東方事反録   作:静乱

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Extra-2 決着

 現実に戻ってきた想也は、再び激痛に襲われる。『ボク』からダメージ回復のサービスをもらったはいいが、どうも現在の状況(腹部を貫かれた状態)までは考えに入れていなかったよう。『ボク』の適当さにため息をつきたくなるも、そんな暇はない。このままではまた死に掛けである。

 想也は能力を行使し、貫かれている状況から脱出。痛みに耐えながら再び使用、傷を回復し、まずは霊夢や魔理沙の方へ向かう。『西行妖』は背中を向けた想也に向け枝を伸ばす……が。

 

『…………』

 

 気づけば。

 

 『西行妖』が伸ばした枝は、冷たい炎(・・・・)に焼かれ凍るという、矛盾した光景の一部と化していた。謎の光景。意思もなく、ただただ破壊を繰り返す『西行妖』も、自然と動きを止める。それが自分にとって脅威だと、それだけは、わかったから。

 その間に、想也は霊夢達の回復をする。

 

「……!? いったい何が……いつっ!」

 

「おい、想也。いったいどうなってるんだ!? 私達は確か、あれに……」

 

「話は後です。次に、魂魄さんと咲夜さん……っ!」

 

 言いかけて、想也は『西行妖』の枝の接近に気づく。流石にあれじゃあ、数秒しか止められないか。想也はそう考えながら、枝の軌道を冷静に分析した。

 

 ――僕を早急に排除しようと考えたのか? 全ての枝が僕に向かってきている。

 ……よかった、これなら止められる。

 

 掌を枝に向け、想也は何かを呟く。……瞬間。

 

 

 

 

 

 轟く、雷鳴。吼える、紅蓮。震える、氷結。

 それらは、『西行妖』の攻撃を防ぐには、充分すぎる威力だった。

 

「っ……!? 想也、アンタ今、一体何を……?」

 

「話は後ですって。さて、魂魄さんはこれで回復。咲夜さんは……これでよし、と。意識は戻ってないけど、多分大丈夫なはずだ……。じゃ、二人とも。二人と幽々子さん宜しく」

 

「「は?」」

 

 その言葉を最後にこの場にいた者達は、想也と『西行妖』を残していなくなった。想也は想刃を取り出して、フォンフォンと振ってみせてから、構える。

 

「……あの時は、引き分けだった。さっきは、負けた。……でも、『今は』どうかな?」

 

 始まる。決戦が。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

『ヒント。『能力』はい終わり』

 

 あいつ――『ボク』が僕に教えてくれた、『西行妖』を倒す為のヒント。

 

 最初は意味がわからなかった。だって、『西行妖』に能力は効かないから。【効かない事実】を反対にしても、それ自体が効かないのだから、どうしようもない。

 ……だけど、気付いた。『ボク』は『能力』とは言ったけれど、決して『事実を反対にする程度の能力』なんて言ってないんだってことを。そこさえわかれば、後はトントン拍子で思考が進む。

 そうして、僕は今の結論に辿り着いた。

 

 

 

 『能力』を作ればいい、って。

 

 

 

 僕が先程『西行妖』に敗北した理由は他にもあるだろうが、何よりも問題なのは決定力不足だ。『想いを乗せる黒色の刃』が効かないとなれば、僕は絶対に勝つことができない。

 だけど、その決定力不足を補強できれば。それさえできれば、勝機も見える。

 

 ……そうして出来たのが……。

 

 

 

 

 

「合成『フリーズサンダー』」

 

 雷の氷の力が合成され、通常より威力が増してとんでいく。『西行妖』の枝に当たった『フリーズサンダー』は、枝と共に弾けとんだ。

 

 ……『合成する程度の能力』。ご察しの通り、それが、僕が今回、『西行妖』を倒すに至って作り出した能力だ。

 その名の通り、望むものを自由に合成できる能力。これを用いて、僕は『西行妖』に勝つ。勿論、『事実を反対にする程度の能力』も併用だ。……やってみせる。

 

「まだまだぁ! その枝全部っ、根こそぎ奪ってやるっ! 合成『ホーリーサンダー』、合成『フリーズボルケーノ』!」

 

 叫びと同時、僕の両腕の掌から合成された二つの属性が飛んでいく。それは再び、『西行妖』の枝と共に弾けた。……これでもこの程度の威力しかないか。なら、三属性を合成させればいい!

 

「合成『ライトニング・ボルケーノ・フリーズ』!」

 

 即興な為に無駄に長い技名になってしまったが、そんなことを気にしている暇はない。『ライトニング・ボルケーノ・フリーズ』は先程よりも多くの枝を巻き込んで弾けとんだが、それでもまだまだ多くの枝が残っている。くそっ、完全に威力不足だ! これでも無理なのか!

 

「……って弱音はいてる暇もないんだよォっ! 遠距離で駄目なら物理で攻めるのみ! 『今の』僕に着いてこれると思うなぁ!」

 

 独り言のように呟き、想刃の他に『通常の剣より軽い剣』を作り出し、想刃に重ねる。これで想刃は『軽くて切れ味がすごい剣』になった。名づけて、『想刃・速』。霊力消費が激しいが、その辺は『事実を反対にする程度の能力』でリカバリーが効く。問題はないはずだ。

 というわけで、跳躍! 『西行妖』は三本くらい纏めた枝で迎撃してくる。思い切り霊力を込めて、すれ違いざまに逆袈裟の形で斬った。

 

「うぐぅ……いてぇ……!」

 

 ビリビリ、と痺れる腕。そのせいで若干崩れた体勢を整えることができず、転がるように地面に落ちてしまった。その隙を好機とし、『西行妖』は妖力弾を放ってから、枝を叩き下ろす!

 

「まずっ!?」

 

 咄嗟にスペルを発動。

 

「心壁『A.Tフィールド』!」

 

 アニメと同様のSEと共に、僕の目の前に六角形くらいの波紋みたいのが現れ、妖力弾と枝の進行を抑える。危ない!

 

「くそ、威力が足りないんだったら、今度はその威力を底上げだ!」

 

 そう言って、僕は両手でもとても持てそうにないほど大きい大剣を出す。このままじゃ使い物にならないが、この軽くなった想刃と合成するなら話は別だ。想刃と大剣を重ねて、完成。

 見た目は先程と大差ないが、ある程度振り回せるくらいには軽くなった。威力も十分。いける!

 

「そこだぁっ!!」

 

 A.Tフィールドに弾かれたことで出来ていた隙を狙って、僕は『西行妖』の枝を一気に切り落とした。全部とまではいかないけれど、十数本は落とせている。ならば十分だろう。このまま押し切る。

 意思がないはずだが、枝を切り落とされた『西行妖』は少なからず焦りを感じている様子。うねうねと、ただでさえ気持ち悪かった動きの枝を更に蠢かせ、僕に襲い掛かってくる。その際、驚くことに、先程切り落とした枝がどんどん再生してきているのを視認。不味い、と接近戦に持ち込もうと試みたが、枝が邪魔で進めない。

 

「あぁっ! 邪魔だ! このままじゃ僕が圧倒的に不利じゃないか! くそっ」

 

 叫ぶが、状況は変わらない。このままじゃジリ貧である。何か打開する方法を模索するが、いい案は一向に出てこない。自分自身の発想力の無さを呪った。呪っても状況は変わらないので、すぐ止めてしまう。それにしても、どうすればいいんだ。

 

「……そうだ! 咲夜さん、技借ります! 僕なり『殺人ドール』!」

 

 思いついたのは、大量の刃物が襲い掛かる咲夜さんのスペル。あれならこの枝も破れるかもしれない。

 思い立ったが吉日、僕はスペルを宣言する。瞬間、僕が持っている大剣の想刃(『想刃・鬼』と称す)が大量に出現。そのまま、想刃・鬼が枝を粉砕していった。僕の目の前に道が出来る。目の前には無防備な『西行妖』の姿。……ここしかないっ!

 

「そこだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!」

 

 突進。残った枝が僕の進行を妨げようとするが、此方にも『殺人ドール』が余っている。それらが、僕がちゃんと進めるようにサポートしてくれた。ついに、僕の進む道を塞ぐ障害はどこにもない。

 ……これで、これで。

 

 

 

 

 

「最後だ! 覇剣『想いを乗せる黒色の刃』ぁぁぁぁぁああぁああああああっっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 刀身を横に振りそのままの勢いで回転しながら、『西行妖』に叩きつける。ぎゃりぎゃりと刀身が削れていく、ひびが入るのが止まらない。持たないのだろうか。最後の最後で? 一瞬の絶望が僕の思考に広がるが、心配は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズゥーン……と地面が揺れる。美しく咲いていた桜は、地面に横たわった。まるで、ようやく解放されたと言いたそうに、嬉しそうに輝いて。

 

 ……そして。

 

「ありがとう、『想刃』」

 

 音も無く崩れていく、今まで一緒に戦ってきた相棒『想刃』。役目を終えたかの如く、破片すら消えていく。

 

「……そういえば、想刃を作ったのは、『西行妖』と戦う少し前だったっけ」

 

 昔のことを思い出して、ふっと笑う。面白い運命も合ったものだ。

 

 

 

 

 

 

「……さて、と。僕も、そろそろ、限界……」

 

 ドスリ。僕は意識を投げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




『合成する程度の能力』

 名前の通り、どんな物でも好きな性能をとって一つの物に合成できるチート能力。

 霊力消費が激しく、使ったあとは暫く昏睡状態に陥る。

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