彼、黒橋想也の強さは能力にあると思われがちだ。それはそうだろうーーーその能力、『事実を反対にする能力』で出来ないことなど、無いに等しい。だからこそ、黒橋想也という人物と戦う際に一番最初に目をつけるのがその能力という者は実際に非常に多かった。
事実、彼の強さの大半は確かに能力の恩恵にある。しかし、彼が強い理由はそれだけではない。彼が強いのは、長い時を経て得た経験があるからだーーー
ーーーだからこそ、聖に突然殴り飛ばされた想也は極めて冷静に、地面につく際に受け身をとれたのだろう。
着地時のダメージを最小限に抑えた彼は聖に対し対話を試みた。
「いきなりなにするんですか!」
「村紗を拐った人が何を言うんですか!」
「はぁ!?違いますよ!」
しかし聖は聞く耳を持たない。そもそも村紗の言葉すら聞こうとしなかったのに、想也の言葉を聞く筈が無かった。落ち着く暇も与えないようにか、聖が想也に向かって飛びかかる。会話による説得は不可能と判断した想也は、聖の拳を受け流し腕を掴む。
「!?」
「ごめんなさい。」
そのまま聖の勢いと自分の腕力を+させて思いっきり地面に叩き付ける。俗に言う『背負い投げ』だ。
しかし聖も甘くない。その完璧な筈の背負い投げに対し、これまた完璧に受け身をとり即座に距離をとる。
「…何者ですか。私の攻撃を受け流すどころかそのまま攻撃してくるなんて…」
想也の正体を問う聖。彼はいいタイミングだと考え、一度は捨てた話し合いによる解決という案を引っ張り出した。
「僕は黒橋想也です。本日未明、彼女ーー村紗が土蜘蛛に襲われていたのを見つけたので、助けました。身元がわからなかったのでとりあえず僕の家まで背負っていって休ませていたんです。」
できる限りゆっくり、なだめるようにそう言う想也。しかしその言葉は更なる誤解を生んだ。
「そ…それでやましいことをしようと!?許せません!」
「えぇ!?今の言葉から何故そうなった!?」
どうやら聖は完全に頭に血が上っているようだ。いつものように冷静な判断ができず、想也の言葉を又も変にとらえてしまった。結局想也は引っ張り上げた案をそのまま捨て、臨戦態勢に移行する。
普通の人間では有り得ないスピードで突っ込んで来る聖。その聖の拳を素早くいなし致命傷になりそうにない位置に全力の蹴りをいれる。
「ガフッ…!?」
左脇腹に衝撃が入る聖。しかしそれだけでは終わらない。一瞬できた隙を突き、想也はもう一度背負い投げを放つ。
一度は受け身をとれた聖だったが、今回は完全に隙を突かれた形だ。見事に背負い投げが決まる。
そのまま想也は【小型のナイフがこの場に無い事実】を反対にして聖の首に添える。
「………チェックです。」
「くっ………すみません村紗…殺しなさい。」
なんとも物騒なことを言う聖。しかし想也にそんなつもりは無い。聖の言葉にこう返す。
「え、嫌ですよ。何で人殺しなんか。僕は誤解を解きたいだけなのに。」
「………え?誤解?」
「はい。実はかくかくしかじかで……」
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「誠に申し訳ございませんでしたぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!」
「本当だよ聖!」
「い、いえ…大丈夫ですよ。わかってくれたんですから…」
今まで何があったかをしっかり、落ち着いて話すと謝ってきた。根はいい人なのだろう。とりあえず村紗にこの人のことを聞こう。
「村紗。この人は?」
「あ!この人は聖白蓮!それにしても手間が省けたね!想也、君に会わせたかったのは聖だったんだよ!」
「「………え?」」
そんなわけで、『妖怪寺の魔住職』聖白蓮と『最強の陰陽師』黒橋想也は出会うのであった。