東方事反録   作:静乱

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第46話 vs依姫 実力の差

「球磨川……雪…?」

「『そ。』『僕は球磨川雪さ』」

 

依姫の呟きに雪こと想也(以下想也)が付け足した。残った妖怪と月人の交戦の音が響き渡る中、この場に限り一時静寂が訪れる。想也がもう一度紫の方を向きいい放つ。

 

「『で、八雲さん』『帰りな』『正直邪魔なんだ』」

「な!?……くっ…わかったわよ…」

 

厳しい言葉を言われ咄嗟に言い返そうとするが、それが事実なことに気付き言い返そうにも言い返せない。大人しく引き下がった。

想也の発言も、紫なら頭がいいから自分がこの状況において足手まといにしかならないことをわかってくれると確信していたが為の発言である。

 

「待て…!?」

「『おっと』『行かせないよ』」

 

依姫が紫を追いかけようと刀を振り上げながら跳躍するが想也はそれを螺で受け止める。依姫は一瞬自分が片手で受け止められたことに驚愕するが、即座に力を込める。

力での押し合いは依姫に武が悪いと考えた想也は紫が見えなくなると同時に後ろに跳躍して態勢を整えた。

 

「………本当に何者なんですか。」

「じゃあ、改めて自己紹介しようか。四季さんには止められたけど知らない人ならいいでしょ。僕は黒橋想也だ。」

 

フードを外してもう一度、今度は本名を名乗る想也。これは依姫が自分を知ってないと思ったからの行動なのだが。

 

「黒橋想也…?月の英雄と同じ名前…」

「えっ、僕ってそんな風に伝わってたの……あ、しまった。」

 

想也は自分の発言が誘導されたものと気付き口を塞ぐがもう遅い。依姫は想也が何者なのか、それを確信した。

依姫は想也に向かって啖呵を切るべく、叫んだ。

 

「月の英雄黒橋想也!いい機会です、命をかけて我々が月に行くまで妖怪を足止めした貴方を倒します!」

「え。」

 

言い終わるより一瞬早いか、依姫は想也に向かって跳躍する。不意をつかれた想也だが、即座に反応、ぎりぎりのところで受け止める。

 

ギィンーーと、甲高い音が響いた瞬間衝撃波が中心地から半径50mを襲った。それほどの威力の攻撃を直接受け止めた想也は勿論。

 

「ぐぅぅ!?」

 

凄まじい衝撃に襲われた。それこそ周りを襲った衝撃波の数倍の威力の衝撃が。

想也は痺れた腕で依姫の刀を押し返し、息をつく暇も与えず斬りかかる!

 

しかし依姫は、魂魄妖忌に鍛えられより強くなった想也の剣の腕をも、凌駕し受け流してから蹴りを入れてきた。

 

「げほっ!?」

 

防ぐこともできず無様に数十m吹っ飛ぶ想也。しかし攻撃手段が蹴りだったのが幸いか、大したダメージも無かったようですぐさま起き上がり次の攻撃に備え……

 

今度は空気を斬ったような音が、想也の耳に届いた。目の前を斬る依姫を視認して驚愕する。

 

「(不味い!格が違う!能力をフルで使えるならまだしも……わぁ!?)」

 

思考する暇さえ与えない依姫。更に追い討ちをかける。それをなんとか避けて横から斬りかかる…が、それすら空を斬る音しか聞こえない。

だが一度体勢を整える機会はできたようだ。依姫は軽く距離をとり一息ついた。想也も一度思考を冷静にして構えるーーーと、依姫が想也に声をかけた。

 

「貴方は、本当に黒橋想也なんですか?」

 

 

~~~~~~~~~~~

 

 

綿月依姫が刀の腕を磨いたのは月の英雄の存在があったからである。

 

自分達を無事月に送り届ける為に命をかけて妖怪を止め死んだ、『英雄』黒橋想也。想也は月の一般人や子供達にはそう伝えられていた。

その英雄に依姫が持った感情は憧れ。自分も強くありたいと思った、自分も皆を守りたいと思った。その気持ちを忘れずに自らを毎日厳しく磨いた彼女の目標は勿論英雄。いつか英雄を越えたい。その思いだけで、これまでずっと努力してきた。だからこそーーー

 

 

 

 

 

「貴方は、本当に黒橋想也なんですか?」

 

あまりにも弱すぎる『英雄』に向かって、依姫はそんな言葉を呟いた。

 

「………勿論、僕は黒橋想也自身だよ。本人だ。」

 

『落胆』。

英雄の言葉に、依姫はそんな感情を抱いた。ーーーこれが自分の憧れていた英雄か。自分より弱いじゃないか。こんな者に、自分は憧れていたのか。つまらない。

そんな考えが浮かんだ依姫は、想也にこう言い放った。

 

「そうですか、とても残念です。これほど弱いとは思ってませんでした。さようなら。」

 

『ら』の音を発すると共に跳躍して想也を突き刺そうとする依姫。

その依姫の突進を見て、想也はーーー

 

 

 

 

 

不適に笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、依姫の刀が想也の身体を貫く。これにより、この依姫と想也の戦闘の勝者が確定する。

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、『英雄』黒橋想也の勝利が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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