紅の剣聖の軌跡   作:いちご亭ミルク

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紅の剣聖の策

 

 

 

 休憩時間も終わりを告げ、通商会議は後半戦を迎える。会議前半に行われた経済関連の取り決めとは打って変わり、後半は予定通り安全保障関連の協議へと移った。 

 オリヴァルト達の想定していた通り、ここに来てクロスベル側には耳の痛い指摘事項が帝国、共和国双方から次々と挙げられる。クロスベルが発展を続けていくにあたり露呈してきた自治州法の不備、法改正の有無、治安維持能力の不安。オリヴァルトやクローディア、レミフェリアのアルバート大公もディーター達のフォローへ回るが、オズボーンやロックスミスの発言に間違いが無いことから、それらの意見を否定するというわけにもいかず。協議における主導権は、完全に両国が掴んだと言っていい。

 三十六階の通路から国際会議場の様子を見下ろしていたグランもまた、現場にいる各人の表情でそれを察していた。同じ帝国代表の立場であるはずのオズボーンとオリヴァルトの両者が真逆の表情を浮かべている事に笑みをこぼしつつ、その視線は標的となっているディーター市長、クロスベル市議長ヘンリー=マクダエルの両者へと向けられる。

 

 

「クロスベルとしては、ここが踏ん張りどころか」

 

 

「叔父様の顔、あんまり状況は良さそうに無いわね」

 

 

 会議場を見下ろすグランの横、不意に現れた特務支援課のエリィは彼同様会議場を見下ろし、ディーター達の様子に心配そうだ。祖父であるヘンリー議長の補佐もしていた彼女にとっては、現状を理解しているが故にその不安は尽きない。

 不正も摘発され、少しずつではあるが確実に法改正も進み、間違いなく今のクロスベルは良き方向へと向かっている。しかし向かい始めたばかりの今では、帝国や共和国を跳ね返す程の実績は無い。長いクロスベルの歴史の中で、今軌道に乗ったばかりの政策や活動が会議の場で効力を持つかと言われると、正直な話発言力としては弱い。それだけ、今のクロスベルは抱えている問題が多過ぎる。当然、エリィもそれは理解しているし、だからこそ会議場にいるディーターや祖父であるヘンリーの心境も察していた。

 彼女の後方にいる他のメンバー達も同様に、現在会議場でクロスベル側に厳しい展開が続く様子には不安を隠し切れない。そんな彼らを励ますというわけでは無いが、グランも隣に立つエリィを横目に彼女の心中を察し、口を開いた。

 

 

「予想出来ていた事態です、ここからどれだけ食い下がれるかがクロスベル側の気概の見せ所でしょう。新進気鋭のクロイス市長に経験の豊富なマクダエル議長……二人なら、必ず巻き返せる」

 

 

「そう言ってもらえると心強いわ」

 

 

「会議については、ディーター市長とマクダエル議長に任せるしか無いからな」

 

 

「何とか乗り切れるといいですけど……」

 

 

 ロイドやノエルも不安げに、会議場の様子を見下ろす。依然として心配ではあるが、それでもクロスベルの代表として出席する彼らに期待し、又自分達も彼らに顔向けできるように任務を全うするしかない。ロイド達がこの場でディーター達に貢献出来るとすれば、任された仕事を確実にこなし、此度の通商会議を無事に終わらせる事だ。そうする事で、彼らも安心して協議へ臨めるというもの。

 苦しい表情ではあるものの、未だ強い意志を感じさせるディーター達の姿を見下ろしながら。そう言えばと、思い出したようにランディがふと声を上げる。

 

 

「そういやグラン、鉄血宰相ってのは一体何者だ?」

 

 

「ああ、あの男にも呼ばれましたか」

 

 

「大統領の方もとんだ狸だったけど、宰相の方ははっきり言って化物だよね」

 

 

「はい。私達とは立っている次元が違うというか……とんでもないオーラを感じました」

 

 

 とても同じ人間とは思えないと、ワジとティオの二人は揃って帝国宰相ギリアス=オズボーンの印象を語る。

 彼と対面しただけでイメージとして伝わってきた、業火の如き灼熱を思わせる苛烈な意志。対話の中で見えた、冷徹かつ合理的なその思考。彼の立っている場所が余りにも自分達とは場違い過ぎて、同じ土俵に立つ事すらままならなかったと。鉄血宰相と畏怖される理由を肌で感じ、その規格外さにはロイド達も驚きを隠せなかった。

 

 

「あれは完全に人の領域を外れた男ですよ。苛烈な意志がそのまま人の形を形成していると言ってもいい……その点、大統領の方が話し易かったでしょう?」

 

 

「ま、まあ。話し易さだけならね」

 

 

「大統領閣下も、中々侮れない御方だけど……」

 

 

 敢えての比較対象としてロックスミスの名を出したグランだったが、苦笑気味のロイドとエリィの反応を見るに、彼との対話でも何か問題があったのだろう。会議の間の休憩時間、という割には全く休憩出来ていない特務支援課の彼らには、グランも同情を禁じ得なかった。

 通商会議も後半を迎えてから、未だ目立った問題は起きず。相も変わらず会議場ではクロスベル側にとって厳しい状況が続いてはいるものの、その点を除けば危惧されていた事態には至っていない。このまま何事も無く乗り切れればと、会議場の様子を見ながらロイドが口にした、まさにその時。

 突如グランのARCUSからは警報音が鳴り響く。アラート音には特務支援課の面々も警戒した様子でグランへ視線を向け、その表情は僅かに険しさを増していた。当の本人はARCUSを取り出して警報を切ると、目的の場所へ移動するべく動き出す。

 

 

「来るか……オレは屋上に先行します」

 

 

「来るって、一体何が———」

 

 

「空からの襲撃が来ます。先行して屋上へ向かいます」

 

 

 唐突にグランの口から告げられた、テロリスト襲撃の予見。直前まで特に異常も無く、会議場の様子も変わった点はない。休憩中に知らされた赤い星座と黒月(ヘイユエ)の動きについては警戒すべき案件と言えるが、それ以降何か動きがあったわけでもない。テロリスト襲撃に関連する情報として、彼らの元へ他に危惧する様な何らかの連絡が入ったわけでもない。何か予兆があればまだしも、何も動きがない現状ではロイド達もグランの話には懐疑的だ。

 しかしこれまでの彼の動きを見ても、何の根拠もなく物事を言い切る人間ではない事はロイド達も分かっている。仮に時間があれば事の説明を求めることも出来るが、グランの様子からはその様な暇がないというのが見て取れた。悩む時間もない為、今回はグランに信頼を置き、彼の話した事態に至っているというのを前提にして話を進める事に。

 

 

「でも、空から来るという事は要するに、飛行艇による襲撃があるという事よね?」

 

 

「それなら対空レーダーが感知してないとおかしいけどな」

 

 

「レーダーは恐らく陽動の際に破壊されます。遊撃士の連中をベルガード門とタングラム門へ応援に向かわせていますが、間に合わないでしょう」

 

 

 エリィとランディの疑問に対するグランの回答は、これから起きるという予測の域を出ないもの。可能性としてはあり得るが、やはり確証を示そうにも方法はない。

 仮に事態がグランの危惧する通りに進行していると考えれば、当然クロスベル東西の各門に配備された対空レーダーの破壊は確定されているという事。警備隊に対する防衛能力の信用が無いとも取れるその発言については、警備隊の所属経験があるランディやノエルも流石に渋い表情だ。あからさまな言い方ではなく、勿論グラン本人に悪意があるわけでも無い為問い質す様な事は無かったが。

 そして、飛行艇による襲撃を前提に考えるにしても、一つ問題がある。

 

 

「そもそも一介のテロリストにそれだけの資金があるとは思えませんが……」

 

 

「旧式の型でも、一般人が手に出来るような値段ではありませんし……」

 

 

「立場的にオレが公言する訳にはいきませんが、つまりはそれだけ資金力のある相手が背後にいるという事です。共和国側のテロリストについても、軍の飛行艇を奪われたという情報から察するに、恐らくは」

 

 

 ティオとノエルの挙げた資金力への疑問点は、背後にいる協力者の存在や軍用艇の盗難被害を根拠にグランも答えた。話だけなら、飛行艇による空からの襲撃は可能という事になる。無論それらは可能というだけで、現状における襲撃の可能性を示しているものの、その事態が起きるという確証たり得ないわけではあるが。

 依然として懐疑的な反応を示す特務支援課の面々。そして、彼らの最終的な判断はリーダーである彼へと委ねられる。グランの話に一応の理解を示しながら、ワジはロイドへ決断を仰ぐ。

 

 

「彼の話を聞く限りは、空からってのも確かに頷けるけど。此方としては襲撃の確証が無いし……どうする、リーダー?」

 

 

「……いや、俺達はオルキスタワー内の警備を続けよう。グランに協力したいところだけど、それだと返って動きに融通が効かなくなる」

 

 

 ロイドの決断には、納得した様子で支援課の面々も頷いた。ロイド本人の考えとしては、グランに同行して屋上へ向かうというのは最善の判断では無いという事だろう。

 現場を離れて屋上でテロリストの襲撃を待つ以上、オルキスタワー内で発生した問題や会議場での異変には当然気付くのが遅れる為、対応が遅れてしまう、或いは対応出来なくなってしまう。あらゆる事態に対応する為の、遊撃部隊として通商会議の警備に参加している特務支援課としては、グランが行動に移そうとしている限定的な対処には同行し辛いというのが正直な話だ。もし仮にグランの危惧している事態が発生したとしても、彼ならば応援に駆けつけるその時まで必ず持ち堪えてくれる。そういったグランへの信頼も含めての判断である事は言わずもがな。

 グランとしては同行してもらえれば仕事としては楽になる為、多少残念な思いもあるが、ロイドの判断が正しいことは理解していた。事は急ぐが、彼らに強要するつもりはない。寧ろ、考えもせずに同行を申し出る事なく、現状を把握した上で直ぐに決断を下した彼に対し、内心では感心もしていた。

 

 

「貴方が支援課のリーダーをしている事に納得しました。上はオレ一人で対処可能でしょう、特務支援課は引き続き内部で警戒をお願いします」

 

 

「ああ、気をつけて」

 

 

 グランはロイド達に背を向けると、屋上に向かうべく昇降機のある方向へと駆け出した。特務支援課は彼を見送った後、再び屋内の警戒を続ける事に。そして時間にして僅か三分後、彼らは驚く事となる。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 オルキスタワーの地下には、導力車の駐車スペースとしての利用目的で広い区画が設けられていた。車社会を想定して造られたその区画は駐車スペースにしては余りにも広大で、車の姿は点々とするのみ。需要とかけ離れた光景がそこには広がっている。

 そして、通商会議後半の協議が執り行われている今、その区画には多数の人影があった。二人を先頭に全員が武装状態で進行中のその集団は、此度オルキスタワーへの襲撃が予測されているテロリスト達の姿。現在彼らはオルキスタワー内へ侵入する為、地下の昇降機へと向かっていた。

 ふと先頭を走る二人が立ち止まり、後ろに続いていた同胞達へと振り返る。それぞれが仲間の無事を確認した後、先頭を走っていた二人の片方、帝国解放戦線のメンバーでもあるギデオンが、隣に立つ共和国のテロリスト、反移民政策派の幹部でもある男へ向けて口を開く。

 

 

「ここまでは概ね予定通りだ。これより奴の計画における唯一の穴……我らが退路に予定していた道を利用し、上空の襲撃を陽動として同時にオルキスタワー内へ奇襲をかける」

 

 

「大したものだ。我らの動きを完璧に予測した紅の剣聖といい、その紅の剣聖の動きを利用した貴様といい……上空へ向かった彼らには、何とか紅の剣聖を振り切ってもらいたいものだ」

 

 

「フン、上手くいけばいいがな……」

 

 

 会話を行うテロリスト達の最後尾、彼らとは纏う武装が異なる二人の男のうち一人が嘲笑気味に呟く。その二人はどうやらテロリストに加担している猟兵のようで、目的地を前に笑みを浮かべるギデオン達とは違い、何処か警戒した様子で周囲を見渡していた。

 そして、彼らがオルキスタワーへ侵入するべく侵攻を再開しようとしたその時。猟兵達の危惧していた事が、見事に的中した。

 

 

————あっはははは! あんた達、本当にグラン兄の事出し抜けたと思ってるんだ————

 

 

「誰だ……!?」

 

 

 突然地下へと響き渡った少女の声。思いもよらない事態にギデオン達は驚きつつもそれぞれ陣形を整え、声の聞こえた後方へ向けて振り返る。彼らは視線の先、通路の影から現れた武装集団の姿をその目に捉えた。

 テロリスト達の前には、突如現れた集団の先頭に立つ二人の人物が立ちはだかる。赤い星座のメンバー、シャーリィ=オルランドと、シグムント=オルランドの姿がそこにはあった。

 

 

「こんにちは、オジサン」

 

 

「なるほど。蜥蜴が紛れているとは聞いていたが、竜の連中か」

 

 

 テロリスト達の前に現れたシグムントは、彼らの傍に控えている二人の猟兵を視界に捉え、笑みをこぼす。シャーリィもその姿に気付き、笑みを浮かべるその視線に鋭さを増した。

 対して、二人の姿を前に猟兵の二人は苦しい表情だ。テロリスト達の顔も、徐々に険しいものへと変わっていく。

 

 

「赤い星座……」

 

 

「チッ……読まれていたか」

 

 

「な、何故だ!? 何故赤い星座がここにいる!?」

 

 

「同志G、これは一体……」

 

 

「いや、有り得ない。紅の剣聖は彼らと敵対している、協力関係を築くなど……まさか、あの男の差し金か?」

 

 

 テロリスト達が次々と取り乱す中、ギデオンは焦燥に駆られつつも冷静に事態を分析する。此度の事態が、抹殺対象である帝国政府宰相ギリアス=オズボーンによるものだと。だがそれを知ったところで、対策が打てるわけでもこの事態を収束出来るわけでもない。一騎当千の実力を持つと知られる赤い星座の一部隊、それも大隊長や副団長クラスまで揃っては、彼らの突破は絶望的と言えた。

 漸く自らの手で鉄槌を下せるところだった。それを、このような不測の事態で失敗に終わってしまった。紅の剣聖への対処に目を奪われていた時点で自分達は敗北していたのだと、ギデオンは悔しさをその顔に滲ませる。

 

 

「紅の剣聖を欺いただけではまだ足りぬという事か……!」

 

 

「ああ、それそれ。オジサン達、本当にグラン兄の考え読み切れたと思ってる? それ勘違いだよ」

 

 

「何……?」

 

 

 堪らず口にこぼした後悔の念に対するシャーリィの指摘。これには、ギデオンもその表情を怪訝なものへと変えた。紅の剣聖が作成したとされる襲撃予想図、それを逆手に取った作戦は完璧なものだった。現に今も、赤い星座による妨害が入らなければ自分達はオルキスタワーへ侵入可能だ。この娘は何を言っているんだと、ギデオンもその真意を汲み取れずにいる。

 しかし、猟兵である協力者の二人は違った。彼らは、そもそも何故赤い星座がこのタイミングで自分達の前に現れたのかという点に疑問符を置いている。そう、ギデオン達はこれからオルキスタワーへ襲撃を行うところだ。未だ事を起こしていない彼らの元へ、赤い星座の横槍が入るというのは何かがおかしいと。そして先程のシャーリィの物言いを思い返したその時、猟兵達は事の顛末を察する。

 

 

「そういう事か。どこまでも用意周到な男だ……いや、まさか貴様達も————」

 

 

———ええ。恥ずかしながら、お考えの通りですよ———

 

 

 猟兵の一人が顛末を口にしかけた矢先、突如として男の声が響く。直後、テロリスト達が向かう筈だった方向から赤い星座とは別の勢力が現れる。武術に用いる法着を身に纏う複数人の集団に加えて、黒装束を纏う人物が一人。そしてその先頭には、彼らを束ねる眼鏡をかけた男。先の声の正体でもある、ツァオ =リー率いる黒月(ヘイユエ)の集団だ。

 ツァオの登場に驚きを見せたのは、ギデオン達帝国解放戦線ではなく共和国のテロリスト達だった。反移民政策派である彼らはツァオの姿を視界に捉え、その身を引いた。

 

 

「ツァオ=リー!? 黒月(ヘイユエ)の連中が何故ここに!?」

 

 

「あっちはまさか、東方人街の魔人か!?」

 

 

「何故と言われましても……我々も彼の口車に乗せられたという訳でして」

 

 

 どういう事だと、やれやれと話すツァオの理由に怪訝な表情を浮かべる共和国のテロリスト達。ツァオの話し方からすると、黒月(ヘイユエ)の彼らも赤い星座と同様、何者かによる誘導があって現場に居合わせたという事になる。

 赤い星座と黒月(ヘイユエ)、敵対する二つの勢力の同時利用。どちらも容易く動かせるような組織ではない。そのような事を可能にする存在が、果たして本当にいるのか。テロリスト達は依然、現状に対して信じられないといった反応だ。

 しかし、テロリスト達の一人、帝国解放戦線のギデオンは今までの会話を思い返してふと気付いた。自分達がこの場にいる事、赤い星座や黒月(ヘイユエ)とこの場で居合わせた事、これらの流れを可能にする、一人の人物を。

 

 

「まさか、こちらへ情報が流れたのは紅の剣聖による故意だったというのか? いや、そんなはずは無い。だが、情報が漏洩し、我々が逃走ルートの穴を見つける事までも予見していたというならば……それは最早読みなどでは無い、未来予知の領域だぞ!?」

 

 

「噂には聞いていたが、これが奴の”戦場読み”か」

 

 

「”策を講じず、五倍の戦力で上回れ”……紅の剣聖とやり合った連中の戯言も、強ち嘘ではなかったという訳か」

 

 

 事の真意に思い至り、驚きを隠せず動揺を露わにするギデオン。テロリストの彼らに協力している猟兵の二人も同様の見解なのか、苦虫を噛み潰したような表情でその視線に鋭さを増す。

 一方で、利用された立場であるツァオとシグムント達はその表情に笑みをこぼしながら、テロリスト達を間に挟んで視線を通わせた。

 

 

「使える者は何でも使う。いやはや、彼の合理性には驚かされます。本当に、何処かの誰かさんにそっくりですねぇ」

 

 

「フ……本来のあいつは俺ですら測りきれん合理性の塊だ。だが余り褒めてやるな、あの馬鹿が聞いたらつけ上がる」

 

 

「あっはは、とか言ってパパも嬉しいくせに〜」

 

 

「御三方共、お戯れはその辺りで」

 

 

 楽しげに交わす三者の会話に、控えていたガレスの忠言が入った。流石に雑談が過ぎたと、彼の声を機にそろそろ仕事へ取り掛かるかと、それぞれが武器を手に、或いは拳を手に叩きつける。

 

 

「まぁ今回はグラン兄が相手だったし無理もないかな。じゃ、オジサン達も諦めてね?」

 

 

「くっ、紅の剣聖がこれ程までとは……!?」

 

 

 シャーリィの合図と同時に、控えていた赤い星座の団員達五人が帝国解放戦線へ向け、アサルトライフルの銃口を光らせた。それに対してギデオン達四人も慌てて自らの持つ銃器を身構えるが、その身はジリジリと後方へ身動ぎしている。猟兵である二人も赤い星座の部隊を脅威と判断してギデオンへ加勢するが、それでもシグムントとシャーリィを含めた七人に対し、彼らは合計で六人。各人の実力を考慮すれば、戦況は見るに明らかなものだった。

 

 

「それでは……我々の八つ当たりを受けて頂きます」

 

 

「ぐっ……!?」

 

 

 ツァオの構えを合図に、黒月(ヘイユエ)の部下達や黒装束の男も彼同様に反移民政策派のテロリスト達へ向け、その身を構えた。対して共和国のテロリスト達も武器を構え、応戦の姿勢を見せる。数は双方六人と互角だが、やはりテロリストはツァオ達の闘気に気圧され、その身を強張らせていた。

 そして、事態を見詰めていたシグムントはテロリスト達へ向け、最後の通告を行う。

 

 

「さて————帝国の貴様らは全員、女神(エイドス)行きだ」

 

 

 直後、オルキスタワー地下駐車場の一画は、六人の赤い血で染められた。

 




???「とまるんじゃねぇぞ……」

六章閑話、グランと保養地ミシュラムへ同行するのは誰?

  • トワ会長
  • ラウラ
  • エマ

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