ハイスクールD×D×SHUFFLE!   作:ダーク・シリウス

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Episode9

 

「さて、用意はいいかね?」

 

「お前たちに頼ってばかりで申し訳ねぇな」

 

駒王学園を目と鼻の先にした公園で、俺と和樹、龍牙、木場、

イリナとゼノヴィアが集まっていた。他に学校に結界を張るため、

リアス・グレモリーたちも集結して魔方陣を展開している。

 

「私たちは結界を張ることに専念する。流石に真龍ほどの攻撃は耐えられないから、

できれば控えて欲しい」

 

「俺、そこまで暴れん坊な風に見えるか?」

 

「念のためだよ一誠ちゃん」

 

俺の発言に苦笑するフォーベシイ。

 

「まあ、子供は元気にはしゃいでいけ。学校が壊れても俺たちの部下が

もと通りにしてやるからよ」

 

「和樹の得意分野だな」

 

「ちょっと待って。僕って筋肉質な魔法使いって思われているわけ?」

 

「いや、初めての体育の授業でお前、学校の殆どを消失させたじゃん?」

 

「・・・・・それ言われると、あの時の僕が恨めしくなるから言わないで」

 

ズーン・・・・・と和樹が落ち込みだした。

まあ、頭がいい魔法使いだと思っているから安心しろ。和樹。

 

「和樹さん、今後の行動に気を付けないといけませんね」

 

「そうだね・・・・・破壊に特化したあの人のようになりたくないよ」

 

「誰のこと言っているんだ?」

 

「遠い親戚の人。ミス・ブルーってあだ名を持っているんだ。

どこかに旅をしている魔法使いなんだ」

 

親戚の魔法使い・・・・・和樹の家系は魔法使いばかりのようだな。多分、

 

「さて・・・・・そろそろ行くとしましょうか」

 

「相手は堕天使の幹部クラスか。僕の魔法は通じるか、ワクワクする」

 

「相手にとって不足はないです」

 

コカビエルと相手する俺たち。木場たちの方に視線を向けると、

 

「ようやく・・・・・皆の仇がとれる」

 

「この件が終わったら、イッセーくんとお別れかぁ・・・・・」

 

「寂しいなら、この地に残るか?」

 

「なっ!誰もそんな事言ってないじゃないの脳筋バカゼノヴィア!」

 

「イリナ、その発言の意味はどういう意味なのかな?」

 

あっちはあっちで盛り上がっているな・・・・・。でも、確かにこの件が終えれば

イリナと別れだ。寂しいもんだな。せっかくの幼馴染と再会したのに・・・・・。

 

「「・・・・・」」

 

そんな俺にニヤニヤと二人の王がいやらしい笑みを浮かべているのはなぜだろうか。

物凄く気持ち悪いぞ。

 

「一誠くん・・・・・」

 

「うん?」

 

この場に居合わせている清楚に呼ばれ振り向けば、彼女に抱きつかれた。

 

「・・・・・お願い、約束して。絶対に生きて帰ってくるって、約束して」

 

俺の胸倉を掴んで顔を胸に押し付けてくる。体を震わせてだ。

 

「どうして、どうして一誠くんばかり、戦わないといけないの?

私、そんな一誠くんが心配で心配でしょうがないよ」

 

「清楚・・・・・」

 

俺を見上げるように上目づかいで見詰めてくる。酷く潤った瞳。

涙が流れていて頬を汚している。

 

「私、戦うのは苦手なのが物凄くいや。いま初めてそう思った。

一誠くんを守れるぐらいの力が欲しいよ・・・・・そしたら、

私も戦えるのに・・・・・一誠くんと一緒に戦って―――」

 

口を開いている清楚の口に人差し指を押し付けて口を閉ざした。

 

「その言葉を言ってくれるだけでも俺は戦えるよ。清楚」

 

「一誠くん・・・・・」

 

「大丈夫、俺には頼もしい仲間がいるんだ。簡単にくたばりはしない」

 

そう言って俺は指を三本立てた。

 

「三十分。この時間以内に全てを終わらせる」

 

ナデナデと清楚の黒い髪を撫でる。うん、今日も触り心地が好いな。

 

「・・・・・行くとしようか」

 

清楚から離れ、踵を返して学校へと赴く。

 

「イッセー」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・気を付けて・・・・・」

 

リアス・グレモリーからの声援・・・・・か。たまにはいいな。

 

「ああ、行ってくる。リアス」

 

「―――っ!?」

 

「ソーナ、結界の方を頼むぞ」

 

「・・・・・ええ、任せてください」

 

二人にそう言い残して歩を進めた。

 

「イリナ、ゼノヴィア。油断するなよ?」

 

「イッセーくんもね。こっちが終わったらすぐに援護しに行くから」

 

「共に戦おう。兵藤一誠」

 

「木場、ここが正念場だ。悔いのないようにな」

 

「うん、勿論だ」

 

「和樹、龍牙。時間以内に終わらせるぞ。まあ、とっておきの力もあるし、

それであっさりと終わらしちゃうかもけどよ」

 

「へぇ、それは楽しみだね」

 

「それでは、見せてくださいね。そのとっておきの力とやらを」

 

皆に話しかけ、正面から堂々と入りこむ俺たち。

 

―――○●○―――

 

正門から堂々と入った俺たちの目に校庭は異様な光景になっていた。

校庭の中央に三本の剣が神々しい光を発しながら、宙に浮いている。

それを中心に怪しい魔方陣が校庭全体に描かれていた。

魔方陣の中央には初老の男の姿があった。あの剣はエクスカリバー。だが、何をしているんだ?

 

「バルパー・ガリレイ・・・・・」

 

「あいつが・・・・・」

 

ゼノヴィアが初老の正体を呟けば、木場祐斗はようやく出会えた仇敵に

怨恨の眼差しを向けたその瞬間だった。

 

「―――完成だ」

 

初老の男、バルパー・ガリレイが狂喜の笑みを浮かべたまま呟いた。

校庭の中央にあった三本のエクスカリバーが有り得ないほどの光を発し始めた。

 

「ようやくきたな、兵藤一誠」

 

「「「「「「ッ!」」」」」」

 

空中から聞こえてくる声。全員が空へ視線を向けた時、月光を浴びるコカビエルの姿があった。

宙で椅子に座って、こちらを見下ろしていた。

 

「お前の要望通りに来てやった」

 

「招かざる客もいるようだが、まあいいだろう。

俺はあくまで最高の余興となる兵藤のお前と戦えればそれでいい」

 

あくまで俺は余興なのね。こいつの戦闘狂に付き合うなんてはた迷惑な事だよまったく。

 

「質問その一、エクスカリバーでなにをしている?」

 

「三本のエクスカリバーを一本に統合しているのさ。それがいま、完成したところだ。

最高のステージにするための一部がな」

 

なるほどね。凄い技術だな。複数の聖剣を一本に統合するなんて。

 

「エクスカリバーが一本になった光で、下の術式も完成した。

後に二十分もしないうちにこの町は崩壊するだろう。解除するには俺を倒すしかないぞ?」

 

衝撃的なことをコカビエルは口にした。マジかよ・・・・・。

あと、二十分でこの町が崩壊する?校庭全域に展開していた魔方陣に光が走りだし、

力を帯び始めた。

 

「フリード!」

 

コカビエルが誰かを呼んだ。というか、あいつ?

 

「はいな、ボス」

 

暗闇の向こうから、白髪の少年神父が歩いてきた。

 

「陣のエクスカリバーを使え。最後の余興だ。三本の力を得たエクスカリバーで戦って見せろ」

 

「ヘイヘイ。まーったく、俺のボスが人使いが荒くてさぁ。でもでも!チョー素敵仕様になった

エクスなカリバーちゃんを使えるなんて光栄の極み、みたいな?ウヘヘ!

ちょっくら、悪魔でもチョッパーしますかね!」

 

イカレた笑みを見せながら、フリードが校庭のエクスカリバーを握った。

 

「木場、一石二鳥だな」

 

「ああ、まさしくその通りだ」

 

魔方陣から剣を出して柄を握って、その剣先をバルパー・ガリレイに向けた。

 

「バルパー・ガリレイ。僕は『聖剣計画』の生き残りだ。

いや、正確にはあなたに殺された身だ悪魔に転生したことで生き長らえている」

 

至って冷静にバルパー・ガリレイに告げる木場だが、その瞳には憎悪の炎が宿っていた。

バルパー・ガリレイの答え次第では一触即発だな。

 

「ほう、あの計画の生き残りか。これは数奇なものだ。

こんな極東の国で会うことになろうとは、縁を感じるな。ふふふ」

 

嫌な笑い方だ。小馬鹿にしたかのような口調だ。

 

「―――私はな。聖剣が好きなのだよ。それこそ、夢にまで見るほどに。

幼少の頃、エクスカリバーの伝説に心を躍らせたからなのだろうな。

だからこそ、自分に聖剣使いの適性が無いと知った時の絶望といったらなかった」

 

突然、バルパー・ガリレイは語り出す。

 

「自分では使えないからこそ、使える者に憧れを抱いた。その想いは高まり、

聖剣を使える者を人工的に作り出す研究に没頭するようになったのだよ。

そして完成した。キミたちのおかげだ」

 

「なに?完成?僕たちを失敗作だと断じて処分したじゃないか」

 

繭を吊り上げ、怪訝な様子の木場祐斗。俺もそうだ。

イリナとゼノヴィアの話しでは、木場祐斗たちの研究は失敗だと聞いていた。だからこそ、

用済みだとして処分したんじゃないのか?

だが、俺の思いとは裏腹にバルパー・ガリレイは首を横に振った。

 

「聖剣を使うのに必要な因子があることに気付いた私は、その因子の数値で適性を調べた。

被験者の少年少女、ほぼ全員の因子はあるものの、

どれもこれもエクスカリバーを扱える数値に満たなかったのだ。そこで私は一つの結論に至った。

ならば『因子だけ抽出し、集めることはできないか?』―――とな」

 

「なるほど。そういうことか。読めたぞ」

 

「ああ、聖剣使いが祝福を受ける時、体に入れられるのは―――」

 

ゼノヴィアも事の真相に気付いたようで、忌々しそうに歯噛みしていた。

 

「・・・・・どういうことなのですか?」

 

龍牙が分からないと尋ねてきた。俺は仮説として説明する。

 

「バルパーは一つの結論を現実にしたんだ。

形がどうであれ、聖剣を扱える数値に満たした因子を集めることに成功したんだ。

因子を持つ少年少女からな。多分、当時『聖剣計画』の当事者だったあいつが処分を下した

木場祐斗の同胞からも因子だけを抽出して何かしらの形に集めたに違いない」

 

「ほう、良く分かったな?ああそうだ、そこの少年よ。持っている者たちから、

聖なる因子を抜き取り、結晶を作ったのだ。こんな風に」

 

バルパーが懐から光り輝く球体を取り出した。眩い光だ。聖なるオーラってのが迸っている。

 

「これにより、聖剣使いの研究は飛躍的に向上した。

それなのに、教会の者どもは私だけを異端として排除したのだ。研究資料だけは奪ってな。

貴殿を見るに、私の研究は誰かに引き継がれているようだ。ミカエルめ。

あれだけ私を断罪しておいて、その結果がこれか。まあ、天使のことだ。

被験者から因子を抜きだすにしても殺すまではしていないか。

その分だけは私よりも人道的と言えるな。くくくく」

 

・・・・・だから木場祐斗にあんなことを言ったのか、ユーストマ。せめての罪滅ぼしだと。

そして、俺も聖剣を使える理由は聖剣を扱える因子の数値を満たしているからなのか。

 

「―――同士たちを殺して、聖剣適性の因子を抜いたのか?」

 

木場祐斗が殺気の籠った口ぶりでバルパー・ガリレイに訊く。

対してあの初老の男、バルパー・ガリレイは結晶を手の中で弄んでいた。

 

「そうだ。そして、そこの少年が言っていただろう。ほぼ百点に近い仮説をな。

この球体はその時のものだぞ?三つほどフリードたちに使ったがね。これは最後の一つだ」

 

「まっ!他の奴らはてめぇらにやられちゃったんですけどねぇー?」

 

あの二人か。まあ、いまとなってはどうでもいいな。

 

「・・・・・バルパー・ガリレイ。自分の研究、自分の欲望のために、

どれだけの命を弄んだんだ・・・・・」

 

木場祐斗の手が震え、怒りから生み出される魔力のオーラが奴の全身を覆った。

凄まじいほどの迫力だ。

 

「ふん。それだけ言うのならば、この因子の結晶を貴様にくれてやる。

環境が整えば後で量産できる段階まで研究はきている。

まずはこの町をコカビエルと共に破壊しよう。

あとは世界の各地で保管されている伝説の聖剣をかき集めようか。そして聖剣使いを量産し、

統合されたエクスカリバーを用いて、ミカエルとヴァチカンに戦争をしかけてくれる。

私を断罪した愚かな天使どもをと使徒どもに私の研究を見せ付けてやるのだよ」

 

それがバルパー・ガリレイとコカビエルが手を組んだ理由か。どちらも天使を憎んでいる。

どちらも戦争を求めている、利害一致して―――最悪のコンビだ。

バルパー・ガリレイは興味をなくしたかのように持っていた因子の結晶を放り投げた。

ころころと地面を転がり、俺の足元に行き着く。木場祐斗の所じゃないのかよ?

因子の結晶を手に取り、木場に突き出した。

 

「・・・・・皆・・・・・」

 

悲しそうに、愛しそうに、懐かしそうに、俺から結晶を受け取ってはその結晶を撫で始めた。

木場祐斗の頬を涙が伝っていく。その表情は悲哀に満ち、そして憤怒の表情も作りだしていた。

これが木場祐斗の同胞の因子、魂とならば・・・。

 

俺は紫色の宝玉が埋め込まれた黒い籠手を装着して、因子の結晶を触れた。そのときだった。

木場祐斗の持つ、結晶が淡い光を発し始める。

光は徐々に広がって行き、校庭を包み込むまでに拡大していった。

 

校庭の地面、その各所から光がボツボツと浮いてきて、カタチを成していく。

それはハッキリとしたものに形成されていき―――人のカタチとなった。

木場祐斗を囲むように現れたのは、青白く淡い光を放つ少年少女たちだった。

もしかして、あいつらは―――。

 

『主の力で因子の球体から魂を解き放ったのです』

 

と、俺の内にいる一匹のドラゴンがそんな事を言いだした。

そして、木場祐とはあいつらを見詰め、懐かしそうで悲しそうな表情を浮かべた。

 

「皆!僕は・・・・・僕は!」

 

あいつらは・・・・・木場祐斗と同じ聖剣計画に身を投じられた者たち。

―――処分された者たちだ。

 

「・・・・・ずっと・・・・・ずっと、思っていたんだ。

僕が、僕だけが生きていいていいのかって・・・・・。僕より夢を持った子がいた。僕よりも

生きたかった子がいた。ごくだけが平和な暮らしを過ごしていいのかって・・・・・」

 

霊魂の少年の一人が微笑みながら、木場祐斗に何かを訴える。えーと・・・・・。

 

「『自分たちのことはもういい。キミだけでも生きてくれ』。・・・・・だってよ」

 

「―――――」

 

木場祐斗の双眸から涙が溢れ続ける。魂の少年少女たちが口をパクパクとリズミカルに

同調させていた。歌を歌っているのか?読唇術ですると・・・・・・これは聖歌。

 

「「―――聖歌」」

 

イリナとゼノヴィアが揃ってつぶやいた。あいつらは聖歌を歌っている・・・・・。

木場祐斗も涙を流しながら、聖歌を口ずさみだした。

それは、あいつらが辛い実態実験の中で唯一希望と夢を保つために手に入れたもの―――。

それは、過酷な生活で唯一知った生きる糧―――。

それを歌うあいつらと木場は、まるで幼い子供のように無垢な笑顔に包まれていた。

 

―――バサッ!

 

無言で俺は『熾天使変化(セラフ・プロモーション)』となり、六対十二枚の金色の翼から神々しい光を発光させ、

木場祐斗と霊魂の少年少女を囲むように包んだ。この状態の能力の一つ、浄化―――。

その時あいつらの魂が青白き輝きを放ちだした。その光が木場祐斗を中心に眩しくなっていく。

 

『僕らは、一人ではダメだった―――』

 

『私たちは聖剣を扱える因子が足りなかった。けど―――』

 

『皆が集まれば、きっとだいじょうぶ―――』

 

あいつらの声が俺にも聞こえる。きっとイリナたちも聞こえているだろう。

そして、温かさを感じる。友を、同士を想う、温かなものを―――。

俺の目からも何時の間にか、自然に涙が流れていた。

 

『受け入れて―――』

 

『僕たちを―――』

 

『聖剣を受け入れるんだ―――』

 

『怖くなんてない―――』

 

『たとえ、神がいなくても―――』

 

『神が見ていなくても―――』

 

『神さまが見ていなくても―――

 

『僕たちの心はいつだって―――』

 

「―――ひとつだ」

 

木場祐斗に語る少年少女の霊魂たち。すると、あいつらは俺に顔を向けてきた。

 

『お願い―――』

 

『彼に力を―――』

 

『少しだけでもいい―――』

 

『貸してほしい―――』

 

『僕たちの代わりに―――』

 

『私たちの代わりに―――』

 

『傍にいて欲しい―――』

 

あいつらの魂が天に昇り、一つの大きな光となって木場祐斗と俺のもとへ降りてくる。

優しく神々しい光が俺と木場祐斗を包み込んだ。

 

「・・・・・お前らの想い、確かに受け取ったぞ・・・・・」

 

俺の翼に変化が起きた。金色の翼が一変し、青白い翼に変化した。それだけじゃない、

俺の髪が青白くなり、瞳が金になった―――!

 

「―――木場、この想い、受け継げよ」

 

「―――――勿論だよ、イッセーくん」

 

「ならば力を、可能性を、奇跡を、お前に渡そう―――!」

 

カッ!

 

木場祐斗は青白い光の閃光に包まれた。その瞬間、こいつが持っていた剣に変化が起きた―――。

 

―――○●○―――

 

しばらくして、俺は木場祐斗から離れた。

 

「いけるな?」

 

「うん」

 

「なら、俺は―――」

 

青白い翼を羽ばたかせ、コカビエルの前に佇んだ。

 

「こいつの相手をしよう」

 

「異様な力と異様な姿だ・・・・・神滅具(ロンギヌス)にバグが起きたというのか?」

 

「さあな、この姿はこの戦いだけかもしれないし、これかもこの姿なのかもしれない。

俺にも分からない」

 

「ふん、そうか。それならば、その姿のお前と邪魔されないように戦う場を設けようか」

 

コカビエルが指を鳴らす。すると、校庭に巨大な魔方陣が展開して穴が開いた。

底はマグマのようなものが浮かんでいたかと思えば、灼熱の炎が火柱のように噴き上がった。

 

ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!

 

火柱の中から獣の声が聞こえた。様子を見ていると、

三つ首の巨大な四肢の獣が数匹も火柱の中から現れた。あれは―――。

 

「地獄の番犬ケルベロス・・・・・」

 

和樹たちの方に視線を向ければ、俺に頷く仕草を伺わせてくれる。―――大丈夫。と、

 

「問題なさそうだな」

 

「ああ、頼もしい仲間がいるからな。直ぐにあの犬をハウスに戻すだろうさ」

 

「ふん、では―――」

 

両手に光の剣を発現させたコカビエル。

 

「思う存分、お前との戦いを楽しもうか!」

 

と、嬉々として飛び掛かってくる。俺も両手に光の剣を具現化させてコカビエルに突貫する。

一瞬の刹那。

 

ガギギギギギギッ!ギインッ!ギンッ!ガギギギギギギギギンッ!

 

光の剣の剣戟を何十も何百も刹那の瞬間で振るい、交えた。

 

「くっはっはっはっ!やるな!」

 

「流石は堕天使の幹部ということだけある!

―――堕天使の女帝、同族殺しのヴァンもこのぐらいか?」

 

「なに―――?」

 

ガキンッ!

 

鍔迫り合いになった。コカビエルの顔を覗けば怪訝になっていた。

 

「どこであいつの名を知った?」

 

「数年前、俺の父さんと母さんは殺された。悪魔のシャーリとシャガ、堕天使のヴァンにな」

 

「なんだと・・・・・?」

 

お互い剣に力を籠めて距離を置いた。

 

「あの女が、兵藤の人間を殺したというのか?」

 

「俺はそう思っている。なにせ、血塗れの両親の傍に、ヴァンがいたからなぁっ!」

 

青白い翼から奔流と化としたレーザーのような青白い光を放った。

コカビエルは両手を前に突き出して、迎え撃とうとしていた。

 

「その話が本当ならば・・・・・腹立たしいことだな。

俺がこの手で殺そうと思っていた人間を先に殺したのだからな!」

 

コカビエルの両手に堕天使のオーラの源である光力が集まっていく。

 

ドオオオオオオオオオオオオオオッ!

 

コカビエルは俺の放った一撃を真正面から受ける。

その表情は常識を逸した鬼気のあるものだった。

 

「ぬぅぅううううううううううううううううんッッ!」

 

「―――マジですか?」

 

俺の一撃が、徐々に勢いを殺され、カタチさえも崩された。

 

「フハハハハハハ!いいぞ!この魔力の力!俺に伝わった力の波動は最上級悪魔の魔力だ!

もう少しで魔王クラスの魔力だぞ、兵藤一誠!

お前も両親に負けず劣らずの才に恵まれているようだな!」

 

心嬉しそうにコカビエルは笑っている。狂喜に彩られた表情。

 

「にゃろう・・・!」

 

六対十二枚の青白い翼を刃物状にしてコカビエルに斬りかかった。

俺の行動に応えようとあいつも十枚の漆黒の翼を刃物状へと変えて俺の翼に交えてきた。

 

ガガガガガガガッ!ギャインッ!ギィンッ!ギャンッ!ガギンッ!ギンッ!

 

「フッハッハッハッハッ!楽しい、楽しいぞ、兵藤一誠!」

 

翼を激しく動かしているコカビエルは手に巨大な光の槍を生みだして放ってきた。

片翼でその槍を一刀両断にし、コカビエルに突き出す。

 

「―――おっと、危ない」

 

が、何なく俺の翼はコカビエルに掴まれた。だが、それでいい―――。

 

バチッ!

 

「ん?」

 

翼に電気が一瞬迸った。

 

「俺の翼を掴むんじゃなくて、弾き返した方が正解だったぞ。コカビエル」

 

「―――――っ!」

 

「感電しやがれ」

 

ビガッ!ガガガガガガガガガガガガガガガガッ!

 

「ぬがああああああああああああああああああああああああああっ!」

 

掴んでいる翼から、大質量の青白い電気がコカビエルの体に電流する。更に黒い翼からも。

俺の翼でコカビエルの翼を絡めて電気を流している。

 

「まだ両手が空いている」

 

両手の平から魔力を青い炎に具現化し、炎の質を物質に変化させ、巨大な手に形を変える。

 

「―――ふん!」

 

青い手を蚊を叩き潰すようにコカビエルを思いっきり挟んだ。

 

「蒼炎・浄化葬」

 

青い炎の手が巨大な青い炎の柱へと変えた。炎の中にいるあいつはただでは済まないだろう。

炎と電気の攻撃は流石に堕天使の幹部とはいえども―――。

 

―――ヒュンッ!

 

「っ!?」

 

何かが飛来してくる影が見え、瞬時で翼で防いだ。

 

「―――流石はあの二人の子供だ」

 

目の前から声が聞こえた―――刹那。炎が一瞬にして吹き飛ばされた。

 

「この俺がここまでやられるとは久し振りだ。だから戦争が、戦いが楽しい・・・!」

 

全身ボロボロのコカビエルが狂喜の笑みを深く浮かべ、俺を見詰めてくる。

マジでかよ・・・・・?堕天使って意外としぶといな・・・・・。

・・・・・そう言えば、木場祐斗たちはどうなっているんだろうか?

気になるところだが・・・・・・。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

コカビエルが飛び出してきたから見る暇もない!全ての翼を前に突き出せば、案の定。

 

「甘いぞ!」

 

翼と翼の間に避けて向かってくる。

 

「まあ、予想の範囲だけどな?」

 

ニヤリと口の端を吊り上げた。―――翼を大きくした。

二メートル以上はあるコカビエルの身長より、翼を大きく広げればスッポリと

あいつの体は翼で完全に覆われた。

 

「な・・・・・に・・・・・っ!?」

 

「炎と雷の攻撃が来ます。ご注意くださいってな」

 

逃げ道は背後だけだ。砲身の中にいると思わせる俺の翼はコカビエルを囲んでいる。

だから、正面の俺を玉砕覚悟で向かってくるか、背を向けて後退するかのどっちかだ。

両手の間に生まれた炎と雷の塊を前に突き出して―――放った。

 

ドウッ!

 

「ちぃッ!」

 

あいつは前に両手を突き出して幾重にも魔方陣を展開した。その魔方陣と俺の一撃が直撃する。

 

「ぬおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

・・・・・あー、そう言う避け方をするのか。俺の攻撃を防御しながらまるで、

砲弾のようにコカビエルは翼の中から抜け出た。っと、今のうちだな。

木場祐斗たちの方に見下ろせば―――、木場祐斗がフリードを斬った瞬間だった。

・・・・・やったじゃないか、木場祐斗。後はこいつだけだな。

 

「くくく・・・・・面白い、楽しいぞ、兵藤一誠・・・・・・!」

 

コカビエルはもう俺に夢中のようで・・・・・もう、おわりにするか。

 

「さあ、行こうか。ガイア」

 

『ようやく我の出番か。いまかいまか待ち遠しいかったぞ』

 

カッ!

 

突然の真紅の光。真紅の光は俺の全身から発したのだった。

 

『我、夢幻を司る真龍なり』

 

内にガイアから声が聞こえた。その声に続くように俺も発する。

 

「我、夢幻を司る真龍に認められし者」

 

『我は認めし者と共に生き』

 

「我は真龍と共に歩み」

 

「『我らの道に阻むものは夢幻の悠久に誘おう』」

 

真なる深紅龍神帝(アポカリュプス・クリムゾン・ドライブ)ッ!!!!!

 

最後は力強く言葉を発した次の瞬間。真紅の光が、より一層に輝きを増した。

 

「・・・・・なんだ、それは・・・・・」

 

コカビエルが信じられないものを見る目で呟いた。

俺のいまの姿は、全身が鮮やかな紅よりも深い紅の全身鎧。腰にはドラゴンのような尾がある。

背中にはドラゴンのような真紅の翼が生えている。体に金色の宝玉が幾つも埋め込まれてある。

手の甲にもだ。頭部には立派な深紅の角が突き出ている。

 

「『真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)』グレートレッドのドラゴンの力を鎧に具現化した姿だ」

 

「―――――っ!?」

 

あっ、ライザー・フェニックスのように驚いているな。

 

「『真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)』グレートレッド・・・だと・・・・・!?」

 

「信じる信じないのは自由だ。だが、目の前の事実こそが真実だと思わないか?」

 

そう言い残して俺は、深紅の光を残してコカビエルに接近した。

あいつは俺の接近に反応できず、懐にまで近づかれるまで気付きもしなかった。

 

ドゴンッ!

 

「がっはぁっ!?」

 

「取り敢えず、俺が決めた時間が迫っているんでね。―――ここいらで終わりにさせてもらう」

 

コカビエルの腹部に深く突き刺した拳をさらに力を籠めて、ねじり込む。

そのまま上空に向かい、直ぐに下に向かって急降下する。

 

「兵藤一誠いいいいぃぃぃぃぃっ!」

 

校庭に描かれた術式の中央に飛び込んで―――。

 

ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

コカビエルと共に直撃した。その瞬間、魔方陣の波動が消えていくのが分かった。

 

「堕天使のヴァンとの戦いの予行としていい勉強になった。ありがとうな、コカビエル」

 

地面に横たわる堕天使の幹部、コカビエルに感謝の言葉を述べる。

これで一歩、あの堕天使の女に近づけただろうか。

 

「―――イッセーくん!」

 

校庭に直撃した際に生じた土煙が晴れるとイリナの声が聞こえた。気絶したコカビエルを掴んで、

凹んだ地面から出る。そしたら―――俺の名を呼びながらイリナが抱きついてきた。

 

「凄い!イッセーくん、赤龍帝だったなんてびっくりしちゃったわ!」

 

「いや、違うし」

 

「へ・・・・・?でも、この赤い鎧は・・・・・」

 

「『真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)』グレートレッドのドラゴンの力を鎧に具現化した姿だ」

 

そう説明すると、イリナが大きく目を見開いた。

和樹たちもそうだった。絶句した面持ちをしていた。

 

「それが・・・・・とっておきの力だってことでいいのかな?」

 

「凄いです。真龍の力を具現化にした鎧なんて生まれて初めて見ます」

 

「良く見れば、赤というより深い紅の色だな。今日は驚くことが多い」

 

ペタペタと、鎧に触ってくる和樹たち。

 

「木場、良かったな」

 

「うん、これで同士の無念が晴れた。いや、彼らは仇なんて求めていなかった。

ただ、僕が生きていて欲しかった・・・・・ただ、それだけだった・・・・・」

 

「・・・・・まあ、これで木場の過去の因縁は絶ち切った。それだけでも十分だ」

 

ポンポンと木場祐斗の頭を触った。

 

「イッセーくん・・・・・ありがとう」

 

「ん、どういたしまして。」

 

復讐を果たし遂げて良かったな。木場祐斗―――。

 

「―――――ふふふ、おもしろいな」

 

『ん?』

 

空から聞こえてきた突然の声。この場にいる誰のものでもない。

最初に気付いたのは、俺だ。次に龍牙と同時に和樹。俺たちは空を見上げた。

続いて何かを感じたのが、木場たちだった。俺たちが暗黒の夜空を同時に見上げる。

怪訝に思う俺だが、その直後、すぐに理解した。

 

『ほう、この龍の波動は・・・・・あいつか』

 

クロウ・クルワッハの言葉に呼応するように、それは空から降ってきた。

 

カッ!

 

一直線に伸びる白い閃光が、闇の世界を切り裂きながら舞い降りる。あの速度で地面へ

降下すれば、地響きとともにクレーターが生まれ、辺り一面に土煙が巻き起こるのは

必然だろう。―――――だが、そんなことは起きなかった。闇のなかで輝く、一切の曇りも影も

見せない白きもの。地面すれすれの高度で、その場に浮かんでいた。白き全身鎧(プレートアーマー)

身体の各所に宝玉らしきものが埋め込まれ、顔まで鎧に包まれていて、その者の表情は窺えない。

背中から生える八枚の光の翼は、闇夜を切り裂き、神々しいまでの

輝きを発している。・・・・・誰だ?

 

 

「アザゼルの言いつけで無理やりにでもコカビエルを連れてくるように

言われていたのだが・・・・・ふふふ、真龍が鎧として具現化するなんて驚いたな」

 

アザゼル・・・・・?確か『神の子を見張る者(グリゴリ)』の堕天使を纏めている

堕天使の総督の名前だった。

 

「・・・・・誰だ?」

 

声からして女だ。警戒して構えていると宝玉からガイアが話しかけてきた。

 

『「白い龍(バニシング・ドラゴン)」アルビオン。赤龍帝なら表にいるぞ?

赤と真紅と間違えるほど頭まで力のみしか考えれなくなったか?』

 

彼女の問いに白い全身鎧に生えている青い翼が点滅した。

 

『・・・・・やはり、グレートレッド。お前であったか。どういうことなのだ?

お前が人間に力を貸すとは今まで無かったことだ。

人間界に姿を現しても関心を示さなかったではないか』

 

『ふん、我の勝手だ。貴様に説明する理由もない』

 

白い龍アルビオン・・・・・確か、二天龍の一角のドラゴンだったはずだ・・・・・。

どうしてそのドラゴンがここにいる?と、思っているとアルビオンが話しかけてきた。

 

「―――感動の再会とは程遠いな。一誠、そしてイリナ」

 

「「・・・・・え?」」

 

俺とイリナを知っている?いや、そもそも俺とイリナは女の人と知り合いなんていないはずだ。

 

「私のことを覚えていないのか?」

 

「いや・・・・・俺とイリナに女の人の知り合いなんていないぞ」

 

「う、うん・・・・・いないわ。あなた、誰・・・・・?」

 

「・・・・・そうか、あれから私たちは色々と会ったものだったからな。

忘れるのも無理はないか」

 

と、突然に顔の部分の鎧がシュカッ!と開いた。マスクが開けば中身が覗けた。

最初に目にしたのはシルヴィアの銀髪よりも濃く長い銀髪、というよりダークなカラーが強い。

それに引き込まれるぐらいの透き通った蒼い瞳の少女だった。

 

「・・・・・ん・・・・・?」

 

その少女の顔にどこかで見たことがあるような・・・・・。

顔のマスクを収納して顔を曝け出して彼女の顔をよく見詰めた。

 

「・・・・・懐かしい。昔のままだな一誠」

 

本当に懐かしそうに俺を見詰めてくる。だけど、何故だろう。俺も懐かしさを感じる。

 

「え・・・・・まさか・・・」

 

イリナが信じられないものを見る目で少女を見た。

白い全身鎧を着込んだ少女はゆっくりと俺に近づいてきた。

 

「一誠、私を助けてくれた唯一の男。ようやく、キミに再会できた」

 

「おまえ・・・・・・まさか・・・・・」

 

「思い出してくれたか?」

 

少女は嬉しそうに、笑みを浮かべた。その笑みは月がバックにしているせいで

幻想的に綺麗だったが、少女の話しを聞いて俺はようやく気付いた。こいつは―――!

 

「私は、ヴァーリ・ルシファーだよ。イリナ、そして一誠」

 

自分の名を告げた少女は籠手を装着したまま、俺の頬を触れた。

 

「あの時のお礼をしたい・・・・・」

 

そう言い、目の前の少女は―――――。

 

「ありがとう、私の大好きな男の子」

 

俺の唇に自分の唇を重ねてきたのだった。

 


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