ハイスクールD×D×SHUFFLE!   作:ダーク・シリウス

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Life5

 

―――夏祭りのヒューマン終了後―――

 

 

その日、リビングキッチンでのんびりとソファーに座って

先日『次期人王決定戦』で見事優勝をし、二人の幼馴染を助け、

晴れて夫婦となった悠璃と楼羅と喋っていた俺はソーナ・シトリーに呼ばれたのだった。

 

「どうした?」

 

俺が怪訝に思って問い返すと、彼女は答えてくれた。少し、疲れた表情を浮かべて。

ああ、なぜ彼女がこの家にいるかと言うと、俺の家に住むことになったんだ。彼女だけじゃなく、

リアス・グレモリー、姫島朱乃、塔城小猫、真羅椿姫、

グレモリー家のメイドのグレイフィア・ルキフグスと共に。

 

「・・・・・私のお姉さま、

現シトリー家当主のセラフォルー・シトリーからの直接のご依頼をいただいたのです」

 

「ソーナ・シトリーの姉が?」

 

首を傾げる。彼女の姉、セラフォルー・シトリー。

魔女っ子に憧れている目の前の少女の姉と認識しているぐらいだ。

 

「イッセーくんを中心に清楚さん、イリナさん、ゼノヴィアさん、和樹くん、龍牙くん、

カリンさんを貸してほしいとのことです」

 

と、ソーナ・シトリーが言うと―――楼羅が怪訝な顔で口を開いた。

 

「どうしていっくんたちを依頼したの?」

 

「・・・・・撮影の協力、だそうです」

 

撮影・・・・・映画か何かか?うーん、分からんな。

 

「・・・・・いっくんの妻として、私たちもついていくべきだと思う」

 

「変な撮影でしたらその場で退場となってもらいましょう」

 

セラフォルー!お前の命がもしかしたら数時間かもしんない!

マシな撮影の依頼だと俺は思いたい!

 

「でも、なんで僕たちまで何だろうね?」

 

「行ってみないことには分かりませんね」

 

「うー、撮影か・・・・・私、緊張しちゃうなぁ・・・・・」

 

俺たちの会話を聞きとっていたようで、和樹と龍牙、清楚が疑問と緊張を抱いていたのだった。

 

 

―――○●○―――

 

というわけで明くる日、俺たちは転移用魔方陣からジャンプして、

とある無人島の海辺に到着していた。

船の停泊できる場所もなく、海はゴツゴツとした岩礁だらけ。

 

砂浜も見つからないほどだ。島の景色は険しそうな森と山で殆ど占めている。

絶海の孤島という感じだ。ここ、小さい頃に修行の場所として

一人でサバイバルしていた場所と似ているな。

 

「で、肝心の依頼主はどこに」

 

俺たちがキョロキョロと辺りを見渡すと―――。大きく地鳴りとも思える地面の揺れが俺たちを襲う。なんだ、いきなり巨大生物と戦うのか?森の木々をなぎ倒しながら、巨大な生物が姿を現した。

 

「あれって・・・・・恐竜?」

 

「に、似たような生物ですね。ドラゴンじゃないし絶滅しているはずですしね」

 

和樹と龍牙が冷静に判断をした。

 

「やっほー☆みんなー☆セラフォルーでーす☆」

 

巨大な生物の背に乗っている人物が可愛い声で挨拶をしてきた。魔法少女のコスプレ。

そう、その人こそが俺たちを呼んだ依頼主でソーナ・シトリーの姉、セラフォルー・シトリーだ。

彼女は巨大生物を馬のように扱っては、俺たちの眼前で制止させる。

 

「とお!」

 

などと、巨大生物の背中からジャンプして空中でクルクル回りながら着地―――ガシッ!

顔から地面に落下すると判断し、翼でセラフォルー・シトリーの下半身を翼で包むように掴んだ。

頭が逆さまの状態の彼女にこう言った。

 

「ヘタクソ」

 

「開口一番にその言葉ってどうかと私は思うのよ!」

 

「それはそうと、撮影の協力と聞いたんだけど?」

 

「―――うん、そうなんだけどその前に解いてくれないかな?」

 

そうお願いされてしまい、翼を解くと―――グシャ、と結局は顔から地面に落ちた彼女だった。

 

「セラフォルーさま!シーン二十一、『古代の恐竜と戯れる魔女っ子』!

いい画が撮れましたよ!」

 

何時の間にか撮影機材を持った人たちがおり、スタッフの中から、

帽子とサングラス姿と言う髭の中年男性がメガホン片手に現れた。

 

「・・・・・絶対に魔女の皆の怒りを買うってあのヒトは・・・・・」

 

溜息混じりに和樹が呟いたが、そんな和樹を築く訳もなくセラフォルーは監督と話しをしていた。

 

「監督さん、この子たちが例の人たちよ☆」

 

「おおっ!なるほど、例の次期人王決定戦で活躍した人のみなさんですか!」

 

俺たちを知ってる?って、そういえば、あの大会は全世界、冥界と天界の全域に放送されたって

話だったな。知られていて当然か。

 

「あのね、この映画監督さんが、決勝戦での兵藤くんたちの戦いを見ていて、

『これだ!』って思ったらしいのよ。それでオファーと言うことになったの☆」

 

と、セラフォルーが説明してくれるが・・・・・オファー?

しかも俺らが映画デビューって・・・。うんうんと頷きながら、監督も口を開く。

 

「実は、現在セラフォルーさま主演の子供向け特撮番組『マジカル少女戦士☆セーラーたーん』

という映画版を撮影しているんだよ。

そのライバル役としてキミたちに出てもらおうと思ったんだ」

 

「マ、マジカル・・・少女戦士・・・セーラーたーん・・・・・?」

 

初めて耳にする番組名に俺は困惑する。しかし、ヒーローみたいなものか。

内容は魔女っ子だけど。

 

「内容は、私こと悪魔の味方セーラーたーんが天使や堕天使、ドラゴン、

教会関係者を相手に大暴れするの☆悪魔の敵はまとめて滅殺なんだから☆」

 

「おい、いいのか。そんな反政府的な内容で。レヴィアタン辺りに怒鳴られるんじゃないのか?」

 

「もう、そんなことは気にしないの☆」

 

めっ!と子供を窘める感じで注意されてしまった。

 

「・・・・・あれ?僕たちは人間で悪魔の敵じゃないですよね?

寧ろ、悪魔が人間の敵なんですけど」

 

龍牙が当然の疑問を口にした。確かに、セラフォルーに呼ばれたのは俺たち人間だけだ。

人間の敵である悪魔がどうしてライバル関係になる?―――監督が親指をぐっと立てて言う。

 

「なんたって、伝説のドラゴン!聖剣使い!世界一の魔法使い!

うん!悪魔のライバルに相応しいメンバーが盛りだくさんだ!

しかも兵藤一誠くんは先日の大会で優勝し、冥界全土に顔を知られている!

話題性も高い!是非ともセーラたんのの敵役としてお願いしたい!」

 

ライバルと言うか敵役、敵かよ。冥界と人間界の間に亀裂が入らないか心配になってきたぞ。

 

「因みに式森和樹くんはセラフォルーさまのパートナ役としてお願いしたい。

魔法少女と魔法使い。これ以上のない組み合わせだ!」

 

「うーん・・・・・それはそうでしょうけど・・・いいのかなぁ・・・こんな撮影をしちゃって」

 

「依頼を引き受けたからには、やるしかないだろう。

つーか、和樹までもが敵とは・・・・・こりゃ、本気を出さないとな」

 

「ちょ、勘弁してよ!?一誠はガイアさんとオーフィスの・・・って二人はいないんだったね」

 

ん、その通り。二人はいない。呼ばれたのは俺たちなのであの二人は家で留守番をしているのだ。

だから本気なんだ。

 

「というと、私たちは一誠くんと同じ敵役?」

 

「私も魔法使いなんだけどな・・・・・・」

 

「正義が悪役を演じるとは・・・・・不思議なものだな」

 

「そうね!でも、頑張っちゃう!」

 

「・・・・・いっくんを守る」

 

「映画の出演ですか・・・・・この機に、一誠さまの知名度がさらに上がるといいのですがね」

 

皆は乗り気でいた。・・・・・しょうがない。乗りかかった船だ。俺も乗るとしよう。

 

「了解。セラフォルーの依頼を喜んで受けよう」

 

「うん☆ありがとぉー☆」

 

かくして、俺たちの映画出演が決まった。

 

―――○●○―――

 

「では、兵藤さんの役は悪の勇者ということでよろしくお願いします」

 

「悪の勇者って・・・・・どういうことだ?」

 

「なんでも、邪龍を宿しているそうで。ですので、悪の勇者と役に決めたんですよ」

 

・・・・・納得するが、朗らかに言われると複雑な気分が・・・・・。

台本を渡され、ペラペラとセリフをチェックしていると、

 

「お待たせ」

 

悠璃の声が聞こえた。振り返ると―――。

そこには禍々しい装飾が施された・・・・・一言で言えば、

戦乙女のロスヴァイセが纏う鎧を纏っている悠璃と楼羅がいた。

 

「二人とも、その格好は何?」

 

「悪の勇者の従者役、ヴァルキリーだって」

 

「まあ、ロスヴァイセさんとセルベリアさんの株を奪うような感じですがね」

 

「で、私たちは悪しき聖剣使いらしい」

 

と、ゼノヴィアとイリナの登場。活動しやすそうなアマゾネス風の衣装だな。

肌の露出度が高くて少し目のやり場が困る・・・・・。イリナが両手を組んでお祈りをし始めた。

 

「ああ・・・・・私たちが悪しき聖剣使いだなんて、

きっとミカエルさまやヤハウェさまが御許しにならないわぁ・・・・・」

 

「私なんて、暗黒の魔法使いなんて役だったぞ」

 

今度は幾分か声に暗さを感じさせるカリン。―――おおう、

 

「ううう・・・・・恥ずかしいな」

 

黒を基調としたメイド服を身に包んでいるカリンがいた。頭には黒い帽子が装着されている。

 

「うん、ハッキリ言うと可愛いな。髪の色と合っているし」

 

「な・・・・・っ」

 

あっ、照れた。顔を赤くした彼女が目を丸くして唖然とした。

 

「僕は一誠さんの右腕役だそうです」

 

そこに全身金色の鎧を纏う龍牙が現れた。俺の右腕か。うん、悪くないな。

 

「で、清楚は?」

 

「こっちだ」

 

―――この声は。後ろに振り返ると―――軽装鎧を着込んだ清楚がいた。だが、瞳の色が赤だった。

 

「項羽?清楚と入れ替わったのか」

 

「ああ、あいつは戦いには不向きだからな。因みに俺は一誠の左腕役だ」

 

おー、左腕か。

 

「・・・ところで、その腰に巻いているベルトは何だ?」

 

清楚=項羽が俺のベルトに目を向けて尋ねてきた。普通のベルトと異なり、

機械的で大きなベルトだった。しかも差し込み口があるんだ。

 

「ヒーローの特権。と言っておくよ」

 

「・・・・・あっ、もしかして一誠くん。アレだったりする?」

 

流石はイリナ。伊達に幼い頃、ヒーローごっことしていないな。

俺の言葉とベルトを見聞して理解した彼女に頷くだけで肯定した。

 

「皆さん、台本チェック後、撮影に入りまーす!」

 

撮影スタッフからの声。俺たちは自分の台本をチェックし始める。

 

「あっ、兵藤さんはこちらの台本のチェックもお願いします」

 

「はい?」

 

スタッフから渡されたのは―――なにやらピンク色の表紙の台本だった。

なんだ、これ。スタッフを見れば、親指を立てて満面の笑みを浮かべている。

 

「頑張ってください!」

 

「・・・・・」

 

訝しがりながらも渡された台本をチェックした。その台本に記されたセリフは―――。

 

 

シーンA『セーラたーん&見習い魔法使いVS悪しき聖剣使いコンビ!』

 

 

そんな訳で始まった撮影。まずは邪悪な獣がひしめく森の中を

悪魔の翼を生やして恰好するセラフォルーと浮遊魔法で飛行する和樹。

 

「和樹くん!相手はとても邪悪な存在たちだわ!強大な魔力を持っているあなたとは言え、

力の扱い方を間違えれば周囲が消し飛んじゃう!今回は私のサポートに徹してちょうだい!」

 

「はい!分かりました!」

 

二人はそう言っていると、

 

「あら、あなたたちは誰かしら?」

 

そこへ、イリナ扮する敵の悪しき聖剣使いコンビが登場。

自然体で演じて欲しいという監督の意向通り、イリナは特に演じた様子もなく、

 

「この場所に私たちのアジトがあると知った上で現れた。お前たち、何用だー?」

 

ゼノヴィアが棒読みでセリフを言い切った。まあ、素人だからな俺たち。仕方がないか。

 

「ここにあなたたち悪しき勇者がいるという情報を得ているわ!勇者の名を騙って、

村や町から金品と女のヒトを奪って酷いことを!

私たちは奪った金品と攫った女の人たちを救うべくここに現れたの!

さあ、悪しき勇者の居場所を教えなさい!」

 

「まあ、失礼しちゃうわね!私たちの勇者さまのこと知らにくせに知った風な口を聞いて!」

 

「そうだな、許さないぞー」

 

イリナとゼノヴィアが構えた。セラフォルーと和樹も構えて―――、

 

「とお!セーラービーム!」

 

セラフォルーがステッキから魔力のビームを放った。

ん、攻撃部分はCGなしなのか。本格的だなー。

 

「『マジカル少女戦士☆セーラーたーん』は基本CGなし、

できるだけ本物の魔力演出で魅せているんですよ」

 

スタッフが説明してくれた。便利だな、悪魔の力―――魔力。・・・・・魔力?

 

ドオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

一瞬、疑問が過ったところで、ビームが飛んで行った森で豪快な轟音が巻き起こり、

後の木々が吹っ飛んだ。―――二人を殺す気か、あの悪魔は!?本気な感じじゃなさそうだけど、

改めてセラフォルーの魔力の威力を見た。

・・・・・もしかしたら魔王並みの力を持っていたりする?

 

「その程度で!」

 

「私たちが負けるかー」

 

「和樹くん、青髪の剣士をお願い!」

 

「分かりました。セーラたーん、気を付けてね!」

 

二人は台本のセリフ通り言動をする。そして、悪と正義の戦いが激化していった―――。

 

「凄い!これはいい画が撮れる!」

 

監督が大絶賛の声が耳に届く。

 

 

シーンB『セーラたーん&見習い魔法使いVS悪しき魔法使い』

 

 

「お疲れ、二人とも」

 

二人の撮影が終わり労う。二人の顔に冷や汗が流れていた。

激しい運動によって掻いた汗というより、

 

「セラフォルーさまの攻撃、怖ろしいにもほどがあるわ・・・・・」

 

「当たった時は一瞬、死んだのかと思ったぞ」

 

畏怖の念による汗だった。まあ、一介の聖剣使いが本気ではないとはいえ、相手は悪魔だ。

敵対していた悪魔と戦って攻撃を食らったらそう思うのはしょうがないと思う。

で、場所も変わって、山にあるとある謎の遺跡らしきところ。

何でもこの日のために石造りの遺跡を丸ごとセッティングしたようだ。

そこでセラフォルーと和樹が悪しき魔法使いことカリンと対峙する。

 

「・・・・・お、お姉ちゃん?」

 

・・・・・お姉ちゃん?和樹の口からカリンのことを姉と呼んだ。

表情はとても当惑の色を浮かばせていた。

 

「和樹か・・・・・もはや、お前とここで再会するとは思いもしなかった」

 

「お姉ちゃん・・・・・どうして・・・・・」

 

なるほど、魔法使いの姉と見習い魔法使いの弟という構図か。

んで、とある理由で悪しき魔法使いとなってしまった姉、ということか?

 

「和樹くん・・・・・まさか、あの人があなたのお姉さん?」

 

「う、うん・・・間違いないよ。数年前から行方不明だったお姉ちゃん。

でも、どうしてお姉ちゃんがここにいるの?なんで、悪い魔法使いになっちゃったの!?」

 

うわー、王道的なシリアス展開。子供向けにしても、これが子供たちに伝わるかどうか疑問だな。

 

「・・・・・お前がとても羨ましかった」

 

「・・・え?」

 

「初めからありふれた才能を持ち、何でも魔法を習得し、周りから称えられたお前がとても

羨ましかった。憎んでいるわけじゃない。ただ、羨ましかったんだ。それに私より才能が優れ、

才能があるお前の方が頼られて、姉としては誇らしいことだと思っている。

でもな、ずっと周りから相手にされずいる自分がとても虚しんだ。

―――そんな日々を暮らしていたお前には気付かなかっただろうな」

 

独白するカリン。対して和樹は目を丸くして姉の言葉を耳に傾けた。

 

「そんな時だった。二人の従者を連れて私の前に現れた男がいたんだ。

その男は開口一番になんて言ったと思う?

『お前、才能があるな。どうだ、俺と一緒に世界へ旅してお前のその力で苦しむ者たちを

救済してみないか?』―――とな」

 

「っ!?」

 

「私は嬉しかった。ただ、単純に嬉しかったんだ。私を求めてくれたあの人に。

和樹でもない他の魔法使いでもない私に、あの人が声を掛けてくれたんだ」

 

何時しか、カリンは頬は朱に染まり・・・瞳は潤い始めた。

 

「だから決めたんだ。私の全てをあの人に捧げると。今もこれからも、この先も―――!」

 

刹那。彼女から魔力が噴き出した。カリンの瞳は固い決意と揺るぎない意思が―――。

 

「ここから先は一歩も通さない!例え、弟でもようしゃはしないぞっ!」

 

「お姉ちゃん・・・・・っ!」

 

「私を姉と呼ぶな。今の私は―――勇者の魔法使い、カリーヌだ!」

 

腰に携えていた軍杖を掴み取り、風を纏い、暴風のように激しく風を乱し、

二人を吹き飛ばさんとする。

 

ゴオオオオオオオオッ!

 

「くっ!何て風の魔法なの・・・・・!?」

 

セラフォルーが苦しい表情を浮かばせる。強敵を目の前にして、彼女は畏怖の念を抱く。

 

「・・・・・セーラーたーん」

 

「和樹くん・・・・・?」

 

「すいません。ここは僕一人で任せてもらえないでしょうか。―――姉は僕の手で止めたいです」

 

そう言って魔方陣を展開する。それを見てセラフォルーは和樹の腕を掴んで制止する。

 

「ダメよ!弟のあなたがあなたの姉に手を掛けようなんてしちゃダメ!ここは私が―――!」

 

「いえ、姉の気持ちをようやく知って何もせずにいられないのです。

ですから、あなたはこの先にいるであろう悪しき勇者との戦いに備えて力を温存してください」

 

和樹はニッコリと笑んだ。その笑みは死を覚悟した物の笑みのものだと、監督は涙を流していた。

 

「―――いくよ、お姉ちゃん!」

 

「私はカリーヌだ!私に弟なんて存在しない!」

 

片や風を、片や雷を纏って―――二人は激しく衝突した。風と雷が交じり合い、

中心にいる両者は互いの軍杖を何度も何度も振るって、相手を倒そうとしていく。

 

「・・・・・あなたの気持ち、絶対に無駄にはしないわ・・・・・!」

 

二人の戦いを見守って苦渋の決断と、下唇を噛みしめてセラフォルーは遺跡の奥へと進んで

行ったのだった。

 

 

シーンC『セーラたーんVS悪しき勇者の右腕と左腕!』

 

 

「・・・・・」

 

カリンの撮影シーンが終わり、カリンは設けられたテーブルに頭を突っ伏して現在進行、

羞恥心で一杯で何かに堪えている。

 

「凄かったわね!もう、見ているこっちまでもがハラハラしちゃった!」

 

「そうだな。それに―――『私の全てをあの人に捧げる。今もこれからも、この先も―――!』」

 

「うわあああああああああああああああっ!?」

 

ゼノヴィアが真っ直ぐカリンに向かってセリフの一部を述べたら、

カリンが大きな声を発して頭を抱え出した。テーブルに突っ伏して顔の表情が見えないが、

耳まで真っ赤に染まっているので、カリンは羞恥心で一杯の状態だと理解できる。

 

「・・・・・あれ、おかしいな」

 

「急にどうした?」

 

カリンの隣に座って台本を読んでいた和樹が疑問を口にしていた。

 

「うん、カリンのセリフのところなんだけど・・・・・『私の全てをあの人に捧げると。

今もこれからも、この先も―――!』なんて、書いてないよ?」

 

「「「「「えっ?」」」」」

 

もしかして、アドリブ?和樹がそう言うので俺たちは思わず台本を再チェックした。

・・・・・あっ、本当だ。カリンのセリフにあんなセリフはないぞ。

 

「・・・・・まさか、さっきのセリフはいっくんに対する愛情表現だったりしないよね?」

 

悠璃がカリンに問うと―――。

 

「~~~~~っ」

 

彼女の問いに沈黙で答えたカリンだった。

 

「・・・ここにも恋敵がいた」

 

「うー、でも、負けないわ!」

 

「ふふっ、第一妻の私たちの次に誰が妻となるのか、楽しみですね」

 

幼馴染と二人の妻がカリンに対してそう口にした。

さて、清楚と龍牙の撮影シーン何だが・・・・・。

 

「そこをどきなさい!私は悪しき勇者に用があるのよ!」

 

「んはっ!俺の勇者に会いたいとそんな愚かなことをするのであれば、

俺たちを倒してからにしてもらおうか!」

 

「ノリノリだね・・・・・項羽さん」

 

覇気を放出させ、項羽がセリフを言った様子に和樹が苦笑をしながら言った。

黄金の鎧を纏う龍牙も鎧の中で多分、苦笑を浮かべていると俺は思ったのであった。

 

 

シーンD『セーラーたーんの最終対決。悪しき勇者!&悪しきヴァルキリー!』

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・・」

 

疲労困憊の体でセラフォルーは遺跡の深奥へと赴いていた。

彼女が足を運ぶ先には、不敵な態度で椅子に座る俺と両側に俺の従者役の悠璃と楼羅がいるんだ。

 

「よお、酷く疲れているようだな。どうだ、一先ず休憩でもするか?」

 

「悪の言葉になんて耳を貸さないわ!―――奪った金品と攫った村の娘たちを返してもらうわ!」

 

彼女の言葉に俺は演技ぽく溜息を吐いた。

 

「なんのことだ?」

 

「・・・・・え?」

 

「周りから悪しき勇者と称されているが、金品を奪ったことや村から攫ったの娘なんぞ

身に覚えがないぞ」

 

両腕を広げる。

 

「寧ろ、俺の仲間を倒したお前が悪しき者ではないか!

俺は今まで一度も悪事を働いた事がない!」

 

「そんなこと信じられるわけがないわ!あなたがしていたことを私は知っているのだから!」

 

「では、聞こうか。どこで俺はなにをしていた?その時の時間と、

その時いた村人から何を聞いたのかを!」

 

―――と、セラフォルーは・・・・・―――沈黙した。俺は呆れた風に鼻を鳴らす。

 

「ふん、知らないではないか。ついでに言えば、俺たちは昨日、極寒の北の国で食糧に

困っている村人たちに食料を提供していた」

 

「・・・・・」

 

「一昨日は砂漠のど真ん中にある町に膨大な水を与えてやったぞ。

砂漠の民は水はとても貴重だからな。無限に近い水を与えてやったら、

俺たちのことを英雄と呼んでくれた」

 

スッと立ち上がり、セラフォルーに近寄って言った。

 

「これでも信用できないと言うならば、今すぐ北の国か砂漠の町に行くといい。

俺はここで逃げも隠れもしないでお前を待っている。お前の口から聞く報告を聞くためにな」

 

「悪しき勇者・・・・・」

 

「それとも、俺と一緒に行ってみるか?そうすれば、きっと―――」

 

そう言った時に俺の体に衝撃が襲った。え、演技とはいえ・・・・・これ、効く・・・・・。

 

「一誠さま!」

 

「おのれ!」

 

座っていた椅子まで吹っ飛ばされ、二人の従者に守られる形で演技は進む。

 

「セーラたーん!大丈夫ですか!」

 

遺跡の向こうから、見習い魔法使いの和樹が現れた。

 

「あなた・・・・・姉を倒したの?」

 

「ええ・・・・・倒しました。でも、今は目の前のことに集中しましょう。

悪しき勇者を倒して、平和を取り戻すんです!」

 

和樹が杖を輝かせる。悠璃と楼羅は白銀の剣を鞘から抜きとって構え出した。―――が、

 

「待って」

 

セラフォルーが和樹に待ったを掛けた。

 

「・・・・・もしかしたら、私たちの方が勘違いしている可能性があるの。

まずは、その勘違いを確かめてからでも遅くはないと思うの」

 

「勘違い・・・・・?セーラーたーん。何を言っているんだい?

目の前に悪者がいるのに僕たちが一体何を勘違いしているんだい?」

 

怪訝に和樹がセリフを言い続け、杖をこっちに向けてくる。

 

「今ここで彼を倒さないで何時倒すんだい。ほら、一緒に勝って平和を取り戻すんだよ」

 

そして―――唐突に笑みを浮かべ出した。

 

「じゃないと、悪しき勇者と裏から仕立て上げた意味がないからね」

 

衝撃の事実を発した見習い魔法使い。そんな見習いの言葉に呆然とセラフォルーが反応する。

 

「・・・・・和樹・・・・・・くん?それ・・・・・どういうことなの・・・・・?」

 

「あ、口滑っちゃった。まあいいや、倒すのは同じだしね」

 

「―――和樹くん、どういうことなの!?答えて!」

 

セラフォルーが杖を味方に構えた。何時でも魔法を撃てる姿勢で。

対して和樹は朗らかに言うだけであった。

 

「どういうこと?それはどういう意味なのかな?」

 

「意味も何も、裏から仕立て上げたということよ!答えなさい!」

 

「・・・・・」

 

警戒の色濃く浮かばせて和樹に問えば、和樹は深い溜息を吐いた。

 

「僕はね。魔法使いの中じゃ物凄く凄い魔法使いだなんて周りからちやほやされているんだ。

でも、何の功績もない、戦績もないんじゃ恰好がつかないでしょ?

だから、周りをアッと言わせるほどの何かの手柄を立てる必要があったんだよ。

―――だから、考えたのさ。伝説の存在を悪しき存在へとどんな手を使ってでも変えて、

悪しき伝説の存在を僕が倒せば―――僕は晴れて魔法使いの中じゃ凄く強くて

英雄的な存在になれるんじゃないかってね!」

 

「―――っ!?」

 

「だから僕は、敢て『見習い魔法使い』として活動し尚且つ、

エリート中のエリートである先輩と共に行動すれば、何時しか裏で仕立て上げた悪しき勇者に

出会い、この僕が倒すチャンスを窺っていたのさ今までずっとね」

 

「じゃ、じゃあ・・・・・あなたのお姉さんは・・・・・」

 

「ああ、あのヒト?あのヒトは本当だよ。数年前から行方不明になっていたことも嘘じゃない。

まさか、勇者のところにいたとは驚いたけどね。

ははは、まあ、才能がない姉を持って僕はほとほと迷惑だったけどね」

 

嘲笑の笑みを浮かべセリフを言い続ける。

 

「さてと、話はここまでにしようか。先輩はそこで黙ってみててね?

この僕が勇者を倒すんだからさ」

 

スタスタと、和樹がこっちに歩み寄ってくる。立ち上がって和樹を睨んで言う。

 

「お前、自分の出世のために他人を利用していたというのか?」

 

「出世?とんでもない。出世なんて興味はないよ。ただ、僕が世界一凄い魔法使いだって

証明する必要があっただけで色々と利用させてもらっただけさ。誰も傷付いていないよ?」

 

「俺が金品を強奪したり、村娘を攫ったなんてデマを流したのはお前ということでいいんだな?」

 

「うん、そうだよ。金にものを言わせて町の人たちにそう言う風に言ってもらっていたんだ。

ほら、誰も傷付いてなんていないだろう?悲しんでいる人もいない。

僕ってクリーンな人間なんだよね。利用はするけど、

誰も悲しませも傷つけたりとか一切しないしさ」

 

・・・・・こういうやつが世界にいるとしたら・・・・・ホント、怖い話しだよ全く。

 

「二人とも、待機してくれ。こいつはどうも俺が倒す必要がある」

 

腰に携えていた機械的なベルトを腰に装着した。

 

「俺を利用してどうこうするのは構わない。

だがな、お前を信用と信頼している人を騙して自分の為に利用していた

お前を絶対に許す気はないぞ」

 

「はははっ!それじゃ、倒してみなよ!でも、悪は必ず倒れるシナリオだから正義の僕が勝つのが

道理だ!―――いくよ、悪しき勇者!」

 

先に仕掛けてきたのは和樹からだった。杖から膨大な数の魔力の塊が出てくる。

俺は三枚の紫色のコインを取り出してベルトに差し込んだ。

そして、三枚のコインが入ったベルトを斜めにスライドし、

丸い機械的な円盤をベルトに滑らすように動かして―――。

 

「変身!」

 

と、力強く発した次の瞬間。俺を包むように黒と紫の魔力のオーラがベルトから噴き出した。

 

『クロウ・クルワッハ!』

 

『アジ・ダハーカ!』

 

『アポプス!』

 

『クダハープ、クダハープ、クダハープ!』

 

機械的なベルトから音声が流れ出る。俺を包む魔力のオーラは次第に鎧へと具現化する。

―――腰に紫の龍の尾、背中に三対六枚の紫の龍の翼、

胸には三匹の龍の顔が紋章のように刻まれていて、

龍を模した顔に頭は怒れる羊の角。鎧を纏った俺は気合の咆哮を上げ、

和樹の魔力弾を全て吹き飛ばした。

 

「ちょっ、そんな力があったの!?」

 

俺の姿に和樹が思わずセリフとは違う、素の状態で尋ねてきた。

 

「ぶっつけ本番だが?」

 

「・・・・・キミにはつくづく驚かされるよまったく」

 

深く溜息を吐かれました。まあ、それはそうと戦うとしましょうかね。

 

「はっ!」

 

手を前方に突き出して紫色の魔力弾を放った。

魔力弾は真っ直ぐ和樹に向かう、が、俺の魔力弾は和樹の防壁によって防がれる。

 

「見習い魔法使い和樹!ここでお前を返り討ちにしてくれる!」

 

「やってみろ!僕は絶対に負けない!」

 

―――と、悪しき勇者と見習い魔法使いの戦いは始まった。

だが、この映画はセラフォルーが主役のものだ。

当然・・・・・ここで彼女が何もしないわけがない。

それに、この鎧を着た時からすでにアドリブとして進んでいるのだから。

 

「・・・・・ごめんなさい、勇者さん。私の勘違いであなたを傷つけようとしたわ」

 

魔法のステッキの柄を力強く握りしめたセラフォルーは真っ直ぐ眼差しを和樹に向けた。

 

「和樹くん!先輩としてあなたを止めてみせるわ!」

 

「―――僕の敵になろうなんて、愚かな人だ!」

 

そう言って彼女に巨大な魔力弾を放った。

セラフォルーが対処しようとステッキを構えた時だった。

俺が彼女の前に移動して目の前の魔力弾を受け止める。

 

「この魔力を喰らってやる!」

 

ガシャッ!

 

胸の部分が上下にスライドした。

そこから機械的な蛇の頭が飛び出ては口を大きく開き、受け止めている魔力を一瞬で吸い込んだ。

 

「な、なんだって!?」

 

あいつ、今のは二重の意味で驚いただろうな。

―――ついでに、こんなこともできる。蛇の口に手を突っ込めばあら不思議、

 

ギュィィィィィィィンッ!

 

ドリルを装着した状態で手が出てきました。

 

「・・・・・勇者、どうして私をかばったの?」

 

背後から問いかけてくるセラフォルー。―――ここからピンクの台本通りのセリフだ。

 

「お互い利用された者同士だ。それに、お前を恨んでもいないし。それとだ」

 

「え?」

 

「―――どうやら俺は、お前に一目惚れのようだ」

 

「―――――っ!?」

 

突然の告白に言われ彼女は絶句した面持ちとなった。うん、そんな表情すると思ったよ。

でも・・・・・まだまだセリフがあるんだよこれ。

 

「好いた女を守れず何が勇者だ。だから、お前を俺が守ってやる。セーラたーん」

 

「・・・・・勇者・・・・・兵藤くん・・・・・」

 

「この戦いを終えたら、俺の傍らにいてくれ。俺の愛しいセーラーたーんよ」

 

スッと、セラフォルーに手を差し伸べた。

彼女は・・・・・目を見開いたまま空いた口が塞がらないでいた。しばらくして、

 

「あ、あの・・・えっと、ね?その・・・ね?うう・・・・・男の人にそんなこと言われるのは

初めてだからどう答えていいのか・・・・・でもでも、私にはソーナちゃんという可愛い妹が

いるわけで・・・・けどけど、兵藤くんも悪くないかなーってちょっと

思ったりしていたりして・・・・・ああ、でもぉ・・・・・」

 

―――あれ、何故か混乱をしていらっしゃるぞ?台本じゃセラフォルーは二つ返事で

俺の手を取り、和樹を一緒に倒すシーンだったハズなんだが・・・・・。

 

「・・・・・うん、決めた」

 

徐に、彼女は真っ直ぐ瞳をこっちに見据えてくる。

 

「私、セラフォルー・シトリーはあなたの気持ちに応えます。

妹共々よろしくね、イッセーくん♪」

 

・・・・・え?

 

「「「・・・・・え?」」」

 

「「「・・・・・え?」」」

 

「さぁ、一緒に見習いの魔法使いを倒しましょう勇者さま!」

 

唖然とする俺たちを余所に、セラフォルーが嬉々として呆然とする和樹に向かって―――。

 

「とう!セーラービーム!」

 

―――○●○―――

 

『こうして、マジカル少女戦士☆セーラたーんは敵であった悪しき勇者と共に、

勇者を裏から悪に仕立て上げた本当の黒幕『見習い魔法使い』和樹を倒し、

冥界の平和を守ったのでした』

 

プレミアム上映会。俺たちは撮影に参加できなかったガイアたちと共に冥界の大きな映画館で、

出来上がったばかりの劇場版『マジカル少女戦士☆セーラたーん 悪しき勇者との対決!』

と観賞した。ちょうど最後のナレーションが流れ、映画が終わったところだ。

スタンティングオペレーションの嵐だった。

 

「ありがとう!ありがとう!」

 

ステージ上のセラフォルーも拍手を受けて観客に応えていた。

 

「・・・・・まさか、お姉さまを撮影中に口説き落とすとはびっくりです」

 

開口一番にソーナ・シトリーに言われた。そ、そんなっ!?

 

「違うもん!ちゃんと台本通りにセリフを言ったらあいつが真に受けたんだもん!

それにこの台本を渡してきたスタッフに苦情を言え!俺のせいじゃないもん!」

 

ちょっと涙目でソーナ・シトリーに食って掛かった。俺は悪くない!絶対に悪くないぞっ!

 

「まあ・・・・・確かに一誠は台本通りに撮影を参加していたんだけど、まさか・・・ねぇ?」

 

「聞いていた僕たちも驚きましたよ。いきなり一誠さんがセラフォルーさんを口説くんですから」

 

「・・・・・アドリブだったら私は一誠を軽蔑していたぞ」

 

カ、カリン・・・・・!?

 

「でも、しょうがないよ。私たちは監督とスタッフに従って撮影をしたんだもの。

一誠くんは悪くないよ」

 

「・・・ううう、清楚。ありがとう」

 

「ふふっ、私は一誠くんを信じているからね。ナンパするような人じゃないって」

 

「なっ、わ、私もイッセーを信じているぞ!?本当だからな!」

 

カリンが慌てて清楚の言葉に便乗するが、

今の俺は清楚の癒しによって安堵の胸を撫でおろしている。

 

「―――兵藤くん!」

 

『ん?』

 

俺たちは俺を呼ぶセラフォルーに顔を向けた。そこには満面の笑顔でピースを突き出して―――。

 

「また、一緒に映画の撮影をしようねぇっ!」

 

そう言ってきたのだった。そんな彼女に手を振るって「そうだな」と首を縦に振って頷いた。

 

 

 

 

 

 

―――後日、俺が知らない間に俺が撮影で着たベルトがこの映画を見ていたアザゼルとアジュカ・アスタロトの目に留まり、二人の趣味と興味により作られて子供向けの玩具となり、

今では子供たちの間では―――、

 

『へーんしんっ!』

 

と、安全性を高め、子供でも鎧を着れて遊べることで大人気だとか。

しかも、『新たなメダルと新しい鎧のイメージを追加』って、

どこかの店の店長から依頼を受けたのであった。

 

 

 


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