東方事反録   作:静乱

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 鬱展開注意。


幻想郷での生活 一
part1 兆し


 ふらふらと暗闇の森を漂い辿り着いた先は、大量の水が流れている大きな滝だった。意味もなく滝の上まで飛翔し、その辺にある石に腰かける。思い出したくもないが、先程のことを考え始めた。

 

「……どうしてかなぁ。あんなこと、考えたことなかったはずなのに」

 

 言葉通りの意味。僕自身、今まであんなこと考えたことなかった……はず。やっぱり、心の何処かで不安になっていたのだろうか。

 

「……ごめん、文。また泣かせちゃって。他の皆もかな」

 

 ここで謝罪しても意味がないのに、と付け足す。多分、面と向かってだと言えないから此処で言ってるんだろうな。自分の考えてることさえ、分からない。

 

「僕って、何年生きたんだっけ……」

 

 思い出す努力もせず、能力で調べてしまう。結果は予想通りといっちゃあ予想通り、かなり途方もない時間だ。生き過ぎだろう、僕。

 

「というか、生きている意味なんてあるのかなぁ」

 

 呟きながら立ち上がり、ふらふらと崖際まで歩く。手をぐーぱーと運動させて、首をぐりんぐりんと柔らかく動かし、ごきりと肩の骨を外す奇行に走ってみる。いつもなら感じるはずの痛みも今は感じない。

 なんででしょう!と僕の中に住んでる天也くんがえへんと胸を張りながら言った。悪也くんの回答はこない。天也くんはしょぼくれた。仕方ないよ。だって、君も悪也くんも僕なんだから。僕が分からないことは君らも分からないんだ。へぇー、そっか。と、天也くんは興味なさそうに答える。なんだよ、折角教えてやったのに。僕、傷ついて自殺しちゃうぞ?

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ死ねば?」

 

 天也くんと悪也くんは声を揃えて言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん。それもいいかもね」

 

 僕はそう答えた。後ろに重心をずらす。

 

 

 

 

 

 

 

 ひゅ~、ぐちゃ。僕は死ねません。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 白い空間。真っ白な空間。そこにぽつんと、僕のカタチをした何かが立っていた。

 恐怖、恐怖、恐怖。その感情一色に僕の心は染められ逃走を謀る。しかしあのときと同じく、足が動かない。動けない。何かはあのときと同じようにゆっくり、ゆっくりと僕に迫ってくる。

 

 だけど、あのときとは違うことがあった。顔が見える。

 

 髪の毛に隠されているだけで、前みたいに暗闇じゃない。こいつのことを視認できる。こいつが何者かを、確認できるチャンスだ。絶対に見なくちゃ。

 

 同時に、見るな!という警告も僕の中に響いていた。これを見たら全て終わるような気がして、怖くて、目をそらしたくもなった。強いて例をあげるとすれば、ホラー映画が苦手な癖に強がって見てるやつみたいな。だけど、見なくちゃ。使命感的な何かに刈られ、それと同時に軽い好奇心もあって、恐怖を感じながらも、僕は目をそらさない。

 

 奴は近づく。僕に近づく。奴と僕の距離が数メートルに縮まったとき、遂に僕は、奴の顔を視認する。

 

 そこには……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「顔のパーツが、……ない?」

 

「キヒッ!」

 

「ひっ……!」

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「うわぁぁぁああああっ!!」

 

 悲鳴をあげながら目を覚ます。恐怖から逃げようとして横に転がった。どんがらがっしゃーん、という擬音と共に、横にあった物が崩れ僕の背中に痛みが走る。

 

「くぅ……!いってぇ……」

 

 僕はどうやら戦闘以外の痛みに弱いようで、頭やら膝やらを抱えて悶えた。くっそー、と瞼を開ければ、僕の視界に影が指した。え?とその方向を向くと、先程崩した物がボウリングのように積み重なってた物に当たって、崩壊を開始している。

 

「うわわわわわぎゃあ!?」

 

 そのまま、物が僕に向かって落ちてくる。なすすべもなく全弾命中し、僕はその山に埋もれてしまう。その中で、どたどたー、と誰かが駆けてくる音が聞こえた。よく考えてみれば、ベッドから落ちたかんじだったよな。誰かが僕が滝の下で倒れてるのを見つけて助けてくれたのかな。……いっそのこと、あれで死ねたらよかったのになぁ。

 

「だっ、大丈夫っ!?」

 

「……大丈夫じゃないです」

 

 現れたのは全体的に秋っぽい、金色の眼をした少女だった。僕を心配しているようなので、更に心配させそうな言葉を返す。なにやってんの、僕は。

 

「えぇっ。と、とりあえずそこから引っ張り出すわ。穣子を呼んでくるから、待ってて!」

 

 そう告げて、秋っぽい少女はどたどたー、と来た道を戻っていった。しばらく待機していると、もう一人秋っぽい少女が来て(とりあえず最初の子は秋A、二人目を秋Bと呼称する)僕を引っ張り出してくれた。途中で能力使えばよかったんじゃね。と思いついたけれど、お二人が頑張ってくれていたので却下。そのシーンは割愛だったりする。で、今は何故か、僕はお二方と朝食を共にしていた。昨日のこともあってか、今はなるべく知り合いを増やしたくないんだが……。

 

「はい。今は秋じゃないから季節じゃないけど、それでも美味しいよ」

 

 と、秋Bさんは僕に秋の食べ物を使って作った朝食を渡してきた。たけのこご飯か。好きだけどさ……。

 

「ほら、君も。ご飯を食べるときは挨拶があるでしょ?」

 

「あ、えっと……はい」

 

 秋Aさんが挨拶を促す。仕方なく返事をした後手を合わせて、空気を吸う。

 

『いただきます(!)』

 

 二人は僕に合わせてくれたようで、元気よく「いただきます!」と宣言した。僕はそのまま、たけのこご飯に箸を運ぶ。うん、美味しいよ。美味しいんだけどさ……。

 

「どうしたの?元気ないよ。もしかして、たけのこご飯苦手だった?怒りたいところだけど、君は怪我して……ないっ!?」

 

「え?嘘、そんなはず……あった!?なんで!?昨日はあんなにボロボロだったのにっ」

 

 秋Aさんが僕の状態に気付き、秋Bさんはそれに混乱する。その辺説明してもいいけど、先述した通り今は知り合いを増やしたくない。「ありがとうございました」と一礼してこの家を出ようとする。引き止められたけど、大丈夫です。と言って、そのままこの場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 


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