彼らは、最終目標がなんであれ、眼前の敵を残して行くつもりはないようだ。

 

「……ちょーっと、無粋なんじゃないかしら?」

 

 表情を窺わせない鉄仮面が、素早く振り返る。楯無の言葉を言外に切り捨て、再度持ち上がる両拳。熟練のマーシャルアーツ(軍隊格闘術)、おまけに頭の中は装甲よりも堅そう。

 それでも、楯無は言葉を止めない。それは彼女が数多持つ武器の中でも特に使い勝手が良い。獣や機械であるならともかく、人間相手に一度効かなかった程度で即選択肢から外すなど有り得ない。

 ましてや、相方の反応は、まだ見ていないのだから。

 

「そこをどきな、お嬢さん。怪我じゃすまんぞ」

(しめた)

 

 唇の端が思わず吊り上がりそうになるのをこらえる。いい感じに、余裕を取り繕っているようになった。

 

(こっちのスマートな人は、そっちの大きい人とは違うみたいね)

 

 言葉とそれを発した声音だけで、楯無は若い男――ビショップの人格を分析する。

 エリート中のエリート。自信に満ち、己の能力とそこから導き出した答えになんら疑いを持たない。高慢で、失敗や挫折とはおよそ無縁。それらの要素に見合うだけの実力を備え、楯無がISを即時展開出来ないことを知り、展開しようとすればその隙に潰せることを見抜いている。

 

(あら、あらあらあら)

 

 まともにぶつかれば勝ち目はなかろう。それだけの手練れであることは、身のこなしと装備から分かる。

 ならば、まともにぶつからなければ良いだけのことだ。幸い、この二人の相性は最悪。即席のコンビであることは間違いなく、この二人を組ませた誰かは能力でしか人を見ない無能か、あるいはIS学園が秘密裏に送り込んだスパイだ。

 

『……余計なことを話すな』

(あら、渋い声のおじさま)

 

 ルークがビショップに言う。楯無から不穏な何かを感じ取ったのだろう。分厚い装甲の奥から僅かに漏れ出た小声を、楯無の耳は拾う。

 

「……OK」

(不服を隠そうともしない声音。どう考えてもかなり年下なのに、階級はそう違わない……むしろひとつふたつ上、ね。それでも一応は従うのは、年長者に対する配慮? 有り得ない、別の理由……「隊長から信頼されていない」、とか)

 

 軍は階級を重んじるが、絶対ではない。最前線で命を張る兵士であれば、階級だけ高い若造よりも経験豊富な古株を尊重することはままある。楯無は分析する。ビショップはプライドの高い実力主義者で、階級を笠に着て威張り散らすのではなく、実力を見せ付けて黙らせるタイプだ。

 

(チームワークを軽視しているわけじゃない……軽視しているのはチームそのもの。土壇場で、無意識にスタンドプレイに走る)

 

 楯無は思考を止めない。彼女は真改のような、一点特化型の戦闘者ではないからだ。無数の選択肢に、己の持つ中から最適な技能を割り振っていく。それが彼女の戦い方だ。

 

「よい、しょ」

 

 扇子を振るうと、扇子が消え代わりに蛇腹剣が手に収まる。ラスティーネイル。楯無の専用機、霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)の武装であるそれは、生身で持てば立派な大剣だ。

 柄をしっかと握り締めた楯無は、刃先を床に着けて剣を構えた。

 

「さて……それでは、お相手いたしましょう」

 

 悪戯っぽい笑みを作って言う。二機のパワードスーツは、今度こそ無言のまま、攻撃を再開した。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

(ルークのタックルをかわした? こいつ、単にISに乗れるだけの小娘とは違うってことか。流石はロシア代表)

 

 ビショップは後方、見極めたラスティネイルの間合いの僅か外へと退がりながら、楯無を再評価する。

 

(反応、良し。戦術眼、良し。体捌き、良し。なるほど、紛うことなき、強敵だ)

 

 楯無は、ビショップの人格について一点、見誤った。彼は相棒(バディ)であるルークを、全く軽んじてはいなかったのだ。

 時代遅れの石頭だとは思っている。全盛期を過ぎた老兵(ロートル)だとも思っている。そして前者は任務達成に対する熱意の現れであり、後者は肉体の衰えを補って余りある経験の持ち主であることの証左であると思っている。

 

(さてお嬢さん、俺はこういう戦いでは負けなしだ……俺とあんた、どっちがより「性格が悪いか」の勝負だ)

 

 ビショップは楯無を見る。ルークの猛攻をかわしつつ、装甲の薄い箇所を狙って蛇腹剣を振るっている。その戦闘技術は舌を巻くほどだが、しかしルークには一歩及ばない。

 いや、技術だけなら互角と言えるだろう。だが老兵の培ってきた経験値は、いかに強敵に恵まれる機会が多かったとはいえ、二十にも満たぬ少女のそれとは比較にならない。

 そこに、体格と装備の差までが加わるのだ。ルークは生身であっても機関砲を持ち歩き射撃できるほどのパワー、少々の被弾などものともしないようなタフネスを持つ。その巨躯をフォウマルハウトに包めば最早戦車。繰り出される拳は砲弾の如き威力を持ち、マーシャルアーツのコンビネーションは手堅く幅広い。陸上戦力としてこれほど頼りになる者はそうそう居ない。

 どれほど楯無が善戦しようと、突破は時間の問題だ。ましてや――

 

(……ましてや。ルークの相手をしながら、ナノマシンの操作にまで気を回す余裕はないだろう?)

「!? くっ!」

 

 ルークの右拳を逸らそうとしたラスティネイルが、突如重くなる。間に合わない、と瞬間的に悟った楯無は首を傾けつつ身を捻るが、避けきれなかった。拳を覆う装甲が頬を掠め、ぱっくりと裂き、血を滴らせる。続く左拳をバック転で避けるも、ラスティネイルは置いて行かざるを得なかった。

 かろうじて体勢を立て直した楯無は、ラスティネイルよりさらに取り回しの悪い蒼流旋(ランス)を呼び出そうとし、止めた。

 

「……ごめんなさい、ミスター。私、あなたのこと侮っていたみたい」

「いやいや、侮ってくれて構わないぜ? それだけ俺もやりやすくなる」

 

 頬の血を拭いながら言う楯無に、ビショップは胸の高さに掲げた両手の平を上に向けながらおどけてみせた。その背から伸びる一対の(アンテナ)から、強力な干渉電波が放たれていた。

 

「なにしろそっちはIS、マジになられたら(アンドロメダ)の力なんざ及ぶ筈もない。せいぜい油断して、慢心して、手を抜いてくれ。それで初めて、付け入る隙ができる」

「……口の達者な人。嫌いじゃないわ。でも私よりも達者な人は別」

「光栄至極に存じまする」

「皮肉も通じないとなると、尚更ね」

 

 恭しく――というよりは、慇懃無礼に頭を下げるビショップに、楯無は内心舌打ちする。

 侮っていた。否。騙されたのだ。声音ひとつから相手の人格を見抜き優位に立ってきた楯無が、声音ひとつでまんまと騙されたのだ。生来の才能と重ねてきた鍛錬からなる優秀さを逆手に取られ、完膚無きまでに騙されたのだ。

 物理的先手をルークに奪われ、精神的優位すらもビショップに盗まれた。初めから劣勢極まる戦いではあったが、奇襲を完璧に退けられ、今や進退窮まった。打開策は早くも失われた。後は時間を稼ぐ以外に、出来ることはない。

 

 そう。時間稼ぎだけは、まだ出来る。

 

「……さて、紳士のお二方(ジェントルメン)。ドレスコード的には思いっきりアウトではありますが、私はそんな細かいことは気にしません。顔良し、頭良し、性格よし、家柄よし、将来性よーし。そんな最上級物件な私がお相手して差し上げるのですから――まさか、逃げはしないわよね?」

 

 不敵な笑みを浮かべ、張りぼての余裕を見せつける。当然、そんな虚勢は二人には通用しない。だがそれでも、警戒せずにはいられない――「楯無には絶対に二人を倒せない」などという甘い考えを、二人は持っていなかった。

 力押しで強行突破する。または背を向け引き返し、ポーンの援護に向かう。そのどちらも、目の前の少女が健在のまま行うのは余りに危険であると、二人は考えていた。

 

 故に、この場で倒す。

 

「もちろんさ。そっちこそ、降伏なんぞはしてくれるなよ、お嬢さん。どうせぶちのめさなきゃならないんだ、さすがに無抵抗の女の子をっていうのは、その、なあ? わかるだろ?」

「……ええ。よーくわかるわ」

 

 それだけを返して、楯無は何も持たない両手を構える。絶望的な抵抗だ。だが楯無の瞳には、諦めは微塵もなかった。

 

(……早く来てね、真改ちゃん。悔しいけれど、今はあなたを頼りにするしかないみたいだから)

 

 再度の突進してくるルークを見据える。周囲に撒いたナノマシンから送られてくる情報はあてにならない。全てビショップによる欺瞞だろう。

 

(正直、そう長くは保たないだろうから)

 

 繰り出される拳。避ける。死角に回り込み、掌打を叩き込む。固い手応え。当然ながら効果なし。手が痺れる。続ければ、装甲ではなく楯無の手が砕けるだろう。

 楯無は笑う。既に見抜かれているだろう内心の焦りを、それでも隠し続けるために。

 

 

 

 




 最近投稿が遅いのは、暇さえあればニンジャスレイヤー読んでるからです。既存のエピ全部読み終わったら、多少は早く投稿するようになると思います。

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