東方事反録   作:静乱

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第10話 VS月夜見

「うおぉぉぉぉぉ!」

 

 僕は掛け声と共に月夜見に突進し、月夜見の距離に入る直前で上に跳躍。恐らく月夜見には、僕が突然消えたように見えたはずだ。月夜見の後ろに着地した僕は、振り返ると同時に剣を薙ぎ払う……。

 

「ーーあれ?」

 

 フォン、と僕の剣は空を斬った。盛大に空振った僕は態勢を崩し、右に倒れそうになる。

 それに合わせての正確に鳩尾を狙った蹴り。胃の中から全部が吐き出て来るような気持ち悪さと、凄まじいまでの激痛。それを感じながら吹き飛ばされ、地面を滑る。落ちていた小石が腕に食い込み、痛みを加速させる。

 

「あっ、がぁ……」

 

 腹部に残る痛みに悶え、立ち上がれないでいると、後頭部に衝撃。僕の顔面は地に埋まり、脳が揺れたような感覚を感じ、思考が纏まらなくなっていく。

 今、何、してんだっけか。

 

「~~っ!!」

 

 意図的にか自動的にか、能力が発動し、僕の身体は瞬時にいつもの調子に戻り、殺気を感じた僕は咄嗟に身体ごと横に転がる。すぐ横で炸裂する踵落としに寒気を感じながら、僕は距離を取って態勢を整える事にした。

 

「……逃げるだけしか脳がないのが、人間なのか?」

 

「ーーっ!?」

 

 バックステップに追い付いてきた月夜見は、僕の首を掴み地面に叩き付ける。背に相当の衝撃がかかるが、それよりも深刻なのは首。みし、みし、とかいっているのが自分でも聴こえる。息も出来ない。

 

「……かっ、あっ……!」

 

「やはり人間はその程度か。幾ら人妖大戦時、たった一人で妖怪を倒し切ったからと言っても、神には敵わない」

 

 月夜見は言う。

 つまりなんだ、神は絶対的存在なんだから、人間ごとき下等生物が逆らうな、ってことなのか。……上から物言いやがって。神は絶対なんかじゃないってのに。

 

「こ、のっ……!」

 

 【月夜見に弾幕が当たらない事実】を反対に。横に放った霊力弾が凄い速度で向こうに飛んでいく。それを見て笑う月夜見。

 

「はは、なんだ? 今のは。悪足掻きにもなっていないぞ」

 

「う、るさ、い……」

 

 油断してなければ打ち消すこともできただろうに。

 Uターンしこれまた凄い勢いで戻ってくる霊力弾。その進路は月夜見の頭部直撃コース。寸前で気が付いた月夜見だったが、流石に反応が遅すぎた。頭に霊力弾を食らった月夜見は横に吹き飛ばされ、僕はそれを機転に先程までのダメージ等々を能力で無くし、月夜見が態勢を整える前に追い討ち。

 

「氷結『フリーズブレード』っ!」

 

 スペカ風味な技。

 掲げた剣に氷属性(的なもの)が追加され、僕はそれを振るう。立ち上がりかけていた月夜見の足元が凍り、奴の移動は封じた。

 

「次っ。水流『ウォーターブレード』」

 

 剣に纏われていた氷が一瞬にして溶け、今度は水を纏う。月夜見に向かって振るい、今度は月夜見の周りに水球が発生。閉じ込めたっ。

 

「これで決める! 雷鳴『サンダーブレード』っ!」

 

 水を纏っていた刀身に落ちる雷。今度は雷属性って訳だ。

 

「ーー!」

 

 月夜見も今ばかりは焦っている。そう、水は雷をよく通す。分かりにくい人はポケモンで水タイプに雷タイプは弱点、って感じに連想しよう。

 流石の月夜見も、これを食らえばかなり厳しいだろう。

 

「これがっ、人間の力だぁああああ!!」

 

 叫びと共に、僕は月夜見の入った水球を切り裂く。瞬間、雷が水の中を走り、月夜見の絶叫が響いた。

 

「ぐっ、ぐぁあああああっ!?」

 

 やった。

 そんな確信が僕にはあった。

 幾ら神とて、あれを食らえばひとたまりもあるまい。水に雷だぞ、酷ければ感電死すらも有り得るレベルの攻撃だったはずだ(そんな攻撃をした僕って……)。だから、この勝負は僕の完全勝利……。

 

(……あれ?)

 

 ふと、他の神達を見た。否、見てしまった。

 神達は笑っていた。天照なんて、特に笑って、……僕の方を指差している。……いや、僕の方じゃなくて、正確には、僕の後ろ……?

 

 気付いた時には遅かった。

 

 頭部を殴られ後ろに吹き飛ぶ僕。それだけで済んだならばまだ良かったが、月夜見は、まるで某龍玉を七つ集める漫画のような動きで僕の背後に回り、肘鉄。背中に決まったその一撃は、僕の骨を何本も粉砕した。

 今度は前方に吹き飛ばされる。目の前に鬼の形相を浮かべた月夜見が見えた時、「あぁ、僕、死んだな」と思って、その瞬間頭部を襲った衝撃に耐えきれず、僕は意識を失った。

 

 

 

 あーあ。絶対勝つって言ったのに負けちゃった。

 諏訪子に嫌われるかなぁ。

 

 ……それは嫌だなぁ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「随分と余裕が無さそうでしたが? 月夜見」

 

「……黙れ天照。私は今、全てを壊してしまいたい気分なのだ」

 

「あらら、怖いですね」

 

 天照の陽気な態度に苛立ちを隠せない月夜見。それは当然のことだろう。月夜見は、今まで味わったこともない屈辱を、初めてーーしかも人間に与えられたのだ。自分自身が見下している人間に。下等な存在だと思っていた人間に。

 つまるところ、想也は、月夜見を撃破寸前まで追い詰めてはいたのである。あの一撃はあれだけで致命傷になり得たのだーー月夜見が寸前で能力を発動していなければ。

 

 『月を操る程度の能力』

 

 それが月夜見の、名前通りの能力だった。

 月を操るーーと言っても、それは宇宙に存在する月を操ることが出来るという訳ではない。彼の能力は、言わば『月』と名の付いた言葉を使う能力。使いどころの無さそうな能力だったが……しかし、この能力。言葉が生まれていない時代に得た物であったが為に、月夜見は、この能力を、とても使い勝手の良い物にすることが出来た。

 

 ーー思い付く限り、『月』という文字の付く言葉を造ったのだ。

 

 言葉が生まれる前だからこそ出来た所業。神にのみ許された荒業。

 因みに今回使ったのは『守月』という言葉。特に意味を決めてはいないが、月夜見が能力でその言葉を操ると、ある程度ダメージを抑えることが出来る。

 それを使ったことで、月夜見は想也の一撃を耐え切り、状況を覆したのだ。

 

「……ところで、その少年はどうするのですか?」

 

「殺す」

 

「……貴方は仮にも神なのですから、少しくらい考えて行動してください」

 

「知ったことか。こいつだけは殺す」

 

「…………」

 

 呆れつつも、月夜見の行動を止めようとはしない天照。それもそうだ。月夜見が想也を殺そうが殺すまいが、天照にはなんのデメリットもないのだから。

 

「……去らばだ、人間。永久の時を死に続けろ」

 

 月夜見が取り出したのは一本の剣。これ自体に特殊な効能は無いーーが、無抵抗な不老不死者への対抗策としては、最高の一品である。

 ……『不老不死』という存在は、老いることがなく、殺しても復活する、というまるで化け物のような存在だ。……しかし、それらを殺す方法が、実は一つだけ存在する。

 

 殺し続けること。

 

 それが不老不死者に対する、唯一無二の殺害方法。

 例えば、剣を心臓に差し続けると、生き返った瞬間に死に、再び生き返った瞬間にまた死に、と無限にループする。これが不老不死者を殺す手段の一つだ。

 他の方法でも殺し続けることは出来るがーー今は関係の無い事だろう。

 

 月夜見は、想也の心臓を狙って、剣を降り下ろした……。

 

 

 

 

 

「流石にまだ死ぬ訳には行かねぇよ。なぁ、 ?」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「……あれ。僕、負けたんじゃなかったけ」

 

 黒橋 想也は目を覚ます。

 目を擦りながら辺りを見渡すと、倒れ伏す月夜見がまず目に入り、その周りには取り巻きの神達が。

 

「……え? 一体、どうなって……」

 

 呆然とこの光景を見つめていると、想也の背後から後ずさりするような音が聞こえた。振り向くと、そこには、何かに恐怖する天照が。

 

「え、あの、天照……さん? 一体これ、どうなって……」

 

「ひっ、こ、来ないで下さいっ。止めてっ」

 

「……え? ちょ、はぁ?」

 

 天照の反応からして、想也は恐怖の対象が『自分』である事に気が付いた。……しかし理由が分からない。月夜見に敗北した自分が、どうして同格の天照に恐れられている?

 考えても答えは浮かばない。どうしようもなくなった想也は、倒れ伏した神達を能力で回復すると、諏訪子の様子を見に行く為に、空に飛び上がった。


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