Infinite possibility world ~ ver Highschool D×D 作:花極四季
Fallout76に本格的にのめり込む前に、どうにか完成しましたが、今回の内容は今までにはない描写を加えており、それ案件で結構ヒヤヒヤしてたりします。
ちなみに最近やらかしたこと
作者(Fallout76やりたいナリ…)
作者(でもPC版だとギリギリグラボが足りてないし、お金も無いナリ…)
作者(そうだ、PS4版で妥協するナリ!→1万円分のウォレット)
SONY「(Z指定作品はウォレット購入できないので)駄目です)
作者「ああああああああああああ!!!!!(ブリブリブリブリュリュリュリュ!ブツチチブブブチチブリリイリブブゥゥッッッ!!!)」
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あと、今回の話には軽くエチエチな表現があるから、そういうの苦手な人は注意。
気が付けば、旅館の布団で私は眠っていた。
思考もクリアで眠気も無い。しかし、身体が鉛のように重くて動けない。
だが、同時に先程まで感じていたであろう二度と経験したくない痛みは、綺麗さっぱりなくなっていた。
まるで、最初からそんなものは存在しなかったかのように。
筋弛緩剤を投与されたかのように微動だにしない肉体だが、辛うじて首だけはなんとか動かせるのに気付く。
顔を横に向けた先には、広縁に置かれたテーブルで読書をするアーシアの姿があった。
服装も学生服ではなく、寝間着姿。しっとりと濡れた金髪が、彼女が風呂上りであることを推測させる。
開放的な窓から覗く満月と落ちた夜の帳が、今の時間帯を大まかに教えてくれたこともあって、推測も確信に近い者となる。
少なく見積もって、あれからもう三時間ほど経過していると見て良いだろう。
「あ、ミッテルトさん。起きたんですね」
読書をするアーシアの表情は、穏やかでありながらほんのりと艶やかさを内包しており、普段は見られないそんな表情が珍しくて見入っている内に、アーシアの方から此方が起きたことに気付いた。
「あ、ああ……うん。私、どれだけ眠ってたの?というか、誰が私を?」
「え?ミッテルトさん、自分で帰ってきたんじゃないんですか?木場さんからは送り届けたことは聞いていますし、それ以降は部屋から出ていないというか、誰も見ていないらしかったので、てっきり……」
どういうことだ?と疑問符を浮かべるも、すぐに納得する理由が浮かんだ。
そう、あの女。ルイ・サイファーとやらの介入であるという可能性。根拠としては弱いように見えて、アレならばやりかねないという説得力を持ち合わせているのが、厄介としか言いようがない。
「あ~……ゴメン。色々あって疲れてたから、ね」
「……そうですね。今日は本当に色々ありました」
共通して今頭の中にあるのは、間違いなくレイの事だろう。いや、今はライドウと言うべきか。
何にせよ、私が離れた後のことを聞くにはちょうど良いきっかけになったと思う。
「私と別れてから、何かあったか教えてくれる?」
「え?あ、はい。ミッテルトさんと別れた後――」
そこからは、妖怪達との間で行われた会話の一部始終を語ってくれたが、ルイ・サイファーに繋がるような証拠は一切挙がらなかった。
あれだけの広範囲の結界を張っていたにも関わらず、その事実を誰にも悟らせていない。最早、彼女が私をここに運んだのは確定だろう。
探知できたとすれば、如何にアーシアが準戦闘要員とはいえ、こんな安穏とした時間を過ごせているとは思えない。
それよりも、今はライドウとゴウトと言う猫の話だ。
結局ライドウ=有斗零という公式が成立することはなかったが、ゴウトの反応からすると9割は当たりと見てもいい。
9割と言うのも、言ってしまえばゴウトの発言を正当性を証明するものが何もないからに過ぎない。
自惚れかもしれないが、長い付き合いである私が彼が有斗零であると確信しているからこそ、甘く判定しているだけ。状況証拠としては杜撰もいいところだ。
それと、そのゴウトというのが、小猫の姉でありSS級はぐれ悪魔である黒歌であったという事実には流石に驚いた。
いつの間に接点が出来ていたのかとか、どういう関係なのかとか、知りたいことは山ほどあるが、アーシアの説明から黒歌のライドウへの執着がどれ程かはおおよそ把握できた。
女の勘を前面に押し出し、理屈や道理をかなぐり捨ててしまえば、この時点で10割であると断言していたことだろう。
そんなバラバラなままのピースの中でも、形となった部分はある。
それは、黒歌がレイに執心しているという事実。誰よりも彼に執心している私が確信しているのだ。これ以上とない判断材料だろう。
先程まで理屈ぶって色々考えていたが、ぶっちゃけここが一番の問題だ。大問題だ。
確かにライドウ=レイの公式は成立していない。最早ただの現実逃避だと言われようとも、絶対ではないのだからしょうがない。
しかし――そう、しかし。ライドウは私を知らない。記憶喪失という形で、私にとってのパーソナルスペースは粉微塵になった訳だ。
更に、後釜に据えるかのようにそこに黒歌が狡猾にも侵入。見事にしてやったという訳である。
それこそまさに「この泥棒猫が!」という奴である。
加えて、敵は黒歌だけに留まらない。
ライドウを従えていた少女、九重。目下の最大の敵は彼女であろう。
何せ、ライドウは九重の傍仕えとしての大義名分を得ており、その立場はそう簡単に揺らぐことはない筈。
仮に記憶を取り戻したとしても、はいそうですかと此方側に戻ることは出来なくなったのだ。これは、かなりの問題である。
レイの立場は、三陣営にとってもイレギュラー……いや、アンタッチャブルと言うべきか。とにかく扱いが非常に難しいものとなっている。
傾向としては悪魔陣営に寄ってはいるように見えるが、それはあくまで友人に悪魔が多いからというだけで、もしこれから他陣営の友人が増えていくようならば、その傾向は容易く逆転し得る。
彼は大衆の為ではなく、あくまでも友人という個を尊重するからこそ、その力を振るう。
周囲の思惑などどうでもいい、興味もないと切って捨てることが出来る。それもひとえに、彼が強いが故の我儘の通し方だ。
彼に英雄と呼ばれる者のような高潔さもなければ、未だに底の見えないその力を我欲に使うこともない。
事あるごとに言っていた、絆という言葉。彼の在り方は、徹頭徹尾そこに収束する。一度だってブレたことはない。
故に、彼を組織と言う形で縛ることは出来ない。可能性があるとすれば、情に絆すぐらいだが、もしそれが悪意あるものだった場合――私がストッパーとなる。
なる、と豪語してはいるが、それを押し通せるほどの力を私は持っていない。
金、権力、知識、武力――力の定義は色々だが、組織や国、種族という群が織り成す悪辣な手練手管を捌くには、無力という言葉さえおこがましい。
とはいえ、ないよりはマシ程度には私にもやれることはある。
特に、政治的な面に関してはレイは門外漢というか、お人好しすぎて知り合いの頼みならイエスマンになってるきらいがある。
腹の探り合いとかも苦手そうというか、後に起こり得る色々な問題などを加味しなければ、大抵の敵なら殲滅出来てしまうというのも、拍車をかける要因となっているというか。
三陣営による天下三分の計もどきがあっても、レイが失踪するという大失態が起こったのだから、もしこれが成らなかった場合など、どれ程混沌とした未来となったことか。
「あ……」
レイのことを考えていると、小さく空腹を訴える音が私から出てきた。
なまじ静かだったこともあり、間違いなくアーシアにも聞こえたであろう。恥ずかしいなんてものではない。
「あ、すみません気が利かなくて。もう夜遅いですし、旅館の食事をとはいきませんが……」
アーシアはそんな羞恥心に気付いた様子もなく、本当に申し訳なさそうに近くにあった袋を漁り出す。
そこからは、出るわ出るわ多種多様なお菓子の群れ。修学旅行の自由時間全部使っても食べきれそうにない量だ。
「えっと、これらはアザゼル先生から戴いたものです。ミッテルトさんが起きたら、ということで」
「アザゼル様が……」
「それと、『殴って悪かった』とも」
その言葉に一瞬思考に空白が生まれるが、すぐにレイが失踪した時のことだと思い至る。
アザゼル様は悪くない、とはいえそれで納得しないからこそ、時間が空いて記憶を取り戻した今、間接的にではあるがこうして伝えてくれたのだろう。
末端の堕天使としては、身に余る光栄である。だからと言ってそれ以上の感情は湧くことはないが。
堕天使としては明らかに間違った反応なのは分かってるが、心までは縛られる謂れはないということだ。
「そうね、せっかくだし好意に甘えましょう。お菓子を食べるにはちょっと遅いけどね」
「確かに……出しておいてなんですけど、本当に大丈夫ですか?」
「別に平気よ。そもそも、悪魔とか天使みたいな人外って、体型の変化に疎いから」
「それは、初耳です」
ほんの、ほんのちょっぴりではあるがアーシアの語気が強まるのが分かった。
アーシアってそういうの気にしそうな性格じゃなかったから、少し意外。
「人間と違って、私達は寿命が長いことを筆頭に、存在そのものが揺らぎにくいという性質を抱えているのよ。だから成長も緩やかだし、逆も然り。一定の成長を終えたら良くも悪くも変化しなくなっちゃうのよね」
だからもっと背が伸びて欲しいと思って民間療法に頼っても、人間の肉体を基準とした方法ではどうにもならずに悲しみを背負ったこともある。
そう、せめて――あのルイ・サイファーとやらぐらいあれば、レイと隣り合っても様になるだろうに。こんちくしょう。
「というわけで、食べ過ぎなきゃ全然オッケーってことだから気にしなくていいわよ」
話している内に、少しだけ身体の力が戻ってきたのを確認したので、おもむろに上半身を起き上がらせる。
半分ぐらいからキツくなってきた辺りでアーシアが背中を優しく押してくれる。
この辺の機微を分かっているのを見ると、天使とかに関わっていなければ、介護士として大成する未来もあったんじゃないかと思えてくる。
気にしたところでどうしようもないのだが、ペルソナに覚醒した今でも、やはり彼女はこんな世界にいるべきではないと考えてしまう。
――でも、それを突き詰めてしまえば。
そもそも人間にとって、私達人外はただの害悪でしかなくて。
認めてしまうことは、私とアーシアは出会うべきではなかったという事になってしまう。それは嫌だ。
「ミッテルトさん」
癖となってきているネガティブ思考は、私を呼ぶ声によって霧散していく。
淀んだ思考を振り払い、その次に見た光景は、アーシアが私の眼前にチョコレートを指で摘まんで差し出している光景だった。
「はい、あーん」
「……はい?」
「あーん、ですよ。あーん」
アーシアも小さく可愛らしい口を開け、ジェスチャーで意思を伝えようと頑張っているが、そうではない。
「いや、自分で食べられるから」
ぎこちない挙動でアーシアの持つチョコレートを貰おうとしたが、指を滑らせて布団の上に落してしまう。
今この時、思い通りに動かない自分の身体を大いに怨んだ。こうなってしまえば、後の未来は想像に難くない。
案の定、アーシアは布団に落ちたチョコレートを躊躇いなく自らの口へと運んでいく。
衛生観念よりも、もったいない精神が勝ったのだろう。或いは、捨ててしまうと私への当て付けのように見えてしまうと踏んだからか。
どちらにせよ、アーシアに無駄な負担を強いたのは事実。意地張って裏目に出るとか、馬鹿の極みもいいところだ。
「不思議な味ですけど、美味しいですよ。ミッテルトさんもどうぞ」
改めて差し出されるチョコレートを、今度は素直に口にする。
奥歯で軽く噛むとあっさりと表面が砕け、空洞となっていた箇所から、ほんのりと舌が痺れるような感覚と共に甘い液体が口の中に広がっていく。
この時初めて、このチョコレートがお酒入りの奴であることに気付く。
何というか、アザゼル様の手土産らしい。この様子だと、他のも酒のつまみになるようなものばかりに違いない。
まぁ、これで女子が好みそうなデコレーションの入ったものを渡されても、それこそ反応に困る。
「美味しいですよね?」
「ええ。パッケージから察してたけど、間違いなく安物ではないわね」
「なら、折角の機会ですし、どんどん戴いてしまいましょう」
「私宛てとはいえ、アーシアも食べてもいいからね?」
「はい。お恥ずかしながら、結構私も気に入ってしまいましたので、是非」
そんなやり取りを経て、互いに高級菓子に舌鼓を打つ。
とはいえ、起きたばかりではあるが時間帯は夜。最早寝るだけという状況では、流石に量を食べることは出来ない。太る太らないの問題以前に、胃もたれするから。
結局、最初に開けたチョコレートボンボンの中身を空けるだけで、至福の時間はあっさりと終わりを告げた。
「ミッテルトさん、まだお風呂は空いていますけど、どうします?」
「あー、それなんだけど……まだ歩くのは難しいかな」
よしんば一人で歩けたとしても、下手をすれば溺れるようなコンディションで無理矢理行ったと知れば、アーシアが絶対に止める。下手をすれば誰に見たことがないであろう、彼女の怒りを知ることが出来るかもしれない。
というか、溺死する堕天使とか恥過ぎて歴史にさえ載せられないレベル。誰だってそんなのはごめんだ。
「えっと、それならちょっと待っててくださいね」
アーシアがスリッパをパタパタと鳴らしながら、早足で部屋を出ていく。
何が出来るでもないので大人しくしていると、アーシアがお湯の張った桶とタオルを持って戻ってきた。
「それ、どうするの?」
「僭越ながら、お風呂に入れないミッテルトさんの身体を拭いて差し上げようと……」
「ああー……」
なるほど、アーシアならそういう考えに至るよね。
でも、流石にちょっと恥ずかしい。裸体を見られることもそうだが、介護されることそのものが恥ずかしい。
「そ、そこまでしてもらわなくてもいいって」
「ダメですよ。女の子なんですから、不衛生なのは神が許しても私が許しません」
此方の意思などお構いなしに、アーシアは献身的に私の服を脱がしていく。
ペルソナに覚醒してからというものの、アーシアは随分と押しが強くなった。
以前ならば、此方の意思を尊重して一歩引いていた状況でも、一本芯を通すことが当たり前になってきている。
我儘になるのはいいことだと思う。アーシアは謙虚すぎるきらいがあって、それが理由で苦労してきたことを知っているから。
でも、正直このタイミングで我を通して欲しくはなかったかな~……。
「え、ええっと。せめて電気は消して欲しい、かなー」
「あ、はい。分かりました」
せめてもの抵抗と言わんばかりに出た言葉に、アーシアは素直に従う。
その程度で和らぐ羞恥ではないのだが、どうしようもない時こそ抵抗しようとするのは決しておかしなことではないと思う。
「じゃあ――お願いするね」
明かりの消えた部屋で、微かな衣擦れの音が響く。
ミッテルトがぎこちなくも、浴衣の上をはだけさせている。
アーシアはそんな彼女の行いを静かに見守っている。下手に介助するのは、ミッテルトの助けにならないことを理解しているから。
衣擦れの音と共に露わになっていく肢体は、太陽に照らされた新雪の如く美しい。
白々とした光が照らす雪色の中で、豊かさの象徴とも言える麦畑の如し金髪が、隙間風によって静かに揺れる。
春と冬という、交わることのない世界の共存。故に、それは幻想となる。
そのような美しい光景を前にアーシアは――無意識に、喉を鳴らしていた。
「……どしたの?」
「え?あ、はい!すみません、すぐに拭きますね」
文字通り飛んでいた意識を、ミッテルトの言葉によって取り戻す。
取り繕うように慌てて作業に取り掛かろうとするも、決して乱暴には扱わないようにと、細心の注意を払う。
「ミッテルトさんの身体、凄く綺麗ですね」
「そう?気にしたことなかったし、褒めてくれる人もいなかったから」
一切の抵抗なく濡れたタオルが皮膚を滑る感覚は、拭いているアーシアさえ気持ちよくさせる快感を与えてくれる。
「有斗先輩にもですか?」
「うん。そもそも彼自身、積極的に自分から話すタイプじゃないしね。それなりに長く一緒に過ごしてきたけれど、まだまだ知らないことの方が多いんじゃないかしら」
それを聞いて、アーシアは零に対してほんのり不満を募らせる。
身勝手な感情であることは理解しつつも、同居までしているにも関わらず男の甲斐性のひとつも見せていないのは、同じ女としては納得しがたいものがある。
逆に一誠の場合、必要以上に女性を褒める傾向にある為、どうしても比較してしまうのも原因だった。
「でも、それって……」
「辛くないか、って?」
「……はい」
「いや、別に?」
あっけらかんと答えるミッテルトの背中からは、一切の悲壮感は見られない。
逆に、その軽い調子での返答が、アーシアの心を締め付ける。
「どうしてですか?」
「だって――この気持ちを告げる気はないし」
「――え?」
遂に、アーシアの手が止まる。
それほどまでに、その発言が衝撃的だった。
「私とレイには、決定的な違いがある。レイは人間で、私は堕天使――人間じゃないってこと」
「あ――」
「私達は、人間と違って長い時間を生きる。寿命だけじゃなくて、姿形だってそのまま。どんなに肩を並べて同じ速さで歩こうとしても、次第に離れていく運命にある。姿は魔法とかで誤魔化すことは出来ても、それはただの逃避でしかない。目に見えなくても、現実はいつだって変わらない」
「でも、そんなの――」
「レイは気にしないって?そうね、そうかもしれない。だけど――彼は『人間』で在ることに強いこだわりを持っている。その理由の重さまでは測れないけれど、もし彼が人間という『自由』を尊重しているとしたら――私の存在は、足枷にしかならない」
「そんな、こと」
「ない、と言い切れる?いや、優しい彼のことだから、不自然なまでに自然体で在ろうとするでしょうね。例え、自分の生き様を捨ててでも。
ふと、ミッテルトが窓から覗く月を見上げる。
その横顔はいっそ潔癖なまでに美しく、硝子細工のように脆く見えた。
「私はレイに救われた。あの時彼に出会えていなければ、私はレイナーレ姉さま共々リアス達に殺されていた。それどころか、下級堕天使には過分な力を得るきっかけさえ与えてくれた。先の見えない暗闇に光明を見出してくれた彼に報いたい」
「――その為なら、想いを胸に秘め続けることも辞さない、と?」
アーシアの目は、躊躇うことなく無言で頷く姿を映した。
瞬間、胸中に去来したのは、ミッテルトに対する明確な怒りだった。
「本当なら、この気持ちを誰にも話すつもりなんてなかったのに、なんで言っちゃったかなぁ……。妙に頭が浮付いている気もするし、まだ疲れが――」
「――ったら」
「ん?」
「だったら、私が貴女を幸せにします。例え、私の人生を投げうってでも」
怒りの感情は、意趣返しと共に吐き出される。
そして、アーシアは乱暴にミッテルトを自分の方へと振り返らせると、そのまま彼女の肩を押し、倒れ込んだ。
「――え?」
浴衣がはだけ露出したミッテルトの上半身を、月光が余すことなく晒し上げる。
何が起こったのかが理解できない、そんな呆気にとられた表情が、アーシアの中で燻る未知の感情を昂らせていく。
「……私は、貴女のおかげで変わることができました。弱虫で、消極的で、迎合するだけの弱い自分を変えてくれたのは、ミッテルトさんが私を友達だと――好きだと言ってくれたからなんですよ?」
「それより、なんで」
「抑圧していた自分の気持ちを、曝け出すことは決して悪いことではない。良い子でいる必要はないんだって分かったから」
「待って、ねぇ」
「――貴女が貴方自身を救わないのなら、私が貴女の救いとなりましょう」
一方的に言葉を紡ぐアーシアから離れようと腕を伸ばすも、逆に手首を掴まれそのまま畳に押さえつけられる。
続いて、互いの太腿が絡み合う形でホールドされてしまい、筋力の弱った身体では身動き一つとれない状態となってしまう。
「ひゃっ――」
アーシアはゆっくりとミッテルトの首筋に顔を埋めると、匂いを堪能するように呼吸を繰り返す。
絶え間なく首筋と耳を撫でる暖かな風は、一切の抵抗が利かない肉体にはあまりにも刺激が強すぎた。
「やめっ、汗臭い、からぁ……!!」
「そんなことありません。本当に、いい匂い」
香水では味わえない、内から昇る自然な甘い少女の香りが、アーシアの脳を溶かす。
もっと味わいたい、独占したい――そんな手前勝手な欲求が津波のように押し寄せてくる。
それを、アーシアは一切否定せず、心のままにミッテルトの身体を侵略していく。
「んぃ――!!」
カリ、と音を立ててミッテルトの耳たぶを噛む。
先程まで慈しむような手つきで身体を拭いていた姿とは打って変わって、その行動は狩った獲物で遊ぶ肉食動物のそれ。
ミッテルトにとっても、アーシアがその様な行動を起こすとは想定外であった為、予測不能な痛みを前に過剰に悶えてしまう。
「アーシア、貴女おかしいわよ――ぉお!!」
「……おはひいのは、んっ、どひらですか」
ミッテルトの抗議の声を、アーシアは自らの舌を耳孔に侵入させることで無理矢理遮断する。
ツンとした舌触りを不快に思うことなく、ひたすら奥へと進もうと更に舌を伸ばしていく。
「んっ……やぁっ……ぐちゃぐちゃぁ……!!」
まるで脳髄を犯されるような錯覚に見舞われるミッテルト。
自分でさえ滅多に触れない領域を、問答無用で蹂躙される感覚は、筆舌に尽くしがたい快楽を昇らせていく。
纏まらない思考の中、理容室で頭を洗われる感覚もこんな感じなのかな、と益体の無い発想が流れていく。
背筋がぞくぞくする、耳の中が気持ち悪い、抵抗できないことがもどかしい。
どうにかしなければならないと思いつつも、それが新たな快楽の呼び水になっていることに気付けぬまま、二人は徐々に沼へと沈んでいく。
ちゅぽ、と淫靡な音と共に抜かれる舌。
伝う銀色の糸は、ゆっくりと頭を上げる行為と共に細くなり、遂にはミッテルトの胸の中心で雫となって落ちる。
再び、二人の視線が交わる。
前後不覚な快楽によって瞳を滲ませるミッテルトと、酩酊したように頬を上気させるアーシア。
唯一共通している部分があるとすれば、それはどちらも正常ではないという一点に尽きた。
「貴女の発想は、構想の時点で破綻しています。傍から見て丸わかりなぐらい有斗先輩が好きである癖に、その恋慕の情を隠し通すなんて、不可能なんですよ」
「――ッ、でも私は!」
「貴女のそれは奥ゆかしさでもなんでもない。ただの自己犠牲です。歪んだ思想です。――ただの、病気です」
零に対するスタンスを、はっきりとした口調で容赦なく否定される。
ミッテルトは反論したくても、声が出せない。何を言っても、それ以上の言霊で上から潰される気しかしなかったから。
「時間の問題だったんですよ。でも、それは長引くほど貴女自身を殺す毒となっていたことを思えば、今回の失言は光明でした」
「そんなの、私が苦しいだけなら――」
「私も、苦しいです。貴女が幸せでいられないと知った以上、この苦痛は永遠に私の心を蝕むことでしょう」
「…………」
「貴女が先輩を思うような気持ちが、他の誰かには無いと思っていたのですか?自らを傷つけてでも他者を救いたいと思う存在がいないとでも」
アーシアの射貫くような視線から、思わず首を傾けて逃げてしまう。
いない、などと言える訳がなかった。
だって、目の前に居る聖女こそ、その言葉を飾るに相応しい人物であるのだから。
「――もし、貴女が頑なに先輩との愛を育むことを拒むというのなら」
ミッテルトの左手を抑えていた右手を、彼女の慎ましやかな双丘に沿える。
「私が、貴女にとっての幸せの象徴となりましょう。例え先輩への想いを、塗り潰してでも」
「やっ――ダメッ……!!」
瞬間、ミッテルトは胸部に訪れるであろう刺激に両目を閉じて身構える。
だが、想像していた刺激は一向に訪れず、何事かと恐る恐る目を開けると、軽く前後に揺れて茫然と俯くアーシアが映った。
「アー……シア?」
不意に、アーシアの身体がミッテルトへと倒れ込む。
軽く苦悶の声を零すも、アーシアの体重の軽さも相まってそれ以上の被害は出なかった。
ミッテルトの顔の近くで、等間隔な息遣いが聞こえる。
横を向き、それがアーシアの寝息であることに気付いた。
「なんだって言うのよ、もう」
疲労が重なった身体を布団に投げ出し、気だるげに天井を見つめる。
先程のアーシアは、明らかに様子がおかしかった。
色々吹っ切れたことは知っていても、ここまでじゃなかった筈。
それを言うならば、自分も同じ。言葉を滑らせてしまったこともそうだが、頭も上手く働かなかった。
どうして――そう考え、ふと視界の端に先程食べたチョコレートの空箱が映る。
まさかと思い、アーシアを起こさないように慎重に、時間をかけて足を使ってでもどうにか箱を手に入れる。
「……アザゼル様、怨みますよ」
パッケージをよく見てみると、そこに書かれた度数は、一般的に販売されているチョコレートボンボンの度数を遥かに凌ぐ数値が記されていた。
アザゼルの趣味であることは疑いようもなかったが、まさかここまで自分本位の見舞い品を渡されていたとは思いもよらなかった。
ミッテルトのアザゼルへの評価が、急転直下となった瞬間である。
幸せそうに眠るアーシアの頭を、静かに優しく撫でる。
あんなことをされた後だが、彼女に対する悪感情は一欠片もない。
女性同士で、なんて発想はそもそも堕天使である時点で存在しないし、倫理観を語れる立場でもない。
それに、アーシア相手ならば別に構わない、という感情も確かにあった。
あそこで止めたのは、アーシアが正常でないことが分かり切っていたから。
下手にあそこから情事に及ぼうものならば、アーシアに酷い爪痕を残す結果となっていたに違いない。
現状でも十分ヤバい気もしなくはないが、そこはどうにか証拠隠滅して、かつ酒で記憶が飛んだということにして誤魔化す。
幸い、悪魔である彼女なら、自己補完する力で酒気など簡単に抜けるだろうしきっと大丈夫。……そう信じたい。
「――私は病気、か」
ふと、アーシアに告げられた言葉を反芻する。
その通りなのだろう。自分が身を引いて相手の幸せを願うなど、傲慢もいいところだ。
零が自分を選ばない未来だって有り得るのに、それを加味したうえでこんな発想を抱いているのだから。
その癖、もし自分以外の人外が彼と結ばれたとしても、それを引きはがそうとは微塵も考えていない。
ああ、その矛盾を抱えてなお意思を貫こうとするのだから、それは誰が聴いても病気だと評するだろう。
――だが、それでも。
アーシアの凶行と歯に衣着せぬ発言をされた今でも、意思が揺らぐことはない。
こうして意識して初めて、自分が狂っているのだと理解する。
なればこそ、余計に狂気を宿す愛を表に出すわけにはいかない。
私はただ、彼の為に生きて、死ぬ。
あの日命を救われてから続く誓いは、これからも続いていく。
改めて自身に告げる誓いを見届けるのは、雲によって陰りを刺す月だけだった。
――ちなみにではあるが。
次の日までに証拠隠滅を終えられたことで、予想通りアーシアの記憶半分になっていた部分を改竄した結果、て何とか誤魔化すことに成功。
そして、アザゼルには見舞い品に対する感謝と同時に、教師としての常識をみっちり叩きこんでおいたりしたのは、また別の話。
ぶっちゃけ、R-15の基準を色々調べてもようわからん。
矢吹神の某漫画だって、一応R-15ななら、この程度は誤差だよ誤差!と思いつつも、ハーメルンだとどうなるか。
まぁ、消されたら増える(投稿期間までの間隔が)だけだから、何の問題もないな!