紅の剣聖の軌跡   作:いちご亭ミルク

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光刃残月

 

 

 

──ラウラ、壊れた街道灯持っててくれ──

 

 

──うむ、承知した……あっ──

 

 

 農家の人から皇帝人参を受け取ったリィン達三人は、グランとラウラが二人で街道灯を取り替えている姿を遠くから見守っていた。街道灯を手渡した際に互いの手が触れ合ってしまい、ラウラが一人恥ずかしさで顔を赤くしたりする様をアリサがニヤニヤと眺めている中、その隣でリィンが話し始める。

 

 

「へぇ、ラウラってもしかしてグランの事を?」

 

 

「もう一押しって所かしら? 今はまだ剣の道っていう共通点から惹かれている感じがするし。にしても──」

 

 

「リィンって他人の事だと直ぐに気付くんだね」

 

 

 苦笑いを浮かべたエリオットの言葉に、リィンはエリオットが何の事を言っているのか分からず首を傾げていた。アリサは一人深いため息をつきながら、そんなリィンを見詰めている。他人の事を気にしている場合じゃないアリサだった。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 街道灯の交換を終えたグランとラウラの二人はリィン達三人と落ち合うと、五人でケルディックの町へと向かい始める。そしてその道中、リィン、アリサ、エリオットの三人が並ぶ後ろで会話をするグランとラウラの姿があった。

 

 

「グラン、先程の魔獣との戦いでは中々良い連携だったな」

 

 

「そうか? ラウラならもう少しいけるだろ」

 

 

「ふむ……ではもう一度合わせてみるか」

 

 

 顎に手を当てて考え始めるラウラを見て、余計な事を言ったとグランは苦笑いを浮かべながら頭を掻いていた。結局、その後は魔獣と戦う機会がなくラウラは一人落ち込んでいたが。そして程なく、A班一行はケルディックの西口へと差し掛かる。

 

 

「はぁ、やっと町に戻ってこれたよ……」

 

 

 エリオットは膝に手をつきながらそんなことを口にする。《Ⅶ組》の男子メンバーの中でも体力の低いエリオットには、少々キツかったかもしれない。お疲れ様、と隣にいるリィンが声を掛ける中、その背後にいたグランは頭の後ろで手を組みながら、何を言っているんだとエリオットに話す。

 

 

「おいおい、午後は手配魔獣の退治もあるんだぞ? 帝国男子足るもの、これくらいでへばってどうする」

 

 

「……グランに言われるとは思わなかった」

 

 

「まぁ、グランが言わなくても私が言っていたがな」

 

 

 腕を組みながらそう話すラウラに、エリオットは肩を落としてリィンとアリサへ助けを求めた。二人共苦笑いを浮かべながらエリオットを励まし、五人は一度大市の開かれている場所へ訪れて薬局からベアズクローを入手。その後工房『オドウィン』へ赴いて壊れた街道灯を渡して取り替えの報告をすると、礼拝堂に向かい教区長へ依頼の品を渡した。気が付けば昼を少し過ぎており、そのまま五人は少し遅めの昼食を取ろうということで風見亭を訪れる。そして酔い潰れたサラを遠目にため息をつきながら食事を終えた五人は、午後に行う予定の魔獣退治の依頼を受けようと風見亭を出て町の東にある街道へと向かった。

 

 

「ラウラ、確かサイロって人の依頼だったよな?」

 

 

「よし、グラン。今度こそ試してみるぞ」

 

 

「人の話聞いちゃいねぇー」

 

 

 街道を意気揚々と歩くラウラの後ろではグランが肩を落とし、リィンとアリサ、エリオットが二人の様子に笑みをこぼしながら続く。しかし……街道では何と一度も魔獣と遭遇することなくサイロという名前の人が住んでいる農家へと辿り着いた。またしてもラウラが一人落ち込んでいる中、四人はサイロから魔獣が生息している場所を聞き出し、街道の先へと進んでいく。そして街道の外れに坂があるのを見つけた五人はそれを上り、上がった先の高台──そこで件の魔獣を見つけた。二足歩行で辺りを歩き回るその蜥蜴型魔獣は、時折開いた口から鋭利な牙が見え、凶暴性を感じさせる。五人がそれぞれ武器を構え、魔獣もリィン達の姿を捉えたのか五人の元へと向かってきた。そして、グランが動く。

 

 

「弐ノ型──疾風(はやて)!」

 

 

 戦闘開始、先ずはグランの先制が決まる。気が付けばグランは刀を抜刀した状態で魔獣の後方に立っており、彼のすれ違い様の斬撃は魔獣にダメージを与えるとともにその体を硬直させた。グランの動きに一同が感嘆の声を漏らす中、その隙を見逃さず、刀を納刀しているリィンがそこに続く。

 

 

「四ノ型──紅葉切り!」

 

 

 同じくリィンも魔獣の横を駆け抜け、その際に刀を抜刀して魔獣の体へと一撃を叩き込む。八葉の業の連携──魔獣の体勢を崩すには十分すぎた。

 

 

「アリサ!」

 

 

「任せて!」

 

 

 リィンの声に離れた場所で弓を構えていたアリサは、導力によって形成された矢を正確な射撃で魔獣の胴へと命中させる。そして《ARCUS》を駆動していたエリオットも水のアーツを魔獣に叩き込み、それが弱点だったのか魔獣の苦しむ姿からは中々のダメージを与えていることが窺えた。敵の体力はあと半分近く。ここでグランとラウラがリンクを繋げた。

 

 

「ラウラ、ついてこい!」

 

 

「承知した!」

 

 

 グランが刀を構えて魔獣の背後に接近、ラウラは正面へ躍り出ると二人同時にその体へ強烈な斬撃を加える。あまりの一撃に魔獣が硬直する中、二人は魔獣の周囲を旋回しながら幾重も斬り刻み、その姿はまさに剣舞とよんで差し支えのない息の合った連携だった。そして最後に二人は魔獣の後方へ跳躍、ラウラは大剣を構え、グランは刀を納刀して両者が踏み込みの体勢をとる。

 

 

「はあああああ────!!」

 

 

 咆哮を上げて闘気を高めた二人は一斉に魔獣の両サイドを駆け抜け、ラウラは大剣による一撃を、グランはすれ違い様の居合いによる一撃を与えてその先で立ち止まる。だめ押しの攻撃を受けた魔獣は雄叫びを上げながら消滅し、その後に二人が笑顔で向き合った。

 

 

光刃残月(こうはざんげつ)、そんなところか……ラウラ、今のは完璧だったな」

 

 

「そなたのおかげだ。これからも共に高め合おう、そなたと私なら──」

 

 

 笑顔で握手を交わすグランとラウラ。今回の手配魔獣の退治、ラウラにはとても大きな収穫を得ることができたようだ。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 魔獣退治も終わり、農家にいるサイロへ報告を終えた五人は街道を進み再びケルディックの町へと戻る。町の入り口で領邦軍の人間と会い、騒ぎを起こさない様にと念を押されたリィン達は一通りの依頼を終えたということで風見亭へ戻ろうと歩き出した。しかしその時、町の奥からざわざわと声が聞こえてくる。

 

 

「何かあったのかしら?」

 

 

「ああ、行ってみよう」

 

 

 アリサとリィンの声に続いて残りの三人も頷き、五人は町の奥……ケルディックの名物でもある大市が開かれている場所へと向かった。数々の出店が立ち並ぶ中、リィン達は入り口を入って直ぐにその騒ぎの原因を見つける。道のど真ん中で、二人の男が今にも掴み合いになりそうな勢いで言い争いをしていた。

 

 

「ふざけんな! ここは俺が先に取ったんだぞ!」

 

 

「これを見て分からないのかね? この場所を契約したのは私だ!」

 

 

「んなもん偽物に決まってんだろ!」

 

 

「何だと……!」

 

 

 遂に互いの胸ぐらを掴もうと飛び掛かる二人だが、いつの間にか後ろに回り込んでいたリィンとラウラが羽交い締めにして何とかそれを防ぐ。二人を宥めて落ち着かせ、リィンとラウラも男達を放すと争っていた理由を聞こうとした。そんな時、四人の近くでまたしても言い争いが始まる。

 

 

「おいエリオット! ふざけんな!」

 

 

「えっ!? ちょっと、グランどうしたのさ!?」

 

 

 急にエリオットの胸ぐらにグランが掴みかかり、エリオットは何が起きているのか分からず助けを求めた。アリサが傍で驚き、喧嘩の仲裁をしていたリィンとラウラも何が起きたんだと駆け寄ると、グランはエリオットの胸ぐらを掴んでいたのを放して理由を話し始める。

 

 

「いやー、ラウラがそこの兄ちゃんを後ろから止めただろ? そん時と同じ事アリサもやってくれっかなーと」

 

 

「どうしてよ?」

 

 

「だってさ……当たってたろ、胸」

 

 

「なっ!?」

 

 

 グランがラウラの胸へと視線を向け、ラウラがその視線に頬を赤く染めながら両腕で胸を隠した。アリサとエリオットは頭を抱えながら、グランはこういう男だったとそのどうでもいい理由にため息をついている。そしてリィンが苦笑いを浮かべながらその光景を眺める中、一同の元に近づいてくる人物がいた。

 

 

「何やら随分賑やかなようだね」

 

 

「元締め!」

 

 

 その老人は、このケルディックの大市を取り仕切っているオットー元締めその人だった。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

「どうやら君達に面倒をかけてしまったようだね」

 

 

「いえ、そんな事は……」

 

 

 リィン達五人は現在、オットーの家へと招待されていた。言い争いをしていた男達はどうやら商人のようで、同じ場所の使用許可をそれぞれ取っていた事が争いの原因らしい。結局その場所を交替で使用する事で話はついたらしく、騒ぎは一応の終息を迎える。今はそれぞれ用意された場所で店の準備に取りかかっているようだ。そしてその話を聞いている中で、リィンはとある疑問を持った。

 

 

「領邦軍は騒ぎに駆けつけませんでした。自分達と顔を合わせたときはあれほど騒ぎを起こすなと言っていたのに……」

 

 

「そういえばそうね」

 

 

「ふむ……」

 

 

「本当だね、何でだろう?」

 

 

 よく気が付いたね、とオットーはリィンに感心しながらその理由を話し始めた。どうやらここら一帯を治めているアルバレア家──ユーシスの実家から大市の売上税を引き上げられ、それが原因で手取りの減った商人達は生活のため商売に必死になり、今回のようないざこざが度々起こり出したらしい。オットーは大市の評判が下がることによる客足の減少を不安視して、増税取りやめの陳情を何度も出しに行っているが、アルバレア公爵は一向に考え直す気配を見せないという。そして終いにはアルバレア家の従えている領邦軍は町で問題が起きても見向きもしなくなった、という事だ。本来の貴族が持つべき民を守るという理念から外れているとラウラは眉間にシワを寄せ、リィンとアリサもその現状に呆れていた。そんな中、エリオットがグランの様子を見て首を傾げる。

 

 

「どうしたの、グラン?」

 

 

「──いや。人の上に立つ人間はどの世界も同じ何だってな」

 

 

「なるほど……君はこれまでに色んな場所を見てきたようだね」

 

 

「まぁ、少なくともこのメンバーの中では経験豊富な方ってだけです」

 

 

 淡々と口にしていたグランだったが、リィン達はその言葉から深い怒りのようなものを感じ取っていた。ますますグランの過去が気になってくるリィン達だったが、いつの間にかメンバーから視線を一斉に浴びていることに気付いたグランははぐらかすと話を元に戻す。

 

 

「よし、風見亭に帰ってレポートでも書くかな」

 

 

「うわぁ、明らさま過ぎるよグラン」

 

 

「深くは聞かないけどね。私も人の事を言えた義理じゃないし……」

 

 

「……」

 

 

「オットー元締め、今日はお招きいただいてありがとうございました」

 

 

 リィンがメンバーを代表してお礼を言った後、五人はそれぞれが頭を下げて家を出ていった。そしてリィン達のいなくなった中、オットーは一人呟く。

 

 

「特科クラス《Ⅶ組》──ヴァンダイク学院長が期待しているのも頷けるな」

 

 

 この町の代表は、早くもリィン達に確かな可能性を見出だしていた。

 

 

 




段々タグが詐欺みたいになってきた……早く実習終えて会長出さないとマジでラウラがメインヒロインに……因みにグランのクラフトはこんな感じです。


『疾風』CP20 円L(地点指定)威力S 駆動解除 遅延+35

『残月』CP20 自己 物理完全回避 反撃50%

オーガクライ CP60 自己 STR+50% SPD+50%(5ターン) CP+100

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