遥か上空にて。
作戦をたてた僕は、大量の弾を闘技場ーーの、姫崎に向かって発射。どこに行ったか、とキョロキョロしていた姫崎は、ここで漸く、僕がどこに行ったか気付いたようだ。ちょっと遅かったな、と叫びたくなる気持ちを必死に抑え、最後に僕三人分くらいある巨大な弾を放ち、その陰にぴったりと隠れながら、急降下。
「ほぅ? あの一瞬で上空に上がっていたとは、恐れいった!!」
楽しそうに言いながら、姫崎は僕が放った弾幕を軽々と捌く。殴って弾け飛ばしたり、蹴って消し飛ばしたり。……今まで色んな人と戦ってきたけれど、やはり諏訪子や神奈子、姫崎は格が違う。
巨大な弾幕以外の全てを捌ききった姫崎は、拳を腰の辺りに当て、正拳突きの構え。その拳に集約するオーラ……莫大な妖力。それを感じとった瞬間、僕の頭の中で、ある映像が流れる。
ーー僕の肉体が消し飛ぶ映像。
「~~~~っっ!!」
不味い。
本能的に悟った僕は、急ブレーキをかけ、急いで巨大弾幕から離れる。
「ふっ!!」
瞬間、放たれる衝撃波。
爆発するかのように放たれたソレは、しかし静かに、巨大弾幕を弾けさせ、遥か天空まで上がったところで、ようやく収まった。
「…………うっわぁ」
ゾクッとした。
あれに気付かず、そのまま突撃していたら、僕は多分、亡き者になっていたと思う。……いや、多分なんてレベルじゃない。
あれに当たっていたら、確実に。
僕は死んでいた。肉体を引き裂かれ、弾け飛んでいた。
これまで、生命の危機、とかそういう言葉を使ってきたけれども、本当の危機っていうのは、この場にこそ相応しいのだろうーー今までの危機や、戦いが、全てお遊びに見えてくる。
勿論、お遊びでやっていたつもりはないが。寧ろ、この場の方がお遊びに近い筈なのだが。少なくとも姫崎にとっては、お遊びに過ぎない筈なのだが。
「おぉ、黒坊。今のも避けたか」
「ーーうっ」
背後から声が聞こえたから、前方に飛んだ。前転受け身を取る。授業で習ったことがこんな時に役立つとは。学校行っててよかったかもしれない。
いやそんな思考してる場合じゃねぇよ、と再び横に飛び、姫崎の踵落としを回避ーーしつつ、剣を出し、地面に突き刺す。
涌き出るは、地球の血液。
「【僕がマグマを操れない事実】を反対にした! 食らえっ……!」
「うおっ!?」
流石の姫崎も、マグマは怖いらしい。襲いかかるマグマを回避することに必死になっている。かなり外道な攻め方のような気もするけれど、そこに構っていたら、僕は殺されてしまう。容赦はしない!
今の僕は能力でマグマを操ることが出来る。それを利用し、僕は剣にマグマを纏わせ、軽く振ってみせる。
「……よしっ」
名付けるならば『マグマソード』とか安直なネーミングか。真剣に考えれば、もう少しまともな名前が思い付くだろうけれど、まぁそれは後。今は『マグマソード』と呼称し、使用するとしよう。
……駄洒落か。
「食らえ姫崎! 『マグマソード』!!」
姫崎に襲いかかっているマグマが唐突に弾け、その陰から僕が突っ込む。マグマに必死になっていた姫崎は、僕の接近に気付いていなかったようで、相当驚いていた。これはチャンス。
姫崎が驚いているところに容赦無く『マグマソード』で斬りかかる。……と言っても、僕は別に、姫崎を殺したい訳ではないから、ある程度ストッパーはかけてある。当たっても、激しい痛みを感じるだけである。マグマの意味無くね、等のツッコミは無しで。
「ぐぅぅっ!!」
流石の姫崎もこれを回避することは出来なかったようで、痛みに耐えるような苦しみの声を上げた。少々僕の中の良心が痛んだが、それすらも能力で消し、僕はほぼ容赦なしの戦闘マシーンと化した。
そのままラッシュをかける。
「これでどうだっ!!」
「中々効いてるぞ!!」
「えっ!?」
これで終わりだぁ! とアニメ風に叫んでから放った必殺の一撃(らしきもの)は、なんていうかこう、手掴みなんて、とても理解し難い方法で受け止められた。
……え? だって、これ、『マグマソード』ですよ? その『マグマ』を纏った剣を受け止めるって……えっ!? 動揺する。それが命取りだと知っていたのに。
「隙ありっ」
「がぁっ!?」
右腕から走る激痛。
ーー気づけば僕は、姫崎に右腕を蹴られていた。ほんの一瞬、少しだけ思考に至っただけで、蹴りを入れられた。
……追い討ちが来ると分かっても、身体を動かす為の脳からの指令が、身体に伝達しない。正確には、する前に追い討ちが来た。
「うぐっ!?」
腹部にクリーンヒットする正拳突き。内臓が潰れた気がした、骨が何本も粉砕された気がした。
気がした、じゃ済んでないな、と思う。
「あがっ、うげっ」
直撃した正拳突きの勢いで、僕は地面を転がる。痛い。
痛いけどーーしかしこれはチャンス。姫崎の距離から脱することが出来た、というのはかなり大きい。ダメージを回復する猶予も出来るし、体勢を整える猶予も出来て、更には反撃のチャンスも出来る。
吹き飛ばされる、ということに、これほど希望を抱いたのは、これが初めてではなかろうか。
「中々面白かったぞ黒坊。妾とまともに戦って、三分持ったのは大天狗を除けば初めてじゃ」
そして、女性の言葉にこれほど絶望を覚えたのも、多分これが初めてだと思う。言葉というかなんというか、これ、ほぼ死刑宣告のようなものが気がするけれど。
「……そ、そいつは、光栄」
色々な痛みに耐えながら捻り出した言葉を言い終えた瞬間、顎をかするように殴られ、脳が揺れたような感覚を覚えながら、僕の意識は闇に沈んでいった。
おやすみなサイ。これ、流行過ぎたよね。