東方事反録   作:静乱

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第2話 生永琳って綺麗だね

 永琳さんに肩を貸してもらい時間をかけながらも、何とか森を脱出。

 そこで僕は、とても現実とは思えない光景を目撃した。

 

「……っ。なんだ、アレ……」

 

「なんだって……。私達の住む都市じゃないの。恐怖で頭が可笑しくでもなった?」

 

 目の前に映ったのは、まるで二十二世記にタイムスリップしたかと錯覚させるほど発展した都市。

 アニメか漫画、空想でしか存在しないはずであった場所が今、僕の目の前で存在している。

 

 ……転生をしたことだとか、妖怪とかゲームのキャラがいる時点で驚くべきと言われれば、概ねその通りなのだが。

 

「……僕にこんな都市で暮らした記憶はないですから、多分可笑しくなりました……!?」

 

 ……今、何か、引っ掛からなかったか? 僕は、何かとても大切なことが分かっていないような……。

 

「……恐怖による、一時的な記憶喪失かしら? まぁ、都市に戻れば分かるでしょう。多分、貴方の家族が申し出てくれるわ」

 

 『引っ掛かり』を探す僕を他所に永琳さんは、これからの行動を言う。あまり耳には入らない。だって、そんなことがあるはずないのだから。

 

「ほら、大変かも知れないけれど、さっさと歩く。私だって、薬草摘みで疲れてるのよ」

 

 早く歩けと急かす永琳さん。

 今は……ただの気のせいだと割り切ろう。今考えたって、纏まるはずがない。そう結論付けて、僕は震える足を抑えながら歩き出す。

 

 

 

 ……このあと、僕はこの引っ掛かりを忘れてしまっていた。だけれど、途方もない時間を越えて思い出す。同時に後悔するんだ。

 【無理だと分かっていたとしても、ここで考え続けるべきだった】と。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 だいぶ都市に近づいたところで、門番さんが此方に気付いた。

 永琳さんを見て敬礼をしようとするが、僕を視界に映すとその姿勢をとき、表情を引き締める。

 

「ただいま。異常はなかったかしら? ……何故、警戒しているの? まさか私が偽者とでも考えていたり?」

 

「い、いえ。違います。私が警戒しているのは……そちらの少年です」

 

「あぁ、この子?」

 

 この子って……。いやまぁ、確かに僕は一般的高校生に比べれば小さい方だけど。あ、でも、今の永琳さんは53歳だって神様が言っていたっけ。僕を子供扱いするのは当然ってもんか。

 ……こう考えると、本当にこの都市の技術力って凄いな。個人個人が好きなところで、成長を止められるなんて。

 

「この子は森で妖怪に襲われていたのよ。どうも、その時の恐怖で一時的に記憶を失っているらしいわ。薬飲めば治るでしょ」

 

 薬すげぇ、と思ったのは僕だけではないと思いたい。この都市ではそれが当たり前なのだろうけど。

 だって永琳さんの能力は『あるゆる薬を作る程度の能力』だから。

 

「……はぁ。しかし、そのような少年が都市の外に出ていったのを、私は目撃していませんよ、永琳様。私は朝からここを見張っていましたので、間違いありません。そもそも、都市の外に出る場合はここに記名するでしょう。それがないということは、つまり……」

 

「この子は妖怪なんじゃないか……ってこと? それは有り得ないと思うわ。確かに記名がないのは可笑しいけれど、妖力が感じられない。それに目的が分からないわ。私を殺したいなら、既にやってるわよ」

 

 永琳さんのこの台詞に対し、門番さんは言葉に詰まる。言ってることは正論だし、この人は都市のお偉いさん(だったはず)だ。説得力もある。

 そんな訳だからか、門番さんは折れた。

 

「……わ、分かりました。永琳様の言うことですから、嘘のはすが有りませんね。どうぞ」

 

「ありがと。門番、頑張ってね」

 

「は、はい!」

 

 永琳さんが門番さんに向かって微笑むと、門番さんは途端に頬を赤く染め仕事に戻った。なんとも分かりやすい反応である。……等の対象は、「仕事熱心ねー」とか言っているけど。

 

「さ、疑いも晴れたから、行くわよ。歩ける?」

 

 歩ける? 足は未だに震えていて(情けない)、どう考えても……。

 

「……えっと、ごめんなさい。無理っぽいです」

 

「あらそ。まぁ、仕方ないわね。死にかけてたんだもの。私だってそうなるわ」

 

 どう見ても嘘にしか感じられない。仮にも男である僕の顔をたててくれたのだろう。

 ……有り難く受け取っておこうか。

 

 

 

 

 

 

「おぅ、永琳様こんにちは! 肩を貸してる少年はどうしたんですか?」

 

「ちょっと森で妖怪にね! 助けて来たの!」

 

「あー、永琳様ぁ! そのお兄ちゃんは彼氏?」

 

「違う違う。そんなんじゃないわ。大きくなったらお婿さんにしてもいいわよ?」

 

 都市内を歩いていると、やっぱり永琳さんは人々に尊敬されているってことがよく分かる。数歩歩く度に声をかけられるなんてそうそうない。

 

「あぁ、この子は……何て言ったかしら? ねぇ、貴方。貴方は何て名前なの?」

 

「……え? ぼ、僕、ですか?」

 

 いきなり話しかけられたことで反応が遅れ、妙にキョドった反応を示してしまう僕。何か苦い目線を向けられるのも嫌なので、すぐに持ち直して返答した。

 

「あ、僕は、黒橋 想也と言います。あの、宜しく、お願いします……?」

 

 何故だか疑問系になってしまった。なんか、神経質になっているような……僕……。

 

「おぉ、そっか! 宜しくなぁ想也くん!」

 

「あ、はい。宜しく……」

 

 握手を求められたので、この人のテンションに着いてけねぇよ……と思いつつ、応じる。控えめに握ると、ぶんぶん振られる。腕が痛いぜ、お兄さん……。

 

「ふぅん、想也って言うのね。ま、宜しく。もう分かっていると思うけど、私は八意 **。言いにくいなら永琳でいいわ。それも名前だから」

 

「え、あ、じゃあ宜しくお願いします。永琳さん……」

 

 ……どういう発音か気になってたけど、本当に聞き取れなかった。機会があったら、今度どう発音するか教えてもらうか……。

 

「宜しく。さて、そろそろ帰りたいから急ぐわよ」

 

「え?」

 

 ……途端。

 

「いやっほぅー!」

 

「うわわわわわ!?」

 

 永琳さんは加速し、僕は宙に浮いた。意識、サヨナラ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 意識が完全に途切れる間際に動きが止まり、なんとか踏み留まった訳であったが、いつの間にか圧倒的な威圧力を放つ神の目の前にいた。言葉も発せない。息が詰まる。

 

「……という訳で、『月夜見』様。この少年は、どうしましょうか?」

 

「……ほぅ」

 

 月夜見と呼ばれた神は、僕に視線を向ける。それだけで失神しそうになってくるが、なんとか耐えた。

 会話の内容から察するに僕をどうするか、という話のようだし、ここで倒れでもしたならば、つまらない人間と判断され、都市から放り出される可能性も否めない。少なくともこの神様からは、そういう考えが読み取れた。なんとか……耐えろ……!

 

「……名は? なんという」

 

「あ、ぐ……ぅ。く、ろはし、そう、や……です……ぎぃぃ……!」

 

 口角を無理矢理に動かして、発言した。

 月夜見さんはそれに感心したようである。にやりと笑い、永琳さんに今後の僕の動向を伝えると同時に、威圧を解いた。

 耐えきれず、がくんと膝をつく。

 

「ぐ、はぁっ、はぁっ……!」

 

「ふっ、よく耐えた。褒美として、八意 永琳の助手の仕事を与えよう」

 

 褒美……!? じゃあ、やっぱり僕が耐えきれなかったら……!

 自分がなんとか生き延びれたことを自覚して、更に汗が出る。

 

「そんなに辛いのなら、気絶してもよいぞ? 流石に今気絶したからといって、都市の外に投げ出したりはしない」

 

「はぁっ、はぁっ……。そ、それ、なら、お言葉に、甘えて……」

 

 月夜見さんの優しさに感謝しつつ、意識を投げ出した。疲れた……。

 

 

 

 

 

 


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