ダイに大転生   作:液体クラゲ

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8 負ける戦士ヒュンケル

 クロコダインの断末魔の「ぐわああああ!!!」を聞いた百獣魔団は、一目散に逃げていった。ポップとハドラーの活躍により、被害者は少なかったようだ。

 助けた住民に感謝され、ハドラーは満更でもなさそうなツラをしていた。丸くなり過ぎだろ。

 

 その後、ハドラーのルーラでデルムリン島に戻った俺たちは、バナナの木を元通りに植え直すと、今度は一路パプニカに向かった。

 走って。

 

「おれたち抱えて海面を走れるとか、おまえってほんとキモいよな」

「問題はない! 15万kmまでなら!!」

「それ実際に計ったのか?」

 

 どの方角にどのくらい行けばいいのかはハドラーに教わった。

 元魔王で元魔軍司令のコイツは、地上征服を目指すに当たって地理に詳しくなっていたのだ。

 

 ルーラで行ければ良かったのだが、ハドラーが覚えているパプニカの光景は、15年前に自分の軍勢が破壊したモノだけなので無理だった。

 地底魔城なら飛べそうだったが、いきなり不死騎団の本拠地に行くのもアレだし。

 

 辿り着いたパプニカはボロボロだった。人っ子ひとりいない。

 原作より早くついたと思うけど、この時点で既に滅んでいたのか。

 

「レオナ……無事だろうか!」

「こりゃひでえや……。ダイにゃ悪いけど、生き残りはいねえだろうな」

「少しは慰めろや」

 

 ポップの脛を優しく蹴る。

 と、瓦礫の下から骸骨たちが現れた。

 

「オラァ!!!」

 

 拳圧で全て粉々に吹き飛ばした。

 直後、骸骨たちがいた場所に別方向から重い剣圧が突き刺さり、地面が爆発する。

 

「い、今のは……!?」

 

 驚くポップに解説してやることにした。

 

「助太刀しようとしたら一拍遅れて、もう敵がいないところに攻撃が当たってしまったんだろう」

「これは恥ずかしいな……。オレなら耐えられん」

「そんなこと言うなよ! 可哀想だろ! 誰だって間が悪いときくらいあるじゃねえか!」

 

 ポップが必死に庇った。

 だが庇えば庇うほど、庇われた側はより惨めになっていくモノである。

 

 しかもそいつは、離れた高所にひとり佇むという、めちゃくちゃカッコいい位置取りをしていたのだ。

 恥ずかしさは逆に一入(ひとしお)だろう。

 

「あいつだ!!」

 

 ポップが指さしたのは、慌てて物陰に隠れようとする銀髪の男の姿だった。

 どう見てもヒュンケルだ。

 

「そこで隠れたら余計恥ずかしいだろうが……。大地斬の使い手よ」

 

 ヒュンケルが出てきた。

 飛び下り、近寄ってくる。

 

「オレの技を見抜くとは……。アバンを知る者か?」

「おれはアバン先生の弟子のポップ」

「ダイです」

「ハドラーだ」

「ってなぜ普通に貴様がいる!!! ハドラー!!!」

 

 ヒュンケルはハドラーに掴みかからんばかりの勢いだ。

 一方ハドラーはどこ吹く風。

 

「おお! 誰かと思えばヒュンケルではないか。ククッ……助太刀し損ねて残念だったな」

「貴様ァー!!!」

「お前ら知り合いなの?」

 

 どう見ても魔剣戦士ヒュンケルだが、念のために聞いてみた。

 

「うむ、こやつはヒュンケル。アバンの一番弟子のくせに、なぜかアバンを恨んで不死騎団長をやっている不届き者だ」

「なぜかも何も、アバンが貴様を斃したせいで父さんは――地獄の騎士バルトスは消滅したんだぞ!!」

 

 激昂ヒュンケルに、ハドラーはキョトンとした。

 

「えっ?」

「えっ?」

 

 ふたりで不思議そうな顔で見詰め合う。

 おっと、これは……?

 

「いやオレあの後すぐにバーンの魔力で蘇って、自分でバルトスを処刑したのだが。あいつは門番のくせに、アバンに門を開けた裏切り者だからな」

「ブラッディースクライド!!!!!!!!」

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおお!?!?!?!?!?!」

 

 ハドラーの左心臓がぶち抜かれた。

 

「こっ、この……!!! ハドラー!! 貴様が父さんの仇だったのか! もっと早く言え!!! オレはアバンが、正義そのものが我が敵と思い込み……魔王軍としてパプニカを滅ぼしてしまったんだぞ!!!」

「はいギルティー」

 

 俺は腰を深く落とし、真っ直ぐにヒュンケルを突いた。

 

「ごぶふうううううううううううううううううううううう」

 

 ヒュンケルは血と内臓を吐き出しながら吹き飛び、瓦礫に埋まった。

 ハドラーに点穴を施して心臓を再生させながら、連鎖的に崩れていく瓦礫の光景を眺める。

 

 ポップが言う。

 

「なあダイ、何でハドラーはそうやって助けるんだ? そいつも元魔王で、めっちゃ人間殺しただろ」

「でも一度はアバン先生に殺されたからな。そこで一旦はチャラかなって……。バルトスに裏切られて先生を通されて、バーンに裏切られて黒の核晶(コア)を埋められて……可哀想だしさ……」

「まあな……」

「やめろ! オレを憐れみの目で見るな!」

 

 俺はハドラーをよしよしと撫でた。

 なんかもうペットみたいで可愛く思えてきたわ。

 

「やめろ! オレをそんな目で見るなー!!!」

 


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