ゼロの少女と食べる男   作:零牙

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今回の話は、コミック15巻を元に編集・捏造して作られています。


ANOTHER STORY “MOLE”

 

 

 ある時、『男』は1人の男と出会い名乗りあった。

 

 『マーカス』という男は仲間達と傭兵のような事をやっていると話す。

 

 仲間達のコードネームを考え、その名で呼び合っているという。

 

 『男』にも勝手にコードネームを付け、仲間になれと誘う。

 

 『男』にしてみればそれはコードネームというより子供じみたニックネーム。

 

 

 

     ――センスの無いネーミングだ――

 

 

 

 マーカスは会う度にその名で呼び、しつこく勧誘する。

 

 『男』はいつも勧誘を断り、しかしその名で呼ばれる事は拒絶しなかった。

 

 

 

 

 

 ――これは歴史の裏側、知られざる物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ANOTHER STORY “MOLE”(モール)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後の世に『惑星間戦争』と呼ばれた戦いがあった。

 宇宙空間を隔てた戦いは長期化し、互いの星は疲弊した。

 そしてこの戦争はお互いの本星同士で戦う事はなく、戦場となった星では数多くの命が犠牲となり、破壊された大地には難民が溢れた。

 この状況を打開すべく、一方の星で画期的な装置が開発された。

 

 ―Moving

 ―Of

 ―Limited

 ―End point

 

 宇宙空間にトンネルを開けるように、惑星間の距離であろうと瞬間移動を可能にする一対の巨大な装置。

 

 通称“MOLE”(モグラ)

 

 装置の片側を敵地に設置すれば、移動に時間や燃料が掛からず、効果的な奇襲が可能となり、安全な撤退・補給が実現する。

 これこそ正にこの戦争を終らせる突破口となるだろう。

 軍隊に発表した研究員達はそう思った。

 

 ……しかし軍隊がこの装置を採用する事はなかった。

 

 

 

 開発当初は軍隊が装置の片側を敵地へ運ぶ予定だった。

 しかし戦況が悪化し、最前線がすぐ近くの星まで及んでしまっている現在、装置を運ぶ輸送船の建造が間に合わないのだ。

 

 ――そして昔から語られる寓話の中に、こんな話が存在する。

 

 

 

 『猫の被害に怯える鼠達が何とかしようと話し合う』

 『ある鼠が猫の首に鈴を付ける事を提案する』

 『満場一致で決定、鳴り止まぬ拍手喝采の中、1匹が呟く』

 

 ――じゃあ誰がやる?――

 

 

 

 戦争が長期化した今、互いにスパイを使った情報戦も刻一刻と続けられている。

 “MOLE”が開発された事も恐らく敵本星に伝わっているだろう。

 そんな状況で、『直径50メートルを越える巨大な装置』を『最前線を越えて』『敵本星に設置』する。

 ――とても成功するとは思えない。

 

 

 

 2メートル近い長身に、シャツ、ズボン、靴、コート、革手袋にサングラスを黒一色で統一した怪しい『男』。

 そんな『男』がその研究所を訪れたのは、折りしも議会でこの計画に投入する資金が否決された頃だった。

 

 偶然『男』の『能力』を知る事となった研究員達は色めき立つ。

 

「これなら“MOLE”を敵地に送れる!」

「しかし……あんな得体の知れない男に託していいものか……」

「このまま使わないと本当の“MOLE”(モグラ)になっちまう」

「地下で眠らせておくよりはマシだろう」

「ああ……誰も期待しちゃいないがな……」

 

 だが『男』には敵本星に行く手段が無い。

 研究員はこの事を国に報告し、その問題を解決してもらう事にした。

 そしてこの報告を最後にこの研究所は閉鎖された。

 

 明朝『男』の前に爆発音と共に現れたのは――

 

「よお! 奇遇だな」

 

 あのマーカス率いる『マーカス義勇兵隊』の一団だった。

 

 

 

 もう一方の“MOLE”を守る為に偽の情報を流し、自身が囮となって敵を引き付ける。

 敵のゲリラ隊が攻撃する中、マーカス達の用意した船に乗り込み慌しく敵本星へ出発した。

 

 

 

 

 

 『難民を救う為にこの戦争を終らせる』

 だからこそ国からの依頼を受けたというマーカス。

 

 彼に拾われ或いは導かれそして守られているメンバー達。

 彼に全幅の信頼を置く全員が異論の有ろうはずが無かった。

 

 隊の紅一点、オレンジの瞳の『オレンジ』。

 巨漢の防壁『ダム』。

 メカに強い『ドライバー』。

 腕力自慢の『ブル』。

 寡黙な『サイレント』。

 銃を扱えば世界一の『ブロウ』。

 

 彼らは全員同じデザイン・材質のコートと帽子を身に付けていた。

 

     ――センスの無いネーミングだ――

 

 『男』は以前と全く同じ感想口にする。

 

 

 

 そんな彼らの談笑や休息を、戦争が許さなかった。

 

 

 

 離陸時に船に取り付いていた特殊工作ロボットが攻撃を開始したのだった。

 メンバーが脱出ポッドに避難する中、逃げ遅れた仲間を救う為に命を落とすマーカス。

 近くの星に不時着するも敵の追撃は続く。

 “MOLE”を破壊する為に現れた敵軍が進攻する。

 

 戦火を逃れ、身を寄せ合って生きている難民達のキャンプごと。

 

 そしてダムが仲間を庇いその巨体を壁とし……

 ブロウは敵の銃火に身を晒しながらも己の役割を全うする。

 

 オレンジは“MOLE”を作動させる小型ジェネレーターを守ろうとするが、ジェネレーターと共に敵に捕らわれてしまった。

 『男』とサイレント、ブル、ドライバーは難民が乗って来た船でオレンジを追い敵星へ向かう。

 

 

 

 ジェネレーターを取り戻そうとオレンジが……

 取り戻したジェネレーターを『男』に託しブルが……

 退路を確保しようとして敵軍に追いつかれたサイレントとドライバーが……

 

 皆が皆マーカスの遺志を継ぎ、諦めず、『男』に希望を繋ぎ、そして力尽きた。

 

 

 

 ――それは無駄ではなかった。

 

 

 

 

 

 敵軍の前に突如巨大な物体が――“MOLE”が姿を現す。

 『男』がジェネレーターを組み込み、“MOLE”を起動させる。

 

 慌てふためく敵軍の前に、惑星間の超長距離を飛び越えた軍隊が進撃を開始する。

 虚を衝かれた敵軍と、万全の状態で敵中枢に一斉攻撃を仕掛ける軍隊。

 もはや結果は火を見るより明らかだった。

 

 

 

 これにより、“MOLE”は『惑星間戦争終決』と共に歴史に刻まれる事になる。

 

 

 

 

 

 しかし、『マーカス義勇兵隊』と『男』の存在はそこに無い。 

 

 ――これは語られる事のない物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意識が回復して、まずは口に咥えていたネジを飲み込んだ。

 

 そして目を開けると、青空を背にこちらの顔を覗き込む少女。

 

 

 

「……」

「……」

 

 

 

 しばしお互い無言で目を合わせたまま。

 しかしいつまでも倒れたままでいる訳にはいかない。

 

「……」

「きゃっ」

 

 体を起こそうとすると、少女は慌てて体を離す。

 地面に座り込んだ格好で状況を確認。

 

 『ゲート』をくぐった瞬間、激しい衝撃を感じた。

 その結果、しばし気絶していたらしい。

 体は多少痛むものの、外傷も無く特に問題は無い。

 

 

 

「……あ、あなたは誰?」

 

 傍らの少女がやや緊張した声で尋ねる。

 

 

 

 ――それを聞いてふと考える。

 

 『ここ』には自分を知る者はいない。

 どんな名を名乗っても損得は無く支障も無いだろう。

 

 

 

 ……だが。

 

 

 

『我がマーカス義勇兵隊には習わしがある』

『仲間が死んだ時、そいつの身に付けていた物を皆でわけるんだ』

 

 

 

 あの日。

 不時着した星でブルから渡されたマーカスの帽子。

 そして今の自分が身に付けている物は、埋葬時に他のメンバーから譲り受けた物。

 

 ――ならばやはり『あの名』を名乗ろう。

 

 

 

「あなたは誰っ!?」

 

 

 

『こいつはネジを食っているからボルトって名付けた』

『ボルト・クランクってフルネームはどう? 私考えたの! 似合ってると思わない?』

 

 彼らから譲り受けた最初の物。

 

 

 

 

 

    「……ボルト……ボルト・クランク……」

 

 

 

 

 

 それから次に譲り受けた物。

 

『仕事をしろボルト。 仕事はいい。 仕事は人生を充実させる』

『いや……俺にとっては人生そのものだ』

『義勇兵を名乗ってはいるが俺は単に冒険をしたいだけなんだ』

『人生は冒険……仕事も冒険……』

『仕事の種類や名前は何だっていい……』

『お前もそうだろ? ボルト……俺とお前の生き方は同じのはずだ……』

『定職を決めるのが嫌なら俺がお前の仕事を決めてやる』

 

 

 

     『“冒険屋”ってのはどうだ?』

     「……冒険屋だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それにしても……

 

 『ボルト』は内心苦笑する。

 

 

 

 

 

     ――センスの無いネーミングだ――

 

 

 

 

 




終盤に、ボルトに『名前』と『職業』を言わせる為だけ(・・)に、15巻の内容を強引に圧縮して作りました。
そして原作をご存知の方はわかると思いますが、最重要人物の『アリス』の存在を完璧に無視しています。
彼女のエピソードも加えてうまく纏められる自信がありませんでした……
しかしボルトという人物の『名前』と『職業』そして『服装』に関して話を作るなら、15巻の内容は多少の無茶をしてでも入れたかった自分の苦肉の策です。
今回の話でそれが成功したかどうかはわかりませんが……

17巻の後記で作者の吉富先生が
「いつか『EAT-MAN』の世界の年表を作ってみたい」
と書いてましたが、これはその年表の最初に書かれる最古の出来事でしょう。
『冒険屋ボルト・クランク』の誕生の話ですから。
……年表見てみたかったなぁ。

次回は普通に物語を進めたいと思います。
気が向いたらで構いませんので、ご意見・ご感想を頂ければ幸いです。

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