東方事反録   作:静乱

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STAGE-2 VS疫病神

 山の上の神様に会いに行こうツアー、道中。

 寄ってくる妖精さんや毛玉を撃ち落としながら進む霧雨さんは、唐突に何かの暗号を呟き出した。

 

「……ええと、何、言ってるんですか、霧雨さん」

 

 することも何もない僕は霧雨さんに問う。ある程度の暇潰しになってくれると有難い。

 

「ん、あぁ、円周率を語呂合わせで言ってるんだ。魔法って割と複雑でな、円周率もある程度は覚えておかないと大変なんだ」

 

「へ、へぇ……」

 

 随分大変な職業なんだなぁ、と他人事のように思う。いや、実際他人事なんだけれど。とりあえず全国の魔法使いを目指す諸君、まずは円周率をある程度覚えよう。誰に言っているんだ。

 ……最近、色々とワンパターンである。見知らぬ他人に何か注意して、「○○だよー」みたいな感じでツッコむ。ただの寂しいぼっちじゃないか、これじゃあ。

 

「それにしても、空気が重いな。こう、霊がいるからとかそういう理由でなくて、物理的……でもないんだが、まぁそれに近い感じなんだけど……まぁとりあえず空気が重い。表現できない空気の重さだ」

 

「随分遠回りをした挙句、とても曖昧な表現に落ち着いたね。長くて聞き取り難いから、普通に『空気が重い』と言っておけばいいと思うよ霧雨さん」

 

 取り方によっては挑発と考えても可笑しくない言動であった。

 

「あぁ? うるせぇなぁ」

 

「僕の友達の霧雨さんが女の子なのに僕より男らしくて辛い」

 

「なんだソレ?」

 

「外界の読み物の題名風に今の心情を語ってみただけです。気にしないでください」

 

「そうか」

 

 納得したように(というか納得したんだろう)頷き、円周率の語呂合わせを復唱する作業に戻る霧雨さん。その語呂合わせは普通にしていたら聞き取れるようなものでないほど、長い文章となっていた。こう、『般若心経』に近いものを感じる。『般若心経』を覚えてない僕には到底覚えることができない代物だな、と心の中で肩を竦めた。絶対肩を竦めた必要ないよなぁ、と自分の行動を否定してみる。なんだか悲しくなった。

 そして一人言長いなぁ、と再び悲観してみる。してみる、ばっかの一人言に再び悲しむ振りをしてみる。あ、また出た。神出鬼没すぎる。

 

「……絶対可笑しいな。なんだろう。『不幸』が集まって……いや、これは、『厄』?」

 

 霧雨さんが円周率を復唱するのを止め、首を傾げ始めた。それに釣られ僕も周りを見回すと、見事に空気が重く、見事に『厄』が集まっている(ように感じる)。しかしそれは霧雨さんが言っていたからそう感じるのであって、恐らく僕単独でこれを目撃したならば、不吉に思うだけだろう。自分の洞察力の低さを呪いつつ、霧雨さんの洞察力の高さに驚く。

 ……いや、この場合、『洞察力』というより『表現力』と称した方が正しいのだろうか?

 

「それは私が『厄』を集めているからよ」

 

 くるくる、と廻りに廻るゴスロリっぽい服装をした緑髪少女。緑髪、と言っても巫女さんではない。僕個人としては巫女さんよりもこういう子の方が好みである。巫女さんも巫女さんの魅力があるけれど。例えば妖怪に敗北した巫女さんが性的な……何言ってるんだ。

 

「『厄』を集める? 何言ってるんだ。そんなことしたら、お前が大変なことになるだろう?」

 

「大丈夫だから集めているの。寧ろ、私は『厄』を溜め込んでいない方が大変なことになるわ。私は『疫病神』、『厄』は私の力となる」

 

 疫病神って可愛い美少女なんだね。

 それをツッコむのならば、まず妖怪が美少女という点にまずツッコむべきだよな。

 

「ふぅん。じゃあ、お前は強くある為に『厄』を溜め込んでいるのか?」

 

「いいえ、少し違うわね。確かに『厄』を溜め込んでいれば私は強くなれて、危険からも遠ざかれるけれど、それはおまけ。私は人間に『厄』が行かないようにしているのよ。それが本来の目的」

 

 ゴスロリさんはくるくる廻りながら自分の目的を語る。説明を訊く限りとても良い人だ。なんだ、疫病神っていい奴じゃん!

 ……目ぇ、回らないのかな?

 

「ところで人間さんに人間くん。ここから先は『妖怪の山』ーー天狗達のテリトリー。行かない方が賢明だと思うわ、見たところ実力はありそうだけど、それだけじゃあの見張りは越えられないから」

 

 しかも注意をしてくれるとは。是非この人とお友達になりたい。まぁ口に出していないので届くことはないけれど。

 霧雨さんが言う。

 

「はぁ? なんだ、もしかしてお前、私達の行く道に立ちはだかるのか」

 

「……まぁ、そうなるわね。彼処に入った者は割と容赦なく殺されるから。人を見殺しにできる程、私は人間……いえ、疫病神ができていないの」

 

「へぇ……」

 

 ゴスロリ少女は返答する。本当に良い人だ。最近はこういう人少ないから、お友達になっておいた方がいい。オンラインゲームのようにフレンド申請を飛ばそう。

 ざんねん! このせかいは ゲームじゃ なかった!

 

「……ハッ、忠告は感謝しておくぜ。でもな?」

 

「?」

 

 霧雨さんは自慢のミニ八卦炉を取り出すと、格好よく頭上に掲げたかと思えば、次の瞬間にはゴスロリ少女の方向に向けた。つまり振り上げて降り下ろしたのである。

 最後にキメ台詞。

 

「お前風に言わせてもらうなら、その程度の忠告で『はいそーですか』と回れ右する程、私こと霧雨 魔理沙は魔法使いができてないんだよ!」

 

 敵対の意思を示す。もう戦闘は避けられないだろう。

 

「……仕方がない。私は鍵山 雛、疫病神。魔法使い程度、軽く捻り潰すわ」

 

 疫病神兼ゴスロリ少女ーーもとい、鍵山さんは『厄』(だと思われるもの)を解放し、回転スピードを更に早めた。

 

「先手必勝、『ブレイジングスター』ァアアア!!」

 

 宣言すると同時に極太(だと思う。ここからじゃよくわからない)光を纏う霧雨さん……というか、箒全体。この時点で嫌な予感。

 続けて霧雨さんは箒に跨がっていた姿勢から立ち上がり、スノーボードみたいな態勢を取る。

 

「準備完了! 行くぜぇえええええ!!」

 

 叫ぶ霧雨さん。待ってました! と言わんばかりに発動するスペル。瞬間、箒は加速し、箒から引き離されそうになる。

 

「ああぁああぁああああぁあぁぁぁ!?」

 

 ぎりぎりで箒の端を掴み、なんとか宙に放り出されるなんてことだけは避ける。

 霧雨さんに助けを求めようと前を向く。

 

「た、助けてマリえもん!」

 

「はははははは!! 食らえぇぇぇえええ!!」

 

「聞こえてねーでやんの! 霧雨さんの声は聞こえんのにぃ!!」

 

 霧雨さんは『ブレイジングスター』の制御並び、鍵山さんに命中させることに夢中であった。ていうかこれ、先手必勝というより一撃必殺だと思う。一撃で必ず殺す技だと思う。

 

「……しかし。軌道がわかれば大したことはないわ」

 

「!」

 

 鍵山さんはぐるぐると廻りながら『ブレイジングスター』をかわす。動きは単調だからだろう、見た目が派手で、密度が高くても、やはり相手が狙った位置に一直線で突進する技なのだから、見切り易い。

 

「こんなんじゃ駄目ね。『バッドフォーチュン』」

 

 回転スピードが上がり、その勢いで光弾が発射される。霧雨さんそれをかわすも、光弾が通った位置には米粒弾幕が。両側の斜めからくるのだから避けにくい。

 

「ちっ、まさか『ブレイジングスター』をかわすとはな!」

 

「……伊達に疫病神やってないわ。それに、今日はある理由があって厄の集まりがいいの」

 

 肩を竦め謙遜する鍵山さん。ある理由、ってなんだろうか。今日って何か不幸な日だっけ。説明する気はないようだし、あまり言及はしないでおこう。

 

「密度高いなぁ……。まぁいい、この程度、どうってことはないぜ! これで全部吹き飛ばす! 『マスタースパーク』!」

 

 先程降り下ろした癖に使わなかった八卦炉を今度は使う霧雨さん。魔法アイテムの『ミニ八卦炉』にエネルギーが集まり、……放たれる!

 

「いっけぇえええええ!!」

 

「だから、こんなんじゃ駄目なんだって。『壊されたお守り』」

 

 鍵山さんから更に『厄』のようなものが解放される。鍵山さんによって抑えられていたであろう本来の『厄』の力が解放され、霧雨さん(と僕。巻き添え)に襲いかかる。

 

「これは『ブロークンアミュレット』の上位互換よ。貴方達を撃退するにはこれぐらいやらないといけないようだから。

 ……さぁ、『厄』に呑まれなさい」

 

 『厄』は僕らの周りに広がり、霧雨さんを撃退しようと降りかかってくる。

 『ブロークンアミュレット』。確か『壊れたお守り』という意味だ。で、それの上位互換が『壊されたお守り』……。うわ、これ、やばい。

 

「レベルが違うっ! 霧雨さん、今から僕が技を出すから、それに『スターダストレヴァリエ』を乗せ……」

 

「ふっ、お前の力は借りるまでもないぜ。私の力を見せてやる!」

 

「ちょっ、馬鹿っ、やめっ!」

 

 マスパすら駄目であったのに。これ以上威力がある技、霧雨さんには……。

 

「新技ご披露! 魔砲『ファイナルスパーク』ゥウウウウウウウ!!」

 

「ふぁいな……っ!?」

 

「その程度で『厄』は払えな……!?」

 

 その瞬間、ミニ八卦炉から放たれたのは、『マスタースパーク』なぞ目ではないレベルに太く、でかいレーザーが発射された。反動で箒にぶら下がっていた僕は吹き飛ばされる。

 『ファイナルスパーク』は『厄』を払い、進行する。唖然と見つめていた鍵山さんは逃げ出すことができない、直撃だ。

 その際再び発生したエネルギー波で、僕は更に吹き飛ばされる。

 

 そんな中で、最後に聞こえた会話。

 

「……貴女、本当にただの人間……というか、魔法使い?」

 

「円周率を語呂合わせで覚える辺りは、少なくとも人間じゃないか?」

 

 うはぁ、信じらんねー。

 

 

 

 

 

 


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