Infinite possibility world ~ ver Highschool D×D 作:花極四季
ディオドラをどうぶっ殺そうと悩んだ結果、悩みに悩んでこの結果。
その代わり、ペルソナ5を経て構想がやっと練られたので、取り敢えずざっくりと書いてみた。なお、試行錯誤して書いてたから前後で文章に齟齬がある可能性大。
(もう誤字とかの確認は読者任せで)いいじゃん。と下衆い思考で自分を正当化させるスタイル。
あの一件から、私はまともにアーシアと会うことが出来ないでいる。
理由は単純。私が勝手にアーシアにどう接すればよいか分からなくなっただけ。
アーシアは悪くない。悪いのは、必要以上に引き摺っている私。
端から見れば、何てこと無い言葉のやり取りさえも、私にとっては難しすぎた。
踏み込むことで訪れる変化。良きにしろ悪きにしろ、一度踏み出せば平行線は有り得ない。
確率は二分の一。プラスに働けば良いが、その逆ならば?
アーシアという少女の人間性を理解していてなお、最悪の可能性に過度に怯えている。
……いや、だからこそ、なのかもしれない。
アーシアが素晴らしい存在であればあるほど、見捨てられた場合の反動が恐ろしい。
それに、純真無垢、清廉潔白を体現した彼女の隣に私が立てば、その魅力は汚れた鏡に映し出されるが如くくすんでしまうだろう。
それは、許されないことだ。あの子の稀有な輝きを曇らせるのは、決して許される行為ではない。
だから、返事を返さなかったのは、正しいことなんだ。
大切だからこそ、現状維持を務める。停滞こそが幸福の一手なのだと自己暗示を掛ける。
だけどこうして今も、思考の堂々巡りをしている。
何度目かも分からない自己問答。何の意味も価値をももたらさない自傷行為。
無意味な行為を繰り返す、その理由。それも分かりきっている。
要は、未練だ。
アーシアと両思いであることを公言し、友人として垣根なく過ごせる幸福な可能性に、私は未練を残している。
アーシアの輝きを損なわせたくないと言いつつも、そんな我儘な想いを捨てきれずにいる。
なんて自分勝手で、愚かしいことか。
選択の果てにあるのが幸福ではなく不幸だったとして、傷つくのは自分だけではないというのに、そのような不相応な祈りを抱え続けている。
自分が傷つくこと以上に、アーシアが傷つくことのほうが恐ろしい。だからこそ決意しようとしているのに、天秤は決して静止することはない。
その理由も分かっている。分かっている、けど――それで納得できるならば、こんなに悩んでは居ない。
「――では、ペルソナをもっと扱えるようになりたいと」
「え、ええ。レイと私の間では、埋めがたいぐらいの実力差があるのは明確だし、だけどペルソナ使いってレイぐらいしかいないし、消去法でね」
ぼんやりしていた思考に挟まれたイゴールの言葉に、私は咄嗟に頷き返す。
私とレイでは、ペルソナの質や扱う技量に天と地ほどの差がある。
経験の差であることは言うまでもなく、そもそも私はペルソナの事を詳しく知らない。
便利な道具も、機能を理解していなければ十全に扱うことは出来ない。
レイを危険な目に晒さない為にも、身近にいる私からまず強くなるべきだと判断したはいいが、行き詰まっていた。
例の少ない力であるため、汎用的な訓練方法があるかどうかも怪しい上に、数少ない例はあまりにも優れすぎた。
過去にレイにペルソナの使い方を聞いたことはあるが、はっきり言ってざっくりしすぎていた。
理屈や理論ではなく、感覚で説明されても正直困るというのが本音だ。
逆に言えば、形容する表現を持ったことがない――つまり、それぐらい彼にとってペルソナを行使することは自然なことだったということでもある。
私のように試行錯誤する必要もない、比べるまでもない才能の差。
護るべき存在の強さが、護ろうとしている本人よりも上と言うのは、笑えない冗談だ。
……いや、そもそも二天龍が暴れた戦争を生き残れるコカビエルを圧倒できて、その二天龍の片割れを、例え神器になっているとはいえ実力で上であることを見せつけるとか、下級堕天使でしかない自分にとって、当然でもあり追いつこうなどと考えること自体が愚行に等しい。
それでも、立ち止まるなんて考えは沸かない。
何も出来ないまま、ただ大事な人間が傷つくのを眺めるだけなんて、御免だから。
「左様でございますか。成る程、素晴らしい着眼点ですな。私自身はペルソナ使いにあらずとも、幾多のペルソナ使いを導いてきた経験があります。助言ならば望むだけ幾らでもいたしましょう」
納得し、姿勢を正すとイゴールは語り始めた。
「そうですね、以前にも申し上げたかもしれませんが、ペルソナとは、人間の精神の奥底にある、表面には現れていない別人格。貴方は人間ではありませんが、人間的な要素――知識や感性が類似さえしていれば、切っ掛けひとつで自覚できるものです。過去に犬がペルソナを発現したという経緯を私も拝見しております」
「犬ねぇ。……本当に?」
「はい。とは言え、ただの犬ではなく、精神的には人間――と言うよりも、武人或いは騎士に近い高潔な精神を宿した犬ですな。それこそ、肉体的差と人語を介せない以外は何ら違いのないと思わせる程度に、彼の者は人間味に溢れておりました」
犬がペルソナを発動するイメージをする。
犬のペルソナだから、多分外見も犬っぽいんだろうな。
……うん、可愛い。二人揃って一緒に寝ている図と、野原を駆け回る姿を幻視した。
ぶんぶんと頭を振り、緩いイメージを振り払う。今はそんな妄想に耽っている暇はない。
「正直信じられないけど、まぁそれはいいわ。それで、だからなんだって言うの?」
「つまり、ペルソナとは決して特別なものではありません。誰しもが持ち得る、別の側面の具現でしかないのです。そして、その力の源もまた、同種のもの」
「それが――もしかして、絆だって言うの?」
レイが度々口にしていた、『絆』という単語。
もしかして、と思って口にしてみたが、イゴールの不敵な笑みが確信を語っていた。
「絆とは、すなわち心を豊かにする繋がり。そして、心とは海。全ての生命の始まりであり、無限大の広がりを持つ世界でもあります。ヒトの心は無意識に繋がっており、それらは集合的無意識と呼ばれ、そこからペルソナを呼び出すことが出来る才能の持ち主が、ワイルドと呼ばれるペルソナ使いなのです」
「そして、ワイルドの素養がないペルソナ使いが扱えるペルソナは実質的にひとつ、だったっけ。その言い方からすれば、一般的なペルソナ使いは個人的無意識に引き摺られる形で、ペルソナが具現するってことでいいのかしら」
レイから、ある程度ペルソナについては聞き齧っている。
言葉にはしていないが、ワイルドによって召喚されたペルソナと、一般的なペルソナで全く同一の性質のものが生まれた場合、その姿形も別物であるケースが殆どだと聞かされている。
それはつまり、個人的無意識によって抱くイメージが、ペルソナに反映されたからと言う解釈が出来る。
「その通り。そして、ペルソナとは個人を象徴するものであると同時に、普段は表に出ない抑圧された感情が形を得たものでもあります。発現した場合に生まれ出る形は、その状況によって大きく変化すると言っても過言ではありません」
「それは、極限状態においてこそヒトの本質が分かる、みたいな感じ?」
「それもまた、ひとつの考え方ですな。『死』を内に宿す者は死を象徴とした、或いは嘘と虚飾で満たされた世界を『人間の可能性』という形で祓う為の象徴として、或いは偽りの正義に溺れた者達を導く『希望』の象徴として、その心はいつしか形を変え、絶望を跳ね除ける力へと覚醒しました。始まりが何であれ、立場や心境が変われば心もまた変化し、それに呼応するようにペルソナもまた形を変えていく。本質と言う言葉で一括りに出来るほど、人間の心理というものは単純ではありませぬ」
思い返すかのように、イゴールは語る。
これも、口ぶりからしてかつてあった出来事なのだろうか。
だが、待って欲しい。そうなると解せない。
これではまるで、ペルソナ使いは探せば見つかる程度の存在でしか無いようではないか。
だって、そうだろう?もしこんな力を持つ人間がちらほらといれば、三陣営に気付かれない訳がない。
ましてや、遥か昔から存在する者達だって少なくないコミュニティを出し抜ける存在がいることが、まず有り得ない。
仮に出来たとして、噂さえも出回らないのは異常を通り越して不気味だ。
その存在は現実か、それとも夢か――まるで、胡蝶の夢のような虚ろな存在。
その事実は――まるで、同じペルソナ使いである有斗零という存在も、同じく胡蝶の夢ではないのか、という恐怖へと至らせるピースでもあった。
「――どう、なされましたかな?」
「――――ッ」
イゴールの声によって、思考の海から急激に引き揚げさせられる。
我ながら馬鹿馬鹿しい妄想だ。
だって、レイは確かにそこにいるし、ペルソナの存在だって過去を振り返れば現実であることは一目瞭然。
夢だなんて、それこそ有り得ない話だ。
「何でもないわ」
「そのような表情をなされて、何でもないというのは些か無理があるのではないかと」
「……?」
「自覚なし、ですか。いやはや、どうにも根が深い問題と見える」
呆れ混じりに心配するイゴール。
勝手に納得しているのが少し気に食わない。
「どのような悩みを抱えているかは知りませぬが、私めに打ち明けてみませんか?その様子では、身近な相手には吐き出せない内容なのでしょう。私ならば、ここの存在を知らない者に情報が漏れることもありませんし、どうですかな?」
「……レイにも言わないでよ」
「心得ております」
正直、ここであまり抵抗なくイゴールの言葉に従ったのは、それだけ精神的に余裕がなかったからだろう。
ベルベッドルームは、部屋と形容してはいるが、実際は意識だけがこの場へと移動しているに過ぎない。
肉体はベルベッドルームに入った時点で夢を見ているような状態に陥っているとのこと。
他人からすれば突如と動きを止めて微動だにしない不審者に映るが、幸いとベルベッドルームは自宅から行ける為、醜態を晒すことはない。
と言うか、レイの口ぶりではベルベッドルームの入り口は外にもちらほらあるようだし、いずれは醜態を晒すかもしれないと思うと、気が滅入る。
閑話休題。
とにかく、決心したからには吐き出さないと勿体無い。
折角踏ん切りがついたのだから、やけくそ気味に全てを吐き出した。
「成る程、事情は把握しました。しかし、友人を思うがあまり身を引くとは……何とも胸打たれる話ですな」
「美談でもなんでもないわよ。結局、その決断も簡単に揺らぐものでしかない。その程度の覚悟でしかないのよ」
腹の底からの溜息を吐く。
イゴールはそれを意に介する様子もなく、タロットカードをテーブルに並べていく。
二枚横並びに置かれたそれは、恐らくは私の今後を占う為に用意されたものだろう。
「貴方は、占いはどこまで信用なされますかな?」
「……信じたい奴は信じて、それ以外は気に留めない感じかしら」
「成る程、模範的な解答だ。占いは未来を暗示する指針ではありますが、それが全てではありません。悪い結果を信じない、というのは最悪を回避するという意味でも決して悪い選択ではないですからな。しかし、安易に取捨選択できるほど占いの結果というのは馬鹿に出来るものでもありません。或いは、占った結果に無意識に引き寄せられているのかもしれませんな。それが最良であれ最悪であれ、ね」
「だから、何なの?」
「いえ、一度開いてしまえば貴方の未来はタロットの結果に引き寄せられるかもしれませんし、例え見ようとせずとも未来は収束する可能性もある。或いは、全く別の未来を描くことになるやもしれません。開かなければ箱の中身を知ることが出来ないようにね。――貴方ならばどうしますか?占うか、占わないか」
血管が浮き出るほどに見開いたイゴールの瞳が、答えを待つ。
まるで、本当にイゴールの言葉通りの可能性が訪れるのでは?と思える程に重い言葉を前に、私は一瞬たじろいで――
「――見るわ。未来が収束する?いいじゃない、可能性を頭に入れておけば対策だって出来るかもしれないし、何も知らないよりかは気が楽だわ」
「では、そのように」
答えを聞き届けたイゴールは、おもむろにタロットを捲った。
「"月"の正位置。不安、迷い、恐れを示すカード。――まさに今、貴方は迷っておられる。霧の深い森の中を歩くが如く、答えを見いだせないまま、しかし歩みを止めようとはしない。後ろを振り返れば光が差し込んでおり、戻ることは容易い筈なのに、それでも決して振り返らない。迷いが迷いを呼び、前後不覚に陥っている状態。私めが貴方の言葉を纏めた結果、そのように解釈しました」
「分かっていて占うって、仕込みと勘違いされそうじゃない?」
私の茶々を無視し、二枚目のタロットを捲る。
「"死神"の正位置。終末、崩壊、死を暗示するカード。貴方は、迷い足の果てに危機に見舞われるようだ。それがどのような結果となるかは分かりかねますが、決して悲観なされないことです。終わりと始まりは、常に隣り合わせの関係。終わりを乗り越えた先に、貴方にとっての転換期が訪れるやもしれません」
イゴールの口から淡々と告げられる言葉は、不気味な程に重圧を秘めていた。
たかが占い、と高を括っていた癖に、今ではどうしてかその結果に惹かれて止まない。
まるで、その言葉に心当たりがあるかのように――
「……それを信じるのであれば、私は迷った末にひとつの答えを導き出せるのね。内容はともかく」
思考を切り替えるべく、言うまでもない事実を改めて口にする。
「貴方がそれを望み、求めるのであれば、その願いは果たされるでしょう。貴方の運命は、再び節目を迎えようとしている。決して、誤った選択をなされぬよう」
間違えれば、未来は閉ざされるとでも言うのだろうか。
そんなたったひとつのミスで、全てが水疱に帰すだなんて、そんなの、まるで――
「――まだ、思い出せませんかな?」
「え?」
「先程、分かっていて占うのは仕込みだと申されましたが――はい、確かにその通り。これは、未来ではなく現在を占う為のもの。これからではなく、今まさに、貴方に起こっているのだと、貴方は忘れているに過ぎない」
「な、にを――」
刹那、鋭い痛みが脳内を蹂躙し始める。
無様に、イゴールの目も憚らずもがき苦しむ。
その最中、まるで彫り込まれるかのように脳裏に思い起こされる記憶の数々。
違和感は最初からあった。
何故、私はベルベッドルームにいるのか。
ここに訪れてから、恐らくはほんの数分前程度の記憶が思い返せなかったこと。
そして、それに気づかず当たり前のように対応していたのか。
そうだ、私は、私は――!!
「ハァッ、ハッ、ア――!!」
全身から汗が吹き出る。呼吸は荒れ、動悸も激しく鳴り響いている。
あの瞬間の記憶がフラッシュバックしたと同時に、形容し難い恐怖が私を支配した。
同時に、ここに自分が居る理由も、何となく察した。
――だったら、まだ終わりじゃない。まだ、チャンスはある。
ここが分水嶺。しくじれば、本当に終わってしまう。イゴールの占いを、最悪の形で現実のものとしてしまう。
それだけは駄目だ。それだけは、この命に変えても、駄目!!
「……思い出されたのならば、最早ここに居る必要はないでしょう。さぁ、行くのです。運命を乗り越える為に」
言われるまでもない。
私は背後にあった扉へと駆けるべく、立ち上がる。
「お待ち下さい。最後にひとつ、助言を」
「何、急いでいるんだから、早く!!」
逸る気持ちをイゴールに吐き捨てる。
だけど、それを無視する気にはなれなかった。
それこそがここを訪れた真の意味だと、無意識に理解していたからかもしれない。
「では、単刀直入に。――素直に、自分に正直になることです。それが、貴方の行末を決める鍵となるでしょう」
それ以上、イゴールは言葉を紡ぐこと無く、ただまっすぐ私を見つめるだけ。
「――ありがとう、イゴール」
「いえいえ。貴方には、彼のお客人を支える力となってもらわねば、私としても困りますからな。再び会えることを、祈っております」
笑みを浮かべるイゴールに深く礼をする。
胡散臭いという感情は抜けないけど、それでも彼が私に真摯な態度を貫いてくれていることぐらいは分かる。
それが例え打算ありきなものだとしても、その打算が私にとっても益のあるものであるならば、感謝するのも当然だ。
「――待ってて、アーシア。今、助けるから」
胸の裡に落ちた言葉を抱いて、私は今度こそベルベッドルームの外への扉を開いた。
石柱に覆われた部屋の最奥にある玉座に座する男と、骨のようなものに手足を縛られた少女は、互いにまったく同じものに視点を落としていた。
一人は愉悦の感情を、一人は絶望の感情を抱いて。
「あっ……ああっ、ああああ」
「ふん、魔王ベルゼブブの血筋である僕に楯突こうなんて、身の程知らずにも程がある。――見てご覧アーシア。アレが、君の善性に惹かれて集る鴉の末路だ。君のせいで、彼女はこんなことになってしまった」
男――ディオドラ=アスタロトは、芝居がかった動きで、愉しそうに縛られた少女、アーシアへと語りかける。
アーシアの耳朶に呟くように身を寄せ、顎を撫でる。
そんな不快感など、彼女にとっては瑣末事でしかない。
「いずれ、グレモリーも眷属共々やってくるだろう。そして、僕が君の目の前で一人ずつ殺してあげよう。君に関わったことが最大の不幸だと脳髄の奥にまで刻ませるように、じっくり、たっぷりいたぶってね」
「あ、ああああああ」
涙で覆われた視界に、微かに映る影。
雫がひとつ落ち、視界が広がる。
そこには、認めたくない、だけど変えられない現実があった。
「――ミッテルトさあああああああああああああん!!!!」
カーペットの中心で、腹部に巨大な穴を空け、血の海に沈むミッテルトが、そこにはいた。
やめて!ディオドラ=アスタロトの力で、ペルソナを焼き払われたら、分身であるペルソナと繋がってるミッテルトの精神まで燃え尽きちゃう!(なお、ペルソナ全書)
お願い、死なないでミッテルト!あんたが今ここで倒れたら、零やアーシアとの約束はどうなっちゃうの? 希望はまだ残ってる。ここを耐えれば、ディオドラに勝てるんだから!
次回「ディオドラ死す」。デュエルスタンバイ!
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