ダイに大転生   作:液体クラゲ

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10 恐怖の禁呪法!

「ところで、勇者ダイは魔物使いでもあるのかしら」

 

 気球船で空を行く中、エイミさんがふと訪ねてきた。

 

「と言うと?」

「だってほら……ゴメちゃんに、魔王ハドラー、氷炎将軍フレイザード、まほうつかいまで従えて……」

「今おれ魔物扱いされなかった?」

 

 ポップは疑問を呈した。

 しかし誰も気にしなかった。

 

「うーん、魔物を……『使う』ってのは違う感じかなあ。ゴメちゃんは友達、ハドラーはペットだし、フレイザードはなんか知らんけどいつの間にか馴染んでるだけだし」

「今オレをペット扱いしなかったか?」

 

 ハドラーは疑問を呈した。

 しかし誰も気にしなかった。

 

「……。おい、ダイ。おれは?」

 

 ポップは疑問を呈した。

 しかし誰も気にしなかった。

 

「おい、それよりも見えてきたぜ……。あれがバルジ島! あそこにお姫さまがいるってワケかい」

 

 フレイザードが見やる先、確かにバルジ島と、傍らの海にバルジの大渦が見える。

 間もなく気球船は、島中央のバルジの塔の麓に着陸した。

 しかし前世から思ってたけど、バルジ(とう)とバルジの(とう)ってややこしくない?

 

 ともあれ気球船を降りると、上から剣呑な言い争いが……。

 どうやら食料のことで喧嘩しているらしい。

 

「こいつが悪いんだ! 取り分以上に持っていこうと……!」

「俺はもう丸一日何も食べてないんだ! このバナナを食べる権利はある!」

「バナナだと!!?!?!?!?!?!?!」

 

 俺は仲間たちを置き去りにして、ひとりで素早くその場に駆け付けた。

 

「何だお前!?」

「ダイ君!? 来てくれたのね……!」

「バナナがあると聞いて」

「あなたにあげるバナナはないわ」

 

 レオナがマヒャドの視線を向けてきた。

 俺は土下座した。

 

「大変失礼いたしました。お久し振りです。会いたかった……無事で良かった。レオナ」

「あなたも元気そうね。会えて本当に嬉しいわ」

 

 レオナは赦してくれた。

 でもバナナはくれなかった。

 島から持ち出したバナナはロモスで尽きちゃったから、そろそろまた食べたいんだが……。

 

「姫! 今のやり取り……では、この少年が!?」

「そう、彼がゴリラの勇者ゴリラ、じゃなかった、ダイ君よ」

「流石にゴリラネタ飽きて来ない?」

 

 俺は不平を述べた。

 しかし誰も気にしなかった。

 

 ともあれ、かくかくしかじか経緯を説明していく。

 

「そう、不死騎団は滅びたのね……」

「軍団長もしっかり処刑したよ」

「勇者アバンの一番弟子、か」

 

 レオナは遠くを見る目で呟いた。

 

「処刑しないで仲間にした方が良かった?」

「え、いいわよ別に。そんな勘違いで暴走するような人、怖くて使えたモノじゃないし」

「あっはい」

 

 可哀想なヒュンケル……。残当だけど。

 あっ魂の貝殻マグマの下じゃねーか。今気付いたわ。

 まあいいか。

 

「ともあれ、瓦礫の山とは言えここよりはまだ物資があるだろうし、パプニカに帰ろうぜ」

「そうね。帰ればバナナの備蓄もある程度は残ってるはずだし……。いっぱい食べさせてあげるわ」

「やったあ」

 

 俺は喜んだ。

 

 と、その時だ。虚空が黒く歪み、ズヨヨン――と、小柄な妖怪ジジイが現れた!

 兵士たちが取り囲む。

 

「貴様、何者だ!」

「妖魔司教ザボエラ!!! 滅びかけた王家の生き残り、たかが小娘ひとりの首を取ればオシマイという美味しい仕事をいただきに来た……っ! 手柄はワシのモノじゃ!!」

「させるかよ!」

 

 俺は腰を深く落とし――

 

「メダパニ!」

 

 しかし、ザボエラの呪文を受けてしまった!

 しまった、全てがバナナに見える……!!

 錯覚だと分かっている、分かっているのに、腹が鳴る。

 

「くっ、皮を剥くことすらもどかしい……! だがこれだけ大きくて美味そうなバナナ! いったいどれだけの満足感が……!!」

「ちょっとダイ君やめて!!!!!!!!!!!!」

 

 バナナがレオナの声で抵抗している気がする。

 しかし俺は気にしなかった。

 まず皮を、皮を剥かねばバナナを食べられない……!!!

 

「やめてって言ってるでしょ!!!!! こんなところで!!!!!」

「アバーッ!!!!」

 

 俺はバナナの反撃を受けて倒れた。

 

 バカな、頭痛がする……吐き気もだ……。

 この俺が……気分が悪いだと?

 バナナに脳を揺らされて、立つことができないだと!?

 

 て言うかマジに拳が見えなかったんだが……。

 バナナに手はないからか。仕方ないね。

 

「しまった、ダイ君大丈夫!?」

「勇者ダイもいたなら好都合! 纏めて葬ってくれるわ!」

「そうは行くか!」

 

 萎びたバナナに、多数のバナナが立ち向かっていく。

 だが萎びたバナナの放つベギラマで、焼きバナナにされてしまった。

 

「ダイ! 無事かー!」

「この妖気は……ザボエラか!」

 

 と、階下から、弱そうなバナナ、不味そうなバナナ、二色のバナナ、空飛ぶバナナが駆けつけてきた。

 

「仲間がいたか……! ってハドラーさまにフレイザード!? おのれ裏切り者どもめ……! ここは分が悪いか! ならばこうじゃ!!」

 

 萎びたバナナが、美味しそうなバナナに――これは、何かの呪法を!?

 

「やめろー!!!! それは俺のバナナだーーーー!!!!!!」

「ダイ君!? そんな、あたしを庇って……!!!!」

「ぐえええええええええええええええええええええええええええ」

 

 俺は萎びたバナナの呪いを受け――ゴリラになってしまった!

 

「ダイーッ! ひでえ……。名実ともにゴリラになっちまうなんて!」

「ザボエラめ、恐るべき禁呪法を!」

「こいつは厄介だな……。クカカッ」

 

 バナナたちが戦慄する。

 そんなことは、今は、どうでもいい。

 

「お、おかしいのう……。子犬にでも変えてやるつもりだったんじゃが。そしてワシが死ねば呪いは解けんぞ、と……」

「……」

 

 俺はゴリラになってしまった。

 俺はゴリラになってしまった……。

 ゴリラ……ゴリラに……。

 子犬になる呪いでなぜゴリラに……?

 俺がゴリラってことなの? ゴリラが俺なの?

 ゴリラごりごり病に冒されてるの? ごほっ、ごほっ。

 

「ウホホーッッ」

 

 俺は絶望して、塔から身を投げた。

 


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