女が強い世界で剣聖の息子   作:紺南

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以前お伝えしたかもしれませんが、この世界の女の子は現実より2~3歳成長が速い設定です
でも栄養状態が悪いのでほとんどの人はあまり大きくなりません
良い環境で育った母上などは例外になります


第77話

我が家は家族四人。だからしようと思えば機会自体はいくらでもあったのだろうけど、風呂に三人で入るのは初めての経験だ。入るとすれば母上かアキ、どちらか一方と二人でだった。

 

見るからに狭い風呂である。足を伸ばすことは出来ず、大人が座れば首から上が出るぐらいの高さではあるけれど、一杯になるまで湯を満たしているわけではない。大体は胸あたりで抑えている。

 

二人の手を引きながら、なんなら服を脱ぐのを手伝って、浴室へと足を踏み入れた。

ツムギちゃんの身体を洗いつつ、あの湯船に三人一緒に入れるか考えてみる。二人とも子供だから大丈夫だとは思うのだが、でもアキと一緒の時でも狭かったように思う。大体抱き合ってたから具体的にどの程度と言うと曖昧なのだけど。

 

身体を洗っている間、ツムギちゃんはイヤイヤと首を振り続けていた。抵抗が激しい。シャンプーハットが似合いそうな抵抗具合。しかし後ろにはコズエちゃんも控えているのであまり構ってもいられない。無視して(こす)り続けた。

俺自身もそうなのだが、旅を終えたばかりだからあちこち汚れてしまっている。ボディーソープのないこの世界、衛生的な問題を考えて念入りに綺麗にしていく。

 

そうして満足するまで擦った後はコズエちゃんの番。ツムギちゃんに先に湯に浸かるように言った後、同じように擦っていく。

ツムギちゃんの抵抗と比べてコズエちゃんはほとんど抵抗しない。たまに身体が跳ねたりはするのだけど、言ってしまえばそれぐらいでやりやすかった。

 

コズエちゃんをピカピカに磨き上げた後は、湯舟に浸かる二人を尻目に自分の体を洗う。やっぱりいつもより汚れているように思えた。

 

手早く済ませて俺も風呂に入ってみる。二人に場所を空けてもらってなんとかいけた。でもやっぱり狭い。肩は当たるし足も当たる。少しでも動けば密着しているのと大差ないぐらいのぶつかりよう。

子供三人でこうなのだから、大人二人だと抱き合わないと入れないのではないだろうか。子供はともかく大人が抱き合って入浴となると、途端に艶めかしい感じがしてきてしまう。

 

変な想像をしてしまいそうになったので、思考を戻して考える。

どう頑張った所で密着してしまうのなら、いっそのことアキの時と同じように抱き合った方がいいのではないか。そう思って、目の前にいたツムギちゃんに向けて「おいで」と手を広げてみた。

 

最初、ツムギちゃんは何を言われているか理解していなかったみたいだが、何度か続けて「こっちおいで」と言ったら理解したらしい。

顔が赤くなる。ただでさえ赤かった顔が面白いぐらい真っ赤になる。わなわなと震えて叫んだ。

 

「この人おかしいよっ!!??」

 

間違いなく外に聞こえてしまっただろう大音量。咄嗟に耳に手を当てた。

幸い近くに人の気配はなく、近づいてくる人もいない。

これにかこつけてアキが来なくて良かったと、ほっと息をついてからツムギちゃんの言葉を聞く。

 

「おかしいおかしい絶対おかしいっ!!」

 

(ツムギ)、うるさい」

 

「なによ!? (コズエ)だっておかしいと思うでしょ!? 思わないの!?」

 

「でも気持ちよかったから」

 

「………………それでもおかしいから!」

 

狭い風呂の中、ツムギちゃんは不必要に動き続けている。こうして見ていても身振り手振りが激しい。多分元からこういう性分なのだろう。自己主張が激しいと言うか、活発的な子供。

コズエちゃんからはあまりそういう印象は受けない。今も湯に口元まで浸かってぶくぶくと泡を出して遊んでいる。姉妹でも性格は全く違う。個性的だ。……エンジュちゃんはどうだったのだろう。

 

とりあえず、ツムギちゃんの手を取って引き寄せる。イヤイヤと首を振っていたけど、多分俺より力は強いと思うから本気になれば振り払えるはずだ。それをしないなら、まあ本気で嫌がっているわけでもないのだろう。

 

「……ぁぅ……」

 

案の定、抱きしめてみれば静かになった。俺の背中に手を回してもいる。

しばらくそうして、ツムギちゃんの顔が耳まで真っ赤になったあたりで湯から上がった。

 

服はアキのを借りた。

着せてみたらちょっと大きかったが、間に合わせとしては十分だろう。

時機を見て色々買いに行かないといけない。母上が帰ってきてからの話だろうか。

 

 

 

 

 

風呂から上がった後、玄関まで戻ってみればシオンが待ち構えていた。実に険しい顔である。一目見て不機嫌なんだなとわかる顔。出来ることならスルーしたいぐらい。

しかしその視線はしっかりと俺を捉えているので無視するわけにはいかない。今日はこういうことがよくある日らしい。とりあえず話しかけてみる。

 

「何かありましたか」

 

「あったねえ」

 

「そうですか」

 

一体何があったのだろう。

あからさまに怒ってるし、多分アキかゲンさん関係だと思うのだけど。

手掛かりを求めて二人の気配を探っていた最中、突如として襟首を掴まれる。

 

「あっちで話そうか」

 

半ば強引に連れて行かれる。

ツムギちゃんとコズエちゃんには部屋に戻るように伝えておいた。

そしてシオンに宛てがわれた部屋に連れられて、互いに正座。膝を詰めてのお話が始まる。

 

「まずは言い分を聞いておこうかな」

 

なぜか初手から俺の言い分を求められる。

訳が分からないので聞くしかない。

 

「何についての言い分でしょうか」

 

「あ、そこから?」

 

「……ひょっとしなくても俺のことですか」

 

「他に誰がいるのかな?」

 

表情こそ笑っているが目は笑っていない。

罪人にむかう裁判官はこういう目をしているのかもしれない。

 

「てっきりアキかゲンさんのことかと」

 

「仮にその二人と何かあったとしても内々で収めるつもりだから」

 

ゲンさんはともかくアキと内々で殺し合われても困るのだが。

 

「正直に言って心当たりはありません。俺が何をしたのですか?」

 

「女の子二人とお風呂に入ったよね?」

 

「確かに子供二人とお風呂に入りました」

 

「僕の見立てだとあの二人は九歳ぐらいだと思うんだけど」

 

「確認してませんが多分そのぐらいだと思います」

 

「……君の中では九歳の女の子とお風呂入るのは普通のことなの?」

 

問われたので考えてみる。

九歳の女の子と風呂に入るのが普通かどうか。前世で言えば小学三年生。俺の認識ではまだまだ子供だ。

銭湯だって子供の混浴は九歳まで可能な場所が多かった記憶がある。間違ってはいないはず。

 

「普通、だと思いますが」

 

「そうなんだぁ……へぇ……そうなんだぁ」

 

膝詰めでただでさえ圧迫感があったのに、滲み出した雰囲気のせいで圧が強まった。

反射的に武器を探して部屋を見回す。布団が敷いてあるだけだった。

 

「……駄目なんですか?」

 

「君は知らないのかもしれないけど、九歳なら大体の子は月の物が来てるんだよ。……月の物って意味わかる?」

 

それは知っている。

アキもつい最近来たばかりだ。

俺の感覚では九歳で月経を迎えるのは平均よりも早い感覚だったのだが、この世界ではごく普通らしい。

 

「そうなんですか。子供の成長は早いですね」

 

「……君はその月の物が来ているであろう女の子二人とお風呂に入ったんだけど、身の危険とか覚えないわけ?」

 

「いえ、特には」

 

首を傾げてシオンを見返す。シオンは戦慄した様子で若干引いていた。

正直に言って、月の物が来ているから危険と言うのはよくわからない論理だった。

精通だろうが月の物だろうが、結局のところは性欲の問題だと思うのだが。

 

(なぎ)ぃ……ちゃんと育ててよぉ……どうするのさこれぇ……」

 

俺個人の価値観はさておき、シオンのこの言動を鑑みるに、自分がかなりずれているのは理解した。

世間一般に九歳の女の子と混浴するのはいけないことらしい。……妹とならいいのだろうか。

 

「……よし、わかった。君はこれから女の子とお風呂入るの禁止! 理屈抜きに禁止! 年齢関係なく禁止! どうしても入りたいのなら僕と入ること。いいね?」

 

「でも、それだとあの二人と一緒にお風呂に入れる人がいないです」

 

「一人で入れるでしょ。ましてや二人いるし」

 

「でもまだ九歳ですし」

 

「過保護だね。一人で入らせろ」

 

「もし何かあったら……」

 

問答の末、シオンの圧迫感が復活する。

 

「だから九歳は子供じゃないって! 何度言わせるつもり!?」

 

そうなのだろうか。ツムギちゃんとコズエちゃんの言動を思い出してみる。……どこをどう思い出してみても子供としか思えなかった。

 

「……わかったよ……次から僕があの二人と入るから……それでいいでしょ?」

 

「そんなご迷惑をおかけするわけには」

 

「一番の迷惑は君のその常識のなさなんだけど」

 

返す言葉が見つからなかった。

この世界の常識がないことは理解しているつもりだったが、細かな差異が予想以上に大きな影響を及ぼしている。

九歳の女の子は子供じゃないと言われても、未だに理解すら覚束ない。

 

「……さっき二人の身体を洗ってあげたんですが、それもしてはいけないことだったんでしょうか?」

 

「二度とするなよ。するなら僕にしろ。その場で押し倒してぐちゃぐちゃにしてやるから」

 

睨むように険しい瞳。思わず顔を逸らして布団が目に入る。

直前の言葉もあって、身の危険と言うのを切に感じてしまう。

 

「目を逸らすな」

 

「あの……」

 

「わかったの?」

 

両手で顔を包まれて無理やり正面を見させられる。

シオンの顔が近づいてくる。さっきよりかは優しい眼差しだったが、近づく顔に身体は硬直してしまう。

俺の反応に構わず、なおも近づき続けるその視線は一点に定まっていた。

――――やがて唇が重なった。

 

「……ん」

 

何度か経験したが未だに慣れない。漏れた鼻息に少しの恥ずかしさを感じつつ、キスの時間は一秒足らずだった。

 

感触が消えて、瞑っていた目を開けるとばつの悪そうな顔が間近にある。

シオンにしては珍しい顔に嗜虐心がくすぐられる。意地悪がしたくなって、ついつい尋ねてしまった。

 

「11歳には手を出さないんじゃなかったんですか?」

 

「うるさい。……君が悪いんでしょ」

 

「何かしましたっけ」

 

「君が妹なんかと口づけするから、僕もしないといけなくなった」

 

「……そんな決まりがあるんですか?」

 

「女の意地だよ」

 

なるほどと理解を示す。

シオンは終始ばつが悪そうにしていたが、何となく照れ隠しも混じっている気もした。

 

「口、開けて」

 

「どうしてですか?」

 

「続きがしたいから」

 

頷いて、少し口を開けて目を瞑る。すぐに唇が重なってきた。

入って来た舌を受け入れて、こちらも懸命に舌を動かしてみる。

我ながらぎこちないとは思ったのだが、されてばかりも嫌だったので、探り探り気持ち良さそうなところ目がけて動かしていく。

 

そうすると自然、主導権を握る争いが始まったわけだが、終始シオン優勢だった。

シオンは基本(ねぶ)って、たまに吸ってくる。何より緩急をつけることを知っていた。勘なのか知識なのか、敏感なところはすぐに見つけられてしまう。

弱いところばかり責められて身体から力が抜ける。気が付けば布団に押し倒されていた。無意識に抵抗していたらしく、いつの間にか両手首を抑えつけられている。

 

与えられる刺激に耐えられず、しきりに足を動かす。そこ以外に動かせるところがない。

腰の上にはシオンが乗っている。垣間見える表情は夢中になって貪っているように見えた。

 

唇が離れた後は互いに荒い呼吸を繰り返す。

濡れた唇が艶めかしく感じた。口の中に残っていた唾液を嚥下する。

 

「レン」

 

見つめる眼差し。上気した息遣いと共に甘い響きを含んだ声音。

我慢の限界と言う感じ。それに答える俺の声はどうなっているのだろう。自分ではわからない。考えたくもない。

 

「どうぞ」

 

直前に風呂には入っている。

シオンはまだ入っていないけど、出かけていたわけではないしそれほど汚れていないだろう。

 

受け入れる準備は万端で、残るは心の問題だけ。

結局こうなるのかと心のどこかに諦観が顔を出したけど、所詮は遅いか早いかの違いでしかない。いずれにせよこうなっただろう。

だから――――と覚悟を決めかけたその時、ドスドスと足音が聞こえた。

 

何を考える前に気配を探る。心が跳ねて我に返る。シオンを押しのけて身体を起こした。

直後、開かれた襖の先にアキが立っていた。

 

「風呂」

 

一言そう述べながら、冷淡な目がシオンを捉えている。

よく見たらアキの髪は濡れていた。ぽたりぽたりと雫が落ちている。服もはだけてしまっていた。入浴後、満足に拭く間もなくまっすぐここに来たらしい。

 

「……ああ、そう……じゃあ、いただこうかな」

 

「早くしろ」

 

無礼極まりないアキの言い様を無視し、シオンが俺を見てくる。

 

「一緒に入る?」

 

本気か冗談か。

どちらにせよ、心臓が跳ね続けている俺に答える術はない。

そうこうする間にシオンは行ってしまう。出ていく間際、アキに何か呟いていたようだが聞き取れなかった。

 

そうして二人だけになった部屋の中、アキは戸の前から動かず非難するような目で俺を見てくる。

 

「危ないところでした。兄上って意外と雰囲気に流されやすいんですね」

 

故意に邪魔したのだとアキは言っている。

入浴していただろうに、どうやって俺たちの様子を察知したのか。それが一番気にかかったのだが、実際に出てきたのは全然別の言葉。

 

「……兄妹だから」

 

「はい?」

 

「兄妹、だから」

 

「ふーん?」

 

「兄妹では、無理だよ」

 

「関係ないですよ」

 

事も無げに言ってのけるアキがなぜかとても強く見える。

やはり俺の知らない何かがあるのだろう。それを問い質そうとしたが、一瞬早くアキは踵を返した。

 

「もうすぐ食事です。楽しみにしていて下さい」

 

そう言って、アキは去って行った。




念のため調べてみたところ、銭湯での子供の混浴は今は6歳までと定めているところがほとんどだそうです

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