ゼロの少女と食べる男   作:零牙

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久し振りの投稿です。
もはや月1作品と化している感じが……


ACT-8 朝食

 

 

 

 トリステイン魔法学院で中心にあり最も高い建物である本塔。

 

 その廊下を奇妙な一行が歩いている。

 

 

 

 先頭にはラ・ヴァリエール家の三女、『あの』ルイズ。

 朝から隣室のキュルケと一悶着あったのか機嫌が悪い時は時々あるが、今朝はまた格別だった。

 

 眉間に深い皺を寄せ、前方を睨む様な目で見据えて。

 肩を怒らせ、苛立ちをぶつけるかの様に廊下を踏み締め。

 時折鋭い眼光を後方に注ぐ。

 常日頃から貴族たらんと行動している彼女にしては、非常に珍しい事ではある。

 

 

 

 その後ろを行くのは恋多き留学生『微熱のキュルケ』。

 

 またルイズを遣り込めたのか、こちらは上機嫌だった。

 しかも時折噴き出し、思い出し笑いを必死に堪えている。

 その度に前方のルイズが尋常ではない視線を向けるのだが、全く意に介さない。

 寧ろその度に楽しそうな笑顔を返すのだ。

 

 

 

 次に進むのはキュルケの使い魔『フレイム』。

 

 先頭のルイズがやや早足で歩行している為、フレイムも遅れまいと通常よりも速い速度での移動となる。

 短い手足を忙しく動かし、その巨体が走る様子はかなりの迫力である。

 

 

 

 そして最後尾は謎の男。

 

 その見上げる長身に見慣れぬ服装。

 彼の名は周囲の生徒達は誰も知らない。

 しかし、その存在は既に知れ渡っていた。

 

(おい! あれが!?)

(あぁ、あの『ゼロのルイズ』の使い魔だ)

(あの噂は本当だったのか……)

(でもどう見ても人間にしか見えないんだけど……亜人?)

(……それがどうも本当に人間みたいよ?)

(嘘!? 人間の使い魔なんて聞いた事ないわよ!?)

 

 あちらこちらから聞こえてくる言葉を気にもせず先行する2人と1匹の後を追う。

 長身故にその歩幅は大きく、その歩みは大きくゆったりとしていた。

 

 

 

 食堂へ続くこの廊下は、朝食時の今は本来なら大勢の生徒達で賑わっている。

 だが全ての生徒達が廊下の両端に避けている為、この3人と1匹の一行は無数の視線の中無人の廊下を行くが如く食堂へと向う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ACT-8 朝食

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここで待ってなさい」

 

 食堂近くに着いた時、ルイズは後方を振り返りボルトを睨み据えながらそう告げる。

 そして食堂に入り、そのまま近くの厨房へと続く入り口へ足音高く歩いていく。

 

「じゃあフレイム、また後でね」

 

 ボルトと共に廊下に残ったキュルケが己の使い魔に声を掛ける。

 きゅるきゅると鳴いた後、フレイムはそのまま何処かへ歩いて行く。

 

「ここ『アルヴィーズの食堂』は基本的に入れるのは貴族だけで、使い魔は別の場所で餌を貰うの」

 

 使い魔に手を振り見送りながらキュルケは話す。

 

「多分ルイズは平民である貴方の席と食事を用意しに行ったんじゃないかしら。 さすがに同じ食卓で同じ料理ってのは無理かもしれないけど」

 

「……」

 

「それにしても――」

 

 無言のボルトの横で、キュルケはまたしても噴き出す。

 その回数は今朝のボルトの発言から既に20を越えている。

 

「これまで『大人の女性』じゃなくて『少女』として扱われる事は何度も有ったろうけど、まさかルイズも『子供』扱いされてるとは思ってなかったでしょうね」

 

 そう言って飽きる事なく笑い続ける。

 

 

 

「邪魔よツェルプストー。 いつまでも入り口近くで突っ立ってるんじゃないわよ」

 

 いつの間にか戻ってきたルイズの不機嫌を隠そうともしない声。

 

「あらお帰りヴァリエール。 ごめんなさい、気付かなかったわ」

 

 そう言って片手を頬に当てながら腕を組み、溜め息をつく。

 

「あたしってどうも人より視界が狭いみたいなのよ、主に『下方向』になんだけど。 自分の足下とかよく見えなくて困るのよねぇ」

 

 その視界不良の原因である『モノ』が先の腕を組んだポーズの所為か、さらに大きさを強調されてルイズの目の前に存在している。

 それ故にルイズがその『モノ』に向ける視線には尋常でない殺気が込められていた。

 彼女が視線で人を殺せるならその目前のキュルケだけではなく、その余波だけでこの廊下は『元』生徒達で構成された屍山血河の惨劇の場となっていただろう。

 

 

 

「邪魔」

 

 

 

 無表情が常の青い髪の小柄な少女タバサ。

 そんな彼女が珍しく僅かに苛立ちを滲ませながら、火花を散らすルイズとキュルケに言い放つ。

 朝食の時間に遅れそうになるのが健啖家の彼女には許せなかったようだ。

 

「あらタバサ、おはよ」

 

「おはよう。 ――2人共皆の迷惑」

 

 そう言われルイズとキュルケは周囲を見回す。

 間も無く朝食だというのに、入り口付近の小競り合いだった為に他の生徒達が食堂に入れず、遠巻きにして飛び散る火花を避けていた。

 

 余談だが、下級生や気の弱い女生徒はルイズの視線に怯え、男子生徒の大半は思わぬ眼福を得てにやけていた。

 

 お互いに顔を見合わせ、一時休戦としたのか壁伝いに移動し入り口を空ける。

 そうした事で恐る恐る生徒達は食堂へと移動し始めた。

 

 

 

「こほん」

 

 わざとらしい咳払いの後、ルイズは左手を腰に当て右手の人差し指を傍らに立つ使い魔の鼻先に突きつける。

 ――もちろん実際には背丈が圧倒的に足りないのでそんな意気込みで。

 

「いい? ここ『アルヴィーズの食堂』は本来――」

「あぁそれならあたしが話したわ」 

 

 苦虫を噛み潰したような顔で背後のキュルケに振り返る。

 

「だからあなたが彼の席と食事を用意するように厨房に言いに行ったんでしょ?」

 

「……むぅ~……」

 

 ルイズは朝の発言の意趣返しも含めて、盛大に恩着せがましく言ってやろうとしていた。

 ところがキュルケに話の腰を折られ、言葉を盗られ、散々である。

 

「……こっちよ、着いて来なさい」

 

 不機嫌な顔のまま食堂へと歩いていく。

 楽しそうなキュルケと、無言で無表情のままボルトが後に続く。

 

 

 

 こうして見事に失敗したかに思えたルイズの『意趣返し』。

 

 ――しかし実はまだ『次』が用意してあったのだった。

 

 

 

 

 

 ――『アルヴィーズの食堂』。

 

 トリステイン魔法学院の中心に位置する本塔の1階。

 そこで全ての生徒と教師がここで食事をする。

 その為学院で最も大きな部屋の1つとなっている。

 

 中に入ると真っ先に目に入るのは3卓の長大なテーブルである。

 1卓でも100人は優に座る事ができるだろう。

 身に付けたマントの色によって座るテーブルが決まっているらしく、どのテーブルも同じ色のマントの生徒が席を埋めていた。

 それぞれが自由に席に着き、周りの生徒達と談笑している。

 頭上は吹き抜けになっており、天井との間には中階部分がありそこは教師達の席となっているようだ。

 

 その全てのテーブルにはいくつもの燭台のロウソクに火が灯され、色鮮やかな花が飾られ、実に華やかである。

 そして用意されている料理も鳥のローストを始め、パンにスープにパイ、フルーツにサラダにワインと朝食とは思えない程豪華な物だった。

 

 

 

 ルイズが――正確にはボルトが食堂に足を踏み入れると中にいた生徒達が一斉にどよめく。

 その体に感じられた低い声の波に、思わずルイズは気が引けてしまう。

 

(や、やっぱり平民を入れるのはまずかったかしら……)

 

 だが微かに耳に届く言葉を聞くとそういう類のどよめきではないようだ。

 

 

 

(おっ! あれが例の……)

(ぅわぁ! やっぱり人間だ!)

(……でかいなおい)

(しかし本当に『ゼロのルイズ』が召喚したんだな)

(――なぁ。 そういえば例の賭けはどうなったんだ?)

(そうそう! 『召喚成功』に賭けた人なんていなかったんでしょ?)

(……胴元の総取りか)

(他の学年からも参加者いたらしぜ。 『本屋』の奴、笑いが止まんないんじゃないのか?)

(――それがいたんだってよ、『成功』に賭けた奴。 しかも複数口!)

(俺も聞いた!)

(大赤字で『本屋』が廃人になってたってさ)

(そういや今朝はまだ見てないよね……)

(あ~ぁ、俺も『成功』に賭けときゃ良かったな……)

(……)

(…………)

(………………)

(……そりゃ無理でしょ)

(うん、無いな)

 

 

 

「……なんか不愉快な話が聞こえるわね……」

 

「……ぷ……くく」

 

 改めて気分を悪くしたルイズの背後で、二重の意味で笑いの止まらないキュルケだった。

 

 

 

 ルイズは中央のテーブルのやや端寄り、まだ空きの目立っていた一角の内の1つの席へと移動する。

 そこにしばらく立ったままだったが、不満顔で振り向く。

 

「ちょっと、椅子くらい引いてちょうだい。 気の利かない使い魔ね」

 

「……」

 

 言われて無言のまま椅子を引くボルト。

 礼も言わずに腰掛けるルイズに声が掛けられる。

 

「……あの、ミス・ヴァリエール……」

 

「あら、ちょうど良かった」

 

 腰掛けたまま後ろを向くと、そこには何かを両手で持ったシエスタがいた。

 

「それはその辺の床に置いといて」

 

「えぇ!? でも……」

 

 そう言って不安げな顔でルイズとボルトの顔を交互に見る。

 

「良いから! こいつは平民なのよ?」

 

「……はい、わかりました……」

 

 そう言われ、ルイズのやや右後方の床、ボルトの足下近くの床に『何か』を置く。  

 そして「失礼します」と頭を下げた後、申し訳なさそうな顔でボルトにも礼をして去って行く。

 

 彼女が置いて行った物――それは1枚の陶器のスープ皿だった。

 やや大きめで浅めの皿の中にはスープが入っていた。

 ただそこには肉の欠片はおろか、野菜屑すら入っておらずとてもスープとは言えない代物で、純粋に『液体のみ』だ。

 そして皿の端には表面のほとんどが焦げた小さなパンが乗せられていた。

 

 意地の悪い笑顔でルイズは後ろに立つボルトに言い放つ。

 

「聞いたと思うけど、使い魔は本当なら外。 でもわたしの特別な計らいで中で食べられるんだから、有り難く思いなさい」

 

 

 

 

 

「……ねぇヴァリエール、気持ちは分からなくも無いけど、流石に大人気ないと思うわよ?」

 

 わざわざ向かい側の椅子に座ったキュルケが呆れたように呟く。

 

「いいのよ! 主人を不愉快にさせる無礼な使い魔は本当ならご飯抜きなんだから!」

 

 その場に立ったままのボルトの足下に視線を移す。

 どう考えても『犬猫みたいな扱い』だが、今朝のあの発言は流石のルイズも腹に据えかねた。

 

「そ・れ・に! わたしは『12か13の子供』らしいから、『大人気ない』のも当然でしょ!?」

 

 ふん!と鼻息も荒くルイズはボルトやキュルケから顔を逸らす。

 そんなルイズを見たキュルケはテーブルに頬杖を突いて溜め息を突く。

 

「……そういうのが」

「大人気ない」

 

 いつの間にかキュルケの隣に座っていたタバサが後に呟く。

 

 

 

 

 

『偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ。 今朝もささやかな糧を我に与えたもうたことを感謝します』

 

 祈りの言葉が唱和されて、食事が開始される。

 

 ルイズは多少溜飲が下がったのかすっきりした顔で食べている。

 向かい側のキュルケは隣の男子生徒と話す事の方が主になっている。

 隣のタバサはその細い小さな体の何処に入っていくのかと思える程の量を口にしている。

 特に大鉢に盛られたハシバミ草という苦味のある草を使ったサラダは人気がないのか、彼女1人で専有しているが不平は出ていない。

 

 そんなテーブルの横の床にボルトは胡座を組んでいた。

 左手で皿に乗ったパンを取り、右手で皿を取りそのまま口を付けゆっくりと飲み干す。

 パンに付けて食べる為だったのか、スプーンが無かったからだ。

 左手にパン、右手に空になった皿を持った状態で暫し考え込む。

 

 ルイズはあれからこちらを見ようともしない。

 どうやら自分に与えられた食事は本当にこれだけのようだ。

 

 

 

 ――まぁ、用意されても困るのだが。

 

 

 

 そうして『片方の手』の物を口に運ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ――ガリ――

 

 

 

 

 

   ――ボリ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 背後から妙な音が聞こえる。

 

(そんなに硬いパンだったのかしら……)

 

 ルイズは少し気になった。

 先程厨房へ行った時に偶然近くに居たシエスタにこう言ったのだった。

 

 

 

「私の使い魔用の食事を用意して! 何も入ってない薄いスープと炭みたいに焦げたパンで良いから!」

 

 

 

 腹いせに思わず酷い内容が口から出てしまったが、いい気味だと思った。

 

(……そりゃ確かに周りと比べると背とか……む、むむむ胸とか、ち、小さい、のかもしれないけど――)

 

 そんな事を考えるとまた少しずつ腹立たしくなってしまう。

 ナイフとフォークを持つ手に力が篭もる。

 

(――いくら何でも、『10歳』は無いでしょうっ!)

 

 握ったままだった両の手でテーブルを叩く。

 それが思ったよりも大きな音を立ててしまい、ルイズは自分で驚く。

 

 そうしてやや俯き加減だった顔を上げると、周囲の生徒達の雰囲気がいつもと違っているのに気付いた。

 

 皆こちらを――というより自分の後方を見ている。

 それも呆然とした表情で。

 タバサもサラダを口へと運ぶ途中で固まっている。

 

 ただ正面に座るキュルケだけは眉間に皺を寄せ、ルイズに非難の視線を向けている。

 

「……ねぇルイズ。 彼はあなたの使い魔だから、私達は部外者だし口出ししても結局はあなた達の関係性の問題だと思うの」

 

「何よ、言いたい事があるならはっきり言いなさいよ!」

 

 歯切れの悪い彼女の言い方につい声を荒げるルイズ。

 溜め息をついてルイズの後方を指差し、答えるキュルケ。

 

「いくら『使い魔』でも彼は『人間』なのよ? そんな事をさせるのは『貴族』としてというか、同じ『人間』としてどうかと思うんだけど?」

 

「わ、わかったわよ……」

 

 ――どうせこちらの料理を物欲しそうにじっと見てたんでしょう。

 

 そう見当をつけて、目の前にある鳥のローストの腿部分をナイフで切り取り、フォークで刺す。

 そうして軽く咳払い。

 椅子から立ち上がらずに、体だけ動かしフォークに刺した肉を差し出す。

 

 

 

(――あれ? でも『サングラス』しているあいつの『物欲しげな目』が、何で皆は分かったんだろ?)

 

 

 

 ちなみに『硬い感じの妙な音』はこの時もずっと断続的に続いている。

 

「はい、特別にこれをあげるからそんな物欲しそうな目をしない……で…………ょ…………?」

 

 そうして自分の予想の斜め上を行く背後の光景に絶句する。

 差し出したフォークが手から零れ落ちる。

 

「…………な…………な……なななななぁ…………」

 

 その信じ難い光景に、頭の中が真っ白になり言葉がうまく出て来ない。

 空になった左手でテーブルのワイングラスを取り一気に飲み干し深呼吸。

 そして椅子から立ち上がり改めて大きく息を吸い込む。

 

「何やってんのよあんたはぁーーーっ!?」

 

 思わず右手のナイフでその異常な光景の創造主を指し示し、可能な限りの大声で怒鳴りつける。

 もちろんテーブルマナーに真っ向から喧嘩を売る行動だがそんな事は気にしていられなかった。

 

 彼女の使い魔は相変わらず読めない表情で食堂の床の上に胡座を組んでいる。

 そして『左手に持ったパン』はそのままに。

 

 

 

 ――『右手に持った皿』を口に運んでいた。

 

 

 

 その大きさは既に半分以下になっている。

 先程からしていた『硬い感じの妙な音』は彼が陶器製の皿を『食べる音』だったのだ。

 

 怒鳴られてルイズに顔を向けるボルト。

 しかしその手は止まらず、またも皿を持つ手を持ち上げる。

 

 ――口を開け、

 ――皿を齧る。

 ――咀嚼して、

 ――嚥下する。

 

 普通の人間が行う一連の行動。

 そこに何の違和感も存在しない。

 

 それだけにその対象である物の異常性が際立った。

 

「――ぅ」

 

 1人の女生徒が手で口を塞ぎ、そのまま席を立ち走り去る。

 何人かの生徒が口や胸を押さえながら後に続く。

 

 そんな周囲の状況に構わずに彼は『食事』を続ける。

 

「ちょっと!? もう止めなさいっ!」

 

 怒りと焦燥の声でそれを制止しようとするルイズ。

 それを聞いてボルトは手を止める。

 口に残った物を飲み下し、胡座を解き立て膝の姿勢になる。

 そこからゆっくりと立ち上がる。

 

 

 

 ――その前に。

 ――一際大きく口を開く。

 

 

 

 

 

   ――ガキン――

 

 

 

 

 

 やや甲高い音と共にルイズは右手に軽い衝撃を感じる。

 

「……ん?」

 

 右手に視線を移すと数秒前にボルトに突きつけていたナイフの『柄』が手の中に有った。

 ついさっきまで有った筈の『刃』は、まるで初めからそうだったかのようにどこにも存在しなかった。

  

「……ぇ……?」

 

 ボルトが立ち上がりざまナイフに顔を近付けていたのは見えた。

 その際口を開いていたのも見えた。

 だが肝心の瞬間は瞬きをしていたのかはっきりとは見えなかった。

 

 しかし考えられる事実は1つしかない。

 

 だからといって直ぐには信じ難い。

 ここの食堂で使われているナイフは、熟れた果実の様に齧り取れるような粗悪品ではないのだ。

 

 

 

   ――ガキリ――

 

 

 

   ――ゴキリ―― 

 

 

 

 目の前に立つボルトからは先程とは違う金属製の音がしている。

 ならばもはや疑いようが無い。

 

 ――この使い魔が皿と同じようにナイフも『食べた』のだ。

 

 呆然とするルイズを尻目に、右手に残った皿の欠片を口に咥える。

 そしてその欠片をガリボリと音を立て食しながら、外へと通じる扉へ足を進める。

 

 その少し開いた扉の隙間から中の様子を伺う顔があった。

 タバサの使い魔のウィンドドラゴンである。

 近付いたボルトの顔をじっと見詰める。

 その巨体が邪魔で外に出れないボルトも無言で相手を見る。

 

「きゅい?」

 

 その相手が何かに気付き視線を逸らす。

 逸らした先にはボルトの左手、今だ持ったままだったパンがあった。

 そして今度はそのパンから視線が動かない。

 

「……」

 

「……」

 

 ボルトがウィンドドラゴンの鼻先にパンを差し出すと、器用にその大きな口にパンだけを咥え込む。

 そして完全に口の中にパンを収容した途端、動きが止まる。

 慌ててその場から離れながら咳き込み始めた。

 どうやら予想以上に焦げ部分が苦かったようだ。

 

 そうしてボルトは悠々と外へと歩き出した。

 

 

 

 

 

「……ねぇルイズ。 さっきはあなたにあんな事言っておいて、こんな事聞くのはどうかと思うんだけど……」

 

 未だ呆然としたままのルイズの背中に声を掛けるキュルケ。

 ルイズは呆然とした表情のまま振り返る。

 

「……彼って『人間』? 『亜人』じゃなくて?」

 

「……あいつが『亜人』だったんなら昨日のわたしの心労は半分以下だった筈よ……」

 

 大きな溜め息と共にそう呟く。

 

 いつもなら多くの生徒達の談笑で賑わう食堂内、その一角だけは奇妙な静けさが残存していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回の食堂での話は、かなり昔から妄想していた場面の1つです。
――相変わらずそれを文章で表現するのは難しいです。

それから作成中は気付かなかったんですが、なんとボルトの台詞が無い。

まぁ原作でもほとんど話さない回もあったんで、問題無いかと……
これからも彼の台詞は『必要最小限以下(・・)』で作成しようと思います。

気が向いたらで構いませんので、ご意見・ご感想を頂ければ幸いです。

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