東方事反録   作:静乱

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第29話 鈍感な人間ってすげー

私、村紗水蜜は現在、羞恥心と戦っている。何故なら………

 

 

 

 

 

 

「はい、あーん。」

「……あ、あーん…ハム。」

 

 

 

 

 

こんなことをされているからである。そもそも私は名前も知らない少年に何をされているのであろうか。勿論、助けてくれたことには感謝しているし、今のこの行為も私を気遣っての行動だというのもわかっている。

しかし、これはこれで神経がすり減る。正直言ってこの少年、かなり美形だ。十人中九人が振り返るであろう。

そんな少年に『はい、あーん。』などとされたら心に浮かんでくるのは羞恥心以外の何者でもない。それがお粥が無くなるまで続くのだ。私がいつ悪いことをしたのか。

いや、勿論こんな美形君に優しくされたら女として嬉しくないとは言えないけれど………しかもこの少年、私が赤くなっていると『もしかして熱ある?それともお粥熱すぎた?』などと言ってくる。どれほどまでに鈍感なのか。

兎に角私は羞恥心と戦いながら、早くお粥を食べ終われますように…と願うのだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~

 

 

「ご、ご馳走さまでした…」

「お粗末様でした。お腹一杯になった?」

 

と、想也は問う。因みに彼女は二つの意味でお腹一杯である。しかし、超が三個くらいつくほどの鈍感である彼にはそんなことはわからない。

これまでの一連のフラグ建築は全て本心からの発言や行動である。どれほど鈍感であれば気が済むのか。

そんな彼の問いに彼女こと村紗はこう答える。

 

「な、なったなった!お腹一杯!もう食べられないよ!」

 

必死である。彼女は相当ぎりぎりだったのだろう。しかし想也は全く気づかず、「そっか。良かった。」と言った。

彼のこの鈍感さだけはどれだけ時間がたとうと変わることは無いだろう。

 

「さ、君はこれからどうするの?」

 

想也はそう聞いた。まぁどうするといっても、彼女は怪我人だ。今は動けない。だからできることは限られているのだが……

 

「う、うん。実は私、最強の陰陽師っていう人を探しに来たんだ。」

 

だから彼女は想也に当初の目的を話した。想也は人間だから、最強の陰陽師のことを知っているかと思ったからだ。まぁ、既に最強の陰陽師は目の前にいるのだが。

 

「あ、僕に用があったの?」

「え?」

 

これはどちらにとっても予想外であった。想也は村紗が散歩していたら運悪く土蜘蛛の領域に入ってしまったのだと思っていたし、村紗はたまたま通り掛かった想也が苦労して助けてくれただけと思っていた。まぁ予想外だったからといって特に問題があるわけではないけれど。

 

「じゃあ、君が最強の陰陽師…?」

「て、言われてる。本名は黒橋想也だからそっちで呼んでよ。」

 

ここでようやく、彼は村紗に自分の名前を言った。お互いの名前を知らなかった時間は実に一時間三十分。遂に今日、彼は名前も知らない相手にお粥を食べさせるという人生で実行するチャンスが一度も無い筈のことを成功させたのである(だからなんだ)。

 

「あ、私は村紗水蜜。村紗って呼んで。宜しく、想也。」

 

ここで彼女もようやく自分の名前を言った。彼女もまた、本日名前も知らない相手にお粥を食べさしてもらうという人生(妖生?)にチャンスが一度も無い筈のことを成し遂げた。正直、凄いというより馬鹿である。

 

「で?僕に何の用かな?村紗。」

「あ、実は、ちょっと会ってほしい人がいるんだよ!」

「へぇ?」

 

その用件は、彼の興味を引いた。基本陰陽師に来る依頼は妖怪退治などだ(想也は退治はしていないが)。人に会ってほしいなど始めての依頼である。だから彼は、内容を聞くまでもなくその用件を受けることに決めた。

 

「わかった。その依頼受けるよ。」

「そうだよね。意味ふめ……ってえ!?いいの!?」

「うん。始めてだからね。そんな依頼。それに僕は依頼拒否はしないんだよ。」

 

『依頼拒否をしない』それは想也が陰陽師になるにあたって最初に決めたことの一つだ。『報酬は受けとらない』や『妖怪を絶対に殺さない』も決めごとの中の一つである。

 

「そうなんだ!ありがとう!じゃあ早速行こう!」

「いや、村紗。君は怪我してるよ?」

 

村紗は早速会いに行こうと提案するが、想也が止める。それはそうだ。彼女は怪我をしている。そんな彼女を危険な外に連れ出すわけには………

 

 

 

 

 

「村紗ぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああ!!!!!」

「家がぁぁぁああぐぁぁああ!?」

「えぇぇぇぇえええええ!?聖!?」

 

 

 

 

村紗の名前を叫びながら想也の家を破壊しそのまま想也に殴りかかる女性。

そのまま遠くに吹き飛ぶ想也。

驚きながら女性の名前を叫ぶ村紗。

 

「村紗ッ!大丈夫ですか!?」

「いや、大丈夫だけど!いきなりどうしたのさ聖!あの人は…」

「いえ言わなくてもわかります!あの男が村紗を拐ったのですね!大丈夫ですあの男はすぐに私が倒します!」

 

彼女ーーー聖は、想也にとって非常に都合が悪くなるような解釈をしているらしく、想也を倒そうとしている。村紗が想也のことを話そうとしたが聖は聞く耳を持たない。

 

そんなわけで妖怪を守る二人の戦いが勘違いから始まった。

 

 

 

 


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