東方事反録   作:静乱

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第16話 vs鬼子母神

 遥か上空にて。

 作戦をたてた僕は、大量の弾を闘技場ーーの、姫崎に向かって発射。どこに行ったか、とキョロキョロしていた姫崎は、ここで漸く、僕がどこに行ったか気付いたようだ。ちょっと遅かったな、と叫びたくなる気持ちを必死に抑え、最後に僕三人分くらいある巨大な弾を放ち、その陰にぴったりと隠れながら、急降下。

 

「ほぅ? あの一瞬で上空に上がっていたとは、恐れいった!!」

 

 楽しそうに言いながら、姫崎は僕が放った弾幕を軽々と捌く。殴って弾け飛ばしたり、蹴って消し飛ばしたり。……今まで色んな人と戦ってきたけれど、やはり諏訪子や神奈子、姫崎は格が違う。

 

 巨大な弾幕以外の全てを捌ききった姫崎は、拳を腰の辺りに当て、正拳突きの構え。その拳に集約するオーラ……莫大な妖力。それを感じとった瞬間、僕の頭の中で、ある映像が流れる。

 

 ーー僕の肉体が消し飛ぶ映像。

 

「~~~~っっ!!」

 

 不味い。

 本能的に悟った僕は、急ブレーキをかけ、急いで巨大弾幕から離れる。

 

「ふっ!!」

 

 瞬間、放たれる衝撃波。

 爆発するかのように放たれたソレは、しかし静かに、巨大弾幕を弾けさせ、遥か天空まで上がったところで、ようやく収まった。

 

「…………うっわぁ」

 

 ゾクッとした。

 あれに気付かず、そのまま突撃していたら、僕は多分、亡き者になっていたと思う。……いや、多分なんてレベルじゃない。

 あれに当たっていたら、確実に。

 僕は死んでいた。肉体を引き裂かれ、弾け飛んでいた。

 

 これまで、生命の危機、とかそういう言葉を使ってきたけれども、本当の危機っていうのは、この場にこそ相応しいのだろうーー今までの危機や、戦いが、全てお遊びに見えてくる。

 勿論、お遊びでやっていたつもりはないが。寧ろ、この場の方がお遊びに近い筈なのだが。少なくとも姫崎にとっては、お遊びに過ぎない筈なのだが。

 

「おぉ、黒坊。今のも避けたか」

 

「ーーうっ」

 

 背後から声が聞こえたから、前方に飛んだ。前転受け身を取る。授業で習ったことがこんな時に役立つとは。学校行っててよかったかもしれない。

 いやそんな思考してる場合じゃねぇよ、と再び横に飛び、姫崎の踵落としを回避ーーしつつ、剣を出し、地面に突き刺す。

 涌き出るは、地球の血液。

 

「【僕がマグマを操れない事実】を反対にした! 食らえっ……!」

 

「うおっ!?」

 

 流石の姫崎も、マグマは怖いらしい。襲いかかるマグマを回避することに必死になっている。かなり外道な攻め方のような気もするけれど、そこに構っていたら、僕は殺されてしまう。容赦はしない!

 今の僕は能力でマグマを操ることが出来る。それを利用し、僕は剣にマグマを纏わせ、軽く振ってみせる。

 

「……よしっ」

 

 名付けるならば『マグマソード』とか安直なネーミングか。真剣に考えれば、もう少しまともな名前が思い付くだろうけれど、まぁそれは後。今は『マグマソード』と呼称し、使用するとしよう。

 ……駄洒落か。

 

「食らえ姫崎! 『マグマソード』!!」

 

 姫崎に襲いかかっているマグマが唐突に弾け、その陰から僕が突っ込む。マグマに必死になっていた姫崎は、僕の接近に気付いていなかったようで、相当驚いていた。これはチャンス。

 姫崎が驚いているところに容赦無く『マグマソード』で斬りかかる。……と言っても、僕は別に、姫崎を殺したい訳ではないから、ある程度ストッパーはかけてある。当たっても、激しい痛みを感じるだけである。マグマの意味無くね、等のツッコミは無しで。

 

「ぐぅぅっ!!」

 

 流石の姫崎もこれを回避することは出来なかったようで、痛みに耐えるような苦しみの声を上げた。少々僕の中の良心が痛んだが、それすらも能力で消し、僕はほぼ容赦なしの戦闘マシーンと化した。

 そのままラッシュをかける。

 

「これでどうだっ!!」

 

「中々効いてるぞ!!」

 

「えっ!?」

 

 これで終わりだぁ! とアニメ風に叫んでから放った必殺の一撃(らしきもの)は、なんていうかこう、手掴みなんて、とても理解し難い方法で受け止められた。

 ……え? だって、これ、『マグマソード』ですよ? その『マグマ』を纏った剣を受け止めるって……えっ!? 動揺する。それが命取りだと知っていたのに。

 

「隙ありっ」

 

「がぁっ!?」

 

 右腕から走る激痛。

 ーー気づけば僕は、姫崎に右腕を蹴られていた。ほんの一瞬、少しだけ思考に至っただけで、蹴りを入れられた。

 ……追い討ちが来ると分かっても、身体を動かす為の脳からの指令が、身体に伝達しない。正確には、する前に追い討ちが来た。

 

「うぐっ!?」

 

 腹部にクリーンヒットする正拳突き。内臓が潰れた気がした、骨が何本も粉砕された気がした。

 気がした、じゃ済んでないな、と思う。

 

「あがっ、うげっ」

 

 直撃した正拳突きの勢いで、僕は地面を転がる。痛い。

 痛いけどーーしかしこれはチャンス。姫崎の距離から脱することが出来た、というのはかなり大きい。ダメージを回復する猶予も出来るし、体勢を整える猶予も出来て、更には反撃のチャンスも出来る。

 吹き飛ばされる、ということに、これほど希望を抱いたのは、これが初めてではなかろうか。

 

 

 

「中々面白かったぞ黒坊。妾とまともに戦って、三分持ったのは大天狗を除けば初めてじゃ」

 

 そして、女性の言葉にこれほど絶望を覚えたのも、多分これが初めてだと思う。言葉というかなんというか、これ、ほぼ死刑宣告のようなものが気がするけれど。

 

「……そ、そいつは、光栄」

 

 色々な痛みに耐えながら捻り出した言葉を言い終えた瞬間、顎をかするように殴られ、脳が揺れたような感覚を覚えながら、僕の意識は闇に沈んでいった。

 

 おやすみなサイ。これ、流行過ぎたよね。


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