ハイスクールD×D×SHUFFLE!   作:ダーク・シリウス

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Episode12

火竜山脈地下深くに眠る風石、精霊の力の結晶から精霊の力だけ取り除く作業をして二日目。

ナヴィに訊けば、三分の二は無くなっていると言う。

この調子なら明日までに全て抽出し終えるそうだ。

 

「イッセー、休憩の時間だ」

 

「おー」

 

剥き出しの風石から手を離してその場で倒れる。体に負担が掛かるなー。

にしても、風石・・・・・どれだけあるんだよ。アジ・ダハーカが抽出した精霊の力を

結晶化にしてもらっているけど、視線をとある方へ向ければ山のように積み上がっている

風石が視界に映る。

 

「随分と大量の風石だな」

 

「そうだな。これ、どうしようか」

 

「各国に渡せばいいのでは?」

 

妥当だな。でも、一つや二つは貰いたいな。アザゼルかアジュカ辺りに渡せば、

人類にとって便利な道具となるだろうな。使い捨てだけど。

 

「イッセー、夕飯の準備ができたわよー」

 

「分かったー。今日は何だ?」

 

「きっとイッセーが美味しいと言うほどの料理よ」

 

ルーシィ・ハートフィリアがニッコリと笑んで言う。それは楽しみだな。

異国の料理は興味が尽かない。皆がいる場所に赴けば、

設けたテーブルに乗った様々な料理があり、用意された椅子に座って合掌した。

 

「いただきます」

 

『いただきます』

 

―――数十分後―――

 

賑やかな夕食は終え、再び俺は精霊の力の抽出を始めていた。

パイプ代わりに精霊の力だけを通して手の平に集めている作業だから、暇と言っちゃあ暇だ。

だから、皆が俺に話しかけてくる。

 

「イッセーって好きな趣味とかある?」

 

「のんびりと寛いだり、本を読んだり、料理を作ったり・・・・・色々だな」

 

「へぇ、イッセーって料理作れるんだ?美味いのか?」

 

「美味いどころか、家族に中々作らせてくれないんだよ。

自分の仕事を奪わないで欲しいって言われるんだ」

 

「メイドでも雇っているのか?」

 

「ああ、そんなところだな。逆にエルザとルーシィ、お前らは彼氏いないのか?」

 

そう尋ねてみれば、ルーシィ・ハートフィリアが苦笑いを浮かべ、

エルザ・スカーレットが首を横に振る。

 

「そんな人いないって」

 

「私もそうだ」

 

「なんだ、二人とも美人なのにな。グレイ、ナツ。二人のことをどう思っている?」

 

男どもに訊いた。

 

「ルーシィもエルザも大切な仲間だ。でも・・・・・エルザは怖い」

 

「ああ、限りなく怖い」

 

「ほう?私のどこがどう怖いのか説明してもらおうか?―――その体からなぁっ!」

 

「「ぎゃああああああ!ごめんなさーいっ!」」

 

あっ、エルザ・スカーレットが般若になって二人を追いかけ回し始めた。

 

「あーあー、あの二人。絶対にボコボコされちゃうね」

 

「どこに行っても変わらないよね」

 

変わらないか・・・・・俺は色々と変わった。肉体も種族も力も・・・・・後悔はしていない。

ただ、少し寂しさが感じるだけだ。

 

「でも・・・・・もう少しでこの冒険も終わるんだね」

 

「この数日間、色々と刺激的だったな」

 

「その度にお前らという仲間も増えた」

 

ルクシャナ、シャルロット、ジョゼット、キュルケ、ナヴィ、リースの顔を見る。

 

「ルクシャナとナヴィ、リースはともかく、シャルロットとジョゼット、

キュルケとは旅が終わったら別れてしまうな」

 

「寂しいわねぇ。いっそのこと、故郷に帰らず、ここ(ハルケギニア)で暮らしたらどう?」

 

「そ、それだったらお父さまたちに頼んで衣食住提供してもらうように頼むわ」

 

「・・・・・」

 

ジョゼットの提案にシャルロットも賛同とばかりコクリと頷いた。気持ちは嬉しいけど、

俺には家族が待っているんだ。それはできないと首を横に振る。

 

「悪い。家族が待っている。帰らないと」

 

「・・・・・そう」

 

残念そうな顔をするジョゼット。シャルロットも同じ表情を浮かべていた。

物凄く罪悪感を感じるのは何故なんだろうか?

 

「・・・・・さて、そろそろ寝るか」

 

精霊の力の抽出は終わり。残りは明日で終わらせよう。

 

「それじゃ、お休み」

 

全員分のテントがある場所へ赴こうとする。

 

「イッセー!助けてくれぇっ!」

 

「まったく・・・・・あの二人は・・・・・」

 

未だに仲間に追いかけられている二人から助けを求められたのだった。

 

―――翌日―――

 

精霊の力の抽出は順調に進み―――昼頃になった頃にようやく、全ての風石の力を抽出し終えた。

 

「終わったぁー!」

 

『お疲れさま!』

 

俺の傍には直径十メートルの緑色の丸い結晶の塊が山積みになっている。

高さは百メートル以上もある。

こうして見れば、綺麗だけどこんなのが地下に埋まって大陸を持ち上げる

『災害』となる危なっかしい代物だ。

 

「ナヴィ、もうないんだよな?」

 

「ええ、殆どないわ。またあの規模の風石が蓄積するのに千年以上は掛かるわ」

 

「それでもハルケギニアの人間が平和に過ごせれる時間は長いから良しとしよう」

 

結晶を亜空間に仕舞いこんで片付ける。

 

「これでエンシェント・ドラゴンが目覚めても大陸が持ち上がる可能性の心配はなくなった。

思う存分に戦える」

 

龍化になって皆に告げる。

 

「それじゃ、遅れた分を取り戻そう。俺の背中に乗れ」

 

―――○●○―――

 

ガリア王国の上空を飛び、トリステインの国境を越え南に進む俺たち。

天気も晴天で飛行するには最適な環境だった。

 

「次のアルビオンダンジョンは一体どんな試練が待ち構えているんだろうな」

 

「どんな試練だって、私たちが挑めば乗り越えられるわよ」

 

「そういや、お土産買ってくるようにマスターから言われていたな。アルビオンで買うか?」

 

「そうだな。そろそろ何を買うか考えねばな」

 

「そーいう時は私の出番ね。各国に存在する店の商品の情報はあるわ。どんなのがいい?」

 

複数の魔方陣を展開して立体映像を浮かべる。

その映像に見詰めるナツ・ドラグニルたちをよそに俺は前進する。

 

「・・・・・」

 

首筋を歩いて俺の頭に乗っかってくるリース。

 

「あの、イッセー。あなたと共に行動することなのだけれど」

 

「決めたか?」

 

「あなたと共にいれば魔王と会えるのは本当?」

 

その質問にこう答えた。

 

「必ず会えるわけでもないが、それに関わることはまず間違いない。

あの悪魔に加担している奴とも戦うだろう」

 

「・・・・・」

 

「だけど、今のリースの力じゃ魔王の足元にも及ばない。さらに力が必要なら、

俺と俺の家族と一緒にいたほうがいい。お前を鍛えることができるからな」

 

徐に跪いて俺の頭に腰を下ろす彼女は布に巻いていた物を見て、布を外し始めた。

それは三つ叉の槍でだった。

 

「この槍でも、魔王を倒すこともできない?」

 

「一般的な武器、特殊な力が施されていなければ悪魔に勝つことすらできない。

リース自身が不思議な力を有しているのなら話は少し変わるが」

 

「・・・・・」

 

リースは顔を曇らす。俺の周りは一般な人間とは言えない奴らばかりだからな・・・・・。

彼女みたいな人はとても貴重かもしれない。

 

「皆の仇すら取れないのね・・・・・今の私じゃあ・・・・・」

 

「だからだ。俺たちと一緒にいればお前を鍛えられて強くすることができる。

もしかしたら、リースが知らない秘めた力が覚醒することもできるはずだ」

 

「秘めた力・・・・・」

 

それは彼女自身の問題となるが・・・・・この先、彼女の成長次第だ。

 

「リース、お前は一人じゃない。俺たちがいる。一緒にリゼヴィムを倒そう」

 

「・・・・・ええ、イッセー」

 

コクリと首を縦に振ったリース。彼女の願いを叶えたいものだな。―――俺も同じ願いだからさ。

 

―――???―――

 

「神聖アルビオン共和国の誕生に万歳!」

 

『万歳!万歳!万歳!万歳!万歳!』

 

「諸君のおかげで、無能な前王を崩御することに成功した!

この機に乗じ、アルビオンダンジョンを攻略し、始祖の秘宝を手に入れ、『聖地』を奪還する!」

 

オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!

 

「・・・・・こ、これでよろしいのですね?」

 

「くくく・・・・・ああ、これでいい」

 

「癪だが、あの男の言う通りこの地を手に入れることはできた。

残るは始祖の秘宝と虚無の担い手やらだな。その者の調査はどうだ」

 

「い、未だ行方を探しております。何分、誰が虚無の担い手なのか判明しないのです」

 

「ふん、役立たずだな。さっさと見つけ出してここに連れてこい。

特徴ぐらいは分かっているだろう」

 

「は、はい!それと・・・・・次々とダンジョンを攻略している者たちは

この地にやってくると思いますが・・・・・如何致しましょう」

 

「放っておけ、寧ろ好都合ではないか。攻略してもらい後に殺して秘宝だけ奪えばいいだけだ」

 

「わ、分かりました」

 

―――港町ラ・ロシェール―――

 

トリステインから離れること早馬でならば二日、アルビオンへの玄関口である。

港町でありながら、狭い峡谷の間の山道に設けられた、小さな街である。

 

人口はおよそ三百ほどだが、アルビオンと行き来する人々で、

常に十倍以上の人間が街を闊歩している。

狭い山道を挟むようにしてそそり立つ崖の一枚岩を穿って、旅籠やら商店が並んでいた。

 

立派な建物の形をしているが、並ぶ建物の一軒一軒が、同じ岩から削り出されたもので

あることが近づくと分かる。『土』系統のスクウェアクラスメイジたちの匠の技であった。

峡谷に挟まれた街なので、昼間でも薄暗い。

 

狭い裏通りの奥深く、さらに狭い路地裏の一角、はね扉のついた居酒屋があった。

酒樽の形をした看板には『金の酒樽亭』と掻かれている。金どころか、一見すると

ただの廃屋にしか見えないほどに小汚い。

 

壊れた木製の椅子が、扉の隣に積み上げられている。中で酒を飲んでいるのは、傭兵や、

一見してならず者と思われる風体の者たちだった。彼らは酔いが回ってくると、些細なことで

すぐに口論をおっぱじめる。

 

理由はくだらないことばかり。俺の杯を受けなかった、とか、目つきが気にいらないとか、

そんなことで肩をいからせ、相手に突っ掛かっていく。ケンカ騒ぎが起こる度に、傭兵たちは

武器を抜くので、死人や怪我人が続出する。見かねた主人は、店に張り紙をした。

 

『人を殴る時はせめて椅子をお使いください』

 

店の客たちは、主人の悲鳴のようなこの張り紙に感じ入り、

ケンカの時には椅子を使うようになった。それでも怪我人は出たが、

死人が出なくなっただけマシというものである。

 

それから、ケンカの度に壊れた椅子が扉の隣に積み上げられるようになった。

さて、本日の『金の酒樽亭』は満員御礼であった。そしてはね扉ががたんと開き、

新たな来客が、酒場に十二人の男女と一匹の猫が現れた。

 

ゾロゾロと店の中を歩き、空いている席はないかと探すが今は満員御礼。

精々、一人か二人分の席しか空いていない。すると、扉の隣に積み重ねられている壊れた

椅子に目をつけて「ふむ」と、何かに思い付いたようだった。

男は店の主人の下へ近づい壊れた大量の椅子をもらって良いかと問う。

 

「へ、へぇ・・・・・構いませんがどうするつもりで?」

 

「なに、リサイクルをするだけさ」

 

男は虚空から金色の錫杖を出してその錫杖の柄を握りしめ、トンと床を突いた。すると、

壊れた大量の椅子が光り輝き、宙に浮いた。大量の椅子が複数に分かれ、

何かの形になっていき床に設置された。

 

「提供感謝する。あと、この店一番の料理を十二人分頼む。それとできるだけ大きい生魚も」

 

何か詰まっている袋を店主に渡して男は壊れて積み重ねられた椅子が新しく

巨大なテーブルと十二人分の椅子となった場所へと赴いた。

 

「凄いわねー。壊れた椅子が元に戻ったり大きなテーブルになっちゃったわ!」

 

「この店にとっても利益になるだろう。ギブアンドテイクってやつさ」

 

俺、スカーレットイッセーは燃えるような赤い長髪の少女の言葉にそう言いながら席に座る。

その隣に赤と黒が入り混じった女性と金髪の少女が当然とばかりに座る。

 

「ナヴィ、アルビオンに出向するフネは何時だ?」

 

「二つの月が重なる晩の翌日、明日の朝よ。アルビオンが一番ラ・ロシェールに近づくから」

 

「イッセーがドラゴンになってアルビオンに行けばいいんじゃないか?」

 

ナツ・ドラグニルがそう提案するが・・・・・あの時の二の舞になる。

 

「ロマリアみたいに騒ぎが起きるからダメだ」

 

「・・・・・そうだったな」

 

赤い髪の少女、エルザ・スカーレットが思い出したかのように頷いた時だった。

 

『主、ステルスが自分の力を使えば周りに気付かれることもなく侵入できると仰っております』

 

内にいるドラゴンがそう教えてくれた。お、そうなのか?それじゃ、後で試してみよう。

 

「訂正だ。ドラゴンになっていく。透明になってな」

 

「ドラゴンで透明って・・・・・あっ、もしかしてトリステインダンジョンで

戦ったドラゴンのこと?」

 

「そうだ」と肯定する。あの透明なドラゴン・・・・・。

名前を付けて『ステルス』の能力は面白い。

ナツ・ドラグニルの臭覚さえ微かぐらいしか感じさせない。気配も感じなかったし、

なにより魔力でさえ放つ直前まで感じない。禁手(バランス・ブレイカー)に至ったらきっと

面白い能力を得れるだろう。

 

「そう言うわけだ。明日もアルビオンにはドラゴンで向かう」

 

「分かった。本当にイッセーの移動手段は便利だ。

これが乗り物だったらナツは乗る度に酔うからな」

 

「全くだぜ。竜滅魔導士(ドラゴンスレイヤー)はどうして乗り物に関して酔うんだがな」

 

グレイ・フルバスターが嘆息したら、ナツ・ドラグニルが食って掛かった。

 

「うるせっ!知るか!グレイのバーカッ!超バーカ!」

 

「お前がバカだろうが!」

 

「周りを凍らせて寒がらせるだけじゃねぇか!」

 

「んだったら、てめぇの魔法は周りを燃やして熱がらせるだけじゃねぇか!」

 

「「やるかこの野郎っ!?」」

 

とうとう二人は額をぶつけ合い睨み合った。

 

「止めんかバカ者!」

 

が、エルザ・スカーレットの鉄拳により、二人は吹っ飛ばされた。

 

ドガッシャアアアアアアアアンッ!

 

周りの客の食卓にぶつかりながらだ。

 

『・・・・・』

 

巻き込まれた客たちが―――ギロリッと俺たちを無言で睨んだ。

 

「エ、エルザ・・・・・」

 

「お前・・・・・・」

 

「す、すまない。つい、何時もの調子でやってしまった」

 

いつもって・・・・・いつもこんな風にやっていたのか!?

 

「おい、ちょっと面、貸せや」

 

うわー、怒っちゃっている。マジで、かなり怒っちゃっているよ。

 

「俺が合図をしたら、一斉に出口に駆けるぞ」

 

『・・・・・』

 

コクリと皆が頷いた。俺は息を吸って―――。

 

「―――あっ!あそこにアンリエッタ王女が際どい服を着て股を開いて手招いているぞ!?」

 

とある方へ指を差して叫んだ。

 

『なぁぁぁぁぁにいいいいいいいいい!?』

 

男はなんて・・・・・悲しい生物なんだろうか。瞬時でエルザ・スカーレットに吹っ飛ばされた

二人の襟を掴んで、皆と共に店の外に出た。一拍して、店から―――。

 

『俺たちを騙しやがったなあの野郎ぉぉぉおおおおおおおおおおおおおっっっっっ!』

 

怒号が轟いた。現在は夜だ。闇夜に紛れて逃走する。

 

「この三バカ!料理を食べれなかったじゃないのよ!」

 

ルクシャナが怒鳴った。でも、二人は未だにいがみ合っていた。

 

「ナツのせいだ!」

 

「グレイのせいだ!」

 

「貴様ら、いい加減に―――!」

 

「エルザも怒る時に手を出さないようにな」

 

「・・・・・はい」

 

(^-^)と、彼女に向けて窘めたら、青ざめてコクリと頷いた。

 

「こ、怖い・・・・・」

 

「笑っているけど、威圧が物凄く感じるな・・・・・」

 

「イッセーだけ怒らせないようにしなきゃね」

 

おや、皆が何か言っているな。まあ、今は―――このままアルビオンに行くしかないだろう。

 

「崖に飛び降りろ!」

 

「マジでッ!?」

 

「後ろ見て納得するはずだ」

 

ルーシィ・ハートフィリアが背後に向けた。俺も尻目で見れば―――怒り狂う男どもが武器を

片手に追い掛けていた。

 

「うん、納得したけどどうして飛び込むのよ!?」

 

「俺が龍化になってお前らを背に乗せるからだ」

 

走り続けていると、もう目と鼻の先に崖が見えてきた。

 

「飛べ!」

 

ダッ!

 

バッ!

 

全員が全員、ラ・ロシェールの大地から飛びこんだ。

その瞬間、俺は龍化となって皆を背中で受け止めて空を飛行する。

 

「夕食はアルビオンに着いてからだな」

 

―――???―――

 

『ん・・・・・?』

 

「アルビオン、どうした?」

 

『いや、呼ばれた気がしたのでな』

 

「気のせいだろう?ああ・・・・・一誠・・・・・」

 

―――○●○―――

 

空を飛んでしばらく経った頃に雲の切れ間から、黒々と大陸が覗いていた。

大陸は遥か視界の続く限り延びている。地表には山がそびえ、川が流れていた。

その川、大河から溢れた水が、空に落ち込んでいる。

 

「・・・・・すげぇ・・・・・」

 

「ああ、壮大だな・・・・・いや、雄大とも過言ではない」

 

その大陸に向かって前進する。空は暗いため、俺の姿を肉眼で捉えることは難しいだろう。

どこかの森で夕食&就寝だな。バサッ!と翼を羽ばたかせてアルビオンの空へと舞い上がる。

眼下で密集して光る場所が見えた。あそこが首都のようだ。

 

「(ん?)」

 

その町から離れた場所で一つだけ明かりが点いている場所があった。しかも、そこは森の中だ。

・・・・・あそこでいいか。その森に向かって舞い降りる。

森の中で照らしている家より少し離れた場所で降り立つと、皆が俺から降り出した。

 

「イッセー、家があるみたいだけど」

 

「気になるか?」

 

「うん、家の人と会っていい?」

 

エルフだとバレなければいいか。俺も一緒についていくと告げて人間の姿に戻る。

亜空間から寝具と夜食用の材料を取り出して、

皆によろしく頼むと伝えてルクシャナと一緒に歩を進める。

夜の森の中を歩き続けて木々を分けるように目的地に向かうと、木造で藁葺きの家を発見した。

ルクシャナが駆けだして家の扉にノックをした。

 

「こんばんわー!」

 

元気で声を掛けた。・・・・・でも、返事はない。気で探知すれば・・・・・いるな。

 

「あれ、いない?」

 

「いるぞ。もしかしたら、こんな夜に訪れているから不審感を抱いていると思う」

 

「えー?別に怪しくないのに」

 

「相手にとって夜に見知らぬ人が訪れたら誰でも不審がる」

 

そう言うと、つまらなさそうな顔をして俺に口を開こうとした

彼女が背を向けていた扉が光を漏らしながら開いた。

 

「・・・・・」

 

家の主は夜なのに帽子を被っていた。家から漏れる光で髪は金だと伺える。瞳は翠だ。

 

「どちらさま・・・・・?」

 

「あっ、ゴメンなさいね?ちょっとこの家から離れた場所で食事をしたいけれど、いいかしら?」

 

「食事?こんなところで?」

 

「うん、ダメだったら他のところで食べるわ」

 

「どう?」とルクシャナは家の主・・・・・少女に尋ねたところ、

少女は小さくコクリと頷いてくれた。

 

「ありがとう。それと、自己紹介していなかったわね。

私はルクシャナ、こっちはイッセーよ。あなたのお名前、何て言うのかしら?」

 

「・・・・・ティファニア」

 

「ティファニアね?じゃあ、ティファニア。もしよかったら一緒に食べない?」

 

「え?」

 

ティファニアは目を丸くした。まさか、夕食に誘われるとは思ってもいなかっただろう。

俺も誘うとは思いもしなかった。ルクシャナは再度誘う。

 

「一人で食べるより皆と食べたほうがいいわよ。ね?そうましょう?」

 

「・・・・・」

 

彼女の誘いにティファニアは首を横に振った。

その際、揉み上げのところの髪から耳が見えた。人の耳より尖っている耳だ。

 

「・・・・・もしかして、お前はエルフか?」

 

「っ!?」

 

ティファニアの肩がビクリと跳ね上がった。

それが彼女の正体だと理解し、ルクシャナに視線を向けたら、

 

「嘘!あなたもエルフなの!?」

 

「あなた・・・・・も?」

 

「そうよ?ほら、私もエルフなのよ」

 

ルクシャナは自身に掛けた幻を解いた。すると、彼女の耳が人の耳より尖ったのだった。

 

「わ、私と同じ種族のヒト・・・・・」

 

「うわぁ、こんなところでエルフと出会うなんて物凄い偶然だわ。

でも・・・・・目が蛮人みたいだわね?もしかして、ハーフ?」

 

「・・・・・ええ、私は混じりものよ」

 

何故か自嘲気味に言うティファニア。何時しか、顔だけ出していた扉から出て来て姿を現した。

粗末で丈の短い、草色のワンピースに身を包んでいた。短い裾から細く美しい足が伸び、

そんな足を可憐に彩る、白いサンダルを履いている。

 

「エルフと人間のハーフか。珍しいな。しかもこんなところで一人で住んでいるなんて」

 

「きっと、蛮人に酷い目に遭ってここでひっそり暮らしているんだわ。

ねぇ、この子も連れて行かない?」

 

「皆のところになら構わないぞ」

 

「それだけじゃないわよ。ハーフとはいえ、私と同じエルフの血を流している存在よ?

こんなところで一人だけ暮らさせたら、見つかった時には蛮人に殺されちゃうわ」

 

・・・・・ようは、ダンジョン攻略が終わっても俺の故郷に連れて行きたいという魂胆か?

 

「ティファニア。私たちと一緒に行動しない?私とイッセーの仲間は私がエルフだと知っているから、あなたがついてきても怖がらないわよ」

 

「・・・・・ルクシャナを、エルフを怖がらない人がいるの?」

 

「ええ、話せばすぐに仲良くなっちゃうほど変わった蛮人よ。ね、イッセー」

 

「それ、俺も含まれるのか?」

 

「当然じゃない」

 

だから、とティファニアの手を掴んだルクシャナ。

 

「一緒に夕食を食べましょう!これは決定事項だからティファニアの言い分は聞かないわ!」

 

「えええっ!?」

 

驚く彼女の手を引っ張って、皆がいる場所へと戻っていくルクシャナは。

俺は家の明かりを消してから追った。

 

「ただいまー」

 

「あっ、戻ってきた・・・・・って、誰連れてきたの!?」

 

「私と同じだけど、エルフと蛮人の間と生まれたハーフのエルフのティファニアって子よ」

 

さっそく、ティファニアを紹介した。料理の準備はできていた。

そして、ルクシャナが連れてきた彼女に興味深々とばかり、集まってきた。

 

「へぇ、ハーフのエルフか。初めて見たな」

 

「ティファニアって言うんだね。私はルーシィ・ハートフィリアよ。ルーシィって呼んでね」

 

「俺はナツ・ドラグニルだ。よろしくな!」

 

「私はエルザ・スカーレットだ。もし共に行動するなら仲良くしよう」

 

「俺はグレイ・フルバスターだ。よろしく」

 

「オイラはハッピーだよ!よろしくね!」

 

と、フェアリーテイル組の自己紹介に続き、他の皆も自己紹介を始めた。

そんな皆に戸惑いながらもちゃんと挨拶するティファニアであった。

 

「あ、あの、エルフを怖がらないの?」

 

「逆に言うけどエルフって怖いのか?怒ると怖いなら話は別だけど」

 

「エルザ並に怖かったら怖いけどな」

 

「同感だぜ。エルザだけは―――」

 

「私だけは・・・・・なんだって?」

 

はい、もう一回ナツ・ドラグニルとグレイ・フルバスターがエルザ・スカーレットに

追いかけられ始めました。

 

「ティファニア、エルフだからって怖がらない奴だっているんだ。最初は驚くだろうけど、

話し合えば普通に接してくれるはずだ」

 

「・・・・・」

 

「ま、そう言う奴は俺の周りにゴロゴロといるんだけどな」

 

ははは、と笑い彼女を安心させるように頭を撫でた。

 

「それと、悪いな」

 

「はい?」

 

「―――彼女、ルクシャナはしばらく付き合って分かったことがあるんだ」

 

ルクシャナに視線を向けながら言った。

 

「ルクシャナは我がままで、一度決めたことを絶対に曲げない。

だから、ルクシャナは何がなんでもお前を連れて行こうとするぞ」

 

「・・・・・」

 

ティファニアは悟ったのかもしれない。自分の人生が一変するんだと。

実際、俺も彼女と出会ってから色々とあった。

 

「すまない。そして、よろしくな」

 

「・・・・・よ、よろしくお願いします」


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