紅の剣聖の軌跡   作:いちご亭ミルク

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譲れないもののために

 

 

 

 特別実習で宿泊する宿も見つけたリィン達は、旧遊撃士協会の二階へ荷物を置いた後に一階で此度の依頼内容を確認する。現在六人がいるアルト通りにある音楽喫茶からの依頼や、歓楽街として知られるガルニエ地区のホテルからの依頼。ヴァンクール大通りに会社を構える帝国時報やその先にあるドライケルス広場のアイス屋からの依頼等、帝都の東側地区の殆どから依頼が寄せられている。六人は依頼をこなしながら帝都を一通り見て回ることに決め、建物を出ると早速依頼に取り掛かるべく近くの音楽喫茶へと向かった。

 

 

「ヘミングさん、お久し振りです」

 

 

「お帰りエリオット。どうやら元気そうだね」

 

 

 店の扉を開け、カウンター越しでグラスを磨いている男性にエリオットは笑顔で声を掛けた。音楽喫茶『エトワール』は、アルト通りの出身であるエリオットやその姉フィオナが昔から世話になっているお店のようで、エリオットは店のマスターであるヘミングと親しげに会話を行っている。ピアノ教室を開いて音楽の道を歩んでいるフィオナと、元々音楽家志望のエリオットの二人は音楽関連で以前から何かとこの店に良くしてもらっているらしい。

 店の奥には数種類の楽器が配置され、店内にも心安らぐ音楽が絶え間無く流れている。人混み溢れる帝都の癒しの空間、音楽喫茶『エトワール』はそんな場所だ。

 そして、この店の店主であるヘミングが出した依頼はとある一枚のレコードを探して欲しいというもの。『琥珀の愛』という曲名で、エリオットによるとこの店では夜に流すことが多い曲のようだ。話によると今夜ヘミングの旧友がその曲を楽しみに訪れるそうなのだが、何とそのレコードが割れてしまったらしい。何ともタイミングの悪い話ではあるが、知り合いの頼みという事もあってエリオットはどうにかして『琥珀の愛』を入手してあげたいと話す。

 『琥珀の愛』は三十年前に発売された曲のため見付けるのは難しいという事だが、廃盤にはなっていないため入手出来る可能性は十分にある。早速ヘミングから依頼を受けたリィン達はレコードの代金を受け取り、エリオットの助言でフィオナの元を訪ねた。ヴァンクール大通りの百貨店で系列店のレコード屋に在庫があるかどうか聞いてみるといいと彼女にアドバイスを受け、一同はアルト通りのトラム乗り場からヴァンクール大通りを目指す。

 

 

「確か帝国時報社からも夏至祭関連の依頼があったな」

 

 

「ああ、百貨店に向かうついでに話を聞いておこう」

 

 

 導力トラムの中、帝国時報からの依頼も入っている事をグランが口にすると、リィンも同じ考えだったらしく頷いて依頼内容が書かれた紙を眺めていた。数分でヴァンクール大通りへと到着した六人は、導力車が行き交う道を見渡した後に一先ずヘミングの依頼であるレコードを探しに百貨店を訪れる。

 帝都の大型百貨店『プラザ・ビフロスト』は、食材売り場や雑貨屋、喫茶店等様々なジャンルの店が店内の一階二階に出されており、観光客のお土産選びや地元民の物質調達に利用されている。とは言っても今回訪れたのはレコードの調達のため、リィン達は受付の女性の元へと向かい系列店への在庫確認をお願いした。勿論商品は『琥珀の愛』のレコードである。

 

 

「申し訳ありません、系列店に問い合わせたところ在庫は品切状態でして……」

 

 

「そうですか……」

 

 

 品切と聞いてエリオットが少し落ち込んだ様子で項垂れる中、受付の女性は軽く頭を下げて謝罪の言葉を口にした後、メーカーに発注する事も出来るのでそれでどうだろうかと提案する。しかしそうなると少なく見積もっても一週間、時間が掛かる時は一ヶ月は見てもらうことになるようで、ヘミングの旧友が『エトワール』に来店するのは今晩、とてもではないが間に合わない。

 行き詰まってしまった一同がどうするべきかと頭を悩ませる中、そんな彼らの様子を見ていた受付の女性は考える素振りを見せた後、一つだけ心当たりがあると口にする。

 

 

「オスト地区にある中古屋を訪ねてみてはどうでしょうか?」

 

 

「そうか、その手があったか!」

 

 

 女性の提案に声を上げたのはマキアス。彼はどうやら帝都でもオスト地区の出身らしく、その中古屋とも昔から付き合いがあり知っていると話す。マキアスの話ではレコードも取り扱っていたということなので期待は持てるだろう。

 次の行き先は決まったも同然だが、このヴァンクール大通りではもう一つ依頼がある事も忘れてはいけない。しっかりとその事を覚えていた六人は百貨店を出ると、建物に沿って大通りを進むと帝国時報社の看板が掲げられている建物の中へと入った。

 一同は建物に入って直ぐのカウンターで座っていた女性に近寄ると、リィンが代表で説明を行い依頼を出した担当者の人間を呼んでもらう。そしてロビーの隅に設置されたソファーでその人物を待つ中、談笑をしていたリィン達の元に歩み寄る一人の男性の姿があった。

 

 

「待たせたね。今回君達に依頼を出させてもらったノートンという者だ」

 

 

「ん? おお、あの時のおっさんか」

 

 

 声を聞いて疑問に思ったグランが見上げた先。そこにはノルド高原の実習の時に出会った、帝国時報のカメラマンであるノートンの姿があった。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 帝国時報社のカメラマン、ノートンからの依頼は単純なものだった。ヴァンクール大通りに店を構える百貨店や武器商会、ブティックから今回の夏至祭に向けての自己PRが書かれた紙を受け取り、その店の代表者の写った写真を一枚撮影して欲しいという内容だ。大通りを駆け回る事にはなるが作業自体に難しい点は特になく、導力カメラの使用という個人のセンスが問われる内容もあるが、A班の中ではリィンが使った事があるため問題はない。事実この依頼は二十分足らずで難なく終え、ノートンに各店舗の自己PRが書かれた紙とそれぞれの写真を渡して完了した。

 時刻は十時三十分を回り、リィン達は一息入れようということで見物がてらドライケルス広場に向かう事に決める。導力トラムに乗車して数分後、A班一行は『獅子心皇帝』の銅像がある事で知られるドライケルス広場へと到着した。

 

 

「何というか、ここに来ると毎回圧倒させられるな」

 

 

 リィンが呟きながら向ける視線の先、広場の噴水が生み出す七色のカーテンに彩られて悠然と構える一つの像があった。

 『獅子心皇帝』ドライケルス=ライゼ=アルノール。帝国中興の祖とされ、獅子戦役と呼ばれる内乱を収めた偉人の一人として有名な人物。アルノールという名前で分かることから現皇帝ユーゲント=ライゼ=アルノールの祖先に当たり、その知名度足るや帝国で知らない者はおらず、諸国でも偉人の一人として数えられる。

 

 

「あら? リィン達も来ていたの」

 

 

 一同がドライケルス像に目を奪われている中、彼らの元にはアリサを筆頭にB班の面々が近寄ってきた。この広場は帝都の中でも中央に位置するため、西側の地区を担当していたB班とも出会したようだ。とは言ってもこの広い帝都で顔を会わせるというのは稀な事であり、やはりⅦ組の皆には何かしら縁があるのだろう。

 あと一時間もすれば昼食の時間という事もあり、お互いもう一回りしたら再び広場で落ち合って情報交換がてら昼食を一緒にしないかという話になった。その提案を拒否する者がいるはずもなく、両班は広場で別れを告げるとそれぞれの担当地区の依頼へと向かう。

 リィン達は広場に露店するアイス屋から帽子の落とし物の持ち主を探す依頼を受けた後、その人物がオスト地区から来たという話を聞いてそのまま目的地であるオスト地区へ向かうべく導力トラムに乗り込んだ。

 オスト地区はマキアスの住んでいた場所のため、ここからは彼の案内で地区の中を回ることになる。車内で揺られながらオスト地区の情報をマキアスから大まかに聞き、やがてトラムは目的地へと到着する。

 

 

「開発に取り残された市街地ってわりには、クロスベルに比べて良く手入れが行き渡っているよな、ここ」

 

 

「ああ、これも父さ……今の帝都知事に変わってから良くなったみたいだ。って、グランはクロスベルに行った事があるのか?」

 

 

「私もあるよ。猟兵団にいた時に物資の調達で何回か」

 

 

 決して悪気があるわけではないのだろうが、顔を背けながら話すフィーの言葉は地雷を踏み、傍で聞いていたラウラの表情が僅かに歪んだ。グランとマキアスは余計な事を言ってしまったと気まずい雰囲気が漂う中後悔し、端から見ていたリィンとエリオットも苦笑いを浮かべるのみである。

 一同は気を取り直し、マキアスが帰省の挨拶をするついでにオスト地区を案内するという事で、彼を先頭に市街地を進んでいく。レコードを探すために街の中古屋『エムロッド』を訪れたり、ドライケルス広場のアイス屋から頼まれた帽子の持ち主の情報を聞きに居酒屋『ギャムジー』の店内に顔を出して情報を入手したりと実習の事も忘れない。

 幸な事に中古屋では探し求めていた『琥珀の愛』が見つかり、酒場の店主であるギャムジーからは帽子の持ち主がこの市街地の中にいる事を聞き、トラム乗り場で男性の姿を見つけて無事帽子を渡す事に成功した。どうやらジムという名前のその男性は結婚したばかりで、妻の手作りであるその帽子を無くして途方に暮れていたらしい。是非とも次は手放さないでほしいものである。

 オスト地区での用事と散策も終わり、リィン達はアルト通りの『エトワール』に戻って店主のヘミングにレコードと釣り銭を渡すと、最後にドライケルス広場へ向かいアイス屋の店員に帽子を持ち主へ返した事を報告。残るはガルニエ地区のホテルからの依頼のみとなる。

 

 

「さて、後はホテルの依頼だけだが……腹減ったし昼飯にしないか?」

 

 

「賛成」

 

 

「そうだな、時間も丁度十二時みたいだしアリサ達に連絡してみるか」

 

 

 ふと、頭の後ろで腕を組みながら話したのはグラン。彼の提案にフィーを初めその他のメンバーも腹が空いていたのか同意を見せ、リィンがARCUSを手に取ってアリサ達B班と連絡を取る。ヴァンクール大通りの百貨店にて昼食を共にするよう約束を取り付け、A班一行は百貨店『プラザ・ビフロスト』へと足を運ぶのであった。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 時刻は午後を回り、東西に別れて実習を行っていたⅦ組の面々はヴァンクール大通りの百貨店二階にある喫茶コーナーでランチタイムを楽しんでいた。和気あいあいと午前の実習内容を話し合いながら料理を口に運ぶ各々だが、その中でも一際静けさが漂う空間がある。ラウラとフィー、そしてその二人の間に挟まれながら食事をするグランの三人が座っている席だ。

 両隣で気まずい雰囲気を醸し出しながら黙々と料理を食す二人を視界の端に捉え、遂に我慢の限界が来たのかグランは食器をテーブルに置くと突然立ち上がった。首を傾げて顔を見上げてくるラウラとフィーに対して、彼は目を伏せると共に眉間にシワを寄せながら声を上げる。

 

 

「少し外の空気を吸ってくる。これじゃ旨いものも喉を通らないからな」

 

 

「あ……」

 

 

「……ごめん」

 

 

 グランの言葉に、二人は見るからに落ち込んだ表情で声を漏らしていた。席を外れ、階段を降りていく彼の後ろ姿を見た後にラウラとフィーは顔を俯かせる。自分達のせいで遂に彼の気分を害してしまった、頼みの綱である彼に見放されたと感じたからだ。

 ラウラがグランの隣の席を選んだのは偶然ではない。彼女はフィーに対する複雑な気持ちを抱えながらも、何とかして和解の切っ掛けを切り出そうとずっと考えていた。しかしいざ言葉を交えようと思えばフィーが猟兵時代の情報を口にし、更にラウラ自身もどかしい事にその発言に一々反応してしまっている。二人の間に中々会話が生まれる事はなく、だからこそフィーとの仲違いを解くための架け橋として彼女はグランを頼った。結果は裏目に出てしまい、グランという架け橋は崩壊してしまう。

 そして、フィーがグランの隣に座ったのもまた偶然ではない。決してラウラに対抗している訳ではなく、彼女自身もラウラと仲違いを解きたいと考えていたからだ。つい猟兵時代の事を口にしてしまうのも悪気があるわけではないし、元々幼い頃に戦災孤児だったところを猟兵団に拾われて育ったフィーにとって、猟兵という生活そのものが当たり前であった。だからこそ言葉を選ぶ度にラウラとの間に溝が深まってしまう。フィーもその状況が良いものではないと気付き、彼女もラウラとの仲違いを解く架け橋としてグランを頼った。かつて兄のように慕っていた彼なら、猟兵だったという過去をラウラに知られても尚敬遠されていないグランなら、きっと何とかしてくれるとフィーは思い至ったからだ。

 

 

「フィー」

 

 

「ん、分かってる」

 

 

 そして何とか互いに和解したいと考える彼女達だからこそ、ここでグランという架け橋を失ってはいけない事も理解している。ラウラの声とその視線を正面から受け止めたフィーは、頷くと共に席を立ち上がった。ラウラも続いて席を立ち、二人はそのまま百貨店の一階へと降りていく。

 そんな彼女達の後ろ姿を、これまた心配そうに見ていたのは残されたⅦ組の面々だ。不機嫌そうに席を去ったグランのあとを追うラウラとフィーを見ながら、エマが食事の手を止めて話した。

 

 

「やっぱり、ラウラさんとフィーちゃんの仲直りはグランさんじゃないと難しそうですね」

 

 

「ああ。互いに敬遠していても、グランという存在が二人の仲を何とか繋ぎ止めてくれている。今のもグランの気分を害した事の罪悪感から向かったんだろう」

 

 

 エマの言葉に同意を見せて口を開いたリィンは何ともやりきれない表情を浮かべながら、彼女達が百貨店から出ていく姿をその目に映していた。彼も出来れば二人の仲違いを解く力になってやりたいと考えてはいるものの、今彼女達の間に入っても良い結果が得られない事など容易に想像できる。結局現状はグランに頼るより他なかった。

 

 

「全く、もどかしいにも程がある。グランが仲良くしろと一言言えば済む話にも見えてくるがな」

 

 

「君、それは流石に無いだろう」

 

 

「フン、そんな事など分かっている。冗談に対してまともに答える余裕があるなら、少しは解決の方法を考えたらどうだ?」

 

 

「くっ……考え付いていたら先月の特別実習で既に解決している! 君という奴はやっぱり嫌味しか言えない体質なのか!」

 

 

「思った事を口にしたまでだが?」

 

 

 いつの間にかラウラとフィーの話から脱線して口論を始める二人に、両隣で食事をしていたガイウスとエリオットはため息を吐いていた。エリオットに至ってはユーシスとマキアスまでがA班に揃っていなくて本当に良かったと考えるほどである。

 

 

「グランには申し訳ないけど、お願いするしかないわね」

 

 

 申し訳なさそうに話すアリサの視線の先。百貨店を出ていくラウラとフィーの姿を、一同は見守るように見詰めていた。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

「結局のところ、オレがフィーすけ達の仲違いを助長させているのかもな……」

 

 

 ヴァンクール大通りを走る導力車のエンジン音を耳にしながら、グランは帝都の空を見上げて不意に呟いた。彼が口にした言葉の内容はリィン達とは真逆で、グラン自身がラウラとフィーの仲違いをより長引かせているというもの。そんな彼の考えには、幾つかの理由があった。

 一つは、グランが猟兵を生業にしていたという事。一見ラウラとフィーの仲違いに関わりがないように見えるが、実はそうではない。

 そもそもフィーが猟兵だったという過去を打ち明ける以前、グランはラウラに猟兵だった事を知られている。四月の特別実習を機にグランと仲を深めたラウラは、その後直ぐに猟兵という過去を知った。

 これがまだ特別実習前なら少し違っていたのかもしれない。しかしラウラがグランという人間を特別な対象として意識しかけていた折り、猟兵という過去を知ってしまったのは非常にタイミングが悪かった。ラウラはグランという人間を好意的に見ていた事もあって、その反動足るや衝撃的なものであっただろう。猟兵という存在を更に疎ましく思うようになり、その後直ぐにフィーが猟兵という過去を話した。何とも最悪のタイミングである。

 そしてもう一つは、そんなグランがラウラとフィーの仲を取り持とうと思ってしまった事。これに関してはグランに責任があるわけではないのだが、彼の考えるところでは二人の仲違いを長引かせる原因になっているので責任を感じているようだ。

 六月に行われた実技テストにて、グランは最大の侮辱とも言える言葉をパトリックに浴びせられた事により暴走するなど危なっかしい面を持ち合わせてはいるが、本来グランハルト=オルランドという人間は、要人警護の依頼で数多くの人々と接してきた事により社会という枠組みの中での立ち回り方を知っている。猟兵という仕事柄、義に反する行為を行う事もあるが、物事の分別はつけることのできる人物だ。

 そしてそんなグランだからこそ、昔から慕っていた彼だからこそフィーは甘えてしまった。ラウラから敬遠され続ける中で、猟兵という仕事を生業にしながら一般常識をある程度持ち合わせているグランを防護壁にしたのだ。グランが傍にいれば何とかしてくれる、きっと仲違いも解決してくれると思うようになってしまう。そのため自分から一歩前に踏み出す事が出来ず、ラウラが漸くフィーと向き合おうとした際も彼女は逃げてしまった。

 

 

「オレが何もしなかったら……いや、そもそもオレがⅦ組にいなかったらここまで仲違いは続かなかったのかもな──そう思うだろ、二人共?」

 

 

 自分がここにいなければ、もっと物事は良い方向に進んだのかも知れない。その事を声に出したグランは、直後に振り返って百貨店の入口で立つラウラとフィーの姿を見据えた。

 導力車のエンジンが鳴り響く大通りでも、二人には今の声が確かに聞こえていたようだ。その表情は彼の言葉を否定するように、真剣な眼差しでグランの顔と向き合っている。

 

 

「それだけは絶対に有り得ない。この事だけは言わせてもらおう」

 

 

「右に同じ。自虐的なグランはあんまり見たくないかも」

 

 

 直後に返ってきたラウラとフィーの言葉は正にグランの考えを全否定するものだった。そして今回の彼の言葉を機に、二人の抱いていた思いは固く決意される。自分達の仲違いが原因でグランがⅦ組を去るなど、そんな事は絶対に認めないと。

 ラウラにとっては止めると決めた人物を、その背中に追い付くと決めた人物をここで失う訳にはいかない。そして『西風の旅団』という家族を失ったフィーにとっては、グランはもう二度と失う訳にはいかない大切な存在だから。

 

 

「私は私の理由で、そなたはそなたの理由で。私達には互いに譲れないものがある」

 

 

「言わずもがな、だね。そしてそのためには、私達は和解しなくちゃいけない」

 

 

「ああ。だからこそ、互いに納得出来る形で決着を着けたいと思う」

 

 

「ん。だからグランも見届けて……異論は許さないから」

 

 

 約束を交わした二人の少女の意思は揺るがない。それ相応の場所を用意した上で、互いに納得出来る形で決着を着ける事だろう。

 そしてそんな二人の視線を一身に受けたグランは、嬉しさのあまりその表情から笑みがこぼれていた。二人の頭にそれぞれ手を置いた後、百貨店の中へ向けて歩き始める。

 

 

「さっさと残りの昼食を取り終えるぞ。腹が減っては戦ができぬ、ってな」

 

 

 百貨店の中へ姿を消すグランを見詰めた後、頬を僅かに紅潮させたラウラとフィーは笑顔で向かい合った。

 

 




今回の特別実習はクエスト関連をサクサク進めていきます。重要な部分はじっくり書きたいと思いますが。主に変態紳士とか変態紳士とか変態紳士とかを。
ラウラとフィーが決闘をするまでの流れが原作と何か違いますがご了承下さい。と言っても元々二人には仲直りする気がありましたし、今回のグランの事についても切っ掛けに過ぎません。二人の中でのグランの存在が大きいからこそ、このような形になったということで。夜になってマーテル公園でいきなり『決闘を申し込む!』っていう展開もありなのかなぁとか思いましたが、それどこのギーシュだよって思ったのでやめました。

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