Infinite possibility world ~ ver Highschool D×D 作:花極四季
これでゲーセンへの道のりが凄い楽になったよ!
ミッテルトがペルソナ全書というチートを獲得してから、数日が経過した。
ペルソナという概念を見聞きする程度にしか知らなかったミッテルトは、その力の扱い方に当初四苦八苦していた。
レベルの低いペルソナを召喚するのも一苦労で、練習の為に何体もポンポン召喚していると、それだけでダウンしてしまう。
どうやらイゴール曰く僕のペルソナと違い、召喚には魔力を支払う必要があるとか。
原作で言うところの現金の役割を果たしていると考えたら、そりゃあ乱発は出来ないなと納得出来るよ。お金は大事だよ~。
とはいえ、ミッテルトは頑張り屋だから、決してめげることも弱音を吐くこともなく日々精進している。こりゃうかうかしてられんわ。
現時点ではペルソナ全書の存在を知るのは僕だけ。ゼノヴィアさえ知らない。
それもこれも、ミッテルトが秘匿することに躍起になっているからである。
いずれ話をするらしいけど、まだ駄目らしい。なんじゃそら。
因みに召喚出来る中でのミッテルトのお気に入りのペルソナは、ジャックフロスト・ユニコーン・ニギミタマらしい。
上二つは分かるけど何でニギミタマ?と思って聞いたら、枕にすると程よい平べったさにひんやりして気持ちいいかららしい。そういうのやめてさしあげろ。
次に、うちに住むことになったゼノヴィアなんだけど、リアスの計らいで駒王学園の二年として通えるようになったんだよね。
ゼノヴィアの安全もきちんと保証してくれるらしいし、その境遇も汲んでくれたからか、手続きも滞りなく片付いた。
二年ならイッセー、アーシア、木場もいるから問題があってもフォローしてくれる。
ミッテルトはどうにもゼノヴィアに苦手意識を持っているらしく、同居生活を経てある程度の交流を深めたにも関わらず、一方的に距離を取っている印象がある。
ゼノヴィアはそう言ったことはなく、教会の人間という肩書きが無くなったこともあってか、随分と身軽な立ち回りを演じている。
砕けて言えば、遠慮がないのだ。
同時にものを知らないというか、世間知らずでもあった。
教会という閉鎖的な環境に身を置いていたから、という理由らしいが、絶対にそれだけじゃない気がする……。
少なくとも、料理がてんで出来ないのはいけないと思うよ。女性として。
「零、ちょっといいかしら」
いつもの緩い日々を満喫していたある日、リアスに放課後の学校内で声を掛けられる。
「何だ」
「今度の休日、オカルト研究部のメンバーでプール掃除を行うから、貴方も手伝って頂戴」
なんでや!唐突すぎるやろ!
と、心の中で叫んだけど、理由を聞いたところで参加するのは確定だろうし、素直に頷いておく。
「分かった。だが、私だけか?」
「ミッテルトとゼノヴィアにはもう声を掛けているわ。一応二人とも了承してくれたわ」
手回しの良いことで。
というか、何気に外堀埋めてから攻めてません?そこまでして参加させたいんですか?
まぁ、プール掃除なんて面倒なこと、少しでも人手を集めてとっとと終わらせたいのも分からなくもないけどさ。
それに、今の時期は夏の設定。感覚的にも暑さを感じるようになってきたから、プールで涼みたいというのもあるし、利害は一致してなくもない、かな?
「というわけで、よろしくね」
「了解」
リアスと別れ、僕は自宅への帰路を一人で辿る。
いつもならミッテルトから一緒に帰ろうと待ちかまえているんだけど、今日は珍しくいなかった。
そうなると大抵はアーシアとかと一緒に寄り道して帰っているから、特別対処に困る状況でもない。
一応メールで先に帰ることを説明しておいたし、万が一の事態も無いだろう。
「……ん?」
人通りの限りなく少ない道で、まるで待ちかまえていたかのように黒猫がこちらを見上げていた。
数秒見つめ合っていると、黒猫の方から徐々に近づいてくる。
手を伸ばせば届きそうな程の距離まで接近したかと思うと、そのまま塀を越えてどこかへと去っていった。
……何だったんだ?分からん。
しかし、冷静に考えるとこっちに来て初めて動物と接触した気がする。
猫の可愛さは現実・ゲーム問わず一貫しているからいいよね。いや、猫というか動物全般ね。
僕はデブ猫とかカピパラみたいなずんぐりむっくりしているのが特に好きだ。抱きついて寝たい。
そんな突如として現れた癒しに内心喜びを抱きながら、改めて帰路についた。
「こんなのとかどうです?」
「折角買うのなら、もう少し上質なものを買うべきではないか?兵藤に見せるんだろう?」
「そ、それは……」
「照れることはないさ。私も女だ、君の感情も理解できるつもりだ」
「じ、じゃあこっちを……」
そんな年頃の女子同士のありがちな会話の流れを、私は一歩引いたところで観察しながら、自身も品定めに勤しむ。
私達が今居るのは、とあるレディース専門店の水着売り場。
リアスの指示でプール掃除なんて面倒なことへの協力を仰がれたんだけど、それに追従する形で水着を買う流れになった。
別に学園指定の水着でも良かったんだけど、他でもないゼノヴィアが反抗し出したのだ。
何でも、スク水はニッチな需要はあるが、メジャーではない。個性や長所を伸ばしたいのなら、そんな安易な選択は避けるべきだとか言ってた。
意味が分からないけど、アーシアが納得したもんだから、文字通り引き摺られる形でこの場に連れてこられて、今に至る。
正直、水着のことなんて全然分からない。
海どころかプールでさえも泳いだことがない私は、そもそもそういう知識がないのも当然なのだ。
下着の延長線と考えればいいのかもしれないが、それでも見せることを前提としたデザインのそれと比較するのは間違いな気もする。
「それっぽいものを選んでおけばいいわよね……」
「それっぽいもの、ですか?」
水着選びに同行したメンバーの一人、塔城小猫が隣で水着を吟味しながら話しかけてくる。
彼女との接点は限りなく少ない。彼女だけ一年という事もあって、オカルト研究部との接点を得た今でも、彼女と会話をするのは稀だ。
彼女自身寡黙な性格なことも相まって、その傾向がより顕著だ。
そんな名前の通り猫のような少女が私に話しかけてきたのは、気まぐれによるものなのだろう。
とはいえ、折角だ。これを期に交流を深めるのも悪くはないだろう。
「ウチは水着のことなんてさっぱりだから、下手に考えたところで悩み損になるのは目に見ているんスよ。だからそれっぽいもの――有り体に言えば無難なものを選んでおけばいいかなー、なんてね」
「そうですか」
自分から問いかけてきた癖、そんな淡泊な返事で会話を切る。
……こういう手合いは苦手だ。何がしたいのかがまるで分からない。
相手の腹を探って下手に出て生きてきた自分にとって、そういう微妙な距離感はむずかゆくて仕方ない。
「……なら、発想を変えてみたらどうです?」
居心地の悪い雰囲気から離れたくて、その場を離れようと思った矢先、小猫がそう提案してきた。
「発想を変えるって……たとえば?」
「自分のことが良く分からないなら、自分以外の相手の視点で考えるのがいい。例えば、零先輩とか」
「なっ――」
唐突にレイの名前が出たことで、不覚にも狼狽えてしまう。
それを期と見たのか、小猫は矢継ぎ早に言葉を紡いでいく。
「ひとつ屋根の下で暮らす男女。徐々に当たり前になっていく日常に刺激を与えるなら、新たな側面を見せるのが手っ取り早いと思う」
「な、何が言いたいのよ」
「つまり、水着で先輩を誘惑する」
無表情で親指を立てる小猫。その指折ってやろうか。
「言いたいことは嫌と言うほど理解したけど、そもそもレイがそういうのに関心を持つとは思えないんだけど」
レイは人間でありながら、欲望という概念に疎い。
良くも悪くもストイックな姿勢を貫く様は、誠実である反面人間としては異常とも言える。
朱乃本人からレイに全裸で迫ったというエピソードを聞かされた時は、驚きを通り越して呆れもしたし納得もした。どういう思惑で彼に迫ったのかは知らないが、悪魔ならば別段おかしな流れではないしね。
それで、レイはそんな朱乃を叱りこそしたが、情事に発展するような素振りは欠片も見せなかったと言う。
嘘を吐く理由もないだろうし、それは紛れもない真実なんだろう。
朱乃は女性としてのプロポーションは完璧だし、美人でもある。《駒王学園の二大お姉さま》の称号は伊達ではない。
そんな相手に迫られて食指を動かさないなんて、健全な青少年の在り方としては歪だ。
兵藤ぐらい突き抜けているのもアレだが、仙人のような枯れた未成年というのもどうかと思う。
……私みたいなちんちくりんでも、ひとつ屋根の下で暮らしている間柄ならばそういう雰囲気になることぐらいありそうだというのに、それさえもない。
何て言うか、女として凄い凹む。朱乃も表情には出さずとも、同じ感想を抱いていることだろう。
そんなレイに水着で誘惑?寝言は寝て言えと。
「諦めたら、そこで試合終了」
「塔城先生……」
いきなりのネタに思わず反応してしまったが、小猫の言い分は確かに尤もである。
靡かないからといって諦めていたら、それこそ駄目だ。
……というか、何か私がレイのことを異性として意識していることを前提に話が進んでいる気がする。
そんなに、分かり易いだろうか。
「頑張れ」
小猫の言葉に背中を押され、決意を固める。
もっと積極的になろう。駄目でもともと、やれるだけのことをやって、玉砕するならそれもやむなし。
しかし、希望の芽が潰えた訳ではないのだから、頑張る価値は十分ある。
――それにしても、こうして話してみると結構ノリが良いというか、固い表情とは裏腹に思考は柔軟らしい。
少なくとも、さっきまでの彼女の認識は既に何処かへ飛んでいった。
それだけでも、ここに来た甲斐はあったと思う。
私はひとつの水着を手に取り、レジへと向かう。
少しぐらい、大胆になってみてもいいわよね。
照りつける太陽。飛び散る水しぶき。――ああ、夏だなぁ。
そんなわけで、プール掃除当日である。
みんなで体操服を着てプールの底を掃除する姿は、どこからどう見ても学生の青春の一コマである。
最初は面倒だなーって思ってたけど、知り合いと一緒にする掃除って結構楽しいもんだね。
七人でやるプール掃除は、特に問題が起こることなく終わりを告げた。
途中で兵藤が謎テンションでホースの水を女子勢にぶっかけようとしたので、鉄拳制裁しておいた。あ、これも未遂とはいえ一応問題といえば問題か。
ミッテルトと塔城さんにかなり感謝された。どういたしまして。
そして、プール開きの為の水を張っている間、更衣室で着替えを行うことになった。
僕の水着は、自宅に何故かあったものを引っ張ってきた奴である。なんでこんなものがあるんだか。
「――先輩」
ふと、着替えを終えた木場が声を掛けてくる。
因みに兵藤は一足先にリアス達の水着を拝みたいという理由でさっさと着替えを済ませて出て行った。
「どうした」
「いえ。――今更かもしれませんが、あの雨の夜、僕を庇ってくれたことへの感謝と、謝罪をしたくて」
「別に気にすることではない。――だが、謝罪とは何だ?」
「あの時の僕は、随分自暴自棄になっていました。みんなの心配する声に耳を傾けず、形振り構わず行動した結果、貴方に護られる結果となった。――僕がもっとしっかりしていれば、あんな結果を招くことはなかった。貴方が負った傷は、全くの無意味な痛みでしかなかったんです」
僕へと向かい合い、深く頭を下げる。
「本当に――申し訳ありませんでした」
……うん、正直困った。
そもそもあの件のことで今更何か話があるとは思わなかったし、むしろとっくに記憶の彼方にあったよそんなこと。
だから、謝られたところでどう反応していいか分からない。僕にとっては、その程度の出来事でしかなかったんだから。
「助け合うのは当たり前のことだ。仲間ならば、尚更だ」
「先輩――貴方って言う人は。ですが、それでは僕の気が収まりません。受け取った恩は、これからの働きで必ず返させていただきます」
木場の真剣な表情に、僕は頷くことしか出来なかった。
気にするな→しかしそれでは~の流れは、無限ループになる可能性が大いに有り得るので、折れるならとっとと折っておいた方がいい。
それに、彼の想いを踏みにじるのは当事者といえど流石にマズい。
「その気持ちは嬉しい。だが、肩肘を張るなよ。貸し借りの関係なんて、息苦しいだけだからな」
息苦しい、というか愛が重いと言うべきか。
真摯なのはいいんだけど、こっちからすればその想いが重すぎて色々と辛いのよね。
当然、想われることは嬉しいことだ。だからといって、そればかり意識に取られて折角築いた関係が硬化するのは嫌だ。もっとフレンドリーでいいんだよー?
「善処しますよ。――そろそろ水も張り終えた頃でしょうし、行きましょう」
そう言って木場は先に更衣室から出て行く。
ドアの閉まる音と同時に、頭の中に声が響く。
我は汝……汝は我……
汝、新たなる絆を見出したり……
汝、《法王》のペルソナを生み出せし時、
我ら、更なる力の祝福を与えん……
コミュ解放キマシタワー。
しかし、こういう展開を経て常々思うのは、まるでコミュ解放の為にみんなと関わっているんじゃないか?っていう打算に塗れた自分がいるのではないかということ。
否定はしない。最初の頃はコミュ解放に躍起になっていたことだって自覚しているし、そういった願望があることは事実だ。
それでも、ただの一度も彼らを道具のように思ったことはないとだけは言い切れる。
このリアルな世界では、プレイヤーかそうでないかの垣根なんてあって無いに等しい。
僕が接してきた人達は全員プレイヤーだと思えばそうなんだろうし、その逆も然りと言える。
僕は前者の考えで行動している。いや、考えるまでもなく、無意識にそう有るべくして行動していると言った方が正しい。
だからこそ、そんな打算的な思考に悩み苦しんでいる。NPCだと割り切って考えていたら、そうはならない。
ぶっちゃけた話、この悩みは考えたところで解決なんてしないから、悩むだけ無駄なんだろう。
でも、蔑ろにしてはいけない問題でもある。
結局の所、僕が信じた世界を信じ続けていれば、それは紛れもない自分にとっての真実になるんだ。
人間関係なんて、究極的に言えば腹の探り合いだ。そう考えると、今の境遇と大差ない。
「なるようにしかならない、か」
みんなが僕を護ってくれた事実、笑顔を向けてくれた感情、それをプログラムによって構成された法則に基づく行動だとは思いたくない。ならば、信じなければいい。
簡単なことだろうけど、この命題でこれからも僕は悩み続けることだろう。
でも、それでいいんだ。
思い返せば、自分の思いを再認識出来る。
忘れてはいけないことを、惰性で鵜呑みにして心の中で風化させるよりは、ずっと良いことだ。
両方の頬を叩き、気合いを入れ直す。
折角のプール開きで絶好のプール日和なのに、こんな暗い考えでみんなの前に出たら、台無しになってしまう。
気持ちを切り替えた僕は、更衣室のドアを開けた。
視界一杯に拡がる太陽の光と、独特のカルキ臭に煽られる。
「遅かったじゃない、零」
一番に話しかけてきたのは、真っ白なビキニをこれ以上となく着こなしたリアスだった。
「……?どうしたの?」
「いや、似合っていると思ってな」
素直な感想を口にすると、リアスは頬を僅かに赤らめる。
「ふふ、ありがと。でも、私よりあの子にその言葉を言ってあげなさい」
そう言って指さす先には、アーシアの背中に隠れるミッテルトの姿があった。
因みにアーシアはオレンジ色のパレオを纏っている。可愛らしいです。
「ミッテルトさん。零先輩に見せるんでしょう?」
「や、やっぱり恥ずかしい……」
何のコントですか?というか、べったべたな会話の流れッスね。
「やれやれ、見てられないな」
エメラルドブルーのどことなく際どい水着を着たゼノヴィアが、ミッテルトの身体を押し出す。
その勢いに抗えず、もつれた足で僕の目の前まで躍り出る。
「あ、あはは……」
照れ隠しなのか、はにかむように笑みを浮かべるミッテルト。
彼女の水着は、肩の下辺りから交差させるように細長い黒の布が下へ延び、ちょっとしたスカートとして成り立っている。そして下腹部を覆う布は腰元に延びた白い長布で繋ぎ止めるように覆われている。
まぁ、何て言うか……凄く、大胆です。
独創性溢れる水着であるというのも、見慣れていないという意味で、同じセクシー路線のリアスの水着よりも扇情的に見せている気がする。
そういえば、昨日帰ってきた時に何か袋みたいのを抱えていたけど、これを買ったのか。
「ど、どう、かな……」
「あ、ああ。似合ってはいるぞ」
「似合っては、って何よ。折角頑張って着てみたのに……」
「別に悪気はないんだ、すまない。ただ、あまりにも予想外だったものでな」
ミッテルトもアーシアみたいな無難に可愛い水着をチョイスしたものだと、無意識に決めつけていたから、虚を突かれた。反応が曖昧なのも、そのせいだ。
リアスとかがビキニを着ていても、似合ってはいるけど別段驚くことではない。意外性という奴だ。
「分かってるわよ、こんな格好私らしくないってことぐらい。それでも、頑張ったのよ」
「――そうか」
そういえばアーシアがさっき、僕に見せる為とか言ってたけど、それってもしかしなくても、この水着を無理して着ようとしたのは……。
うう、お兄ちゃん嬉しいよ。感涙だよ、心の中でだけど。
あ、あとそこでミッテルトをイヤらしい目で見ているイッセーは、後でプールに沈めます。
「だが、驚いただけで似合っているという言葉に嘘偽りはない。それに、君の意外な一面を見られたという意味でも、私は大いに満足している」
ミッテルトは堕天使だけど、その格好はどちらかといえば小悪魔っぽくて、普段の彼女の快活さが押し出されている感じがするのよね。
決してエロい目では見てないよ?ホントウダヨー。
「そ、そっか。うん、当然よね!」
何かいきなり納得しだしたけど、嬉しそうだしいっか。
「では、私はどうです?」
姫島がそんな僕達の間に割って入るように現れた。
赤と青で境界を作り彩りを見せるビキニを着用している。
――何だろう、微妙にダサい気がする。
それでも着こなしているように見えるのは、彼女の麗しい外見の賜物だろう。
「似合っているぞ」
「それでは他の人達と同じではありませんか。もっとこう、独自性溢れる感想が欲しいところですわ」
え、何それ。イジメ?
それとも心の中でダサいとか思ったのがバレテーラ?
すいません許して下さい!勘弁して下さい!
しかし、それを口にするのは憚られる。というか、言ったら何か色々と酷いことになりそう。
故に、絞り出さなければならない。
無理難題、無茶振り、知らんがな。言わなきゃ死ぬんだよ!多分!
「――そうだな。水着とは少し違うかもしれんが、やはり君は何を着ていても絵になると改めて思い知らされたよ。有り触れた格好でさえも君が着ていれば、それだけで全く別のものとなる。それは紛れもない君の魅力だ」
自分でも何言っているか分かんないや。
というか、これって水着誉めてなくね?本人べた褒めしてるだけじゃん。
後、気のせいか強い二つの視線が身体に刺さっている気がする。気のせいだと信じたい。だって怖いじゃん。
「――――」
突っ込まれるかと思ったが、姫島は笑顔で固まって動かない。
一難去ったかと思いきや、ただの時限式爆弾かもしれない。
ならば、どうするべきか?――簡単だ、逃げればいい。
自分でもびっくりな挙動でプールへと飛び込む。苦し紛れなんてレベルではない。
「待ちなさい!!」
案の定、リアスがプールに飛び込んで追ってくる。
ミッテルトはともかく、リアスのその様に叶った泳法も相まって、あっという間に足を掴まれてしまう。
「つ~か~ま~え~た~わ~よ~……」
水泳帽も何も被っていないせいで、リアスの長い髪は必然的に水に浮くようになる。
その状態で顔の半分ほどが水から出ているとして、どうなると思う?
まるで野獣のような眼光でこっちの足を掴んでいるもんだから、ホラー以外の何物でもない。こえーんだよ!!
ていうか、何で追いかけられているの?訳わかんないんだけど。
足を掴まれている状態なので、そのままでは溺れてしまう。だから必死に腕の力だけで浮いているんだけど、それがリアスには未だに逃げようとしているように見えたわけで――
「何?なんで逃げるの?別に取って喰いやしないのに」
「その言葉を、信じるに値する証拠、が欲しいんだ、が」
取り敢えず、その手を離そう。な?
「そろそろ止めたらどうだ?溺れてしまうぞ」
そんな時、救世主が現れた。
救世主は僕の足を掴むリアスの腕を取ると、そのまま勢いよく引きはがす。
その勢いで顔から水に潜り、むせてしまう。
「だいたいどうしたグレモリー、そんなに熱くなって。水着を誉められたいのなら、絶好の相手がいるじゃないか。何故彼に固執する?」
「そ、それは――」
「そうですよ、部長!部長の水着スッゲー似合ってますよ!」
「あ、ありがとうイッセー。でも、何ていうか、そうじゃないっていうか……」
「お、俺の何がいけないんですか!先輩じゃないと駄目なんですか!くっそおおおおおおお!!」
何か外野が五月蠅いけど、こっちは気管に入った水を取り除くのに必死で良く聞こえない。
「レイ、大丈夫?」
「あ、ああ。だが少し頭がクラクラするから、上がって休ませてもらう」
軽い酸欠状態に陥ったからか、頭が上手く回らない。
覚束ないながらもプールから出ようとすると、背中からリアスの声が掛かる。
「ご、ごめんなさい零。つい、あんなことをしちゃって……」
「今度からは気をつけてくれよ」
「――はい」
リアスの声が明らかに消沈している。
自業自得と言えばそうなのだが、この程度の事で怒っていると思われるのは心外なので、フォローしておかないと。
「落ち込まずとも、別に怒っている訳ではないからそう気に病むな。それと――その白の水着、君の美しい紅髪がとても映えていて、とても素晴らしいよ」
そう言い残し、シャワー室の前の段差に座り込む。
取り敢えず誉めておけば機嫌も治るだろうし、こっちは怒ってないという意思表示にもなるだろうという、安易な考えからの発言である。
実際、意識がまともに働くようになってからは、リアスがいつものテンション以上にプールを楽しんでいるのも確認できたから、作戦は成功したと見て良いだろう。
「いつまでそこにいるつもりだ?」
「ゼノヴィアか……」
みんなの楽しそうな姿を眺めていると、突然ゼノヴィアに話しかけられる。
ゼノヴィアは僕の隣にしゃがみ込み、同じ視点でみんなを観察する。
「こうして見ていると、悪魔も堕天使も等しく同じ生命なんだと強く実感できるよ。貴方の言った通り、悪魔だからといって根源的悪意を誰もが宿している訳でもないし、その逆も然りなんだとな」
「そうだ。そして、そんな当たり前な事が、この世界では非常識としてまかり通っている」
「悲しいことだな。私も貴方に諭されなければ、未だにその哀れな奴らの仲間のままだった。感謝しているよ」
このネタで何回か感謝されているけど、それだけ感謝されているって思うと、悪い気はしない。
「しかし、主にすべてを捧げてきた私は普通の生き方と言うものを知らない。兵藤やアーシアにも日常生活でも迷惑を掛けている自信があるぐらいだからな」
「胸を張って言うことではないと思うぞ」
「そんな私だから、いまいち自分の生きる目的というのを見出せていないんだ。何せ全てを主に捧げてきたからな。教会に与する生き方しか知らないんだ」
「だが、アーシアも似たようなものではないのか?」
「まぁ、そうだな」
「習慣なんてそう簡単には変えられないし、問題はそれを受け入れた上で自分を振り返ってみることじゃないのか?そうすれば、おのずと答えは見つかるさ」
あの子も悪魔になった今でも、神に祈って頭痛めていたのをたまに見かける。
そういう弊害があるんだなー、なんて適当に考えてはいたけど、思えば結構面倒なシステムだよね。
パブロフの犬の理論でそうやって意識の改革を行っているんだろうけど、その間苦労することを考えると可哀想なことこの上ない。
「しかし、具体的な例がないことにはな」
「そうだな……学生として過ごしているのだから、学生らしい生き方に倣うのが一番だろうな。そうなると、やはり友人と遊んだり、部活動に勤しんだり、恋愛をするとかか?」
「恋愛……」
ゼノヴィアは何か思案するように俯き、動かなくなる。
そして数秒後おもむろに顔を上げると、こちらに顔を向けて、言い放った。
「なら、私と付き合わないか?」
「――――は?」
あまりにもあっさりとした告白に、思考が停止する。
混乱のせいか、周囲の喧噪がとても遠いものに感じる。
「因みに買い物に付き合うとか、そういうベタな勘違いはよしてくれよ。勿論、異性としての付き合いという奴だ」
「いや、待て待て待て。どうしてその発想に至った」
「貴方が恋愛も事例に入れたんじゃないか」
「いや、その前に二つあっただろう。何故そう難易度の高い方向性を狙うんだ」
「女の私に言わせるのか?それは流石に甲斐性が無いと思うぞ」
いや、だって、さぁ……。この何とも言えない気持ち、言葉に表せないんだもん。
ていうか、ここで僕の思い通りの流れが現実になるとして、それを口にするって自意識過剰じゃん。
「そもそも、何故私なんだ。兵藤や木場だっているだろうに」
「兵藤はアーシアのものだからな。それに、色々な部分を加味しても貴方の方が良いと判断したんだ。木場は、恋愛対象と言うよりも、同じ聖剣を扱う者同士切磋琢磨する仲、つまりはライバルのようなものという意識が根付いているのもあって、今更そういう目では見られないな」
「つまり、ただの消去法か」
「その思考の帰結は些か浅慮かつ失礼じゃないか?そもそも、ひとつ屋根の下で生活をして貴方の人となりはキチンと把握できているつもりだ。とは言っても、以前まで盲目的に主を信じ続けてきた私の見識など信じるに値しないだろうがな」
ゼノヴィアは僕が座る狭い段差に無理矢理ねじ込んでくる。
そして膝の上に置いた僕の手の上に、自らの掌を重ねる。
「それでも、貴方の事を憎からず思っている気持ちに偽りはない。私を救ってくれたことも感謝しているし、それが私の想いを後押ししているんだろう」
ゼノヴィアの顔が、僕の顔にゆっくりと近づいてくる。
僕は彼女の金色の瞳に魅了されたかのように、身体が動かない。
このままでは、僕とゼノヴィアの顔が――
瞬間、ゼノヴィアが顔を物凄い勢いで後ろに下げたかと思うと、眼前を勢いよく何かが通り過ぎ、シャワー室のドアを破壊した。
破壊の根源を辿るべく、射線を視線でなぞっていくと、そこには肩で息をするミッテルトに、異様に怖い笑顔で魔力と雷を手元に待機させているリアスと姫島がいた。
「おお、怖い怖い。では、また後で会おう零」
その様子を見てあろうことか楽しそうな笑みを浮かべたゼノヴィアは、軽やかな動きでその場を後にする。
「待ちなさい、ゼノヴィア!レイに何しようとしたのよ!!」
「ゼノヴィア……あの子、少し調子に乗り過ぎね」
「あらあら――これは、お仕置きが必要かしら」
それをミッテルトが追いかけ、リアスと姫島が遠距離から殺る気満々なオーラで攻撃する。
……ああ、まんまと三人とも釣られたな。
また会おう、と言った時のゼノヴィアの表情は、悪戯が見つかった子供のようだった。
つまり、この一連の流れは彼女の掌の上だったという考えも出来る。
何でそんなことをしたかは不明だけど、まんまとダシに使われた訳だ。これじゃあドギマギしていた自分が馬鹿みたいじゃないか。
我は汝……汝は我……
汝、新たなる絆を見出したり……
汝、《正義》のペルソナを生み出せし時、
我ら、更なる力の祝福を与えん……
え、何これは……。
もしかして、これってゼノヴィアのコミュ?
なんでや!なんでこのタイミングで解放されるんや!訳がわからん!
近くで聞こえるプール施設を破壊する音に、僕の疑問はかき消されていった。
後日、支取にみんなでプールに出した被害の件でこってり絞られました。
なんでや!僕とか兵藤とか木場とかアーシアとか関係ないやろ!
あ、塔城さんは悪ノリして参加していたので戦犯ですからあしからず。
木場祐斗
アルカナ:法王
復讐の檻に囚われた青年は、その使命を思い出した時、過去に築いてきた絆を唾棄せん勢いで狂気に身を委ねる。
差し違えてでも復讐を成就させんと、形振り構わず行動し続けた結果、彼は過ちを犯す。
本来ならば自分が喰らう筈だった凶刃を、身を挺して庇ってくれた人がいた。
それを切っ掛けに自らの在り方に疑問を持ち、遂には仲間達と共に悲願を達成した。
それは復讐ではなく、明日を掴むための一歩を踏み出すという目的の為に。
後ろ暗い闇に沈む為ではなく、光ある明日を掴むために。
その身を持って道を示してくれた恩人の為に、仲間として、恩を返す為、彼は剣を振るうことを決意する。
ゼノヴィア
アルカナ:正義
彼女は主を絶対とし、信仰の対象としていた。
それは幼き頃からの習慣であり、同時に人生の縮図でもあった。
主こそ正義であり、主こそ最も尊ばれるべきものだと、深層心理にまで根付いたその信仰という名の洗脳は、一人の青年の言葉によって形を崩壊させていく。
徐々にひび割れていき、その隙間から見えた世界はあまりに広大で。自分が如何に矮小な価値観しか持っていなかったことを思い知らされる。
そこに追い打ちを掛けるかのように知らされる、主の不在の事実。これを期に、彼女の信仰は欠片も残すことなく消え去ることとなる。
何かを信じることで存在意義を証明してきた彼女が、次に目をつけたのは、自分の人生を崩壊させてくれた青年だった。
胸の内にある感情が何なのか分からないまま、青年と共に歩みを進める決意をする。
もう、彼女を縛る鎖はない。
与えられた正義ではなく、今度は自分の信じた正義を持って生きる。それを教えてくれた人共に。
Q:ミッテルトの水着良く分かんないんだけど。
A:ギルティギアのディズィーのそれを参考にしているから、見れば納得するかと。
Q:リアスのプールの時の怖さが分からん。
A:フルーツバスケットの花島さんがプールで髪留め落とした時のアレです。知ってる人にしか分からんな。
Q:結局リアスってヒロインなの?
A:そうなんじゃない?(適当)
Q:オイル塗りエピソードどうしたオラァ!
A:この小説は健全な内容を目指しております(すっとぼけ)
Q:ゼノヴィア積極的だね。
A:まだ自覚はしてないけどね。だから零の考えは珍しいことにほぼ当たっている感じ。