女が強い世界で剣聖の息子   作:紺南

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第58話

真夜中に音がした。

がしゃんと何かが割れる音。陶器かガラスかその類。

瞬間、浅く漂っていた意識を浮上させて襖を見ると、月明かりに照らされていくつもの小さな影が舞っている。眠っている間に、わずかに雪が降り始めていた。

 

薬のせいでいささか朦朧とする頭が急速に醒めていく。

身体を起こして周囲の様子を探る。すぐ隣には父上がいるが、こちらはすやすやと眠っている。

家の中に他の気配はない。しかし外にはいくつか気配があった。

 

どれもこれも知らない気配。アキや母上ではない。恐らく、この村の人間でもない。

明らかな異常事態を前に身体の調子を確認する。相も変わらず、少し動かすだけで痛みが走った。

 

唇を噛み、呻き声を我慢しながら立ち上がる。

そのまま廊下に向かいかけ、自分が丸腰なことに気が付いた。

 

武器を探し辺りを見回して、火鉢の中に火箸を見つける。短く、弱く、刀の代わりには成り得ないが、ないよりはまし。

 

火箸を片手に音を立てないように襖を開ける。

半身を乗り出して縁側の様子を確認すると、窓が一枚割れていた。外から割られたらしく、破片は内部に飛び散っている。ご丁寧に、凶器と思しき小石も破片と一緒に転がっていた。

 

――――やっぱり外か。

 

空気がひりついている。戦いの予感がする。

この身体で真面に戦う自信はない。すでに変な汗をかき、息も荒い。長くもたないことは自分でよく分かっていた。

ならば即断速攻以外に手段はないだろう。とにかく外に出ようと窓に手をかけ、ヒュンッと何かが風を切る音が聞こえた。

すぐ目の前の窓ガラスが割れる。とっさに両腕で顔を守ろうとしたが身体の動きは鈍かった。頬に鋭い痛みが走る。

 

相次いで窓が割れていく。

状況が理解できない。とにかくその場にしゃがんで身を守る。

気配を探り、耳で音を聞いていた。窓が割れる一瞬前に聞こえる風切り音。……投擲かな。

 

いよいよ騒ぎになる。部屋の中で父上が起き出す気配がした。

それだけじゃなく、村中が起き出している。様子を探るに、どうやら投擲を受けているのはこの家だけらしい。間もなく大勢やって来るだろう。

時間はこっちに味方する。襲撃者もそれは弁えていたらしく、投擲が止んだ途端、家を囲んでいた気配が遠ざかっていく。

 

頭が良いのかどうなのか。

廊下に散乱したガラスとその中にいくつか紛れている石礫を見ながら状況を考える。

気配がした方向と距離。風切り音の方向。投擲が窓のどこに当たったのか。

 

「レン!? レン!?」

 

「来ないでください」

 

錯乱したと思しき父上の声に冷静に答える。

散乱したガラスを踏んでは怪我をする。多分、今の父上は足元なんか見えていないだろうから、先に言っておかなければならない。

 

「窓割れてます。危ないですよ」

 

「レン!?」

 

襖の向こう、ガラスの散乱した廊下を隔てて対面した。

薄暗さの中に見える顔色の青さは、何も月明かりに照らされているからと言うだけではないだろう。襲撃されたのだから当たり前だ。それも、よりによって母上もアキもいないこの時に。

 

膝立ちになった父上が、ガラスを踏まないよう懸命に手を伸ばしてくる。

意味が分からなくて訝しむ俺の頬に触れれば、その指先には血がついていた。先ほど、頬に痛みが走ったことを思い出す。

 

一瞬前まで気にも留めていなかったと言うのに、思い出してみれば血が頬を伝う感触までもが如実に感じられた。下を見れば垂れた血が顎を伝って衣服を汚している。

何だか鬱陶しくて、袖なりなんなりで拭いたかったが、今は指一本動かすのも億劫だ。意識の大半は襲撃者を追っている。

 

敵は森に逃げ込んだ。山を登っている。そこまでは追えた。しかしそれ以上は無理だった。一時的にアドレナリンが出ていたのだろう。今になって激痛に苛まれ、更には眩暈までする。途中、無理な動きをしたかもしれない。多分しゃがんだ時だ。

 

冷たい空気を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。白い息が天に昇っていくのが見えた。

敵の正体を考える。敵の目的を考える。こんなことをした理由。すぐに逃げた理由。敵の数は数人。攻撃は全て投擲だった。しかし山を登るあの速度は……。

 

「……人間じゃ、ないのか?」

 

あり得ない速度だった。

山の地形はある程度頭に入っている。奴らは急斜面をものともせず越えていった。そんなことは母上でも出来ないはず……出来ないのか?

 

考えている内に座っているのも辛くなり、ずるりと体勢を崩す。ガラスの上に掌を突いて、小さな痛みに顔をしかめた。

 

「レン!? 大丈夫!? 大丈夫!?」

 

うるさい。同じことを何度も聞かないでほしい。

 

足元のガラスをどけ、いつの間にか側まで来ていた父上が、相変わらず錯乱したように慌てている。

身体を揺らして容体を訊ねて来る。……揺らさないで。痛いから。

 

「血、血が……!! 誰か、だれか――!?」

 

だから揺らすなって。

頬の傷は大したことないよ。深い傷だけど、多分大丈夫。だから揺らさないで。

 

眩暈がひどいんだ。

目の前がグルグルしてる。吐くかもしれない。

 

……俺の身体なんてどうでもいいか。

あいつらはすぐに逃げた。大した効果の見込めない投擲だけして、やるだけやってすぐ逃げた。何の意味もない行動に見える。子供のいたずら程度だ。嫌がらせにしかなっていない。一体何がしたかったのかわからない。

 

ああ、駄目だ。頭が働かない。

すぐそこに答えがあるのにたどり着かないもどかしさ。いつもの俺なら答えにたどり着けるのだろうか。

 

こう言う時に自分がどれほど弱っているかを自覚する。

役に立たない火箸なんか持って、怪我をして襲撃者を取り逃してしまった。

母上なら今頃奴らは土に還っている。アキなら止める暇もなく追いかけただろう。俺はこうして座り込むだけだ。

 

敵はなんだ? 人間か? それ以外? 目的は? 何のためにこんなことを?

 

分からないことばかりが積み上がっていく。

一つ一つ解いていくしかないのに、最初で躓いている。分かるはずの問題を前に足踏みしている。

 

息を吐く。白く濁った空気が上っていく。

答えを求めて天を見上げても、結局何も分からなかった。

 

 

 

 

 

その後、怪我の手当てを受け、そして薬を飲まされた。

今飲むべきではないと抵抗したが、父上を始めとした見知らぬ大人たちに「あとは任せなさい」と無理に飲まされた。

そして起きた時には日は中天に差し掛かっていた。

 

起きたばかりで漫然とした頭で昨夜のことを思い出す。

ほぼ半日寝たおかげか頭の冴えは悪くない。いつも通りの俺だ。やはりあの薬はいざと言う時足かせになる。しばらく断とう。痛みは我慢すればいいわけだし。

 

布団の中で昨晩解けなかった疑問を考えてみる。

襲撃者の正体とその目的。人間なのかそうじゃないのか。悪戯なのかどうなのか。

敵が逃げたルートを思い浮かべる。頭にある地形と一致させ、やはり人間が通れるルートではないことを再確認する。

人間には無理だ。母上と言う存在がノイズになるが、少なくとも普通の人間には無理だ。そして投擲と言う攻撃手段を考えると……猿か?

 

この辺りで投擲できる獣は猿ぐらいしかいない。襲撃者を猿と仮定して、奴らの目的を考える。剣聖の家だけが狙われた理由。大した被害を与えずに逃げた理由。

正直、獣の考えなど分からない。悪戯と言われれば否定する材料はない。しかし……。

 

思い出すのは、六年ほど前に村が猿に襲われたこと。あの時、俺は怪我をした。母上が駆けつけて難を逃れたが、俺に怪我を負わせた猿には逃げられている。

 

今、この村に母上はいない。それどころかアキもいないしゲンさんもいない。もし六年前のように襲われたら、今度はなす術なくやられるかもしれない。最悪の状況だ。

 

そんなネガティブなことばかり考えていたら、不意に思い至った。もしかして、それを知るための投擲だったのか、と。

 

つまり、威力偵察。

いつかゲンさんが言っていた。今の山には春先の狼の件もあって、ほとんど食料がないと。食べ物を求めて獣が山から下りて来ても何ら不思議ではない。けれども、威力偵察するほど猿の頭が良いかと言うと疑問が残る。件の狼を考えるとあり得ないわけではない気もするが。

 

ともかく状況は揃ってる。備えるべきだと勘が告げている。

忠告するべきだろう。そう思い、父上を探して気配を辿ってみると、なぜか我が家の玄関前に大人たちがたくさんいた。

 

一体何をしているのかと疑問に思う。話し合いなら家に入ってすればいい。

まさか、また何かトラブルかと、壁に手を突きながら向かってみる。

 

近づくごとに空気が剣呑になっていくのを感じた。

怒声交じりの話し声が聞こえ、何か議論しているようだった。

玄関は開けっ放しになっていて、そこから外の様子が伺えた。

大人たちがぐるりと誰かを囲んでいる。知っている気配ではないので、昨晩の襲撃者と言うわけではないらしい。正体を知りたかったが、人が壁になって姿が見えなかった。

 

「余所者が一体何をしに来た!!」

 

大人の一人が詰問を始めた。無論、女性の声である。腹の底から出たような声が空気を震わせて実に迫力がある。

しかし俺にとってはゲンさんの声の方が怖い。声質の問題だろうか。価値観の違いも大きそうだ。

 

「ごめんなさいぃぃぃぃぃ!!!!!」

 

対して、輪の中心から迸った声は子供っぽさが残っていた。中性的な声で、心の底から謝罪している感じ。

大の大人が雁首そろえて子供を泣かせているのかと、あまりの絵面に顔をしかめた。

 

「まことに申し訳ありませんでしたぁ!!」

 

謝罪は重なり、勢いは増している。

 

「何をしに来たのかと聞いている!!」

 

「本当にごめんなさいぃぃ!!」

 

「聞かれたことに答えろ!! 目的は!?」

 

「かくなる上はお腹切りますのでご勘弁をぉ!!」

 

「そんなことは言ってない!!」

 

両者とも興奮しすぎて空回っている。相手の話を聞く気がない。冗談にも思えるやり取りだ。と言うか、一周回ってふざけてる気がした。

 

平時ならともかく、今は呑気に空回っている場合ではない。一旦落ち着かせるべきだが、誰も動こうとしない。事の成り行きを見守っているだけ。

 

はあ、と息を吐いて土間に下がる。

履きやすい草履を履いて、ぺたぺたと大人たちの元へ。

 

すぐ近くまで来ても誰も俺の存在に気づかない。

輪の中には父上もいて他と同様に成り行きを見守っていた。止めろよと思ったが、集団心理にでもかかったのかもしれない。

 

「何をしているんですか?」

 

一団に声をかける。

小さな声で全体に聞こえるかは不安だったが、近くにいた人がぎょっと振り向き、その反応のおかげで全員が俺を見た。

父上も俺がここにいることに驚いていた。

 

「レン!?」

 

「何をしているんですか?」

 

繰り返した質問はその場の全員に問いかけていた。

半ば父上を無視した形になったが、こちらも色々と無理をしているので声音はほぼ無感情になった。

それぞれが顔を見合わせた後、近くにいた人が答えてくれる。

 

「今、剣聖様の家を壊したと思われる人間を問い詰めているところで――――」

 

「昨晩の襲撃は人間ではなく猿です。何年か前の猿がまた来たと思われます。対策を講じる必要がありますので、村の人間を全員集めてください。山には入らないように」

 

抑揚なく一息に告げた。

内容を理解されるまでに一拍かかり、その後は困惑が広がる。

 

「え……。あー、と……? えー……それは、本当に……?」

 

「何か疑問でも」

 

「いや、でもこうして怪しい子供が」

 

そう言って視線を向けた先には地べたの上に正座している子供がいた。子供と言っても俺よりは年上だ。成人間近ぐらいだろう。この辺では珍しいことに紫がかった黒髪だった。ちょっと長めの髪を首の後ろで纏めている。髪色的に西側の人だろうか。

 

その人は俺を見るや否やキラキラと目を輝かせ始めた。救いの手が現れたことに感激しているのかとも思ったが、どちらかと言うとその目は面白がっている目だった。あれだけ渾身の謝罪をしておきながら、実は余裕があったらしい。

何だかなと思いながら話を続ける。

 

「その人はいつ捕まえたんですか」

 

「それは、ついさっきのことで」

 

「窓が割られたのは昨晩です。犯人ならとうに逃げていると思います」

 

「でも刀を持っていたから念のため」

 

「……そうですか。ならこちらで話を聞きます」

 

ぺたりと一歩踏み出すと大人たちは道を譲ってくれた。

まっすぐにその人の所に行き顔をよく見る。声から受けた印象通り、中性的な顔立ちだった。着ている衣服からして判断がつかない。

このご時世だ。旅をするなら刀ぐらい持つだろう。

 

「はじめまして。レンと言います。お名前は?」

 

「僕は紫苑です。はじめまして」

 

にこりと笑って答えたその人はシオンと名乗った。

自らを僕と言ったから男の子だろうか。しかし男が刀を持っていると言うところに引っ掛かりを覚える。

 

「おひとりですか? 仲間は?」

 

「僕一人です。剣聖様と約束があって参りました」

 

どうやら母上の知り合いらしい。もしかしたら俺の知らない弟子だったりしないだろうか。

そわそわと落ち着かない気分になりつつ、しかし普通男は刀を持たないと言う話を思い出す。

加えて一人旅だ。これは普通なのかなと周囲の様子を伺うと、誰も彼もが険しい顔をしていた。

怪しいぞと内緒話まで聞こえてくる。どうやら普通ではないらしい。

 

「剣聖は留守です。西に行っています」

 

「そうですか。折角来たのに、残念です」

 

残念と言いながら、さして残念ではなさそうな顔をしている。特段不満はないらしい。会えればいいやぐらいの気持ちだったのか。それでいて、どことなく満足げなのが不思議だ。どういう関係なのだろう。

 

「それで、僕はどうなるんでしょうか? やっぱりお腹切った方が良いですか?」

 

「切腹は結構です。このままお帰り頂いても構いません。ただ一つ確認を。あなたはこれから西に行きますか? 東に行きますか?」

 

帰ってもいいと告げた途端、シオンは白けた顔になった。おもちゃを取り上げられた子供みたいな顔だった。

 

「……西だね。山を越えるよ」

 

「わかりました」

 

会話を切り上げ、父上に視線を向ける。

野次馬の一員と化していた父上は、俺の視線を受け何故だかびくりと反応し、おずおずと近寄って来た。

 

「な、なに? どうかした?」

 

「この人、何日か家に泊められませんか?」

 

「なんで?」

 

「危ないので」

 

猿のことがあるので、今西に行くのは危険だった。母上の知り合いらしいし、色々はっきりするまで留まってほしい。これが複数人での旅だったなら止めはしなかったが、何せ一人旅。性別のことを考えずとも危ない。

 

「んー……」

 

しかし父上は眉を八の字にして明らかに渋っている。

母上の知り合いとは言うものの確認はとれていない。そんな人間を家に上げたくないのと、もしかしたら食料のこともあるのかもしれない。

そもそも現状の認識が俺と父上とでは天と地ほども隔たっていた。猿のことを危険視している俺とそもそも何のことか分かっていない父上。

昨夜の襲撃は猿の仕業で、この村が危険に陥っていると言うのも確証がなく、実際のところただの妄想かもしれない。

 

泊めなければならない説得力は皆無だ。

これは駄目かもしれないと父上の答えを待っていると、当のシオンが緊張感の欠片もなく俺に話しかけてきた。

 

「猿だっけ? 大変だね。こんな時期に」

 

「そうですね」

 

「この辺の猿は凶暴だよぉ。人を痛めつけるの大好きだからさ」

 

「そうなんですか」

 

妙に詳しそうな口ぶりだ。

興味本位で話を聞こうとして、横から声がかけられた。

先ほどまでシオンを問い詰めていた人だ。

 

「信じない方がいい。そんな話は聞いたことがない」

 

「あっははー。別に信じなくてもいいよ? おばさんが知らないだけでしょ?」

 

二人の間で火花が散った。

このまま喧嘩されるのも面倒なので割って入る。

 

「俺は昔猿に殺されかけたことがあります」

 

「そうなんだ。よかったね五体満足で。ぐちゃぐちゃにされなかったのは運が良いよ」

 

「……そうですね。それで、本当にこの辺の猿は凶暴なんですか?」

 

「この辺のは狐憑きの血を継いでるから凶暴なんだよ。知ってる? 狐憑き」

 

「言葉ぐらいなら知ってますよ」

 

狐憑きについては伝承として伝わっていて、半ば都市伝説と化している。信じていない人も多い。だから大人たちが苦笑しているのは当然の反応と言えた。

 

「知ってるんだ。意外と伝わってるもんだね」

 

「俺は狐憑きは俗信だと聞きました。違うんですか?」

 

「違うよ。突然現れるんだ。大抵は黒いよね。欲望が溜まりすぎると黒くなるの。だから黒いのには注意してね。狐憑きかもしれないよ」

 

その解答は俺の質問の答えとしては微妙にずれていたが、忠告には頷いておいた。

それで一旦会話が途切れた隙を縫い、父上が口を挟んでくる。

 

「レン。やっぱりこの子を家に泊めるのは……」

 

「いえ。泊めます」

 

「え……」

 

「泊まってもらいます。俺のわがままです。この人と話がしたい」

 

予想通りの断り文句が父上の口から飛び出していたが、俺は断行することにした。

 

話がしたいと言うのは別に嘘じゃない。嘘か真か色々知っている風な口ぶりのシオンとは話をしてみたかった。それと同時に、いざと言う時の備えにしたいと言う考えもあった。

 

そもそもこの状況で放り出すのは、例え刀を持っていようとも人道に反する気がする。母上の知り合いにそんなことは出来ない。

その言い訳を用いて父上の説得にかかる。

 

この状況と言うものを理解できていない父上の説得には骨が折れた。結局は俺が我儘を押し通す形になり、それを傍目に見ていたシオンの目は相変わらず輝いていた。

 

目は口程に物を言うなんて諺があるが、シオンのその目は「面白いおもちゃを見つけた」とでも言いそうな目だった。おもちゃ扱いは不本意だったが、実害はなさそうだったから放っておくことにする。

 

説得が完了したところで本来の目的を思い出し、大人たちに改めて猿のことを伝えた。はっきり言って皆半信半疑だったし、やはり鼻で笑うような人もいたが、とりあえずは全員の安否を確認すると言ってくれた。

 

その後、シオンを部屋に案内して少し話をする。

とりあえずは性別を聞き出そうと躍起になってみたが、シオンは面白がって答えてくれなかった。面白いのが好きらしい。

自分のことを僕と呼んでいるし男かなとは思う。そもそも、この世界で女性が性別を偽るメリットが思いつかない。

 

結局口を割らすことは出来ず、あまり長く話を出来る体でもないので、日が暮れ始めたころには自分の部屋に戻り休んだ。

そうして日が沈み切り、暗くなったころに家に人が訪ねて来る。応対した父上が俺の所にやって来て確認した。

 

「エンジュちゃんが見えないみたいなんだけど、レンは何か知らない?」

 

俺は、何も知らなかった。


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