いきなり島の皆が狂暴化したので、軽く撫でて昏倒させ、この日のためにクッソたくさん作っておいた縄で拘束していく。
呪文を使う奴は、
しかしこれは対症療法に過ぎない。狂暴化そのものは魔王の邪悪な意志による外因性の現象で、皆の体の方をどうこうしても限度があるのだ。
アバンが来てくれればいいのだが……。
「じいちゃん! 何か手はない?」
「う、うう……ダイ……! に、逃げろ……!!」
「いやそれ以外で」
この島捨てて逃げるとかあり得んわ。
「この感じは……ワシには分かる! 魔王が復活したのじゃ! このままでは、ワシらはお前を殺してしまう……!!」
「物理的に無理じゃない?」
「……まあの……」
ガチで島全部を纏めて相手にして無傷で圧勝できるからね。
しかしブラスじいちゃんは苦しそうだ。必死に抵抗している。
「し、しかし、だとしてもじゃ! お前を攻撃しようとすること自体、考えることすらおぞましい! 早く……ワシが耐えられるうちに!」
「ブラスじいちゃん……」
体が傷付こうが傷付くまいが、確かに、攻撃されれば心は傷付く。そしてじいちゃんの心も、攻撃しようとすれば傷付くのだ。
まあ俺は鋼の心を持ってるから、普通にじいちゃんを昏倒させるけどな。
「アバーッ!?」
更に縛って、呪文封じの点穴も施して――と。
そこでふとゴメちゃんが頭に止まった。
「ピィ?」
力を貸そうか、と?
「いや、もうちょっと粘ってから……。助けが来るハズなんだ。もし運命ってモノがあるんならな。もしそうなりゃ、お前は縮まり損になっちまう。今は力を温存してくれ」
「ピィ!」
とうとう全ての
そして運命はあった。
小舟がやって来たのだ。
「君がダイ君ですね。初めまして、私はアバン」
「おれは弟子のポップ」
「ダイです」
「この状況は……」
アバンは目を丸くした。
そりゃ全員綺麗に昏倒して拘束されてりゃね。
あまつさえ、島全体を覆う五芒星魔法陣も先に描いておいた。手間が省けていいと思って。
「予知能力者ですか?」
「いいえ」
釈然としないながらも、アバンはマホカトールを使ってくれた。
そしたら今度は、皆の縄を解いて、点穴を解除して、軽く撫でて目を覚まさせていく。
「これだけの準備能力と特技を持つダイ君に、今更私が何か教えることがある気はしませんが……」
レオナに頼まれたそうだ。呪文を使える立派な勇者にしてやってくれと。
メラもイオラもベギラマも使ってみせたのに……。全部物理だけど。
と、そうこうする場にガーゴイルが2匹襲来してきた。
ポップがメラゾーマで1匹を焦げカスにし、もう1匹のマホトーンで無力化させられる流れを挟み、今度は俺が相手をすることになる。
だがちょっと待ってほしい。怪物の皆って魔王の邪悪な意志に操られてるワケでしょ? じゃあ殺すの可哀想じゃない? 俺はそう思った。
そこでガーゴイルをアイアンクローで掴むと、マホカトール結界へと引き摺っていく。
「小僧! 放せえー!!」
「違うだろ! お前が放せって言うべきは、魔王の邪悪な意志に対してなんだ! 待ってろ、今俺が助けてやるから!!!」
ガーゴイルの剣を肉体強度任せで跳ね返しながら引き摺る。
まず俺が、結界の外から中へと戻った。
そして引き摺られるガーゴイルが、
「うぎゃああああああああああああああああああ!!!!!」
結界に引っかかった。めっちゃバリバリいってる。そういえば、さっき襲ってきた時もそうだったよね。
うーん、邪悪な意志が強いせいかな? 島の皆は狂暴化してたけど、こいつは自我のある『兵士』だもんな。
それでも結界の内側にさえ入れてしまえば! 俺はもっと引っ張った。
「やめ、やめてえええええ死んじゃうううううう!!! ごめんなさい!! ごめんなさいいいいい!!」
「うるせえオラァ!!!!!!!!!」
「ぬわーーっっ!!」
ガーゴイルAは生きて結界を通り抜けられず、焦げカスになって死んだ。
俺は膝から崩れ落ちた。
「こ、こんな……こんなことになるなんて!!! すまない、すまない……!!! お前の心を、取り戻せないばかりか……命まで……っ!! うおおおおお……っっ!!!」
俺は泣いた。男泣きだった。
「ダイ君……」
アバンがそっと肩を叩いてくる。
「今のガーゴイルは、もともと邪悪な魔物ですよ」
「先に言えや」
泣き損じゃねーか。
ぺっ。焦げカスに唾を吐き、足蹴にする。
ともあれ、アバンに修行をつけてもらうことになった。