Infinite possibility world ~ ver Highschool D×D 作:花極四季
色々突っ込みどころあるかも?
昨日転校してきた男性、有斗零のことをリアスは気に掛けていた。いや、警戒していると言った方が正しいだろう。
堕天使勢力がグレモリーが管理するこの土地で、我が物顔で横暴を敷いている中、まるで見計らったかのように学園に未知の存在が現れたのだ。
グレモリー家の当主として、その判断は適切であり、一切の間違いはない。
とはいえ、リアスも下手に彼の警戒心を煽りたくないという理由で、私を含めた二人だけで監視を行うと言っていた。
私なりに一日を通して学院内で彼の監視を結果、私個人としては彼は監視に値する存在ではないという結論に到った。
彼が弱いとか、小物だとかそういったマイナスイメージによる評価ではなく、単に彼からは欠片の悪意を感じられないというだけのこと。
清廉潔白と言うほど真っ白ではなく、腹黒外道と言うほど真っ黒でもない。
どこまでも普通の人間。裏の世界に関わっているとは、とても思えない。
少々感情表現に乏しい印象は受けましたが、それは判断材料には成り得ない。
とはいえ、あくまで私の個人的主観を尊重して警戒を解くなんて、そんな安易で無責任なことをリアスはしないだろうし、せめて私だけでも優しく接してあげようと思う。
そんなことを考えていた次の日、リアスから直接説明があった。
使い魔で彼を監視していたところ、堕天使と思わしき存在と接触を有斗君はしたとのこと。
あくまで遠目からの監視だった為会話を傍受することは出来なかったけれど、昨日の今日のことだから、余計にリアスは警戒を強めると言っていた。
曰く、接触自体は本当に事故だったようにも見えたが、それさえも演技かもしれない、と。
……仕方ないこととはいえ、彼女は今回の件で肩肘を張りすぎだと思う。
そんなお疲れな《王》をサポートをするのも、《女王》としての役目。
カリカリしていては折角私達だけの監視に留めているのに、内密にしていることがバレてしまう。それを踏まえて説得をしなければ。
相変わらず、学校では特になにもなかった。
授業以外は自由に行動できるので、適当にぶらついたり同じクラスの人と会話したりもした。
大半はNPCなんだろうけど、そういうのは気にしたら負けって過去の経験から学んでいるから、同じ人間だと思って接している。
実際、いい人ばかりだった。特に姫島朱乃さんが妙に僕に優しくしてくれた。
あれか、学級委員長的なポジなのかな?
まぁ、そんなこんなでまた放課後です。
結局昨日はゲームらしい展開があまりなかった為、今日こそ何か大きなアクションが起きないかと思い、すぐには家に帰らず適当に遠くを歩き回ってみた。
因みに、武器なんだけど色々迷った結果、木製バットにした。
やっぱり安易に振り回せて日常的に持っていても違和感がないといえば、これでしょう。
地図にして大凡拠点である街を外れた位置に、ちょっと気になる建物があった。
別段特別な感じもない、ただの廃屋なんだけど……こういう日常の影にある後ろめたい雰囲気の場所とかに、モンスターっていうのは良くいるものなのだ。
というか、そうでなければ真っ昼間からでもモンスターが徘徊しているようなものだから、折角日常と非日常を区別した世界観の意味がなくなってしまう、という経験談から来るメタ要素が本音なんだけどさ。
「おや?これは美味しそうな匂いだ。人間か?人間だな?」
そこには、上半身が女性、下半身が獣という歪な存在がいた。
……それはいいんだけど、なんかその人?半裸なんですけど、当然上が。
だったら見えちゃってるのか?というとそうではなく、どこぞの人間性を捧げるゲームのボスよろしく、髪によって大事な部分は隠れている。
いいのかな、これ。CERO制限とかあったっけ。
まぁ、いいや。それはいい。というか、気にしてたら僕の純情ハートが大変なことになってしまう。
「そういうお前は何だ」
「お前?生意気な人間が、偉そうな口を利く!」
こちらの疑問に答えることなく、モンスターは襲いかかってくる。
辛くも体当たりを避け、通り過ぎるモンスターの背中に一撃を叩き込む。
一瞬呻き声を上げるが、あまり効いた様子はない。流石最弱職業、なんともあるぜ!
「調子に乗るなよ、人間が!」
しかしモンスターは持ち前のタフネスで何度も何度も襲いかかってくる。
動きが単調とはいえ、何の肉体補正も受けていない僕は、体力的に限界が訪れる。
やがてその暴力的な一撃を、一瞬の隙に受けてしまう。
当然、貧弱一般人の僕は壁まで軽く吹っ飛ばされる。
「よくも手こずらせてくれたな、人間。貴様は八つ裂きでは終わらせん。四肢を一本ずつもぎ取り、貴様の目の前で次々咀嚼する様を見せつけてやる。そうして無惨な最期を迎えるが良い!」
勝ち誇ったかのように、一歩一歩歩みを進めるモンスター。
だが、死んでいない。死んでいないなら、勝ち目はある。
それに、このギリギリの体力調整は、僕にとっての賭でもあった。
昨日考えた通り、ペルソナ主人公にありがちなパターンなら――これで来る筈だ。僕の《神器》、ペルソナ能力が。
我は汝……汝は我……
「――っ、何だそれは」
頭の中に響く声と共に、眼前に見たことのあるカードが現れる。
これは――タロットカード。ペルソナではお馴染みの、タロットじゃないか。
無意識の内に、それに手を伸ばす。
身体はボロボロ。背中をうちつけたせいかまともに声も出ない。
しかし、言わなければならない。
「ペ……ル……ソ……ナ……!!」
今できる最大限の力を掌に込め、カードを砕いた。
「なっ、何だ!何が起こった!!」
僕を中心にして溢れ出る力の奔流。
一切が白で満たされた鎧と表情の違う仮面を頭部に四つ、そして胴・背中・両腕・両脚に魚・亀・猪・といった一貫性の無い動物の仮面を身に付けた、歪な存在。
そして、これが僕のペルソナ。ワイルドの力に囚われない、僕の心の内から出た、真の意味での僕のペルソナ。
我は汝の心の海より出でし者……
全ての悪を滅する化身、世界の調停者アヴァターラなり!!
「アヴァ……ターラ……?」
聞いたことがない、いや、聞いたことがあるけど、覚えていない。そんなどこか引っかかりのある名前。
「ひっ……貴様、それは何だ!」
「答える必要は――ない」
バットを杖に、身体を立ち上がらせる。
良く分からないが、モンスターは怯えている。こんなボロボロな僕でも、今なら勝ち目はある。
「アヴァターラ!」
気力を振り絞り、手を突き出し叫ぶ。
するとペルソナは僕の声に応えるかのように、力を溜め始める。
モンスターはそれに気が付くと、その隙を突いて襲いかかってくる――のではなく、逃げた。
しかし、遅い。圧倒的なまでに。
僕達とモンスターを中心にするように空間が歪み――大規模な爆発を起こした。
その反動で、建物は崩壊。僕も外へと投げ出される。
地面に激突した衝撃で、今度こそ僕の意識は途切れた。
朱乃の「大公からはぐれ悪魔の討伐依頼が来ている」という言葉によって、はぐれ悪魔バイザーの討伐に出る。
晴れて正式に私の眷属となったイッセーに、悪魔の駒の性能を実戦で理解してもらうには丁度良い相手と言えた。
眷属の一人である《戦車》塔城小猫の血の臭いがするという言葉に、バイザーの存在が近いという確信が得られる。
そして、根城としている廃屋の前まで辿り着き、いざ突入しようとした瞬間――私を含めたオカ研メンバー全員が戦慄した。
形容のしがたい、心の底から沸き上がる恐怖という感情。抗うという行為そのものを無意識に否定したくなる、圧倒的なまでの力。
それが、この廃屋の中に、在る。
この中でも、まともに悪魔との戦いも経験したことのないイッセーが先に膝を折った。
「イッセー!しっかりして頂戴!」
「部長……なんですか、これ」
「わからない。わからない、けど――とにかく一度体勢を立て直しましょう。私達の予想外の出来事がここで起こっている。不確定要素がある以上、安易な行動は避けるべきよ」
そう皆に指示をした瞬間――先程の圧力が更に膨れ上がった。
直感的にそれがヤバイものだと理解したリアスは、反射的に指示を出す。
「――――みんな、逃げて!」
イッセーを抱き上げ、瞬時にその場を離脱する。
それに僅かばかり遅れる形で、メンバー全員が廃屋の傍を離れる。
――――瞬間、音が消えた。
始めに聞こえたのは、建物が倒壊する音だった。
爆発のような現象が眼前で起こっている筈なのに、それ自体には音が存在しない。
まるで、音という概念さえも消し飛ばしたかのように。
廃屋があった場所から飛来してくる何かを反射的に躱す。
びちゃり、という耳障りな音が耳に入る。
そこにあったのは、見るにも絶えない程に原形を留めていない獣のような四肢だった。
「これ、まさか……バイザーの?」
恐怖に震えた唇で、そう呟く。
目の前のグロテスクな光景に対してではなく、これ程の惨い状況を作りだした力に対して、恐怖を覚えた。
「……私が偵察に出るわ。みんなは後から来て頂戴」
物音ひとつしなくなった静寂の中、そう告げる。
本来なら、このような危険な状況下で《王》が先行するなんてあってはならないことだ。
しかし、この中で最も力を持っているのは私。その私でさえあの圧力が消えた今でも身体の芯から震えが止まらない。
それだけの圧倒的力の差を前に、悪戯に兵を失うような真似はさせられない。グレモリーは、眷属を慈しむ一族なのだから。
「これは……」
倒壊した廃屋の一部を見て、驚く。
まるで削り取ったかのように綺麗な円形を象ったコンクリートがあちこちにばらまかれていた。
爆発だと思っていた現象は、私達が予想しているよりも遙かに高次の力だった。
グレモリー家に伝わる《滅びの力》と、どちらが強力なのか。比較したくもない。
「部長。こっちで倒れている人を発見しました。肉体もボロボロで、気絶しています」
「わかったわ。案内して頂戴」
眷属の一人である《騎士》木場祐斗の言葉により、案内を受ける。
案内された先に辿り着いた私は――何度目かの驚愕をする。
そこで朱乃に膝枕をされて気絶していた存在は、昨日転校してきたばかりの有斗零だった。
「知ってる天井だ……」
目を覚ましたら、デジャヴな光景が広がっていた。
間違いなく、ここは僕の家だな。
確かモンスターと戦って、ペルソナ使ったはいいけど相打ちになったんだっけ。
それで目を覚ましたらここに居た……ってことは、リスポーンしたって解釈でいいのかな?
何はともあれ、ここに戻ったならそれでいい。経験値は入ってないだろうけど、ペルソナが使えるようになっただけでも大躍進だ。
ていうか、何で上半身裸なんだ自分。
服を探すべく身体をベッドから起き上がらせようとした時、ベッドについた筈の右手に柔らかいものが当たる。
「あんっ……」
謎の声に思わず飛び退く。
ベッドには姫島朱乃が穏やかな寝息を立てて眠っていた。
そして、そんなことがどうでもよくなるぐらい重大な情報が眼前に存在していた。
……服を着ていないのだ。つまり、全裸だ。
実際に確認した訳ではないが、都合良く最後の一線を越えさせない我らが薄布先生のお陰で、ギリギリ姫島の肢体はR-15レベルにまで表現が抑えられている。
そして、先程ついた右手の感触。あれは紛れもなく、彼女の――
立ち上がる。
適当な壁の前に立つ。
そのまま頭を壁に打ち付ける。
全ては、その忌まわしい記憶を忘れるために。
「あら……?何をしてらっしゃるのです?」
姫島の声が聞こえたので、頭突きを中断する。
一応薄布先生は機能しているようで、上半身もろとも隠すように抱えている。
「それはこちらの台詞だ。何故君がそんなあられもない姿で私と共に寝ていたのだ」
「それはですね。貴方がベッドでうなされていたものですから、つい肌を合わせて安眠の助けになればと」
「……理由になっていないぞ。そもそも、何故君が私の部屋にいるのだ」
「そうですね。その説明に関しましては、放課後まで待ってもらえませんか?その方が双方都合が良いかと。それに……」
ちらり、と時計を見て、
「このままでは、遅刻してしまいますわよ?」
そう、笑顔で言った。
「なら、早くしてくれ。そんな姿では外も歩けまい」
「一緒に着替えます?」
「茶化すな。……兎に角、着替えたら呼んでくれ」
内心ドキドキを抑えながら、一目散に部屋を出る。
……なんで目が覚めてすぐにこんなハプニングに合わなければならんのだ。
男としては、最高のシチュエーションだ。
しかしこんな行動、ネカマであろうと躊躇うレベルだ。
それを躊躇いもなく実行し、あまつさえ余裕さえ感じられるその姿は、性欲を通り越して恐怖心すら煽ってくる。
何て言うか、隙を見せれば食べられてしまいそうな、そんな錯覚さえ覚えている。
学校でも感じていたが、ああいうあらあらうふふ系のキャラは、奥底では何を考えているかわかんないから怖いんだよ。
……何が起こったかを知るのは、放課後までお預け、か。
どうせ一瞬とはいえ、その時間さえも待ち遠しい。
「終わりましてよ」
「嘘ではないだろうな」
「疑り深いですわね。本当ですわ」
……思案して、ドアを開ける。
そこには、学校で見かけるいつもの姫島朱乃が立っていた。
「着替えるから、先に学園に向かっていろ。私は後で行く」
「折角同じ家から出るのですから、一緒に登校しないと勿体なくありません?」
「勿体ないも何も、この状況も不本意でしかないのだが……」
しかし、テコでも動く様子はないので、諦めることにした。
意志が弱いとか言うな。時間だって無いんだから、仕方ないんだってばよ。
「では、行きましょうか」
玄関前で待っていた姫島に先導される形で、家を出る。
無言で学園へ歩いていると、周囲の視線が突き刺さる。
そういえば、姫島は《駒王学園の二大お姉さま》の一人らしいな。もう一人は同じクラスのリアス・グレモリーのようだけど、会話もしたことない。
ぶっちゃけ、ふーん、って感じで聞き流していたから気が付かなかったけど、それなら視線の理由も納得できる。
「やはり、共に学園に向かうのは止めないか?」
「あら、私と一緒の通学が不服なのですか?」
「逆だ。私個人としても、君のような可愛らしい娘と通学するなんて至福でしかない。だが、私のような転校したての男を隣に連れて、君にあらぬ噂が立ってしまうのは本意ではないのだよ」
これは、紛れもない本音だ。
幾ら姫島が恐怖の対象となりそうとはいえ、それを理由に彼女を突っぱねることはしない。
それに、彼女のあんな大胆な行動にだって、きちんとした理由があるかどうかも放課後になればわかるのだ。それまでは中立の意識を崩すつもりはない。
ふと、姫島の足が止まっていることに気付く。
「どうした」
「いえ……まさかそんな明け透けなくそんなことを言われるとは思ってもいませんでしたので、驚いてしまっただけですわ」
「別に、本心を告げただけだろう。驚くことではない」
「ですからそれが――――もう、いいです」
どこか不満そうに、再び同じ歩幅で歩き出す姫島。
訳が分からないが、からかわれた意趣返しと思えばこれぐらいでおあいこだろう。
そんなこんなしている内に、学園に辿り着く。
本来なら長い道のりだったけど、姫島との会話でだいぶ気が紛れた。その点は感謝しないとね。
放課後。私は朝の段階で零くんに告げていた通り、諸々の事情を説明する場として、オカルト研究部へと案内している。
そんな慣れた道を歩いている間、私は授業中のことを振り返る。
とはいっても授業内容についてではなく、授業中に考えていた有斗零のことについてだ。
はぐれ悪魔バイザーの討伐をするべく廃屋を訪れた私達は、そこで彼と出会った。
身体はボロボロで、バイザーに襲われたのは一目瞭然だった。
同時に、バイザーを下したのも、恐らく彼だと言うことも。
事実、彼には《神器》特有の反応があった。
昨日は反応を確認出来なかったことから、あの日に発現したのだろう。
リアスは彼を大いに警戒していた。
無理はない。彼は私達全員を力の波動だけですくみ上がらせたのだ。
見つけたのが私達でなければ、ボロボロな彼に便乗して殺して神器を奪われていた可能性だって高い。
そうしなければ、いずれ強大な敵として立ち塞がってくるかもしれないから。
それをしない甘いリアスだから、私達は眷属になることを受け入れたのだ。
そして、彼の世話は私が一任することにした。
本来、監視も含めるなら私だけを彼の傍に置くのはあまりにもミステイクな采配といえる。
だけど、その条件を私が推薦したのだ。
私の膝の上で眠る彼の顔を見ていると、どうしても彼が悪人だとは思えなかった。
今回の神器の件だって、予期せぬ出来事であったにせよ、それ自体が彼の人間性を左右する要素にはならない。
根拠も何もないが、彼は私達に害を為す存在にはならない。そんな確信があった。
それに、彼はからかっていて面白い。
傷を癒し、彼を生肌で暖めるべく裸で擦り寄って寝ていたのだけれど、起きた時は壁に頭突きをしていたのだ。しかも無表情で。
クールに見えて、結構純情だということもわかり、余計に私の母性本能が擽られた。
――しかし、その後がいけなかった。
学園に通う道なりで、彼は私のことを可愛いなどと言い出したのだ。それも一切の羞恥を含んだ様子もなく。しかも、本心であることも付け加えて。
朝の様子を見れば、そういった飾った言葉は苦手なものだと勝手に思いこんでいた分、反動が凄い。
それに、可愛いなんて言われたのは子供の時以来だったのも、驚きへの拍車が掛かっている。
美しい、綺麗だなんて言葉はよく言われる。だけど、可愛いなんて言葉、ましてや同世代の相手に言われるとは思ってもいなかった。
……だから、だろうか。恥ずかしいという感情以上に、嬉しい、と思った自分が居た。
恥ずかしさのあまり、普段の私らしからぬ対応をしてしまったが、それも仕方のないことだと勝手に結論付けた。
そんなリアスが聞いたら酷く弄られるであろうエピソードを胸の内にしまい込み、オカルト研究部のドアを叩く。
ドアを開いた先には、リアスを含めた部員が全員出揃っていた。
私も定位置に移動し、零くんはドアから一番近い椅子の近くへと歩いていく。
「ようこそ、オカルト研究部へ。歓迎するわ、悪魔として、ね」
リアスが口火を切る。同時に、眷属全員が悪魔の羽を顕現させる。
零は悪魔の羽に関心を示した様子はなく、悪魔という言葉にのみ反応する。
「……悪魔、だと?」
「そうよ。貴方も見たのではなくて?人間とは異なる異質な存在を、あの廃屋で」
「……あれも、悪魔だというのか。てっきり化け物の類かと」
「人間からすれば、似たようなものかもしれないけどね。あれははぐれ悪魔と言って、本来主が存在する悪魔が、主を殺し自由になった存在のことを指す蔑称の対象よ」
「つまり、悪魔にとっては身内の恥のようなものか」
「それは違うわ。悪魔と一括りにしているとはいえ、本来私達とは何の繋がりもないわ。貴方だって、法律上の規定に沿った訳でも血のつながりもない相手が身内だといきなり言われて、認められないでしょう?」
「……まぁ、言いたいことは分かった。では、そのバイザーとやらに君達はどういう関わりがあったのだ?名前を知っている以上偶然居合わせました、なんてことは有り得まい」
「鋭いわね。それを説明するより前に、私の立場について説明しましょう。改めまして、私はリアス・グレモリー。グレモリー家の次期当主であり、駒王学園を中心とした管理をしているわ。当然、悪魔としての立場でね。そして、この場にいる貴方以外のオカ研のメンバー全員が、私の眷属よ」
リアスの紹介を皮切りに、各々が挨拶を済ませる。
イッセーくんがどこか木場くんに向けるような視線を零くんにぶつけていたけど、相変わらずの妬みだろう。
それ以外は別段変わった反応を示すことなく、淡々としたものとなった。
「それで、その管理の一環として、無法を敷いていたバイザーの討伐命令が下り、その場に居合わせたってことよ」
「成る程。で、何故姫島が私の家にいたんだ」
「貴方、あの倒壊した廃屋の付近で気絶していたのよ。だから自宅まで運んで、朱乃に看病させたって訳。……で、こっちこそ聞きたいことがあるんだけど、いいかしら?」
リアスがようやく言いたいことが言えるからか、無意識に語気を強める。
「何だ」
「貴方は――何者なの?」
「私はしがない人間だが」
「言い方を変えるわ。貴方、《神器》を持っているわね。その《神器》の力が、あの場所を崩壊させたの?」
その質問に、初めて零くんが考える仕草を見せる。
神器とは何か、というのを彼なりに言葉の端々から推測しているのかもしれない。
リアスのそういう要点を省いて聞きたいことだけ聞く癖は直すべきだと思う。
「イエスでもあり、ノーでもある。私は初めてあそこで《神器》の力を自覚した。だが、その力は私の予想の範疇を超えていた。せいぜいバイザーを打倒できるぐらいの力、程度の認識しか持っていなかったが、まさかあそこまでの威力があるとは思わなかったのだ」
「……もしかして、《神器》の発現と同時に、《禁手》に到ったとでもいうのかしら」
リアスの呟き、思考に没頭する。
その間に私が《禁手》についての補足を入れる。
《禁手》とは神器の力を高め、ある領域に至った者が発揮する力の形で、性能は通常の神器の状態の上位互換の性能となる。
本来なら、そう簡単に到れる訳がないのだが、死の一歩前まで迫ったことで、覚醒を起こしたのかもしれない。
《禁手》自体の発現条件は一貫している訳ではないらしく、条件は人それぞれらしい。
彼にその偶然が当てはまったというのなら、有り得ない話ではない。
「はっきり言うわ。今の貴方は危険よ。人間でありながら悪魔さえも退けられる圧倒的な力を持っているというのは、貴方の命が常に脅かされることに他ならない。どんなに《神器》が強力でも、貴方は悪魔の攻撃ひとつで死に至る脆さがある。一瞬の油断で殺されてしまうでしょう。ましてや、今はこの街で神器使いを狙っていると思われる堕天使勢力の反抗が相次いでいるのだから、貴方は確実に標的にされるわ」
危険性を説いても、零くんは一切の表情を変えない。
未だ夢物語としての域を出ていないのだろうか。
いや、彼は中々に聡明だ。理解した上で、恐れるに値しないと判断しているのかもしれない。
……でもそれは、慢心でしかない。
私は、彼に死んで欲しくない。
リアスのことだから、もし死亡時に現場に居合わせたなら、イッセーくん同様に無理矢理眷属にしてでも生き返らせるだろう。
しかし、そういう保険があったとしても、許容できるものではない。
「そこで提案があるんだけど――」
「悪いが、眷属になるつもりはない」
リアスの言葉に割って入り、即座に切り捨てる。
彼女が何を言おうとしていたのか、分かった上での行動だった。
「理由を聞いてもいいかしら?」
「私は、人間以外の何者にもなるつもりはない。一分一秒でも長く、死ぬ直前まで人間として生きていたい。ただそれだけだ」
零くんの瞳からは、感情の揺らぎが一切見られない。
彼は、人間である自分に誇りを持っている。
悪魔を嫌悪しての発言ではなく、人間としての自分を遵守しているに過ぎないのだ。
その在り方は、強く気高い。
自らの種を重んじる気持ちに貴賎はない。それは、悪魔であろうと、天使であろうと等しく持ち合わせているのだから、それを私達が否定することはできない。リアスも、それに気付いている。
彼の穢れのない澄んだ魂の色が見えるようだ。
同時に、私の中で彼への執着心が更に強くなるのを感じた。
彼を、決して失わせない。彼が死ぬなんてことは、絶対にあってはならない。
「……なら、せめて契約をしましょう。眷属にならなくても、この魔法陣の書かれた紙を使えば私達を呼べるわ。それでいざという時に助けを呼びなさい」
机を撫でるように伝い、魔法陣が彼の手元に渡る。
それを見て、訝しむような視線を向ける。
「何故ここまでする?」
「眷属じゃなくても、私と貴方は同じクラスの人間であり、グレモリーの立場としては護るべき存在なのよ」
聞けば、それは聞き心地の良い言葉だろうと誰もが思うだろう。
だが、その中には確実に打算がある。
彼を戦力として保有したい、敵の手にあの《神器》が渡るのを阻止したい。
決して口には出さないが、その真意を彼は見通している筈。
「わかった。ありがたく使わせてもらう」
それでも、彼は受け取ってくれた。
その事実に安心感を得る。
「それだけか?なら、失礼する」
用件が終わるが否や、何の名残惜しさも感じさせず、彼は部室を去っていった。
それを見送ると、リアスが椅子に座り、机に突っ伏す。
「はぁ……なんとかここまでこじつけられたわね」
「お疲れ様です、部長」
木場くんがリアスをねぎらい、小猫ちゃんがお茶を差し出す。
「ありがとう。……そういえば、彼の《神器》について触れるのを忘れていたわ」
「それは正しかったと思いますよ。こんな場所で大っぴらに出して、何かの拍子に暴走でもしようものなら、それこそ大惨事になりかねません。彼は《神器》を使えるようになってまだ日が浅いです。そうならない、なんて可能性を捨てきれる程、彼は《神器》に精通してはいない筈ですし」
「そうよね。だからこそ、こんな妥協する形になってしまったのは痛いわね。取り敢えず、監視は厳重にしないといけないわね」
リアスとしても罪悪感はあるのだろう。
それでも、この街の管理をする者として、不穏分子を放置は出来ない。
管理職ならではのジレンマという奴だ。
「後は、彼を信じるだけね。色々な意味でね」
溜息を吐くリアスの背を見守りながら、私は零くんの身を安全を祈り続けた。
Q:アヴァターラって何?
A:知らないなら調べない方が幸せになれるかも(ネタバレ的な意味で
Q:アヴァターラが初期ペルソナなの?
A:あれはキタローのタナトスみたいなもんです。実際は微妙に違うけど。
Q:イッセーと小猫の出番少ないですね。
A:誰もかれも喋らせると話が長くなっちゃうからね。落ち着いてから会話には参加させるよ。
Q:姫島さん推してますね。
A:好きだからね。からあげにレモンを掛けてレタスとご飯を一緒に頬張るぐらいのと同じぐらい好き。
Q:ゼロの使い魔の方はどうするの?
A:モチベ維持する限りこっちを優先するかも。