ハイスクールD×D×SHUFFLE!   作:ダーク・シリウス

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Episode5

 

ヴァーリの祖父、リゼヴィム・リヴァン・ルシファーと再会して翌日。

学園祭最終日。今日も頑張って客と接し、料理を作り続けている。

 

「我も手伝う」

 

今回はメイド姿のオーフィスも参加していた。

普段、黒のゴスロリを着こなしているオーフィスだから、

メイド服を着ても何の違和感すら感じない。

 

「可愛いぞ、オーフィス」

 

「ん、そう?」

 

「ああ、そうだ」

 

黒い髪を撫でれば、目を細めて嬉しそうな顔をする。

―――俺の隣にダークカラーが強い銀髪が突き出された。

 

「・・・・・なんだ?その頭は」

 

「私も撫でてくれ」

 

―――その前に、どうしてお前までメイド服を着ているんでしょうか?

ヴァーリ・ルシファーさん?

 

「なんでいるんだ?」

 

「本で読んだんだ。男はメイド服が好きだと。実際に一誠も二人のメイドがいる。

だったら、私もメイドとなって一誠のお世話をしたら一誠も喜ぶのでは?と思ったんだ」

 

それ、間違っていないけど俺はメイド萌えではないからな?ここ重要だ。

 

「メイド服が好きかどうか置いといて・・・・・。ヴァーリ、とても似合っているぞ」

 

「・・・・・そうか、似合っているか」

 

嬉しそうに呟く俺の幼馴染はその場でクルリと回った。

そのメイド服を着たヴァーリの仕草に思わず胸が高鳴った。

 

「ごめん、ヴァーリ。訂正だ。―――綺麗だよ」

 

そう言うとヴァーリが一瞬だけ目を丸くしたが嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「ふふ・・・・・なんなら、このまま一誠の専属メイドになってもいいぞ?」

 

「あー、そうなるとお前・・・・・しごかれるぞ?」

 

「ん?」

 

「ん」と、とある女性に視線を向けた。ヴァーリも俺がとある方へ向ける視線を追ったら―――。

 

「御所望とあらば、このリーラ。一流のメイドになるまで教育させてもらいます」

 

淡々と言う俺の専属メイドがいた。しかし、瞳は獲物を狙う獣の目のそれだった。

 

「・・・・・」

 

ヴァーリ自身も何かを感じたのか、薄っすらと頬に冷や汗を流しだした。

 

「すまない。聞かなかったことにしてくれ」

 

「うん、そうした方が良いぞ」

 

リーラに調教もとい教育された日には何時ものヴァーリじゃなくなるかもしれない。

それはちょっと・・・・・な?

 

「はいはい、そろそろ桃色空間を止めて手を動かして欲しいなぁー?」

 

清楚に窘められてしまい俺とヴァーリは仕事に務める。

 

「午後のイベント、楽しみだね」

 

―――言った本人が話しかけてきた。午後のイベントか・・・・・確か、全校生徒の中から

代表して決闘を見せ付けるんだったな。一般人も参加しても良いらしいが・・・・・。

 

「優勝した人はなんたって、半日デート権を得られて相手を選べるから私、楽しみだよ」

 

「と言うことは、清楚も出るわけだな?」

 

「うん、きっと百代先輩も出るだろうし・・・・・負けられない」

 

瞳の奥に戦意の炎が燃え上がったのが分かった。おおー、あの清楚がやる気だ。

 

『・・・・・』

 

あれ、清楚の話しに興味を持った奴らが耳を大きくしているぞ?

まさか・・・・・お前らも出るつもりなのか?

 

―――午後―――

 

『さぁ、やってまいりました何がなんでも譲れない男と乙女の熱い決闘が!

司会はこの俺、幼女の味方の井上準と』

 

『駒王学園、放送部を務めるデイジーです。そして、解説は―――』

 

『何故か解説をして欲しいと放送部に参加させられた兵藤一誠が行います。

どうも、よろしくお願いします。というか、俺も参加したいんだが・・・・・』

 

グラウンドに設けられたテントの下に俺たちがいた。

その上空に魔方陣で展開した立体映像が浮かんでいる。

ゲストの百代がいない理由は・・・・・後に分かるだろう。

膝にはチョコンと座っているオーフィス。

 

『いやー、一誠が参加したらモモ先輩ぐらいの実力者じゃないと負けないでしょう?

学長からの指示なんでどうか了承ください』

 

『なるほどね。だったら、肝心の百代はどうなるんだよ?』

 

『今回出場するメンバーを確認して比較したら良い勝負になるだろうとのことで』

 

『よし、あいつの目と鼻に唐辛子を大量にぶち込んでやる』

 

絶対だ、と声を殺せばデイジーと井上が苦笑いを浮かべた。だって俺と同じぐらい強いんだし、

贔屓だろう。爺バカだろう。

 

『今回出場する選手の人数は五十名。ルールと勝利条件は時間制でグラウンド中央に設けられた

石のリングから落とされるか、相手が戦闘不能もしくはリタイア宣言をすれば勝利です。

神器(セイクリッド・ギア)と武器の使用も有り』

 

『シンプルですね。これならあまり怪我をしないかもしれません』

 

『いやー、相手が相手だし・・・・・重傷を負う奴もいるかもしれないぞ』

 

『試合に負け、怪我をした人は医療チームによって治療してもらいます。

重傷者の人は解説の兵藤一誠さんに直してくださいねー』

 

『骨折でも腕か足が失っても俺が治してやる。死んだら治せないがな』

 

『不吉なことを言わないでくださいよぉー!

どれだけ激しい勝負になると思っているんだこの人は!?』

 

想定以内のことを思って言っただけだがな・・・・・。

 

『ま、まあ・・・・・そろそろ進めましょうよ』

 

『そうだな。では次は、決闘の審判を務める川神学園の学長、川神鉄心さんのありがたーい

お話しだ。眠たい奴は寝ていいぞ。俺が許す』

 

『ジャイアニズム!?』

 

それ、使い方間違っていないか?リングに上がって川神鉄心がマイク越しで

決闘のことについて語り始める。しばらくして、

 

『では、これより決闘を行う。最初の選手はリングに上がれい!』

 

決闘が始まったのだった。

 

―――○●○―――

 

試合は次々と消化していく。中には一般人・・・・・もとい武の心得がある武道家やボクサー、

拳法使いといった選手も参加していたが、

 

「川神流・無双正拳突き!」

 

「ぎゃあああああああああああ!」

 

如何せん、どいつもこいつも相手が悪過ぎる。百代だったり、清楚だったり、

何故かサイラオーグと兵藤照までもが参加していた。

あいつはともかく、サイラオーグは誰とデートがしたいんだろうか?そういった実力者が

あっという間に倒してしまうから三十分ぐらいでさんかしていた人数の半分以下となった。

 

「ソーたんとデートするのはこの私なんだから!」

 

どこから嗅ぎ付けたのだろうか。セラフォルーまでいるぞ。

 

「リーアたんと共に学園祭を回るのだよ!」

 

おい、お前。

 

「ぬんどりゃああああああっ!シアとキキョウに指一本も触れさせんぞ!」

 

「ふはははは!ネリネちゃんとリコリスちゃんとデートしたければ

私の屍を越えていきなさい!」

 

・・・・・・もう、この親バカ共が・・・・・。思わず頭を抱えてしまう俺だった。

そして、必然的に勝ち残ったメンバーは数名残して殆ど駒王学園の生徒とその家族となった。

 

「というか・・・・・どうして堂々とお前らまで参加しているんだろうなー」

 

参加者の名前が記されている紙を見下ろして、勝利した選手の名前を見て溜息を吐く。

 

『曹操』『ゲオルク』『ジークフリート』

 

あいつらテロリストだと自覚しているんだろうか?それとも、今の状況にこちらが迂闊に

手を出せない事をいいことに参加しているのか・・・・・。そうこうしている内に、

俺が知っている奴らが戦い始め、互角の勝負、一方的な勝負と次々と繰り広げ始めた。

 

「・・・・・」

 

その中で文字通り全身黒ずくめの二人組がサイラオーグと同じ戦い方をしていた。一撃必殺。

目まで覆い隠しているから顔を伺えることはできない。でも―――なんでだろうか。

とても懐かしい感じがする。

 

「(同時にこの異様にも感じる嫌な予感が堪らない。なんだ、これは・・・・・)」

 

―――照side―――

 

俺は兵藤照。デートの権利なんていらねぇが、もしかしたらあの野郎、

兵藤一誠が参加すると思ってこのイベントに参加したのになんだってんだ。

あの野郎、解説だと!?参加した意味がねぇじゃねぇかよ!

クソ、そういうことなら俺がこのイベントを優勝して気分を晴らすしか無いじゃないか!

そう思っていたのに―――なんだ、こいつはよ!?この黒ずくめの野郎は!

 

「・・・・・」

 

闘気を纏って外部からの攻撃を無効化する俺の自慢が―――まるで何も無いかのように

腹部に打撃を与えてくる!

 

ドゴンッ!

 

「がは・・・・・っ!?」

 

なんで、あいつと同じ戦い方で俺にダメージを与える・・・・・っ!?

まるで、あいつと戦っているようじゃないか・・・・・っ!

 

「兵藤照、リング場外により敗北!勝者はゼロ!」

 

くそぅ・・・・・!ちくしょう・・・・・っ!俺より強い奴がこうもゴロゴロいるのかよ・・・・・!?

ざけんな・・・・・っ!

 

―――一誠side―――

 

あいつが負けるなんてな・・・・・驚いたぞ。

 

「―――凄い」

 

隣にいるデイジーが感嘆する。そりゃそうだろうな。一撃で倒しているし、

もしかしたらサイラオーグも、百代も同じ運命を辿るのかもしれない。

 

「おーおー、盛りあがっているじゃん。坊ちゃん?」

 

「っ!?」

 

この軽い口調は・・・・・。振り返れば、そこにヴァーリの祖父、

リゼヴィム・リヴァン・ルシファーがいた。本当に来たんだ。それに見知らぬ銀髪の青年もいる。

 

「うひゃひゃひゃ、おじさんも出ても良かったんだけど生憎、熱血で筋肉派じゃないからねぇー。

あっという間に倒されちゃいそうだぜ」

 

「ここ、関係者以外近づいてはいけないんですけど?って、言っても聞かないか」

 

「うんうん、よーく俺のことを分かっているじゃん坊ちゃん。俺、悪魔だしねー。

好き勝手に自由に生きちゃう!」

 

だろうな。・・・・・それにしても、

この人の隣にいる銀髪の青年・・・・・どこかで・・・・・?

 

「おんや?ユーグリットくんに興味かな?」

 

「ユーグリット?」とオウム返しをすれば、銀髪の青年がお辞儀をした。

 

「姉がお世話になっております。ユーグリット・ルキフグスです。以御お見知りおきを、

次期人王の兵藤一誠」

 

「―――――っ!?」

 

ルキフグス・・・・・!グレイフィアとシルヴィアの・・・・・弟なのか?

 

「グレイフィアから聞いたことがないから分からなかったけど。弟がいたんだな・・・・・」

 

「ええ、昔の戦争に行方を暗ましていましたからね。

―――兵藤家と式森家が乱入したあの三大勢力戦争の直後に」

 

「・・・・・なんと言うか、何とも言えないんだが・・・・・」

 

「あなたが気にするようなことではありません。

もう過去の話ですし、別に『真魔王派』のように怨恨を持っているわけではありませんから」

 

そう・・・・・なのか・・・・・。

 

「ただ―――」

 

「うん?」

 

「私たちは欲しいものがありましてね」

 

欲しいもの?ヴァーリの祖父もそうなのか?「たち」って言ったし・・・・・。

 

ドガッ!

 

打撃音がここまで聞こえた。尻目で見れば―――あの神王がひれ伏している!?

相手はあの黒ずくめだ。

 

「兵藤一誠くん、『異世界』に興味ありませんか?」

 

「―――異世界?」

 

「ええ、この世界とは違う別の世界。私とリゼヴィムさまは異世界に行きたいんですよ」

 

なんか、急にスケールの大きい話になったような・・・・・。

 

「実在しているのか?」

 

「実在しているさ!なんてって、異世界からこの世界の物じゃないものが

稀にだけど見つかるんだぜ?それがこの証拠だ」

 

そう言ってこのヒトは俺にあるモノを見せ付けた。

―――それは。俺が目を見開くとニンマリと笑みを浮かべた。

 

「その表情を見る限り、どうやら坊ちゃんも知っていたか、あるいは持っているようだねぇ?」

 

赤い結晶状の宝石を持っていた。

 

「どこで、それを?」

 

「うひゃひゃひゃ、昔、坊ちゃんのパパンとママンから見せてもらったんだ。

嬉しそうに楽しそうに

『こいつは間違いなく異世界の代物だ』と子供のように言ってくれたんだぜ?」

 

―――っ!?

 

また、このヒトは父さんと母さんの話しを持ち上げる。

 

「そいつをどーしても欲しかったんだけど、『

扱いがかなりデリケートだからあげれない』って言われて

貰えなかったから後日、坊ちゃんのパパンとママンからこの異世界の物を貰っちゃいました」

 

「・・・・・どうしてだ?」

 

そう訊くと―――このヒトは―――途端に醜悪な笑みを浮かべた―――。

 

「それはな―――?」

 

『優勝はゼロ!』

 

と、リングから優勝者の名が挙がった。何時の間にか試合が終えてしまったか。

 

「おろ、終わっちゃったねー。そんじゃ、俺っちたちはまた学園祭を楽しませてもらうちゃーう。

じゃあねぇー」

 

ヒラヒラと手を振って俺から遠ざかっていく。・・・・・あのヒトは一体・・・・・。

 

―――○●○―――

 

「以前渡したあの赤い結晶状の宝石の結果はどうなっている?」

 

「急にどうした?」

 

午後のイベントが終えてすぐ、アザゼルに問いだたした。

 

「いいから、教えてくれ」

 

「まあ・・・・・結論を言えば、神が作った代物じゃないというのが判明した。

ヤハウェにも見せてみたら本人も驚いていたしな」

 

・・・・・やはり、異世界の物なのか?

 

「イッセー、アレをもう少しだけ研究させてくれ。何か分かるかも知れないんだ」

 

「別に構わない。もう一つある。いや・・・・・二つか。あのヒトも持っていたし」

 

「あのヒトだと?誰だ」

 

「・・・・・リゼヴィム・リヴァン・ルシファー」

 

教えると、案の定・・・・・アザゼルが言葉を失った様子になった。

 

「あの野郎が・・・・・だと?」

 

「ついでに、グレイフィアとシルヴィアの弟と会ったぞ。ユーグリット・ルキフグスという

銀髪の青年」

 

「っ!?」

 

「やっぱり知っていたんだな?」

 

アザゼルの表情がハッキリと分かる。それほどまでこの二人は有名な悪魔なのか。

 

「・・・・・なんてこった。

まさかあの二人が共にいるなんて・・・・・・こいつはただ事じゃねぇぞ」

 

「アザゼル?」

 

「おい、イッセー。奴らはまだこの学園にいるんだな?」

 

真剣だが怖い顔で俺に問う。隠すことでもないから肯定と頷いた。

 

「ああ、さっきから探知しているから・・・・・俺の教室にいるな」

 

「よし、なら行くぞ。お前もついて来い」

 

そう言ってアザゼルが足元に転移用魔方陣を展開した。え?そこまでするほどなのか?

俺はアザゼルの展開した魔方陣の光に包まれ、一瞬だけ視界が光に奪われる。

一拍して、光が止み、目を開ければ驚いた顔をする清楚たちが最初に映りこんだ。そして―――。

 

「およ?アザゼルのおっちゃんじゃん?おっひさぁ~♪」

 

「よう・・・・・随分と久し振りじゃねぇかよ。リゼヴィム・・・・・!

それにユーグリットもよぉ」

 

「ええ、お久しぶりです」

 

席に座って料理を食べているヴァーリの祖父とユーグリット・ルキフグス。

そして何故かいる黒ずくめの二人。

 

「お前、なんで学園祭に来ているんだ?」

 

「何でっておっちゃん。釣れないことを言わないでちょーよ。

俺たちはただ、学園祭を満喫したいだけなんだぜぇ~?」

 

ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべるも、アザゼルの額に青筋が浮かぶ。

 

「イッセーから聞いたぜ。お前、不思議な赤い結晶状の宝石を持っているんだってな?」

 

「んー、そうだけどそれがどうかしたのぉー?」

 

「お前が持っていると碌なことに使いかねない。渡してもらおうか」

 

「え~?何の権利があって魔王の弟の僕ちゃんの所有物を渡さなきゃなんない訳ぇ~?

それ、職権乱用と言うか横暴じゃないか?」

 

全く譲る気はないと意志表現をする。・・・・・・うわ、あっちもあっちで怖い顔をしている。

ヴァーリの奴だ。

 

「あー、そうそう。確か優勝者には半日デート権を得られて

選んだ対象の人間とデートできるんだっけ?」

 

「え?そうだけど・・・・・」

 

「じゃあ、坊ちゃんで決定だな。行ってくれば?」

 

このヒトが隣にいる黒ずくめの男にそういうと、

無言に立ち上がって俺の腕を掴むと強引に―――一瞬で学校の屋上に連れて来られた。

こいつ、何者!?

 

「・・・・・」

 

というか、男とデートなんて・・・・・ちょっと勘弁かも。

いや、これが相手は成神だったらもっと最悪か・・・・・。

 

「・・・・・」

 

無言でジッと見つめられている・・・・・んだよな?

 

「・・・・・」

 

それにしても気まずい・・・・・なに、この静かさ。表情も伺えない上に何も言ってくれないから

物凄く居た堪れないぞ。そう思っていると・・・・・黒ずくめが腕を伸ばしてきた。

 

「・・・・・え?」

 

俺の髪をワシャワシャと撫で始める。な、なんで?どうして俺を撫でる?

 

「―――見ない間に、随分と大きくなったな。一誠」

 

「・・・・・。―――――ッ!?」

 

この声・・・・・まさか・・・・・いや、確かに聞き覚えがある声音だ。間違える訳がない。

 

「お前は・・・・・!?」

 

目の前の人物の名を口にしようとした時だった。俺に違和感が襲ってくる。

全身をぬるりとした嫌な感覚が包みこんでいく。足元を見れば―――。

 

「これは・・・・・!」

 

霧が発生していた。霧・・・・・そうか、あいつ等の原因か・・・・・!

この場の空気が一瞬で変化し、同じ風景なのにまるで違う場所に瞬時に転移したかのような

錯覚を覚えて―――。

 

「役者が全員揃ったようだな」

 

「さて、決着を付けよう」

 

「ここで全てが終われば御の字だ」

 

「そうだ。ここで全てを終わらせる」

 

―――っ!?

 

「お前らは・・・・・ッ!」

 

屋上に突如現れた俺が復讐したいと思っていた者たち。

瞬時で天使化になって攻撃態勢になれば―――。

 

「ここじゃ、関係のない人間たちにまで被害が出るぜ?」

 

「やるなら、これから転移される場所で全力で殺し合おう」

 

そう言われて、俺はあいつらを睨んだ。

 

「今度こそ、逃げるなよ・・・・・」

 

「安心しろ。今回は逃げも隠れもしない。―――なんてって、あの野郎がいるんだしな」

 

「あの・・・野郎・・・・・?」

 

「私たちはそいつに用がある。それが終われば好きなだけ付き合ってやる」

 

誰のことだと、俺が思った刹那―――。

霧が俺たちの周囲にたちこめて、辺りを包みこんでいった―――。

 

―――○●○―――

 

転移された場所は川神学園のレプリカがある疑似空間。屋上からグラウンドに見下ろせば、

曹操とゲオルク、ジークフリートが佇んでいた。

グラウンドに向けていた視線を変えてヴァンたちと黒ずくめに向ける。

 

「一応確認だ。『英雄派』と合同でしているわけじゃにんだな?」

 

「ああ、無関係だ」

 

「そうか、ならお前たちは後だ」

 

屋上から飛び降りて一気に曹操たちの前に降りた。

 

「久し振りだな曹操。こんなことして何がしたいんだ?」

 

「やあ、兵藤一誠。オーフィスに用があるんだ」

 

「オーフィスだと?」

 

肩に乗っかっているオーフィスに目を向ける曹操。今さらオーフィスを連れ戻しに来たのか?

それは不可能だと分かっているあいつがか・・・・・?どうも解せないな。

奥の手でもありそうだ。

 

「というか、他のメンバーは?三人だけ来るなんて豪胆な英雄だな」

 

学校から感じるのは清楚たちだけだ。学園祭にやってきている一般人や学園祭を開催している

川神と駒王学園の全校生徒と教師の気は感じられない。

 

「豪胆というよりも俺たち三人だけで十分と踏んだだけだよ、兵藤一誠」

 

「―――強気なものだな、曹操。例の『龍喰者(ドラゴン・イーター)』なる者を奥の手に有しているということか?」

 

白い全身鎧を纏ったヴァーリが上空から現れた。

 

「英雄派が作りだした、龍喰者し(ドラゴン・スレイヤー)に特化した神器(セイクリッド・ギア)か、新たな神滅具(ロンギヌス)所有者といったところだろう?」

 

ヴァーリが話している間に清楚たちが続々と現れてくる。ヴァーリの言葉に曹操は首を横に振る。

 

「違う。違うんだよ、ヴァーリ。『龍喰者(ドラゴン・イーター)』とは現存する存在に

俺たちがつけたコードネームみたいなもの。作ったわけじゃない。すでに作られていた。

―――『聖書に記されし神』が、あれを」

 

それを聞いたゲオルクは言葉を発する。

 

「曹操、いいのか?」

 

「ああ、頃合いだ、ゲオルク。ヴァーリもいる、オーフィスもいる、

赤龍帝いる。邪龍と龍王もだ。これ以上ない組み合わせじゃないか。

―――呼ぼう。地獄の釜の蓋を開けるときだ」

 

「了解だ。―――無限を食らい、兵藤一誠が倒れるときがきたか」

 

口の端を吊り上げたゲオルクが後方―――グラウンド全体に巨大な魔方陣を出現させた。

だが―――変化が起きない。

 

「・・・・・えっと、どうしたんだ?」

 

「ゲオルク?」

 

俺が尋ね、曹操がゲオルクに尋ねる。

てっきり何かとんでもないものが出てくるのかと思ったが・・・・・。

魔方陣はただ展開しているだけだった。

 

「・・・・・召喚魔法に反応しない?どういうことだ。

確かに何十もの制限を設けた上で召喚が可能となっているはずだ」

 

ゲオルク本人も当惑していたが、そこへ第三者の声が聞こえる。

 

「あー、もしかしたら、これのことかなぁー?」

 

ズォォォォォォォオオオオオオオオオオオオ・・・・・ッ。

 

グラウンド全体を激しい揺れが襲った。振り返ってみれば、

あまりにもドス黒く禍々しいオーラが魔方陣から発生していく!

・・・・・ゾッとするほどの寒気だった。魔方陣からかつてないほどの

プレッシャーが放たれている!心身が底冷えするような・・・・・まるで

蛇に睨まれたカエルっていうか・・・・・!

 

『・・・・・なんなのだ・・・・・この気配は。ドラゴンにだけ向けられた

圧倒的なまでの悪意を感じるぞ』

 

『こいつは・・・・・かなりやべぇぞ・・・・・』

 

『危険だ・・・・・アレは・・・・・私でさえも危険だと感じる・・・・・っ!』

 

クロウ・クルワッハたちが何かを感じたのか、声を震えていた。

―――こいつらが怯えている?最強の龍王と邪龍たちが・・・・・?

剛毅の塊であり威風堂々としたこいつらを怯えさせるだけの存在って一体―――。

 

禍々しい魔方陣から巨大な何かが徐々に姿を現していく・・・・・!

頭部、胴体・・・・・黒い羽、十字架・・・・・?

十字架に張り付けになっている何者か。身体を強烈なまでに締め上げていそうな拘束具。

 

それが体中にがんじがらめに付けられており、その拘束具にも不気味な文字が浮かんでいた。

目にも拘束具が付けられ、隙間から血涙が流れている。

―――ッ!魔方陣から全身が現れた瞬間、俺はその異様な存在に息を呑んだ。

 

下半身は・・・・・蛇!否、鱗がある。・・・・・東洋のドラゴンのような長細い姿、

上半身が堕天使、下半身がドラゴン!両手、尾、

全身のあらゆるところ―――黒い羽にも無数の極太の釘が

打ちこまれていた!見ているだけで痛々しい状態だ。

 

・・・・・拘束具をつけられた磔の堕天使のドラゴン・・・・・?

よほどのことをしでかした罪人のような磔の仕方・・・・・。

まるで裁いた者の怨恨を体現したかのような―――。

 

『オオオオオオォォォォォォォォォォオオオオオオオオオォォォォォォォォオ・・・・・』

 

磔の罪人の口から、不気味な声が発せられてグラウンド一帯に響き渡る。牙むき出しの口からは

血と共に唾液が吐き出されていった。苦しみ、妬み、痛み、恨み、ありとあらゆる負の感情が

入り混じったかのような低く苦悶に満ちた声音だった。見ているだけで誰かの憎悪を存分に

ぶつけられた存在だって分かった。その堕天使ドラゴンの身体から黒い霧とオーラが

グラウンドに広がっていく。

・・・・・肌にビリビリと突き刺さるような感覚と・・・・・ぬくりとしたものが

全身に広がっていく・・・・・。

 

「バカな・・・・・どうしてアレがあそこに現れた・・・・・!?」

 

ゲオルクが驚愕している。まさか、あいつが召喚しようとしていたのはアレなのか?

 

「・・・・・こ、こいつは・・・・・。なんてものを・・・・・。

コキュートスの封印を解いたのか・・・・・っ!」

 

アザゼルが目元を引くつかせ、憤怒の形相を召喚した目の前の存在に向けた。

 

「こいつはどういうことだ、リゼヴィム・リヴァン・ルシファーッ!」

 

『―――――ッッ!?』

 

そう名を呼んだアザゼルにゲラゲラと笑い返すのが―――ヴァーリの祖父だった。

その周囲にはユーグリット・ルキフグスと黒ずくめの二人もいた。

 

「うひゃひゃひゃっ!ハーデスじいさんからちょーっと借りたんだよ、アザゼルのおっちゃん」

 

「バカな・・・・・奴がお前に易々とアレを解放するとは思えない!

―――まさか、お前・・・・・」

 

「はい!優秀ですね、アザゼルくん!そう、俺たちは冥府に襲撃してこれを奪ったのさ!

なーんか、そこにいる英雄の小僧どもが先約していたようだけどそこはほら、

優秀な魔法使いが上書きして僕のペットとなってもらいました!」

 

「・・・・・何てことだよ・・・・!ハーデスのジジイ・・・・・一応、無事なんだろうな・・・・・?」

 

「さぁーね。確かなのは殺してはいないぜ?殺したら後が面倒だもん」

 

取り敢えず、骸骨の爺ちゃんが生きているのは確かなのか。・・・・・良かった。

 

「さぁーて、この邪悪なペットの説明は長々としなきゃいけないからパスさせてもらうぜ?」

 

「そいつを使ってどうするつもりだ・・・・・ッ」

 

アザゼルの問いにあのヒトは醜悪な笑みを浮かべた。

 

「んー、もっちろん。欲しいものを手に入れるんだよ。

そう―――坊ちゃんとこにいる龍神ちゃんの力と坊ちゃんの命を」

 

な、なんだと・・・・・ッ!?


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