クロコダインの断末魔の「ぐわああああ!!!」を聞いた百獣魔団は、一目散に逃げていった。ポップとハドラーの活躍により、被害者は少なかったようだ。
助けた住民に感謝され、ハドラーは満更でもなさそうなツラをしていた。丸くなり過ぎだろ。
その後、ハドラーのルーラでデルムリン島に戻った俺たちは、バナナの木を元通りに植え直すと、今度は一路パプニカに向かった。
走って。
「おれたち抱えて海面を走れるとか、おまえってほんとキモいよな」
「問題はない! 15万kmまでなら!!」
「それ実際に計ったのか?」
どの方角にどのくらい行けばいいのかはハドラーに教わった。
元魔王で元魔軍司令のコイツは、地上征服を目指すに当たって地理に詳しくなっていたのだ。
ルーラで行ければ良かったのだが、ハドラーが覚えているパプニカの光景は、15年前に自分の軍勢が破壊したモノだけなので無理だった。
地底魔城なら飛べそうだったが、いきなり不死騎団の本拠地に行くのもアレだし。
辿り着いたパプニカはボロボロだった。人っ子ひとりいない。
原作より早くついたと思うけど、この時点で既に滅んでいたのか。
「レオナ……無事だろうか!」
「こりゃひでえや……。ダイにゃ悪いけど、生き残りはいねえだろうな」
「少しは慰めろや」
ポップの脛を優しく蹴る。
と、瓦礫の下から骸骨たちが現れた。
「オラァ!!!」
拳圧で全て粉々に吹き飛ばした。
直後、骸骨たちがいた場所に別方向から重い剣圧が突き刺さり、地面が爆発する。
「い、今のは……!?」
驚くポップに解説してやることにした。
「助太刀しようとしたら一拍遅れて、もう敵がいないところに攻撃が当たってしまったんだろう」
「これは恥ずかしいな……。オレなら耐えられん」
「そんなこと言うなよ! 可哀想だろ! 誰だって間が悪いときくらいあるじゃねえか!」
ポップが必死に庇った。
だが庇えば庇うほど、庇われた側はより惨めになっていくモノである。
しかもそいつは、離れた高所にひとり佇むという、めちゃくちゃカッコいい位置取りをしていたのだ。
恥ずかしさは逆に
「あいつだ!!」
ポップが指さしたのは、慌てて物陰に隠れようとする銀髪の男の姿だった。
どう見てもヒュンケルだ。
「そこで隠れたら余計恥ずかしいだろうが……。大地斬の使い手よ」
ヒュンケルが出てきた。
飛び下り、近寄ってくる。
「オレの技を見抜くとは……。アバンを知る者か?」
「おれはアバン先生の弟子のポップ」
「ダイです」
「ハドラーだ」
「ってなぜ普通に貴様がいる!!! ハドラー!!!」
ヒュンケルはハドラーに掴みかからんばかりの勢いだ。
一方ハドラーはどこ吹く風。
「おお! 誰かと思えばヒュンケルではないか。ククッ……助太刀し損ねて残念だったな」
「貴様ァー!!!」
「お前ら知り合いなの?」
どう見ても魔剣戦士ヒュンケルだが、念のために聞いてみた。
「うむ、こやつはヒュンケル。アバンの一番弟子のくせに、なぜかアバンを恨んで不死騎団長をやっている不届き者だ」
「なぜかも何も、アバンが貴様を斃したせいで父さんは――地獄の騎士バルトスは消滅したんだぞ!!」
激昂ヒュンケルに、ハドラーはキョトンとした。
「えっ?」
「えっ?」
ふたりで不思議そうな顔で見詰め合う。
おっと、これは……?
「いやオレあの後すぐにバーンの魔力で蘇って、自分でバルトスを処刑したのだが。あいつは門番のくせに、アバンに門を開けた裏切り者だからな」
「ブラッディースクライド!!!!!!!!」
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおお!?!?!?!?!?!」
ハドラーの左心臓がぶち抜かれた。
「こっ、この……!!! ハドラー!! 貴様が父さんの仇だったのか! もっと早く言え!!! オレはアバンが、正義そのものが我が敵と思い込み……魔王軍としてパプニカを滅ぼしてしまったんだぞ!!!」
「はいギルティー」
俺は腰を深く落とし、真っ直ぐにヒュンケルを突いた。
「ごぶふうううううううううううううううううううううう」
ヒュンケルは血と内臓を吐き出しながら吹き飛び、瓦礫に埋まった。
ハドラーに点穴を施して心臓を再生させながら、連鎖的に崩れていく瓦礫の光景を眺める。
ポップが言う。
「なあダイ、何でハドラーはそうやって助けるんだ? そいつも元魔王で、めっちゃ人間殺しただろ」
「でも一度はアバン先生に殺されたからな。そこで一旦はチャラかなって……。バルトスに裏切られて先生を通されて、バーンに裏切られて黒の
「まあな……」
「やめろ! オレを憐れみの目で見るな!」
俺はハドラーをよしよしと撫でた。
なんかもうペットみたいで可愛く思えてきたわ。
「やめろ! オレをそんな目で見るなー!!!」