Infinite possibility world ~ ver Highschool D×D 作:花極四季
リアスと一誠がギャスパーを救出しにキャスリングを行ったのと、時間停止の暴走が止まったのは、ほぼ同時だった。
「え――え?あれ?」
気が付けば皆の立ち位置が変化していたことと、外の騒がしさも相まってアーシアと朱乃は混乱を来す。
唯一直ぐさま状況を理解した支取だけは、窓の外を見て現状の把握に努めた。
「ソーナちゃん、よかったぁ~!!」
しかし、そんな真剣な立ち回りも、姉であるセラフォルーの背中からの抱擁によってどうにも締まらないものとなっていたが。
「おいおい、流石に早すぎるだろ」
「間違いなくリアス達の仕業ではないだろうね。と言うことは――」
サーゼクスは零の姿を横目に捉える。
彼が何かした訳ではない。だが、彼は全てを把握していた。
この会談に襲撃者が来ることを。ギャスパー達が無事であるということ。
偶然かも知れない。だが、彼はその事実を敢えて口に出し、明確に証拠としてその偶然を必然の証とした。
口にしたことが、まるで図ったかのように次々と現実となっていくその流れは、まるで全てが彼の掌の上によるものでは?と疑ってしまうのも無理はないほどのインパクトを、零以外の者達に植え付けさせていた。
「――まぁ、今はそこを詮索する時ではないか。それよりも、反撃の準備は整った。今度はこちらの――」
サーゼクスが仕切り直しの音頭を取ろうとした時、窓から閃光が走る。
瞬間、周囲一帯が爆発に包まれた。
「――やれやれ、予想外に早く手札が暴かれたことで、強攻策に出てきたと言ったところでしょうか」
爆発の中心で、嘆息するミカエル。
サーゼクス、セラフォルー、ミカエル、アザゼルの四人が咄嗟に障壁を展開することで、皆は無傷で爆発から逃れていた。
「あらあら、三大勢力のトップが踏み揃いでこのザマとはね」
そんな状況下で、優雅に現れた一人の女性。
「カテレア・レヴィアタン――か」
サーゼクスがその女性の名を口にする。
カテレア・レヴィアタン。旧レヴィアタンの末裔であり、戦争を望む一派であったが故に迫害された者の一人。
「カテレアちゃん、どうしてこんな――」
「そんなの、決まっているじゃない。貴方達のような、神が存在しないならば安定をだなんて生ぬるい考えを通そうとしている輩を潰して、変革の時代とするのよ。そして貴方を殺し、私が魔王レヴィアタンを名乗る!」
「クーデターかよ、くだらねぇ」
「世界そのものを望みますか。随分と大きく出ましたね」
「神の死を秘匿し、嘘で塗り固めたこの世界の理など、何の価値もない。だからこそ、そんな腐った世界を作り替えなければならないのよ!」
「クク――自分に酔うのは結構だが、そういう台詞を言うのは三下の役回りだぜ?」
「黙れ!堕天使風情が!」
「風情、なんて見下してる時点で器が知れるな。カテレアよ」
「……サーゼクス・ルシファー。貴方は魔王に相応しくない。悪魔ならば、望むは混沌であるべきなのよ」
「凝り固まった考えは、視野を狭めるだけで何の得もない。貴方の考えは、ただの我が儘を通そうとしているだけだ」
「――ほざきなさい!」
カテレアの魔力が、再び襲いかかる。
それを制したのは、アザゼルだった。
「甘ぇよ」
アザゼルの放つ魔力と相殺し、霧散する。
カテレアの悔しそうな表情に対し、アザゼルには一切の焦りは見られない。
「くっ、腐っても堕天使の総督ってことかしら。だけど、これならどうかしら?」
カテレアの腕から、漆黒のおぞましい何かがひり出される。
濃縮された力の塊が、カテレアの意思の下アザゼルへと牙を剥いた。
「尋常じゃねぇ力だな。たかだか魔王の末裔如きが持ってるようなもんじゃねぇ。バックに何かいやがるな?」
カテレアは仕留めたと確信していたアザゼルの声が背後から聞こえた事実に、驚きを隠せないでいた。
それ程の自信があった。アザゼルが言うように、この自らのものではない力に対し、絶対的な自信を。
「答える義理も、意味もありません。――貴方はここで、滅ぶのですから!」
瞬間、互いの拳が交わり合い、その中心から爆発が起こった。
堕天使総督アザゼルと旧魔王の末裔カテレア・レヴィアタンの戦いは、まともに割って入ることは不可能なほど熾烈だった。
「流石はアザゼル、というべきか」
そんな激戦の合間を縫うように、静かに浸透する零の言葉。
サーゼクス、グレイフィア、セラフォルーの協力によって堅牢な城と化した結界内とはいえ、一歩外に出れば瞬く間に命を落とす光景が広がっているにも関わらず、いつも通りの調子でそれを見届けている。
「カテレアは彼に任せるとして、私達は魔術師の群れをどうにかしないといけないな。このままでは多勢に無勢だ」
「ならば、僕達にその役目を」
立候補したのは、木場、イリナ、ゼノヴィアだった。
「私と会長達は援護に徹するのが良いでしょう。アーシアさんは万が一の時に備えて貰います。零君はどうしますか?」
「私も後衛に徹させてもらおう」
朱乃の問いかけに、そう端的に返す。
「護りに関しては君の助力がなくとも問題はないと思うが――君がそう判断するのであれば、何か思惑があるのだろう」
「買いかぶられても困る、が――せいぜい期待に応えられるよう努力しよう」
謙虚な発言と共に、零の手にはアルカナタロットが顕現する。
その絵柄は、正義の司っていた。
「ゼノヴィア。君との絆、使わせてもらうぞ」
宣言と共に、タロットは握り潰された。
「ペルソナ、ソロネ!」
零の背後に顕現したのは、炎を纏った車輪の中で笑みを浮かべたヒトガタだった。
「それが、ペルソナ……。直接目に掛かったのは初めてですが、何ともこれは……。それにソロネという名――確かラファエルの部下に、そのような者がいましたね」
「やはり、姿はまるで異なるかな?」
「ええ。まるで似通っていません。そもそも、天使としての要素があれにはまるで無いように見えます。果たして、同一の存在と定義してもよろしいのか」
「同一であるものか。ペルソナの形は、人々の集合無意識によって構築されている。そしてその材料となるのは、史実における姿見や偉業、司る性質だ。イメージだけでいえば、こちらの方がより近い筈だ」
ミカエルの疑問に、零がすかさず答える。
「確かに、文献によるソロネは燃え盛る車輪として描写されていますが、まさか本当に……?」
零の言葉に信じられないと思う反面、現実として彼が召喚したソロネの姿は、まさしくその文献とおおよそ違いのないものである以上、否定する材料が見当たらないこともまた事実。
つまり、現時点では彼の言葉に偽りがないことを信じるしかないのである。
そして、謎が謎を呼ぶ零の持つ《神器》の秘密。
アザゼルがこの場にいたならば、間違いなくこんな状況であるにも関わらず零にひたすら言及していたことだろう。
「これが、私の絆の形か……。もう少し見た目はどうにかならなかったのか?」
「無理だな」
ゼノヴィアの尤もな感想に、零は淡泊にそう返す。
実際彼の言うことが事実ならば、どうしようもないのだから、そう返すしか出来ない。
「だが、性能は折り紙付きだ。――見ていろ」
ソロネが結界の中から躍り出ると、見計らったように魔術師達の猛攻が始まる。
だが、ソロネは悉くを回避し、その車輪で魔術師達を轢いていく。
単純だが、高速で回転する歯車に巻き込まれれば、余程のことでない限りダメージを喰らうのが普通だ。
対象が仮に悪魔であれど、例外ではない。
障壁で防げばいざ知らず、生身で喰らえば同じこと。
ましてやただの回転ではなく、《神器》の力によって創造された存在がもたらす回転だ。
その苦痛たるや、想像を絶するものであろうことは確実であった。
「単純だけど、それ故に強力ね。改めてみると、本当に凄い……」
溜息を吐くように、支取はソロネの、否、零の力を評価する。
彼女がペルソナを見たのは、コカビエルとの戦いの時である。
結界の維持という重要任務を任されてはいたが、中で戦う者達に比べて余裕があったのは語るまでもない。
だからこそ、初見ではあったが、その熾烈さを余すところなく理解しているつもりだった。
だが、それでも。その程度では彼の異常さを推し量り終えたとは言い難い。
その意味を、こうして今思い知らされた。
「これは、僕らもうかうかしてられないね」
「そうね……。あれ以上の成果を出せる自信はないけど、ね」
「私は出来るぞ」
木場、イリナ、ゼノヴィアの三者三様の掛け合いが行われる。
手には各々の獲物が握られており、戦意十分といった様子。
「「「うおおおおおおおおお!!」」」
三人は叫ぶことによって自らを鼓舞し、魔術師へと襲いかかった。
それと替わるように、ソロネの姿が消えて無くなる。
「戦わないのかい?」
「性能を確かめる為に使っただけだ。先程言ったが、あくまで私はこの場では援護に徹すると決めたのだから、それを反故にするつもりはない」
頑なに積極的に戦闘に参加しない姿勢を貫く零に、サーゼクスは疑問を抱く。
だが、すぐに思い至った。
彼は、今に限った話ではなく、会談に参加する時点から積極性を出していなかった。
妹から彼が仲間の危機に対して、必ずと言って良いほど介入してきたことは聞いている。
そんな彼が、コカビエルの時以上の危機に対して関心を示さないのは、不自然極まりないことである。
しかし、それもこれも、この会談に最初から不干渉でいる決意の表れであり、その理由が会談そのものにあったとしたらどうだろうか。
有斗零は人間だ。強さを抜きにしても、その事実は変わらない。
そして、この会談は悪魔、天使、堕天使の三勢力が和平を結ぶというものであり、字面だけ捉えれば、人間である彼には関係のないものだ。
どんなに妹達の助けをしてくれていたとはいえ、それが会談に参加する権利に結びつくなんてことはまず有り得ない。
言ってしまえば、彼がこの場にいるのは私達の身勝手によるものであり、被害者なのだ。
彼の無言の抗議が、かような選択をさせているのだとしても、納得出来なくはない。
或いは、もしかしたら彼は、魔王である私にさえ見えていない何かを、この会談の果てに見出していたのかもしれない。
人間である自身が会談に参加することで、左右される何かに対して警戒しているのかもしれない。
それが何なのかは分からない。分かっていればこんな悩みを抱く必要はどこにもない。
聞く者が聞けば鼻で笑われかねん思考の帰結だ。たかが人間、何を気に掛ける必要がある、と。
しかし、彼はその人間のカテゴリの枠外にいる、規格外の存在だ。
あまりにも謎の多い《神器》を手足のように使いこなすその知識と柔軟な思考。
人間の典型的な自己保身などとは無縁の、その逆である他者を優先する、聖人の如し情愛の深さ。
種族の垣根をまるで気にした様子もなく接し、一方の種族を見下すことも怯えることもしない。
そのどれもが、典型的弱者のレッテルを背負う人間にあるまじき強さであり、並大抵の悪魔では持ち得ないものである。
果たして、それをただの人間と定義して良いものか?
否、それを否定するように、彼はこの会談に参加させられている。
あの場に臨むということは、決してお遊びなんかではなく、世界の命運さえも左右しかねない決定をする為の生き証人として立ち会うという意味もあるのだ。
そんな場にただの人間がいることを、許可なんて出来るわけがない。
逆に言えば、彼がここにいるということはつまり、あの場にいた誰もが彼を普通の人間として扱っていないという何よりの証拠でもあるのだ。
「レイ!」
サーゼクスが考察の海に沈んでいる間に、ミッテルト達が魔術師達を蹴散らしながら、結界内に入り込む。
「無事だったのね、みんな」
「一応、な」
リアスの安堵の言葉に、零は短く返す。
そのあまりの変わらない様子に、むしろ落ち着いてしまう。
どこまでも自然体な彼に倣うという意味でも、負けていられないという意味でも。
「レイ、やっぱり貴方の不安は的中したわね」
「良くないことほど現実になるとは、皮肉なものだよ」
サーゼクスの耳に、二人の会話が届く。
やはり、彼は気付いていたのかもしれない。
あくまで予想の範疇という雰囲気を出してはいるが、果たしてそれが真実かどうか。
「起こってしまったのならば仕方ない。――それよりも、アザゼルの方はそろそろ終わりそうだぞ」
零の向ける視線を追っていくと、黄金の龍の姿の何かとカテレアが相対していた。
「あれは、アザゼルなの?」
「原理は知らんが、どうやらそうらしい」
「あれはアザゼルの《人工神器》って奴かな?噂話程度にしか知らなかったけど、まさか本当にそんなもの作っちゃったなんてねぇ」
セラフォルーが関心したように呟く。
「……やれやれ、人工で作れるのならば、私が人間として生まれた意味がないな」
零の呟きは、戦場の怒号によってかき消され、誰の耳にも届くことはなかった。
ただ一人、彼の最も傍にいた少女、ミッテルトを除いて。
「え、それって――」
意味深な零の発言に反射的に疑問を投げかけようとした刹那、アザゼル達がいた場所から醜い悲鳴が響き渡る。
そこにいる片腕を失ったアザゼルと、消滅する間際のカテレアの残滓が全てを物語っていた。
「アイツ、片腕を平然と犠牲にしやがった……!!」
一誠の戦慄が、皆に伝染する。
覚悟の差。勝利に至るための布石として、自らの身体さえも捧げることを辞さないその在り方が、明確な覚悟の差を示していた。
同時に、カテレア・レヴィアタンの実力は、そうせざるを得ないほどであったという裏付けにもなっていた。
そんな敵が、戦争を望んでいる。彼女はその一端に過ぎないことぐらい、誰の目にも明らかだった。
木場達の活躍によって魔術師達の数も減り、誰かが安堵の息を漏らした時、とある一角から絨毯爆撃の如し破壊の力が降り注いだ。
爆発はアザゼルに直撃。維持していた結界も、あらかた制圧し終えた事実も相まって気が緩んでいたのか、容易く砕けてしまった。
「やれやれ……嫌なことほど現実になるもんだな。なぁ――ヴァーリ」
アザゼルの視線の先には、悠然と三勢力を見下ろすヴァーリがいた。
「ヴァーリ……テメェ、裏切ったのか!」
「裏切る?違うね。俺が何を望んでいるのか、否、ドラゴンとはかくあるべきかとは、君自身知らない訳があるまい」
「――戦いを本能で望む、ドラゴン。そんな野郎が、和平なんてぬるま湯に浸かるなんざ有り得ないってか?」
「そういうこと」
裏切りに対し欠片の後ろめたさも滲ませることなく、アザゼルの言葉に同意する。
「そういやぁヴァーリよぉ」
「何だ?」
「シェムハザが危険分子の集団の存在を察知していてな。
「禍の団……」
サーゼクスが噛み締めるように、小さく呟く。
魔王である彼さえも把握していなかった情報を、アザゼルは知っていた。
シェムハザという堕天使副総督が優秀であるという事実を差し引いても、その情報網たるや、こちらの及ぶべくもない。
「隠し立てする意味も義理もないから正直に言うが、その通りだよ」
そして、ヴァーリはそんなアザゼルの問いをあっさりと肯定する。
「そんなまともじゃねぇ奴らを束ねるなんざ、トップが相応の実力者じゃなきゃどだい不可能だ。そして、調べがついている限りでは、そのトップとやらの名前は――オーフィス」
「オーフィス……最強の龍、
その名を知る皆の表情が驚愕に染まる。
「勘違いしないように言っておくが、俺もオーフィスも世界を盗ることに興味なんかない。俺は闘争を望み、オーフィスはただのお飾りだ。勝手にアイツを利用しようと画策する奴らが集まっているに過ぎない」
「そんなこったろうとは思ったよ。ま、カテレアと同じく世界から否定された者同士、仲良くつるんでたって可能性もなきにしもあらずだったけどよ」
「世界から否定された――?どういうことなのですか?」
ミカエルの疑問に答えたのは、疑問の根源であるヴァーリその者であった。
「俺の名は、ヴァーリ・ルシファー。先代魔王と人間の間に生まれたハーフだよ」
「ルシファー、ですって?それに人間とのハーフ……だから白龍皇を宿すことが出来たのね」
「その通りだよ、セラフォルー・レヴィアタン」
「魔王の血に、白き龍を宿した身体……。アイツは間違いなく、空前絶後の最強の白龍皇となるだろうな」
「最強……」
アザゼルの言葉に、一誠はたまらず息を呑む。
「兵藤一誠。世界は残酷だよな」
「――何?」
「俺は魔王の血を引きながら、ドラゴンの力を得た最強の存在。対して君は人間からの転生悪魔。しかも平凡極まりない高校生ときた。二天龍を宿す者として、この地盤の違いはあまりにも決定的だ」
ヴァーリは一誠を見下すように嗤い、続ける。
「そして、有斗零。彼は人間にも関わらず、赤龍帝の君なんかよりもよっぽど強い。同じ人間でありながらも、こうも違う。哀れで、惨めだよ」
「……んだとぉ!!」
「落ち着いて、イッセー!」
リアスの必死の静止も、一誠には届かない。
その現実を誰よりも近くで実感し、噛み締めているのは、他でもない自分自身なのだから。
それを原因の一人に指摘されようものならば、怒りを抱くのも当たり前のこと。
「はっきり言って、俺の関心は君ではなく彼に比重が傾いている。だから、言わせてもらおう。君は踏み台になるんだ。彼との戦いの前の前菜、準備運動の役目を担わせてあげよう。とはいえ、本気の君じゃなければそれさえも望むべくもない。故に、だ」
「君の大事な存在を一人ずつ殺していけば、その気になってくれるだろうと思ったんだが、どうかな?」
あまりにも軽い調子で。
今日の献立を考えるような、何気ない仕草で。
何の躊躇いもなく、そう宣言した。
「ああ、それは君も例外じゃないよ、有斗零。そこの堕天使は君のお気に入りのようじゃないか。どうにも消極的な君をその気にさせるのなら、それも一興――」
「――――まれ、よ」
地獄から響くような低い音が、世界に響く。
「黙れよ、ヴァーリ・ルシファー!!テメェにそんなことを決める権利なんざ、これっぽっちもねぇ!!」
怒りに満ちた叫びと共に、アザゼルから譲り受けた腕輪と《赤龍帝の篭手》が輝き出す。
それを起点とし、紅の鎧が一誠の身体を包んでいく。
ヴァーリ・ルシファーのものと遜色ない造形のそれは、まさしく彼が《禁手》に至った何よりの証拠だった。
「テメェなんざに、部長やアーシア達は殺させねぇ。絶対にだ!!」
宣言と共に、ヴァーリと同じ高さまで飛び立つ。
「《神器》、そしてドラゴンは想いの力を糧とする、か。俺にはないものだな」
一誠が《禁手》に至った事実を軽く受け止め、楽しそうにそう呟く。
「そんなもの、知るかぁぁぁぁああああ!!」
ミカエルから譲り受けたアスカロンを顕現させ、ヴァーリへと迫る。
ドラゴンスレイヤーの特性を内包するそれで斬られれば、さしものヴァーリでも軽傷では済まない。
だが、そんな状況さえも彼は愉しんでいる。
強者としての余裕。そして、戦いを愉しむ本能がそうさせるのだ。
「らあっ!」
一誠の放つ一閃を軽く回避し、関心するように呟く。
「成る程、流石に《禁手》の性能は凄まじいな。だが、それでは届かない」
「あがっ――」
一瞬で懐に飛び込んだかと思うと、ボディブローを叩き込まれる。
ただの一撃。されど一撃。
その一撃が、白龍皇にとっては致命的な隙であり、勝敗を分かつ。
「そうだった……アイツの、白き龍の力は、半減と吸収――!!」
力の抜けた身体を振るわせ、膝で立ち上がる。
倍化と譲渡の対極に位置するその力は、まさに逆鏡映し。
「やはり、足りないな。このままトドメを刺すのは容易いが、それではつまらない。――と言うわけで、付き合ってもらうぞ?有斗零」
一誠から視線を外し、零へと興味を移す。
「待て、俺はまだやれるぞ。無視すんじゃねぇ!」
「落ち着け、兵藤」
今にも食ってかからんとした一誠を制したのは、零だった。
「君が強いことは知っている。だが、そんな不安定な精神状態で奴に勝てると思っているのか?」
「――そ、れは」
「彼が私との戦いを望むというのなら、せめて君の回復の時間ぐらいは稼ぐつもりでやってやるさ」
その時間稼ぎという言葉は、果たしてどちらなのか。
勝てる見込みがないからなのか、時間稼ぎと言う名の遊びに興じるという意味なのか。
不確定要素である彼の言葉は、全てにおいて謎が付きまとう。
だが、同時に。あの白龍皇と戦うというのに、傍観者に不思議と不安や危機感はなかった。
「目には目を。龍には龍を、と言ったところか」
ミッテルト達と距離を取るようにその場を離れた零。
その愚行とも思える行動を、止める者はいない。
適当な距離に辿り着き、改めてヴァーリに向き合う。
零の正面に浮く五つのアルカナタロットが、星形を象るように起点を描く。
「――スタースプレッド、ペルソナ!」
瞬間、内なる力が解放された。
暴風が零の中心から巻き起こる。
その波動たるや、先程の一誠放つそれの比ではない。
力を我が者とし、制御出来ているからこその差。
一誠はその姿に歯噛みすると同時に、例えようのない信頼感を抱いていた。
顕現されたのは、翼の生えた黒の大蛇だった。
今まで召喚されてきたペルソナとは一線を画した巨大さも相まって、異質さがより際立つ。
それが放つ気は、まさに邪悪そのもの。
存在してるだけで周囲を腐界に変質させてしまいそうな力。
「なんて、禍々しい――」
「それに、あんな龍見たことも聞いたこともない……」
リアスと支取は、零から出でた者とは思えない龍に、驚きを隠せないでいた。
だが、ただ一人。ヴァーリだけが笑みを絶やすことなくその龍を見つめていた。
「未知の龍、か――。ソイツに名はあるのか?」
「ホヤウカムイ」
「ホヤウカムイ、ね。その力、試させてもらうぞ」
ホヤウカムイに向けて、ヴァーリは肉薄する。
それに迎撃せんと、ホヤウカムイは大地を震撼させるほどの咆吼を響かせる。
「そらっ!」
ヴァーリの拳と、ホヤウカムイの尻尾がぶつかり合う。
力は拮抗することなく、ヴァーリだけを後方に吹き飛ばした。
「アイツに、打ち克った――!?」
「くく、そうでなければ面白くない!」
一誠の驚愕、ヴァーリの狂喜。
「しかし、やはり半減出来ないのは気のせいではなかったか。忌々しいと思うべきか、強者の登場に喜ぶべきか」
ヴァーリは怯んだ様子もなく、ホヤウカムイに突貫を続ける。
機動力はヴァーリに軍配が上がるが、全身が武器と言っても差し支えないホヤウカムイにとって、それは絶対的優位に至らせる要素とはなり得ない。
尻尾による殴打、突進。そのどれもが圧倒的質量から繰り出されることもあり、半減・吸収が出来ず、かつ地力が劣るということも相まって、ヴァーリはジリ貧に追い込まれていた。
「ホヤウカムイ、ブレイブザッパー」
零の命令に従い、オーラを纏った尻尾でヴァーリの身体を思い切り打ち上げた。
「ごっ――が」
先程の比ではない威力に、肺の空気がひとつ残らず搾り取られる。
《禁手》で纏った鎧など、初めから存在しないかのようにヴァーリの身体を痛めつける。
「バスタアタック」
ヴァーリが上に吹き飛ぶ速度よりも早く、ホヤウカムイがそれを追い越す。
そして未だ速度の緩まないヴァーリの身体を、その全体重を持って叩き落とした。
爆音、そして砂煙が舞う。
晴れた先には、巨大なクレーターと共に沈むヴァーリの満身創痍な姿があった。
「……とんでもねぇな。あれが奴の《神器》」
「見たのは初めてだけど、すっごいなぁ~」
アザゼルは興味深げに、セラフォルーは楽しそうにホヤウムカイを眺める。
「ふ――――はははは!!」
そんな時、地面に突っ伏しながら狂ったように笑い出すヴァーリ。
「良い、実に良い!今の赤龍帝を相手取るよりも、よっぽど良い!」
「アイツ、あれだけダメージを受けて、まだ――」
一誠にとって、この戦いが自身のレベルと桁違いなものだと思い知らされる現実が、二人のやり取りで思い知らされる。
「このまま戦うのも良いが、このままやられるのだけは御免だ。――だから、多少卑怯な手段に出させてもらおうか」
宣言と共に、ヴァーリは爆発的な速度で迫る。
その対象は――ミッテルトと、その付近の者達。
「――――え?」
魔王達の傍にいるとはいえ、戦闘を愉しむことを第一とするヴァーリが、まさか敵の弱い部分を突くという作戦に出るとは誰も予想しておらず、虚を突かれた。
誰もがヴァーリの動きに対し、ワンテンポ遅れて対応する中、それを制したのは、零の操るペルソナ、ホヤウカムイだった。
身体全体でヴァーリの前に立ち塞がると、そのままタックルで押し返す。
しかし、それは間違いだった。
ヴァーリはあろうことか、その勢いで今度は零へと肉薄した。
「如何に《神器》が強力でも、肉体は人間。そこを突かせてもらう!」
零自身もその動きは予想外だったのか、ホヤウカムイの操作が緩慢になる。
これが、ヴァーリの作戦。
あたかも相手を別に切り替えたように見せかけて、本当の目的はペルソナと零の距離を離すことだったのだ。
最早、彼を護る盾はどこにもない。白龍皇の速度に迫れたのはペルソナだけであり、零自身にその力はない。
運命は、決まったようなものだった。
「レイ、逃げて!!」
ミッテルトの悲痛な叫びは、届かない。
祈りも虚しく、ヴァーリの拳は零の身体を吹き飛ばした。
ソロネ
アルカナ:正義
耐性:斬打貫火氷雷風光闇
吸 無弱
スキル:アギダイン、ハマオン、マハンマオン、暴れまくり、マインドスライス
天使のヒエラルキーにおいて、第三位に数えられる上級天使の総称。
物質の体をもつ天使としては最上級にあたり、主に燃え盛る車輪の姿で描かれる。
今回スキル使った描写はなかったけど、暴れまくってます。
ゼノヴィアの立場的に、いきなり階級高いペルソナにしちゃうとあれだったので採用。
ホヤウカムイ
アルカナ:死神
耐性:斬打貫火氷雷風光闇
耐耐耐 反 無
スキル:バスタアタック、ブレイブザッパー、ベノンザッパー、マハムドオン、ポイズンミスト
蛇の神を意味する、アイヌの蛇神。
強い悪臭を放つ、湖の主であるとも言われている。
ホヤウカムイの住む湖は異常な悪臭に包まれており、下手に近づけば皮膚が腫れたり、毛が抜け落ちてしまうほどである。
能力としては、物理寄りの万能型。
マスターテリオンが機動力に優れていたのに対し、こちらは防御力に重きをおいている。
それでも決して鈍重ではなく、身体が大きい分相対的に回避行動が取りづらくなっているというだけである。
その身体の大きさを利用した制圧力と攻撃力は、圧巻の一言に尽きる。
ペルソナとしては登場しておらず、メガテンシリーズにおいても存在はマイナー。
作者がやばすぎず、それでいてヴァーリに対抗出来そうなドラゴンタイプ(見栄えもそれなりがいい)は何かなって探してたら、見つかった。
ホヤウカムイの出てるシリーズは多分一個もやったことない。ソウルハッカーズやろうかなぁ……。
Q:あの結界って時間停止を受けない為の結界ってだけじゃなかったっけ。
A:ぶっちゃけ詳しくは知らないから、物理的にも耐性があるもんだと勝手に解釈した。魔王クラスが防御に回ってるんだから余裕だろ(無責任
Q:カテレアェ……
A:作者の好みでない敵は、知らない内に死んでてもおかしくないよ!
Q:ソロネの扱いが何気に酷い。
A:コミュMAXから本気出す。
Q:イッセーの扱いも酷い。
A:今回の騒動の〆で重要な役割があるので、勘弁してくりゃれ。
Q:零、死んだ?
A:でえじょうぶだ、死んでもドラグ・ソボールがある!