紅の剣聖の軌跡   作:いちご亭ミルク

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一夏の思い出 下

 

 

 

 夕刻の時間。ガルニエ地区のホテルに宿泊しているグランは、部屋に設置されたテーブルに着いて夕食を取っていた。流石はVIP専用の部屋といったところか、ルームサービスも充実しており、提供される食事の質は高く、種類も豊富でテーブルの上には所狭しと料理が並べられている。そしてこの夕食の時間、明日の予定をトワと話しながら、グランは今日の夕食を満喫する筈だった……そう、それを楽しみにしていた。

 

 

「うむ、この牛の煮込みも中々に美味だな。フィー、食べてみるといい」

 

 

「ありがとラウラ……ん、中々」

 

 

「フィーちゃん、お口にソースが付いていますよ」

 

 

「ぷはぁーっ! 夏の夜はビールに限るわね!」

 

 

「……お前ら帰れや!」

 

 

 台無しだった。サラは酔っ払い、ラウラとエマは未だに同席し、何故かフィーまで増えている。トワと二人で仲良く食事だとか、いい雰囲気で会話をするなんて暇もない。グランの隣の席ではトワも四人の姿を眺めながら笑顔で食事をしているので、彼女が楽しんでいる以上変にラウラ達を叱るのもどうかと思ったグランだったが、流石に我慢の限界が来たようだ。そんなグランの顔に視線を移して彼を宥めるトワ、サラは酔っ払っているので聞く耳持たず、ラウラ達は少し不満げにグランの顔を見詰めていた。折角の楽しい食事に水を差すなと言いたそうだが、グランからすればこちらの台詞である。

 とは言えラウラ達にも邪魔をしているという罪悪感があるのだろう。少し不機嫌な様子でトワに受け答えするグランを見ながら、僅かに表情に陰りを見せていた。

 

 

「……少々長居し過ぎたかもしれぬ」

 

 

「はい……やっぱり、私達は帰った方がいいかもしれません」

 

 

「別にそこまで気にする必要も無いと思うけど……サラがいる時点で雰囲気も何もないし」

 

 

「ん~、今馬鹿にされた気がするのは気のせいかしら?」

 

 

 食事の手を止めたラウラとエマをフォローする様にフィーは話すが、今回グランとトワはデートという事で帝都へ来ている。その事を二人が説明している訳ではないが、彼女達もそれを勘付かない程鈍感ではない。ただフィーの言い分として、今のサラの状態を見れば自分達がいてもいなくても雰囲気は台無しだと言いたいのだろう。これについてはサラを選任した生徒会メンバーに落ち度があった。

 ただ、それを踏まえてもラウラとエマが感じているように、彼女達がこの場にいるのは場違いなのかもしれない。だが、ここでラウラ達を突き返すのもグランにとっては後味が悪いのも確かだ。

 

 

「はぁ……帰れとは言ったが、今更気にしなくてもいい。確かにフィーすけの言う通り、サラさんがいる時点で雰囲気も何もないしな」

 

 

「あはは……そうだね。折角だし、みんなで仲良くしようよ、ね?」

 

 

「……ふんだ、どうせ私はお邪魔虫ですよーだ」

 

 

 そしてグランとトワもフィーの意見を肯定してしまった為、流石のサラも不貞腐れてしまう。トワだけが慌ててそんな事はないと彼女をフォローするが、他の皆は苦笑を浮かべるのみで擁護の一つもなかった。

 しかし、何故かサラがグランとトワのデートに水を差しているようになっているこの流れ。だが実際のところ、このメンバーの中で一番の被害者はサラだという事を忘れてはいけない。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 帝都に夜の帳が下り、歓楽街が昼間以上の賑わいを見せる頃。ホテルの部屋に設置されたソファーで寛いでいるグランは、ワイングラスを片手に溜め息を吐いていた。彼が表情に陰りを見せる理由は、現在隣の寝室で寝ているトワやサラの事でも、別の部屋を取ってホテルに宿泊しているラウラ達の事でもない。それはとある理由で先月の帝都の一件から警戒をしていた筈なのに、何故か無警戒でホテル内にて遭遇したヴィータについてである。

 と言っても何故無警戒だったのかはグランも粗方の見当が付いていた。それは彼が以前に所属していた組織内において、『蒼の深淵』の異名で呼ばれている女性が得意とするもの。この世の因果を捻じ曲げる事を可能とする術、帝国に古くから伝えられる魔女の眷属という存在のみが知り得る秘技。

 

 

「いつでも此方の手を封じれるという警告か……それとも本当にただ会いたかっただけなのか……どちらにせよ、こうして考えている事自体無意味なんだろうが」

 

 

 酒が廻れば陽気になる性格のグランとは思えないほど、今の彼が浮かべている表情は深刻なものだった。帝都の街でトワと過ごしていた時の笑顔は嘘だったかのような、苛立ちと深い絶望を抱えた色の消えかかった瞳。今のグランはかつてクオンを失った時と似た状態へ陥りかけていると言っていい。

 どうしてヴィータと会ってしまったというだけでこれ程の落胆を見せるのか、何故これ程までに彼は何かを諦めたような表情を浮かべるのか。それを知るのはグラン本人だけだ。

 

 

「先が見えるというのも考え物だな……どう足掻いても、所詮は負け戦か」

 

 

 グラスに入ったワインを口に含み、飲み込むと再度溜め息を吐く。溜め息ばかり吐いていると幸せが逃げると言うが、まさに負の悪循環へ陥っている今のグランを表した言葉だろう。部屋の明かりは消えていない筈なのに、この場の空気が重苦しい為か暗く感じた。

 考えれば考えるほど、脱け出す事の出来ない暗闇の迷宮。それでも、暗闇の隙間にはいつだって光があるものだ。

 

 

「もう、グラン君お酒飲んじゃダメだよ!」

 

 

 暗闇を照らした光は、隣の部屋から起床してきたトワの声だった。昼間のワンピース姿とは打って変わって、袖が手首まで伸びたシャツとワンサイズは裾の長いスウェットパンツを着用したトワはかなりご立腹である。グランは声が聞こえた直後に冷や汗を流しながらワイングラスを横の台へと置き、明らかに怒った表情のトワが近付いてくる姿を色を取り戻した視界に捉え、どう言い逃れしようかと苦笑いを浮かべていた。

 やがてグランの傍へと歩み寄ったトワは、その頬をこれでもかと言う程に膨らませる。

 

 

「全く、目を離すと直ぐにこれなんだから」

 

 

「えっと……そうそう! 会長、これ実はワインに見せ掛けたジュースなんですよ!」

 

 

「嘘、お酒の匂いがする」

 

 

「そこも再現しているだけで本当にジュースなんですよ。疑うんだったら飲んでみて下さいって」

 

 

「……ほ、本当?」

 

 

「本当ですって。オレが会長に嘘ついた事なんてあります?」

 

 

 寧ろ嘘をつかなかった事がないと思いながら、トワはグランの隣に座ると疑い深い目を向けてワイングラスを受け取り、中身を口へと含む。勿論、グラスの中身は本物のワインなのでトワは直ぐに渋い表情を浮かべた。

 

 

「これ前にアンちゃんに飲まされたのと同じ味がする……もう、やっぱり本物だよ……」

 

 

「会長お酒飲んだ事あるんですね。あ~あ、生徒会長なのに駄目じゃないですかー」

 

 

「ち、違うんだよ!? 飲んじゃダメだよって注意したら、アンちゃんが急に口移ししてきて……じゃなくて! あう……余計な事まで言っちゃった」

 

 

 グランの煽りを受けて話さなくていい事まで口にしてしまい、トワは恥ずかしさからか頬を朱色に染めて視線を下へと落とした。そんなトワの様子をニヤニヤと笑みを浮かべながら眺めていたグランは、彼女の手からワイングラスを取り、残っている中身を自身の口の中へと流し込む。その行為を横目に見ていたトワは声にならないといった様子で、耳の先まで真っ赤になっていた。

 そして、流石に悪戯が過ぎたかもしれないと、直後にグランは羞恥心に堪えているトワを見て苦笑する。

 

 

「(ったく、会長は本当に良いところで来ますよ……あんだけ悩んでいたオレが馬鹿みたいじゃないですか)」

 

 

「もう、グラン君ってばそんな事ばっ、かり──」

 

 

 ふと、顔を真っ赤にしていたトワが隣に座っているグランへ体を預ける。どうやら寝ていた途中の上、アルコールを摂取してしまった事で急な睡魔に襲われたらしい。その表情は最早寝る寸前で、瞼が閉じかかっていた。トワは寝まいと必死に目を開けようとする。

 

 

「ごめん、ね。直ぐ、にベッドへ、行く、から……」

 

 

「はは、別に気にしなくていい……って、もう寝ちまったか」

 

 

 トワの睡魔への抵抗も空しく、彼女はグランの左肩を枕にしながら規則的な呼吸を始める。このままの体勢で寝ていると流石にトワが体を痛める可能性もあるので、少しだけ今の時間を楽しんでから彼女をベッドへ運ぼうとグランは考えた。

 自身の肩へ頭を預けるトワを横目に暫く眺めた後、彼の表情は何かを決意したようなものへと変わる。

 

 

「(どうせ負け戦だ。だったらせめて、会長が少しでも笑っていられるように頑張ってみますか)」

 

 

「えへへ……もう、グラン君ったら……みんなが見てるよ……」

 

 

「……会長の夢の中のオレは公衆の面前で一体何を要求してるんだ?」

 

 

 改めてこれから自身の歩む方向を定める最中。隣でなんとも情けない表情を浮かべながら寝言を口にするトワを見て、自分が彼女からどのように見られているのかが少し不安になるグランだった。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 夜の帳は上がり、帝都の空には晴れやかな青空が広がりを見せる。早朝の時間、グラン達三人は別の部屋で宿泊していたラウラ達を誘い、六人で朝食を取っていた。口にソースが付いたフィーを見て微笑むラウラ、そのソースが付いた口を代わりに拭いているエマ。笑顔の絶えない朝の食事風景に、グランとトワの表情も自然と笑みがこぼれている。

 朝食を取り終え、身支度を整えたグラン達は部屋を出てホテルのロビーへと降りた。そしてそんな中、ホテル内が僅かに忙しなく感じたグランは首を捻ると、受付に立っている支配人の男へ近寄って声を掛ける。

 

 

「おはようございます、お寛ぎ出来ましたでしょうか?」

 

 

「ええ、それにしても何かあったんですか? 妙に騒がしいというか……」

 

 

「申し訳ありません。昨晩見回りを行っていた従業員が、ホテルの地下で大型の魔獣を目撃したようで。遊撃士の方へ依頼をしたのですが、到着が遅れている状況です。当ホテルへ滞在されているお客様の安全は保証しますので、ご安心ください」

 

 

 先月の特別実習にて、ここにいるグラン、ラウラ、フィーの三人が所属していたA班ではホテルから地下道の魔獣退治依頼を受けている。その際に依頼された魔獣と思しき大型の魔獣は確かに討伐しており、この短期間でまた出現したというのは流石に頻度としては異常だ。話を聞いていた他の皆もグランと同様に首を捻っており、此度の大型魔獣出現には疑問を感じている。

 一方でグランは一人何かに気付いたのか、支配人の男へと再び問い掛けた。

 

 

「すみません、その魔獣の特徴とか分かりますか?」

 

 

「はい。何でも歯車が幾つも付いた、機械の様な魔獣だと聞いています」

 

 

「(やっぱりな。あの時全部破壊したつもりだったんだが……)」

 

 

 目撃者による魔獣の特徴は、機械の様な姿。となれば先日テロリスト襲撃の際に、グランがドライケルス広場で相手にした機械仕掛けの魔獣と情報も一致する。同じく現場にいたトワも気付いている様子で、当時の状況報告を聞いていたサラもその表情を真剣なものへと変えた。

 依頼した遊撃士の到着は早くても三時間。そこから地下を探索となると、魔獣を討伐するまでかなりの時間を要するだろう。加えてグランが知る中では、機械の魔獣には厄介な仕掛けもあった。故に、彼の中で選択肢は一つ。

 

 

「鍵を貸してくれ、オレが処理を引き受ける」

 

 

「そうだね、その魔獣が街に出てこないとも言い切れないし」

 

 

「ええ。私も機械の魔獣で気になる事があるし、手伝うわ」

 

 

 地下に現れた魔獣の討伐を任せてくれと、グランにトワ、サラの三人が名乗り出る。ホテルに宿泊している客人にその様な事を頼めないと支配人は話すが、グランの顔を暫し見詰めた後に彼は思い出したようだ。先月特別実習として訪れていたトールズ士官学院の面々の中に、彼やその後ろに立つ少女の顔が確かにあったと。

 

 

「分かりました。大人の方もおられるようですので、正式な依頼として出させて頂きます。しかしそうなりますと、依頼していた遊撃士の方へ断りを入れなければ……」

 

 

「それは必要ないわ。多分その遊撃士は私の顔馴染みでしょうし、丁度会って話したい事もあるから」

 

 

「そうですか……では、こちらが地下へ続く扉の鍵になります。くれぐれもご無理をなさらないようにお願いします」

 

 

 支配人が差し出した鍵を代表でグランが受け取り、彼は振り返るとトワやサラへ視線を移して両者が頷いた事を確認する。トワの腰にはホルスターへ納められた導力銃。サラはブレードと導力銃をそれぞれ腰に下げており、準備も整っている。グランは既に腰へと刀を携えているので、いつでも地下へ向かえるだろう。

 準備も万端。後はラウラ達へ断りを入れるだけだとグランは考えていたのだが、よく考えてみればこの状況、彼女達が見過ごす筈もなかった。

 

 

「あー……ラウラ達はどうするんだ?」

 

 

「無論、手伝わせてもらおう」

 

 

「そだね、朝の運動には丁度いいし」

 

 

「ご迷惑でなければ、私達にもお手伝いさせてください」

 

 

 グランの声に、当然の如く同行を申し出るラウラ達。これだけの戦力があれば、地下に現れたという大型魔獣の討伐もかなり楽になる筈だ。

 それぞれが自身の得物を確認して、地下へ続く扉へと向かい始める。もしこの六人の事を知る者が現在の状況を見れば、これから討伐されるであろう魔獣がさぞかし不憫に思える事だろう。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 帝都の地下、ホテルの下へと続く地下道は特別実習の際に訪れた時と何ら変わりはなかった。道中幾つか仕掛けられているギミックも解除済みで、地下を徘徊している魔獣達もこれだけの戦力だと大した事はなく、特に苦労する事もなく順調に大型魔獣が目撃されたエリアへと進んでいく。

 暫く道なりに進んでいた一行は、行き止まりになっている場所、恐らくは最奥と思われる広い区画へ辿り着いた。しかしフロアには魔獣と思しき姿は無く、皆も拍子抜けだったようで徐々に警戒を解き始める。

 従業員が目撃したと言うのはただの見間違いだったのか……そう思い始めていた一同。だが次の瞬間、グランとサラの声によって警戒は最大にまで膨れ上がる。

 

 

「来るぞ!」

 

 

「あんた達、構えなさい!」

 

 

 得物を構えてグランとサラが鋭い視線を向ける先、突如空間が歪曲を始めると何もない筈の場所から二アージュ強はあろうかという大きさの機械の魔獣が姿を見せる。光学迷彩、光を完全に回折させる所謂ステルス機能と呼ばれるもの。並の技術で成し得る事ではなく、製作した者は余程の技術者という事になる。

 一体かと思われた魔獣は次々と姿を現し、フロア一帯には六人を囲むように計五体の機械仕掛けの魔獣が出現した。皆の退路は完全に絶たれたが、そもそもグラン達に逃げるという選択肢は無い。

 

 

「オレとサラさんと会長で三体引き付ける、後はいけるか?」

 

 

「任せるがよい!」

 

 

「任せて」

 

 

「が、頑張ります!」

 

 

「このガラクタは致命的なダメージを受けると自爆する、それだけは頭に入れておけ!」

 

 

 グランの指示に力強い声を返し、ラウラとフィーはそれぞれが機械の魔獣へと駆ける。エマは二人の補助に徹し、魔獣の解析とアーツによる援護へ回った。剛と柔の連携に加えてエマの援護、二体の大型魔獣相手でも決して後れを取っていない。

 戦術リンクを活用した三人の動きを見て、グランとサラも得物を手に駆け出す。

 

 

「先ずは一体確実に潰しましょう!」

 

 

「手ぇ抜くんじゃないわよ!」

 

 

 グランの姿は忽然と消え、剣戟の音が響いた後に魔獣の後方へ彼は姿を現す。弐ノ型による一撃は視認すら許さない速度、更にグランが横一閃に振るった刀は斬撃波を生んで機械の魔獣の一部を切り落とした。

 動きの止まった魔獣に間髪を入れず、サラがその魔獣へ急接近するとブレードによる二連撃を決める。

 

 

「これで一体目!」

 

 

 連撃の後にサラは後方へと跳躍、同時に彼女の左手の導力銃からは雷を纏った三連弾が放たれた。百発百中、しかし限界に近いダメージを受け、グランの言葉通り機械の魔獣は熱暴走を引き起こす。

 このままでは大きな爆発が地下で巻き起こり、崩落の可能性もある。だが、この二人がその手を打っていない筈がなかった。

 

 

「やっ!」

 

 

 ARCUSを駆動させていたトワによるアーツの発動。爆発寸前の魔獣の周囲は凍てつく氷塊に閉じ込められ、上昇していた温度を急激に下降させた。熱を奪われた機体は膨張を止め、その機能を停止させる。爆発を起こす事なく一体目を仕留めるに至った。

 ラウラ達が引き付けている二体を除き、残り二体の魔獣達からグランは距離を取ってトワとサラの元へ一度下がる。彼は手にしていた刀を鞘の中へと納め、トワの頭へ軽く手を置いた。

 

 

「流石は会長、ジャストでしたよ」

 

 

「えへへ、少し不安だったけど……」

 

 

 三人の力量を把握したのか、警戒を強める二体の機械魔獣。僅かに後退するその様は、既に己の不利な状況を悟っての事か。

 そんな中、余裕を見せるグランは照れた様子のトワを眺めながら、彼女の頭へと手を置いたまま。二人の傍へ立っているサラはその姿に呆れた様子で肩を落とし、後に地下一帯へ響き渡る大きな怒号を耳にする。

 

 

──砕け散れ!!──

 

 

──躍れ、焔よ……アステルフレア!!──

 

 

「……あんた絶対いつか刺されるわよ」

 

 

 未だにトワと和やかな雰囲気を放っているグランの背中へ、サラは一人頭を抱えながら忠告をしていた。そして肝心の魔獣達だが、この後ラウラとエマの大活躍によって予定よりもかなり早く終了する事となる。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 時刻は過ぎて、帝都は午後を迎える。街は賑わい、導力車や人々の通行も多く、昨日同様の活気を見せていた。

 朝の時間にホテルから魔獣退治を依頼されたグラン達は、従業員が目撃したという機械仕掛けの魔獣を驚きの早さで討伐し、ホテル側が報酬として用意した昼食をご馳走になる。その後は、遅れて来るという遊撃士を待つサラを除いた五人でトリスタへ帰還する事に決まった。

 そして現在。帝都からトリスタへ向かう列車の中では、列車に揺られて寛ぐグラン達の姿があった。

 

 

「……で、どうして二人はずっと機嫌が悪いんだ?」

 

 

 グランは向かいの席に座るラウラとエマを眺め、魔獣退治を終えてから何故か不機嫌な様を見せる彼女達に対して疑問を投げ掛ける。その様子を見ている彼の右隣に座るトワは終始苦笑いを浮かべ、左に座るフィーに至っては完全に我関せずだった。実はこの二人、既にラウラ達が不機嫌な理由を何となく察しているのだが、あえて触れないようにしていたりする。

 そしてグランの問いを受けたラウラとエマだが、少しばかり彼の顔を見詰めた後、再び顔を背けた。

 

 

「そなたの胸に聞いてみるがよい」

 

 

「全くです」

 

 

「いや、分からないから聞いてるんだろ……」

 

 

 あくまで教えるつもりの無い二人に対して頭を抱えるグランだが、どちらかというと本当は自分達の方が頭を抱えたい位だとラウラとエマも感じていた。それは同様に、幼子のような反応しか返せない自分自身に対してだったりもするのだが。

 そして二人から聞き出すのは無理だと判断したのか、グランは次にフィーへ聞いてみた。

 

 

「なぁ、フィーすけ分かるか?」

 

 

「ん……自業自得」

 

 

 グランにはその意味が理解出来ていない様子だが、フィーのその回答こそが全てを物語っているのは最早言うまでもないだろう。流石のトワも苦笑を漏らしつつ、心の中では少しラウラ達に同情していた。結局、何故ラウラ達の機嫌が急に変わったのかグランには分からず仕舞い。

 そしてその報いかどうかは分からないが、既に本末転倒となってしまっている今回のお泊まりデート。列車がトリスタに到着してからトワを第二学生寮へ送った後、グランが第三学生寮の自室へ帰宅すると、棚の鍵は既に解除され、中が綺麗にもぬけの殻と化していた。




ラウラの鉄破刃とエマのアステルフレアが真・鉄破刃とアステルフレアⅡに強化されました。やったね二人とも!

という訳で急ぎ足で夏期休暇のエピソードを終える事になりました。取り敢えずこのエピソードのMVPは深淵さんで決まり。そうしないと色々ヤバイんだよ……(ぶるぶる)※個人的にはシャロンさん

そして結局出したかった人物は出せず仕舞いという……まぁ、パパはクロスベルで忙しいから仕方ないよね!

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