東方事反録   作:静乱

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諏訪小戦の反対、つまりは諏訪大戦
第6話 起きたら数百年


「……この辺の筈なんだけど」

 

 私、洩矢 諏訪子は森の中にいる。

 

 何故私がこんな森の中にいるかというと、この森のあるところから強力な結界が確認出来たからだ。何かが封印されている、と考えるのが妥当だろうーー見過ごす訳にはいかない。

 

 しばらく飛んでいると小さい洞窟が目に入った。近付いて見るとうっすらとだがエネルギーの壁が視認できる。ここが発生源だと見て間違いないだろう。

 

「……随分風化しているな」

 

 ここ最近作られた結界ではない、か。だとすると、どうして今まで、私はこれを見つけることができなかったのだろう。謎は深まるばかりだ。

 ……考えていても始まらない。私は結界を破壊すべく、神力弾を飛ばす。

 

 

 

「……よし」

 

 ピシリ、といった擬音と共に、結界はすんなり破れた。まぁあそこまで弱くなっていたんだ、壊せなかったら、神の名が廃る。

 

 そのままもう一度封印するのもありだったが、私は一度、中に何があるのか確かめることにした。確認は大事であるーー少し前にも前方の注意を怠ったせいで無様に転んでしまった。痛かったし、何より民の目の前だったから、恥ずかしいったらありゃしない。

 

(……忘れよう)

 

 ぶんぶんと首を振り、洞窟の奥へと入っていく。小さな洞窟のようであったが、それは入り口だけのようで、中は大きな空洞となっていた。ぴちょんと滴る水滴に驚きつつも、私は歩みを進める。

 ……と。

 

「……人間か? 見たことのない服装だな……」

 

 ……服装はどうでもいい。何故人間がこんな場所に封印されている?

 

「…………」

 

 ……いや、待て。先程の結界は封印を目的としたものではないのだろうか。憶測でしかないが、例えば、この人間自身が身を守る為に張ったとか……。

 ……案外有り得る、か? 人間だって『能力』を授かることはあるのだから。

 ……しかし、それはそれで疑問が残る。何故、これほどまでに若い? 見たところ長い間昏睡状態だったようだが、だからって成長が止まるはずがない。案外結界を張って十数年とかその辺りなのかもしれないが、……その線は薄いだろう。結界の風化の理由がつかない。外から傷つけられた外傷はなかったのだから、時代によるものだ。

 

「……分からない。この少年を起こすしかないか。……起きなよ」

 

 ぺちぺち、と少年頬を軽く叩く。少年は「止めて……、後五分……」と嫌がるが、そう待っている気は毛頭ない。頬を叩き続ける。

 

「う、うぅーん……。止めてよぉ……。ん? あれ、此処、何処?」

 

 目を擦りながらふにゃふにゃとした声で呟く少年。私の方が質問したい。申し訳ないが、少年の都合は全て無視させてもらおう。

 

「……貴方は誰なの?」

 

「えぇ……? 貴女、誰ですかぁ……」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「貴女、誰ですか……」

 

 諏訪子が居た。

 洩矢 諏訪子がそこに居た。グッドモーニング、諏訪子! ……えっ。何がどうしてこうなったのだろう。

 一先ず状況を確認してみる。

 

 

 

 現在地点、見た限り洞窟。ぴちょん、ぴちょんと水滴が落ち、じめじめしていて気持ちが悪い。

 現在目の前に居る人物、洩矢 諏訪子。原作キャラの一人。早苗さんが巫女をやっている神社ーー守矢神社の神様の一柱。

 そしてこの僕、黒橋 想也。『精神と時の部屋改』で修行をした後、いわゆる『人妖大戦』(人=僕。妖怪=その何百倍)に参加。よくあるチート能力を用いて、ご都合主義の如く勝利した……と思ったら『鬼子母神』(姫崎 陽炎だっけ?)に殴られる。逃げるかーと考えていたら爆弾投下、結界張って耐えた後ーー疲れたから眠りについた、と。

 

 ……能力の酷使が原因、だよな。眠くなったの。それできっと、数百……億? 年すっとんだんだ。多分。手抜きじゃねぇかバカ野郎。まさか二次小説特有の手抜きゾーンを自分で体感することになるなんて思っていなかった。

 

「……ごめん。こちらが名乗らずに名前を聞くのは失礼だったね」

 

「え、あ、どーも……」

 

 苦笑いを浮かべ僕に謝ってくる諏訪子。別に名前は知っているんだけれど、本来、僕と諏訪子は初対面だ。僕の方だけ名前を知っている、というのは不自然だろう。

 

「私は洩矢 諏訪子。この国ーー諏訪大国の神をやっているよ。今日はこの地に強力な結界を感じてね、とりあえず破壊してみたところ、君を見つけたんだ」

 

 やっぱりそうなのか。大分飛んだものだ。

 そんな長時間孤独で居るのは嫌だから、結果的によかったのかもしれないけれど、修行とかそういうのをした方がよかった気も……済んだことを気にしても意味ないか。

 

「あ、ご丁寧にどうも。僕は黒橋 想也といいます。ここに結界を張った理由としては、……まぁ沢山の妖怪と戦ったんですけど、色々あって爆弾に巻き込まれ、本能的に結界を張りダメージは逃れましたが、霊力や能力の酷使が原因のようで眠りにつきました。それで起きたら貴女……洩矢様が」

 

「そんな畏まった呼び方は止めてよ。諏訪子でいいからさ。……にしても、本当なの、それ? 私からすれば、想也はただの人間にしか見えないな。嘘つきは嫌われるよ」

 

「むっ」

 

 舐められている。これ、絶対舐められている。嘘じゃないのに。

 ……まぁ、そう思うのも仕方ないよなぁ。人間って弱い存在だし、神様の諏訪子や妖怪とはレベルが違うからなぁ。……その辺りで言えば、僕は人間というより蓬莱人に近いのか? まぁいい。

 ちょっとムカつくから、驚かせてやろう。

 

 能力で剣を出し、同時使用で諏訪子の後ろにワープ。首筋を断ち切る勢いで(切りはしないけど)振るう。

 

 

 

「……う……」

 

「なるほど……。確かにそこらの人間とは違うね。危うく殺されるとこだったよ」

 

 嘘つけ、余裕の癖して。

 何が起こったかって言うと、簡潔に述べれば、諏訪子は剣を右手だけで受け止め、同時に左手を僕の首に突きつけていた。完全に流されてやがる。

 

 ……さっすが神様……。大妖怪とかとは格が違う……。

 

「まぁ、まだ成長の余地は充分にあるね。人間でありながら人間の域を越えている……って感じ。その気になれば私も越えられるかも!」

 

 にこっと微笑む諏訪子。うっ、可愛い。流石に画像とか動画とかとは訳が違う、こう、なんか、別次元だ。確かに二次元と三次元の違いだね。アホかぃ僕は。

 

「あー……。ど、どうも……」

 

「あはは、私は思ったことを言っただけだよ。……あ、お世辞じゃないからね。本当のこと。想也はもっと強くなれる」

 

「は、はぁ……」

 

 女の子にそんなこと言われると、なんだか情けなくなる。

 

「そうだ、私の戦闘練習の相手になってよ。中々歯応えがありそうだから」

 

 ……と持ち掛けられたのは、きっと神様転生主人公『僕』のご都合主義的なものなのだろう。

 即座に反応、質問する。

 

「衣住食は付いていますか」

 

「モチロン」

 

「分かりました! この僕、黒橋 想也は貴女の戦闘練習の相手となりましょう!」

 

 やっぱり、人間住むところって大事だと思います。それが簡単に得られるのであれば、そりゃ食いつくでしょう。

 そんなこんなで。僕は限りなく特等席に近い形で諏訪大戦を観察できることとなった。

 

 

 

 

 

 


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