Infinite possibility world ~ ver Highschool D×D 作:花極四季
真・女神転生IV FINALから五年振りの正当続編であり、事前情報で期待度マックスでボリューミー感をひしひしと感じさせる、メガテニストとしては絶対に見逃せない今作。
取っつきにくさのある金子絵も、時代の流れからかかなり大衆向けにデフォルメされており、男系女系問わず人間的表現の悪魔はみんなイケメン美女として表現されている為、かなり敷居が低くなっている印象です。公式サイトのフィンとイズンだけ見ても納得してくれると思う。
基本的なシステムは過去作で完成されているので、そこからのプラス&がどう作用するかは未知数ではあるけれど、個人的にはかなり期待できる要素が多いです。やり込み要素もしっかりあるようだし。
RPGとしては難易度高めだけど、Safetyの難易度をDLCで無料アプデ追加できるので、恐れずに踏み込んで欲しい。
ぶっちゃけ、発売日以降にここを覗いたのであれば、この前書き見たらこんな遅々として進まない作品なんて無視してとっとと回れ右してメガテンV、やろう!
え?でも通常版でも税込みで一万近くするのは高すぎるって?……せやな!
刃と刃が重なる音が絶え間なく響き続ける。
一撃が重なり合う度に吹き荒れる力の奔流は、この狭い空間で展開されるにはあまりにも強大で、本来ならば私はその余波を余すところなく受ける筈だった。
ライドウの召喚したクー・フーリンが私に降りかかるあらゆるものから身を挺して護ってくれていることで事なきを得ていた。
「大丈夫ですか?」
「え、ええ。ありがとうございます、クー・フーリン……さん」
「感謝も敬語も不要です。それが主殿から賜れた主命なれば、それを全うするのが我が役目」
紳士的な態度でそう答えるクー・フーリン。
アイルランドの光の御子と呼ばれる英雄を、私一人を護る為に宛がうなんて贅沢にも程がある。
しかし、そんな英雄である彼はライドウに対して忠実な態度を示している。そこに嫌々従っているような雰囲気はなく、一種の敬意を抱いているようにさえ映る。
それにしても驚いたのは、クー・フーリンが言葉を話したことや感情があるような反応を見せたことにある。
顕現しているペルソナが心の動きや特製によって無意識に多種多様な行動をすることはある。
しかし、それはある種のプログラミングされた行動のようなもので、思考の介在しないルーチンに等しい。
生物としての形も、あくまでその力の属性に相応しい器として用意された紋切り型でしかなく、それ自体に大きな意味はない。
それは実力に圧倒的な差があるレイでも変えられない不文律で、逆説的にその枠を超えた行動を取る彼らはペルソナではないという証明にもなる。
「えっと、貴方達は一体……」
「申し訳ありません。このような場でもなければ説明することも吝かではなかったのですが……この状況ではそれも難しいかと」
瞬間、此方へと飛来する攻撃の余波をクー・フーリンの槍の一振りで相殺する。
彼によって私の安全は大いに保障されてはいるが、一歩その領域から外れようものならば、中堅クラスの人外ならば余波でも地獄絵図な結果になりかねない程の攻防が繰り広げられている。
最早視認することさえ困難な両者の動きは、力の余韻が視覚化されたような何かを後追いすることでようやくなんとなく理解できる程度。
上級クラスの人外にも引けを取らない力のぶつかり合い。これを繰り広げているのが、本来は弱者と定義されている人間の二人であるなどと、果たしてどれだけの人がすぐさまに現実を見据えられるだろうか。
「これが、ライドウ達の本気……?」
思えば、ライドウが物理的な手段で戦うところを見るのはこれが二度目だ。
正確には、ライドウがレイであるという前提での話だが。
初戦の相手は私自身。あの時も模造刀を握って私に立ち向かってきた。実際は杖替わり程度にしか利用してはいなかったけれど、今にして思えば使うまでもなかったと言う事だろう。
手加減に手加減を幾重にも重ね、その結果深手を負うような結果になったとしても、必死に私程度の存在に真正面から向き合ってくれた。
それ以来、彼が戦う時は常にペルソナによる圧倒的制圧力にばかり目が行き、彼の強さはあくまでもペルソナありきであるという認識は、私を含め周囲の者達にとっても共通したものだったに違いない。
故に、目の前で起こっている光景にただただ圧倒されるしかない。
アギやブフのような属性魔法の痕跡は見受けられず、単純な力押しによる攻防のみで、これ程の破壊をもたらしている。
補助魔法を使っている可能性はあるが、それにしても限度というものがある。
これは異常と呼ぶ以外に表現できるものではない。
キョウジの話していた、デビルサマナーが衰退した理由。
漠然とした回答ではあったが、彼が言いたいことはなんとなく理解できた気がする。
もし、人間がこの領域に少しでも近づける手段にデビルサマナーという職業があるとするならば、人外達がこれを恐れるのは必然だ。
「いえ、本気ではありませんよ。彼らが本気になれば、周囲一帯は焦土では済まない被害を容易く生み出せます」
「……そうね、そうよね」
我ながら、なんて浅はかな思い込み。
目の前の圧倒的な現実を前に、それ以上を想像することを無意識に拒否していたのかもしれない。
事実、彼らの戦いは悪魔天使問わず上級に属する者達と引けを取らないものであり、それを人間の肉体というハンデを背負って成立させている。
レイはペルソナ能力でそれを為していたが、肉体面に関しては据え置きであると思い込んでいた。
実際、彼が物理的な戦闘を行った事実は一度として見たことは無い。
彼と敵として対峙したあの時、模造刀を所持してはいたが使ってはいなかった。加えて、私程度の攻撃でボロボロになっていたという実体験に基づいた思考の帰結。
思い込むには、十分な材料はあった。
片腕を失い、こんな竜巻が如し暴力の応酬を前にしているにも関わらず、今の私の思考は冷静そのもの。
如何にライドウが選んだ悪魔に護られているとはいえ、掠めただけで跡形もなくなりそうな光景を前に、それでも心がこれほどまでに凪いでいるというのは、やはりライドウという何よりも信を置く存在と同じ雰囲気を纏う存在があってのことであろう。
だからこそ、こうして改めてライドウと有斗零に関して考えを巡らせていく余裕が出来た。
レイが消息不明となり、それからそこまで日を跨がずに出逢ったのがライドウだった。
ライドウはレイと顔が瓜二つであるだけではなく、身に纏う雰囲気もとても類似していた。
同一足り得ない要素とは何かと問われれば、それは恐らく立場の違いだ。
ライドウは記憶を失い、レイが培ってきた絆の一切が存在しなくなった、或いは最初から存在しなかったことで、私達へ向ける感情に大きな変化が生まれた。
レイも言葉数は少ない方ではあったが、絆というものを何よりも重視していた。同時に、それを脅かす敵に関しても一切の容赦はなかった。
ペルソナという力を象徴するかのような二面性。或いは書物などで描写される神のように極端なソレは、頼もしくもあり恐ろしくもある。
そして、ライドウの忠誠は八坂様と九重に向けられている。そんな八坂様を攫った禍の団に対しての鬼神の如き戦いぶりは、レイの行動原理と合致する。
単純に、それに対抗できる葛葉キョウジに手加減をする理由がないということも含まれているのだろうが。
私はレイとライドウが同一人物であるという確証が欲しくて、こうして辻褄合わせの論理を組み立てている訳ではない。
レイはペルソナによる後方支援による殲滅に長けていたのに対し、ライドウはペルソナ全書で見た悪魔に生命を宿し使役しながら自らも先陣を切るという、真逆の戦闘スタイルを行使している。
如何に顔や雰囲気が類似しているとはいえ、ここまで極端に違うともなれば本人と言うには難しいだろう。
――しかし、それでも敢えて言わせてもらうならば。
何なら、一切の根拠を排してなお断言する。レイは間違いなくライドウである、と。
とはいえ、断言できると同時にどうにも腑に落ちない点もある。それもまた、根拠も何もない謂勘と呼ばれる感覚によるものだが、それが非常に気になってしまう。
例えるならば、服の前後ろを逆に着ているような、靴下の左右を逆に履いているような、そんな程度の違和感。
どちらも本質は同じだというのに、ほんの少し手段がズレているせいで全く異なる感覚になっている、そんな感じ。
いや、そうじゃない。
二人に対して感じる微妙な差異、それこそまるでペルソナのようではないか。
心の奥底にあるもう一人の自分、或いは別人格。
そして、レイのワイルドという本来ひとつしか持ち得ないペルソナを複数持つ性質。
姿形が瓜二つで、しかしレイと完全な同一人物とは言えない差異をライドウが持つ理由に説明がつく。自分自身から出たものなのだから、似ていて当然なのだから。
しかし、そうなると更なる疑問が増える。
まず、ペルソナはレイからかつて聞いた話によると、ペルソナは集合的無意識から別側面に嵌る紋切型として、神話の神や英雄のような存在を象って現出しているのであって、必ずしも同名のペルソナを自分以外の誰かが持っていたとしても姿形が同一になる訳ではない。それぐらい曖昧で適当なものでしかないと。
例えばジークフリートは悪竜の血を背中以外に浴びたことで背中以外は不死身の肉体となったが、その性質がペルソナに反映される訳ではない。
確かに物理に対して圧倒的な耐性を得ることは出来るが、その辺りはだいぶファジーになっている。
あくまでもイメージに沿う形でしかなく、神話のように絶対的な力を得られる訳ではない。
どこまで行っても、偽物は偽物でしかないのだ。
だが、今までの前提を踏まえるならば、あのライドウの存在は道理に沿わない。
まず、あれをペルソナと断定するにはあまりにも人間的過ぎる。
人語を解し、容姿も彫像のような無骨さはなく、何よりも召喚者であろう存在がが側に居ない。嫌と言うほどに私の知るペルソナとは真逆の属性を有している。
それこそ、目の前のクー・フーリンがそれを否応無しに証明している。
ほんの数分程度の関係ではあるが、その短い会話からは確かに生命を感じた。
それ故に、疑問は更に加速する。
クー・フーリンが生命体であるならば、それを召喚したライドウがペルソナであるとするならば、それすなわち生命の創造を魔法のように使用できるということになる。
そして、ライドウ=レイのペルソナないしは当人であるならば、当然その力はレイのものであり、つまりは人間が神の奇跡を行使したに等しい。
だが、そんなことがあり得ると言うのか。
確かに、神器の中には創造系のものもある為、絶対にあり得ないとは言い切れないとは思う。
そう考えると、神器というのは文字通り規格外であることを改めて考えさせられる。
神器。それは人間のみに与えられる、神から賜れた奇跡の具現。
歴史上の偉人は何かしら神器に関わりがあるとされている程、その影響力と力は一線を画す。
そして人間社会を超え、神や魔王さえも脅かす可能性を秘めた神器の中でも特別とされている神滅具。
脆弱な個を圧倒的なまでの数によって補う人類、しかしそれでも人外にとっては脅威にはなり得ない。そんな現実に例外を与えるのが神器ということである。
そんな可能性を持ちながらもその立場が一瞬たりとも逆転することがなかったのは、個人による限界と人間という肉体の脆弱さを補完できるものではないからだ。
その最たる例が寿命。私達からすればあっという間な時間で劣化していく肉体。どんなに脅威でも百年あれば勝手に消える泡沫でしかない。
そして、力を得た人間は等しく強欲になっていく。人間社会の常識や倫理観によって構成されていたタガが外れることで、人間がいの一番に望むこと。
それは、永遠の命。もしくはそれに準ずるほどの延命である。
金銭ではどうにもならない、歴史上でも故ある偉人が挑み敗れていった人類の夢。
果たして、ソレが手の届く場所にあるとするならば――例え悪魔に魂を売ってでも求める者が居たとしても、何ら不思議ではない。
ましてや、力を得た人間は更に上を目指す。人間という弱さを知るが故に、悪魔を始めとした超越者の存在を知ってしまったが故に。しかしそれを為すには、人間の寿命はあまりにも短すぎる。
そんな人間の欲望に付け込み、人間サイドの脅威として君臨しないように各陣営が定期的に素養の有る人間を取り込むことで、人間の叛逆の可能性の芽を摘んでいたのだろう。
その懸念は間違ってはいない。目の前の戦いを前にすれば、誰もがそう思うだろう。
――だが、しかし。
もしかしたら、何かの拍子に私達の立場が逆転するような、悪魔達でさえ予想できないレベルの人類の革新が起こってしまえば。世界はどのようになってしまうのだろうかと、ふと考えてしまう。
悪魔を従え、悪魔をも凌ぐ戦闘力で戦う人間同士の戦いを見て、そこに私はあったかもしれない――或いはなるかもしれない可能性を見た。
神が人間にそのような力を授けたということは、神はそのような未来をも想定していたとしても不思議ではない。
その根底にあるのは慈悲か憐憫か。神の思惑など分かろう筈もないが、願わくば希望のある祈りであって欲しい。
そうでなくては、人間はただ人外に食われるだけの家畜であると認めてしまうから。
そしてそれは、レイが文字通り命を賭した生き様を否定することになるから。
「――危ないッ!!」
横からの衝撃で思考が中断する。
何があった?という疑問よりも早く、私が居た場所へと大きな塊が一直線に突っ込み、クー・フーリンを巻き込んで後方へと吹き飛んでいく姿が見えた。
大きな塊の正体は、ライドウと共に前線で戦っていたフツヌシであると理解した瞬間、改めてライドウ達の戦況を確認する。
三体一という圧倒的にキョウジが不利であったにも関わらず、互角の戦いを繰り広げていた中、その均衡を破ったのもまたキョウジだった。
曰くキョウジの持つ七星剣は人ならざる者に対して強力な毒となる剣で、その効果は私自身が身をもって証明している。
魔法で回復を許されない傷を負うことは、数的優位を活かすことが困難となる。一撃でも貰えばその傷が癒えることはなく、少しずつ磨り潰されていく。
速攻を仕掛けるにも、七星剣そのものが抑止力となり攻めあぐねてしまう。
ライドウはきっと、彼と同じように誰かが傷つくのを良しとしない。例え使役している悪魔であろうとも、切り捨てることを前提とした戦い方はしないだろう。
加えて、私と言う枷の存在。
クー・フーリンを傍に置いたとしても、その防御は絶対ではない。
信頼していないのではなく、それだけの強敵であるとライドウが見抜いたからこその二段構え。
結果として、本来ならば三方向からの縦横無尽な攻撃で翻弄出来る筈が、常に私を庇うような位置で固まって行動するしか出来なくなっていた。
考えれば当然のことだ。
私はライドウが助けに来てくれたことで、すっかり安心しきっていた。
もう大丈夫だ。後は彼に任せておけば万事恙なく事は進むと気を抜いてしまっていた。
彼の強さに甘え、過去の実績に盲目となり、私がやるべき最善手を怠っていた。
少しでもいいからこの場から離れるべきだったのだ。ライドウが私の御守をしなくても済むぐらいの距離まで、隙を見て離れるのが私のやるべきことだったのに。
そんな後悔を抱いた刹那、ライドウ達の隙間を縫うようにキョウジの左手に握られたライドウが持つ物と同じ試験官のようなものが、まるで弾丸のように私へと飛来してくる。
それは意図的か偶然か。しかし確実に言えることは、あれを回避することも防御することも出来ないということ。
頼みの綱のクー・フーリンが居ない今、私が迎えるのは凄惨な未来。
試験官の中に込められた魔力はかなりのもので、アレが当たればミンチでは済まされない未来が待っている。
死を前にして加速する脳。それに反して微動だにしない肉体。そしてゆっくりと迫る試験官。
世界がスローモーションになる感覚を前に、私は逃げることではなく目を閉じることを選んだ。
瞬間、硝子の砕ける音が響く。
しかしそれは、私の身体に当たったからではなく――
「――間に合いました」
聞き覚えのある声がした。
誰よりも慎み深く、慈愛に溢れた少女。私の憧れであり、唯一無二の友達の声。
そんな本来ならば戦場とは縁遠くあるべき友達が、まるで戦乙女が如し威光を携えて私を護るように立っていた。
「アー……シア?」
疑問符を浮かべたのは、その雰囲気が普段の穏やかさを知るからこその錯覚によるもの。
戦乙女と比喩したのも、彼女から発せられる雰囲気があまりにも雄々しく威風堂々としていたからに他ならない。
ディオドラ・アスタロトとの戦闘で彼女はペルソナに目覚めた。自分自身と向き合うことで、八面玲瓏の権化のような偶像的存在から、慈悲という刃を以て罪を裁くことも辞さない苛烈な一面を見せるようになった。
しかしそれも、常人の感性からすればまだ手緩いと言えるもので、アーシアがアーシアのまま一皮剥けたぐらいにしか捉えていなかった。
だが、目の前に居るアーシアはそんな言葉では言い表せないぐらいの威を宿していた。
思えば、ペルソナを召喚した際に変化する衣装にも所々に損傷が見受けられた。
それはまるで誰かと一戦交えてきたかのような戦士の勲章のようで。
本来ならば醜く映るであろうそれは、凛とした美しさを際立たせるものへと昇華されていた。
その強烈過ぎる変化を前に、別れてから今に至るまでの間に彼女に何があったというのだろうかと狼狽せずにはいられない。
「今度は、私が貴方を護ります。――絶対に、これ以上傷付けさせるものですか」
そんな私を尻目にアーシアは静かに、しかしはっきりと宣言する。
そこに迷いや動揺の色は一切なく、それが当然であると言わんばかりに堂々とした所作で、敵である葛葉キョウジへと旗の穂先を突き付けるように構えた。