Infinite possibility world ~ ver Highschool D×D   作:花極四季

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やっぱり、戦闘描写は難しい。こればかりは慣れか……。


第八話

リアス部長の結婚を賭けた《レーティングゲーム》に、負けた。

言葉にすればたったそれだけ。でも、私達にとってそれは、死刑判決に等しい言葉だった。

過程なんて重要じゃない。私、姫島先輩、木場さん、塔城さんが大怪我によりリタイアし、リアス部長だけがほぼ無傷という形で勝負がついた。

イッセーさんは、肉体的には大きな問題は見られなかった。戦闘不能という形で終わりを迎えていないお陰だ。

問題があるとすれば、心。

きっとイッセーさんは、リアス部長を護れなかった己の弱さを悔いる。

私だってそうだし、他のオカルト研究部の皆さんだって、同じだ。

でも、イッセーさんは最後まで残って、その状態でリザイン判定が出たことで、逆に私達の誰よりも心に傷を負っている筈。

自分がもっと強ければ。あの時、ライザーを倒せる力があれば。そんな自責の念と共に、自らを傷つけていくだろう。

このままでは、イッセーさんが駄目になってしまう。

今は眠りについているけれど、起きてしまえばそうなるのは明白。

だから、どうにかしなければならない。

 

そんな時、思い出した。

修行を共にし、イッセーさんが自ら尊敬していると言った相手。

人間でありながら、木場さんや塔城さんを倒すほどの力を有した、有斗零先輩のことを。

彼なら、今のイッセーさんを立ち上がらせることが出来るかもしれない。

だから、私は走った。

ミッテルトさんのお陰で、自宅の場所は覚えている。

だから、後は私が頑張るだけ。

悪魔になっても、そう簡単に体力が増える訳ではない。

全速力で走れば、相応の疲労が襲うし、息切れもする。

それでも、走った。そうしなければいけなかったから。

 

そして、遂に辿り着く。

太陽は、沈み欠けていた。

チャイムを鳴らし、待つ。

そうして現れたのは、有斗先輩だった。

 

「……どうした、穏やかではない様子だが」

 

「お願いです。説明はします、だから今は何も聞かずに一緒に来て下さい!」

 

一分一秒たりとも惜しい状況で、酸欠も加わり随分と失礼な態度を取ってしまったと思う。

でも、そんなことは気にしていられない。

 

「えっ、アーシア……?どうしたの?」

 

有斗先輩の背後から、ミッテルトさんが心配した様子で姿を現す。

 

「ごめんなさい。急いでいるので、説明している時間が惜しいんです!」

 

「――《レーティングゲーム》が関係しているのか?」

 

「はっ、はい」

 

「なら、行こう」

 

それで全てを理解したかのように、躊躇いなく外に出る。

 

「ミッテルト、すまないが留守を頼む」

 

「嫌!ウチも行くッス!」

 

「……頼む」

 

二人の視線が交差する。

数秒の間。ミッテルトさんが小さく息を漏らす。

 

「――分かった。でも、無茶はしないでよ」

 

「それは、約束できないかもしれない」

 

それだけ言い残し、先輩は私の手を取り――そのまま背中に乗せた。

 

「えっ、えっ!?」

 

「急いでいるんだろう?――ならば、君の歩幅に合わせている余裕はない。スクカジャ!」

 

馬と人が合わさり甲冑を着込んだ生き物が、先輩に力を与える。

瞬間、先輩は人ならざる脚力を持って、飛び出した。

あまりの驚きで、声も出ない。

 

「どっちに兵藤の家がある」

 

「え?あ――はい!あっちです!」

 

思考停止していた頭を揺り動かし、案内役を務める。

木場さんほどではないにしても、その速さたるや尋常ではない。

先輩の《神器》については、リアス部長を通しても伺っているし、この目で見たこともある。

でも、修行中の間はこんな生物を召喚してはいなかった筈。

思い返し、そんなことはどうでもいい、と頭を振る。

 

イッセーさんの自宅に辿り着いた私達は、すぐさま彼のいる部屋へと足を運ぶ。

そこには、沈んだ表情でベッドに座るイッセーさんの姿があった。

 

「……俺、部長のこと救えなかったんだな。約束したのにッ……!!」

 

膝の上で強く両方の拳を握り締める。

いつも明るくて、どこまでもひたむきに真っ直ぐなイッセーさんが、私は好きだ。大好きだ。

でも、今の彼はその対極にある。弱々しく、吹けば飛びそうな儚さを秘めている。

そんなイッセーさんは、見たくなかった。

 

「《赤龍帝の篭手》なんて大層な《神器》を持ってるのに、大切な人すら護れやしない。それならいっそ、こんな力――」

 

「いらない、とでも?」

 

イッセーさんと先輩の目が合う。

 

「自惚れるなよ。どんなに力を持っていようが、お前は所詮眷属になりたての下級悪魔だ。力の使い方も、経験も、他に劣るのは当たり前なんだ。《神器》が如何に優れていようと、所有者が未熟なら同じこと。お前のが考えているたら、ればの考えなど、無意味なのだよ」

 

どこまでも現実を見据えた言葉が、先輩から告げられる。

しかしそれは、イッセーさんの怒りを煽るものであった。

 

「――――アンタに何が、《レーティングゲーム》に参加していないアンタに何が分かる!目の前で奪われたんだよ!俺が部長を護るために戦って、でも俺が弱かったから結局護られて――その時の気持ちが、アンタに分かるのかよ!」

 

先輩の胸ぐらを掴み、壁に叩きつける。

 

「分からんな。当たり前だ、私はお前じゃない。お前が感じた悔しさも、悲しみも、すべてお前自身の感情だ。分かるはずがあるまい」

 

「だったら――」

 

「だが、思い出せ。アーシアのことを助けたのは、誰の力だ?」

 

イッセーさんが、その言葉にハッとする。

 

「リアスからあの夜のことはあらかた聞いている。リアスは、お前のアーシアに対する強い想いがなければ、静観を決め込んでいたと言っていた。当然だ、あの時のアーシアは敵側に属していたのだ。悪魔側からすれば、敵も当然。助ける道理はない。――だが、お前の意思が、リアスの意見を変えた。お前のひたむきでどこまでも真っ直ぐな気持ちが、アーシアを救う切っ掛けになったんだ」

 

先輩の胸ぐらに込められていた力が、緩んでいく。

 

「奪われたなら、奪い返せばいい。悪魔は、欲望に従う生き物なのだろう?ならば、何を躊躇う理由がある」

 

「……そう、ですよね。また、俺は間違えるところだった。ありがとうございます、先輩」

 

「礼ならアーシアに言え。彼女は君のことをとても心配していたんだ」

 

「アーシア……ありがとう」

 

「私こそ、イッセーさんの役に立てなくて、零先輩に頼りっぱなしで、とてもお礼を言われるような立場では――」

 

「いいから、受け取っておけ」

 

そういって、先輩は私の頭の上に手を置く。

その時の先輩の表情は、柔らかく見えた。

 

「……で、そろそろ出てきたらどうだ?」

 

おもむろに先輩がどこへでもなく呟くと、部屋に魔法陣が出現する。

そこから現れたのは、銀髪のメイドの女性だった。

確か、この人は《レーティングゲーム》で問題を解決するよう進言したグレイフィア・ルキフグスという人だった筈。

 

「気付いていらしたのですか?」

 

「確証はなかったがな」

 

「……そうですか。まぁ、それはいいでしょう。一誠様、アーシア様。今日がリアス様の結婚式の日となっております。そして、リアス様の兄である、サーゼクス・ルシファー様から、言伝があります。『妹を救いたいなら、その力を持って見事奪ってみせよ』と」

 

「――なるほど、そういうことか。権力者というのは、面倒な身分だな」

 

先輩がそう呟くも、私達は良く分からないままだ。

 

「つまり、サーゼクス様はこの結婚に乗り気ではなかったということです。当然ですね、彼はとても妹を愛しておられるのですから。しかし、ルシファーとして、魔王としての立場がある以上、勝手な権限を振りかざすなんて真似は出来ません。だから、抜け道を幾つも用意していました」

 

魔法陣が、再び光り出す。

 

「この場で言っておきましょう。仮に貴方が助けに行かずとも、サーゼクス様はこの婚約を破談させるでしょう。ですが、もし貴方の力ではなく、彼の力を頼るのであれば――金輪際、貴方とリアス様との関わりを断つでしょう。それで、どうします?無謀にも一人でライザー・フェニックスに再び立ち向かいますか?」

 

「一人じゃないさ」

 

先輩は、一歩前に踏み出す。

 

「……申し訳ありませんが、貴方は今回の件とは無関係。連れて行けるのは、イッセー様とアーシア様の二人と決められております」

 

「そんなこと、どうでもいい」

 

空気が、変わった。

無意識に身体が震える。

……怖い。零先輩が、怖い。そう、思ってしまった。

イッセーさんも驚いているし、冷たい印象を持つグレイフィアさんも目を見開いている。

 

「私は、リアスが抱えている苦悩を知りながら、その支えになることが出来なかった。《レーティングゲーム》は悪魔のゲーム。人間が入る余地はどこにもない。――だが、そんな理由で彼女が悲しみを永久に背負うことになれば、私は一生自分を許せない」

 

「先輩……」

 

「ルキフグスの名を持つ者が相手であろうと、この想いは決して否定させはしない。もし邪魔をするのであれば――全力で、推し通る」

 

互いに向かい合い、空気が膠着する。

最初にその空気を破ったのは――グレイフィアさんの方だった。

 

「……はぁ。分かりました。ですが、一度魔法陣を踏めば、命の保証は一切出来ません。それでも行くと?」

 

「死ぬことより怖いことがある。それ以上に、言葉が必要か?」

 

「――いえ。ならば、もう私は止めません。ご勝手にどうぞ」

 

「ありがとう」

 

「おかしな方ですね、貴方は。……それで、一誠様はどうしますか?」

 

「決まっている。部長は俺の――俺達の手で助ける!」

 

イッセーさんと先輩は、互いに頷き合う。

……信頼し合っているのが、とても分かる。

いけないことだと分かっているのに。ちょっとだけ嫉妬してしまう。

 

「では、ご武運を」

 

「イッセーさん!零先輩!私は戦えないから行けませんけど――どうかご無事で」

 

イッセーさんは親指を立てて、零先輩は振り向き頷いて、私の言葉に答えてくれた。

そのまま、二人は魔法陣の中へ消えていった。

 

 

 

 

 

零先輩に叱咤され、自分らしさを取り戻した俺は、零先輩と共にライザーからリアス部長を取り戻すべく、魔法陣に飛び込む。

人間である零先輩がパートナーでは、普通なら足手まといでしかないと思うだろう。

だが、違う。

彼は俺よりも強い。肉体がじゃなくて、心が。

人間でありながら、悪魔の集まる会場に躊躇いなく飛び込むその様は、部長を奪われてうじうじしていた俺なんかとは比べものにならないぐらい、男らしかった。

 

「先輩、ド派手にパーティーを滅茶苦茶にしてやりましょう!」

 

「ああ」

 

いつもと変わらない調子で答える零先輩がいると、自然と心が落ち着いてくる。

……先輩には、部長とは違うカリスマ性がある。

気が付けば、惹かれている。それは、悪魔とか、天使とか、堕天使とか。そういうのを関係なしに魅了する。

それをただの人間が為していると考えると、先輩の規格外さが際立つ。

 

「おらぁ!」

 

会場の中心であろう部屋のドアを蹴破り、侵入する。

案の定、そこには煌びやかな衣装に身を包んだ悪魔達が集っていた。

その中には、姫島先輩を初めとしたオカ研メンバーも集合していた。

 

「イッセー!それに、零!?」

 

白のドレスに着飾った部長が、声を上げる。

その姿は似合っている筈なのに――俺をこれ以上とない位に不快にさせる。

あれがライザーとの結婚の為に見繕われたものだと思うだけで、はらわたが煮えくり返る気分だ。

 

「おやおや、何事かと思えば――俺に情けなく敗北した兵藤一誠じゃないか。それに、その隣にいるのは、人間か?何故そのような下等生物が悪魔の城に」

 

「黙れ、このクソ野郎が。部長は返してもらう」

 

「ふん、何を言うかと思えば――」

 

ライザーの言葉は、待っていたと言わんばかりに暴れ始めたオカ研のメンバーの前に遮られる。

当たり前だ。誰が部長とテメェが結婚するなんて認めるかよ!

 

「まぁ、落ち着きたまえ。二人がここにいるのは――私が用意した余興の一環ですよ」

 

赤髪の青年は、一歩前に踏み出し、そう答える。

……恐らく、彼が部長の兄で、魔王のサーゼクス・ルシファーなんだろう。

 

「……どういうことですか?」

 

「私としては、あの《レーティングゲーム》は少し面白みに欠けたと感じたのですよ。リアスの方は《レーティングゲーム》素人の集まりで、駒の数も少ない。対してライザー殿の戦力は事実上の倍、しかも《レーティングゲーム》の熟練者ともなれば、この敗北は必然とも言えたでしょう。ですが、それはいただけない。だからこそ、ここで再びあの戦いの続きを、貴方とそこにいる二人とこの場で戦うという形で、あの不完全燃焼だった戦いに幕を下ろすのが良いと考え、実行したのです」

 

「……例えどんな条件であろうと、リアスは私が《レーティングゲーム》に勝利した結果として我が嫁となったのです。今更それを覆すようなこと――」

 

「怖いのかよ、鳥野郎」

 

「――何?」

 

ライザーが明らかに苛ついた様子でこちらを睨み付ける。

 

「あんなちゃちなゲームで得た勝ちで満足して、二回目は負けるかもしれないからって勝負から逃げるのかって言ったんだよ、チキン野郎が!」

 

「――――ハッ、一度完膚無きにやられた分際で、偉そうなことを言う。それに、その人間とのコンビだと?たかが人間を供に加えて、勝った気になっているというのなら、お笑いだな!」

 

背中から炎の羽をはためかせ、威嚇する。

だが、そんな威嚇で先輩は揺るぐわけがない。

ライザー、お前はそうやって馬鹿にしている人間に負けるんだ。

 

「ならばせいぜい手を抜けばいい。こちらはその間に勝利は頂いていくだけの話」

 

どこまでも冷静に、ライザーの挑発と取れる言葉をにべもなく返す。

その反応が気にくわなかったのだろう。ライザーの表情が明らかに怒りを孕んでいる。

 

「……いいでしょう。このライザ―・フェニックス、これを最後の試練として迎え入れましょう!!」

 

それを期に、俺達の周囲に出来ていた人だかりが散り、広い空間が出来上がる。

 

「……《レーティングゲーム》でもなんでもないこの決闘では、欠片も命の保証はできない。だが、俺は容赦なく貴様達を殺す。そうすれば、リアスは俺のものだ」

 

「そんなことで部長のすべてを奪った気になっているテメェには、部長は渡せねぇ!」

 

《赤龍帝の篭手》を発動させ、自らの拳を叩く。

そして、俺の夢の中で出会った、《赤龍帝の篭手》の中に封じられた龍に話しかける。

 

 

……ドライグ、聞こえているか。

 

 

……なんだ、小僧。

 

 

……俺は、部長を取り返す。その為なら、代償だってなんだって捧げてやる。だから、力をくれ!

 

 

……面白い。覚悟はあるのか小僧?

 

 

……二度も言わせるな!俺は、部長を救えるならなんだって捧げてやる!

 

 

……よかろう。その代償に相応しい力を、お前に与えてやろう。

 

 

「部長ォオオ!!」

 

叫ぶ。ありったけの想いを込めて。

 

「俺には木場みたいな剣の才能はありません!朱乃さんみたいな魔力の天才でもありません!小猫ちゃんみたいな馬鹿力もないし!アーシアの持ってるような素晴らしい治癒の力もない!零先輩のような心の強さだって、何もかも持っていません!それでも俺は!最強のポーンになります!!」

 

力が溢れてくる。

ドライグの言葉が真実になり、俺にあの鳥野郎を倒す力を与えてくれる。

 

「輝きやがれェ!オーバーブーストォオオ!!」

 

《赤龍帝の篭手》を中心に、紅の鎧が全身を覆っていく。

これが、俺の力。《赤龍帝の篭手》の《禁手》――《赤龍帝の鎧》!!

 

 

……忘れるな。カウント・テンだ。それ以上は持たないぞ。

 

 

……充分だ。それだけあれば――アイツをぶん殴れる!

 

 

「……兵藤。お前の本気、見させてもらったぞ」

 

零先輩は《神器》を手に掲げ、握りつぶす。

 

「オロバス!」

 

その叫びと共に現れたのは、人の形をした馬が甲冑を着込んだような風体の生物だった。

先輩の《神器》の力は漠然と把握している。ウルスラグナって奴が木場と互角に戦っていた様子も確認している。

だけど、俺は――いや、オカ研メンバーの誰もが、こんな姿の生物を召還しているのを見るのは、初めてだ。

 

「《赤龍帝の篭手》の《禁手》に悪魔を召喚した、だと……!それにオロバスという名は――」

 

「よそ見してんじゃねぇよ、鳥野郎!」

 

ライザーの懐に一気に入り込み、拳を叩き込む。

《赤龍帝の篭手》の時なんかとは比べものにならない一撃が、ライザーを襲う。

だが、相手は不死鳥。この程度じゃあ、くたばらないのは分かりきっている。

 

「ウグオォオ!」

 

「まだまだぁ!」

 

時間は少ない。拳を休める暇なんて、無い。

一撃ごとにライザーが吹き飛び、その斜線上にオロバスが立ちふさがる。

 

「オロバス、デッドエンド!」

 

オロバスの背後からの一撃は、ライザーに圧倒的苦痛をもたらした。

蹄による一撃で、再びライザーは俺のいる方向へと戻される。

 

「また会ったな、クソ野郎!」

 

「な、めるなよ下級悪魔風情がアアアアァァ!!」

 

身体から炎を吹き出し、その衝撃で距離を取る。

――しかし、その瞬間、ライザーの周囲に竜巻が巻き起こる。

 

「なっ、なんだこれは!?」

 

「貴様の炎――妖精王の妃の風によって吹き飛ばしてやろう」

 

零先輩は、オロバスではなく、妖精の羽を生やした緑の服を着た女性を傍らに仕えさせていた。

その姿は、どこか成長したアーシアのようにも見える。

 

「ティターニア。マハガルーラ!」

 

先輩の命令と共に、ティターニアと呼ばれた妖精は、ライザーに向けて再び竜巻を呼び起こす。

 

「人間!この、小癪なァァアア!」

 

ライザーは、零先輩へと炎を放ち――そのまま着弾した。

 

「先輩!!」

 

叫びながらも、俺は止まることは出来ない。

残りの時間は僅か。このままじゃあ、代償の意味がない!

 

「あの生意気な人間は、我が鳳凰の翼に抱かれ今頃悶え苦しんでいるだろうさ!」

 

「うるせぇ!先輩はなぁ、テメェみてぇな自分勝手に女の子を苦しめるような奴にはぜってぇ負けねぇ!」

 

だけど、心の動揺は隠せない。

拳のキレが落ちているのが自分でも分かる。

 

「ふん、あの召喚がなければ、奴もただの人間。悪魔の力に耐えられる訳が――」

 

勝ち誇った風に語るライザーの身体が、突如として凍り付けになった。

 

「なっ、なんだ、これは!フェニックスの炎が、凍らされただと!」

 

「当たり前だ。どんな炎だろうと、この氷の力の前では何の意味も為さない」

 

炎を潜るように、零先輩が歩み寄ってくる。

そして、先輩の身体の周りに展開されている半透明の紅い壁のようなものが、その歩みを阻害する炎を散らしていく。

服はボロボロだけど――生きている!!

そして、先輩の隣にいたのは先程の妖精じゃなくて、全身を紅い服で覆い、蒼のマントを背につけた女性だった。

 

「ラケシス、ブフーラ!」

 

叫びと共に、ライザーの真下から極寒の風が巻き起こる。

それを受けたライザーの身体は、更に凍結していく。

奴は、氷の牢獄に囚われたのだ。

 

「やれ、兵藤ォォオオ!!」

 

「了解!!」

 

先輩の意図を理解し、それに答える。

両の拳を突き合わせ、中心に魔力を集める。

俺自身、どれぐらいの破壊力があるかも想像できない一撃だ。

だが、躊躇っている暇はない。残り時間は、一秒切った!

 

「喰らえエエエエエ!!」

 

拳に込めた魔力はひとつの線となって凍って動けないライザーへ向けて解き放つ!

着弾と共に、大爆発が起こる。

代償により成立していた《禁手》が解除される。

煙が晴れ、そこにあったのは――

 

「はぁっ、はっ……!!」

 

満身創痍ながらも、戦力を未だ残すライザーの姿があった。

魔力の充填が足りなかったのか、あの一瞬で氷の束縛から解放されたのか。

何にせよ、俺の一撃は決定打とはならなかったのだ。

 

「く、くく。俺の勝ちだ、な」

 

「……確かに俺は、もう戦う力はない。だけどな、零先輩が残っている!」

 

「あの人間か。確かに先程は驚いたが、貴様という囮がいなければあの程度の手合い、どうとでもなる」

 

零先輩へと視線を向ける。

彼もまた、ライザーほどではないにしてもボロボロだ。

あの再生能力を凌駕する力が、先輩にはあるのか?

――信じるしかない。代償の影響で身体にガタが来ている俺では、満足に戦えない。足止めが関の山だ。

 

「――そうか」

 

先輩は覚悟したように呟き、眼前で手を横に凪ぐ。

ひとつだった筈の《神器》が、三つに分かれる。

いや、よく見れば絵柄が違う。どういうことなんだ?

 

「――《トライアングル・スプレッド》」

 

横に並んだ《神器》が、三角を形作るように三点を描く。

そして、大規模な魔法陣が零先輩を中心に構築される。

同時に、圧倒的なまでの力の奔流を感じ取る。

この場にいる誰もが、その光景に呑まれていた。

 

「――ペルソナ!!」

 

《神器》を破壊し、魔法陣から新たなナニかが姿を現す。

 

――それは、まさに地獄の化身だった。

人の形をしてはいるが、頭部についた二本の角がアレを人間ではないことを如実に現していた。

両手両脚の爪は鋭く伸び、身体は灰色に近い黒で染められている。

包帯に巻かれた顔から漏れ出る、鋭いまでの眼光。

洋式便所の上でしゃがんでいるという意味不明な状況さえも、アレを前にして恐怖を和らげる要素とは成り得ない。

 

「なっ――なんだ、ソイツは!?貴様は、ナニを呼んだのだ!?」

 

ライザーが恐怖に怯えた口調で叫ぶ。

無理もない。あの化け物を前に俺なんて声さえも出せないのだ。

周囲を見渡す限りでも、この状況に順応しているのは、サーゼクス様とグレイフィアさんだけだ。

それ以外の悪魔達は、誰もが恐怖に竦み上がっている。

 

「ベルフェゴール、行け」

 

無慈悲にもライザーの問いに答えることなく、地獄の化身は奇声を上げ、肉薄する。

ライザーの身体に、魔力が絡みつく。すると、ライザーの纏う炎が弱くなっていく。

それを見届けたベルフェゴールという化け物は、《騎士》を遙かに上回る速度で、そして《戦車》を軽く凌駕する一撃を叩き込む。

何度も、何度も何度も何度も何度も。

時にはその爪で身体を切り裂き、時にはその鋭い牙で身体を食いちぎる。

 

「イギャァアアァアア!!」

 

ライザーのどこか攻撃を止めるよう懇願するようにも聞こえる叫びは、俺達を不快にさせるだけで、先輩の心を動かすには到らない。

なけなしの力で出す炎も、ベルフェゴールは歯牙にも掛けずに攻撃の手を止めない。

そうして遂に、ライザーの顔を殴り抜け、ライザーの身体は吹き飛び、壁に激突する。

再生速度が追い付いていない。

元々その体力も限りなく無かったのも要因だろう。ライザーは虫の息だ。

残酷なまでの暴力を、誰も止めようとしない。否、止められない。

次の標的は、自分になるかもしれないのに。誰があの暴挙を止めようとするだろうか。

 

「トドメだ。マハジオダイン」

 

零先輩の言葉によって、無慈悲に断頭台が落とされる。

ベルフェゴールの眼前に魔法陣が展開される。そしてそこから、朱乃先輩の電撃を遙かに超える一撃が、ライザーを包んだ。

役目を終えたと言わんばかりにベルフェゴールは消えていく。

その瞬間、恐怖で凍り付いていた者達が再び鼓動を得る。

 

「お兄様ァァァアア!!」

 

悲痛の叫びを上げる、レイヴェル・フェニックス。

煙が晴れた先に存在していたのは、最早人の形をしているナニカだった。

雷によって焼けこげたその姿は、見るも無惨。

再生能力も完全に機能していないらしく、残り火すら残っていない。

 

「――サーゼクス・ルシファー。これで、私達の勝ちだ」

 

「……ああ、確かに見届けたよ。だけど、流石にやり過ぎだと思うがね」

 

「本来リアスが一生を掛けて背負っていく筈だった苦しみを、この程度で帳消しにしようというのだ。充分慈悲深いと思うが。――それに、不死鳥を名乗る以上、この程度で死ぬ訳がない。違うか?」

 

「……まぁ、いい。決闘は君達の勝ちだ。リアスと彼の婚約は破棄させよう」

 

「ありがとうございます」

 

それだけ聞いて満足したのか、先輩は部長の所へ足を運び、その手を取る。

 

「帰るぞ」

 

「えっ、ええ」

 

状況に理解が追い付いていないのか、気のない返事を返す部長。

実際。俺達だってそうだ。ここにいる中で、どれだけの存在があの規格外な状況に説明をつけられる?

……でも、分かったこともある。

俺達は、部長を救えたんだということ。

今は、それだけ分かっていれば充分だった。

 




※結構ペルソナの強さにばらつきがあるように見えますが、こちらの世界はどのペルソナ世界とも準拠していないため、本家のそれと比較したら混乱すると思います。ですが、基本的にレベルは一律する形を取っていますので、基本的に大きな差はないです。
その為、レベルの統一により増えたスキルの選定が、作者の都合で出来ていますが、ご了承ください。

オロバス

アルカナ:魔術師

アギラオ、スクカジャ、デッドエンド、デカジャ、氷結見切り

斬打貫火氷雷風光闇
    弱 無 耐

原作とは違い、こちらのオロバスはイケメン化しています。
pixivとかで鎧着たオロバスの絵があると思いますから、それでイメージすればいいと思います。
ぶっちゃけ、あのオロバスはネタ過ぎる。強そうなイメージを際立たせる為に、こんな感じになりました。後悔はしていない。
性能に関しましては、ウルスラグナ同様物理型です。ウルスラグナの炎verって考えるといいでしょう。
因みにデッドエンドによるダメージは、現時点の《赤龍帝の篭手》の三倍化に匹敵します。つええ。



ティターニア
アルカナ:恋愛

ディアラマ、マリンカリン、マハガルーラ、疾風ハイブースタ、神々の加護

斬打貫火氷雷風光闇
    耐弱耐

こっちは見た目は殆ど変化なし。ですが、少しアーシアに似ているという(妄想)。
スキルに関しては、風と回復系に統一。これは、他のペルソナとの区別化の為です。
因みにディアラマは、瞬間回復力なら《聖母の微笑》を超えています。ですが、良くも悪くも加減が出来ません。
《聖母の微笑》は、あれひとつでディアからメディアラハンまで賄えますが、患部に当てたり、回復速度がダメージに依存するといったデメリットもあるので、決して不遇な子にはなりませんよ?
能力値に関しては、当然魔力特化。防御面は弱いです。



ラケシス

アルカナ:運命

ブフーラ、マハブフーラ、赤の壁、真・電撃見切り、マハスクカジャ

斬打貫火氷雷風光闇
    耐弱無

本来ガル系を扱うペルソナだけど、何故かブフ系を扱うペルソナに。
四属性に対策を立てられることから、主に守り方面で優秀な力を発揮する。
しかし、それ以外の能力も平均的で、中々の使い勝手を誇る。



ベルフェゴール

アルカナ:悪魔

ジオダイン、マハジオダイン、マハラクンダ、デビルスマイル、恐怖成功率UP、電撃ハイブースタ

斬打貫火氷雷風光闇
     吸 弱反

愚者・魔術師・恋愛のアルカナの《トライアングル・スプレッド》によって生み出されたペルソナ。どうして成立したとかは、詳しく聞かないのがこの話を楽しむコツだと思う。
ハイスクールD×Dでも番外悪魔として名が挙がっているが、それとは別の存在なのは言うまでもない。
下手な上級悪魔さえ震え上がらせ、蹂躙できる圧倒的な力を持つ。現時点のオカ研メンバーでは、弱点を突く隙さえ与えられないレベルの差がある。
ただし、主人公の精神力が未熟な部分もある為、顕現できる時間はとても短い。



Q:ライザー死んだ?
A:つフェニックスの涙

Q:ペルソナを選ぶ基準は?
A:各アルカナに該当するキャラのイメージを主に基準としています。たまに適当ですが。

Q:ペルソナ最初から強すぎない?
A:こうしないとガチでインフレに負ける。

Q:弱点表記って重要?
A:光と闇と物理の覧が重要になるでしょうね。それ以外は気にしなくても良いレベル。

Q:聖水とか十字架なんて無かった。
A:零が聖水の代わりだからね、仕方ないね。

Q:代償捧げるタイミング違くね?起きてるときに会話とか……
A:気にしたら負け。

Q:レイヴェルとのフラグ折れてね?
A:零は兄をフルボッコにした相手+恐ろしい化け物を召還する存在ということで恋愛感情は恐らく浮かばないでしょうし、イッセーは惚れさせる要因なかったですしね。
魔術師コミュがモテるとか有り得ないから、まぁ多少はね?

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