東方事反録   作:静乱

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紅霧異変解決 宴会

 宴会をすると聞かされ拒否ったのだが、紫が「宴会に参加しないとスキマに落とすわよ?」と脅してきたので、仕方なく了承した。今は博麗さんが適当に喋っている。

 

「んじゃまぁ。そろそろ入ってきてもらおうかしら」

 

 と、どうやら僕の紹介が始まるらしく、呼ばれた。僕はがらがらーと襖を開け、宴会に来てる皆からよく見える位置に陣取った。それなりに知ってる顔も見える。

 

「紹介するわ。こいつが今回の異変解決を手伝ってくれた、黒橋 想也よ。ほら、適当に一言」

 

 何か喋れ。と促されたので、とりあえずこう言った。

 

「初めまして! 黒橋 想也です。どうぞ宜しく! あ、あと文久しぶり」

 

「……え?想也、さん?」

 

「無視とは酷いのぅ、黒ぼー」

 

 信じられない、というような顔をする文。随分と久しぶりだなぁ。

 姫崎の声が聞こえた気がするけど、僕は知らない何も知らない。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「そ、想也さんっ。本当に想也さんなんですか!? 紫さんが死んだって……。私本当に悲しかったんですよ!?」

 

「あ、えっと、ごめんね」

 

「さっきっからずっと無視か。黒坊のシャイ度も随分上がってきたのー」

 

 博麗さんが宴会開始を宣言したので、とりあえず顔見知りである文の隣に座った。文が僕が死んだと聞いた時のことを泣きそうになりながら話すので、とりあえずの謝罪をする。え?姫崎?幻覚でも見てるんじゃないんですかねぇ。

 

「……まぁ、いいです。今こうして生きているところを見せてくれてる訳ですしね。今日はパーっと、宴会を楽しみましょうよ!」

 

「うんごめんお酒は止めて」

 

 あ、やっぱりお酒駄目なんですか、と残念がる文。いや、なんで残念がるのさ。あれか、僕の酒癖のせいか。そういえば、文は「いつでもウェルカム!」……とか言ってたっけ。

 ……うん、あのね。僕、散々鈍感とか言われてきたけどね。大体理由わかっちゃったよ。信じがたいけど。

 

「……ねぇ文。ちょっと聞きたいことあるんだけど、いい?」

 

「? なんですか、想也さん」

 

 というわけで、聞いてみた。

 

「いや、聞きにくいんだけどさ。もしかして文って、僕のこと好きだったりする? 勿論恋愛的な意味で」

 

「……うぇ!?」

 

「おおっ! 黒坊、まさか本命は文だったのか!」

 

 いえ違います。いや、文可愛いけどさ。どうしても、人と付き合うって想像できないんだよね。すまないとは思うんだけど。

 

「え、えぇ。えぇぇ? え、えぇぇぇ!?」

 

「『え』がゲシュタルト崩壊起こしてるよ。文」

 

 『え』。を連呼する文。此方も此方で恥ずかしいから、なるべく早く答えてもらいたい。答えにくいのは解るんだけどさ!とても!

 

「え、えっと! まぁ、はい! そうです! 私、想也さん、好きです!」

 

「あ、えっと、うん」

 

 急に恥ずかしくなって素っ気ない返事を返した。こういうとき、どんな顔すればいいんだろ。返答は考えてあったのに、急に言いにくくなったぞ!

 

「妾も黒坊が好きじゃぞ!」

 

「あっそう」

 

 姫崎のお陰で緊張が緩んだ。これで文に用意しておいた返答が言える!サンキュー姫崎! え、姫崎の告白? 幻聴でも聞こえたんじゃないですかね。

 僕は深呼吸をして、言う。文に目を合わせて。

 

 

 

 

 

 

「……えっと、ありがとうね。僕に好意を向けてくれて。凄く嬉しいんだけど、僕の答えは『ノー』、かな」

 

「! ……そうですか。残念です。……理由、聞かせてもらってもいいですか」

 

 途端に悲しそうな顔をする文。僕はそれに胸を痛めながらも、文の問いに対する返事をする。

 

「うん。きちんと話すよ。でもその前に、これだけ。僕が君のことを嫌いって訳じゃないことを、前提に聞いてほしい」

 

「……はい」

 

 文の返答を合図に、一時宴会場に沈黙が訪れる。少し申し訳ないとは思いつつも、ここまで来て引き下がる訳にはいかないと、続けた。

 

「……僕はさ。弱いんだよ。戦闘みたいな意味じゃなくて、精神的に。だって、元々はただの人間だったしね」

 

『……』

 

 沈黙は続く。いつもは騒がしすぎるくらいの姫崎さえ、お酒を飲むことを控え真剣に聞いてくれている。

 僕はそれに感謝しつつ、再び語り始めた。

 

「でも今は不老不死だ。昔能力でそうしてから、何故か解除できない。だから滅多なことがない限り、完全に絶命できないんだよ。僕は」

 

 少しだけ、視界が可笑しくなってきた。何故かは解らないけれど、ぼんやりとしている。おかしいな、僕の視力はバッチリだったはずだけど。

 

「……仮に僕と文が付き合って、結婚したとしよう。それはそれは幸せな日々を送れるだろうさ。それが例え姫崎だったり紫だったり他の人だったりしても、それは変わらないよ。確信できる。本当に、本当に楽しいだろうね……」

 

 文と宴会場にいるほぼ全員はまだ、僕が最終的に言いたいことを理解できていない様子だ。ただ、少しだけ驚いている。何故かな?

 姫崎と紫は違って、大体予測がついているっぽい。姫崎は急に立ち上がって、視線が集まる中無言でこの場を立ち去る。紫は後ろを向いた。肩は軽く震えている。

 

 場の状況が若干変わった後に、僕は声を出した。

 

「……でも、それは一時だけだ」

 

「……!想也さ……!」

 

「一時だけなんだよ皆!僕は不老不死でも皆は不老不死じゃない、いつか死んじゃうんだ!そんなの嫌なんだよ!結婚するほど好きな相手が死ぬなんて、僕は耐えられない!本当は結婚なんてしてない相手でも死んでほしくないよ!しかもそれを、ずっと背負っていかなくちゃ行けないんだ!」

 

 涙が頬をつたるのが解る。僕は泣いているのだろう。あはは、珍しいなぁ。僕が泣いたのって、いつ以来だっけ。

 

「想也さん……」

 

 文から心配するような声がかかる。その声が震えていることに気づいた僕は、文が泣いていることにも気づいた。僕はまた、人を泣かせてしまったのか。

 

「……ごめん。本当に、ごめん。折角の宴会だったのに、僕のせいで嫌な空気になっちゃった。少しだけ頭を冷やしてくるよ」

 

 ふらりと立ち上がって、振り返ることもなく部屋から出た。襖の脇に姫崎がいたから「ごめん」と一言だけかけてから、何処に行く訳でもなく飛び上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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