ハイスクールD×D×SHUFFLE!   作:ダーク・シリウス

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Episode番外編

とある日、俺はベルを片手に家の裏―――広場にいた。

俺が立っている中心からランニングコース、花壇と設けられている。

寒い時期だから花は咲いていない。地面は若干、雪に覆われていて冬到来と実感させてくれる。

 

「さて、久々にいこうか」

 

「うん!」

 

「楽しみだな」

 

俺と同じくベルを片手に持っているイリナと同行するヴァーリ。

この二人と一緒にとある場所へと行くつもりだったのだが―――。

いて当たり前みたいに兵藤家、神王一家(父と娘)、魔王一家(父と娘)、兵藤家2、

機動六課、ナンバーズ、アザゼル、サーゼクス、五大魔王(四人)、

ヤハウェ、ガブリエル、ミカエルまでもが広場にいる。―――数多っ!

 

「で・・・・・何でお前らがいるんだよ」

 

「つれねぇことを言うなって一誠殿!俺たちも子供たちにプレゼントをする

手伝いをしたいだけだぜ?」

 

「うんうん、ロマンティックに煙突から入ってね!」

 

ユーストマとフォーベシイが朗らかに言う。

 

「・・・・・天界の方は大丈夫なのかよ?」

 

「ええ、視察、と言う名目で人間界に訪れましたので」

 

・・・・・職権乱用っぽそうだなぁ・・・・・・。

 

「機動六課メンバーはどうしてだ?」

 

「えと、ユーストマさまから誘われて・・・・・」

 

「ああ、いいよ。断わり切れなかったんだろう・・・・・なんだかすまない」

 

脳裏にユーストマが機動六課メンバーを誘う構図が思い浮かぶ。

 

「ナンバーズは?」

 

「私たちは魔王に誘われた」

 

「・・・・・」

 

楽しむなら大勢で、ってか?

 

「それにしても・・・・・こんな大勢で大丈夫かな」

 

「本職の仕事を手伝うから多分、大丈夫じゃない?」

 

「・・・・・まあ、どうにかなるかな。イリナ、始めるぞ」

 

ベルを掲げる。イリナもベルを掲げて共に大きく振るうと、

ベルから綺麗な音色がこの場を響かせる。

 

「なんて美しい音色なんだ・・・・・」

 

「惚れ惚れしますねぇ・・・・・」

 

「この時期だからこそ、かもしれないね」

 

周りが口々に言う。俺とイリナはベルを振り続ける。

しばらくして、俺とイリナの前の空間が一瞬の閃光を放つ。空間に光の切れ目が生じて、

何かが描かれていく。窺って見ているとそれは扉の形に成して、物質の無い空間の扉が完成した。

その扉には二つのくぼみがある。

 

「空間に扉が・・・・・?」

 

「これから行くところに直接繋がっている扉だ。イリナ」

 

「うん」

 

二つのベルを二つのくぼみに収めた瞬間に、空間の扉が開いた。扉から光が漏れ、

俺たちを照らす。懐かしい光景だ。イリナとヴァーリと一緒に扉を潜った。

―――扉を潜ると、そこに広がる光景に初めての皆は唖然とする。

 

ガタンゴトンッ!プシューッ!

 

機械的な音が聞こえる。辺りを見渡せば機械がこの場の空間を覆い尽くし、

赤と白の温かそうな服を着込んでいる、白い髪と髭の太った体格の初老の男性たちが忙しなく

動いている。

 

「お疲れさまでーす!」

 

いきなりイリナが叫びだした。すると、一斉に視線がこっちに集中しだした。

 

「おお、イリナちゃんか!一年振りだな!」

 

「今年もよろしく頼むよ!」

 

「綺麗な子に育ってきておるのぉー」

 

―――なんか、イリナが人気者だぞ。というか一年振りって?

そんな思いを籠めて視線をイリナに向けると

俺の気持ちに気付いたのか、イリナは説明してくれた。

 

「私、毎年サンタさんのお手伝いをしているの。だからサンタさんたちとは親しいのよ」

 

「そうなんだ。じゃあ、俺のこともすっかり忘れているだろうな」

 

寂しい気持ちが少し感じる。が、今はサンタさんのお手伝いだ。

と、そんな気持ちでいると、向こうから一人のサンタさんが来てきた。

 

「あっ、代表!」

 

「やあ、イリナくん。待っていたよ。今日は随分と・・・・・って、神さまぁっ!?」

 

『ナ、ナンダッテーッ!?』

 

あ、この人は久し振りだな。このサンタクロースたちの代表ともいえる人だ。

サンタクロースにはアザゼルのような堕天使を束ねる総督、

悪魔を束ねる魔王―――みたいな存在はいない。皆、世界中の子供たちに

プレゼントを配るという使命を全うするために存在している。

クリスマスが過ぎれば、人間界で正体を隠してほのぼのと寒い国に住んでいるらしい。

そして、教会の行事であるため、神であるヤハウェの存在がとても大きい。

 

「お仕事ご苦労様です」

 

「い、いえいえ!滅相もございませぬ!

で、ですが・・・・・どうしてここにおられるのですか?我々の仕事に何か不備でも

ございましたでしょうか・・・・・?」

 

「いえ、今日は私も子供たちにプレゼントを配ろうかと思いまして。

ほら、この子―――兵藤一誠くんと紫藤イリナさんと一緒に」

 

「兵藤一誠・・・・・?」

 

ヤハウェの言葉に、紹介された俺を代表がジィーと見つめてくる。

 

「・・・・・もしや、兵藤誠と兵藤一香の子供でしょうか?」

 

「ええ、そうです」

 

「おお・・・・・随分と変わった成長をしていますな。

言われるまで誰なのか分かりませんでしたぞ」

 

代表が俺の頭をポンポンと優しく撫でてくる。

 

「キミが来なくなってから、イリナくんは一人で手伝いに来てくれていた。

キミのことをイリナくんに訊くと何だか寂しげな表情をするもんでな。

敢えて聞かなかったが・・・・・キミを見ると大変な思いをしていたようだね」

 

代表・・・・・今の俺を気付いたのか?

 

「神さま、悪魔と堕天使もおるようですが、この者たちもですか?」

 

「お願いできますか?悪魔と堕天使は友好的に交流関係を結んでおりますので」

 

「分かりました。では、世界中に配るプレゼントが準備でき次第手伝ってもらいましょう」

 

代表はパンパンと手を叩いた時、俺たちの服が光に包まれ、

光が弾いた瞬間にサンタクロースの服に変わった。頭にはちゃんと帽子もあった。

 

 

 

そして、その時が来た。大きなソリに複数の袋が置かれていた。

そのソリに繋がれている真っ赤なお鼻のトナカイさんがいた。代表は俺たちにこう告げた。

 

「全部プレゼントを配り終えるまで、ここには帰ってこれない。

イリナくんとイッセーくんは何度も体験しているから分かっていることだと思うが、

決して子供たちに怖がらせてはならないよ。見つかってもだ」

 

プレゼントを配る場所はトナカイが連れて行ってくれる。プレゼントを配る基準は

純粋な願いが強い子供。稀に大人にも配るそうだ。基本的にサンタクロースは大勢で、

一人で世界中を移動してプレゼントを配る。今回は三人一組で世界中に配る。

ので、俺は―――イリナとヴァーリとユーストマが考案したくじ引きで行った結果こう決まった。

 

「幼馴染パワーが発揮したわっ!」

 

イリナは嬉しそうに笑顔を浮かべた。

 

「・・・・・私も、いっくんと幼馴染なのに・・・・・」

 

逆に悠璃が頬を膨らませて俺の腕にしがみ付く。

 

「帰ったら、いっぱい甘えて良いから今は我慢してくれ」

 

「・・・・・分かったよ」

 

俺から離れてくれたことで、くじで決まったメンバーがそれぞれのソリに乗っていざ出発。

俺を真ん中にしてイリナとヴァーリも座り、俺たちも出発。

 

―――○●○―――

 

俺たちがプレゼントを配るところは―――なんと、日本だった。

トナカイはプレゼントを渡す家に移動しては停止して、俺たちは静かに家へ忍び込んで寝ている

子供の横にプレゼントを置くと繰り返して日本中を飛び交う。

 

「次はここのようだ」

 

「・・・・・ここって川神院よね・・・・・」

 

「さ、最難関・・・・・」

 

武の総本山とも言われている川神院に住む川神家・・・・・。

 

「気の扱いが長けている一族の家に止まるなんて・・・・・これ、なんの罰ゲームだよ?」

 

「取り敢えず、プレゼントを渡さないことには終わらないわよ」

 

「・・・・・だな」

 

袋を担いで、歩を進める。念のために気配を消して川神院へ侵入する。

二人は表で待機だ。

 

「・・・・・」

 

無機物の中で移動し、プレゼントを渡す人物へと進む。

 

「・・・・こいつか」

 

いざ、川神院のとある一室に侵入すると、その部屋に寝ている少女を見下ろす。

 

「うーん・・・・・お姉さまぁ・・・・・」

 

確かに、こいつは純粋に間違いないな。穢れなんてない心の持ち主だ。

おっ、お約束の靴下を発見。中は・・・・・やっぱ、願い事が書いてある紙があったな。

・・・・・なになに?

 

『お姉さまのようなバインバインになれるものをください』

 

「・・・・・」

 

お前・・・・・それは儚いだろう・・・・・。俺は可哀想な子を見る目で見つめた後、

袋からプレゼントの箱を取り出して傍に置いた。よし、終わった。

 

「帰ろう」

 

「―――帰らすと思ったか?」

 

「っ!?」

 

刹那。俺は誰かの手によって吹っ飛ばされた。壁に激突せず、すり抜けて外へと出た。

 

「お、起きていたのかよ・・・・・!?」

 

唖然と眼前に目を向けると、ひとつの影が現れた。

 

「なーんか、外に大きな気が感じて目が覚めたら・・・・・ははっ、これはどういうことだ?」

 

赤い双眸が煌めく。夜の外に黒い長髪が揺れる。そいつは真っ直ぐ俺に飛び掛かってきた。

 

「目の前にサンタの格好をした一誠がいるじゃないか!」

 

「川神・・・・・百代!」

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

寝間着姿で襲いかかる川神百代。深夜にも関わらず、あいつは俺に戦いを挑んでくる。

 

「川神流、無双正拳突き!」

 

「悪いな―――。お前の相手をする暇はないんだよ」

 

赤く瞳を煌めかせ、川神百代を停止させた。

拳を突き出す姿勢で停止した川神百代の横を通り過ぎる。

 

「いずれ、お前の所に顔を出す。じゃあな」

 

 

 

 

「お帰り、遅かったね」

 

「川神百代に襲われた。ある意味肉体的な意味で」

 

「えええっ!?」

 

「まっ、停止させたから大丈夫だ。次に行こう」

 

 

―――○●○―――

 

 

数時間という時間を掛けて全てのプレゼントを配り終えた。

俺たちが戻る頃には他の皆が楽しげに雪だるまやかまくらを作っていた。俺たちも交ざり、

まだ帰ってきていない皆を待つことにする。

 

「イリナ、今年は何がなんでもあのサンタさんを倒してプレゼントを奪うぞ」

 

「そうね。あの箱の中身が気になってしょうがないわよ」

 

幼い頃からの念願。何故だか、あのサンタさんだけは他のサンタさんとは違う。

その理由は今でもよく分からない。

 

「なあ、二人とも。そのサンタクロースは本当に翼を生やしているのか?」

 

ヴァーリが疑問をぶつけてきた。イリナと一緒に頭を縦に振る。

 

「そうよ?翼で私たちの雪玉を弾いて勝負にもならないわよ」

 

「あれって卑怯だよな。当たるわけ無いし、

『当てたかったらもっと力をつけろ』ってバカにするしさ」

 

「でもでも、今の私たちなら絶対に当てれるわ!」

 

グッ!と両手を強く握りしめて意気込むイリナに相槌する。

 

「・・・・・見たところ、他のサンタクロースに翼を生やしている者はいないぞ?」

 

「そう言われてもなぁ・・・・・」

 

「ねぇ・・・・・?」

 

顔を見合わせて小首を傾げる。建物の中を窓ガラス越しで覗けば、

翼を生やすサンタさんの姿はいない。

 

「おう、お前ら。そっちも終わったんだな」

 

背後からアザゼルの声が聞こえてくる。

振り返れば、サンタクロースの格好をしたアザゼルが佇んでいた。

 

「うん、全然似合わないな。浴衣のほうが似合っていたのに」

 

「自覚してるぜ。ユーストマだって浴衣のほうが動きやすいってぼやいていたほどだ。

だが、これが正装だから仕方ない」

 

「他の皆は?」

 

「何チームかはまだだな。んで、お前と紫藤イリナはサンタさんと戦ってプレゼントを

奪うような話をしていたが、どいつなんだ?そのサンタさんはよ」

 

そう言われ、建物の中を覗きこんで探す。・・・・・いないな。

 

「建物の中にはいないようだ。イリナ、毎年あのサンタさんと戦ってた?」

 

「ううん、していないわ。何度か会ったけど、私だけじゃ勝てないから・・・・・」

 

そうか。イリナの話だとまだいるみたいだな。そこは安心した。

 

―――ゴッ!

 

「いでっ!?」

 

「へっ!?」

 

俺の頭になんか、硬い物がぶつかった。涙目で頭を擦りながら辺りを見渡す。

 

「なんだ・・・・・?」

 

「えっと・・・・・これ」

 

イリナが手の中にある物を見せてくれた。くしゃくしゃな白いものだ。

でも、良く見れば何かを包んだ紙だった。それを取って紙を開くと、石が入っていた。

しかも紙には文字が記されている。日本語だ。

 

『裏で待っている』

 

と、しか書かれていない。裏・・・・・ああ、あそこか。

 

「イリナ、裏にいるって」

 

「裏って・・・・・あっ、あそこね!」

 

ポンと手を叩いて何かの意図に気付くイリナ。

 

「裏ってのは?」

 

アザゼルが腕を組みながら訊いてくる。

 

「いつもサンタさんと戦っている―――裏山のほうだ」

 

「・・・・・なんで裏山なんだよ?」

 

さあ、いつもあそこだったし。皆が戻ってきたら裏山へ行こう。

 

 

 

 

それからしばらくして、全員が集まると、裏山へ移動した。

大量の雪で積もった山は白銀の世界を作りだしていた。イリナと共に馴染みのある町のように

迷うこともなく目的地へと到着した。

そこには一人の初老のサンタさんが腕を組んで佇んでいた。他のサンタさんとは違い、

白い髪と髭じゃない。真逆の色、黒だ。髭なんて生えてすらいない。

 

「・・・・」

 

あのサンタさんは黒い双眸を俺とイリナに向けてくる。

 

「お久しぶりです!」

 

「久し振りだな。サンタさん」

 

イリナと共々、挨拶をする。だけども、サンタさんは無言で目だけ動かしている。

俺とイリナ―――じゃない、俺たちの背後にいる面々に。あれ、もしかして連れて来ちゃ

いけなかったのか?そう思っていると、後ろから驚愕の声が聞こえてきた。

 

「おい・・・・・こいつは夢を見ているのか・・・・・?」

 

「まさか・・・・・」

 

「なんで・・・・・こんなところに・・・・・?」

 

なんだか、この雰囲気・・・・・物凄く知っているぞ。

 

「―――ずいぶんと、懐かしい者たちを引き連れたな」

 

静かに、感情が籠っていない声音を漏らしたサンタさん。

刹那、巨大な光の槍がサンタさんに突き刺さった。

 

「アザゼル!?」

 

「黙って見ていろ」

 

アザゼルが真剣な面持ちで口を動かした。サンタさんの方へ視線を戻せば、アザゼルの光の槍が

粉々に砕けた。その光景を見てアザゼルは唸った。

 

「てめぇ・・・・・やっぱりお前かよ・・・・・っ」

 

「若造が。俺に傷をつけることなど未だに不可能のようだな」

 

「ちっ!イッセーには色々と驚かされたが、今はそれ以上に驚かされているぜ!

―――なんで、生きていやがる!?サタン、いや前魔王ルシファーッ!」

 

・・・・・ルシファー・・・・・?

ルシファーって・・・・・現魔王のルシファーとリゼヴィム、

ヴァーリ以外のルシファーって言えば・・・・・前魔王のルシファーぐらいしか知らないぞ?

そのルシファーが目の前にいる・・・・?

 

「お、お父さま・・・・・?」

 

「・・・・・久しいな。我が娘よ」

 

ルシファーが娘!?ということは、本当に前魔王ルシファー!?

 

「彼が・・・・・私の・・・・・曾お祖父さん・・・・・なのか・・・・・?」

 

ヴァーリが唖然としている!

 

「・・・・・イッセーくん。私たちって物凄くとんでもないヒトと会っていたんだね」

 

「みたい、だな。俺、全然知らなかった」

 

イリナも呆然として、俺も驚きで思考が停止しかけた。

 

「ルシファー・・・・・どうしてキミがここにいるんだい?

あの時、キミは確か死んだはずだよ」

 

「久しいな、フォーベシイ。ああ、確かに死んだな。あの二天龍との激闘の末に。

だが、俺は甦った。あの男と女の手によってな」

 

「・・・・・誠と一香か」

 

アザゼルは目を細めた。あの人たちかー。ああ・・・・・そんなことができそうだ。

 

「その際、俺は力の殆どを失った。以前のような力は振るえんよ」

 

「俺の一撃を無効化した奴がなに言っているんだよ・・・・・」

 

「ふん、それぐらいの力は残してあるし新たに力を付けている最中だ。

いずれ、冥界に戻るつもりだ」

 

「今は・・・・・戻らないのかい?」

 

問うフォーベシイ。前魔王は俺とイリナに顔を向ける。

 

「そいつらが俺に勝てるまではこの場から動くつもりはない。

それにあのサンタどもの酒は美味いからな」

 

それを聞いてアザゼルとルシファーが嘆息した。

 

「それが大きな理由だろう絶対」

 

「お父さまは・・・・・無類の酒好きだったわね・・・・・」

 

そこへ、レヴィアタンが口を開いた。

 

「あの、私たちの父も甦っているのですか?」

 

「ふむ、レヴィアタンの娘だな?―――ああ、俺だけじゃなく、

アスモデウス、ベルゼブブ、レヴィアタンも力の殆どを失いながらも甦っている。

ただし、四方に散らばって今にでもどこかで生きているだろうよ」

 

「―――――っ!」

 

レヴィアタンが歓喜で目を見開いた。

 

「どうして、甦ったのですか?」

 

「アスモデウスの娘。それは俺を甦らせた張本人どもに聞け。

今は生きているか死んでいるか知らんがな」

 

父さんと母さんのこと、知らないんだ・・・・・。

 

「では、私たちの父がどこにいるか分かりますか?」

 

「さてな。一応連絡は取れている。ただし、居場所は教えれん。あの人間共との約束だからな」

 

「・・・・・そうですか」

 

「―――東西南北」

 

・・・・・なに?

 

「俺がこの場にいる北の他に、他の魔王は北以外の方角のどこかにいるはずだ。

悪魔の寿命は長い。暇つぶしに探し続けばいつか見つかるもしれんな」

 

「・・・・・分かりました」

 

敢えて、具体的な居場所を教えないか。それでもレヴィアタンたちにとって良い朗報だと思う。

 

「さて、久方ぶりに始めるとしようか」

 

前魔王が指を弾いた。あのヒトの背後に魔方陣が出現して巨大なプレゼントが出てきた。

―――アレだ!アレが俺とイリナが欲しがっている巨大なプレゼント!

 

「よし、勝つぞ。イリナ、ヴァーリ」

 

「ええ!」

 

「そうだな」

 

「ほう?今回は三人で来るのか?しかも、その娘は・・・・・悪魔だな?」

 

前魔王がヴァーリに関心を持った。ヴァーリが口を開く。

 

「初めまして。私はヴァーリ・ルシファー。あなたの息子のリゼヴィムの孫です」

 

「リゼヴィム・・・・・ふふっ、あのバカ息子に孫がいたとはな。

―――これは嬉しい出会いだ。ルシファーの血は未だ絶えていないことに俺は安心した」

 

あのヒトが初めて笑みを浮かべた。

 

「はい。私もあなたに出会えて嬉しい限りです。

もしも、あなたを越えれば、リゼヴィムを越えたということになるんですからね」

 

「俺を超えるだと?くくくっ!まだまだ十数年しか生きていないだろう

小娘が―――咆えてくれるわ!」

 

と、前魔王が叫んだ。それだけで周囲の雪を吹き飛ばし、

俺たちのところにまで衝撃波が伝わった。

 

「元魔王として俺たちの力を見せてくれる!」

 

「俺たち・・・・・?」

 

疑問が浮かんでいると、前魔王が雪が無くなった地面に手をつけて三つの魔方陣を出現させた。

 

「来い!我らの力を見せつけようぞ!」

 

―――三つの魔方陣の光が弾いた。光と共に・・・・・見知らぬ初老の男性が現れた。

 

「あーっ!?」

 

「嘘・・・・・こんな早く・・・・・?」

 

「・・・・・」

 

レヴィアタン、アスモデウス、ベルゼブブが開いた口が塞がらないでいる。

どうしてだ?と思っていれば、

 

「おいおい・・・・・本当に甦っていやがるよ。

フォーベシイを含めた前五大魔王が揃いやがった」

 

「昔の戦争を思い出しますわね・・・・・」

 

アザゼルとヤハウェが硬い笑みを浮かべる。

 

「おおー、我が娘がいるではないか!」

 

「ふふっ、それだけではないようだ。神に天使長、堕天使の坊主がいる」

 

「また、あの時のように戦争をするのかな?」

 

フォーベシイを除く前五大魔王が現れたぁぁぁぁぁっ!?

 

「んで、ルシファー?俺たちの力を見せるつって、どいつにだ?」

 

「我が息子の孫とあの二人の少年と少女にだ」

 

「おっ、お前の息子に孫ができたのか!そいつは愉快だな!

あのやんちゃな坊主が子を成していたとはな!」

 

「だが、あの少年・・・・・人間ではないな?力の波動が凄まじいぞ」

 

「ふむ。そうだね・・・・・キミ、名前は?」

 

と、前魔王に問われて・・・・・緊張気味で名乗った。

 

「イッセー・D・スカーレット。前の名前は兵藤一誠」

 

「兵藤・・・・・?」

 

「まさか、兵藤家の者か?」

 

「それだけではない。俺たちを甦らせたあの人間の子供だ」

 

ルシファーの父親が俺のことを教えた途端に、

 

「「「はぁぁあああっ!」」」

 

いきなり前魔王三人から魔力弾を放たれたっ!しかもすごそうな威力!

幻想殺しの籠手(イマジンブレイカー)』で魔力を無効化して叫んだ。

 

「いきなりなに!?」

 

あのヒトたちは悪びれた様子もなく答えた。

 

「いやー、すまんすまん。あの人間どもには勝手に甦らせたかと思えば、

勝手に散り散りにさせられたからな。つい、イラっときてしまった」

 

「仕舞いには力の殆どを失ってしまったから。魔王としての力を再び得るために

修行を励む羽目になった」

 

「まあ、生き返ってめっけもんだと思っているけど・・・・・」

 

「「「やっぱり、一度あの人間たちをぶん殴らないと気が済まない!」」」

 

魔力を迸らせてハモって断言したよ!

 

「それが、あいつらの子供だと知れば―――」

 

ルシファーの父親が三人の元魔王と肩を並び―――。

 

「愉快に攻撃をしたくなるに決まっているだろう?

今のお前ならば、雪遊びではなく実戦ができるはずだ」

 

四人揃って、何故か俺を集中的に攻撃をし始める!

 

「イッセーくんは守るよ!」

 

「そして、勝ってみせる!」

 

「いくぞ、二人とも!」

 

             ―――禁手(バランス・ブレイカー)!ッ―――

 

イリナとヴァーリがそう叫んだ。俺はオーフィスとガイアに

「呪文だ!」と共に戦おうと促した。

 

「我、夢幻と龍神の子の者なり」

 

「我、夢幻を司る真龍『真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)』グレートレッドなり」

 

「我、無限を司る龍神『無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』オーフィスなり」

 

呪文を呟き続けるなり俺とガイア、オーフィスの全身が光り輝く。

 

「我は無限を認め、夢幻の力で我は汝を誘い」

 

「我は夢幻を認め、無限の力で我は汝を葬り」

 

光の奔流と化となったガイアとオーフィスが俺に向かってくる。

 

「我らは認めし者と共に生く!」

 

「我らは認めし者と共に歩む!」

 

2人の呪文の後に俺も呪文を唱えた。

 

「我は夢幻を司る真龍と無限を司る龍神に認められし者。

我は愛すべき真龍と龍神と共に我等は真なる神の龍と成り―――」

 

「「「我等の力で全ての敵を倒す!我等の力で汝等を救済しよう!」」」

 

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!

 

光に包まれ、眩い深紅と黒の閃光が辺り一面に広がっていく。そして、閃光が止んだ時。

周りから見れば、俺は深紅と漆黒の二色のドラゴンの姿を模した全身鎧(プレート・アーマー)

立派な角が生えた頭部、胸に龍の顔と思われるものが有り、

特に胸の龍の顔は意思を持っているかのように金と黒の瞳を輝かせる。

瞳は、垂直のスリット状に黒と金のオッドアイになっていて、

腰にまで伸びた深紅と黒色が入り混じった髪をしている。

 

「グレートレッドと・・・・・オーフィスだと!?」

 

「真龍と龍神が一つとなって・・・・・」

 

「あの子供の力となったのか・・・・・!?」

 

「信じられない・・・・・あの不動と無限が・・・・・有り得ない!」

 

前魔王たちが絶句、混乱している。古から存在していたあの悪魔たちにとって

信じられない光景なんだろうな。イリナとヴァーリの肩に触れ、力を譲渡する。

 

「―――力が増幅した。我らの力と同様・・・・・いや、それ以上か!?」

 

「それよりも、ルシファーの息子の孫から龍の力を感じ、

白い龍のような鎧を纏っているが・・・・・まさか白龍皇か?」

 

「あの少女は天使なのか・・・・・?青白い天使とは聞いたことないが、いずれにせよ」

 

「油断は―――!」

 

前魔王が言いかけた瞬間。懐に潜り込んで一撃を与えた。

 

ドンッ!

 

「ッッッッッ!?」

 

一人の前魔王が目を見開いたまま、悶絶をして膝をついた。

 

「アスモデウス!?」

 

「今の俺は無敵に近い」

 

手を一人の前魔王に開いた。

 

「力を失った魔王とはいえ、俺が負けることは絶対に―――ない」

 

魔力の波動を放って、さらに前魔王の一人を倒した。

 

「レヴィアタンまでもが・・・・・!」

 

「後の二人は任せるよ。―――ヴァーリ、イリナ」

 

「ええ!」

 

「ああ!」

 

イリナとヴァーリが残りの前魔王に飛び掛かる。力を譲渡した上に、二人の神滅具(ロンギヌス)は強い。

以前の力がない今の前魔王たちは―――いい勝負するだろうが、最後は敗北するだろう。

 

―――○●○―――

 

「念願のプレゼント、手に入れたわぁっ!」

 

「中身はなんだろうなー」

 

「開けてみよう」

 

『・・・・・』

 

周りが可哀想な物を見る目で四人の前魔王を見ている間に、

俺たちは巨大なプレゼントの紐を解き始める。十年間の念願がついに叶った!

 

「・・・・・ん?」

 

「あれ・・・・・また箱?」

 

開けたらまた箱。この中にあるのか?と思い、二人と一緒に箱を開けると―――。

 

「また箱だ」

 

「・・・・・なーんか、お約束な展開のような・・・・・」

 

また箱を開けると、また箱だ。さらに開けるとまた箱だ。さらに―――箱だ。

 

「燃やして、いい?」

 

「ダ、ダメよ!根気よく開けてみましょう?」

 

「これで何もなかったら・・・・・あの悪魔どもをこいつで火炙りにしてやる」

 

俺は指を弾いて四つの炎の十字架を発現した。

 

「こ、これって・・・・・」

 

「ヴァルブルガの『紫炎祭主による磔台(インシネレート・アンセム)』だ。

俺の場合、紫炎じゃなくて黒炎だけどな」

 

ジロリ、と前魔王たちに尻目で見れば、冷や汗を流しているのが窺えた。

それから根気よく箱を開け続けること十数分。巨大なプレゼントは手の平サイズの箱にまで

小さくイリナとヴァーリと一緒にその箱を開けた。

 

「・・・・・これは」

 

五つの指輪が箱に収まっていた。銀色で装飾が凝った指環だ。

 

「魔力が込められているな」

 

「大きさが一緒だわ。どうしてなのかしら?」

 

「―――――それは、兵藤誠と兵藤一香が俺に渡したものだ」

 

前魔王ルシファーが説明をする。

 

「あいつは言っていた。『息子に五人の少女の幼馴染がいる。

きっとその子たちに渡せば喜んでくれる』とな」

 

「五人?私とヴァーリ、悠璃さんと楼羅さんの他にイッセーくんに幼馴染がいるの?」

 

「イッセー、そいつは誰なんだ?」

 

イリナとヴァーリに問われた。最後の一人の幼馴染・・・・・。

俺は夜空を見てポツリと呟いた。

 

「あいつか・・・・・元気にしているかな?」

 

「「っ!」」

 

ガシッ!

 

「ん?」

 

「「その幼馴染は・・・・・女の子?」」

 

何か真剣な顔で問われた。俺は最後の幼馴染の顔を浮かべる。

 

「うーん・・・・・まだ子供だったからな。分からないや」

 

「そ、そうなんだ・・・・・」

 

「何度か会ったぐらいだし、俺を嫌っていたしな」

 

「え?なんで?」

 

そう言われても・・・・・頬をポリポリと掻いた。

 

「『こっちにくるな!』って顔を赤くして殴ってきたり物を投げてきたりしてくるんだ。

俺、何もしていなかったんだけど・・・・・」

 

「「・・・・・」」

 

何か言いたげな顔をする幼馴染の二人。

ふと、前魔王ルシファーを残して他の三人の前魔王が魔方陣で姿を消した。

 

「さて、俺も帰るとしよう。この後、約束があるのでな」

 

「お父さま・・・・・」

 

「娘よ。成長したお前の姿を見れて俺は嬉しいぞ。それと冥界の事情と今騒がしている

バカ息子の話もな。俺は何も手助けする気はないが、現在の冥界はお前たちの世代に任せる。

いつか冥界に帰ったらゆっくりと親子水入らず話をしよう」

 

「・・・・・はい」

 

ルシファー一家の話はそれで終わった。前魔王が魔方陣を展開してどこかへ転移しようとする。

 

「小童」

 

「お、俺・・・・・?」

 

「ああ、お前だ。真龍と龍神を手懐ける存在が現れるとは驚いた。

だが、強大な力を振るい過ぎて自分が孤立しないよう気を付けることだ。

例え、その力を得る理由はどんなことでもだ。周りに畏怖されては元も子もないからな」

 

今度はヴァーリに視線を向けた。

 

「ヴァーリ。ルシファーと名乗るからにはルシファーの名に恥じない生き方をしろ。

俺から言うことはそれだけだ。リゼヴィムをどうこうしようがお前の自由だ」

 

「はい、そのつもりです」

 

「・・・・・まったく、今世の者たちはかなり逸脱している。特に若い世代は―――」

 

魔方陣の光が弾け、溜息混じりに最後まで言い切ることはできなかった前魔王が姿を消した。

 

「それについては同感だぜ、前魔王ルシファー。

こいつらは、俺たちの正直を上回る成長速度をする」

 

アザゼルまでもが同意する。

 

「でも、それがいいじゃねぇか!」

 

「そうだね。その強さは純粋に何かを守るために振る舞われているならば、

私たちはただ見守るだけだよ?」

 

「・・・・・約一名、危ない子はいますけど」

 

「大丈夫だ。彼は良い意味で悪い意味で純粋な子だからね」

 

後半は絶対俺のことだろう。まあいい。どうでもいい。

 

「はい、ヴァーリ」

 

「イッセー?」

 

「あの前魔王ルシファーから頑になってもらえなかったプレゼントだ。

俺とイリナはこのプレゼントをどうしてもヴァーリに渡したかったんだよ」

 

「―――――」

 

ヴァーリは目を見開いてイリナと俺を交互に見る。そんな彼女にイリナと微笑む。

 

「これで、ようやくヴァーリに最後のプレゼントを渡せたな」

 

「待たせてごめんなさいね。でも、最後は三人で戦って勝ち取ったプレゼント!

この日のことを私は忘れはしないわ」

 

一つの指環をヴァーリに、もう一つの指環をイリナに渡す。後で悠璃と楼羅にも渡そう。

 

「さて、帰ろう。俺たちの家に」

 

「うん!」

 

「うん・・・・・二人とも」

 

「「・・・・・?」」

 

「―――ありがとう―――」

 

その時、咲く花のようにヴァーリが笑った。それは幼少の頃以来の笑みだった。

俺は笑みを浮かべ返事をした。どういたしましてと―――。


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