ゼロの少女と食べる男   作:零牙

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……お久し振りです。
3週間振りの投稿です。
遅くなってしまって申し訳ありません。


ACT-5 報告

 

 

 

 ――少女は気付いているだろうか?

 

 

 

 彼女が幼い頃より何百、何千と繰り返してきた『失敗』。

 

 常に『爆発』という結果と共に有った『魔法』。

 

 結果的に最後には成功した『サモン・サーヴァント』も1度目は『爆発』だった。

 

 

 

 先程行われた『コントラクト・サーヴァント』。

 

 何も生じず何も起きない。

 

 しばらくすれば使い魔のルーンが彼に刻まれるだろう。

 

 『他の生徒達の時と同様に』。

 

 つまり今度こそ完璧に魔法が成功したのだ。

 

 

 

 ――だが、当の本人はというと。

 

 その事に気付いているのかいないのか。

 

 片手に4杯分くらいの量が減ったティーポットを持ったまま。

 

 ほぼ真上を向くかのようにして、豪快に2杯目を一気に飲み干している所だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ACT-5 報告

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 始めは『血』だと思った。

 

 

 

 ルイズは『血』の味をよく知っている。

 

 爆発に巻き込まれ、口の中を切る事はよくある事で。

 馬鹿にされる事が悔しくて、唇を噛み締め出血するのも珍しい事ではない。

 

 鉄錆にも似たあの味は、残念ながら何度味わっても慣れるという事はなく慣れたいとも思わない。

 

 

 

 ボルトと『コントラクト・サーヴァント』をした時、まずお茶の味がした。

 2人共さっきまで飲んでいた物だから問題は無い。

 

 次に、微かに鉄の味を感じた。

 だから直感的に『血』の味だと思った。

 

 自分は痛みを感じてない。

 ならばボルトの『血』だろうか。

 以前読んだ物語で、勢い余って唇が歯に当たり出血してしまうという場面があった。

 しかし学院の廊下や往来の曲がり角でぶつかった訳ではなく、ゆっくりと唇同士を合わせただけで出血する筈が無い。

 

 ならば何故?と思ったルイズの脳裏に何かが引っ掛かる。

 

 ――『口』――

 

 ――『鉄』――

 

 

 

(……あ)

 

 

 

 

 

 ――こんなの咥えてたら契約できないじゃないの――

 

 

 

 

 

 ……つまり『鉄のような』ではなく『鉄その物』だった。

 

 

 

(そういえば……)

 

 空になったカップを手にしたままふと思う。

 

 ――あの『ネジ』はどこに行ったんだろう?

 

 

 

 

 

「ぐぅっ……!」

 

 くぐもった呻き声に目を向けると、ボルトが左手を抑えながら痛みに耐えているようだった。

 

「『使い魔のルーン』が刻まれているだけよ。 すぐ終わるわ、大丈夫……だと思う……多分……」

 

 歯切れの悪い言葉だがそれも仕方ない。

 小動物にも大した影響を与えないとはいえ、人間相手の『コントラクト・サーヴァント』は『サモン・サーヴァント』と同様に前代未聞なのだ。

 ボルトとテーブルを挟んだコルベールを見ると、彼も不測の事態に備えて立ち上がっていた。

 ルイズももしもの時は、直ぐに部屋を飛び出し助けを呼べるように身構える。

 

 

 

 その緊迫感は、ボルトが無言で大きく息を吐き俯いていた顔を上げるまで続いた。

 それを見て、ルイズとコルベールも緊張を解く。

 

 余談だが、ルイズは純粋にボルトの身を案じての緊張だった。

 しかしコルベールは万が一、痛みで激昂したボルトが襲い掛かった時の為にも備えていた。

 何しろ相手は傭兵、ルーンの痛みを敵対の証と誤解されては堪らない。

 杞憂に終わって良かったと息を抜く。

 

「……大丈夫?」

 

 彼のような体躯を持つ男が呻き声を上げる程の痛みを予想して、恐る恐るルイズが問う。

 

「……あぁ、もう痛みは無い……」

 

 そう言いながらボルトは左手のグローブを外す。

 その甲には、文字にも見える紋様があった。

 

「これが『使い魔のルーン』とやらか?」

 

「そう……だけど」

 

 見た事もないルーンに戸惑うルイズ。

 それに興味を持ったらしく、コルベールも覗き込む。

 

「ほぅ、珍しいルーンですな。 失礼、記録させてもらいますよ」

 

 ポケットから取り出したメモに、ボルトの左手のルーンを簡単にしかし的確に記録する。

 

「さて、私は学院長に色々と報告がありますので、学院長室へ向かいます」

 

 記録したメモを手に、コルベールが2人に話す。

 ……さすがにもうあの異常事態に出くわす事はないだろう。

 先程の契約の件も含めて、1度報告をしなければ。

 

「こちらの応接室は今の所使用する予定は有りませんので、このままここで話されて構いません」

 

 後は2人の、主従としての問題だ。

 良きにつけ悪しきにつけ、一生続く関係なのだ。

 これは自分の口を出す事ではない。

 

「それでは――あ、そうだ」

 

 退室しようとドアノブに手を伸ばした所で何かを思い出す。

 

「……ミスタ・ボルト、不躾なお願いで申し訳ないのですが……」

 

 振り返り、すまなさそうな表情でボルトに『お願い』を口にする。

 

 

 

「その『メガネ』、よく見せてもらえませんか?」

 

 

 

 ボルトから手渡された『メガネ』を受け取り、外観を色々な角度から観察。

 掛けたり外したり、視界の違いを確認。

 時折「ふむ」「ほほぅ」と呟く。

 その表情には、未知の物に対する好奇心が満ちている。

 

 ちなみに、その間ルイズはボルトの素顔をじっと見ていた。

 細めかつやや吊り目で、その瞳は髪と同じ薄い金。

 

(……ま、まぁ悪くないんじゃないかしら)

 

 自分のファーストキスの相手として、取りあえず(外見だけは)及第点を付けてみる。

 

 

 

「ありがとうございました、お返しします」

 

 満足したのかボルトに『サングラス』――名称をボルトから教えられた――を返す。

 

「それでは、失礼します。 何か有りましたら、学院長室か図書館に居ると思いますので」

 

 そうして退室してドアを閉める……前に。

 

「――ミス・ヴァリエール、ちょっとこちらに……」

 

 廊下からルイズを呼び出す。

 

「――? はい……」

 

 心当りのない彼女は首を傾げながら、ボルトを1人部屋に残し廊下に出る。

 

 

 

 

 

「――『人間』の使い魔――じゃと……?」

 

 学院長オールド・オスマンは自室でコルベールから報告を受けていた。

 重大な報告という事だったので、大事を取って秘書であるロングビルには退室してもらい、学院長室には今は2人だけだった。

 

 ちなみに、今回コルベールは入室前にノックをし、返事と許可の声を待ち、5秒程経ってドアを開け、中を覗き異常が無い事を確認して入室した。

 中に居たオールド・オスマンとロングビルが『例の事』には触れなかったので、無かった事にするという事を暗黙のうちに理解した。

 

 当初オールド・オスマンは機嫌が悪かった。

 コルベールが入室した時。

 

「なんじゃね? ミスタ・コールタール……」

「オールド・オスマン! 重大なご報告が有ります!」

「……」

 

 ここ最近の中では会心の作だったボケを、見事なまでにあっさりと無視されたのだ。

 不満顔でロングビルに退室を促し、やる気の無い表情で鼻毛を抜きながらその報告を聞こうとした。

 

 だがその態度はコルベールが口にした次の言葉で一変する。

 

 

 

「……『サモン・サーヴァント』で『人』が召喚されました」

 

 

 

 驚きの表情で思わず先の言葉が零れる。

 咳払いをしながら姿勢を正す。

 

「……して、召喚者は誰じゃ?」

 

「ミス・ヴァリエールです」

 

「なんじゃと? 『あの』ヴァリール嬢が!?」

 

 二重の驚きで思わず机から身を乗り出す。

 彼女の噂はオールド・オスマンの耳にも届いているようだ。

 

「やれやれ、成功したらしたで厄介なのを召喚したものじゃのう」

 

 椅子に背を預け溜息を1つ。

 

「オールド・オスマン、同じく『人』が召喚された前例をご存知ありませんか?」

 

 コルベールに訊ねられ、「ふむ」と呟いて目を閉じる。

 

「……無いのぅ。 獣人なら希に有るらしいし翼人も過去に1度有ったらしいがの」

 

 百歳とも三百歳ともいわれるオールド・オスマンの記憶にすら存在しない。

 今回の彼女の召喚は、『学院史上初』という枠にすら収まらないかもしれない。

 

「――で? 其奴はすんなり『契約』に応じた……なんて事は有り得んのう」

 

「はい、不平不満は有りませんでしたが、『600億リド』の対価を要求されました」

 

「『ロッピャクオクリド』……なんじゃ、それは?」

 

 訊ねるオールド・オスマンに、苦笑しながらコルベールは答える。

 

「お金です。 『リド』は彼――召喚された男性が居た所の通貨で、『1エキュー=1万リド』だそうです」

 

「つまり『600億リド』は『600万エキュー』か……」

 

 眉間に皺を寄せ、溜息をもう1つ。

 

「また随分とふっかけてきたもんじゃ」

 

「私もミス・ヴァリエールも抗議しましたが、『ここでの命の相場いくらだ』と言われて閉口するしかありませんでした……」

 

「成る程、確かにの……ならどうしたんじゃ?」

 

「それが無理ならと条件をいくつか提示されました。

 ・600万エキューは分割でも可

 ・『使い魔』ではなく『人』としての待遇を

 ・『使い魔』以外の仕事を他から受ける事を容認

 以上3点を了承する事で『契約』に応じてもらいました」

 

「……やれやれ、本当に厄介じゃのう……で」

 

 椅子に預けていた体を起こし、目を細める。

 

「その男……何者じゃ?」

 

 普段のとぼけた態度からは想像できない老練な雰囲気に、思わずコルベールは思わず息をのむ。

 

「……ぇえっとですね、

 ・名は『ボルト・クランク』、ただ貴族ではない

 ・身長は約200サント

 ・見た事も無い材質とデザインの服を着用

 ・召喚直前は砂漠にいた

 ――それからこれは私の予想ですが、彼は『東方』の傭兵だと思われます」

 

「ほう、傭兵とな。 それでその根拠は?」

 

 髭を撫でながら興味深げに先を促すオールド・オスマン。

 

 

 

 コルベールは、ボルトが召喚されてからルイズとの契約に応じるまでの間に、自分が気付いた色々な事柄を伝える。

 『通貨を知らない』、『見た事も服装とその傷・汚れ』、『立居振舞の隙の無さ』、『火薬の臭い』、『依頼と報酬』、『貴族に対する態度』……そして。

 

「『サングラス』という物をご存知ですか?」

 

 目を閉じ腕を組み、問われた言葉を頭の中で繰り返す。

 

「……いや、無いのぅ……」

 

「彼が掛けていたので『東方』の物だと思うのですが、一言で表せば『黒いメガネ』で……」

 

 コルベールは自分のメガネを指で触れる。

 レンズ部分に爪が当たり微かに音を立てる。

 

「ここが黒いのです」

 

「……それ、見えないと思うんじゃが……」

 

 怪訝な表情で呟く。

 

「私達のメガネの様に視力矯正用のレンズではなく、黒いガラスでできています」

 

 予想通りの反応に、苦笑しながら説明を続ける。

 

「何の意味があるんじゃそれ……?」

 

 表情を変えず問うオールド・オスマンに、コルベールは手に取り観察した事を思い出しながら続ける。

 

「最大の利点は『自分からは見えるが、他人からは見えない』事です」

 

「ほう……」

 

「自分の視界は多少薄暗く映りますが、他人からは黒一色で余程接近しないとこちらの目は透けて見えません」

 

 ――それはつまり。

 

「――戦闘時や交渉時に多大な効力を発揮します」

 

 

 

 敵と対峙した時に人は、当然敵を『見る』。

 剣等で攻撃する時には攻撃箇所を『見る』だろうし、別の狙いが有れば一瞬でも『見て』注意を払うだろう。

 もちろんそれを逆手に取っての虚撃も有り得るが。

 

 ――もし相手から視線が見えなかったら。

 

 どこを狙っているか、何かを狙っているのか分からない事は戦いを多少でも有利に運べる。

 そしてこれは交渉時にも言える。

 

 『目は口程に物を言う』という言葉通り、相手の目を見る事でそこから様々な情報を得る事が可能だ。

 目や眉の形で感情を、視線の動きで思考や動揺を推測出来る。

 

 それが出来なかったコルベールは、ボルトとの交渉は非常にやり辛い物だった。

 

 

 

「戦闘に関して言えば、『太陽を背にした相手との戦い』、『閃光による目眩まし』等の効果を和らげる事もできるかと」

 

「『夜目を鍛える』……なんて事も有りそうじゃな……」

 

「――っ! 成る程……」

 

 オールド・オスマンは椅子に背を預け本日最大の溜息。

 

「……何にせよ、わしらは彼と敵対するつもりは無いし、彼も『契約』に応じたからには事を構えたりはせんじゃろ」

 

「はい」

 

「それでも警戒されん程度には気に止めておいて欲しい」

 

「分かりました」

 

「それからヴァリエール嬢の方も気に掛けといてくれんかの? ど~もお主の話を聞く限り一筋縄で行く相手ではなさそうじゃからの」

 

「……そうですね」

 

 2人で顔を見合わせ苦笑する。

 

 

 

 

 

(ふむ、となると……『アレ』も『サングラス』だったんじゃろうか……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――その頃応接室にて。

 

 

「……ねぇ、わたし聞きたい事があるんだけど」

 

「……何だ?」

 

「『召喚前』にわたしに話し掛けたのはやっぱりあなた?」

 

「……あぁ」

 

「あの時『召喚前』に『報酬』を要求したわよね?」

 

「……そうだな」

 

「それって『契約期間』を知らなかったって事よね?」

 

「……もちろんだ」

 

「……じゃあもし契約が例えば『1年間』とか『1週間』とかでも『600億リド』を要求したって事?」

 

「……」

 

「……ねぇ」

 

「……」

 

「……ちょっとなんで黙るのよ……」

 

「……」

 

「あんた! こっち向きなさいよっ!」

 

「……」

 

「こらぁ無視するなぁ~っ!!」

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 仕事がきついです……
 ノルマが厳しいです……

 3月に入って帰宅しても疲れて寝る。
 休日も寝るかストレス発散で外出か。
そんな感じでほとんど作業が進まず、3週間も空いてしまいました……
申し訳ございませんでした。

 ちなみにどんだけ疲れていたかというと……



 先週の木曜から金曜に変わった頃の地震に、熟睡してて気付きませんでした……



朝起きて家族に地震の事を言われてもきょとんとして。
てっきり勘違いかちょっとの揺れをオーバーに言ってるんだと判断。
起きたのがギリギリだったので急いで出勤すると、職場で皆が話題にしていてポカーンとして。

 あれって震度3か4近くあったらしいですねぇ。
 しかも瞬間でなく結構長い時間揺れたと。

……寝てました。
違和感すら感じませんでした。
大丈夫か? 俺……

 3月はこんな感じですので、次話は4月になるかもしれません。

見捨てず、気長に待ってて下さい。

気が向いたらで構いませんので、ご意見・ご感想を頂ければ幸いです。

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