ハイスクールD×D×SHUFFLE!   作:ダーク・シリウス

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Life6

 

 

―――夏祭りのヒューマンの終了後―――

 

セラフォルーの映画撮影に協力してから、直ぐのことだ。

その日、二学期が始まっても変わらず学校生活を送っていた頃、俺に尋ねてきた生徒が現れた。

 

「―――『天魔の業龍(カオス・カルマ・ドラゴン)』ティアマットを使い魔にしているという

下級生はあなた?」

 

「・・・・・」

 

栗毛を上品そうなロールにしている高圧的な態度で接する女子生徒だ。

 

「えっと、誰だ?」

 

「あら、ごめんなさいね。編入生のあなたは私のことを知らないでしたわね?

私は三年F組の安倍清芽。魔物使いですの」

 

「魔物使い?色んな魔物を使役する者と認識しても?」

 

「ええ、それで合っていますわ」

 

魔物使いか・・・・・そんな人がこの学校にいるんだ。

まだまだ、俺の知らない人がいそうだ。サーゼクス辺りに訊いて見るとするか?

 

「それで、俺に何か用でしょうか?それにF組ならば、

このクラスに訪れてはならない規則のはずですが?」

 

「承知の上で来ておりますわ。それに先生や理事長に承諾をしてくれれば上位のクラスに

訪れることができますのよ?知っていましたか?」

 

その問いに、俺は首を横に振った。そんな裏技があっただなんて・・・・・。

 

「では、もう一度問うけど、俺に何か用ですかね?」

 

「でなければ、あなたに直接尋ねませんわ」

 

うわ、高圧的な態度だ。だから、悠璃。その怒気が籠った瞳を彼女に向けない。

 

「―――兵藤一誠くん。最強の五大龍王を使い魔にしたあなたに折り入ってお願いがあります。

どうか、私を助けて下さらないかしら」

 

「助ける?なにからだ?」

 

俺が安倍先輩に訊く。

 

「実は今度父は出張から戻られますの。そしたら、父が私に見合いをしろといいますの。

私、まだ高校生ですわ。そう急過ぎると伝えたのですが、

それでも聞く耳を持って下さらなくて・・・・。父は一度決めたら即断即決の強情な方ですの」

 

・・・・・あれ、この感じは・・・・・どこかの誰かさんと似ている?

 

「私の家は由緒正しい魔物使いの家柄。

ですから、その血筋を絶やさないためにも父は私に婿を決めて欲しいと

言いだしたのです。・・・・・私は嫌ですのに・・・・・」

 

溜息を零した安倍先輩。・・・・・うん、やっぱり似ている。そして、この流れ的に言えば―――。

 

「つまり俺に見合いの邪魔をして欲しいと、そういうことでいいんだな?」

 

安倍先輩はうんうんと俺の質問に肯定とばかり何度も頷いた。

 

「ええ、兵藤くんには私の彼氏役をやってもらいたいのです。

すでに父には私に彼氏がいて、お見合いは嫌だと伝えてありますわ。

そうしたら、条件付きであれば、そのお見合いを破断してもいいと言ってきました。

その日限りで構いませんわ・・・・・って、あらら、急に敵意を向けられている気がしますわ」

 

悪寒を感じている先輩。ああ、だろうな。俺もものすごーく、感じているぞ。

できれば背後に振り返りたくない。

 

「いっくんが彼氏・・・・・?」

 

「イッセーくんが彼氏・・・・・?」

 

「次期人王の妻である私たちを差し置いて彼氏ですか?」

 

「・・・・・なんだろう、物凄く胸がモヤモヤしてきたぞ」

 

「・・・・・むぅ」

 

「「・・・・・」」

 

悠璃、イリナ、楼羅、カリン、清楚の声音が低い。リーラは平常心というか、

何時も変わらない表情で俺たちの成り行きを見守っている。ゼノヴィアも似たようなもんだった。

 

「でも、どうして俺に?他に彼氏役になってくれる奴はいると思うんだけど・・・・・」

 

「言いましたよね?私の家は由緒正しい魔物使いの家柄と。私がこの学校に在籍している間、

過去に在籍していた生徒たちの誰一人として、五大龍王のティアマットを使い魔にした者は

いませんのよ。それが今年になってあの龍王を使い魔にしたという話を聞きましたの。

ですから、あのドラゴンを使い魔にしたあなたの魅力を見込んでお願いをしに参ったのですわ」

 

あー。そう言うことか。まあ・・・・・困っているのであれば、助けないといけないな。

 

「分かった。先輩のお見合いの話しを邪魔しよう」

 

「ありがとうございますわ」

 

先輩が感謝の言葉を述べた。

こうして、俺は彼女の見合いを破断するための彼氏役を演じることとなった。

それにしても見合いの話なんてこれで何度目だ?

 

―――○●○―――

 

次の土曜日、俺が呼び出されたのは安倍先輩の自宅だ。用事があるのは俺だけなんで、

一人で訪れていた。先輩の自宅に辿り着くと、とんでもない大きさの洋館が

俺を迎え入れてくれた。庭も広いし、館の中も見事なもんだ。

 

普段は先輩一人で住んでいるようだ。ご両親は共働きで世界を飛び回る名うての魔物使い。

今回、久し振りに父親が帰って来たかとも思えば、婚約の話が出てきたらしい。

・・・・・あの先輩、両親まで俺の死んだ両親と似ているな。

 

「で、やっぱりついてきたんだ?」

 

背後に振り返ると、そこには黒いゴスロリに日傘を差しての

出で立ち(いでたち)のオーフィスがポツンと佇んでいた。

 

「あら、何時の間に・・・・・兵藤くん、この子は?」

 

「魔物じゃないけどドラゴンだ。―――無限を司る龍と言えば分かるよね?」

 

「―――っ!?」

 

安倍先輩は目を大きく見開いた。

 

「まさか・・・・・『無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』オーフィス・・・・・!?」

 

「ん、我はオーフィス。イッセーの家族」

 

ピョンと乗っかったオーフィスが自己紹介を言った。

そうだよな、無限の体現者がこんなところにいるなんて、

誰も思わないだろうし、正体を知って驚くに決まっている。

 

「・・・・・ティアマットを使い魔にした事は伊達ではないということですのね・・・・・」

 

「夢幻を司る龍とか俺の家にいるしな」

 

「・・・・・やはり、あなたを選んで正解でしたわ。頼りにしていますわ、兵藤くん」

 

オーフィスと合流をし、

俺たちが案内されたのは用感から渡り廊下を通って辿り着く屋内プールだった。

なぜか、水着を用意された俺とオーフィスはそれに着替え、プールサイドに出て行く。

オーフィスはフリルがある水着だった。うん、海に行った時以来の水着姿のオーフィスだ。

 

「・・・・・凄い傷跡ですわね」

 

「ああ、悪い。気分を削がせたか」

 

「いえ、気にしないでください。ですが・・・かなり、無茶をしていたと分かりますわ」

 

上半身が全裸なんで―――胸や腹、片や腕、背中にまである大小の、数多の傷跡が曝け出した。

海に行った時はパーカーを羽織っていたから俺の体の傷を曝け出さずに済んだんだ。

 

「さ、こちらへどうぞ」

 

安倍先輩がプールサイドに置かれたテーブルへ着くよう促してくれる。

テーブル席にオーフィスを膝の上に乗せ、安倍先輩が改めて、

見合いの破談の条件とやらを切りだした。

 

「父が仰った条件とは―――魔物使い同士で競い合う対戦競技ですわ」

 

「魔物同士で戦わせるのか」

 

そう彼女に訊くと指を折りながら答えてくれる。

 

「陸海空の魔物を使っての三番勝負ですわ!

兵藤くんが二つ以上父に勝てば婚約の条件は破談となります」

 

「陸海空・・・・・空はティアマットだとして陸は・・・・・うん、あいつに頼んでもらおう」

 

「あいつ?他にも魔物がおりますの?ティアマットしかいないと存じていますが」

 

「まあ、とある事情でな。でも、海の魔物なんていないからなぁ・・・・・」

 

俺が首を捻って考え込むと―――俺の隣に一つの魔方陣が展開した。

 

「俺が海の魔物となって戦おう」

 

と、開口一番に発したその人物に―――俺は頭を抱えた。どうしてお前が出てくるんだよ!?

 

「あの・・・・・こちらの女性は?」

 

安倍先輩が当惑した顔で尋ねてくる。俺は疲れた顔で説明するために口を開いた。

 

「死と戦いを司る最強の邪龍、『三日月の暗黒龍(クレッセント・サークル・ドラゴン)』―――クロウ・クルワッハ」

 

「っ!?」

 

案の定、絶句した先輩だった。でもな、

 

「お前、海の魔物じゃないだろ」

 

「黙っていれば問題ない」

 

・・・・・こいつ、狡賢い。

 

「兵藤くん・・・・・あなた、ティアマットと真龍、龍神だけじゃなく、

邪龍まで使役しておりますの・・・・・?」

 

「使役というか、家族だ。先輩だって自分の魔物を家族のように接しているだろう?

それと同じだ」

 

「・・・・・流石に邪龍まで家族のように接していける自信はないですわ」

 

・・・・・気持ちは分かるけど、実際に付き合ってみると案外良い奴らだぞ?

と―――、俺たちのもとへ人影が近づいてくる。

 

「お嬢さま。もうすぐお父上がお戻りになられますぞ」

 

そこへ現れたのは頭にトサカ、口にクチバシ、

手に羽とまるで鳥のようで人のような姿をした男性の魔物が。鳥人間の言葉に安倍先輩は頷く。

 

「ええ、わかりました。と、紹介が遅れましたわね。彼が私のボディーガード、

鳥人の高橋ですわ」

 

「高橋!?そんな和名なのか!?日本のどこにこんな鳥人が生まれたというんだ!?」

 

「高橋の出身は神戸です」

 

神戸!?神戸に鳥人が生まれただなんて人が知ったら大騒ぎになるぞ!?

寧ろ、神戸牛より高い神戸鳥と精肉にされちまいそうだ!

 

「キミが、お嬢さまが依頼したという人間かね?まさか、次期人王に依頼したとはお嬢さまも

肝が据わっておられる。私は高橋。下の名前は輝く空と書いてスカイと読む」

 

紳士的な振る舞いで握手を求めてくる鳥人、高橋輝空(スカイ)

ルビを振る作者の身になって名前を付けてくれよ高橋の親御さん!作者も大変なんだから!

 

「兵藤くん、頼りにしていますわ」

 

「あいよ。こんな感じのことは前にも経験しているし、先輩の役に立ちますよ」

 

「ふふっ、お願いしますわ。だて、私は父を迎え入れる準備をしてまいりますわ」

 

彼女が父親を迎えに行ってしまった。

 

「水着に着替えたぞ」

 

わざわざ水着に着替えたクロウ・クルワッハと入れ違いに婚約破談作戦がスタートする。

 

―――○●○―――

 

暗雲漂う曇り空のなか、俺たちは水着から元の服装に戻って館の庭に出ていた。

安倍先輩の父親を待つ。

すると、門から馬の蹄の音を立てながら、何か異様なものが近づいてくる。

向こうから危険な雰囲気を振りまきながら現れたのは―――巨躯のいかつい男性。

デカい黒馬に乗っていて、角のついた兜を被り、マントを羽織っている。ギラリと眼光が鋭い。

 

「ふむ・・・・・とある本と似た人物だな。確か、北斗―――」

 

「ネタばれになるからそこまでにしようか」

 

クロウ・クルワッハに突っ込みを入れていた。

というか、何時の間にそんな本を読んでいたんだお前は。

 

「うぬが我が娘と付き合っているという不届き者か?」

 

野太い声で俺を睨む。おおう、次期人王と世界に知れ渡っていると思っているけど、

それを知っての上で発言しているのであれば、本当に娘のことを想っているんだろうな。

俺の腕に絡みついてくる安倍先輩。

 

「そうですわ、お父さま。彼が私の彼氏、兵藤一誠くんですわ」

 

「・・・・・次期人王の者か」

 

安倍先輩の父親は巨馬から下りもせずに言い放つ。

 

「しかし、相手が誰であれ、わしは相応しい婿ではない限り交際は認めん」

 

「最初から都合よく彼女と付き合えるとは思っていない。

あんたを認めさせ、彼女と一緒に幸せな生活を送るつもりだ」

 

ギュッと、安倍先輩の肩に腕を回して引き寄せた。

 

「・・・・・」

 

彼女が顔を赤く染めたことを尻目に真っ直ぐ父親を見据えた。

 

「よかろう。うぬが娘に相応しい者か否か、このわしが直々に計ってくれようぞ」

 

カッ!先輩の父親のバックに雷光が怪しく光った。そして、ついに対決が始まった。

第一戦めは陸の魔物対決。庭にライン引かれた長方形のバトルフィールド。

その中で戦いが開始される。

 

「わしがまず出すのはこれだ。出てこいッ!」

 

安倍先輩の父親の叫びによって現れたのは―――白い毛に覆われたゴリラだった。

 

「むっ、あれは雪女か」

 

あ、あれが雪女・・・っ!?

―――どうみたって野生動物、動物園にいるゴリラそのものじゃないかっ!

俺は雪女を直接見た男だぞ!小さい頃、両親ととある雪山でひっそりと暮らしている雪女を!

 

「嘘だっ!アレが雪女なんかない!」

 

「正確にはイエティだ」

 

「あ、イエティならいいや」

 

クロウ・クルワッハの訂正の言葉に俺は気を取り直した。

ウンディーネといい、雪女といい・・・。

俺が見てきた魔の存在がガラスのように木端微塵になって改めて認識を覆されそうだったぞ。

 

「言っておくが、わしのステファニーは一筋縄にはいかんぞ」

 

ステファニー!?なに可愛い名前を付けているんだアンタは!?くそ、調子が狂うな!

 

「(―――羽衣狐。頼んでいいか?)」

 

『雪の怪物に妾が遅れを取るわけがない』

 

全身から禍々しいオーラが発す。オーラは次第に人の形を作って、一つの存在へと成り変わった。

黒い長髪に黒い瞳、赤いリボンと黒を基調としたセーラー服、

腰辺りに九本の狐の尾を生やす女性へと。

 

「その九本の尾は・・・・・伝説の妖怪の一匹か・・・!」

 

彼女を見た先輩の父親は絶句した面持ちとなった。おお、知っているんだ。

 

「審判は私がおこないますわ」

 

フィールド中央に立つ安倍先輩。雪ゴリラと羽衣狐をフィールドに招き入れる。

俺と先輩の父親はフィールドの端に立ち、そこから指示を送ってバトルを動かす。

 

「はじめ!」

 

安倍先輩の掛け声と共に陸の魔物対決がスタートした。

 

「ステファニー!まずはドラミングだ!」

 

「ホッキョオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 

ドンドンドン!相手のゴリラが先輩の父親の命令通りに胸を叩き始めた。

―――ゴリラだ!俺の目の前にゴリラがいるよ!

 

「雪女のドラミングは自身の攻撃力を高める効果があるのだッ!」

 

「へぇ、そうなんだ。魔物使いの業界も色々と奥が深そうだ」

 

「一誠。妾はどうすればいい?」

 

と、羽衣狐が命令を待っていた。うん、そうだな。

 

「狐火でコンガリとゴリラの姿焼をよろしく」

 

「不味そうだな」

 

そう言いながらも彼女は、九本の尾の先から小さな火を灯した。

 

「―――狐火―――」

 

ボオッ!

 

小さな火から膨大な熱量を持った火炎が放射して雪ゴリラを襲った!

 

「ステファニー!れいとうビームだ!」

 

「ウホッ!」

 

先輩の父親の指示に従い、雪ゴリラは口から絶対零度の冷気を光線のように放った!

するとどうだろうか、羽衣狐の炎が一瞬で凍結した!

 

「むっ、手加減してこの威力とは・・・あやつ、少しはやりおるな。ならば、これはどうじゃ?」

 

手を前方に突き出して、手の平から野球ボールぐらいの大きさの火の塊が浮かんだ。

その塊をあろうことか上空に放り投げた。

 

「―――狐火・五月雨式」

 

火の塊から断続的ながらもガドリングガンのように射出し続けていく。

その攻撃速度が速く、ステファニーの体に直撃した。

 

「むぅっ!やりおる!ならば、ステファニー!雪籠りをしろ!」

 

雪ゴリラは顔を上に向けて口から吹雪を吐きだした。

するとどうだろうか、雪ゴリラは雪に包まれ始め、巨大な雪の塊に自身の姿を隠した!

 

「そのまま九尾の狐を攻撃だ!」

 

ゴロリッ。と、巨大な雪の塊がゆっくりとこっちに動きだした。

 

「雪転がり!」

 

「そのまんまだな!?」

 

そうこうしている内に巨大な雪の塊は羽衣狐に襲っていた。

彼女は避ける必要もないと片手で前に突き出しては、転がり続ける雪の塊を受け止めた。

 

「燃え尽きろ」

 

刹那―――。羽衣狐の手から灼熱の炎が放射した。

炎は次第に雪を溶かしていき、雪の塊は段々小さくなっていく。

 

「―――ステファニー、れいとうパンチ!」

 

安倍先輩の口から指示が発せられた。溶けていく雪の塊から剛腕な腕と冷気を纏うデカい拳が

飛び出て来て羽衣狐に真っ直ぐ向かった。

 

「ならば妾は、ほのおのパンチでもしようかの」

 

手を握り、拳に炎を纏わせた羽衣狐は、雪ゴリラの拳にぶつけて鍔迫り合いをした。

 

「ホッキョオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 

決着は呆気なく着いた。羽衣狐の炎に拳から伝わって全身へと燃え移り、

体に燃え上がる火を消さんばかりプールへと向かってしまい、

フィールドを自分から出てしまった。

 

「おお、ステファニーッ!」

 

手厚く介護し始める先輩の父親。

 

「勝者、九尾の狐!よって。第一戦は兵藤一誠の勝利です!」

 

審判の安倍先輩がそう告げる。ん、まずは一勝だな。

 

「まあまあだな。だが、将来いい雪女になろう」

 

「・・・・・頼む、あれを雪女と言わないでくれ。俺の中の雪女が崩れる」

 

溜息を吐く。勝ったけど、何かおかしい。あれが雪女だなんて断固認めないぞ!

 

「・・・・・次は海の魔物で対決だな」

 

あっ、戻ってきた。雪ゴリラは―――別の雪ゴリラに背負われてどこかに行ってしまった

様子を俺は見なかったことにした。

 

「あのプールが対決の場となるか。だが、次はわしが勝つ!」

 

雷鳴轟くなか、稲光に照らされて巨大な魚型モンスターが姿を現す。

巨大な鮫のフォルム―――に足のついたモンスター。

・・・・・あんな魔物がいるなんて、世界は広いな。

 

「・・・・・お父さまの人魚はお強いですわ。気をつけて」

 

「あれが人魚ぉぉぉぉぉっ!?」

 

安倍先輩から緊張の面持ちで警告を言われてしまったが、あれはどう見たって鮫だよ鮫!

海の神さまのところにいる人魚とかけ離れ過ぎているって!鮫が歌える訳がない!

もう、やだ・・・!俺が今まで見てきた存在たちが否定されまくりだよ!

だけど―――鮫の魔物は動く様子もない。大きく口を開け、ただ立ち尽くすだけだ。

 

「・・・・・」

 

不思議に思った安倍先輩の父親が馬の上から触れてみると―――バタン!と、鮫は地面に横たわった。

 

「あ、そう言えば鮫ってマグロと同じで泳ぎ続けないと死ぬんだったな」

 

「えっ?死んでんの!?―――オーフィス、フカヒレが食べれるぞ」

 

「ん、それは楽しみ」

 

コクリとオーフィスは肩の上で頷いた。先輩が近づき、鮫の生死を確認する。

しばらくして、首を横に振り、告げた。

 

「第二戦、勝者兵藤一誠くん!」

 

なんともいえない勝利を掴んだ俺だった。試合もせずに勝負に勝ってしまった。

 

「・・・・・わしの負けだ。娘との交際を認めるしかあるまい。・・・・・婚約を破断しよう」

 

まだ納得していなさそうな様子の先輩の父親。・・・・・俺も納得していないんだけどな。

ん・・・・・そうだな。お互い納得してないなら、とことん勝負をしよう。

 

「―――えっと、第二戦の試合をドローにしてくれないか?」

 

「・・・・・なんだと?」

 

信じられないものを見る目で、先輩の父親は俺を見詰めてくる。

俺は苦笑混じりながら事実を告げた。

 

「実を言うと、俺に海の魔物の使い魔がいないんだ。あのまま、試合を続行していたらあんたの

不戦勝で勝ってた。だからこの試合はお互いドローとして第三戦で決着をつけたい」

 

拳を前に突き出して告げた。

 

「こんな形で俺は勝ちたくない。勝つなら正々堂々、

あんたを真正面から勝って先輩との交際を認めさせてもらう」

 

「「・・・・・・」」

 

安倍先輩と先輩の父親が唖然としていた。でも―――。先輩の父親の口から笑みが零れた。

 

「・・・あのまま、何も言わずに黙っていれば娘と交際をしていられたものの・・・・・、

うぬは正直者だな。それも純粋に真っ直ぐだ」

 

「ただ単に隠すことが下手なだけな男だよ。純粋なのは自覚している」

 

「ふっ・・・・・そうか。では、いいだろう。

最終対決、空の魔物対決でうぬと決着を付けよう!」

 

不敵な態度で、最終対決だと先輩の父親は告げる。

そして、試合の仕切り直しとばかり最終戦が幕を開けようとしていた。

 

―――○●○―――

 

 

最終戦。空の魔物対決。場所も移動して、人気のない山奥。クロウ・クルワッハに移動術、

転移用魔方陣でジャンプしてきた。山奥なら人目を気にせず思う存分魔物を飛ばせる。

岩の多いゴツゴツとした場所で俺と先輩の父親は対峙することに。

ここなら空を一望できるほど広く見渡せれるし、障害になりそうなものもない。

 

「お互いに魔物の上に乗り、空中戦を行う。良いな?」

 

「ああ、異論はない」

 

先輩のお父さんがルールを告げてくれる。なるほど。

って、先輩の父親は巨大な怪鳥を用意していた。

 

「ギャオオオオオオオオオオオオオオンッ!」

 

咆哮を上げて俺たちを威嚇してくる。

 

「さあ、うぬの空の魔物をわしに見せるがいい」

 

そう促されては仕方ないな。俺は笑みを浮かべて空に魔方陣を展開した。

―――龍門(ドラゴン・ゲート)だ。

 

「お前の力を貸してくれ。俺の愛しい家族よ」

 

カッ!と魔方陣から美しい青い体の巨大なドラゴンが姿を現した。

 

「ロックンロールッ!」

 

ガアアアアアアアアアアアアァアアアアアアァアアアアアアァァッ!

 

嬉しそうに咆哮を上げる―――『天魔の業龍(カオス・カルマ・ドラゴン)』ティアマット。

 

「ぬ・・・っ!そのドラゴンは・・・・・!」

 

先輩の父親が驚愕の色を顔に浮かべながらも、巨馬に乗った状態で怪鳥の背に跨り空を舞う。

俺とオーフィスもティアの頭の上に乗っかって佇むと、

先輩が俺と先輩の父親の中央に立ち、叫ぶ。

 

「最終戦!はじめてください!」

 

バッ!怪鳥とティアが空を高速で飛び回る。

 

「はははっ!相手は『天空の魔鳥』ジズだとは面白い!張り切って倒させてもらうぜ!」

 

「半殺し程度でな!」

 

物凄い勢いで風を切り、こっちに突っ込んでくる怪鳥。

ティアは軽やかに避けて逆に追撃を開始した。

 

「焼き鳥にして食らってやる!あいつの肉は絶品だからな!」

 

「マジで?訂正、鳥だけ殺してくれ。―――今晩の夕飯にする」

 

「おう、任せろ!」

 

嬉々としてティアが口を開け、特大の火炎球を吐きだした。

怪鳥は後に目でもあるかのように、ティアの火炎球を避け続ける芸道を見せてくれる。

 

「やるな流石だ!」

 

火炎球を吐いては怪鳥に避けられる。そんなことを五分ぐらい繰り返していると、

 

「にゃろう・・・・・」

 

ティアが苛立ちするのは当たり前だった。流石にこれ以上やっても結果は同じかもな。

 

「あのチキン野郎が!ぜってぇー撃ち落とす!」

 

―――不意に、ティアの魔力が一ヶ所に集束した。

その場所は―――口だ。彼女の口元を見れば青い魔方陣が展開していた。―――何をするつもりだ?

 

「食らいやがれっ!」

 

ドォッ!

 

魔方陣から放射した。―――しかも一つだけじゃない。

その上、誘導性があるのか、上下左右、四方八方から空を埋め尽くさんと

数多の青い帯状の魔力が怪鳥に襲った!

 

「ティアマット、本気を出した」

 

「・・・・・ティアの本気の攻撃・・・・・」

 

数多の青い帯状の魔力は狙いを違わず怪鳥に襲う。

怪鳥は機敏な動きで避け続けるが―――いかんせん、数が多過ぎる。

だから、安倍先輩の父親が乗る怪鳥の翼に直撃すれば、怪鳥は苦痛を上げて地に墜ちて行った。

そして―――容赦なく次々とティアの攻撃が集中して浴び続けた。

 

『これが、ティアマットが最強の龍王と呼ばれた由縁だ』

 

ボロボロの怪鳥が地上に墜ちた時、内にいるクロウ・クルワッハが説明した。

 

「はっはっー!すっきりしたぜっ!」

 

ようやく自分の攻撃が当たって笑うティアであった。俺は思った。やっぱりドラゴンは凄いと。

 

―――○●○―――

 

山奥から再び安倍先輩の自宅に戻ってきた俺たち。

 

「改めてわしの負けだ。娘との交際を認める。婚約を破断しよう」

 

ティアの攻撃を浴びてもなんとか生きていた先輩の父親と奇跡的に生き延びた怪鳥。

 

「『天魔の業龍(カオス・カルマ・ドラゴン)』ティアマット・・・・・。

かのドラゴンを使い魔にした男ならば、安倍家は安泰だな」

 

どこか晴々とした顔でそう言う。えっと・・・・俺は婿になんてならないぞ?

 

「ではな、わしも仕事に戻らなければならぬ。娘のことをよろしく頼む」

 

それだけ言い残し、騎乗したままの先輩の父親は、

俺と安倍先輩から離れてどこかへと行ってしまった。

 

「はぁ・・・・・なんだか濃い一日だった。魔物使いの戦いも経験したしな」

 

「ええ・・・・・とても」

 

・・・・・・キュ。

 

小さく、安倍先輩は俺の袖を掴んでくる。どうしたんだ?と思って彼女に振り返れば、

 

「ひょ、兵藤くん。今日はありがとうございました。おかげで婚約は破談と成りましたわ」

 

何やら、先輩がもじもじしていた。

 

「急の申し出とはいえ、わ、私の為に真剣に取り組んでくれまして、本当に嬉しかったですわ」

 

まあ、助けてくれって言われたからな。

 

「お父さまと戦う姿は、ちょ、ちょ、ちょっとだけ格好良かったり・・・・・」

 

うん、殆どティアが一人で戦ったような形だけどね。

 

「そ、それに・・・・・私を抱きしめてくれた時・・・・・とても凛々しかったですわ」

 

とってももじもじしてる。なんだ、随分可愛らしい仕草をする。

抱きしめたい衝動を抑えていると、

 

「よろしかったら、今日お夕飯でも・・・い、いかがでしょうか?」

 

夕飯を誘われた。うーん、そうだなぁ・・・・・。

 

「じゃあ、条件付きでいいかな?」

 

「条件・・・ですの?」

 

俺は頷いて懐から携帯を取り出した。

 

「先輩のアドレスと俺のアドレス交換が条件だ」

 

「っ!?」

 

「今回の魔物同士の戦いは楽しかった。

それに先輩も魔物の知識が豊富そうだし色々と聞きたい。―――いいかな?」

 

そう尋ねると、パァッ!と先輩は顔を明るくした。そしたら

 

「ええ、勿論いいですわ!では、早速家の中に入りましょう!」

 

俺の手を掴んで、家の中へと連れて行こうとする先輩についていく。

―――その後、俺は先輩の家でオーフィスと共に泊ることに成って

彼女から色々と魔物のことを知れたのは良い報酬だった。

 

 


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