ハイスクールD×D×SHUFFLE!   作:ダーク・シリウス

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Episode13

 

 

―――エルザside―――

 

ルーシィとナツとグレイ、ハッピーと共にこの国の王がいる場所を街の人たちから聞きながら、長い時間を掛けてようやく宮殿に辿り着いた。イッセーたちは何時も通り私たちの王の謁見が終わるまで別行動だ。

 

「私たちはロマリアの依頼でダンジョンの攻略の許可を得ている。

攻略する前に、この国と王族と挨拶と攻略の許可を得たい。通してくれ」

 

と、門番に乞うたが・・・・・。門番の口から思いもしない言葉が出てきた。

 

「ダメだ。不審な輩に神聖アルビオン共和国の神聖皇帝と謁見など許されん」

 

「神聖アルビオン共和国?神聖皇帝?このアルビオンはアルビオン王国で、

アルビオン王家が統治していたはずだが?」

 

私たちがくる前に名前と王が変わっていたことに訝しんだ。

宮殿の門番は嫌な笑みを浮かべこう言った。

 

「無能な王族たちは新たな光であるレコン・キスタにより滅ぼされたのだ。

そんな古めかしい名と王はすでに存在しない」

 

「では、あの塔の管理は一体誰がしている?

ここに来る前に見てきたら、扉が開きっぱなしだった。この国の民がもしも間違って

入ってしまったら二度と外に出られないのだぞ?この国の塔の管理はどうなっているのだ?」

 

「平民の命など知ったことではない。我らは聖地奪還という重大な任務があるのだ」

 

―――――聖地奪還・・・・・。

 

「始祖の秘宝を手に入れる準備はすでにできている。現在、神聖皇帝の協力者たちが

塔の中にいるのだ。貴様らがあのダンジョンを攻略する意味もない。早々に立ち去れ」

 

「・・・・・」

 

失礼だが、この国の魔法使いたちではとても攻略できるとは思っていない。

なのに、私たちを抜きで攻略に臨んでいるとは・・・・・。踵を返して歩を進める。

 

「彼らのところに戻ろう」

 

「いいのかよ?」

 

「会えないのであればしょうがない。それに・・・・・」

 

足を停めて、後ろに佇む宮殿を見上げた。

 

「この国の様子が少しばかりおかしいようだ」

 

―――一誠side―――

 

「王と会えなかった?しかもすでに塔を攻略している最中って・・・・・」

 

エルザ・スカーレットたちが戻るや否や、呆れた話を聞かされた。

とある店の中で昼食と料理を食べている。

 

「ああ、今までなかったことだ。王の謁見ができないどころか、攻略の必要がないと言われる。

その上、何時の間にか王が変わっている様子だったぞ」

 

「ナヴィ、前王って誰だ?」

 

「えっと・・・・・ジェームズ一世よ。家族関係はウェールズ・デューダーという息子がいて、

王に弟がいたわ」

 

王に弟がいた、そのナヴィの口から出た瞬間にティファニアが顔を曇らせた。

・・・・・どうしてだ?

 

「しかもだ。始祖の秘宝を手に入れて聖地を奪還するとか言っていたぜ」

 

「はっ?ここもなの?まったく・・・・・ふざけんじゃないって話だわ・・・・・・」

 

グレイ・フルバスターの話を聞いた途端に、

グチグチと文句を零して不機嫌な顔になるルクシャナ。

 

「ねえ、これからどうするの?必要ないって言われたんじゃ、

私たちは行く必要ないんじゃないの?」

 

「いや・・・・・イッセーから聞いた話では、始祖ブリミルとやらの子孫の一人が

このアルビオンの王族だと言う。そして、その秘宝を渡すに相応しい存在は

その始祖の子孫か王族の関係者だ」

 

「その王族が全員何らかの理由で変わっているとなると・・・・・とても、

今の王族は良心的な考えを持った人間ではないと私は思う」

 

「じゃあ・・・・・」

 

皆の視線はエルザ・スカーレットに向く。彼女は重々しく頷いた。

 

「私たちも行くぞ。始祖の秘宝については・・・・・イッセー、お前が持ってくれるか?」

 

「そのつもりだ。全部揃わないと意味がないんじゃ、そうしないとな。

ルクシャナの故郷を守るためにも」

 

話は決まった。そう思ったその時だった。

 

「―――あっ、丁度良かった!知り合いがいたっす!」

 

この声は・・・・・。店内を見渡せば、こっちに近づいていくる青年がいた。

 

―――○●○―――

 

「いやー、ありがとうございました。お金が足りずどうしたらいいのかと

困っていたところにだったんですよね、はい」

 

「お前な・・・・・・」

 

俺が溜息を吐く原因である目の前の青年、デュリオ・ジェズアルド。

まだハルケギニアにいたのか。

 

「最悪、食い逃げでもしようと考えていたところでした」

 

「天界の重要な立場にいるあなたが食い逃げなんて・・・・・」

 

ナヴィが呆れ顔で溜息を一つ。

 

「お前、まだいたんだな?」

 

「やることがないっすからね。暇なときは必ずグルメツアーみたいなことをするんっす」

 

こんな奴が二番目に強い能力を宿しているなんて・・・・・神の悪戯にしては

お粗末ではないか?

 

「今回のお礼に俺もダンジョン攻略とやらを手伝います。いいっすか?」

 

「お前も加わると、もはや何が出て来ても怖ろしくないな」

 

「んじゃ、よろしくお願いしますねぇ」

 

互いに握手を交わし、新たに仲間になったデュリオ・ジェズアルドを迎えた。

―――塔の目の前で。

 

「それでは、私たちも塔の攻略に行こうか」

 

エルザ・スカーレットの問いに俺たちは頷いた。そして―――塔の中へと侵入する。

 

ゴボ・・・・・ッ。

 

『・・・・・っ!?』

 

刹那。俺たちは―――水の中にいた。俺たちが出た先が水の中だと誰も思わなかった。

水の中は酸素がない。

俺たちは驚きのあまりに目を丸くしてゴボゴボと酸素を吐いてしまった。

必然的に呼吸困難と陥り、いずれ水の中で溺死となる。

 

「(こんなところで死んでたまるか!)」

 

金色の錫杖を虚空から出して能力を発動する。水中にどこからともかく酸素の塊を集め

、空気の玉へと成せば、今度は魔方陣を展開して水を操り、皆を空気の玉の中へと入れていく。

 

「(やば・・・・・酸素が足りねぇ・・・・・・)」

 

意識が遠のいていくが自覚する。皆が空気の玉の中で何か言っているのが分かるけど、

声が聞こえない。

急いで皆のところに泳ごうとした時だった。突如発生した激しい水流に俺は抵抗ができず、

皆と離れてしまった。

 

「(ちょっ、こんなのってないだろぉぉぉぉっ!?)」

 

―――ルクシャナside―――

 

「イッセー!」

 

彼が水流に逆らえず私たちから離れてしまった。追いかけようにも、

私たちを包んでいる空気の塊も彼と正反対の方向へ流されてしまっている。

 

「イッセーを助けないと!」

 

「ダメだ・・・・・流れの勢いが速い!」

 

「だったら、私の精霊で!」

 

蛮人が金色の鍵を手にした。

 

「開け、水瓶宮の扉!アクエリアス!」

 

鍵が光り輝き、水の中で煙が発生したと思えば、水色のオールバックに上半身が蛮人の

体で下半身が魚みたいな体、青い髪をオールバックにして水色の壺を抱えていた。

 

「アクエリアス!向こうに流されたイッセーを連れて来て!」

 

「ちっ、デートの途中だったのに呼び出されたかと思えば人助けかよ。しゃーねーな」

 

な、なんか・・・・・口の悪いわねアレ。

でも、蛮人の願いを聞くためにイッセーが流れてしまった方へ泳いでいった。

 

「これで、なんとかなったかも・・・・・」

 

「後の問題は・・・・・私たちはどこまで流されていくのかだな」

 

・・・・・そうね。空気の塊の中でいられるから何とかいられるけど、

何時までもこうしていられるとは思えない。

 

「もしものことが起きたら、私とお姉さまの魔法で水の中を進めるようにするわ」

 

「ええ、お願いするわ」

 

そしたら、私も精霊の力で水の中でも呼吸ができるようにしなきゃね。

 

「イッセーは大丈夫だ。あいつは強いからな」

 

堕天使がいきなりそんなことを言う。でも・・・・・やっぱり心配だわ。

 

―――一誠side―――

 

「ふう・・・・・溺死なんて、嫌な死に方をしそうだった」

 

あれから遠くに流された俺は、空気の塊を作りだして難を逃れた。

今は海面でプカプカと泳いでいる。

 

「さて・・・・・ここは海のようだな。皆の気の探知ができやしない」

 

そもそも、どうやって攻略すればいいのか分かりもしない。

今までより難易度が高いような気もする。

 

「・・・・・」

 

海面でのんびりと揺らいでいると、俺の傍で海面から何かが顔を出す。

 

「よーやく見つけたぞゴラ」

 

「・・・・・誰だ?」

 

「あ?あの餓鬼の精霊のアクエリアスさまだ。覚えておけ」

 

精霊?ルーシィ・ハートフィリアの精霊なのか?

 

「おら、さっさと私について来い。こっちは彼氏を待たせているんだからよ」

 

「あー、何かごめんなさい。お楽しみのところを邪魔しちゃって」

 

「ふん、最初に謝るとは礼儀が良いな」

 

「それで、皆はどっちの方向へ?」

 

そう訊くとアクエリアスはとある方へ指した。方向さえ分かれば何とかなるか。

 

「ありがとう。それじゃ行こうか」

 

「―――は?」

 

翼を展開して海面から浮けば、アクエリアスの腕を掴んで抱えるように抱きしめたら、

彼女が指した方へ飛行する。

 

「ちょっ!おまっ!?私を抱きしめるな!」

 

「って、人魚だったのか!?・・・・・ルーシィの奴は本当に色々な精霊と仲が良いな」

 

「誰が仲が良いんだよ!私は別に仲良くなんてないぞ!つーか、降ろせ!」

 

ジタバタと魚のような下半身を動かし、暴れ出すアクエリアス。生憎だが、放す気はないぞ。

このまま皆のところへ直行だ。

 

「なあ、お前の他にも人魚の精霊はいるのか?」

 

「この状況で何を聞くんだお前は!?NOだ!」

 

「なんだ、いないのか」

 

何気に教えてくれる礼儀正しい人魚だ。いや、精霊か。さらに質問する。

 

「なあ、彼氏って恰好良いのか?ワイルド?それともダンディ?」

 

「そ、そうだな・・・・・どちらかつーと、ワイルドの方だ・・・・・って、

何を言わせやがるんだ!?」

 

「なるほど、ワイルドな彼氏に惚れたということか。可愛い精霊だな」

 

「か、かわっ!?」

 

急に顔を赤くするアクエリアス。おお、面白い。―――弄び甲斐がありそうだ。

 

「彼氏の自慢なところの話、ルーシィたちを見つけるまで話せれるか?」

 

「ふ、ふん。私の話は長いぞ。良いんだな?」

 

「どうぞどうぞ」

 

話し相手ができた。皆を探しながら訊くとしようか。

 

―――○●○―――

 

―――ヴァンside―――

 

どれぐらい水流に流されたのか分からない。が、私たちはしばらくして変な洞穴の中に

入り込んだかと思えば、人工的な地下の空間に辿り着いた。

火が灯されて辺りは薄暗い明るさで照らされて通路の入り口もうっすらと見える。

 

「ここ・・・・・どこかの建物?」

 

「そのようだな。だが、私たちだけじゃなさそうだぞ」

 

海面に浮かぶ謎の黒い影が数多。堕天使の視力は伊達じゃない。

その影の正体はあっという間に理解した。

だからだろう、皆、目を丸くした。―――溺死したと思しき数多の死体を。

 

「アルビオンの兵士たち・・・・・!」

 

「必然的だな。出た瞬間に水の中じゃ呼吸もできず溺れ死ぬ。

私たちも水から守られていなければ私たちもああなっていただろう」

 

「・・・・・イッセー、大丈夫かしら」

 

あの男はきっと無事だ。きっと私たちのところに向かっているはずだ。

そう思いながら、空気の塊から出た。

そして、魔方陣で空気の塊を乗せて足を踏める場所へと動かす。すると、空気の塊が消失した。

 

「行くぞ」

 

『・・・・・』

 

通路へ赴く私たち。通路の中も蝋燭の火で灯されて明かりを照らしていた。

静寂で私たちの足音だけが聞こえる。警戒して歩を進めていると、別れ道と遭遇した。

一旦立ち止り、相談し合い右の通とに向かうことに決めた。

その通路に進めば、様々な武器を片手に佇む古ぼけた甲冑が見えてきた。

 

「なんか、今にでも動きそうな感じだね」

 

「実際に動いたりしてな」

 

「その時は迎撃するだけだ」

 

同感だと思い、立ち並ぶ甲冑の間を通る。

 

「・・・・・・」

 

―――ドッ!

 

後に向かって槍を放った。全員の頭や頬を掠めながら槍は、

背後にいたナヴィを斬りかかろうとしていた甲冑に突き刺さった。

 

「・・・・・へ?」

 

「油断するなよ。ガーゴイル」

 

ガチャ、ガチャ、ガチャ・・・・・・。

 

倒れた甲冑が呼び水とばかりに通路に佇んでいた甲冑たちが動き始めた。

尻目で見れば、倒したはずの甲冑も動き出す。

 

「魂のない人形・・・・・か」

 

「じゃあ、ダメージを与えてもすぐに起き上がるってこと!?」

 

「いや、倒せないわけではない。おい、お前の出番だぞ」

 

「はいはい、分かっているっすよ。お金を払ってくれた分、きっちり働かせてもらいますよ」

 

デュリオ・ジェズアルドが動き出す。ただ、腕を横に振るった動作で―――甲冑たちの周りに

冷気が帯び、次第に全身が氷に包まれて完全に氷によって動きを封じられた。

 

「こんな感じで動きを封じればどうってこともない」

 

「な、なるほど・・・・・」

 

「イッセーだってそうしたはずだ」

 

あいつの名を挙げれば、納得した顔で頷いた。氷漬けの甲冑たちを通り越して通路を出る。

私たちが出た空間に長い階段が存在していた。その階段に登って上がり切れば、

大きな扉が私たちを出迎えてくれた。

全員が真剣な面持ちとなり、扉を開け放った。扉の向こう側は・・・・・。

二人の人間がひれ伏していた。

 

「生き残っていた奴がいたのか」

 

「でも、倒れているわ」

 

何人かが倒れている二人に駆け寄る。私たちも部屋の中に入った。

 

ガゴンッ!

 

『っ!』

 

刹那。開けた扉が勝手に閉まった。・・・・・罠だったか。

辺りを見渡して警戒をしていると、真上から眩い光が生じた。

 

「なっ・・・・・!」

 

誰かが驚愕の声を漏らした。その理由はすぐに分かった。真上から発行している光によって、

足元の影が大きくなり―――影から私にそっくりな影が生じたからだ。

 

「今度のダンジョンのボスは自分だって言いたいのかよ・・・・・!」

 

「自分と戦うことになるとは・・・・・」

 

「おもしれぇ、自分に勝って強くなろうじゃんか。燃えてきたぜ!」

 

自分に勝ってダンジョンを攻略・・・・・中々シビアな試練だ。

こんな時、イッセーはどう戦うのだろうか?

 

―――一誠side―――

 

海の上を飛んでしばらく、アクエリアスが教えてくれた方向に飛んでいると、

海上に浮かぶ城に辿り着いた。

 

「んじゃ、私は帰らせてもらうぜ」

 

「ああ、ありがとうな」

 

「ふん、じゃあな」

 

アクエリアスは煙と共に彼女が住んでいると言う精霊界に戻ったら、

翼を羽ばたかせて城に向かう。

 

バチンッ!

 

「っ・・・・・」

 

でも、城に入ることは叶わなかった。結界のようなもので阻まれる。

 

「・・・・・だったら、こうだな」

 

幻想殺しの籠手(イマジンブレイカー)』を装着した拳を前に突き出して突貫すれば、

ガラスが割れたような高い音と共に侵入することができた。

城の玄関、扉の前に降り立って扉の表面に穴を広げて城の中へ入る。

赤いカーペットが二階に上がる階段にまで敷かれていた。天井には大きなシャンデリア。

至ってどこにでもありそうな城の中だった。皆の気配を探知すれば・・・・・下?

 

「地下があるのか」

 

地下に繋がる階段を探すのは面倒だとばかり、消滅の力で足元を削って下に進んでいく。

 

「到着」

 

しばらく下に進んでいたら、地下通路に到着した。

 

「って、なんだこりゃ?」

 

氷漬けの甲冑が存在していた。・・・・・まさか、あいつらか?そう思って通路を駆けだす。

通路から出て前方に階段が見えて一気に跳躍して階段を上り切る。

俺の視界に扉が映り込んで扉に手を掛けた。

―――扉の向こうには、はぐれた皆が満身創痍の姿でいた中にはひれ伏している奴もいる。

唯一、ルクシャナとナヴィ、ティファニアは無傷で負傷している皆を介抱していた。

 

「お前ら!」

 

「っ!?イッセー!」

 

ナヴィが俺に気付く。皆のもとへ駆け寄って彼女に訊いた。

 

「一体、ここで何があった?」

 

「それが、黒い影にやられちゃったの」

 

黒い影?いまティファニアが介抱しているヴァンの胸元に手を触れると、

心臓が動いているのが分かった。まだ、生きているということだ。

一先ず、安堵で胸を撫で下ろした―――その時だった。真上から眩い発行が生じた。

その光にティファニアが焦った表情で言う。

 

「気を付けて!この光を浴びたら自分自身の影と戦うことになるの!」

 

「自分自身の影?」

 

そう言われ、反射的に自分の影を見詰めた。

―――すると、光によって大きくなった影から俺そっくりな奴が浮かび上がった。

 

『・・・・・』

 

「・・・・・」

 

自分と戦うってことか。こんな経験はもう二度と味わうことがないかもしれない。

 

「いくぞ?俺」

 

ダッ!と影に飛び込めば、同じ速度で影も俺に飛び込んできた。

拳を突き出せば同じように拳を突き出してきて互いの拳がぶつかり合う。

その刹那に右足を振りあげれば、影も右足を振り上げて互いの足と足がぶつかり合う。

こいつ・・・・・俺の動きを読み切っている・・・・・?

 

『・・・・・』

 

いや―――、こいつは・・・・・・!

 

ドゴンッ!

 

「ぐっ!?」

 

俺の次の一手も二手も先の攻撃をしてくる・・・・・!

だからヴァンほどの実力者がひれ伏していたのか!

しばらく俺と影の攻防が続いた。だが―――、一方的に俺の二倍強い影と戦うのも結構しんどい!

だけど、俺が皆を守らないといけないんだ!俺が勝って、皆を―――!

 

「・・・・・」

 

不意に脳裏で甦ったあの時の光景。皆を守ろうと最大の敵、

サマエルと父さんと母さんに突貫したあの時の光景を―――。それで俺は皆を守って死んだ。

 

ドンッ!

 

「―――っ!?」

 

また、また俺は・・・・・皆を残して死んでしまうのか・・・・・・?

また俺は皆を悲しませてしまうのか・・・・・?

 

「・・・・・もう、そんなことはしたくもないしするつもりもない・・・・・」

 

右手に気、左手に魔力。感卦法を発動させて身体能力を上昇させる。

 

「俺が・・・・・皆を守るんだ!」

 

ドンッ!と足元の床を抉った同時に影に飛び込んだ。

この状態は封通の状態の俺より強くなる。だから―――。

初めて影の懐に拳を突き刺せることもできる。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

虚空に消えて、何度も瞬時で影を殴り、蹴り飛ばしていく。

 

「おい、ナツ。何時までへばっているんだよ」

 

ゴウッ!と炎の魔力を手の平から燃えだした。

 

「真龍と龍神の子供の俺の炎の味。しっかり味わって俺と一緒に戦おうぜ」

 

炎の塊を寝転がっているナツ・ドラグニルに放った。

その瞬間、あいつを中心に火の柱が立ち昇る。

 

「―――ああ、悪いなイッセー」

 

火柱の中でナツ・ドラグニルが立ち上がり―――俺の炎を吸収し始めた。

 

「お前のおかげで力が湧いたぜ」

 

あいつの全身からあふれ出る炎。吸収しきれなかった力が外に放出しているのだろうか。

 

カッ!

 

また真上から光が発光した。ナツ・ドラグニルの影から人の形をした影が出てきた。

 

「フェアリーテイルの紋章を刻んでいるからには二度も負けることは許さない」

 

俺の隣に寄りながら両手に炎を纏う。俺も炎と雷を拳に纏う。

 

「俺もそうだ。二度と負けるつもりはない」

 

「んじゃ、最大の一撃を俺たちの影にぶつけてやろうぜ」

 

「ああ、いいぜ。―――俺も燃えてきたところだからな」

 

拳だけじゃなく、全身にも炎を纏う。

 

「行くぜ、ナツ」

 

「おうよ、イッセー」

 

ナツ・ドラグニルの奥義の構えは覚えている。

だから、俺もナツ・ドラグニルの奥義の構えをする。

 

「真・滅竜奥義」

 

「真・滅龍奥義」

 

俺たちは同時に属性魔法を纏った両腕を螺旋状に振るった!

体に纏っていた炎も全て両腕に込めてだ!

 

「紅蓮爆竜炎刃っ!」

 

「九焔爆炎雷刃っ!」

 

俺の雷を纏った炎は途中で分身したかのように九つに増えた雷と爆炎の螺旋状。

ナツドラグニルの炎は螺旋状の炎が竜の形に具現化して咆哮を上げながら影に襲いかかった。

 

『『・・・・・』』

 

大して二つの影は―――なんと、俺たちと同じ技を放ってきた!

四つの炎は直撃して床が激しく抉れていく。

 

「やろう!どこまでも人の真似をしやがって!」

 

「しかも、同じ威力までだから面倒この上ない!」

 

このままじゃジリ貧だ。もっと魔力を籠める必要があるな、とそう思ったその時だった。

 

ナウシド・イサ・エイワーズ・・・・・

 

後ろから声が聞こえた。緩かな、歌うような調べ。

 

ハガラズ・ユル・ベオグ・・・・・・

 

・・・・・今まで聞いたことのない呪文だと分かった。

 

ニード・イス・アルジーズ・・・・・

 

尻目で見れば、ティファニアは小さな杖を握っていた。ペンシルのように小さく、細い杖だ。

 

ベルカナ・マン・ラグー・・・・・

 

まるで指揮者がタクトを振り下ろすような自信に満ちた態度で、

ティファニアは杖を下ろす。陽炎のように、空気がそよいだ。

俺たちの影を包む空気が歪む。すると、一瞬だけ影の攻撃が止んだ―――。

 

「ナツ!今だ!」

 

「分かったぜ!」

 

互いに炎を再び纏わせ―――炎の魔力を一点に集中に収束し融合させた攻撃を放った。

 

「「真・滅竜奥義(滅龍奥義)紅蓮爆竜炎刃(九焔爆炎雷刃)っっっっっ!」」

 

二つの炎が融合し雷を纏った九匹のドラゴンと化となって二人の影に襲いかかった。

これが俺とナツ・ドラグニルの最強の合体技だ!

 

『『・・・・・』』

 

二人の影は一瞬だけ攻撃の手を止めていたが俺たちの攻撃に気付き、

魔方陣を何重にも展開した。―――でもな、影のお前らにないものがある。それは―――。

 

「「俺たちの絆の力を舐めるんじゃねぇええええええええええええええええっ!!!!!」」

 

長いようで短い付き合い。でも、それでも俺たちはしっかりと絆が結ばれている。

その絆の力をお前ら影には無い!俺たちの炎の合体技は、

張り巡らせた魔方陣を紙のように破いて二人の影自身を飲みこんだ。

そのまま九匹の雷を纏った炎のドラゴンは外まで壁を貫いた。

 

「ついでに、真上にもだ!」

 

「おう!」

 

同時に天井にも向かって炎の魔力を放った。

天井にぶつかって炎はそのまま天井を突き破って―――この建物の中に光を照らしたのだった。

 

「「・・・・・」」

 

しばらく真上から照らされる太陽の光を浴びていた俺とナツドラグニルは、

徐に手を振り上げた。

 

パンッ!

 

「俺とお前の合体技、最高だったぞ」

 

「イッセーと戦えば、どんな敵だって勝てる気がするぜ!」

 

一拍して笑う俺たち。これで、俺たちの勝ちだ。皆も応急処置を施されてこっちに向かってくる。

後は変えるだけだ。そう思った矢先、

 

ドスッ!

 

「―――――」

 

俺の腹に赤い突起物が生えた。・・・・・なんかデジャブなんだけど?

背後に尻目で見れば・・・・・。

 

「まさか・・・・・死んでいたと思っていた奴が俺たちの目の前に現れるとはな」

 

「だが、今度こそ俺たちの手で葬ってやろう」

 

「・・・・・お前ら・・・・・!」

 

目を丸くした。どうしてこのダンジョンの中にいるのか疑問に尽きなかった。

―――シャルバ・ベルゼブブとクルゼレイ・アスモデウスの二人だ。

 

「イッセーッ!」

 

皆が傷付いた俺を守るように囲んでくれる中、俺は聞いた。

 

「どうして、お前らがここにいる?まさかと思うが・・・・・悪魔が聖地を欲しているのか?」

 

「ふん、聖地なぞ興味ない。俺たちはリゼヴィムにこのアルビオンと始祖の秘宝、

そして虚無の担い手を手に入れろと言われてここにいるだけだ」

 

「リゼヴィム・・・・・!」

 

リースが激しく反応した。彼女が復讐したい人物の関係者が目の前にいたからだ。

 

「しかし、不覚だった。人間を何度も大勢この塔の中に送りこんだのが、

誰一人として始祖の秘宝を持って来ないことにしょうがなく我ら自身で手に入れようとしたが、

こんなあり様だ」

 

「だが、結果的にお前らの働きのおかげで敵を倒してくれた。

―――残るは秘宝を手に入れるのみだ」

 

・・・・・でも、この二人はその秘宝をしらないはずだ。

どうやって手に入れるのかも。

俺の体を貫いた突飛物はどうやら魔力で出来たものらしく、

消失すれば腹の穴から血が大量に出てくる。

 

「イッセー!いま傷を癒すわ!」

 

シャルロットとジョゼットが魔法を掛けてくれる。すると、傷口が徐々にだが治っていく。

 

「落ちたものだな兵藤一誠。下等な人間の魔法に頼るほど弱っているのか?

サマエルとやらの呪いと毒で真だと聞いたのだがな」

 

「生憎、俺はしぶといんでね。死ぬのは当分先のことだ。それに―――」

 

カッ!と魔方陣を展開した。

 

「俺は前よりも強くなっている。―――縛れ」

 

魔方陣から幾重の鎖が飛び出した。

その鎖はシャルバ・ベルゼブブとクルゼレイ・アスモデウスに向かう。

 

「舐めるな!」

 

あの二人は防御式魔方陣を展開する。一度その魔方陣で弾かれた鎖は魔方陣の中に戻った。

代わりに―――。

 

『直接、私の手で縛ったほうが早いな』

 

ドラゴンが出てきた。見たことのないドラゴンにあいつらは目を丸くする。

 

「なに・・・・・!?なんだ、このドラゴンは!

兵藤一誠の内にいるドラゴンの中にあのようなドラゴンは存在していなかったはずだ!」

 

「兵藤一誠・・・・・貴様・・・・・どこまでドラゴンを取り込めるつもりだ・・・・・・!」

 

取り込めるって人聞きの悪いことを言う・・・・・。

 

『奴らをお前の内で縛らせてもらうぞ』

 

「構わない」

 

(ロック)

 

感情が籠っていない呟き。シャルバ・ベルゼブブとクルゼレイ・アスモデウスの足元に魔方陣が

出現して、そこから大量の鎖が飛び出て、厳重に縛られた。

 

「く、くそ!放せ!」

 

「おのれ、おのれ兵藤一誠!貴様を必ず我らの手で―――!」

 

「その前に、アスモデウスとベルゼブブの説教が待っているからな。

俺を倒したいのならその後で」

 

最後の別れとばかり、手を振った。二人は鎖と共に魔方陣の中に引きずり込まれ

この場から姿を消した。あの二人を縛ったドラゴンも魔方陣の中に消えていった。

 

「私のミスだ。まさか・・・・・あの二人が気絶していた振りをしていたとは」

 

「気にするなヴァン。こうしてお前らと再会できたんだ。あっ、ルーシィ。

ありがとうな。アクエリアスのおかげで助かったよ」

 

「ううん、当然のことをしたまでよ。だって、私たちは仲間でしょう?」

 

「・・・・・そうだったな。お前らも無事で良かった」

 

皆の顔を見渡して安堵する。シャルロットとジョゼットの魔法で傷も大体癒えた。

 

「しかし、ティファニア。さっきの呪文は何だ?」

 

「人の記憶を奪う魔法・・・・・昔、私の夢の中で何度も聞かされた言葉なの。

最初は訳分からなかったけどね」

 

「そっか、だから俺とナツの影が俺たちと戦うことを忘れていたから攻撃の手が止まったわけか」

 

彼女の魔法のおかげで何とか勝ったようなものだ。今回の功労者はこの場にいる皆だ。

 

「さて・・・・・始祖の秘宝が保管されている扉もあの壁に出現したし、

現世に戻ったらティファニアの家でパーティでもしようか」

 

「おっ、そいつはいいな。最後のダンジョン攻略の前に盛り上がるのは悪くないぜ」

 

「そう言うことなら、早くこのダンジョンから出よう」

 

エルザ・スカーレットの言葉に俺たちは同意した。残すダンジョンは―――ロマリアダンジョンのみだ。

 

―――ロマリア―――

 

「陛下、アルビオンダンジョンが攻略されました」

 

「そうですか。では、始祖のオルゴールも彼らの手中にあるというわけですね」

 

「まず間違いないかと」

 

「残すはこのロマリアにあるダンジョン・・・・・。必ず彼らはやってきます。

―――極東の地にいる虚無の担い手を迎えに行った彼はどうです?」

 

「現在、このロマリア連合皇国に向かっております。家族も一緒だと言うのですが・・・・・」

 

「構いません。彼女さえここに連れて来てくれれば問題ありません」

 

「―――失礼します。トリステイン王国、アンリエッタ女王及びガリア王国、

シャルル王とジョゼフ大臣がご到着なさりました」

 

「わかりました。ここへご案内を―――聖地奪還の会談のために」

 

「はっ!」

 

―――ヴァリエール家―――

 

「ロマリアがワシの娘だけ呼び出すとはどういった理由かね?」

 

「それは、教皇陛下がご説明します」

 

「・・・・・敢えて、キミの口から語ろうとしてくれないのだな?」

 

「私は一介の神官ですので。教皇陛下のお考えは分かりませんよ」

 

「・・・・・」

 

「ちょっとカリン!何時までもメソメソしないでよ。死んでしまった人間は泣いても

甦らないわよ。寧ろさっさと忘れて元気になりなさい。こっちまで気が滅入るじゃないの」

 

「・・・・・忘れろ・・・・・ですって・・・・・?

本気で言っているの・・・・・ルイズ姉・・・・・」

 

「そうよ、それに久し振りにハルケギニアに帰れるじゃない。あの男なんて忘れて―――」

 

「ルイズ!お前は黙っていなさい!カリン、お前もそうだ。ルイズの言葉に一理ある。

何時までも泣いていたらあの子がお前を心配して成仏してくれないではないか」

 

「・・・・・」

 

「ワシもあの子の死に深く悲しんでいる。だがなカリン。今のお前の姿を見たら

あの子はどう思うか想像してみなさい。

自分が知っているカリンはもっと威風堂々としていると言うと思わないか?」

 

「・・・・・私はイッセーと会えればどんな姿でも構わないです・・・・・」

 

「カリン・・・・・」

 

「ただ、それだけが私の願い・・・・・会えるとしたらの話ですがね・・・・・・」


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