紅の剣聖の軌跡   作:いちご亭ミルク

96 / 108
最善手

 

 

 

「皆様にお披露目させていただく、大陸史上初の超高層ビルディング……オルキスタワーであります!」

 

 

 クロスベル市長、ディーター=クロイスの威風堂々とした声と共に、高さ二百五十アージュから降りた垂れ幕が左右に開く。そこに現れたのは、地上四十階、各階がガラス張り構造の巨大なビル。このゼムリア大陸において最も高いとされるオルキスタワーの初公開をもって、此度の西ゼムリア通商会議の開催が宣言された。各国の首脳陣、関係者、遠くから眺める市民達は感嘆し、或いは驚愕した。これ程のものを作り上げるのにどれほどの技術が、そしてミラが使われたのか計り知れない。オルキスタワーの完成は、人智の可能性を新たに感じさせるものだった。

 しかし、オズボーンの護衛としてその近くにいるグランはオルキスタワーを前に関心を見せず。その表情は険しく、眉間にしわを寄せている。彼はタワーを視界に別の事を考えていた。

 

 

「(テロリスト達が共同戦線を張るなら、襲撃は恐らく明日の本会議開始後。随行団がタワー内で作業をする今日は、大丈夫だと思うが……)」

 

 

 此度予測される、帝国と共和国のテロリストによる通商会議襲撃。それぞれが各国の代表であるオズボーン宰相とロックスミス大統領の命を狙う以上、殺害する確実性をより求めるのであれば、互いに協力態勢を敷いている可能性が高い。そしてだからこそグランの考えている通り、公の場で対象の二人が揃う本会議に当たる明日が、襲撃が最も警戒されるタイミングとなる。

 であれば、今日テロリスト達が作戦を開始するのは確率的に低い。随行団のメンバーの内、トワが配属された組が作業を行う予定のオルキスタワーは比較的安全だろう。鉄血宰相の護衛で彼女のそばを離れなければいけないグランは、少し考える素振りを見せながら独りでに納得していた。そんな中、彼はオルキスタワーを見上げていたオズボーンから不意に声を掛けられる。

 

 

「真面目な事だ。依頼をした側が言うのも可笑しな話だが、少しは肩の荷を下ろしても良いのではないか?」

 

 

「これも性分だ。アンタの護衛とクロスベルの情報整理に手を割かれたら、ここにいる間は会長と殆ど離れるからな。心配もするし、手を尽くしたくもなる」

 

 

「そうか。学友の方は精々守ってやれ。護衛についても明日の本会議が契約の主な内容だ。夕食の時刻までに戻ってくれば、ここでの行動はある程度許容しよう」

 

 

「ヘェ〜、紅の剣聖殿はフリーって訳か。だったらこっちの仕事も手伝ってくれると助かるゼ」

 

 

「そっちはそっちでやってろ」

 

 

「手厳しいねぇ」

 

 

 会話に入ってきたレクターはやれやれと首を振りながら、顔を背けるグランを視界に捉える。そもそも初めからあてにしていなかったのか、飄々とした姿はそのままで、落ち込んだようには見えない。グランも彼の事はまともに相手にしていないようで、改めてこの地で行える最善手を考える為、思考を巡らし始めた。

 今回のテロリスト襲撃に備え、あてに出来る戦力は大きく分けて四つ。自身を含めた帝国側の戦力は勿論の事、カルバード側からもそれなりの手練れは来るだろう。そして遊撃士は風の剣聖を初め、顔見知りもいる。クロスベル警察、クロスベル警備隊にもそこそこ期待はできる。ただのテロリスト相手ならば、これでも充分すぎる戦力だ。しかし、その戦力の中に懸念事項はある。

 

 

「(赤い星座に黒月(ヘイユエ)……鉄血と狸が何を考えているのかは別にしても、この二つは警戒するに越した事はないか。何れにせよ、護衛対象は必ず守ってみせる)」

 

 

 不安材料は多々あるが、鉄血宰相の護衛として、何より随行団の一員として訪れたトワを守る為に。この先考えられる展開を、起こりうる可能性の全てを予測して。必ず大切なモノを守りきると、改めて彼はここに誓うのだった。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 ディーターによって各国代表がオルキスタワー内部の案内を受けた後。昼食会を終えた首脳陣は、それぞれが目的の為に散り散りになった。グランの護衛対象でもあるオズボーンは軍の護衛を連れて迎賓館へ向かい、トワはオルキスタワー内部の一画で宰相のスケジュール調整や視察の資料作成、レポートなどのまとめに明け暮れている。

 本当であればトワをからかいにオルキスタワーへ向かいたい彼だったが、自身の趣味嗜好で動くわけにもいかず。事前に届けていたある依頼を受けてもらう為、グランは一人遊撃士協会クロスベル支部を訪れていた。

 

 

「邪魔するぞ……何だ、他の遊撃士は不在か」

 

 

「あら、誰かと思えばグラン君じゃない。猟兵が遊撃士協会に何の用事?」

 

 

「依頼を出しに来た。と言っても、話は特務支援課が来てからになるが」

 

 

「……取り敢えず先に二階の席でかけてなさいな。大したもてなしは出来ないけど」

 

 

「了解だ」

 

 

 互いに敵対関係とはいえ、歓迎ムードではない場の空気にグランは苦笑を漏らしながらカウンター横の階段へ向かった。赤い星座、黒月(ヘイユエ)という警戒対象に加えて結社に連なる者が突然現れたのだ。公的な立場での来訪だとしても、遊撃士協会側が彼を警戒するのは仕方がないだろう。

 階段を上がり、横長のテーブルに合わせて複数設置された椅子の一つにグランは腰を下ろす。そして、クロスベル警察、特務支援課のメンバーが訪れるのを静かに待つグランだったが、テーブルの端で何かの教本を片手に頭を悩ませる少年とふと視線が合った。

 

 

「ど、どうも」

 

 

 勉学に励んでいた銀髪の少年は、視線が合うなり困惑した様子で挨拶を行う。グランはそんな彼の姿に、人見知りな性格なのかと軽く会釈をするにとどまった。一つ気になることはあるが、その程度の覇気なら大した手練れではないと判断したからだ。それに、余り懇意に接しても、それはそれで彼にとっても迷惑だろうと。

 そして、その判断は彼ーーーーナハト=ヴァイスにとっても非常に有り難かった。死を恐れて逃げて来た場所に最も近い存在、それも規格外の人物と遊撃士協会の中などという思いもしない場所で出逢ってしまったのだから。

 

 

「遊撃士なんて仕事は余りお勧めしないが、戦場なんかよりは遥かにマシだろう。ま、精々頑張れよ」

 

 

「っ!?……ハハ、ありがとうございます」

 

 

 興味無さげに、ナハトへ励ましの言葉を贈るグラン。彼がどの様な経緯で遊撃士を目指すに至ったのか全く関心が無い訳ではなかったが、彼が目指すそれが自身とは相容れないものであると、僅かばかりの関心もアッサリと切り捨てる。以前に面識があればまだ対応は違ったかもしれないが、知り合いでもない“元猟兵”とこれ以上話す必要は特に無いからだ。

 対して、グランの言葉に作り笑いで返しているナハトは、正直気が気ではなかった。

 

 

「(はは、このクラスが相手だとやっぱり気付かれるか……って何で紅の剣聖なんて化け物がここにいるんだよ!?)」

 

 

 グランが遊撃士協会から去るまで、冷や汗を流しながら遊撃士についての勉強を続けるナハトであった。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

「差出人不明の要請、ですか?」

 

 

 クロスベル市中央区、特務支援課ビル一階のフロア。クロスベル警察捜査官ロイド=バニングスは、課長のセルゲイから伝えられた要請内容に疑問を抱いていた。差出人不明の要請、そしてその内容は待ち合わせの場所で詳細を話すというもの。はっきりとしない要請に、彼が訝しむのも当然だ。そして、ロイドの隣の椅子に座る胸の豊かな銀髪の女性、エリィ=マクダエルは一人手を挙げる。

 

 

「ちょっといいかしら。その要請なんですけど、課長に直接届けられたんじゃないんですか?」

 

 

「ああ。それがな、ついさっきデスクの上を見たらこれが置いてあってな」

 

 

「それって不法侵入されたって事じゃないですか!?」

 

 

 やれやれと困った様子で片手の便箋を揺らすセルゲイの言葉に、戦闘帽を被る茶髪の女性ノエル=シーカーは驚きを露わにして声を上げる。要請の内容は検討するにしても、大前提として特務支援課ビルに無断で立ち入られたというのが問題だ。警察の施設内に不法侵入とは、大胆不敵にも程がある。

 セルゲイ曰く、オルキスタワーがお披露目された後、ロイド達がここへ戻って来てから昼休憩に入るまで、デスクに便箋は置かれていなかった。であるならば、彼らが小休憩で一時的にこのフロアを空けた僅かな時間に侵入されたという事になる。

 そして、不法侵入を許したという事は、もう一つ確認しておかなければならない点がある。緑髪の中性的な容姿の人物、ワジ=ヘミスフィアはその疑問を問い掛けた。

 

 

「所で一つ確認なんだけど、盗まれた物とかはあるのかい?」

 

 

「その辺りは大丈夫だ。この要請の手紙を置いた奴が荒らした形跡は特に無い。お前達は自分の部屋にいたんだから、何か盗まれているなんて事は無いだろうしな」

 

 

 ワジの疑問に、セルゲイは窃盗の心配は無いと告げた。通商会議前、警戒態勢の中各所との連絡も担うセルゲイの部屋となると、情報の漏洩が最も危険視されたが、どうやら本当に要請の手紙を置いていっただけで、重要な情報等を見られた可能性も低いとの事。それが分かっただけでも一先ず安心だと、女性陣のエリィとノエルは胸を撫で下ろしている。

 しかし、ここで二人の安心に不安要素を投げ掛ける者が。グランの従兄であり、特務支援課のメンバーの一人ランディ=オルランドである。

 

 

「お嬢達が安心してるとこ悪いんだが、まだこのビルの中にいるって可能性もあるんじゃないか? 仮にもしそいつが男だった場合、他に侵入される所は大体予想がつくがな」

 

 

「ちょ、ちょっとランディ何変なこと言ってるのよ」

 

 

「そ、そそそうですよ。ランディ先輩何言ってるんですか」

 

 

「今もお嬢かノエルの部屋で色々漁ってたりしてな」

 

 

 ニタリとランディが笑みを浮かべた途端、エリィとノエルは叫び声を上げながら自室を確認するべく全速力でその場を後にする。その冗談はタチが悪いとロイドがため息をつき、ワジはケラケラと一部始終を見て笑っていた。話が脱線してしまい、セルゲイは一人頭を抱えているが。

 数分ほど経過した後、自室に戻っていた二人は息を切らしながら階段を下りてくる。彼女達は疲れ切った表情で席へと着いた。

 

 

「突然取り乱してごめんなさい。取り敢えず私の部屋は大丈夫だったわ」

 

 

「私の部屋も特に変わった事は……ランディ先輩も驚かさないでくださいよ!」

 

 

「ハハ、悪い悪い。それより、その手紙さっきから気になってたんだが……」

 

 

「これがどうかしたのか?」

 

 

 話を元の手紙の内容に戻し、何か気付いた様子のランディはセルゲイから手紙を受け取る。紙に記された文面を確認した彼は、どこかで見た事のある癖字だと首を捻り、見覚えがあるというその言葉にロイド達も驚きを見せた。しかしランディの知り合いならわざわざ匿名で要請する必要は無く、ますます分からないと一同は頭を悩ませる。結局のところ、真相を確かめるには待ち合わせの場所に向かう以外に方法は存在しない。

 

 

「一先ず指定された場所に行ってみよう、そこで差出人が誰なのかはすぐにわかるわけだし」

 

 

 特務支援課のリーダーであるロイドの提案に、メンバー全員が頷いた。そして、一斉に待ち合わせ場所が記された文面へと視線を移す。

 

 

『民を守りし平和の体現者。魔都を支える拠点にて待つ』

 

 

 謎かけを前に、とある人物が皆の頭に浮かんだのは言うまでもない。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

「待ってたわ。丁度お茶の用意が出来たの、上がってちょうだい」

 

 

「どうも、ご無沙汰しています。待ってた……ということは、あの要請はミシェルさんが?」

 

 

「違うわよ。彼なら二階で待ってるわ」

 

 

 遊撃士協会クロスベル支部にて。トレイに複数のティーカップを載せて運ぶ途中のミシェルは、屋内に姿を現したロイド達特務支援課の面々の前に歩み寄った。直後に二階へ上がるよう彼らに促し、一人階段へと向かっていく。揃えて首を傾げながら、ロイド達も彼の後に続いた。

 特務支援課に出された差出人不明の要請は、遊撃士協会クロスベル支部の事を指していた。数々の要請に応えてきた彼ら特務支援課には簡単な謎かけではあったが、待ち合わせの場所が場所だけに相手も下手な真似はできないと分かって一安心。更に一同の頭によぎった人物の可能性も無くなったため、ある程度の心の余裕がロイド達にも出来ていた。

 クロスベル支部の二階へ上がり、先頭を歩くロイドは席に座る紅髪の人物を視界に捉える。ロイドに続いて支援課のメンバーが二階に姿を見せ、同時に彼もその身を翻した。

 

 

「多忙な中、要請に応じてもらい感謝する、特務支援課の諸君……ってのは、流石に偉そうですか」

 

 

「君は確か、以前ランディに会いに来た……」

 

 

「グランじゃねぇか!? なんでお前がここに……ってかあの紛らわしい手紙はお前かよ!」

 

 

 苦笑気味のグランの姿に、ロイドとランディは驚き混じりに彼の元へと近寄った。そして見たことのある字はグランのものだったのかとランディが一人納得している中、彼らの後ろから残りの支援課メンバーが集まる。エリィにノエル、ワジの三人は共にグランと初対面な為、不思議なものを見ているかのような目でグランを視界に捉えていた。すかさず、ランディから紹介が行われた。

 

 

「お嬢にノエル、ワジは初対面だよな。俺の従兄弟にあたるんだが、あのシャーリィと双子の兄、グランハルトだ」

 

 

「初めまして、グランハルト=オルランドです。特務支援課では、いつもランディ兄さんがお世話になっているそうで……これからもよろしくお願いします」

 

 

「ふふ、ご丁寧にありがとう。話には聞いていたけど、ランディとは違って礼儀正しいのね。エリィ=マクダエルです、こちらこそ宜しくお願いします」

 

 

「ノエル=シーカーです。ランディ先輩には以前からお世話になっています、私の方こそ宜しくお願いしますね」

 

 

「ワジ=ヘミスフィアだよ、どうぞお見知り置きを。グランハルトって言うと、君があの“紅の剣聖”なのかい?」

 

 

 各々自己紹介を終え、最後にワジから投げかけられた問いにグランはその通りだと頷いた。ロイドとノエルは紅の剣聖と聞いて首を傾げるが、エリィは知っていたのかその顔を驚かせる。先程までの子供を見詰める様な優しい表情から、途端に目を丸くした。

 

 

「エリィは知っていたのか?」

 

 

「え、ええ。紅の剣聖と言えば、これまで各国の首脳クラスを対象に、何度も護衛任務をこなしてきた凄腕の猟兵よ。人を護る仕事を専門にしている彼の理念に、猟兵の入国を禁止しているリベール王国の女王陛下でさえ雇用を認めたっていう話は有名ね」

 

 

「そ、そんなに凄い男の子だったの、君!?」

 

 

「そんなに大した人間じゃないですよ。アリシア女王陛下の特別雇用の件についても、各国への牽制で唾をつけただけだと思いますし」

 

 

「それが凄いんじゃない。グランハルト君一人の為にリベールの規律を覆したようなものなんだから。それにしても、本当にこの子ランディの従兄弟さんなの? こんなに常識のある子が、とてもそうは思えないのだけど……」

 

 

 褒めても何も出ないとグランが苦笑を漏らす中、ランディはエリィの疑問に余計なお世話だと額へ青筋を立てた。ロイドとノエルは二人の様子にから笑いで、ワジは依然探るような目をグランへと向けている。グランもその視線には気付いたようで、目を合わせた一瞬、グランの表情が温厚なものから好戦的な笑みへと変化した。

 

 

「(こちらの正体は明かしていないっていうのに、もう感づかれたか……今後の彼の動向には注意をしておいた方がよさそうだ)」

 

 

「ワジ、どうしたんだ?」

 

 

「あ、ああ。何でもないよ」

 

 

「そ、そうか?」

 

 

 僅かな動揺を見せるワジの顔を見て不思議に思うロイドだったが、はぐらかされて彼の変化に気付く事はなく。グランも元の温厚な表情に戻っており、ワジ以外はグランの見せた一面に気付く事は無かった。

 ミシェルが各席にティーカップを置き、そろそろ本題に入ろうと提案して一同はそれぞれ席に着く。要請の手紙の差出人であるグランから、各々へ説明が行われた。

 

 

「明日、オルキスタワーで西ゼムリア通商会議が行われるのは当然知っていますね? その本会議において、帝国と共和国で活動をしているテロリスト達の襲撃が予想されています。その情報はそちらには?」

 

 

「!? その話、詳しく聞かせてくれ」

 

 

「では、オレが学生として帝国にいた間の、エレボニアの内情から説明させてもらいます」

 

 

 ロイドに説明を促され、グランは今現在の帝国の内情、革新派と貴族派の対立から、テロリスト出現の大まかな経緯を話した。そしてその内容はロイド達特務支援課のメンバーには知らされていなかったようで、皆驚いた様子で話に聞き入っている。ミシェルは遊撃士協会の情報網である程度は仕入れていたらしく、それ程驚いてはいないようだが。

 グランによる説明が一通り終わり、話は改めて要請の主な内容に移る。

 

 

「今回オレは、帝国政府の依頼を受けて彼らの護衛任務に就いています。そこで、今回の通商会議ではオレを含め、クロスベル警察、クロスベル警備隊、遊撃士と協力態勢を敷きたいと考えています」

 

 

「ちょっと待って頂戴。通商会議の警備についてなら、既に各国同士とクロスベル、うちも含めて話はついているはずよ。どうして今更グラン君がそれを?」

 

 

 ミシェルの疑問はもっともだ。各国が集う会議の場で、警備の面において話がされていないはずがない。現に遊撃士協会には、当日の本会議を見届ける役目としてアリオス=マクレインが出席する旨を伝えられている。本会議中の警備についてもクロスベル警察、クロスベル警備隊も各国の警備とそれぞれ協力して既に動いている。今更そんな話をされても、と考えるのは正しいだろう。

 ただし、事前に行われたそれがあてに出来ればというのが前提ではあるが。

 

 

「帝国と赤い星座、共和国と黒月(ヘイユエ)の関係性を知っているあんたらが分からないとは言わせんぞ」

 

 

「……なるほど。“信用出来ない”というわけね」

 

 

 流石は遊撃士協会の代表といったところか。グランの僅かな言葉で、ミシェルはその考えを当てる。それと同時に、改めてこの少年の行動力と思慮深さに身を震わせた。確かにこの少年は、齢十六の若さでありながら剣聖の器を持っていると。

 ただ、彼らだけが納得しても話は進まない。グランが何故改まってこんな話を持ちかけたのか。その意図を皆に理解してもらわなくては、話は先に進めないからだ。グランが説明しようとした矢先、エリィから質問が飛ぶ。

 

 

「えっと、信用出来ない、というのは?」

 

 

「簡単な話ですよ。帝国は赤い星座と、共和国は黒月(ヘイユエ)と、それぞれ何らかの契約を交わしたという情報があります。表で警備体制を敷いておきながら、裏では猟兵団や犯罪組織と手を組んでいる。考えられる可能性としては、先日の教団事件を受けてクロスベルの警備をあてにしていないか、若しくはテロリストの襲撃に合わせて何か別の狙いがある……或いはその両方」

 

 

 クロスベル警察、遊撃士協会クロスベル支部の双方が警戒をしている二つの勢力。ここにきて名前の挙がったそれらに、一同は表情を険しくさせていた。そしてだからこそ、誰もがグランの推測を眉唾物と言い切る事が出来ない。可能性として、彼の話は確かにあり得る事なのだから。

 ただ、それと話の内容を全て納得するというのは別の問題で。

 

 

「クロスベル警備隊をあてにしていないって……そ、それはどういう事ですか!」

 

 

「ノエルさん、落ち着いてください。現時点で、帝国と共和国側がクロスベルに不安要素を見出すとしたらの話です。オレ個人としては、警備隊の人と手合わせをした経験もありますし、その実力は高く評価しています。それに、教団事件についても概要は把握していますし、警備隊の皆さんに落ち度が無い事も知っています」

 

 

「あ……その、突然怒鳴ったりしてごめんなさい」

 

 

「気にしないでください。それに、こちらの方こそ言葉が足らず不愉快な思いをさせてしまい、すみませんでした」

 

 

 一先ず話の誤解も解け、場の緊張は無くなった。ノエルは学生に怒鳴ってしまって大人げなかったと落ち込みを見せるが、ワジとランディのフォローで何とか笑顔を戻す。

 そして、一同は改めてグランの顔を見据える。帝国から護衛任務で訪れ、その身内も信用出来ない中で彼の取った最善の行動が、個人的にクロスベル側の人間と協力態勢を敷くというもの。とても学生の起こせる行動ではないと、彼の内に潜む本質の一部を垣間見た気がして鳥肌を立てた。

 

 

「さて、これでオレの依頼は理解して頂けたと思いますが、どうですか?」

 

 

「ああ。こちらこそ、喜んで協力させてもらうよ」

 

 

「警備隊の方でも、出来る限り協力させて頂きます」

 

 

「こちらも了解したわ。遊撃士協会の人間として、クロスベルの危機に見て見ぬ振りはできないもの」

 

 

 グランの要請は、クロスベル側の人間に無事引き受けられた。二大国の思惑に反する事になる以上、戦力としては不十分かもしれない。仮に一矢報いたとしても、大局は動かない可能性が高い。それでも、守るべき存在があるから。出来る限りの事を行動に移し、少しでも良い方向に物事を進める為に。

 

 

「では、これから皆さんにお願いしたい事があるので、その話から————」




 ランディが空気になってますね。ま、まあ彼は成長したグランの姿を見守っていたという事に……とそれはそうと、漸くグランが特務支援課(ティオは居ませんが)と出会いました。次話で支援課との交流も含めてクロスベル内を行動する事になります。果たしてエリィの胸は無事なのか!(オイ

 暁の軌跡から友情出演! ナハトはクロエと違って先にクロスベルに到着してミシェルさんと出逢っていたようですし、遊撃士の勉強をしていたみたいなのでこういったサプライズもありかなと。ナハトにはいい迷惑ですけどね!

 そう言えば、待ち合わせの場所を謎かけで記すなんてグランはまるで怪盗みたいですね(すっとぼけ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。