東方事反録   作:静乱

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STAGE-3 咲

「……つまり、あの桜が満開になったら幽々子様は消えてしまうのですか!?」

 

「さっきからそう言っています。だから、絶対に止めないといけないんですよ」

 

 道中に事情を説明し、少女(魂魄さんというらしい)に協力してくれるよう促す。了承は得られた。とりあえずは、この階段を駆け上がるだけでいい。本番はその後だが。

 さて、なら、作戦を練るのはこのタイミングだろう。僕は二人に、今の状況を予想を含めて考察した。

 

「……恐らくですが、既に『西行妖』は四分咲くらいまでいっていると思われます。探知はしづらいので分かりにくいですが、なんとなくそのくらいだと。ここからだと、満開までもっても三時間。それまでに決着をつけなければ、幽々子さんはもちろん、この幻想郷すらも終わる可能性があります。……しかし、正直それじゃ少ないくらいですね」

 

「……と、言いますと?」

 

 咲夜さんが僕に聞いてきた。僕は走りながら、それに答える。

 

「……昔『西行妖』を封印したときは、今回と同じように三時間の時間制限がありました(自分で作ったようなものだけど)。当時は今よりも力があったんですけど、それでもぎりぎり。……今はあの時より力がないんだ、それで前回と同じ時間制限となると、かなりきついです」

 

「……」

 

 二人が黙り込んでしまう。僕だって黙りこみたいくらいだ。正直言って、どう突破すればいいのか分からない。今回に至っては、『西行妖』の前に幽々子さんも相手にしなければいけない。……本当に、本当にどうすればいいのだろうか。どうやって……?

 

 

 

 

 

「そうかしら? アンタのことだから、どうせ前回は一人で戦ってたんでしょう?」

 

「そうだぜ、想也。仲間を頼れって、紫に言われたばかりなんだろ?」

 

 声がしたのは横側から。聞きなれた……訳ではないが、先日の異変解決時に共に戦った、二人の声。

 

「……博麗さん」

 

「何よ、苦い顔してんわね。まさか、まだこの前のこと気にしてんのかしら? 今はどうでもいいから、さっさと異変解決するわよ」

 

 博麗さんはそう言って、ぐんぐんと速度を上げる。

 

「……霧雨さん」

 

「元気ないなぁ想也! テンションが下がるのは分かるが、こういう時こそ元気にいこうぜ!」

 

 そう言って霧雨さんも、速度を上げる。

 ……そうか。今回は、一人じゃないんだった。……今の僕には、仲間がいる。

 

「……よし。いきましょう、皆さん」

 

「敬語なしね」

 

「……いくぞ、皆!」

 

『おぅ!』

 

 僕ら三人改め、僕ら五人は決意を新たにし。また階段を駆け上がり始めた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「……幽々子さん……」

 

 到着。幽々子さんは僕の声を聞いたあとゆっくりと此方に振り返り、僕らに話しかける。

 

「……あらら? 皆さんお揃いで、更には妖夢まで……。そしてそこの彼は、どうして私の名前を知っているのかしら?」

 

「……やっぱり、覚えてないですか。今は、貴女を止める邪魔者とでも考えてくれれば、……大丈夫ですよ」

 

「あら、そう」

 

 僕は剣を出して、臨戦態勢に移行する。しかし、まだ仕掛けない。魂魄さんの対話も、試さなくちゃいけないから。場合によっては……これで止められる可能性も……。

 

「……幽々子様。どうか……、どうかもう止めてください。これ以上は、大変なことに……」

 

「大変なこと? それってどんなこと? どうせ、大したことでもないのでしょう? だったらそんなことよりも、私はこの桜を満開にすることを優先させるわ」

 

 ……魂魄さんの言葉は、もう幽々子さんには届かない。

 

「違っ! その桜が咲いたら、この幻想郷は滅び、幽々子様は……!」

 

「御託は聞きたくないわ、妖夢。私はこの桜が満開になるところを見たいの。そして、……その先に何があるのか。もう止まらないわ。邪魔をするなら……叩き潰すわよ?」

 

 幽々子さんは言い切ると、僕らに向かって弾幕を発射する。一番前列にいた僕は想刃で薙ぎ払い、皆に合図。

 

「皆、全力で押し切りますよっ!」

 

「「「「了解!」」」」

 

 瞬間、僕らは分散。僕の場合はまっすぐ突進する。

 幽々子さんはまず、まっすぐ向かってきた僕に弾幕を放った。先程と同じように薙ぎ払い、それと同時に弾幕を発射。薙ぎ払った弾幕に潜み、発見が難しかった為に、幽々子さんはたまらず被弾した。だが即座に立て直し、再び弾幕を放つ。

 

「くっ、援護!」

 

 僕の叫びに、博麗さんが答える。

 

「了解、魔理沙、合わせなさいっ!」

 

「おうよ! いくぜ、魔符『スターダスト・レヴァリエ』!」

 

「に合わせて、霊符『夢想封印』っ!」

 

 霧雨さんの星弾幕と博麗さんのカラフル弾幕が重なり、僕に向かっていた弾幕を叩き落した。砂塵が起こるが関係ない、そのまま突っ込む。早期決着を望むのだったら、ダメージなんぞ気にしていられるか。

 

「あらら、五対一なんて卑怯ねぇ。ま、負けるつもりはないけど。……そこの彼、早く止まらないと、『死ぬ』わよ?」

 

「……っ!」

 

 流石にこの人の『死ぬ』は洒落にならない。僕は急ブレーキをかけ、後ろに跳躍する。案の定というか、進行経路の先には、綺麗な蝶が。……どうも、本気で殺しにきてるっぽい。きっついな……。とりあえず警告。

 

「皆。あの蝶に少しでも触れたらやばいから、気をつけて。やばいっていうか、死ぬし」

 

「はぁっ!? なんつぅ物騒な蝶なんだよ! 弾幕ごっこは不殺のルールだろ?」

 

「それがそうも言ってられないんだよね……。前回のフランの時だって、そんなんだったでしょ?」

 

「そいつはそうだがなぁ……」

 

 霧雨さんが愚痴る。愚痴りたいのは僕だって同じだ、今は我慢してくれ。……ちょいと、相談。

 

「咲夜さん。あの蝶の処理、お願いできますか? 貴女のナイフ捌きなら、あの蝶を簡単に処理できると思うんですけど……」

 

「はぁ、随分と簡単に言ってのけますね。……分かりました、引き受けましょう。蝶は任せて、皆様はあちらの方に専念してください」

 

「どうも」

 

 次、魂魄さんの動きについて。

 

「魂魄さん。魂魄さんは、僕と同時に幽々子さんに仕掛け、一撃必殺を狙いましょう。いや、殺しませんけど」

 

 魂魄さんは少し迷っている。……一応、彼女は幽々子さんに仕えてた身だし、迷うのも無理はないだろうが、今はそんなことで迷っている場合ではない。辛辣なのは分かってるが、その辺りをちゃんと言ってやる。

 

「……幽々子様を止められるのなら、やります」

 

「……うん、じゃ、行きますよ」

 

 魂魄さんと同時に跳躍。左右から向かっていく。先程の弾幕に加え、今度は蝶まで放ってくるが、此方は作戦を練っていたんだ。弾幕は博麗さんと霧雨さんが打ち落とし、咲夜さんが蝶を仕留める。その際にもどんどんと、僕と魂魄さんは幽々子さんに迫っていく。ここだ、一撃で決めるっ!

 

「魂魄さんっ、合わせて!」

 

「はいっ」

 

 合図をして、全力で、叩き込んだ。

 

「人鬼『未来永劫斬』(覇剣『想いを乗せる黒色の刃』)!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あら、中々。でも、残念ね。『西行妖』は、今、満開になったわ」

 

 

 

 

 

 負け惜しみにしか聞こえないはずの、その言葉。だって幽々子さんは消えてないから、満開になっているはずがない。……それでも。

 

 

 

 

 

「……お久しぶりだね、『西行妖』。随分、元気そうじゃないか」

 

 

 

 あの時と同じように蠢く『西行妖』の姿が、それが真実だと示す、一番の証拠だった。

 

 

 

 


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