紅の剣聖の軌跡   作:いちご亭ミルク

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ルナリア自然公園突入

 

 

 

 窃盗事件、簡潔に話すとそれが大市で起きていた騒ぎの原因だった。昨日大市で言い争いをしていた男二人の店が荒らされ、商品を根こそぎ持っていかれたらしい。互いが互いを犯人だと責め立て、その場に居合わせたオットー元締めやリィン達五人でも宥めることが出来なかった。しかしその時、領邦軍の兵士が現場に訪れて二人の言い争いを終わらす。だがそれはかなり強引な解決方法で、言い争いを止めなければ二人共領邦軍の詰所へ連行する、というもの。捕まることを恐れた男二人は大人しくなり、それを確認した兵士達は詰所へ、野次馬達は買い物の途中だったのか散り散りになる。そんな中、オットーが二人を励ます近くで、リィンが怪訝な顔をしながら此度の違和感を話した。

 

 

「どうして今回に限って領邦軍が来たんだ? オットー元締めの話では、今までに何度か問題が起きても見向きもしなかったそうだが……」

 

 

「確かに怪しいわね」

 

 

「ふむ……」

 

 

「うーん、ねぇグランはどう思う……? グラン、どうしたの?」

 

 

 リィンの言葉に各々が頭を悩ませる中、エリオットは隣に立つグランへと話し掛けるがそのグランから返事はない。不思議に思ってグランの顔を覗いたエリオットは、彼の表情を見て驚いた。それもそのはず。グランが、ある一点を怒りの形相で睨み付けていたからだ。

 

 

「──腐ってやがる。奴等確信犯だぞ」

 

 

 グランの視線を追った四人は、その視線の先に立つ領邦軍の兵士達が自分達の方を見ながら笑みを浮かべている事に気付く。そして歯軋りをするグランはその姿に我慢の限界が来たのか、腰に携えている刀に手を当てて踏み込みの体勢に入る。しかしそんなグランの手に、彼の取ろうとしている行動を制するように手を重ねる者がいた。

 

 

「グラン」

 

 

「……ラウラ、その手を退けてくれ」

 

 

「そなたの気持ちは分かる。だが領邦軍の兵士を痛め付けたところで、此度の問題が解決するわけではなかろう」

 

 

 ラウラの声に、グランは怒りを鎮めて冷静に考えてみる。確かに今領邦軍の兵士に斬りかかったところで、解決するのは一時的な怒りだけ。勿論問題行動として領邦軍に捕らえられ、皆に迷惑をかけてしまう。それに何よりオットー元締めの立場も悪くなるかもしれない。先日彼の家に訪れている以上、何らかの意図があったとこじつけられてしまうのは目に見えている。だからこそ、ラウラの言葉に感謝しながらグランは構えを解いた。

 

 

「……悪い、助かったよラウラ」

 

 

「気にしなくともよい。そなたのその怒りは、そなたの心の純粋さ故だ」

 

 

 微笑みながら話すラウラのその言葉にグランが照れて頬を赤くする様子を、他の三人がからかうという何とも奇妙な光景が広がるのだった。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 大市での窃盗事件。オットーからは気にせず実習に励むようにと言われたリィン達だが、やはり今回の事件に領邦軍が一枚かんでいる事は明白で、五人も気にせずにはいられなかった。結局諦めかけていたオットー達に事件の調査をする事を了承してもらい、独自に調べ回ったリィン達は幾つかの証言を得る。被害を受けた二人の商人、町の教会の前のベンチに座る女の子、そして酔っ払い。特に酔っ払いの証言は、夜中に大きな木箱を抱えた若い連中が西ケルディック街道へ走っていったというもの。その証言である推測を立てた五人は現在、先日の依頼で通った西ケルディック街道を歩いていた。農家のある場所を過ぎ、傾斜のある道を上がった先に目的の場所はあった。

 

 

「『ルナリア自然公園』……酔っ払いの話なら、奴等はここに盗んだ物を隠したんだよな?」

 

 

 グランの声にリィン達四人が頷き、改めて目の前の光景を見渡す。自然公園の入り口は鉄格子に南京錠とその道を固く閉ざされ、町の酔っ払いから話に聞いていた自然公園の管理人は何処にも姿が見えない。入り口に近寄った五人はどうしたものかと周囲を見渡し、そんな中リィンが目の前に落ちている何かに気付いた。

 

 

「これは……」

 

 

「ちょっと見せて……間違いない。大市で盗まれた物と同じだわ」

 

 

 リィンが拾った工芸品をアリサが手に取り、彼女はそれをじっくりと観察して確信する。今回盗まれた商品と同じ物だと。そして、それはこの自然公園の奥に盗品を隠しているという確固たる証拠に他ならない。五人は鉄格子の先を見据える……この先に、もしかしたらこの事件の犯人がまだいるかもしれない。だが奥に進むためには南京錠をどうやって解錠するかが問題だ。アリサとエリオットがどうしようと考える中、ラウラが手っ取り早く壊そうと大剣を鞘から抜くがその時リィンがそれを制した。

 

 

「ここは、俺に任せてもらえないか?」

 

 

 リィンは鉄格子の前に立ち、目を閉じると腰を落として抜刀の構えを取る。数秒による精神統一。そして沈黙の後、リィンはその目を見開いた。

 

 

「四ノ型──紅葉切り!」

 

 

 リィンによって振り抜かれた鋭い一閃は、小さな金属音を残して再び沈黙を生んだ。南京錠には何の変化も起きず、失敗したのかとアリサとエリオットが心配する中、それは杞憂に終わる。南京錠は綺麗に真っ二つに分かれ、地面へと落ちていく。

 

 

「うむ。八葉の妙技、見せてもらったぞ」

 

 

「はは、初伝クラスの技だけどな」

 

 

「謙遜すんなって。とても初伝には思えない技のキレだよ」

 

 

「グラン……からかわないでくれ」

 

 

 一先ずこれで自然公園の先に進むことが出来るようになった。グランにバシバシと背中を叩かれて困惑するリィンを、エリオットが助けると五人が中へ進み始める。そして自然公園の敷地内を歩きながら、五人は周囲の様子を見渡す。

 

 

「これは凄いな」

 

 

 リィンがその光景に思わず呟く。流石自然公園といったところか。草木が生い茂る道は緑の天井から漏れる日の光によって幻想的な雰囲気を作り出し、至る所に建つ石碑のようなものが更にその光景を神秘的に見せていた。各々が風景に見惚れる中、道を進んでいくと少し広い場所に出て突然笛のような音が周囲に響き渡る。五人がその音に首を傾げていたその時、リィン達の元に忍び寄る影が。五人は早速魔獸と遭遇した。

 

 

「こいつはまた面倒なのが出てきやがったな」

 

 

 グランの呟きに四人は一斉に武器を構えた。五人の視線の先、頭に二本の角を生やした大型の猿型魔獸が八体その道を塞いでいる。そして後ろからも同じ魔獸が四体、五人の逃げ道を塞ぐように取り囲む。この時は、珍しくグランが顔をしかめながら舌打ちをした。

 

 

「ちっ……クロスベルで見た奴と比べるとそうでもないが、この戦力じゃちとキツいぞ」

 

 

「しかし、退路を塞がれてしまってはどうしようも……」

 

 

「(このままでは……こうなったら、あれを使うしか──)」

 

 

 冷や汗を流し始めるラウラとリィンの傍で、アリサとエリオットの二人は弓と魔導杖を握るその手を震わせていた。そして何かを決意したリィンが一歩前に踏み出そうとしたその時、グランがリィンの前に躍り出てそれを制す。

 

 

「オレが前方の四体を斬り崩してその間に道を作る。あれを怯ませたその隙に、四人で一斉に駆け抜けろ」

 

 

「何を言ってるんだグラン! そんな事出来るわけ……」

 

 

「そうだよ! いくらなんでもグランを犠牲にするなんて!」

 

 

「他に何か方法があるはずよ!」

 

 

 リィン、エリオット、アリサの三人はグランの作戦を全力で否定する。自分が囮になっている間に先へ進めなど、ここにいる三人が認めるはずがなかった。しかしこのままではメンバー全員が大きな負傷を、もしくは全滅する可能性もあることを視野に入れるとその作戦を取り消す訳にもいかず、この先に犯人がいる事も含めて諦めるわけにもいかない。リィン達が何か方法はないかと考えを廻らす中、ジリジリと近寄ってくる魔獸達と睨み合いながらラウラが口を開く。

 

 

「グラン、本当にそなたにこの場を任しても大丈夫なのだな?」

 

 

「ああ。四人を行かせた後、必ず退路を見出して追いかけると約束する」

 

 

 ラウラがグランの作戦で妥協する。勿論他の三人は何を言っているんだと叫ぶが、もうそれしか方法がないのは事実だ。故の妥協。リィン達三人は危ないと揃って口にするが、グランの笑みを見て無事を確信したラウラは三人を言い包めると武器を構える。そしてそれを確認したグランは刀を抜くと先の魔獸へ鋭い視線を向け、踏み込み体勢に入った。

 

 

「秘技──裏疾風!」

 

 

 八体の内、道の中央にいる四体に向かってグランは駆けた。直線上に放ったすれ違いの斬撃、それは四人が今までに見たことのない速さ。動体視力に自信があるリィンですらその姿を捉えることが出来なかった。次々と魔獸が苦しみ始めて地に伏せるその姿に、リィン達四人は驚きを隠せない。そして傍へ戻ってきたグランが直後に魔獣達へ斬撃波を放ち、追撃の一振りを終えて叫ぶ。

 

 

「──走れ!」

 

 

 その声に我に返った四人は一斉に駆け出す。魔獸による包囲網を潜り抜け、何とかその先へと進むことが出来た。しかし、四人の傍にグランの姿はない。彼は未だに魔獸達に囲まれたままだ。そしてその姿を見た四人は……先に進むことなく残った四体の魔獸に向けてそれぞれ武器を構え始める。その姿にグランは先に進めと声を荒げたが、リィン達四人はグランの声に笑みで返した。

 

 

「最初はそう思ったんだけどな……」

 

 

「先程のそなたの一撃で、四体の魔獸は既に事切れている……ならばこの状況、恐れるに足らん!」

 

 

「グランにばかりいい思いなんかさせないわよ!」

 

 

「その通り!」

 

 

 グランは笑みを浮かべながら、後方にいるもう四体の魔獸に体を向ける。こんな気持ちは久方振りだと、こんなに温かい気持ちを覚えたのは何年前が最後だろうかと考えながら、自分の背後にいる魔獸の向こう側、リィン達に向かって叫ぶ。

 

 

「背中は預けたぞ!」

 

 

「ああ!」

 

 

「直ぐに片付けて援護に回る!」

 

 

「行くわよ、みんな!」

 

 

「後方支援は任せて!」

 

 

 五人と八体の魔獸による戦闘が、再び開始される。そしてものの数分で魔獸達を片付けた五人は、大市の盗品とその犯人がいるであろう先の道へと進んでいくのだった。

 

 

 




あれ?書いてく内にラウラに段々惚れていく自分が……もうヒロインラウラでいいや(嘘です)

因みにまたまた新クラフト……といっても風の剣聖が使いますが。


『裏疾風(はやて)』 CP30 直線L(地点指定) 威力S+ ×2 遅延+40 物理完全防御不可

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