東方事反録   作:静乱

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第11話 宵闇の大妖怪

 二次設定、というのは、とても素晴らしい物であると僕は思っている。

 

 例えば博麗 霊夢。公式設定では『誰に対しても同じように接する』キャラであるが、二次設定ではツンデレだったり。

 例えば風見 幽香。二次設定では超が四、五個付くくらいドSだったり。

 二次設定には面白い物が多いのだ。

 

 ……それで、なんでそんな話をしているのか、と言う事なんだけれど。……目の前に、二次創作で生まれた存在が居るからなんだ。

 

「こんにちは。貴方は食べられる人類かしら?」

 

「…………」

 

 通称『EXルーミア』

 東方紅魔郷、一ボスとして(『そーなのかー』で)有名なルーミアというキャラが居る。容姿を端的に述べると、金色の綺麗な髪にリボンを付け、黒い服に身を包む。

 ……ある日、その少女のリボンに着眼した誰かはこう思ったそうだ。

 

 ーーそうか、このリボンは封印道具なのか、と。

 

 何をどう思ってそんな発想に辿り着いたのかは甚だ疑問であるが、しかし、その発想は瞬く間にネット上に広まっていった。

 僕の記憶する限りでは、小説投稿サイトにてEXルーミアの話を投稿し、「え? EXって公式ちゃうの?」と言っていた人も居たはず。それほどまでに、この二次設定は広まっていたのである。

 ……僕も当初公式だと思っていたのは秘密だ。

 

「……質問に答えないのであれば、それは肯定の意味として受け取るけれど」

 

 さて、そのEXルーミアを生で見た訳だが。とりあえず最初に思ったのは、『ふつくしい……』ってこと。普通のルーミアはまだ幼さが残る少女って感じで、何だか小動物みたいで可愛いんだけれど……EXルーミアの場合はそれが全て無くなり、美少女ならぬ美女。大人の色気みたいな物すら感じる。

 東方キャラの中でかなり上位に入っているルーミアが、大人になって僕の目の前に居る。

 

「あ、いえ、僕は食べられる人類というより食べる方の人類ですよ」

 

 性的な意味で、と付け足したのは勿論心の中で。

 ……いや、ね? 僕だってほら、男の子ですよ。可愛い女の子が居たらうへへ、ってなりますし、こういう事だって言います。最低じゃねーか。

 ……食べたことないけどね。

 

「食べる方? それはつまり、貴方は人間でありながら人間を食すという事?」

 

「あぁ、いえ。そういう訳ではなくてですね……」

 

「……?」

 

 意味を悟られなくてよかった、と安堵する。何も考えずに暴露したけど、EXルーミアって知能も高いって設定だし、そういう性知識に関して知っていても可笑しくないんだよね。本当によかった。生ゴミのように見られるところだった。

 

「……とりあえず、貴方は食べられないってことでいいの? 見たところ、普通の人間と変わりはないけど」

 

「あ、それで全く間違いないです。食べられないです僕」

 

 多分嘘。自分自身を食べた事はないからどうなのかよく分からない。本当は美味しいかもしれないけど……わざわざ痛い思いをする必要はあるまい。

 ……それにしても、二次設定のEXルーミアが存在している世界か。そういえば、二次創作でよく登場する鬼子母神も居たっけ。確か姫崎って言ったはず。……この世界は、原作より二次創作寄りなのだろうか。

 

「ふぅん。そうなの。折角食料にありつけたと思ったのに……残念だわ」

 

「あぁー……。何か、変に期待させちゃってごめんなさい」

 

 「いーのよ」と首を振るルーミアだったが、明らかにしょんぼりとしているのが分かる。よく見ると元気も無さそうだし、もしかして暫く何も食べていない、とか? ……それは流石に可哀想。

 

「……仕方がない」

 

「?」

 

 痛いのは我慢すれば何とかなるよね。

 僕は、小太刀を取り出すと、自分の右手首を切り裂いた。ぼとり、と右手が地面に落ちる。

 

「なっ! あ、あんた何してんのよ!?」

 

 ルーミアが僕を気遣うように言う。何だ、やっぱりいい子じゃん。

 

「何って、君の食料確保だよ。ごめんね、生き残りたいから嘘ついちゃった。多分、僕は普通に食べれるよ」

 

「い、いやいやっ。私を騙したのはこの際どうでもいいわ! どうしてわざわざ、自分の右手を切り落としたのよ! 死ぬわよ!?」

 

 人喰い妖怪なのに人を心配するのか。本当にいい子だなルーミア。

 なるほど。つまり、公式のルーミアは知能が下がっているから人間を食べても「旨い!」としか感じないけど、EXは頭が良いから、人間を食べたら「私のご飯になってくれてありがとう。私が言うのはちょっと可笑しいけれど、どうか安らかに眠って……」って言うって訳だな!

 勝手な妄想乙、って言われそう。

 

「なに、僕は能力でダメージ等々無くせるから、大した問題はありませんよ。さぁ、僕の右手をお食べ?」

 

 微笑みながらグロテスクな右手を差し出した。ルーミアは受け取った事には受け取ったが、ばつが悪そうな表情を浮かべている。

 

「……あんたは、それでいいの? 見ず知らずの私に、自分の右手をあげられるの?」

 

「現にあげてるじゃないですか。いいんですよ、僕は。困ってる人は助けるのが僕のモットーですからね」

 

 何だか何処かのファンサービスみたいな口調になっているな、僕。だけど、ファンサービスと違って、僕は純粋な気持ちで言っている。人助けは大事。

 

「……有り難く受け取っておくわ。ありがとう」

 

 ルーミアは溜息をつきながら僕に感謝を述べる。うぅん、表情が曇っているけど、本当に有り難く思っているのだろう、か……。

 

「ってヤバい! 僕は諏訪子の様子を見に行くんだった!! じゃーねまた今度!!」

 

「えっ」

 

 驚くルーミアを置いて、全速力で森を駆ける。かなり時間使った! もう事が終わってたりしないよな!?

 

 

 

「……なんだったのかしら」

 

 ルーミアは少年から貰った右手を見つめながら呟く。正直、唐突な自殺行為に思考が追い付いていないけれど……ひとまず、落ち着く為にも、貰った食料を食べてみる事にした。

 

「……美味しい」

 

 今まで食べた中で一番、という訳ではないけれど、歯応えがあって、それなりに美味しかった。

 

 

 

 

 


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