Infinite possibility world ~ ver Highschool D×D 作:花極四季
質素で飾り気のないベッドの上で、静かな寝息を立てる有斗零の姿を、傍らで静かに見守るミッテルト。
傷も癒え、どこにも異常が見当たらないにも関わらず、彼は昨日から目を覚まさない。
ヴァーリの攻撃が予想以上に堪えたのか、あのペルソナが無理矢理顕現した反動がきているのか。
出来ることは、ただ見守ることだけ。
その変えようのない事実が、酷くもどかしい。
零は自身の意思とは無関係に、世界の中心に身を置くことになった。
漠然としていた彼の価値が、先の一件で固まりつつある。
悪魔側は全面的に彼の味方であることを宣言。
アザゼルは彼の危険性を示唆した上で、現状維持。
ミカエルは明確な答えを出してはいない為、実質的な中立。
幸か不幸か、三つの勢力から異なる評価を受けてしまったせいで、折角結ばれた和平がとても不安定なものになってしまった。
二天龍の一角であり、ルシファーの血を宿すハイブリッドドラゴン、ヴァーリ・ルシファーなどとは比べものにならない強大な存在を内に宿している上に、それはまともな制御が可能な代物とは思えないものであるとなれば、警戒しない方が無理というものである。
あのペルソナと思わしき生命体が何なのかが分からない限り、下手を打てないが故の現状維持。
逆に言えば、これからの零の言葉次第でこの均衡も破綻する恐れさえあった。
嘘を言って煙に巻くことは出来ない。
零が起きれば、下に待機しているリアス達を呼ばなければならず、話はそれからということになっている。
何でそうなっているのかというと、当初は同じ部屋で待機していたのだが、あまりにも五月蠅くする為、ミッテルトに追い出されたのである。
下級堕天使の一喝に引き下がるリアス・グレモリーの図は、この家でのヒエラルキーを如実に表していた。
閑話休題。
零の発言を誘導する作戦だが、寝起きか否かなどの判別ぐらいどうとでもなる為、嘘を吐いたところで悪印象を与えるだけという結論に達していた。
だから彼女が出来ることは、無数に過ぎる最悪な未来を零が手繰り寄せないことを祈ることだけであった。
「ん、ん……」
微かな声と共に、不動を貫いていた零の身体が反応する。
それと同時に、ミッテルトは跳ねるように零の傍に寄る。
「レ、レイ!」
「……また、か」
頭に手を当て、身体を起こす零。
自らの置かれた状況を瞬時に判断したのか、その表情はどこか影がある。
「ちょ、ちょっと待っててね。みんなを呼んでくるから」
律儀な性格のミッテルトは、零が目覚めたが否や一階で待機しているリアス、イリナ、ゼノヴィアを呼びに戻った。
零を心配する人物がこれだけしかいない、という訳ではなく、多人数で押しかけても迷惑になるだけだから、絞りに絞った結果この人数に収まったというだけの話である。
その人望の厚さは流石としか言いようがないが、それも時と場合にもよるという典型的な例である。
「零、起きたのね。心配したのよ?」
「まったく、貴方は無茶ばかりするよ、本当に」
「ですが、良かったです。無事で……」
零の安否を確認するが否や、三者三様の感想を吐き出す。
「また心配を掛けたようだな、すまない」
「……まぁ、レイがこうなるのなんて今更な話だし、いちいち気にしてなんかいないわよ」
敢えて突っ慳貪な態度で返すミッテルト。
誰よりも零の心配をしている自負はあったが、いつも心配を掛けることに対しての苛立ちも少なからずあった。
役に立ってすらいない自分がそう思うのはお門違いにも程があると言う理性的な思考の反面、心配であるが故に子を叱る親のような気持ちが、ミッテルトにあのような発言を許してしまっていた。
「……あれからどうなったんだ?」
零自身から切り出された本題に、皆の緊張が高まっていく。
そこからは、ミッテルトを中心に三人が足りない部分を補完する形で説明が行われた。
「黒い鎧のペルソナ……」
「ええ。レイは、それに心当たりはある?」
まるで彼も知らないような前提で会話を進めているが、そうではないであろうことは予想できていた。
寧ろ、今更彼がその事実を把握していないなんて考える方が無理という話だ。
「……知らないな」
零は僅かに目線を逸らし、そう答える。
その機微は、嘘を肯定しているも同然だった。
「そう……」
しかし、そこで追求することはしない。
普段から実直が服を着て歩いているような青年がはぐらかすということは、それぐらい重要なことであり、話すことが憚られる内容だと言うこと。
あれの異常性を直に見た当人達からすれば、それも致し方ないことだと納得出来てしまうのだから、逆に質が悪いと言えよう。
どうせどんなに追求しても答えてくれるとは思えない。下手をすれば信用問題にすら関わってくる。
今は何が原因で彼の内に眠る爆弾が目を覚ますかが分からない状態だ。
精神面に異常が来した場合でも出現するかもしれない。そんな見えない脅威に怯えるように、三勢力のトップも、強攻策は避けるように命令を下していた。
探るにしても、悟られない程度に。
もどかしいことこの上ないが、正統な判断ではあった。
「それにしても、まさか君がここにいるとは思わなかった」
零はイリナの方を見て答える。
「会談の時は話も出来ませんでしたね。私はこの度成立した和平の親善大使として、天使側の代表として派遣されました。つきましては、家主である貴方の家に宿泊する許可を貰いに参じた次第です。一人で暮らすことも視野に入れていましたが、こちらの事情を知る人物と行動を共にした方が、色々と融通が利くと判断しました」
イリナが懇切丁寧に説明をする。当然ながら、ほぼ嘘である。
事前にミッテルトがイリナにそう説明するように言っておいたのである。
彼女がこの言い回しを強要したのは、理由がある。
零は間違いなく、護衛という名目でイリナがこの場にいると知れば申し出を拒否するだろう。
それはリアスでも、姫島でも変わらない。見ず知らずの赤の他人でさえも同様だろう。
彼が護られる側に甘んじる性格ではないのは、今更分かりきっていること。
聡い彼のことだから、言わずとも察する可能性はあるが、直接言うよりはバレないだろうし。
肝心なのは、切っ掛けを作ること。
一度地盤を作ってしまえば、人の良い彼のことだから、ずるずるとこっちの思惑に乗ってくれる筈。
打算にまみれた思考に吐き気がしそうだが、そうするしか彼を護れないというのであれば、進んで泥にだってまみれてやる。そんな気概が彼女にはあった。
因みにリアスと姫島は、定期的に様子見に赴くだけで零の家に住むということはない。
二人は大いに不満そうだったが、立場上仕方のないことと言えるだろう。
「こちらとしては、別に断る理由はない。ゼノヴィアも知古の友とひとつ屋根の下の方がいいだろうしな」
「零さん……ありがとうございます」
零は二つ返事でイリナの言葉を受け入れる。
引き合いに出したのがゼノヴィアと言う辺り、彼の思考ルーチンが如何に他人寄りかが分かる。
そんな性質を利用し、嘘を吐いてでも、彼女達は零を護ろうとしている。
起源とする感情は各々違えど、彼を大事に想っていることは変わらない。
だから心苦しさを抑え、笑顔を貼り付ける。
「相変わらずだな、貴方も。……で、調子はどうなんだ?」
「問題ない」
「全く、貴方の問題ないだって、アーシアの回復あってこそなんだからね?」
「耳の痛い話だ」
果たして本当にそう思っているのかも怪しい。
肩をすくめるポーズだけが唯一の判断材料であり、表情は張り付いた無表情だから質が悪いと言えよう。
「それよりも、お腹空いてない?簡単なものなら作れるけど」
「いや、いい。むしろ心配を掛けた詫びも兼ねて私が――」
「はい、アウト。病み上がりなんだから大人しく寝てなさい」
おもむろにベッドから出ようとする零の肩をリアスが押し、その勢いで元の状態に戻っていく。
そのあまりの抵抗のなさから、零がそれだけ弱っているのだと一同は判断した。
「ま、そういうことだから。それに、心配掛けたってのは間違ってないけど、貴方のお陰で助けられたこともまた事実なんだから、たまには恩返しさせなさい」
「貴方の料理と比べれば拙いものかもしれないが、それなりのものは用意させてもらうさ」
リアスとゼノヴィアは、そう意気込みながら部屋を出て行く。
その後に慌ててついていくイリナが、親鳥に付き従う雛のようにミッテルトには映った。
「……零のことだから、自分が助けられてばかりとか、そんなこと考えてるんでしょうけれど、貴方がそう思っているように、私達もまた同じ気持ちなのよ。それを忘れないで」
そう言い残し、ミッテルトもまた部屋を出る。
彼の善意は確かに尊きものであり、類を見ないものである。
だが、時としてそれは他者に苦痛をもたらす。
心の距離が近い相手であればあるほど、それは顕著になる。
大切な相手が傷つく姿を見て喜ぶ人間など、ただの狂人だ。
そんなマイノリティが彼女らに当てはまる訳もなく、等しく同じ痛みを抱いている。
だからこそ、護らなくてはならない。
痛みから逃れるため、痛みから零を遠ざけるため。
まただよ(笑)
目が覚めたら部屋のベッドの上って、もうテンプレ過ぎてたまんねぇわ。
ドラクエの勇者とかも、似たような気持ちになっていたのかな。
ミッテルトに叱られ、リアスに呆れられ、ゼノヴィアはいつも通り。そして何故かいたイリナ。
そのイリナも、うちの家族(仮)になりました。
親善大使がどうのって言ってたけど、本音ではゼノヴィアと一緒にいたいんでしょう?分かりますよ。
それにしても、男女比率が著しいな。自分以外みんな女じゃないか!
ハーレム?いいえ、ただ肩身が狭いだけです。
それにハーレムって男が複数の女性を囲うって感じで解釈されてるけど、実際には男子禁制とかそういうのでしょ?
僕の家に女性が集まってきてるのに、それで男子禁制とかひどくね?理不尽にも程がある。
まぁ、それはいいんだ。
何かリアス達がご飯を作ってくれるとか言うから、ベッドで大人しくしてる訳だけど、暇だよー。
せめて話し相手の一人でもいればいいんだけど、みんな出張ってるからなー。
そんな寂しさを紛らわせるように暇つぶしのネタを探していると、見つけた。
黒猫。そう、あの時の黒猫だ。
見間違える筈がない。いや、見間違えるほどこっちで猫見てないけど。
黒猫は窓枠の飛び出た部分からまじまじとこっちを観察していたらしく、目があったかと思うと逃げだそうとしたので、反射的に止めに入る。
「待ってくれ。見ていたなら分かるだろうが、暇なんだ。相手をしてくれないか」
猫相手に何真面目に懇願してんすか、自分。
端から見たら痛い子だけど、そんなの知るかバカ!そんなことより暇つぶしだ!
取り敢えず驚かせない程度にゆっくりと窓に近付き、両開きの内片方の窓を開ける。
一瞬迷うように前足をふらつかせるが、黒猫は部屋に入り込んでくれた。
「ありがとう。さて、何から話したものか――」
再びベッドに潜り込み、黒猫はその上で大人しく座っている。
凄い出来た猫だなぁ。首輪とかないから野良なんだろうけど、こんな頭良いのはそうそう有り得ることじゃないよね。
ゲームだから、って考えも出来るけど、もしかしてプレイヤーだったりして。
……はは、ないない。何で猫でプレイするんだよって話。ていうかそんなこと出来るとか聞いたこともないし。
でも、浪漫があっていいよね。リアルでもソロモンの指輪みたいなのがあったらいいなぁとか思ったりは誰もがするよね?
三十分ぐらいは独り言同然に黒猫へと雑談をしていたけど、ノックの音が響いた途端、開けっ放しだった窓から退散してしまった。
「あれ、窓なんか開けてどうしたの?」
黒猫がいたなんて事情を欠片も知らないミッテルトは、先程とは変わった景色に目を丸くする。
「……別にどうもしないさ。それよりも、良い匂いだな」
お盆の上に載せられていたのは、卵粥だった。
「ただの卵粥じゃないわよ。食欲増進、栄養満点な要素をふんだんに盛り込んだミッテルト特性の卵粥よ。だからこんな時間掛かっちゃったんだけどね」
「あら、時間の大半はみんなでキッチン使うから手狭でてんやわんやしてたからでしょ?」
ミッテルトの背後から、リアスが顔を出す。
その手にもまた、鼻孔を擽る何かが握られていた。
「私はクリームシチューよ。消化の良くなるように固形らしさを損なわない程度に柔らかくしているから、寝起きでも問題なくいける筈よ」
リアスの言うとおり、濃厚な見た目の割に食欲をそそるシチューだ。
てかリアスって料理出来たんだ……。そういうのに疎そうなイメージあったんだけどなぁ。
「とはいえ、味の濃いものという時点でミスチョイスだと思うがね」
「ラインナップが被るよりはいいんじゃない?」
今度はゼノヴィアとイリナだ。
「あり合わせではあるが、フルーツポンチを作ってみたぞ。というか、何でこんなに果物がこの家にあるんだ?」
「ふふ、料理本をガン見してたゼノヴィアはやたら可愛かったわよ」
「仕方ないだろう。最低限のものはともかくとして、こういったものを作る経験なんてなかったのだから。まぁ、それを含めてイリナの手助けには感謝している」
「私はちょっと手伝っただけだから、別に気にすることないんだけどね」
パイン、キウイ、イチゴといった色とりどりの果物がふんだんに盛られたそれは、慣れない包丁のせいか多少歪ではある。
だが、そんな慣れない作業を自分のためにしてくれたという現実だけで、お腹いっぱいになった。
ていうか、量的にガチでお腹いっぱいになりそうなんですが、それは……。
「ささ、冷めない内に食べて」
「零、私のシチューを先に食べてくれないかしら」
「卵粥の方が胃を慣らすのに丁度いいでしょうが」
「それは偏見よ。これなら問題ないわ」
「どうだかね」
「デザートは最後と相場が決まっているから、争うのは勝手にやっててくれ」
「アハハ……」
わいのわいのと目の前で繰り広げられる我先にとの争いを、対岸の火事が如く見守る。いや、当事者だけどさ。
でも、選んじゃったら色々と終わる気がするんだ。なんとなくだけどさ。
だから僕は、大人しく二人が和解するのを見守ることしか出来なかった。
……熱々の状態で食べられるかなぁ。
ヴァーリ・ルシファーが私に個人的な依頼をしてきたのが、始まりだった。
その内容は、有斗零という人間の監視および情報収集だった。
自他共に認めるバトルジャンキーが、何故人間なんかを?と思いながらも、ヴァーリが私に頼み事なんて珍しいと思うのと、白龍皇が興味を抱いた人間に私自身も惹かれたというのもあり、二つ返事で快諾した。
始めに出逢ったのは、対象の身辺調査を軽く終えた夕方近い時間だった。
私も油断していた。まさか対象の方から私に接触してくるなんて思わなかったから。
あの時は偶然だと思っていたが、今にして思えば最初からバレていたのだろう。
そんな予想外な出逢いに思考が停止したお陰か、他の感覚が鋭敏に反応していた。
それは、嗅覚。ほんの微かではあるが、断腸の思いで別れた妹の匂いが彼から漂ってきたのだ。
いや、それ自体は何ら特別なことではない。彼が妹と少なからず接点があるのは調べがついていたのだから、驚くことではない。
だが、だからこそ。妹と接点がある、いや、悪魔と接点があるという奇異な人間に、一切の圧力を感じなかったことが驚きだった。
《神器》の反応はあるが、とても小さい。それこそ、意識しなければ感知出来ない程度に。
余計に混乱した。そんな存在を注目したヴァーリにも、非常識な世界に身を置いているというのに、それをさも当たり前のように受け入れている有斗零にも、疑問を抱かずにはいられなかった。
二度目の出逢いは、禍の団内で、三勢力が和平会談を行うという秘密裏の情報を得たすぐだった。
完全に自宅を把握した私は、余裕が出来たということで対象の監視を行うべくそこへと向かった。
塀の上で対象と同居人の堕天使やはぐれエクソシスト、そして堕天使総督アザゼルが繰り広げる会話を、気配を殺して聞いていた時、対象と目があった。
「いや、そう簡単に事が運ぶとはどうしても思えなくてな」
話のタイミング的にも、まるで図ったかのようなそれ。
最初から気付いていた?アザゼルでさえも気付いた様子はないというのに。
その時、私は得体の知れない焦燥感に駆られ、逃げ出してしまった。
ただの人間である青年に、あの時私は確かに恐怖していたのだ。
ヴァーリに情けないながらも一連の出来事を話すと、楽しそうに笑みを浮かべていた。
改めて、私はヴァーリのことが理解できなくなった。
三度目は、リアス・グレモリーの《女王》と《兵士》である赤龍帝が、対象を連れて神社に向かった時だった。
ミカエルと赤龍帝のやり取りも気になったが、私の役目はあくまで有斗零についての情報収集だ。
そもそも私は禍の団にいるとはいえ、テロ行為に同意している訳ではない。興味もない。
というか、禍の団自体、あぶれ者の集まりのようなもので、そこに統一された意思というものはない。
基本的には三大陣営の在り方に反抗する者達の集まりではあるが、ヴァーリのように戦う舞台のみを望み、それ以外に関心のない者もいれば、私のようにポーズだけ取って保身の為の隠れ蓑にしている者だっている。
望まぬ行動を強制させられ、いずれ来るであろう妹と共に暮らす未来を幻視する毎日。
はっきり言って、私は疲れていた。ぶっちゃけると、やってられるかって気持ちで一杯だった。
そんな益体もない思考を巡らせていると、神社の階段に腰を下ろしていた有斗零と目があった。
今度は冷静に視線を交差させる。精神的疲労も相まって、思考が緩んでいたこともあるのだろう。
ぼうっとその平凡な顔立ちを眺めていると、突如対象は口を開いた。
「……こっちに来ないか?」
それがどのような意味で口にされたものなのかは、今でも分からない。
ただ傍に寄って欲しいと思っただけなのか、禍の団から抜けて自分の下に来ないかと勧誘したのか。
はっきり言って彼の言動ならば、どちらとも取れてしまう。
今の私は、彼の平凡で凡庸な姿に騙されることはもうない。
だからこそ、二の足を踏む。
どちらとも取れる故に、選択次第では自らの立場を危ぶむ結果になるかもしれないという恐怖が、私を躊躇わせる。
「ならば、せめて話し相手になってくれないか?手持ち無沙汰で暇なんだ」
彼は、悲しみを表情に微かに出しながら、そう提案する。
何故かその時、私は彼を悲しませたという事実に後悔の念を抱いていた。
私が動かないことを肯定と見なしたのか、彼は一方的に言葉を紡ぎ始める。
本当に他愛のない日常会話。特別さも何もない有り触れたそれは、彼が非日常に身を置く者だと理解しているからこそ、歪に感じた。
だが、同時に彼の言葉から情景を思い起こすと、とても様になっていて何だかおかしくなってしまった。
そして、妹のことが話題になった頃からだろうか。私は彼との距離を無意識に詰め始めていた。
現金な話かもしれないが、妹が大事にされていると納得できたから、彼に対しての警戒心が緩んだのだろう。
――或いは、こんな落ち着く空間に、少しでも長く居続けたかったからなのだろうか。
そんな時間も、赤龍帝の帰還によって終わりを告げる。
名残惜しいが、仕方がない。
それに、目的は充分に達することが出来たのだから、未練はない。
ない、筈なのに。
どうして私の足は、こんなにも後ろに引かれているのだろうか。
そして、今日。
私は彼の家に窓から招き入れられ、前の続きを堪能していた。
やっぱり、彼と共にいるのは心地よい。
彼自身の気質と妹の匂いが相乗効果となり、最早癒しの域に入っていた。
ヴァーリが彼に敗北した、ということを本人から語られたのを聞いたときは、目を丸くした。
禍の団が三勢力の和平の妨害を実行するにあたって、私は支援に回っていた。
何をやったかといえば、結界を操作して自分達に有利になるよう働きかけただけだ。
はっきり言って拍子抜けなぐらい簡単にできたものだから、戦力として参加させられるのでは?と内心ビクビクものだったけど、杞憂に終わった。
そんな感じで留守番みたいなことをしていた時、背筋が凍る圧力を結界の外から感知した。
私もそれなりの実力者と対峙してきたことはあるが、それと比べて桁が違う。
本能を揺さぶるかのように、勝利という言葉を根こそぎ奪っていくそれは、並大抵の者が感じれば心を折ってしまう程の力を内包していた。
その力の正体は、恐らくは彼――有斗零のものなんだろうと、私は直感的に感じ取っていた。
昔の私なら有り得ない、と鼻で笑うだろう。
だが、今は何の根拠もなく、そうなんじゃないかと思っている自分がいる。
ヴァーリが注目していた彼、結界外からも感じられる圧倒的な力の奔流、そしてその彼に敗北したとの言葉。これらが証拠にはなり得ないこともないが、実際にこの目で見た訳でもないので、判断材料としては弱い。
こうして改めて対峙して尚、恐怖心を抱かないのもそういった理由もあるのだろう。
まぁ、一番の理由は、目の前にいる存在が、そんな大それた事を為した存在とは到底思えないほど、穏やかな気質を纏って話をしているからなんだけど。
実は、もうヴァーリの依頼は終了している。
つまり、ここにいるのは私自身の意思であり、誰かの命令でも何でもない。
別に隠す理由もないだろう。私は、知らず彼の傍にいることに抵抗を覚えないどころか、それを当たり前に享受している。
猫は気まぐれな生き物だ。だから、こんな感情もきっと、気の迷いなんだろう。
でも、こんな生き方を、私は望んでいた筈だ。
穏やかな、植物のように静かな人生。波瀾万丈な今の生き方とは対極であるからこそ、憧れるもの。
彼と一緒にいたら、そんな人生を歩めるのだろうか。
咄嗟に思考を振り払い、意識を切り替える。
そんな簡単に鞍替えできれば苦労はしない。下手な行動は、私だけではなく逃げ道となった彼への迷惑にもなる。
……まぁ、禍の団に完全に目を付けられちゃってるっぽいし、今更なのかもしれないけど、それとこれとは別問題。
ほとぼりが冷めた暁には――妹も含め、一緒にいられるようになったらいいなぁ。そんな淡く切ない未来を想像した。
Q:料理の腕、あのメンバーの中ではどんな感じなの?
A:零>>>>>ミッテルト=リアス>>イリナ>ゼノヴィアです。ゼノヴィアはそんなイメージ。すまんな。零の料理の腕は別世界での努力の賜物です。
Q:お、黒猫仲間フラグか?
A:性格、格好諸々がジャストフィットです。三期アニメ化しろ(脅し)
Q:なんか文章の質落ちた?
A:身体がだるいので、修正するのもめんどい(最低な発言)。週一休みとかないわー。